真・恋姫無双 改変・呉√4 |
この地に来てから幾らかが経った。
最初のうちは現代日本との違いに戸惑うことも多かったが、今ではそこそこ順応してきていると思う。
文字の方も少しずつではあるが読めるようになってきた。これも蒼里さんの指導の賜物だ。
あの文字が読めないと分かった日から、ほぼ毎日のように俺の勉強に付き合ってくれたからな。
それも仕事で忙しいはずなのに無理矢理時間を空けてだ。
これでは頑張らない訳にはいかない。
おかげで少しではあるが蒼里さんの手伝いもこなせるようになってきてたりする。
だが、それはあくまで手伝いレベルで蒼里さんのヘルプでしかない。
基本的には俺は思春と共に軍の調練に励むのであった。
その甲斐もあってか、最近では倒れることも無く調練に付いていってる。
そんな今までの生活との違いに困惑しながらも経験したことのないような充実感を感じていた或る日、転機が訪れることとなった。
「何か城内が慌ただしいな」
何故かは知らないが、昨日、今日と城内が明らかに慌ただしかった。
元々人が多かったわけではないが、それを感じさせないくらい皆が忙しなく働いている。
当然俺もその中に含まれており、今も蒼里さんから預かった書類を蓮華に届けている最中だ。
「蓮華、入るよ」
コンコン、と二、三回扉をノックし蓮華の執務室に入る。
余談だが、このノック、今では城内の者ならほとんどが行うようになっている。
蒼里さん曰く、『ノック』という響きが珍しいことと、何より実用的であるかららしい。
「一刀か。何の用だ?」
「これを蒼里さんから頼まれてね」
どうぞ、と預かっていた書類を蓮華に渡す。
「これか。わざわざ持って来て貰ってすまないな」
「どういたしまして。ところでさ、何かあるの?皆忙しいそうだからさ」
「誰からも聞いていないのか?まあいい。数日前、領内で族が発生したという報が入ってな。本来であれば袁術が討伐軍を派遣するところではあるのだが、色々な紆余曲折があったのだ。その末に我々に鉢が回ってきたという訳だ」
「成程ね。道理で慌ただしいはずだ」
蓮華は言い終わると早速先ほどの書類に目を通し始めている。
その真剣な表情に俺はそれ以上口を挟むことは出来なく、部屋を後にするしかなかった。
賊の発生か…。段々とキナ臭くなってきたな。
それにしても蓮華は何かあったのか?いつも真面目な娘だけど、今日の蓮華はちょっと違う気がした。
うまく言葉に出来ないけど、肩肘を張り過ぎているというか…。
とにかく俺は蓮華の様子に違和感を覚えるのであった。
翌日。
今日は朝早くから会議だ。十中八九、賊の討伐のことだろう。
会議が始まると予想通りであった。
蒼里さんが賊の現状とこちらの軍備のことを説明している。
俺は眠い目を必死に擦りながら何とか話に付いていった。
どうやら、出陣は明日のようだ。
そして話は具体的な陣容の説明に移っていく。
「軍は思春ちゃんと蓮華様に率いてもらいます」
まあ、そうだろう。
ここには蓮華と思春に蒼里さん以外のこれといった人材がいないからな。
蓮華と思春が出るということは蒼里さんは留守番か。
「それと、一刀君にも従軍してもらいます」
はい?
予想だにしなかった言葉に一瞬俺の中で時が止まった。
従軍?俺が?何故にホワイ?
さっきまでの眠気は一気にどこかにカッ飛んで行ってしまったようだ。
「え、俺も出るの?」
何とかその言葉だけでも喉から搾り出す。
「はい。思春ちゃんからの推薦です。一刀君は広い視野と優れた観察眼を持っているそうですから」
「なっ!?余計なことを言うな、蒼里!」
思春が真っ赤になって蒼里さんのことを睨みつけた。
だが、そんなこともどこ吹く風と蒼里さんは言葉を続ける。
「どうですか、一刀君?」
正直、自信は無い。
だって、ほんの前までただの学生だぜ?俺。
それが戦場に立つだなんて……。
だが、思春の期待に応えたい自分がいるのも確かだった。
あの思春がただの戯れで俺を戦場には出さないだろう。それだけ期待されているということだ。
なら、やってみるしかないか。
「どれだけこなせるか分からないけど、俺なんかでよかったら引き受けるよ。思春の期待にも応えたいしね」
「ばっ、調子に乗ってお前も何を言っているんだ!」
今度は蒼里さんではなく俺を睨みつけてくる。
なるほど、蒼里さんがビビらない訳だ。
真っ赤になって睨んでくる思春は全然恐くなく、むしろ可愛いぐらいであった。
そんな俺達を見て蒼里さんも微笑んでるし。
そんな中で一人だけ蓮華は浮かない顔をしていた。
なんか昨日よりも一層何かを抱え込んでます、って顔になってるな。
その後もつつがなく会議は進行していった。
だが、蓮華の表情が晴れることはなかった。
その日の夜、俺は中々寝付けなかった。
初陣を明日に控えているのだ、寝れないのも無理はないだろう。
「…夜風にでもあたってくるか」
そう決めると俺はすぐに布団を放り出し、庭へと歩を進めた。
「良い夜だな」
外は雲一つなく、あるのは月と星の光だけ。
色々なものに汚染された現代の空とは違う、澄み切った星空がそこにはあった。
生活が豊かになったけど大切な何かを失った、この言葉が頭ではなく心で理解ができた。
「綺麗だ…」
満天の星空を見上げながら俺は辺りを散歩する。
程なくして俺は先客がいることに気付いた。
蓮華だ。
どうやら向こうは俺に気付いていないらしい。
どこか憂いを秘めた目で遠くを眺めている。
その表情に俺の心臓はドキンと跳ね上がる。
青白い月光を照明にしてずっと眺めているのもよかったが、どうやら俺は蓮華を放っておくことは出来ないようだ。
「大将がこんな時間まで起きてちゃダメなんじゃないのかな?」
気付けば俺は蓮華に話しかけていた。
「何だ、一刀か。驚かすな。お前こそ起きてる場合ではないのではないか?」
蓮華は遠くを眺めるのを止め、こちらに振り返る。
「どうにも寝むれなくてさ。やっぱり明日の事で緊張しているし、恐怖もある。戦場に出るなんて考えてもなかったからね。それで夜風にでも当たろうかなって。蓮華は?」
「わ、私は……!」
蓮華は何かを言おうとしたが、それは喉に呑み込んでしまった。
そして、俺と目を合わせずに口を閉ざしてしまう。
どれくらい経ったであろうか。
蓮華は意を決した顔で俺を見ると、再び背を向けてしまった。
あちゃ〜、やらかしちゃったか?
そう思い、俺の足は帰路へとつこうとしていたが蓮華の一言がそれを止めた。
「……私も一刀と同じだ」
「え、それって」
「私も明日が初陣ということだ。それで寝付けなくて……、悪かったな!」
「別に悪いとは言ってないんだけど…」
それにしても、蓮華も初陣だったとは。
それであんな様子だったのか。
賊の討伐の話が来てからきっと、もの凄いプレッシャーがあったんだろうな。
「心配しなくても明日はうまくいくよ」
口からは自然とそんな言葉が出ていた。
「…どうしてそう言い切れる?」
「蓮華がいて、思春がいる。それに孫呉の兵もいる。根拠なんてこれで十分だと思うけどな」
振り返った蓮華は一瞬キョトンとした顔をし、そしてすぐに笑みを浮かべた。
「まさか一刀にそんなことを言われるとはな。だが、おかげで思い出した。孫呉の強みはその結束力だとな。それは率いる人間に左右される。私がしっかりしないでどうするんだ。目が覚めたようだ。礼を言うぞ、一刀」
「緊張してると普段は見えてるものが見えなくなるからね。蓮華の調子が戻ったならそれが一番だよ」
そうは言ったが、俺も緊張で忘れていた。
戦は俺一人でやるものではないということを。
明日は蓮華も思春も、そして普段調練を共にする仲間たちがいる。
そう思えば不思議と緊張が解けていった。
「まったく、調子のいいことを言う。だが、今はそれが心地いい」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
「口の減らん奴だ」
その言葉に俺の顔も綻ぶ。
気付けば俺も蓮華も笑っていた。
初陣に対する緊張と恐怖。この瞬間だけはそれが全く無くなっていた。
「では、そろそろ行くとするか」
「そうだね」
ほどなくして、俺達は部屋へと引き返す。
「じゃあ、俺はこっちだから」
「今度はちゃんと寝るようにな」
そう言って蓮華の姿は闇に消えていった。
まったく、眠れなかったのは蓮華も一緒だっていうのに。
「一刀!」
そんなことを考えたら不意に声をかけられた。
なんだ、まだ近くにいたのか。
急いで振り返るが暗くて声の主は見えない。
「さっき言った孫呉の中に、一刀、勿論お前も入っているからな!」
その後に続く言葉は無かった。
「それぐらいさっき言ってくれればいいのに」
素直じゃないというか、蓮華って案外ツンデレなのか?
何て考えている反面、俺はその言葉をとても嬉しかったりする。
孫呉の一員。
それは俺がこの世界で初めて認めてもらえた証に思えたからだ。
「なら、明日は孫呉の一員として戦うだけか」
そう一人ごち、俺は部屋へと戻るのだった。
そして、夜が明けた。
俺達は500人の軍勢を従え賊の本拠地と思しき場所に向かっている。
蓮華は後方に位置し、俺と思春は前衛を率いていた。
「……昨日はすまなかったな」
急に何だ?
何かあったっけ?
「何の事?」
「蓮華様のことだ」
蓮華って、昨日の夜のことかな?
それにしたって思春に謝られる筋合いはない。
が、
「っていうか何で知ってるんだよ!?」
そうだよ。まずはそこが疑問だ。
昨日は俺達以外の気配なんて感じなかったし。
「蓮華様にいる所に我はいる。そういうことだ」
「…………そうですか」
さらりと怖いことを言われた。
とりあえず、これからは階段を上っている蓮華を見つけたらこっそり後ろをつけるのは止めよう。
「でも何で思春が謝るのさ」
「蓮華様の様子がおかしいことは分かっていた。だが、何と声をかけたら良いか分からなかった。そうしたら北郷、お前がそれを解決してくれた。本来であれば私がすべきことなのにな」
「別に礼を言われるようなことじゃないよ。それに思春だったらもっと良いことを言ってたかもしれないし」
「蓮華様の言う通りだな。口の減らん奴だ」
「う〜ん、そういう自覚はないんだけど」
「自覚がない方が問題だ」
グサリと言われてしまった。
おかしいな、さっきまでは思春が謝罪してたのにいつの間にか俺が責められている。
まあシリアスな話をされるよりこう言う話の方が気が楽でいいか。
その後も俺と思春の他愛のない会話は続いていく。
「ところでさ、賊ってどれくらいの規模なの?」
「斥候の報告では大体800らしいな」
「こっちは500人しかいないけど、大丈夫?」
そこで思春は小さく溜息をつき、憐れんだ目で俺を見てきた。
「お前は訓練された軍とただの賊の力の違いが分かってないらしいな。いい機会だ、今日その違いをその目に焼き付けておけ」
「了解」
と、そんなことを話していたら一人の伝者がやってきた。
「報告!賊の本拠が見つかったとのこと!ここから西に十里の地点だと」
「報告ご苦労。全軍駆け足!目標は近いぞ!」
思春の纏う雰囲気がガラリと変わった。
……これが一流の武人の臨戦態勢か。
こうやって隣にいるだけでも胃が締め付けられているようだ。
賊のものと思しき砦は山の影に隠れる様にひっそりとあった。
「いつの時代のものか分からないが廃棄された砦のようだな」
そこに後曲を率いていた蓮華も到着する。
「ここが賊の本拠か」
「そのようです。どういたしますか?」
「ふむ、正面から叩き潰すのでも十分に勝機は有ると思うが、それでは無駄な犠牲が大きいか…。何かあるか?」
俺はこの辺りの地図と実際の風景を見比べる。
あれ、これはいけるんじゃね?
「素人考えかもしれないけど、ちょっといいかな?」
「かまわん。何だ?」
「あのさ、この小丘に兵を伏せたら向こうからは気付かないんじゃないかな?」
そう言うと蓮華も思春も丘の方に顔を向ける。
「あれか。思春、私は悪くないと思うが」
「そうですね。私も異論は有りません。それで北郷、兵を伏した後はどうするんだ?」
「後は簡単さ。誰かが賊に向かって挑発をするんだ。そして、伏兵のいる所までおびき出す」
「そんなにうまく挑発に乗ってくれるか?」
「お言葉ですが蓮華様、私は十分成功の可能性は有ると思います。相手は所詮烏合の衆、指揮する者もいなければ、確固たる目的もない。前に餌をぶら下げてやればすぐに食いつくでしょう」
「思春は賛成か。よし、では一刀の案を採用しよう」
思春のお墨付きを得て俺の案が採用されることとなった。
まさか歴史小説の知識が歴史のテスト以外で活用される日が来るとは思わなかったな。
普段から本を読めと言っていた両親に感謝だ。
その後の話し合いにより、囮となって賊を釣り出す役は蓮華となった。
その際に思春が大反対をしたのは言うまでもない。
だが、
『思春の言いたいことも分かる。だが、今回だけは私にさせて欲しいのだ。もう少しで壁を乗り越えられそうなんだ。頼む、思春』
蓮華にこうまで言われたら思春は引き下がらざるを得なかった。
ちなみに俺も思春と共に別働隊いき。
『一刀は思春について行き、武将の戦いというものを間近で体験しておけ。それがお前の糧となるはずだ』
と、蓮華からの命令があったからだ。
そんなわけで、俺と思春は小丘に布陣している。
いよいよ戦いが始まるのか……。
手綱を握っている手の震えが止まらない。
「大丈夫か?」
「ちょっと大丈夫じゃないかも」
俺は眼前に布陣している蓮華の軍を、そして後ろで待機している兵たちを交互に見る。
「これだけの人数が殺し合いをするんだ。怖くてしかたないよ」
「軟弱者め。だが、その割には逃げ出す素振りは見せないのだな」
「そりゃあね。この作戦の立案者は俺なんだから責任は全うするさ。どんなに怖くても逃げ出すわけにはいかないよ。それにさ、昨日も言ったけど蓮華も思春もいるんだ。逃げ出すほど怖い訳じゃない。」
「きゅ、急に変なことを言うな!もうそろそろ蓮華様が動くから気を引き締めておけよ」
「了解」
思春がそう言うと同時に蓮華の軍が前進を始めた。
そして矢の射程外ギリギリの所で止まり、蓮華が前方に移動する。
挑発のための口上を述べるためだろう。
だが、結果として蓮華が口上を読み上げることはなかった。
なぜなら、蓮華が口上を始める前に賊が飛び出してきたからである。
これには俺だけではなく思春も驚いたようだ。
「烏合の衆だとは思っていたが、まさかここまでとは……」
「うん。思春の言ってた、賊と軍の違いが良く分かったよ」
「だが、策がうまくいったのは確かだ。蓮華様も問題なく兵を率いておられる。我らの出番も近いぞ」
蓮華は賊に一当てされるとすぐに後退を始めた。
それが演技だとも知らずに賊は追撃を始める。
そして、遂に俺たちの真下まで来ようとしていた。
そこに思春から突撃の命令が下される。
「甘寧隊に告ぐ!策は成った!後は我らの矛を相手に振り下ろすだけだ!孫家に仇を為すことの無意味さをその身に知らしめてやれ!全軍、突撃!」
俺の初めての戦争が始まった。
結果だけ言えば俺達は勝った。
それも完勝といっていいほどの内容でだ。
だが、俺は突撃して以降のことをほとんど覚えてなかったりする。
それだけ無我夢中だったということだろう。
だが、俺が覚えてないだけで戦いがあったということは確かだった。
周りにはおびただしい数の死骸が散乱している。
ほとんどが賊のものだが、時折こちらの鎧をつけたものもいた。
そんな光景を見ていると、生き残れててよかった、負側にいなくてよかった、なんてひどく独善的な思いを抱かずにはいられなかった。
そんな感傷に浸りながら、俺は帰途についた。
城につくと解散となり、俺は部屋に入ると同時にベッドに倒れ込む。
肉体的にも精神的にも疲弊しきっていた俺は意識を失うのに五秒とかからなかった。
そして、そのまどろみの中で俺は改めて思うのであった。
生きていることの素晴らしさを。
どうもジャイロです。
更新遅れてすいません。
思った以上に忙しくて…
次からは週一に戻れるといいな
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真・恋姫の二次創作です 主人公は北郷一刀のまま、能力は原作準拠です オリキャラは数人出てきます |
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誤字報告 1P最初の「賊」が「族」に。(中原) | ||
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