【黒子のバスケ】図書室にて【二次創作】
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 黒子テツヤは本が好きである。

 国語が得意と言うわけでもないが、いろいろな小説を読むことが好きだった。中学時代は昼休みの間は図書室に入りびたり、ほとんどの蔵書を読んだこともある。その時も、存在が薄くて人に驚かれたり挙句の果てには幽霊扱いされていたものだ。だが、それでも。図書室の静かさは好きだった。真の静けさじゃない、かすかに人の気配がところどころでざわついている。静かになりきれない空間が、黒子にとってとても心地よかった。

 人になかなか気づかれはしないが、人間観察するのが好きだからなのか、逆に人の中にいるのが心地よいから自然と観察眼がついたのか。どちらが先かは分からないが、今の自分を形作っているのは間違いない。

 

「何を読んでるの?」

 

 急に目の前に女の子が現れたかと思うと、話しかけてきた。多少驚きはしたが、そういうこともあるんだろうと黒子は平然と問いに答える。

 

「ライトノベルです。いろんなアニメや小説、漫画のパロディが詰まっているようで。半分以上は分かりませんが、上手く使われてるんだろうなと分かる秀逸な小説ですよ」

 

 黒子は綺麗な女の子の絵が描かれている表紙を、目の前の女子に見せた。

 その時初めて顔を見る。知っている女子のような、そうじゃないような不思議な感覚だったが、そういうこともあるのだろうと黒子は気にしない。

 女子生徒は首かしげて黒子の小説を見る。手にとってパラパラとめくり、くすりと笑った。

 

「この台詞知ってる。知ってる。好きなアニメの台詞だよ。こういう風に使われるんだ」

「どういう風に原作は使っているんですか?」

「シリアスな場面で凄くかっこいいんだけれど、シチュエーションが変わるとここまで面白くなるんだね。楽しい使い方だね」

 

 女子生徒はそれからペラペラと話し続ける。黒子はふと周りを見たが、自分達以外誰もいない。図書委員が遠くで本棚の整理をしているくらいだ。これならば多少うるさくなってもいいだろう。それほどまでに女子生徒の言葉には熱が帯びている。やがてテンションが上がりかけたところで黒子は制した。

 

「すみません。図書室なんで静かにしてください」

「あ、ごめんなさい」

 

 シュン、と落ち込んだ姿が何か小動物のようで黒子は少しおかしく思う。ころころと変わる表情は見ていて飽きなかったが、小説の続きに目を通し始めた。

 

「黒子君って、面白いよね」

「何がですか?」

 

 目線で文章を追って内容を頭に入れつつ、会話は続ける。読んでいる小説の内容が簡単なだけに出来ることだ。

 

「黒子君って純文学って感じなのに。太宰治とか、夏目漱石とか。ライトノベルとか読む雰囲気じゃない」

「僕は小説が好きなので、基本選びませんよ?」

「それでも、内容がなさそうじゃない。こういうの」

「そんなことはありませんよ?」

 

 会話のうちに章の区切りまで読んだため、栞を挟みこんで閉じる。視線を相手の目に合わせて、一つ一つ言葉を丁寧に伝えるために。

 

「確かに文学性はないですけど。読んでいるととても楽しい気分になれます。僕はまだ高校に入ったばかりで、人生経験なんてほとんどありませんが、生きてると辛いことや考えないといけないことなど、たくさんあります。昔の純文学作品を読んで思案にふけるのも良いと思いますが、からっぽにして楽しむのも良いと思いますよ」

 

 黒子は特に強い意志で伝えているわけではない。自分の意見などたくさんいる人間のうちの一意見。正しいと思えることでもないし、他の意見もたくさんあるだろう。それでも、自分が中学から高校にかけて体験したことを思い起こし、女子生徒へと伝えた。どう感じるかは、それぞれだろう。

 自分は、中学時代、バスケが好きだった。好きだったが実力が無かったために挫折しかけた。

 その中で青峰や赤司に力を見出されて「キセキの世代」のシックスマンとして活躍できた。

 そして、五人の覚醒と共に捨てられた自分。一人ひとりが点を取るだけのバスケ。自分の出番など無く、常勝と言われる中でバスケが嫌いになっていった。嫌いになりたくない、大好きだったものが嫌いになる。引き裂かれる心にいろいろと考えた。どうすればこの想いから開放されるのか。

 悩みの日々の中で、たまにからっぽにして楽しむのもいいだろう。

 別に理解されなくてもいい。ただ、どんなものも肯定されるべきなのだ。

 

「そうか。そうだよね」

 

 その言葉が耳に入ったところで、気づけば姿が消えていた。

 自分のようにミスディレクションを使ったのだろうか。そうだとしたら自分にも気づかせないなんて、たいしたものだと黒子は思った。

 

(そうじゃないとすれば、幽霊か)

 

 幽霊という単語だけには怖さは感じない。

 少なくとも、小説について語り合うような幽霊ならば静かだし、歓迎するかもしれない。

 一体どちらかなのか、それを解き明かすのも無粋だろうと、黒子は小説を持って立ち上がる。時刻は午後五時。いつもより少し遅い、部活の始まりまでもう少しだ。

 

「また、会えたら会いましょう」

 

 ここにいるのか。いないのか。

 分からない少女に一言告げて、黒子は図書室を後にした。

 

 ――どんなものも、肯定されるべきなのだ。

 

 

 それからしばらく、図書室に男女ペアの幽霊が出るという噂が流れた。

 男も女も、その正体は知られていない。

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