GROW4 第八章 真の力 |
1
審判の合図とともに始まった試合。
今回のバトルフィールドは、神殿の上空を模したような殺風景な場所。端っこに家みたいなのが
ポツンと佇んでいる。150mの円柱状の上にあると想定された神殿の周りは奈落の底になってお
り、落ちたら帰って来れそうにない・・・
「何もないところでござるな・・・」
あたりをきょろきょろ見る林道。忍者服の仕様で口元が隠れているためどんな表情までは知り得
ない。
「忍者にはこの殺風景な場所は不利だったのかな?」
「何を申す。これは対一の勝負・・・
隠れる意味はあるまいて・・・」
松さんのいつもの挑発には乗らないところを見ると、何事にも動じないタイプのように見える。
林道は動こうとはしない。松さんの動きを観察しているだけだ。
「ふーん、こちらの出方を見る、と・・・
いいけど真の女神(メゴルディテック・ヴィーナス)が目覚める前には動くことを勧めちゃいます。あなたの勝機も正気も0になるからね♪」
「ほう。げに面白き冗談よ・・・」
「真の女神?わたしと戦った時のあれは女神モードだったよね?更に上の段階があるのかい?」
「お前は松の“真”の強さを知らないから平気でいられるんだ・・・
予選で見せたのはあくまでお試しモード。いわゆる初心者と戦うようなぬるいモードさ・・・
じゃなきゃ松がお前にあそこまで苦戦なんかしない。そして・・・」
「そして?」
「そしてその真の女神が復活しかかっている。松の奴“あれ”を使う気なんだ・・・」
「あれ、だって・・・?」
「林道さん、気を付けてね。本気で逃げないとマジで死んじゃうから^^
女神モード発動、破壊の絶対女帝(ガドレルブドログランゼレフ・ヴァルグドラド・カタストロ
フェー)・・・」
ボッ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「服が、変わってゆくでござる。あれは・・・」
松さんの服が、普段のトレーナーから巫女装束へと変化する。しかしただの巫女ではない・・・
肩と袖に計四か所の黒鬼門が象(かたど)られ、禍々しく黒い妖気を発している。背中には
“闇”と丸で囲まれた印が。その周りを取り囲むかのように、黒い縫い目が腰まで縫われている。
袴は何代にも渡って使い古されたかのように綻びが見られる。巫女服なのに全身光を吸収するか
のような漆黒色に彩られ、見る者に不安と恐怖を誘っているかのようだ・・・
その姿は良くも女神とはとても言い難い。
ギラッッ
「怖い怖い。それが真の女神でござるか。なるほど、義堂氏(ぎどううじ)が変化したものか
起源でござるな・・・」
「ちょっと違うよ。わたしのこの服装はあくまで趣味。そして真に潜む女神の隠すカモフラージュ
と言ったところ・・・
あんな無能者共といっしょにされたら困っちゃう^^」
「むむ?まさか、まさか・・・」
何かに気づき数歩後ずさる林道。滴り落ちる汗がフィールドに数滴落ちる。
「気づいたみたいね。でももう遅い・・・
模倣(もほう)、簪(かんざし)!!」
シュババッ
ギギギギギギィィィン
「猛毒入りの簪でござるな・・・」
煙の流るるがごとく静かに接近したかと思うと、胸に着けていた鎖の装飾を1つはずす松さん。
それは瞬時に簪へと変化して攻撃に転じる。一瞬の接近と攻撃への流れを事前に察知し、すべて
受けきった林道のほうも、かなりの達人級の腕前と言えるだろう・・・
「今のを避けるなんて驚いたよー。ふつう接近にすら気づけないのにね・・・」
「拙者には、そのような小手先だけの攻撃など動じるに値せんでござる。しかし、その真に怖ろしき力が目がめる前に摘むべきだったでござろうな・・・」
「いろいろと知ってるみたいね、忍者さん。こちらとしても本気でいかないと失礼だね・・・
女神真刀(めがみしんとう)、紅姫(くれないひめ)・・・」
ゾゾゾゾッッ
「なんと、伝説の紅姫でとは。美しき見かけとは裏腹に、切り捨てた人間の返り血でどす黒い紅
(あか)に染まったその禁辞刀は、当時国を治めていた女神、舘五町(やかたのこまち)が納めていたと
聞く・・・」
「そう。わたしに転生したのはその子の魂。云百年に及ぶ、無念と恨みがわたしの身体を取り巻い
ている。そしてこの刀も同じ・・・
血に飢えた一刀の獣に等しく鮮やかな悲鳴を聞かせてくれる・・・」
ニッコリ笑って刀を見つめる松さん。いつもと雰囲気が変わってきている。
「いかれた考えよな小娘。女神とは名ばかり。悪の権化に等しい無様な姿でござる!」
「なんとでも抜かせ。わたしに勝てない奴に、文句を言われる筋合いなどない」
松さんは完全に女神モードに移行してきたらしく、普段の感じはほとんど消えた。
そんな松さんに対し、林道は告げた。
「己を支配できるのは己自身のみでござる。他者に意識を乗っ取らせ、無理やり上げた力など、
自分の力とは遠く呼べないでござる・・・
無視つけながら、きっちりと白黒つけさせて頂く!!」
2
ググッ
「ん?」
「一刀流居合っ、流鏑馬五調べ(えぶさめごしらべ)」
キュイィィィン
「燐月(りんげつ)・・・」
ギャィィィィン
居合の攻撃を、刀を前に出すことであっさり受け流す松さん。止められた林道は、二撃、三撃と
連続して斬りこむ。
シャシャシャッ
パキィィィィン
「鍛え抜かれた忍者刀をこうもあっさり・・・」
同じ場所を何度も斬りつけられ、根元から折れる刀。横一文字の剣戯が迫ってくる。
ウゥッ
「彩月血情(さいげつちじょう)」
ズバシュッッ
「くっ。切れ味が異常過ぎるでござるな。五町は剣術の達人とは初耳でござるが・・・」
斬られた胸を抑える林道。すぐさま持っていた包帯で止血を始める。業物の帷子(かたびら)
まで真っ二つになっているが、一命を取り留めたのは一重にこの帷子あってのことだろう。
しかし、斬られて真っ二つになってしまった以上もう防御は自分でするしかない・・・
「さっきわたしが乗っ取られているみたいなことを言ってたね。でもあれ演技ww
ほんとはわたしの意識なんてちっとも飛んでないの。たしかに女神は転生してるけど御主人は
あくまで肉体の所有者であるわたし。純粋に力を上げてるだけだよ。こんなふーにね・・・」
ドドドドドドドド
松さんの気が急激に上昇している。水がいっぱいになってなお注ぎ続けているコップのように、
器から大量の気が溢れだす。
「で、でたらめでござる。だが勝てぬというわけでもない!!
魔線二刀流崩月(ませんにとうりゅうほうづき)、三珠の霊獣痕駄馬像夏無人双(みたまのれい
じゅこんだばぞうげじんそう)!!」
フフフフフッ
「無駄、細線の交叉(さいせんのこうしゃ)」
キュキュキュキュィィィィ
「斬撃を受け流した?それだけじゃない!!しまっ・・・」
松さんの斬撃が飲み込まれ消える。残った斬撃が松さんを襲う。
「土光の気迫(どこうのきはく)っ!!」
カカッ!!
バチバチバチバチィ
「気迫だけで斬撃を吹き飛ばしたでござるか?だか完全に受けきれたとは考えにくいでござる。
あの斬撃は、あいての攻撃を無理やり弾き飛ばす意思を持った斬撃。100パーセントは防ぎき
れないはずでござる・・・」
「古種の剣戯とは見せてくれるね。剣戯の素人のわたしとしては防ぐのがやっと、と言うところ
だね・・・」
激しい斬り合いでたった土埃が晴れる中、無傷に等しい松さんの姿が見えてきた。
「む、無傷でござるか?一筋縄どころの話ではござらぬぞ!」
たじろぐ林道。攻撃の届かせる方法を見いだせない。
無理に動いた分どんどん傷口が広がって包帯が赤い血で滲んでいく。
「むりのしすぎだよ。この状態のわたしとここまで戦えたんだ。これ以上は危険だよ・・・」
「戦いに出た以上男として、一忍者として退くことなどできるものか。戦いから逃げ出すくらいなら、今すぐこの腹、掻っ切ってやろうぞ!!」
刀を腹に当て叫ぶ林道。大声を出したせいで口から血を吐いてしまった。
「すごい武士道精神だね。忍者と言うよりも獅子に近いよ・・・
これ以上苦しめないためにも、次で終わらせてあげる・・・」
「今の拙者に防御はない。攻めの一撃にすべてを乗せるでござる」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
ブシュゥゥゥゥゥ
吹き出る血を歯を食いしばって我慢する林道。限界はとうに超えているはずだが、それでも
彼を動かすものは、男としてのプライドだった。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「最高の女神の悪戯(ベドゥーリクドティマ・ヴィーナス・ロキ)」
ドドドドドドド
「忍刀流裏秘儀、七塵護国の驚撃(しちじんごこくのきょうげき)!!」
ガガガガガガガッ
なんと、林道は持っていた刀を使わず、素手で攻撃を仕掛けた。
強力な女神の波動に真っすぐ突っ込む。服はボロボロになるが、追撃は止まない。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ」
「ここに来てなんて気迫!?」
身体全体から血が吹き出ても後退しない。拳を握った林道の攻撃が松さんに届いた。
ドドドドドドドッ
「ううっ・・・」
攻撃に転じていた分、七連撃をすべて喰らってしまう松さん。一瞬体勢がグラついた。その隙を
林道は見逃さない。
右手に力を込めて一撃を放った。
「忍道八卦掌崩華甲冑(にんどうはっけしょうほうかかっちゅう)」
ズドォォォォン
「ゲフゥゥ・・・」
松さんの鳩尾に、まともに突きがめり込んだ。林道はトドメを刺すために、松さんの頭を攫み、
地面へ叩きつける。
ガコォォォォン
パラパラパラ
「くっ、これで最後。剛腕土柱(ごうわんどちゅう)!!」
バコォォォォォン
ミシミシミシミシ
ふぃぃーるど全体にヒビが入るほどの強力なパンチが、松さんの顔面に炸裂。原形を留めている
のが不思議なくらいだ・・・
「ゲホゲホッ。まったく、女の子の顔面をこんなに強く殴りつけるなんてとんだ武士道だね・・・
鳩尾の一発は正解だよ。あれがなかったら反撃で君はバラバラだった。まったく・・・
男ってのはむさくるしくて嫌だね・・・」
ガクッ
意識を失う松さん。林道もそれと同時に倒れてしまう。結果はドローいう判断を下された。
結果、次の試合、戦う相手だった緒貴田驚殿下の無条件の三回戦進出が決定した。
動かない二人を、各校の代表者が運び出した。松さんを運び出したのは、すぐ近くで試合を見て
いた舞華さんだった。松さんと幼馴染の舞華さんにとっては少々ショックだったらしく、下を向い
ていた。
3
第一回戦の第十七試合目の終了後、すぐに第十八試合目が始まった。
三澤薪南(流水学院1)VS下呂丸(中尊寺学院1)
「薪南・・・」
「委員長が心配なのかい?おにーさん・・・」
「きびしいだろうな薪ちゃんは。でも大丈夫さ」
「え?どういうことですか?衣さん」
「ふふふ。まあみてな。あいつは少なくとも一瞬ではくたばんねぇからよ」
「一瞬って・・・」
下呂丸の見かけはぼさぼさの長い髪に、全身ミイラのように包帯を巻いている。まわりのバトル
フィールドが墓場なので、かなり溶け込んでいるといえよう。
「お譲ちゃん、ぼくが一瞬で片付けてあげる・・・」
下呂丸はニヤニヤ笑い言う。
それに対して薪南はなにも返さない。
「第一回戦第一八試合、始め」
「右手に魔力の装填(デクストラー・スダグス・マギカ)・・・」ボソッ
「ん?」
右手がバチバチ言い出す薪南。衣さんはさっきから笑いを止められないでいる。
「面白れぇもんがみれるぞおまえたち」
「五千の雷を纏う拳(ウィスプルマルディーネ・バリュグヒューナメー・ブラスト)」
シュッ
バリバリバリバリリィィィ
「!?」
ゴシャァァァァァァァァッ
ドゴゴゴゴゴゴゴゴン
パラパラパラパラ・・・
強力な雷を帯びた拳を受け、墓石を一直線に割って反対側まで吹き飛ぶ下呂丸。防御を忘れたの
か、動かない・・・
「なっ!?しょ、勝者、三澤薪南!!
早く救命をしてください。全身の骨が粉々になってます」
「おいおい、いまのは明らかな電気系統の攻撃だったよ。きみの仕業だろ、衣ちゃん・・・」
「なんのことかなぁww」
「委員長すごい」
「すごいってレベルじゃないだろあれww
すくなくともあいつは親父クラスだろ」
「薪南がそれだけ強いのさ。問題ない」
「おおありだろ」
「そうあせるなよ会長。とーぶん二人っきりでここに住むのだからな」
「どこの大佐だよ!!まったくこれじゃ薪南を止める奴がいなくなるじゃないか・・・」
「誰を止めるって?彰文・・・」
「ま、薪南!!」
「わたしの試合、どうだった?」
「すごいんじゃないか?」
「選んだ師が良かったんだ」
「なんでこっちを見るんだい?」
「喧嘩しないでよ二人とも。確かに委員長は強くなったけど、フェード6で止められるレベル」
「はぁ?あの程度で?」
「むむっ。じゃあ勝負する?今のわたしは無敵。ある人物も仲間に加えたし・・・」
「かかってきなさい!!」
「おいおいうるさいぞお前ら」
「お、お父さん!?」
「少し静かにしてろ。そんなこと言ってる間に二試合終わっちまった・・・」
十九試合目勝者、天上院千歳
二十試合目勝者、才藤蝦夷
「次が一回戦の最後みたいだね」
「片方やばくないww」
第一回戦第二十一試合目、人妻マリア(聖2)VS間藤ヒルカ(辛羅1)
「聖のマリアか・・・」
「親父、知ってんのか?」
「マリアの母親がうちの元、母さんの姉だからな。いわゆる従姉ってやつか・・・」
「何ィィィィィ!!!だからあのマリアさん親しそうに見てきたのか。避けてたぞ俺」
「まあ知らないのも仕方ない。最後に会ったのもかなり前だしな・・・」
「そのうちなにかいろんなものがでてきそうだな」
「・・・・・・・」
「だまんなーーーー!!」
「第一回戦第二十一試合、始め」
試合が始まった。いったいどうなるのだろうか・・・
一回戦の最終試合が始まる・・・