真恋姫無双 天遣三雄録 第二十七話 |
始めに、主人公を始めとした登場人物の性格にズレがあるかもしれません。
なお、オリキャラ等の出演もあります。
そういうものだと納得できる方のみ、ご観覧ください。
第28話 待ち受けるは最強。ですかね? by于吉
虎牢関攻略を控えた、ある日の夜。
俺は鈴々と二人きりで、天幕の中にいた。
二人の姿を照らす蝋燭の光が、ゆらゆらと怪しく揺れている。
「にゃ、にゃ〜。いっ、痛いのだ。お兄、、ちゃん」
「我慢しろ。すぐに、よくなるからさ」
「う、嘘なのだ。そういって、うっ、前した時、にゃああ!、痛いままだったのだ」
「俺が下手くそみたいに言うなよ。鈴々のが狭すぎるんだよ。なかなか広がらないしな」
「ひ、広がるなんて、、怖いのだ、、」
怯える鈴々の涙を指の腹で拭いながら、容赦なく掘っていく。
動こうとする頭を、手で押さえつけると鈴々は余計に涙をこぼす。
思わず焦る感情を抑えつけて、出来る限りゆっくりと優しく繰り返す。段々、出てきた。
「んっ、そろそろ終わりだ。もう少し頑張れるか?」
「う、うん。鈴々、お兄ちゃんの為なら、幾らでも頑張れるのだ」
目尻に涙を溜めながら笑顔でそう言う鈴々の顔を見て、思わず赤面する。
「子供の癖に、そんなことを言うなんて、生意気な奴め。お仕置きが必要か?」
「にゃ?にゃーーーー!?」
耳に息を吹きかける。鈴々は奇声を上げながら、体を痙攣させる。
邪魔な物を排除させようとしただけなのに、予想外の効果だ。思わぬ利を得た俺は、力の抜けたその体の奥に一気に、、
「何やってるの!?今の声は何!?鈴々ちゃん!?」
行こうとしたら天幕の中にいきなり桃香が飛び込んできた。
なんて空気の読めない奴なんだ。俺は舌打ちをしながら、布団で俺と鈴々ちゃんの体を隠す。
「ちっ、」
「にゃあ?」
「へっ?」
何とも言ない沈黙が天幕の中に流れた。
「、、、、、、あの、これ、おかしくありませんか?」
「何がだ?」
「えっ、だって、どうして北郷さんはそんなに必死になって自分の体と鈴々ちゃんを隠しているんですか?」
「そりゃ、隠さなきゃいけない理由があるからだろ」
何を当たり前なことを聞いているんだ。
「えっ、えーー!話が違うじゃないですか!此処は普通、お約束通りに卑猥な感じに聞こえるけど、実は耳掃除をしているだけでした♪私は可愛く赤面。てへっ♪みたいな感じになるんじゃないの!」
どんなお約束だよ。
それと自分で自分を可愛いとか言うな。
「そんなことより桃香」
「そんなことよりもどんなことよりもないよ!今起きてるこのすれ違い以上に重要なことなんてこの世に無いもん!答えてよ!二人は何をやってたの!?」
言いきるなよ。重要なことなんて幾らでもあるだろ。
もし、今が2012年12月21日なら今この瞬間にも世界が崩壊するかも知んないんだぞ?
「り、鈴々からは恥ずかしくて言えないのだ、、、、」
布団から顔を出した鈴々が恥ずかしそうにそう言うと、桃香は落雷でも受けたように体をぶるぶると痙攣させる。
なんか、こえ―な。昔見た、悪魔崇拝者の映画で悪魔が乗り移ったエクソシストがあんな感じに痙攣していた気がする。
「う、う、嘘だよね!鈴々ちゃん!お姉ちゃんはお姉ちゃんなのに妹に先を越されたりしないもんね!」
「お姉ちゃん。出会いとは一期一会なものなのだ」
「なんか鈴々ちゃんに諭された!?う、うう。うわーん!私だって、北郷さん狙ってたのに!鈴々ちゃんに略奪されたぁー!愛紗ちゃんに言い付けてやるんだから!」
「ちょ、まっ、待て桃香!それはほんとに洒落にならない!」
「五月蠅い!北郷さんの変態!少女愛好者!同性愛者!」
「待てやコラ!たとえ前の二つは認めたとしても、最後の一つは認めねーぞ!」
俺がゲイじゃねえ!
そう叫び終わる前に、桃香は泣きながら天幕の外へと走り出して行ってしまった。
、、、、まずくね?あれで本当に桃香が愛紗の所に行ったら、俺、殺されるんじゃないかな?
「はぁ」
思わずため息をつきながら、思い付きで布団の中に隠した耳かきを見つめる。
「なあ、鈴々。お前は天然か?それとも、わざとなのか?」
「にゃ?何を言ってるのだ?お兄ちゃん」
首を傾げならが顔を見上げる鈴々を見て、再びため息をつく。
すこし、無防備すぎるだろこの子。
天幕に来ないか?って言ったら、ほいほい着いてくるし。
何の疑問も持たずに寝具の上に乗るし。
されるがままに耳掃除をされても何にも云わないし。
しかも、それが何度もだしな〜。
「いい加減、襲うぞ?」
「にゃ?お兄ちゃん。なんか、鈴々のお尻に固いのが当たってるのだ。布団の中に何か入ってるのかー?」
「見なくていいぞ。気にもするな。俺はまだ、愛紗に殺されたくない」
鈴々を持ち上げ、布団から下ろしながらそう言う。
「変なお兄ちゃんなのだ」
笑顔でそういう鈴々を見て、このまま何時まで理性が持つか挑戦してみるのも面白そうだな〜。
とか思ったりしていた。
そして、一刀たちは気づいていなかった。
天幕の中で起きた慌ただしい騒動を聞いていた者がいたことを。
黒い髪に額当て、手甲足甲を装備して背に長い刀を背負った中華版忍者みたいな少女。
お猫様崇拝者こと周泰は、孫策様より受け取った手紙を握りしめて、トボトボと孫策軍の陣に引き返していました。
「む、どうしたじゃ。幼平。そのような落ち込んだ顔をして。いつもの元気がないのぉ」
前から現れた祭様は私の顔を見て、心配そうにしてくれます。
「はぅわ。祭様、、」
「なにかあったのか?」
「はい。実は、雪蓮様からこの手紙を北郷軍君主に届けるように言われたのですが、、、私には、出来なかったのです。私は、臣下失格です」
思わず涙が零れて、膝を抱えて地面に座り込んでしまいました。
すると、祭様はしゃがみこんで私の背を優しく撫でてくださいました。
普段は、少しいい加減な方ですが、祭様は本当はとても優しい方なのです。
「よしよし、そう落ち込むでない。誰にだって失敗はある。だから、くよくよせずいつものように笑っておれ。幼平の泣き顔など見ていては、儂まで調子がくるってしまうわ」
「ぐすっ、はい。祭様」
私は掌で涙をぬぐって、立ち上がりました。
祭様は頭を撫でていてくれて、段々元気が出てきます。
「しかし、幼平が手紙を渡すことに失敗するとはのぉ。一体、どうしたのじゃ?北郷軍の陣は近づけぬほどに警備が厳し過ぎたのか?」
私は、祭様に見て聞いたことを話していきました。
「いえ、近づくことは簡単にできました。北郷軍君主、北郷様の天幕まで辿り着き、取りあえず天井に隠れたまではよかったのですが、、」
「ふむ、幼平。お主は何も密偵に行ったのではないのだから、なにも隠れなどせずに堂々と面会を申し出れば良かったのではないか?」
「はぅ、、そうなのです。しかし、いつもの癖でつい、暗くて誰もいないジメジメした場所に行きたくなってしまうのです」
「難儀な職業病じゃの」
祭様は少し呆れながらそう言います。
私としても、この癖は速く直さなければと思っていたので、祭様の言葉に少し落ち込みました。
「それからどうしたのじゃ?君主の天幕に忍びこめたのなら、手紙は直接渡すなり置いてくるなりできただろう?」
「はい、それが、、、天幕の中には、北郷様の他に、劉備様、張飛さんがいたのです」
「まあ、あの二軍は先の水関を協力して落とした仲だしの。そう、おかしいという訳でもあるまい」
「そこであった会話が問題だったのです」
私は意を決して、天幕内で話されていた会話を祭様に伝えていきます。
経験豊富な祭様のことです。きっと、どうすればよかったのか教えてくれる筈なのです。
「『お仕置きが必要か?』と北郷様が言って、『恥ずかしくて言えない』と張飛さんが言って、『妹に先を越された』と『略奪された』と劉備様が泣いていてたのです」
「、、、、、、、」
私は頭を抱えながら言う。
「総合すると、北郷様と劉備様と張飛さんは“”ドロドロの三角関係“”みたいなのです。私、それを聞いてもう、どうすればいいのかわからなくなってしまって。声もかけられずに帰ってきてしまいました」
ただでさえ恋愛に疎い私なのに、三角関係の上、姉妹同士の略奪愛なんて、刺激が強すぎました。
経験豊富な祭様も、流石に困惑した様子で固まっておられます。
「祭様!私は、どうすればよかったのでしょうか!」
「う、うむ。どうすればと言うてものぉ。少し、幼平には早すぎた任務だったようじゃ。策殿の手紙は儂の方から北郷軍に渡しておくから、幼平は少し休んでおれ」
「はぅわ、、わかりました。よろしくお願いします」
「それと、くれぐれもこのことは内密にせよ。わかったな?」
「はい。了解しました」
私は祭様に手紙を預け、自分の天幕へと戻っていきました。
しかし、そこには笑顔の雪蓮様がいらっしゃって、
「なんか、面白そうな匂いがするわよ。明命♪」
「なななな、何のことでしょうか!」
「ふふふ、」
「、、、はうぅ」
根掘り葉掘り喋らされてしまいました。
「と、いうことがあったのを知られているのを知ったから、北郷がこの軍議に出ていないのではないのだな?」
「違いますよ。と言うより、そんなことは初めて聞きました。はぁ、一刀君、貴方はいったい何がしたいのですか」
私は思わずため息をつきます。
別段、女の子と何をナニをするなと言う訳ではありませんが、するならするでもう少し周りに気を使って貰いたいものです。
それにしても、簡単に天幕内にまで忍び込まれるとは、一刀君の出した警備方針。
『可愛い子がいたら基本放置』は、見直す必要がありそうですね。
「では、何故。北郷軍の君主はこの場には来ていない」
「一刀君曰く、『最近、真面目にやり過ぎてるからふざけてくる。真面目は嫌いだ』。だ、そうです。今頃は、何処かではっちゃけているのでしょう」
「そうか、お主も大変だな」
「ええ、まあ。どころで、そういう貴方の主の姿も見えないようですが。孫策殿はどうしたのですか?」
「ウチのも、、同じようなものだ」
「そうですか、お互いに大変ですね」
「ああ、そうだな」
「「はぁ」」
私と周瑜は、ほぼ同時にため息をつきました。
傍から見ると、息があっているように見えるのでしょうか?
まあ、どうでもいいことですが。
「話が逸れました。どうぞ、周瑜殿、続けてください」
「ああ、集まってもらった貴殿らも同じだとは思うが。私は、袁招軍と袁術軍が虎牢関を落とすのは、無理だと考えている。だからこそ、此処は手を取り合うのも一計だと思わないか?」
周瑜の言葉に、この天幕に集められた諸候達。(と言っても二人しかいませんが)
華琳さん、馬超は無言の肯定を返して行きます。
まあ、当然と言えるでしょう。
水関での袁招軍と袁術軍の失態を見ては、ね。
味方に巻き込まれて兵士を失うなど、無様としかいいようがありません。
「確かに、麗羽たちでは虎牢関は落とせないでしょうね。だから、周瑜、貴方の言う通り、協力し合うのも悪くないわね。しかし、条件しだいよ。周瑜、私たちに何をさせる気なのかしら?いえ、私たちを何に利用するきなのかしら?」
華琳さんは相変わらずの加虐的な笑みでそう言います。変わっていませんね。
周瑜もまた、笑いながら返すようです。
「なに、少しばかり、“”最強“”を倒す手伝いをして貰いたいだけだ。貴殿の軍にいる魏武の大剣も“”最強“”を名乗るもの。軽かろう?」
その言葉に、華琳さんの後ろにいた春蘭さんは大きく体を揺らします。
隣にいた秋蘭さんが宥めて事なきを得たようですが、なるほど、空気が悪い。
馬超や馬岱は早々にリタイヤしたいのでしょう。うずうずとしています。
軍師同士、ないし、別々の軍同士の掛け合いと言うのは此処まで居心地の悪い物でしたか。
これは、一刀君が逃げ出したがるのもわかりますね。
「そう、“”最強“”を倒すね。まあ、かの武人の武勇伝は聞き及んでいるし、それが事実だというのなら、確かに一軍で対処できる相手だとは思えないわ」
「それについては私も同じだな。董卓軍にその人あり、“”大陸最強“”と名高い飛将軍呂布。母上も、私たちを此処に送る前に呂布にだけは気を付けろといっていた」
「そうだ。虎牢関は、その“”最強“”を倒さねば落とせないだろう。だからこそ、我々は“”最強を倒す間だけ“”協力し合おうじゃないか」
「良いわね。私は乗るわよ。せいぜい、頑張って頂戴ね。貴方たち。ふふふ」
「そうか。馬超殿はどうする?」
「ああ、倒した後は早い者勝ちってことだろ?わかりやすいし、良いんじゃないのか?」
ふむ、見た限りでは馬超は左慈と同じタイプかと思いましたが、違うようですね。
人は見た目では分からない物です。私もまだまだですね。
「(お姉様。早く帰りたくて、適当なこと言ってるでしょ?)」
「(五月蠅い。良いから話しあわせとけよ、蒲公英)」
「(ぶー、掛け合いの意味を教えてあげたの私なのに)」
なにやら、馬超と馬岱がひそひそ話していますが、何かあったのでしょうか?
「で、北郷軍師殿はどうなさるか」
「私は、、、いえ、我が軍は手を引かせていただきましょう」
一刀君ならいざ知らず、私は“”最強“”に自分から挑もうと思えるほど、強気にはなりません。
立ち上がって、天幕から出て行くことにします。協力もしない軍の軍師が、いても邪魔なだけでしょうし。
「いいのかしら?この場に一刀がいれば、二言で返事をしたと思うのだけれど」
「私は一刀君ではありませんし、例え後で何を言われようとも、それはこの場を私に任せた一刀君の責任でしょう」
「そう、、、、この策に乗らないのは、私と一刀を会わせたくないからかしら?」
「弱気は、似合いませんよ。華琳さん。言っておきますが、いまだに一刀君は貴方に惚れていますよ。長安に着いてから、あの一刀君がただの一度も人肌を感じながら寝ていないほどに、ぞっこんです」
「えっ?」
こんなことを言うと、一刀君に怒られてしまいますね。
私は、苦笑しながら天幕を後にしました。
夜空を見上げて、一心地付きます。
普段ならば、すぐに陣に帰って一刀君や左慈、仲君の傍にいるのですが、今日は余りそんな気分じゃありません。
一刀君は何やら劉備さんたちと忙しいそうですし。
左慈は華雄との戦い以来、少し落ち込んでいるようです。ああ見えて、左慈は以外に討たれ弱いですからね、それが“”友達“”(ここ重要です)となると特に。
仲君は久しぶりあった幼馴染がいますし、楽しそうでなによりです。
三者三様、することがあるというのなら、個人の時間に割って入るのは不粋と言うものでしょう。
兵糧や兵の統率は裏軍議来る前に盧植先生に頼んできましたし、もう少し、ゆっくりしていくとしましょうか。
「そこにいるのは、北郷軍の軍師殿ではありませんか」
「そう言う貴方は、孫策軍が周瑜殿ではありませんか」
振り返れば、微妙な笑みを作る周瑜がいましたので、私も微笑で返しました。
そんなに長い時間、夜空を見上げていたつもりはありませんが、裏軍議はもう終わったようですね。
「こんなところで、何をしている?」
「男の子には、意味も無く一人になりたい時があるのです。女性の方にはわからないでしょうがね」
「その言い方は不快だ。私たちにも、孤独を楽しむ矜持くらいはある」
「そうでしたか」
それは、意外でしたね。
女なんて、集まって喋っていなければ呼吸が出来ないサメ程度だと認知していたのですが、これは、考えを改める必要がありそうです。
「それで、一人でいたい貴殿は、私が話を振ることに不快を覚えになるか?」
「不快が無い程度なら、構いません」
「ならば気を付けながら喋るとしよう」
不快を感じるかと問われて、不快が感じない程度ならと答えた。
ふむ、普通の女性ならこの言葉で私に対して距離を取るようになるのですが、おかしいですね。
「何故、貴殿は私の話に乗らなかった?水関で功を得ていても、虎牢関で重ねることに不服はあるまい」
「問いを問いで返すのは、無礼にあたりますから答えた後に質問しますね。答えなんてありませんよ。何故、そんなことを聞くのです?」
「礼を受けたのだ、返さねばな。雪蓮の勘が外れたのは初めてだったからだ。そして、答えが無いというのは答えではあるまい」
答えなど無いと答える私と、意味の不明な答えを答える周瑜。
ふっ、左慈や一刀君とは出来ないこういう掛け合い混じりの話も、なかなかに楽しいものですね。
「答えは無いと言ったが、しいて言うのなら、何故だ?」
「しいて言わねばならないのですか?」
「貴殿には無理か?」
「いえ、言いましょう」
貴殿には無理か?ならば、自分は出来るというこという意味でしょう。
ならば、答えない訳にはいかない。周瑜との会話は頭を使いますね。
「疑うことが、軍師の仕事だから。でしょうか」
「つまりは、“”最強“”を倒せるという我らを信じられなかったか」
「ええ、『現実を疑え、幻想を疑え、傍らに佇む友をも疑え。しかして、敵は信じよ。戦場において、敵の力のみが疑いようもない真実である』。私は呂布の武を信じ、貴方がたの和を信じられなかった」
呂布と対するのなら、秋蘭さんに春蘭さん、それから季衣さんと三羽鳥でやっと互角程度でしょう。
孫策軍の将、馬超軍の将がそれに加わったとしても、勝てるかどうかわかりません。
信じられない物に賭けようと思えませんし、巻き込まれたくも無い。
死ぬのなら、貴方がたで勝手にお亡くなりになって欲しいものです。
「なるほど、的を射た言葉だな。貴殿の考えた言葉か?」
「いえ、天の国の何処かの誰かの言葉ですよ」
「ふむ、そうか。しかしな、慎重になるすぎるのも考えものだろう。その言葉に依存しすぎるのは、感心できないな」
「そうですか?」
「酒も過ぎれば病となるように、何事も、行き過ぎればろくなことがあるまい。『行き過ぎた好奇心は猫を殺し、寂しさは兎を殺し、臆病さは虎を殺す』」
「正論ですね」
「だろう」
互いに自分以外には聞こえないほどの笑い声で笑います。
異様に頭を使う周瑜との会話。この倦怠感が、何ともいえず肌に合い、心地いい。
しかし、そろそろ左慈の顔が恋しくなってきました。
お開きにしましょうか、周瑜もそれを望んでいるでしょう。
「では、私はこれで」
「ああ、さらばだ」
短すぎる別れの言葉ですが、別の軍の軍師同士ですし、これぐらいがちょうどいいのでしょう。
「ああ、最後に一つだけ。いいか?」
「何でしょう?」
「私の策が外れるというなら。どうすれば、呂布を倒せる?」
あの呂布を倒す方法ですか、一つだけ、策はありませね。
「、、、一刀君を囮にすれば、あるいは、でしょうか?」
「自軍の君主を囮か。その後は謀反でも、企てるきか?」
「まさか、ただ、」
「だた?」
「いえ、何でもありません」
長話が過ぎましたね。もう、帰りましょう。
ああ、左慈はまだ落ち込んでいるのでしょうか。そうだというなら、私が慰めてあげなくては。
「ふっ、まあ、いいさ」
――ただ、私の策を無視して華雄と戦った左慈や、無理だとわかっていて張遼と戦った一刀君を見て、私も、天下を得てみたくなっただけですよ。どんな、手を使ってでもね――
周瑜、貴方なら言わずともこれくらいは察しが付いているのでしょう。
いえ、買いかぶり過ぎでしょうか?まあ、別にどちらでもいいですけどね。
私は、私の居場所に帰ります。
どんな手を使ってでも、三人で天下を得る為に。
囮にした一刀君を、生き残らせる策を考えながら。
周瑜が孫策軍の陣に付くと、待っていのだろう。孫策が後ろから飛びついて来た。
「お疲れ様♪それで、どうだったのかしら?冥琳」
「曹操と馬超からは約束を取り付けたよ。しかし、北郷軍には断られた。初めてお前の勘が外れたな。雪蓮」
「うーん。おかしいわね。北郷一刀なら、絶対に乗ってくると思ったんだけど。話し合いに出てたのは、本人だった?」
「いや、軍師だったよ」
「なら、しょうがないか。で、どんな奴だった?天の御使いの軍師様は」
周瑜は笑いながらいう。
「わけが分からないな。まるで水のように実態がつかめなかった」
「水のよう、ね」
「ああ、飲みたい思えば、凍り固くなり。見たいと思えば、気化して姿を消す。わけがわからない。なにせ、勝利の為なら自分の君主すら囮にするというのだから」
「へぇ〜、面白そうな軍師ね。天の御使いと一緒に、引き込めないかしら?」
「止めておけ。あれは天才、奇才、などという言葉では表せない。扱いを間違えれば全てを道ずれに自滅する厄災だ。妙薬にもなり、猛毒にもなる。さしずめ、変動する才。変才と言ったところか」
「変態?」
「殴るぞ、雪蓮」
「ごめんごめん」
笑顔で謝る孫策に、周瑜はため息をつきながら上げた手を下ろす。
「でも、馬鹿にされて怒るくらいお気に入りなのかしら?その于吉とかいう男。嫉妬しちゃうな〜」
「ふっ、まあ、私との会話に、知で張り合える男は初めてだったな」
「ありゃりゃ、否定しないの?ぶーぶー、」
「ふふ、」
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