魔動少女ラジカルかがり A.C.E. -第五話- |
かつて、聖王教会の司教は言った「それは奇跡じゃない」と。
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テスト投稿二次創作SS 魔動少女ラジカルかがり A.C.E.
第五話『一度捕えたら君を逃さない…』
原作:アインハンダー
原作世界:魔法少女リリカルなのはアニメシリーズ
原作設定:日本製シューティングゲーム各種
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復帰初の企業テロを終えて初めての休日。
何故か私は休日出勤などをさせられていた。
私は嘱託魔導師なので一般社会人のような決まった休日などが無いのだが、企業テロ対策チームでしばらく局に詰めてのお仕事なので、時空管理局員と同じスケジュールで休みを取ることになっていた。
就業中は激務が重なるためか休みは割りと多めに取らせてもらえるのだが、今日はその休みということで格納庫の機動小型戦闘機の整備でもしようと早朝に地上本部へと出向いたのだ。
そんな私を待っていたのは、制服姿のオーリス姉さんだった。
拉致半ばに向かった先はミッドチルダ北部のベルカ自治領。聖王教会の本部だった。
目的は、地上本部から教会への夜天の書の情報提供の段取りのための会談。
そして、夜天の主のはやてさんの教会幹部への顔見せだった。
はやてさんの付き添いで何故か私も同行することになっていた。何故か。
オーリス姉さんが付いているなら私は必要ないと思うのだが、ときどき姉さんが私に何を求めているのか解らなくなるときがある。
ベルカ自治領方面の地上部隊にはザフィーラさんが配置されているためか、人間形態をとったザフィーラさんがはやてさんに付き添っていた。
人間の姿をとった彼をはじめて見た。
がっちりした体系の背の高いお兄さん。でもやっぱりアルフさんのような耳と尻尾。
尻尾は座るときに邪魔だろうに。
97サブカルチャーに出てくる猫耳とは違い、耳が人類と同じ配置であり三半規管や鼓膜等の配置構造の謎に頭を悩ませなくても良いのだが。
ああ、でもクラナガンで時々見る使い魔さんは耳が頭頂部にあったような。
聖王教会の本部に着き、中へと案内された。
自然共生文明を感じられる美しい調度の建築物の中を歩いていく。
ヒールの音を響かせて歩く制服姿のオーリス姉さん。歩行補助器の駆動音を鳴らして歩くベルカの子供服姿のはやてさん。
今更になって私の格好が不相応なことに気づいた。
シップのすすや汚れがついても良いようにと、動きやすく洗いやすい野暮ったい格好をしている。
放棄都市区画を秘密基地にして遊びまわっているような子供達のような、バーゲンで買った服装だ。
教会の幹部さんに会うのにこの格好はまずいのでは。
「オーリス姉さん、着替えに一時帰宅して良いですか。二十四時間ほど」
「…………」
うわあ、突っ込みもせずに無視したこの人。
振り返ってはやてさんにすがろうとするが、ご本人は緊張で固まっていた。
右手と右足が同時に出ている。脚もまだ万全とは言えないのに無理な歩き方をするものだ。
ベルカのボディースーツ姿のザフィーラさんはいまだに接し方が掴めないので、案内役の紫色の髪のシスターを見上げて目線でアピールする。
「大丈夫です。騎士カリムは服装など気にしませんよ」
そう笑って言った。
オーリス姉さんよりも年上の若いシスターさん。シャッハ・ヌエラさんと言うらしい。
昔、聖王教会の観光に来たことがあるが、シスターさん達は優しい人達ばかりだった。この人も笑顔で対応してくれている。
長い廊下をしばらく歩き続け、やがてシスターヌエラが一つの扉の前で立ち止まった。
美しい調度のなされたその扉をノックし、シスターが扉を開く。
「どうぞ」
シスターヌエラが扉を押さえながら入室を促した。
オーリス姉さんが一礼して中へと入り、私がそれに続く。
はやてさんはまだ緊張しているのか私の後ろにぴったりと付いてきている。
私はただの嘱託魔導師だというのに、夜天の書の主であり管理局員であるはやてさんより先に入って良いものか。
ザフィーラさんははやてさんの後ろに追従しているので自然と私が二番目だ。
でも、本人がこうでは仕方が無い。
扉をくぐった先を見渡すと、廊下と同じような自然素材のそれでいてやや煌びやかな部屋になっていた。
部屋の真ん中には、陽光の差し込む大きな窓。
そしてその横に美しい金の髪を伸ばした女性が立っていた。
彼女が教会幹部、騎士カリム・グラシアか。
いや、待て。すごい見覚えのある顔だ。
「司教さん、ですか?」
観光で教会を訪れたときに話を聞かせてくれた歳若い司教さん。その人と瓜二つ。何となくだが本人に思えた。
顔も髪の色も若さも、あのときと何も変わっていない思い出のままの姿だった。いや、服が少し違うか。
「あら、もしかして何年か前に教会に来てくれた学生の子かしら?」
「ええそうです。覚えてくださったんですか」
「これでも人の顔を覚えるのが得意なの。それと、私は司教じゃなくて教会騎士団の騎士なんですよ」
にこりと笑いながら頬に手を当てる騎士グラシア。
この大人しそうな物腰でベルカの騎士式の肉弾戦をするというのだろうか。
「そうだったんですか。司教さんの服を着ていたのでてっきりそうなのかと」
「そちらの資格も持っているので人が足りないときに手伝いに行くんです」
服のすそを掴みながら騎士グラシアが笑った。
教会の位による服の違いについてはそこまで詳しくは無いが、今の彼女の服は当時のものとは違うものだった。
と、そんなやり取りをしていると気づけばオーリス姉さんがこちらを見下ろしていた。
「カガリ、そろそろいいか」
「ああ、すみません。私はあくまで付き添いでしたね。はい、はやてさんどうぞ」
未だに私の後ろにいるはやてさんの背後に回り、背を両手で押し出した。
脚のラインに沿うように付けられた補助器が急な負荷で小さなうなりをあげるが、この程度では倒れないだろう。
胸に夜天の書を抱えたはやてさんが、部屋の真ん中に据え付けられたテーブルをはさんで騎士グラシアの前に出る。
そして、前へと進んだ勢いのままに大きく一礼をした。
「ああああのあたし夜天の魔導書を使わせて貰ってます八神はやて言います! よろしくお願いします!」
「はい、私はカリム・グラシアです。よろしくお願いしますね、可愛い主さん」
ベルカの直系の聖王教会と、ベルカの後継の夜天の主の邂逅。
きっとこの出会いは古代ベルカの魔導師を目指すはやてさんの大きな一歩になるだろう。
はやてさんと教会幹部との会談は何の問題もなく終わった。
古代ベルカの文明を知り、魔導書を作りたいというはやてさんの宣言は非常に好印象。
教会に来ないかというあからさまなスカウトに、時空管理局に留まりたいとはっきり言ったはやてさんにオーリス姉さんも一安心だったであろう。
はやてさんが地上本部で教会の助けを得ながら魔導書を作成すれば、地上本部は技術蓄積と教会との繋がり強化を同時に果たせるのだ。
ザフィーラさんとその場で実体化したリインフォースも夜天の従者として騎士グラシアと挨拶を交わした。
これが魔導書一冊から生み出されたのですね、と言った騎士グラシアが一瞬見せた笑みを私は忘れない。
あれは私たちと同じ笑みだ。滅びた超技術を掘り起こしたときの、笑み。
話を終えた私たちは、オーリス姉さんと騎士グラシアを残し部屋を出た。
二人はお仕事の細かい話がまだあるのだろう。
レジアスおじさんの教会嫌いは良く知っているが、姉さんはどうなのだろう。この前はあり方が嫌いなどといっていたが。
まあ嫌いになるのも仕方がないと言ってしまえば仕方がない。
時空管理局の発祥には聖王教会が関わっており、聖王教会とは即ち滅んだベルカの文化だ。
それが時空管理局内で強力な権限を持っていて、ベルカ自治領のあるミッドチルダを守護する地上本部のあり方に口うるさく首を突っ込んでくる。
地上本部を統括する身としては、さながらミッドチルダ人の次元航行部隊にいらぬちょっかいを出される地方世界の防衛組織のような気分だろう。
地上部隊以外にも、ミッドチルダ人の中にはベルカとべったりな時空管理局を疑問視する人もそれなりにいる。
姉さんはどのように話をつけるのだろうか。
シスターヌエラに連れられて教会本部内を歩いていく。
いつの間にか泊まりが決定していたらしい。私の荷物はあてがわれた部屋へすでに運ばれているとのこと。
「教会の外は自然がまだたくさん残っていますから、散歩などしてきてはいかがでしょう。お昼までまだまだ時間がありますし」
そう、そうなのだ。時間的にはまだ朝なのだ。
朝ご飯という無駄な行程の不要な私はかなり早い時間に地上本部へ行き、そのままヘリも使わず転送室からこんな遠くまで送り込まれたのだ。
どう時間を過ごしたものだろう。
そうだ。持ち込んだ荷物にあれがあった。
「近くに綺麗な川がありましたけれど、釣りとかしても大丈夫でしょうか」
「釣りですか? ええ、教会の一部の者もときどきしていますので、道具もお貸しできますよ」
「私は持ってきていますので、はやてさん達の分をお願いします」
さきほどとは打って変わってザフィーラさんの腕にまとわりついてじゃれていたはやてさんが、話を振られて何のことだ、と首をかしげる。
はやてさんが釣りを知っているかは知らないが、まあ彼女の経歴を考えるとじっと動かない娯楽は受け入れてもらえるだろう。
そしてそのままシスターヌエラの後を歩き続け、今夜泊まることになる客間へと通された。
釣り道具を持ってくる、と言って出て行こうとするシスターに、私は尋ねたいことがあると言って呼び止めた。
頭の中には、先ほどの騎士グラシアの笑みが残っていた。
「失礼な質問になるかもしれませんが……、あなた方ベルカの聖王教会の方々はずっとこの自治領に居るわけですけれど、滅びたベルカの世界を取り戻そうと思っていないのでしょうか」
はやてさんと会ってからというもの、ずっと気になっていたダライアスと古代ベルカの共通点。
私たちと同じ、いや私たち以上に悲惨な境遇であるベルカの民は、文明復興に対しどのような想いを持っているのか気になったのだ。
シスターは、そっと目をつぶると、教典を読むかのようにして澄んだ声で答えを語った。
「……私達は聖王の教えに従う限り、無理な争いをしてまで覇権を得ようとは思いません」
人に教えを説く聖職者らしい答えだった。
本当にそうなのか、と内心で疑いを持ったとき、シスターは再び目を開いて言葉を続けた。
「ですが、ベルカの民として文化の復興を放棄したわけではありません。だからこそ」
「次元世界を渡り歩く時空管理局本局との深い関わり合い、ですか」
「ええ……道徳を説く者に相応しくないと軽蔑したでしょうか」
「いえ、私の一族も似たような境遇でして。過去から続く歴史を未来へ繋げる姿勢。尊敬しますよ」
笑みをシスターへと向ける。どのような笑みになっているかは鏡も無いので私には解らない。
釣り。それは人類と水生生物の知恵と生き残りをかけた戦い。
かすみを食べて生きられそうな私たち一族にとって狩猟とはそこまで必死になるようなものでもないのだが、それは置いておいて。
釣りである。川釣りである。
簡単に言えば、私の趣味の一つだ。
自然を楽しみながら云々と言う人もいるが、田舎も田舎、自然しかない辺境で育った私としてはどうでもいい。
竿を振り、釣り餌を垂らし、待ち続け、竿を引き釣り上げる。その時間を無駄に消費する一連の流れが好きなのだ。
釣り竿は万能携帯釣り竿のトリガーハート。
日々無駄な改造がほどこされ、先日は喪失文明復興局生活文化部の協力で高度AIのエグゼリカさんが組み込まれた。
長い釣りの待ち時間を可愛い女の子AIと会話して過ごすのだ。また仕事しないで変なゲームにはまったなあの人たち。
そんな釣り竿を初めとした釣り道具一式は、普段鞄の中に収納魔法で収められている。
教会に入るときに暗器を持ち込んでいるなどと勘違いされないように取り出しておいたのだ。
ちなみに機動小型戦闘機は収納魔法を使うにはやや重量オーバー。
昔私が使っていた剣状の小さい物なら入るが、戦闘機を無理に持ち運ぼうとは思わない。
戦闘機は格納庫で待機していてこその戦闘機なのだ。
こだわりを失っては文明復興など成し遂げられない。
呆、と無駄な考えを巡らせつつ竿を揺らしていると、トリガーハートを持つ手にわずかな震えが伝わった。
当たりだ。
逃げられないように少しずつリールを巻き、引き寄せていく。ちなみにこのリールと釣り糸、飛び立とうとするヘリ程度なら引き寄せられる。私の足腰が耐えられればの話だが。
引きの衰え、そして一瞬の隙。竿を引くと川面から魚の姿が飛び出した。
「っしゃー! オニキンメきましたー」
『こんぐらちゅれーしょん!』
エグゼリカさんが祝福の声をあげてくれる。
ダライアスではもう何百年、いや千年以上昔にAI技術が発達したので、今やもうAIの思考と感情は人間と同等だ。
いや、機械に押し込められて正気を保つなど、人間以上に発展して複雑化した精神性を持っている。
今や彼女も私のお友達の一人だ。
釣り上げたオニキンメの口からルアーを外し、オニキンメを時間操作がされた鮮度保持ボックスの中へと入れる。
「うわーすごい顔の魚やなあ」
犬の姿に戻ったザフィーラさんを背にもたれかかって釣り糸を垂らしていたはやてさんが、ボックスの中を覗きこんだ。
こちらの世界の出身ではないはやてさんには珍しかったのだろうか。
「キンメダイの仲間で、これでも鯛なんですよ」
「鯛か。そらええのが釣れたなあ」
ウナギにタツノオトシゴと、先ほどからなかなか調子が良い。
さすがにタツノオトシゴの料理方法は解らないのでリリースしたが。
「シスターヌエラにキッチンの利用許可を得ましたので、晩御飯は期待していてくださいよー」
すでに鮮度保持ボックスの中にはいくつかの釣果が収められていた。種類も豊富で素敵な川だ。
「カガリちゃん料理できるんかー」
「食事はほとんど必要ないので、完全に舌を満たす娯楽として習ったんですよ。家庭料理みたいなのは無理ですけど」
「そっちはあたしが得意やな。ザフィーラ達の食事もあたしが作ってたしなあ。よし、いっぱい釣って一緒に作ろか」
守護騎士の皆さんはプログラムなのに食事が必要らしい。
まあ肉体を維持する以上理解できなくも無いが。
でも、主君に料理を作らせるだなんて、四人もいるのに本当に魔法と殴り合いにしか能が無いのだろうか彼らは。
ちらりとはやてさんの後ろで寝そべっているザフィーラさんを見る。
彼には動物として可愛がられるという素晴らしい能があったか。
「ザフィーラさんはどんな料理が好きですか? あ、犬だから魚よりお肉なのかな」
「犬ではない。守護獣だ」
「使い魔に似たようなものなんですかね。知り合いの犬の使い魔さんは、人間形態なのにドッグフードを美味しい美味しい言って食べていましたけれど」
使い魔さんとはアルフさんのことだ。
第97管理外世界の動物食はどんなものだろうと一口貰ったが、私には無理だった。
「ザフィーラは雑食やでー。スキヤキとか作っても肉食べずに野菜ばっかり食べてるしな」
「むう……」
ザフィーラさんが犬の顔のまま眉を寄せていた。
ああ、きっと皆に遠慮している間に他の人たちがどんどん肉を食べてしまって、仕方なく野菜を食べていたという状況だろう。
スキヤキと言うのは向こうで見たレシピ本に載っていなかったので、どのような料理かは知らないが。
スシやサシミなら漫画で読んだことがあるし、クラナガンにも持ち込まれているので解るのだが。
「そのスキヤキとかいうの、川魚で作れますかね?」
「無理やなー。スキヤキは鍋料理やけど魚入れるんは聞いたことないわ」
「鍋料理ですかー……と、かかりましたよ」
高性能釣り竿のイリュージョンルアーにかかった獲物がまた一つ。
トリガーハートは魔力を流すことで様々な機能を発揮できる魔動機械の一種だ。
胸の奥から永遠に生まれる魔力の無駄遣いこそ、ダライアス一族の永遠のテーマ。
リールを巻き、獲物を釣り上げる。
視界に入る魚とは違うその独特のフォルム。脚、脚、脚。
「タカアシガニーッ!」
「おお、それはすごいなあ……うん?」
水から出してもタカアシガニはなおも暴れようとする。
私は手のひらのコネクタから弛緩性の魔力針を撃ちだして動きをとめ、ボックスの中に収納すした。
最近は魔力炉からの魔力放射で色々器用なことが出来るようになってきた。各世界の魔法の魔力利用を学んだ結果だ。
カニか。はやてさんの言っていたとおり鍋が良いかもしれない。
「なあカガリちゃん。カニって川で釣れるもんやったか?」
「ええ? まあそりゃあ川カニですし」
何か知識の齟齬でもあったのか、はやてさんは頭を捻っている。
それよりもカニだ。川に再びルアーを投げ入れながら、献立について考える。
アースラの医務室で読んだレシピ本にはカニ料理についても書かれていた。
「はやてさんの出身を考えるとやっぱりライスはあるといいですよね。最後にカニ雑炊なんて良いですかね」
「んー……あ、え、ああ、雑炊かあ。ええなあ。三人だけやとあれやから、オーリスさんや教会の人も誘いたいなあ」
「ではお昼にでも話してみますか」
再び釣り糸を垂れる。
お昼まではまだ時間がある。のんびりいこう。
竿から魔力経路経由で音楽を体の中に流しながら待ち続ける。
はやてさんも何か一匹釣ったようだ。嬉しそうにザフィーラさんの前で魚を見せびらかしている。
と、私にもまた来たようだ。
今までで一番強い引き。
少しずつ、辛抱強く、それでいて逃げられないうちに速く速く。
引きが弱くなった瞬間に水の中から引きずり出す。
「きたあーっ! マンボウ!」
『肝が珍味ー!』
「……いややっぱなんかおかしい!」
釣果を喜ぶ私とエグゼリカさんの横で、はやてさんが両手をあげて立ち上がった。
釣り竿が河原の上に転がる。
「何か変なところでも?」
「あたしの記憶ではマンボウは海の魚のはずなんやけど」
「異世界に来てまで何言っているんですかー。地方世界の常識は次元世界の非常識ですよ」
『あ、すごい。マンボウにエビクラゲくっついてるよ。これはちょっと食べられるか解らないねー』
「ここは異世界ここは異世界ここは異世界……」
はやてさんはなにやら考え込んでいる。
まあ地方世界出身の人は色々思うところがあるのだろう。
気にすることでもないと竿を振り、イリュージョンルアーを動かして待ち続ける。
そして、昼にそろそろ戻ろうかということころそれは来た。
「くーじーらーだーっ!」
「まてええええええええ!」
私の体の何倍もある川くじらがはやてさんの叫びと共に宙を舞った。
捨てるところが全くない水の王様のご登場だ。
これ一匹で私たちどころか教会の人達の晩ご飯もまかなえてしまえそうな勢いだ。
「どうみても川の深さと大きさが一致しないやろがー!」
『お取り込み中のところ申し訳ありませんがー。オーリスさんから通信だよー』
ボックスに入らないのでどうしようかと考えているところで、エグゼリカさんが通信を伝えてきた。
なんだろうか。
お昼までに戻らなかったらシスターヌエラが伝えに来てくれるはずだったのだが。
トリガーハートの通信機能を開き、空間に通信ウィンドウを投射する。
「はい、何でしょうか」
『仕事だ。聖王教会の施設が武装組織に制圧された』
また物騒な。
休日出勤はまだ終わっていなかったのだ。
『カガリと八神三等陸士、ザフィーラ三等空士は教会本部へ集合の後、教会騎士団と共に現場へ向かってもらう』
「中解同ですか?」
『いや、過激派環境保護団体の声明が先ほど出た。規模も中企戦ほどではない』
中解同が企業テロを始めてからというもの、こういった便乗テロが増えてレジアスおじさんが守り続けてきたミッドの治安が乱れ始めている。
ミッドの治安の悪さを象徴すると言われている廃棄都市区画だって全ておじさんが上へ登り詰める前にできたもので、おじさんが少将になってからは一つも出来ていないどころか廃棄を撤回できている地区もあるのだ。
そんなおじさんの娘さんであるオーリス姉さんも、しっかりと血を受け継いで士官としての実力を発揮している。
そう、姉さんは常に先を見越して行動を起こすのだ。
「……姉さん、これ起きるって知っていましたね? だから休みの私をわざわざこんなところへ」
『確信できなかったから君の馬鹿でかい武器は持ち込めなかったが……どうせ何か武装を持ち込んでいるんだろう?』
何も起きなければ遊びに連れてきてやったんだ、とでも言うつもりだったのだろうか。いやはや。
「無防備で撃ち落されれば誰だって学習しますよ。ご心配なく」
通信を切り、私とはやてさんとザフィーラさんの三人は、ボックスを抱えて教会へと飛んで戻った。
作戦指揮本部からのオペレーターさんの声が、現場へ向けて海上飛行を続ける私たちへと届く。
『北海海上プラントが自然保護団体リトルミッドと名乗る武装集団に占拠されました』
海上プラントか。聖王教会の資金源の一つなのだろう。
あの教会は、信者の寄付だけで運営していけるような生やさしい宗教団体ではない。
『各騎士、武装集団の強制排除。及び、プラント兼発着場を奪還してください。最優先攻撃目標を((海鳳|かいほう))と命名。詳細を調査中です』
飛行魔法を使える教会騎士が、私たちと同じ飛行速度で海上を飛翔している。
陸戦騎士は現地で召喚騎士が長距離転送で呼び出す手はずになっていた。
私はいつものシップがないので先行しないようにしていた。
速度を出そうと思えばまだまだ出せるが、今の装備で一人突撃するほど馬鹿ではない。
「それでよう飛べるなあカガリちゃん」
横を併走するはやてさんが、私の腰を指さしていった。
魔力の炎を吹き出して飛行を続ける白い装甲。複数のフレームが突きだし角のように尖ったこの装甲は、実は中身を空にした鮮度保持ボックスが変形した物だ。
ボックスは仮の姿であり、シップに使っている物と同じ変形性を持つ金属で作られている非常用の飛行機械なのだ。
変形しても質量が増えるわけではないので、見た目の装甲の大きさと比べて中身はすかすかなのだが、飛行だけではなく空間歪曲性の魔力障壁も展開できる。
「まあシグナムさんに撃ち落とされて色々思うところがありまして、やっつけ仕事ですが」
そして手に持つトリガーハート。
あるときは釣り竿、あるときは音楽プレイヤー、あるときは茶飲み話のお供、その正体はシップに搭載する補助兵装のアンカーショットなのだ。
どちらもシップに使われる精密チップを利用している一級品だ。
パイロットスーツは持ってきていないが、釣り用の白いベストを変形させて簡易装甲服として装着していた。
元々着ていた服は運動には向いているが戦闘に使えるほどではないので脱いでいる。
ベストの覆う範囲は水着程度しかないので素肌が露出してしまっているが、バリアジャケットのように全身に保護フィールドが張られている。
これだけあれば直接の魔力弾を撃てずとも、Bランク魔導師相当の働きはできる。
私たちはリンカーコアを捨てて次なる人類として進化した存在なのだ。
機械さえ伴えばそうそう一般の魔導師に劣ることは無い。
プラントへ到着し、騎士さん達が陣形を取り散開する。
私達の到着を受けて、プラントを占拠する環境保護団体から拡張音声での声が流れ始める。
『我々はー多世界の文化を侵し、時空管理局と癒着を続ける聖王教会に断固抗議するものであーる!』
騎士さん達は誰もそれを気にとめず、リトルミッドの戦車や装甲機械に向けて攻撃を開始した。
『聖王の教えなどと奇麗事をのたまい、その裏で利益を貪る偽善者どもに天罰を与えなければならなーい!』
リトルミッドの主張はなおも続く。
うざい。
超うざい。
教会だって生活のかかった人の集まる組織なんだから、営利活動もするし勢力拡大も目論む。
宗教活動でご飯を食べている以上、宗教団体だって立派な営利団体の一つだ。
企業の社会的責任と偽善をごちゃ混ぜにした青臭い主張は、聞いていてとにかくうざい。
中解同の嫉妬にまみれた利己的な主張のほうがはるかにましだ。
まとめて豚箱送りにして、識者の方々に報道の場で論破されていただくか。
「はやてさん、雑魚は騎士の方々に任せて、最優先攻撃目標を討ち取りに行きましょうか」
「そ、そらまた困難な道を選ぶなあ」
「何を言っているのですか。私はともかく実戦経験済みの夜天の王にその守護騎士が一人ですよ。楽勝です」
「うむ、主はやてよ。自分の力と私の力、信じると良い」
「そやなー。うん、確かにそうや」
「私は信じないで良いですからね。武器は釣り竿一本ですし」
『ただの釣り竿と一緒にしないでー!』
ああ、AI機能ONにしたままだった。良いか。今日は一日釣三昧だ。
はやてさんたちを連れてプラントの上空を飛翔する。
設置砲台が質量弾を撃ち出してくるが、全てザフィーラさんの防盾魔法の前に弾かれる。
ザフィーラさんに守られたはやてさんは、誘導魔法の矢で砲台一つ一つを的確に撃ち抜いていく。
ここは敵の拠点ではなく聖王教会の施設のため、派手な広域魔法を使うことが出来ない。
自然、騎士さん達のような近接攻撃かはやてさんのような誘導弾を使うことになる。
「((鋼の軛|はがねのくびき))!」
ザフィーラさんが魔法を唱えると無数の魔力の杭が地面から生え、プラントを疾走する魔法機械に突き刺さった。
攻撃と拘束を兼ね備えた魔法なのだろう、縫い止められた魔法機械の装甲が弾け飛んだ。
なるほど、地面を起点とした範囲魔法か。これなら施設を破壊することなく魔法を行使できる。
「私も行きますか。エグゼリカさん。アンカーショット戦闘形態」
『アンカーユニット「ディアフェンド」起動ー』
駆動音をたててトリガーハートが変形する。
リール部分が完全に内部に収納され、長い棒状の形から丸みを帯びた盾のような形へと変わる。
遊びの要素を一切省いた補助兵装としての姿だ。
右手を覆うようにして装着されたディアフェンドから、アンカーショットを射出する。
狙う先は、空を飛翔する小型爆撃機だ。
アンカーショットの先端が魔力障壁を貫通し、機体の装甲に食い込んだ。
魔力を送り込んで内部のシステムをダウンさせつつ、リールを巻き込んで引き寄せる。
そしてアフターバーナーから魔力の火を噴かせてはやてさんたちから離れ、小型機とアンカーでつながれたまま空中で回転を開始する。
砲丸投という陸上競技がある。
鉄の固まりに紐を付け、紐の先端を持って競技者自身が回転し遠心力を使って鉄の固まりを遠くへ放り投げるという種目だ。
これはその応用。
重力制御で空中に留まった私は、回転の力をもって小型機を宙へ向けて投げ飛ばした。
砲丸となった小型機は空を突き進み、高速で迫っていた中型機の装甲を貫いた。
キャプチャーとキャプチャー解除による投擲が、このトリガーハートの基本機能なのだ。
「投げ飛ばすパワーもすごいけど……よく手からエグゼリカさんすっぽ抜けんなあ」
「持ち方が重要ですから。手の平のコネクタでがっちりホールドです」
投げ飛ばすパワーと言っても、別に腕力で投げ飛ばしているわけではない。
確かに私は強化された生命だがそこまで非常識なパワーは出せない。
全て宇宙時代の重力制御と空間掌握の機械技術だ。
『EMERGENCY!! EMERGENCY!! 最優先攻撃目標「海鳳」を発見! 準備はよろしいですか!』
プラントから少し外れた海上、巨大な航空機が空に浮いていた。
作戦指揮本部から伝わる解析データには、極地戦略輸送攻撃機とある。
なるほど、あれが空母になってプラントを制圧したのか。
「でははやてさんザフィーラさん、思いっきり行きましょうか。相手は大きいのでどこを狙っても直撃ですよ」
「そやなー。大きいの一発いっとくか。ザフィーラ守りは任せたで」
「盾の守護獣にお任せあれ」
海鳳もこちらの接近を感知したのか、マイクロミサイルを次々と撃ち出してくる。
私は周囲を飛ぶ小型機をキャプチャーし、その機体の陰に隠れて誘導ミサイルをやり過ごす。
盾に使った小型機はそのまま海鳳へと投げ飛ばした。
アンカーショットによる投擲は、違う意味での質量兵器。装甲へと突撃しその巨体を確実に削っていく。
海鳳を支援するためなのか、小型機が少しずつ集まってきており投げる武器には事欠かない。
しかし、中解同の都市制圧テロほどではないが機体の数が多いものだ。
中解同と言いリトルアースと言い、いくら魔導師が少ないからってどうしてこうも莫大なお金がかかっていそうな巨大魔法機械を簡単に持ち出すのか。
自然保護団体とか言うなら、そのお金でももっとちゃんとした自然貢献が出来るだろうに。
ダライアス一族だってライセンス料を払われれば、テラフォーミング技術をちゃんと外部に提供する。
私は銃撃を回避しつつ、キャプチャーと投擲を繰り返す。
攻撃方法がこれしかないだけなのだが。
「遠き地にて、闇に沈め! デアボリック・エミッション!」
はやてさんの広域殲滅魔法が発動する。
巨大な魔力スフィアが海鳳の機体を包み込み、スフィア内の空間を破壊の魔力で埋め尽くした。
圧倒的破壊力の一撃に装甲が次々と砕け、海鳳は爆炎をあげながら海へ向かって落ちていく。
「あ、なんかちっこいのが出てきたで!」
爆発に紛れて、海鳳の中から中型の機体が飛び出してきた。
魔力反応からして海鳳の中枢ユニットだろう。
先ほどの反撃とばかりに砲門をこちらへと向けてくる。
だが。
「一本釣りー!」
アンカーショットをその機体へと撃ち出し、魔力障壁を貫通して装甲へアンカーを食い込ませる。
そしてそのまま、海中へ沈もうとする海鳳の巨体に向けて投げ飛ばした。
海上プラントの奪還は完了。
教会本部へ飛びながら、私たちはオーリス姉さんへ報告を行っていた。
犯罪者は休日など考えてくれないのは解るが、連日での戦闘行為は精神的な疲労が残る。
「疲れました。教会でゆっくりしたいですね」
『何を言っている。これから報告書だ』
「うえー」
今の悲鳴は私ではなくはやてさんのものだ。だが私もうえーと言いたくなる。
仕方がない、カードを切ろう。
「実はですね、私たち先ほど釣りをしていまして」
『ああ、それがどうかしたか』
「カニが釣れたんですよ。身の詰まっていそうな大きいのが」
『…………』
「そちらに戻ったらカニで晩ご飯のお料理でもしようかなーとはやてさんと話していたんですよね。カニ鍋、カニ雑炊、ついでに鯨のサシミ……」
『報告書はこちらでやっておこう。何、たいした労力ではない』
私とはやてさんはウィンドウに見えないように、二人で小さくガッツポーズをした。
ザフィーラさんはそれを見て一人あきれていた。
――――――
あとがき:アニメで言うところの本筋に関係ない日常回。旧タイトル『蟹飯を炊く時間はサービス残業に含まれますか?』、旧々タイトル『釣りバカ篝さん 〜マジカルガールズ・ダイナマイトフィッシング〜』。どちらもSTGに関係ありそうでもゲーム内容に直接関係ないのでそれらしい描写は添削されました。
ちなみに川釣り知識はアップルソースアングラーによるものです。釣ろうと思えば何だって釣れるんですよ川は。
用語解説
■まあそりゃあ川カニですし
川にもカニはいますが、タカアシガニは川カニではありません。
不思議空間ベルカ自治領。
SHOOTING TIPS
■アンカーショット
トリガーハートエグゼリカに登場する特徴的なシステム。敵を直接武器にすると言うアクションゲームにありそうな仕組みをSTGにもたらしました。
リリカルなのはのアニメStSでも同名の武装をティアナが使用。専ら移動手段として使っていましたが。
機体をキャプチャーできる性能があっても、ディストーションフィールドを貫通して過去へ逆行するほどの強度はきっとありません。
■持ち方が重要ですから。手の平のコネクタでがっちりホールドです
アーケードゲーム筐体のジョイスティックの持ち方は様々な持ち方がありますが、スティックの玉をワイングラスのように下から持ち上げるワイン持ちと、玉に手の平をかぶせるかぶせ持ちの二種類がメジャーです。
正確なコマンド入力よりも精密移動が重要なシューティングでは、手の平での細かいスティック操作が可能なかぶせ持ちが一般的です。
もちろん、かぶせ持ちではない持ち方のハイレベルプレイヤーも存在します。
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