シュタインズ・ゲート 二次創作 〜怒髪衝天のコスプレイヤー〜 |
今日もラボには真夏の日差しが差し込んでいる。秋葉原はいい天気だ。無駄なくらいに。
「まゆしぃはとっても怒っているのです。聞いてるオカリン? ダルくん?」
「…はい」
「…サーセンした」
その日差しの中、俺こと岡部倫太郎そしてダルこと橋田至はラボの床に正座させられていた。
その眼前でむー、とふくれっ面をしてるのは椎名まゆり。俺の幼馴染であり、実質ラボの最高権力者である。
一応誤解の無いように言っておくが、当未来ガジェット研究所のリーダーは俺である。だがその俺がまゆりに強く出られない事、その他もろもろの理由により実質の権力はまゆりが握っているのであった。幸い、普段のまゆりはそれを行使しないのが救いだ。
「ちっとも反省の色が見えないのは、まゆしぃの気のせいなのかなー?」
「き、気のせいだ。本当に反省している」
「そうそう。マジ反省してるって」
心なしかまゆりのショートカットが少し立ち上がってる様にも見える。これが怒髪天を突くという事か。かなりどうでもいいな。
俺の見立てだと今のまゆりの怒り指数は80%といった所だろう。ちなみに100%になると問答無用で泣く。そして俺は凄く困る。とにかくこれ以上怒らせる訳にはいかないので平謝りである。
「それじゃあ、クリスちゃんを傷つけた事も分かってるんだよね?」
「…ああ」
牧瀬紅莉栖。我がラボメンナンバー004であり、俺の助手だ。だがあいつはここにない。それは今まゆりが言った通り、あいつが傷ついた事が原因なのだろう。そしてその要因は間違い無く俺達にある。
俺は十数時間前、つまり昨日の記憶に想いを馳せた。
〜怒髪衝天のコスプレイヤー〜
「いや、私はいいから。本当にいいから…」
「えー。クリスちゃんなら絶対似あうと思うんだけどなー」
その日、いつもの熱気(外の暑さ的な意味で)に包まれたラボでは紅莉栖とまゆりが言葉のつばぜり合いをしていた。
「大丈夫だよー。るかくんのとは別にとっても可愛いやつを持って来たからー」
「いやだから可愛いとか無理なの。私に似合うわけないから…」
情勢は紅莉栖が不利の様だ。それにしても自分で言っていて悲しくならないか、紅莉栖よ。
まあ、確かに先日のルカ子のコスプレを見た後では自身が沸かないのも分かる気がするが。
おそらくルカ子をコスプレさせる事に成功したまゆりは味をしめたのだろう。そして次の得物に紅莉栖を選んだという訳だ。
「ちょっと、岡部からもまゆりに何とか言ってあげなさいよ!」
「コスプレくらい別にいいではないか。まゆり、着替えるのならそこのシャワールームを使え」
「はーい」
「う、裏切り者ー!」
断末魔を残してまゆりに連れて行かれる紅莉栖。裏切り者とは失敬な、そもそも味方になった憶えなんてないぞ。
まゆりは頑固だから一度言いだすと撤回させるのが難しい。よって抗議などせず大人しく従うのが最善なのだ。
「一つ布の先で牧瀬氏が裸体を晒していると思うと興奮するお。な、オカリン」
黙れダル。それはセクハラと同義の発言だぞ。
むしろ俺としては着替えた後の助手を力いっぱい笑ってやれるだろう事に興奮する。いつも高慢ちきな態度をとるあいつを少しばかり凹ませてやろうと思うのだ。
「オカリンもかなりのツンデレすな」
どういう意味だそれは。
ダルとそんなやりとりをしていると、シャワールームのカーテンが開いた。どうやら着替えが終わったらしい。
「じゃじゃーん! お待たせー!」
「…うう」
………姿を現した紅莉栖は、なんというか、こう。
「コズミック☆宇宙忍者、舞ちゃんでーす! 可愛いでしょー!」
「んな訳ないじゃない。岡部も橋田も絶句してるじゃない…」
…そうか、宇宙忍者か。それにしてもまゆりさん、これはちょっと露出が多くありませんか?
「何よ、笑いなさいよ。笑えばいいじゃない」
ぶすっとした顔で不貞腐れる紅莉栖。いや、俺もそう思っていたんだが。
なんか恥ずい。無駄に露出の多い衣装も紅莉栖の不貞腐れた態度も思わず固まってしまった俺自身も。とにかく恥ずい。
「あー、オカリン顔真っ赤だねー」
「そ、そんなことは無いっ! ふ、ふん。馬子にも衣装という奴だな」
「…笑ってやるとか言ってたくせに、このヘタレ」
お前こそなんだそのしおらしい態度は。いつも通りの高慢な態度は何処へ行った。
「…えへへー」
気まずい雰囲気の俺と紅莉栖を見やって、まゆりは何故か笑っていた。
ここまでは良かった。この状況に少し困ってはいたがすぐにいつもの雰囲気に戻れるだろうと思っていた。
「オカリン、オカリン」
「なんだダル」
「これ、見てみ」
ダルが俺に一枚の絵を見せるまでは。
「コズミック☆宇宙忍者、舞ちゃんのキャラ絵だお。牧瀬氏と比べてみ?」
「―これはっ!?」
当然の事だが、その絵は目の前にいる紅莉栖と様々な差異がある。
顔も違えば髪の色も違う。まゆりが用意できたのは服だけなのだから当然だ。
しかし、その差異の中で一際目立つ箇所があった。そしてそれこそダルが言わんとしている事なのだろう。
「さっきから何よ二人して…」
「助手よ。この絵を見てみるがいい」
「これがどうし…っ!?」
「…あれ?」
俺から渡された絵を見る紅莉栖とそれを覗き込んだまゆりが同時に声を上げた。気づいたか。
そうだろうな、これだけの差異に気づかない方がおかしい。まゆりにしては痛恨の失敗だったな。
「助手よ。お前がその服を着こなすには決定的に足りない物がある」
「…黙れ。言うな」
声を押し殺しながら俺を睨みつける紅莉栖。だが黙らん。
これこそ当初から目論んでいた俺の野望の好機。これも運命石の扉(シュタインズゲート)の選択か。
「そう、足りないのだ。決定的に、絶望的に!」
「オ、オカリン。それはちょっと拙いとまゆしぃは思うなー」
まゆりも俺が何を言おうとしているのか気づいたか。だがもう遅い。
「ダルよ! 今のクリスティーナに足りない物は何だ!?」
「牧瀬氏に足りない物、それは! 情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そして何よりもー!」
いいぞダル、完璧なフリだ。それでこそ俺の右腕だ。その見事な仕事ぶりに俺も応えなければなるまい。
俺は渾身の力を込めて宣言する。
「胸囲が足りない!! フゥーハハハハ!」
紅莉栖がコスプレ衣装のまま半泣きでラボを飛び出し、まゆりがそれを追って出て行ったのは、きっかり十秒後の事だった。
うん、ちょっとやりすぎた。流石に泣かれるとは思わなかった。
「オカリンとダルくんはクリスちゃんをすっごく傷つけたのです。まゆしぃはそれにとっても怒っているのです」
「…はい、すみませんでした」
「ちょっと調子に乗りすぎたお。マジ反省しますた」
こうして、俺達はかれこれ40分は正座させられている。まゆりの怒りは本物だし、それも理解できる。
紅莉栖のラボメン入りを一番喜んでいたのは間違いなくまゆりだろう。
元々、まゆりと同年代の女子など当ラボには縁が無かった。最近になってこそラボに女性陣が増えてきたが、本当に最近の話だ。それだけに、紅莉栖がラボメン入りした時の喜びもひとしおだったのかもしれない。
「すまなかった。さすがに無神経な発言だった」
「じゃあクリスちゃんにも謝ってくれる?」
「もちろんダル共々謝ろうと思う。それにあいつの言う事の一つくらいは聞いてもいい」
「ちょ、言う事を聞くとか勝手に勘定に加えるなし」
うるさい黙れ。そもそもお前が余計な事をしたのが原因だろうが。
「…うん。オカリンとダルくんは良い子だから分かってくれるとまゆしぃは信じてました」
まゆりはようやくにぱっと笑った。ふぅ、やれやれ。やっと気まずい雰囲気から解放されそうだ。
「それじゃークリスちゃん呼んでくるねー」
スキップをしながらラボを出て行くまゆりを見送る。どうやら紅莉栖を近くで待たせていた様だ。
「何でも言う事を聞くとか、大丈夫なん?」
「大丈夫だ、問題ない」
ダルは不安そうだが俺にしてみれば実に安全な提案なのだ。
「いいか。あの助手がどれだけ無茶を言おうが、そこにはまゆりが立ち合うのだ。いき過ぎた罰などありえん」
まゆりは自他共に認める平和主義者である。そして俺と同様に紅莉栖もまゆりに強く出られない事は分かってる。今回の仲裁を頼んだ事からも、あいつがまゆりを頼りにすると同時に頭が上がらないのは明らかなのだ。
「せいぜい数回のパシリ、もしくは罵詈雑言を吐く程度だろう。その程度、お前ならご褒美だろう?」
「あー、なるなる。パシリはともかく罵倒はご褒美すな。オカリンも悪よのぅ」
「ふっ。俺はマッドサイエンティストだからな、悪で当然なのだ」
俺はダルと違いそれらが気持ちいいとは思えないが、その程度でラボメンとの関係を修復できるなら安い物だと思っている。
あと、その、ちょっとやり過ぎたとも思ったしな。泣かれるのはちょっとな。
「おっまたせー」
まゆりの声がドアから聞こえた。どうやら紅莉栖を連れてきたらしい。
「ああ。助手よ、昨日はすまなかっ―」
ラボに入って来た紅莉栖の表情を見て、俺は言葉を詰まらせた。
「何? 謝罪はしっかりしてもらわないと困るわ」
「あ、ああ。な、なんというか、すまなかったな…」
思わず噛んでしまった。
だってそうだろう、紅莉栖の表情はあまりにも予想外のものだったのだから。
「あのー、牧瀬氏?」
「なに橋田?」
「なんで満面の笑顔なん?」
そう、紅莉栖はなぜか満面の笑顔だった。
「んー。これからいい事があるから、かな」
いい事ってなんだ? 何故か嫌な予感がするのだが。
逃げろ。
「ところで、謝罪とは別に何でも言う事を聞いてくれるのよね?」
「あ、ああ。流石に金銭関係は無理だが…」
「分かってるわよ。大丈夫、大した事じゃないわ」
とりあえずその笑顔が怖いのでやめてください。なんて言ったら殴られそうな雰囲気だ。
逃げるんだ。
「うんしょ、うんしょ」
笑顔を崩さない紅莉栖の背後で、まゆりがスーツケースを運びこんでいる。相当大きいな。何が入ってるんだ?
「昔から目には目を、歯には歯をって言うじゃない?」
あの、紅莉栖さん、なんで俺に詰め寄ってくるんですか?
恐ろしい目に遭うぞ。
「牧瀬氏、それってまさか…!?」
「だから、コスプレにはコスプレよね?」
「ごかいちょ〜う」
まゆりのスーツケースから出てきたのは男物のコスプレ衣装。馬鹿な、まゆりのコスプレ趣味は女性限定じゃなかったのか!?
ああ、もう、逃げられない。
「実はオカリンに内緒でこっそりと作っていたのです。まさか着てもらえる日が来るとは思わなかったよー」
「逃げるぞダルっ!!」
逃げろ。どこでもいいから逃げろ。でないと一生モノの傷を負うハメになる。
「ざんねーん。逃がさないよー」
「wwwうwwwはwwwつwwwかwwwまwwwっwwwたwww」
あっさりとまゆりに捕獲されるダル。ええい、日ごろから運動不足だからそんな無様を晒すのだ。
「おーかーべー。あんたも大人しくこっち側に来なさい、ね?」
「ウェイウェイウェイ(直訳:待て)! 落ち付けクリスティーナ! こんな争いは不毛だ! 破壊と殺戮を広げるだけだ!」
そして紅莉栖にがっしりと組みつかれる俺。なんか凄い握力なんですけど。そして相変わらず笑顔は怖い。
「少なくとも私の心に平穏がもたらされるわ。とっても大事な事でしょ?」
「なんと自己中心的な! この悪の手先め!」
「だって私、マッドサイエンティストの助手だし」
ええい、いつもは助手呼ばわりすると反発するくせにこんな時だけ都合良く。
「ほーら、ダルくん、ぬぎぬぎしようねー」
「くやしいっ! でも…ビクンビクン!」
シャワールームではすでにダルがまゆりの毒牙にかかっていた。というか楽しそうだな、ダルの奴。
「岡部はここで着替えましょ。さあ、覚悟しなさい」
「ここは研究室だぞ! 断じて更衣室ではない! この痴女め!」
いや、本気で恥ずかしいから勘弁してください。
「うるさい! これは報復よ! 復讐なのよ! あんたも死ぬほど恥ずかしい目にあわせてやるんだから!」
まゆりさん、聞きましたか? こいつ許す気ゼロですよ? これ一方的な蹂躙ですよ?
そう抗議する間もなく、紅莉栖が俺のズボンに手をかける。
「ハァハァ…! そう、これは報復なのよ…! 断じてコスプレさせたいからじゃないんだから…!」
やばい、紅莉栖の目が危ない。明らかに常軌を逸している。このままでは―
「だ、誰か助けてくアッーーーーーー!」
その後のラボでが何があったのかは、皆の想像に任せようと思う。
ただ決して俺が紅莉栖に屈しなかった事だけは記しておく。本当だぞ?
説明 | ||
『シュタインズ・ゲート』の二次創作になります。今回はネタバレ無し。 重要なネタバレはアニメの進行に合わせて行っていこうと思います。 |
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