シュタインズ・ゲート 二次創作 〜他力本願のマスゲーム〜 |
今日も未来ガジェット研究所は熱気で満ちている。
もっぱら外の暑さ的な意味で。
だがそれとは別の理由で俺の頭は熱暴走を始めていた。
「………ぐぬぬ」
「何がぐぬぬだ。早くしろ」
今、ラボのテーブルには俺と紅莉栖が対面で座っている。俺の長考に待ちくたびれたのだろう紅莉栖の視線が痛い。そして俺達の中央にあるテーブルに鎮座する数枚の紙。それが俺の頭脳を加熱させている原因だった。
「…フ、そう焦るな。お前はすでに俺の術中にはまっているのだ。少しでも寿命を延ばしてやろうという俺の優しさが―」
「その台詞、もう何回目だ? 無駄な物は無駄なんだからいい加減に諦めたら?」
「う、うるさい! もう少し待て!」
俺の要求にため息交じりでうなづく紅莉栖。今の俺、かなり格好悪い。
「くっ…! 今に見ていろ…!」
悔しさに震えながら、俺はテーブルに置かれた紙に視線を戻した。
諸君は海戦ゲームというものをご存じだろうか? 他にも戦艦ゲーム、軍艦ゲームとも呼ばれるが、概ね同じ意味である。
このゲームに必要な道具は紙と筆記具のみ。両プレイヤーは自分の紙に5×5のマス目を書き、そのマス目の隣に将棋盤やチェス盤のような行番号をつける。プレイヤーは戦艦その他の軍艦を配置し、配置が完了したら順番を決めて交互に魚雷による攻撃か艦の移動のどちらかを選ぶ。こうやって相手の戦艦を交互に攻撃し、先に全ての相手艦を撃沈した方が勝ちとなる。詳細な解説はネット上にも存在するのでぜひ参照してほしい。
俺はそのゲームで紅莉栖と対戦し、目下連戦連敗を重ねているのであった。
そもそも電話レンジの改造についての議論が煮詰まったから始めた気分転換だったのだが、今や完全にガチである。
「ここだ! 3−Aに神風攻撃(ウィンドミルアタック)!」
「はい外れ。4−Bに攻撃」
「馬鹿なぁぁぁぁ!?」
紅莉栖の攻撃により我が艦隊は全艦撃沈となった。つまりゲームオーバー。完全敗北。
「おいクリスティーナ! まさか嘘の申告をしてはいまいな!?」
「してない。ほら、私の海図」
………確かに紅莉栖から渡された紙には不正の跡が見られない。
それにしても何だこれは、俺は完全に的外れなところばかり攻撃しているじゃないか。
「岡部は勘に頼りすぎ。相手の位置を論理的に割り出したり、作戦を読むことを全然しない。それじゃ勝てるものも勝てない」
「ぐぐぐ…」
というかだな。かたがゲームに論理的だの作戦だのごちゃごちゃと考えて楽しいか? 少なくとも俺は楽しくない。
「ま、岡部に心理戦をしろなんて無理難題でしょうけどね」
「ぐ、ががが…」
だがそれ以上に悔しい。この高慢ち気な助手に舐められっぱなしというのが我慢ならん。
何をしてでもこいつの鼻を明かしてやりたい。しかし俺では逆立ちしてもこいつに勝てない。ならば―
「…出かけてくる」
ならば勝てる奴を連れてくればいい。簡単な事だ。
「あれ? オカリンどこ行くのー?」
「外の空気を吸ってくるだけだ」
「早く戻ってきなさいよね」
まゆりに一言だけ断ってラボを出る。それを勝ち誇った顔で見送る紅莉栖に俺は誓う。
こいつを絶対に負かす、と。
〜他力本願のマスゲーム〜
「ごめん、そりゃ無理だわ」
「即答かっ!?」
ラボを降りてブラウン管工房に入り、そこで暇を持て余していた鈴羽に頼んでみた結果でる。まあ、さすがに即物的すぎた。
阿万音鈴羽。彼女は当ラボの一階に店を構える「ブラウン管工房」のバイトである。まゆりを筆頭にラボメンとの仲も良好だ。ただ一人を除いて。
「牧瀬紅莉栖と仲良くゲームってのは、私は無理。岡部倫太郎には悪いけどね」
「…そうか」
どういう訳か、鈴羽は紅莉栖に良い感情を抱いていない。理由を聞いてもはぐらかされてばかりだ。
「そもそも、牧瀬紅莉栖と思考的遊戯で競っても勝機は薄い。彼女は、間違いなく天才だから」
どこか自嘲の色を含んだ声で呟く鈴羽。さっきまで散々に負かされていた俺にも分からないでもない。俺達みたいな凡人と違い、あいつは疑いようの無い天才なのだ。
一方でツンデレ、隠れネラー、飯マズ、空気読めないとマイナス(?)要素もてんこ盛りなのだが。
「まあ仕方あるまい。別の助っ人を捜すとしよう」
「当てがあるの?」
「フ、まあな」
実を言えば、ある。
紅莉栖とは別の分野に特化した天才を俺は知っている。そしてその天才こそがおそらく紅莉栖を打倒できる唯一の可能性を持った人物だろう。
「行き先は、メイクイーン+2ニャンだ」
「と、いう訳で助っ人を用意した!」
「よろしくニャン♪」
「お前どこまでも最低だな…」
「あー、フェリスちゃん、トゥットゥルー」
「ふおおおおおお!? フェイリスタンktkr!? オカリンGJすぎっしょ!!」
俺が連れてきたフェイリスに三者三様のリアクションをするラボメン達。心底呆れる紅莉栖。にこやかに挨拶をするまゆり。テンションが一気にオーバードライブするダル。うむ、予想通りの反応である。
フェイリス・ニャンニャン。ラボから徒歩三分のメイド喫茶「メイクイーン+2ニャン」のナンバーワン人気メイドにしてカードゲーム『雷ネット・アクセスバトラーズ』の凄腕プレイヤーである。ダルいわく公式に出たら優勝級らしい。カードゲームは相手の手を読む事や論理的な戦術などを必要とされるものだ。それを熟知したフェイリスならば海戦ゲームなどはまさに得意とするゲームと言えるだろう。
「さあフェイリスよ、この小生意気な助手に人生の厳しさを教えてやるのだ!」
「了解ニャ!」
「その台詞をアンタが言うか…」
紅莉栖の視線が痛い。俺が姑息な他力本願をしている事なんて分かってる。でもな、負けると本当に悔しいんだよ。負けた時の屈辱感と憤りをお前にも感じて欲しいんだよ。分かるだろ?
「全然分からん。それはただのひがみだ」
まあな。そうだな。
それでも付き合ってくれる辺りお前もかなりお人好しだよな。
「フェイリスさん、悪いですけど手加減しませんよ?」
「当然ニャ。力の出し惜しみなんて戦場では愚か者のする事ニャ。クーニャンには期待してるニャよ?」
おお、自信満々だなフェイリスよ。これなら期待できそうだ。
「…ところで凶真」
「ん? なんだ?」
「フェイリスは、この勝負が終わったら結婚…はしないけど凶真にお店で一番高いメニューを頼んでもらうニャ…」
待て、なんだその微妙なフラグは。それとメイクイーン+2ニャンのメニューで一番高い物となるとかなりの出費になるんだが、それが俺の頼みを聞いた報酬だとでも言うのか? なんとかラボの経費で落ちないものか。無理か。そんなもの最初から無いしな。
で、結果はというと。
「5−Cに攻撃!」
「ウニャ〜〜〜〜〜!!」
フェイリスの惜敗であった。
「というかだな、助手よ。フェイリスは海戦ゲーム初心者だぞ? 少しは手心を加えるとかはないのか?」
「ない。そもそも勝負前のやり取りからして当然だろ」
いや、あれはフェイリスなりのパフォーマンスというかだな。相変わらず空気の読めない奴め。
「フェイリスタン! 傷は浅い! しっかりするお!」
「ふふふ… 良いのニャダルニャン。フェイリスはもう駄目ニャ…」
「そんな〜。フェリスちゃんしっかりして〜」
ほら、あっちで妙な小芝居が始まってるじゃないか。どうするんだ、あれ。
「とはいえ、さすがフェイリスさんね。岡部相手の3倍は思考にカロリーを消費したわ」
そしてさらに俺への追い打ち。ひどい。紅莉栖ひどい。
「フェイリスタンの仇を討つ! 牧瀬氏は許さない、絶対にだ!」
「私はいいけど。橋田、ルール分かる?」
「…フェイリスタン。説明ヨロ」
「今度来た時にメニューを一品追加してくれるなら、おっけーニャン」
「お安い御用だろJK!」
フェイリスめ、商魂たくましいな。しかしフェイリスの助言があってもダルに勝ち目はあるまい。そんな才能があるのならフェイリスに毎度カードバトルを挑んで連敗を重ねたりはしない。メカとプログラミングに関してならともかく、それ以外は典型的な重度オタクの代表ともいうべき男。それがダルだ。
さて、俺はどうするか。フェイリスと紅莉栖の高度な対戦を見たおかげか、頭もだいぶ冷めた。俺じゃあのレベルについていけない事がよく分かった。今にして思うと我ながら小学生みたいな事をしたものだ。
落ち着いたら喉が渇いた。おもむろに冷蔵庫を開けてみると飲み物が減ってきている事に気づく。
「買い出しに行って来る。欲しい物はあるか?」
「あ、ドクペお願い」
「じゃあバナナとー。あとポテチもー」
「ダイエットコーラを頼む。それは僕の勝利の美酒になるだろう(キリッ」
「フェイリスはサイダーを頼むニャ」
まゆりだけ食べ物を頼むあたり流石である。
「まあ、頑張るのだなダルよ」
「ククク… 今の僕は神をも凌駕する存在だお! 帰って来たオカリンが目にするのはレイプ目になった牧瀬氏だってばよ!」
それはありえん。あるとすれば真っ白な灰になったお前を見る事だろうな。
だが、買い出しから戻った俺の見た光景は予想を少し超えたものだった。
「へへへ、燃え尽きたぜ… 真っ白にな…」
ダルはいつもの指定席であるパソコン前の椅子に座って真っ白に燃え尽きている。これは予想通りだ。
「大変ニャ凶真! ここは混沌の領域(カオスフィールド)に包まれたみたいニャ!」
うん、フェイリスに言われなくても分かる。これは一体どういう事だ?
「ん〜、次はどうしよっかな〜」
現在、紅莉栖と対戦しているのはまゆりになっていた。
それはいい。俺達が楽しそう(一部語弊があるかもしれないが)に遊んでいたなら混ざりたくなるのも当然だ。
問題は紅莉栖の状態である。
「………」
無言。眉をしかめて考え込む表情は真剣そのものである。しかも相当の知恵熱を出しているのか、顔も少し紅潮していた。まさか、まゆりが紅莉栖を追い詰めているのか? あの海戦ゲームで?
「まさかマユシィの星屑との握手(スターダストシェイクハンド)がここで覚醒する事になるなんて! 凶真、これはもしかして!」
「うむ、機関の仕業だ! これは早急に手を打たねば!」
俺はいつものように携帯電話を取り出し『報告』をしようとするが。
「ああもう、うるさい! 気が散るから静かにしろ!!」
『ごめんな(ニャ)さい』
凄い剣幕で怒られた。紅莉栖の奴め、本当に煮詰まっている様だな。
「あ、オカリンお帰り〜」
対照的にまゆりはうんうん、と考えながらも非常に楽しそうである。
「ねぇねぇオカリン、これ見てよ〜」
「うん?」
まゆりに見せられたのは丁度ゲームに使っている海図だ。まゆりの艦隊と紅莉栖の攻撃箇所が記されている。俺の時と違い、紅莉栖の攻撃はかなり散発的だ。おそらくまゆりの艦隊の位置を読み切れていないのだろう。それでもあと一歩の所まで攻め込んでいるのだから流石だ。
と、そんな感想を持つ俺にまゆりはとんでもない事を言ってきた。
「これ、どういう絵なのかなぁ?」
「………は?」
「だから、クリスちゃんはどんな絵を描いてるのかなぁって」
そういえばまゆりの艦隊の位置はハートの形を描いている様に見える。そして紅莉栖の海図をちらりと覗くとまゆりの攻撃箇所は星の形をしていた。つまり、まゆりは戦術だの論理的思考だの以前にただマス目で絵画に挑んでいたという事だ。そして紅莉栖も自分と似たような事をしていないか考えていたと。
「…どうなんだろうな。俺にも分からん」
「そっかぁー」
流石はまゆりさん。俺達の思考回路などぶっちぎりで追い抜いてらっしゃる。
そして俺達のやりとりから全てを察したのだろう、紅莉栖は完全に脱力していた。
「………3−Eに攻撃」
「あー! やられちゃったー! やっぱりクリスちゃんは凄いねー」
「…うん、ありがと。」
自分を負かした相手を褒めたたえるまゆりに少し乾いた笑みで返す紅莉栖。
うん、まあ、なんだ。まゆり相手に真面目にやっても疲れるだけだという事に早く気付けば良かったな。
「じゃあ今度はもっとマス増やそうよ〜。これじゃ小さくて描けるものが少ないと思うのです」
「えっ」
更なるまゆりの提案に青ざめる紅莉栖。
流石はまゆりさん。ゲームの趣旨などぶっちぎりで以下略。
「待てまゆり。続けるなら俺が代わってやる」
「え? いいのオカリン?」
「もちろんだ。クリスティーナも連戦ご苦労だった。休んでいいぞ」
「そもそも休憩の為のゲームだった気がする。あとクリスティーナ言うな」
何を今さら。最終的に一番熱くなっていたのはお前じゃないか。
秋葉原は夜が更けると、とたんに人通りが少なくなる。
いや、実際に人通りはあるかもしれないが早々に閉店する店が多いので寂しく感じるだけかもしれない。
「海戦ゲーム、楽しかったねー」
俺とまゆりは夜食の買い出しに歩いていた。
昼間のゲームの影響で電話レンジの改造が遅れている為、今夜も徹夜かもしれない。
「まあな。だが今後20×20マスは封印する」
「えー」
だってな、あれ広すぎてグダグダになっただろ。それを乗りきる為に無駄にテンションを上げる俺の身になってくれ。
「…ねえオカリン」
「何だ?」
「また、やろうね」
「…ああ、そうだな」
まゆりがやろうと言ったのは、今日のゲームだけの話じゃないだろう。
考えてみれば最近は電話レンジにかかりきりだった。ほんの少し前、それこそ数日前までまゆりやダルと意味の無い事に戯れていたというのに。
「電話レンジの件が落ち着いたら、今日のゲームで大会でも開くか」
「おおー、大会だー」
そうだ。落ち着いたらそんな意味の無い事で盛り上がるのもいいだろう。
「ルカ子にバイト戦士、閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)も招集せねばならんな。フ、陰惨たる舞踏劇の幕が上がるか…」
「うぅ〜。まゆしぃは待ちきれないのです」
春には広く感じたラボも今の人数だとすっかり狭くなった。何か対策を考えないといけないな。
そんな事を考えながら俺は夜食の入った袋を肩に担いだ―
説明 | ||
『シュタインズ・ゲート』の二次創作になります。ネタバレ無し。 アニメはいよいよ折り返しにしてターニングポイントですね。今後もしばらくはネタバレしない方向で書いていこうと思います。 |
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