ヒューゴとマーカス 1
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―マーカスの庭にて―

 

 

 

 

 いつものごとく、三月ウサギのマーカスと帽子屋のヒューゴはお茶会をする。

 

 繰り返し繰り返し、飽きもせず、仕事もせず。

 彼らの会話はいつでも唐突に始まり唐突に終わる。

 ある晴れた日も、いかれた二人のいかれた会話が始まった。

 

 これはヒューゴが角砂糖を積み上げるのに熱中していたときのこと。

 

 

 **********

 

 

「ああ、なんてことだ。もう積み上げる角砂糖がない」

 

「ねえヒューゴ」

 

「何だいマーカス。角砂糖タワーより面白い話でもあるのかい」

 

「三月ウサギがなんでイカれてるか知ってるかい?」

 

「知らないけど、きみは知ってるんだろう」

 

「僕も昨日、わたりがらすから聞いたのさ」

 

「で、どんな理由だったんだ?」

 

「それはねえ、3月が兎の発情期だからだよぉ」

 

「‥‥‥じゃあきみ、一年中発情してるのかい?」

 

「人間と同じ程度さ。なのにイカれてるのはなんでだろう」

 

「もしかして実はきみ、イカれてないのかもしれない」

 

「本当かい!困るなぁ」

 

「正気になんかなったら、毎日茶会ができないな」

 

「そのとおりだよ、ヒューゴ!オレ正気になりたくない!」

 

「よし、じゃあ試してみよう!イカレてないかどうか」

 

「どうやってだい?」

 

「そうだ、数学だ!物理だ!えーと、じゃあ問題。これ解いてみて!」

 

「なんだいこれは」

 

「今ぱっと考えた問題」

 

「ヒューゴ!解いたよ、ちゃんと外れてるかい?」

 

「‥‥‥マーカス、大変だ!当たってる!」

 

「なんだって、じゃあオレはもうイカレてないのか!?そんなの嫌だ!」

 

「一問で決めるのはまだ早いよマーカス!今度はなぞなぞだ!」

 

「よおし、ドンと来い!」

 

「帽子屋がイカレてるのはなーんでだ!」

 

「いつも頭をしめつけているから!」

 

「はずれ!」

 

「やったーああ!!オレはまだクレイジーだ!」

 

「やったー!」

 

「‥ところで何でだ?」

 

「昔、帽子をつくるのには水銀を使ってたからさ」

 

「‥‥今は?」

 

「使ってないね」

 

「じゃあ、ヒューゴきみ、全然マッドハッターじゃないじゃないか!!」

 

「‥‥‥あああ!!そういえば、水銀なんてついぞ使ったこと無いぞ!!」

 

「なんてこった!!」

 

「あ、でも今朝、左右色の違う靴下を履いたぞ!」

 

「それはただのウッカリさんだ」

 

「それと‥それと‥昨日、紅茶にバターを入れた」

 

「‥‥何だって?」

 

「ああ、バターだよ、マーカス!」

 

「そいつは‥‥‥‥クレイジーだ!紅茶にバターなんて入れて飲めるやつはクレイジーだ!」

 

「良かった、今日も僕らはクレイジーだった!」

 

「これで明日もお茶会ができる!」

 

「僕らがイカレてたお祝いに!」

 

「ところでヒューゴ、そろそろ帽子を売らなくていいのかい?」

 

「‥‥‥」

 

「‥‥‥」

 

「現実に引き戻さないでくれないかい?オルコット君」

 

「僕も靴をつくらなくちゃいけないんでね、ウォリス」

 

 

 

 

  ********

 

 

 

 ヒューゴは帽子屋、マーカスは靴屋。

 またいかれたお茶会を開くために、まともなお客にまともな物を売る。

 

 帽子と靴を作って売らなきゃ、茶葉ひとつまみも買えやしない。

 そしてたまの休みどきには、お茶やお菓子をテーブルに並べて、いかれた会話をする日々だ。

 遊ぶためには金が要る。金が欲しけりゃ遊んでられない。

 天邪鬼な二人でも、この世の真理にゃ逆らえぬ。

 

 ――ああ全く、いかれるってのも楽じゃない!

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