鶴の恩返し−@ |
美琴は縁田と別れ、もといた公園に少し急いで戻る。
実際、縁田の話を聞いていたのは三分弱位で上条当麻はまだベンチにいた。
「アイツは……やった、まだベンチにいる」
目的の人物がまだ場所を動いていないことに喜び、どう話しかけたらいいか考える。
うーん、アイツのことだからへたに刺激しなければ話は出来ると思うんだけど……
『告白はしないのかい?』
先程の縁田との会話が思い出されポンッ、と軽い爆発音と共に顔を真赤に染める。
いやいやいやいや、と顔を左右に激しく振って先程のやり取りは忘れようと頭から追い出す。
「やっぱり、悩んでるのは私らしくないか……」
そういう結論になり、素直になれるかは別で普通に話しかけることにした。
「ちょろっとーって、なに人の顔見てさらに疲れたって顔してんのよ!」
そう言って美琴はビリビリと軽く火花を散らす。
上条はそれを見て溜息を一つ
「いやー、上条さんはクラスメイトに全力で追い回されてたださえもクタクタだというのに
いつものパターンからそろそろ御坂が現れてさらに追い回されるのか、と不幸な予想を立てて
いたわけじゃ……って嘘です、嘘つきました、嘘なんですからの三段活用にて許してください、ごめんなさい!!」
ズビシッっとベンチから降り綺麗に土下座する上条。
って何ムキになってんのよ私、素直にならないとホントに告白なんてまた夢の・・・ムグムグ
「い、いいわよ別に、許してやっても……その代わりに」
その代わりってどの代わりよー!! なんで許したげるだけで済ませないのかと自身を呪う
なら……思い切って言ってみようかな……で、ででデートとか………
「今週末一日中わ、わた、私を……」
「わ、悪い御坂……今週末は…進級できたが一年の時の余りの補講が……2日連続である……」
本当に悪い…と今週末のワードで、今週末買い物の付き添いでも頼まれるのかと思った上条は一応言われる前に断っておく
「うー、なら仕方ないわね……な、なら夜とかでもいいから…遊びたいなぁ…なんて」
って私は何を言ってるのよ、構ってくれないと寂しいですみたいな雰囲気じゃない
「……………」
一方、上条はウルウルと涙腺操作を無意識で行って上目遣いの美琴に魂を抜かれかけていた。
その仕草は反則だろ……というか御坂ってこんな可愛かったっけ……
「なっ、何ぼーっと人の顔見てんのよ!返事しなさいよ……バカっ」
美琴は赤くなりながらプイッとそっぽを向く、知ってか知らずかビリビリは出ていない
それでも、上条をチラチラ見るのだから別の破壊力はある。
「え、えっと……上条さんはいつもと若干違う御坂のキャラに驚いているんですが……
ハァ……そんな顔されたら断る訳にもいかねえだろ?」
溜息を挟みながらも夜遊ぶのを了承してくれたようだと美琴は安堵したが
上条さんは女の子に泣かれたら困るのですよーとその後に続けて言ってきた。
「だっ、誰が泣いてるって言うのよ!だ・れ・が!」
本当は今出てるのはうれし泣きの涙なのだが素直になれない美琴はそんな風に言ってしまった。
さっきから涙目になっている為、上条からはどこからどう見ても泣いてる様にしか見えない……
「……どっからどう見ても泣いてるだろって……み、御坂さん……そのビリビリをしまっては貰えませんかっ」
泣いてると指摘された美琴は明らかに火花では済まされない帯電を始めている。
「ア・ン・タ・はー泣いてないっつてんでしょーがー!!!」
バチバチッと雷撃の槍が上条に向けて一発、また一発と放たれ
「あっぶねーだろーが、直撃したら普通死ぬぞ!」
「アンタは死ななかったでしょーがっ!!」
……と、まあいつもの様に仲良く追いかけっこが始まり
「ふっ、不幸だー!!!!」
いつもの台詞だが上条は少しいつもと同じの美琴の反応に喜んでいる自分に驚きながらも逃げていく。
夕暮れから深夜まで走り回り、上条が泣きで今日はホントもう許してくださいと言うまで続いた。
□ □ □
「じゃあ、許すけど……週末の約束破ったらこんなんじゃすまさないわよ」
と深夜思い出深い鉄橋まで逃げた上条がダウンしたため今回はここで引くことにする。
どちらかというと、とばっちりを受けた上条が上の立場なのだがそんなものは関係ない。
「いいけどよ……具体的に何するかは決まってんのか?」
起き上がる気力も体力もないのか上条は鉄橋に座り込んだまま聞いてくる。
「うーん、それは……週末まで考えとくわ」
誘ったはいいがノープランだった為、目をそらすように中空を仰ぐ
「ま、楽しみだからいいけど……よっと、ほら送ってってやるから帰るぞ」
そういって立ち上がった上条は自分の薄い学生鞄を持って首で帰る方を指す。
あれ…今アイツ楽しみって……
「うん……ありがと…」
楽しみと言われた事や、送ってやるという上条の優しさに頬を染めながら美琴は答えた。
常盤台の寮に着くまで、上条とは学校の出来事や友人の笑い話であっという間に時間は過ぎた。
「それじゃ、ここまででいいわよ、寮監に見つかると大変だし……それに、黒子とも会えば大変でしょ?」
白井の事を思い出したのか少し身震いをした上条を見てくすりと笑い寮に向かう。
「まあ、分かった、それじゃまたなー」
と御坂が見えなくなるまで立って見送った後、上条は自分の寮に向かって歩き出す。
そうそれからも上条の不幸は止まらなかった……
出された宿題(上条だけ特別)を御坂の電撃でコゲコゲにされてるのが発覚したり、寮に着く前にスキルアウトのお兄さん達から少女を助け、一人逃げ回ってる内に夜が明けて一睡もせずに学校に登校。
その後、昨日吹寄から一人逃げ切れなかった青ピから激しい猛抗議を受けたり……
そうして今日に至る訳で昨日と同じ時間帯、いつもの公園のベンチに腰掛けていた……
「昨日は色んな御坂を見たが……少し可愛かったな………」
何故か昨日の色んな美琴を見たことで少し御坂美琴という一人の少女を気にしだした上条は今日もここにいたら御坂に会えないかな・・・とふと思ってここに来てしまった訳である。しかし昨日一睡もしてなかったのでベンチに座って5分もしない内に寝てしまうことになる。
□ □ □
昨日のベンチにいる上条を見つけ縁田は上条に近づいていく
「あ、上条さーんって寝てるようですね……そうだ、そうだ、寝言でも返してくれれば昨日の短時間で発展したかもしれないあの子が出てくるかもしれないですね、じゃ早速失礼しますね」
と言うも早々、縁田は上条の隣に座り、質問を投げかける。
「上条さん、上条さん、今上条さんの気になる女の子って誰ですか?」
「うん、うぅ、うーん」
寝言でもないが縁田には十分、能力発動のキーは揃った。
該当1名 茶髪で髪の短い少女 名前は御坂美琴 常盤台中学の『超電磁砲』
「……たった昨日今日の短い時間ですが……がんばったようですね」
そう言って昨日出会った少女の顔がフラッシュバックされたことによる嬉しさでフッと笑った縁田だが……
後の質問でどうしたものかと困った顔をする。
「信頼できる女性は……」
「うーん、うぅう、すーすー」
該当6名 茶髪で髪の短い少女 名前は御坂美琴 常盤台中学の『超電磁砲』
黒髪ポニーテールの女性 名前は神裂火織 情報なし
銀髪ロングの少女 名前はインデックス 情報なし
〜
で意外と多かった……能力者じゃない人が多いのは彼が無能力者ゆえだろう…と結論付ける。
それだけではなく『一番友達感覚な女の子は』や『可愛いなと思った事のある女の子』等、色々質問した中で良い悪い含め出てきた回数が一番多いのが御坂美琴という少女。
「……これはどうしたものか……あの子は多分、自分に素直になれない可能性が多そうですね……」
昨日の御坂美琴との短い会話を思い出しながら縁田は推測を重ねる。
「多分、悪い質問出て来たものは御坂さんの照れ隠しの結果からだとすると……やっぱり上条さんの中で一番大きい存在は御坂さんということになりそうですね……」
結論を出した縁田だが、御坂美琴という少女は上条の前では素直になれない少女だという結論も出るわけで……
はぁ……恩返しも前途多難の予感ですよとぼやいた。
「で……縁田、寝てた俺の横でお前はなんで溜息吐いてんだ?」
いつの間にか上条は起きて、縁田のブツブツ言ったり溜息ついたりするのを見ていたようだ。
「いやはや、上条さん……あなたへの恩返しであなたに彼女でもと思ったのですが、余程の困難がある様で……
今軽く挫折感を味わっていたところなんですよ……」
そう言って、縁田はまた溜息をつく。
「って、ちょっと待て……お前は無理やり人と人をくっつけて、『ヤッター恩返しできましたー』とかぬかすクソ野郎ではないよな?」
と引き気味に聞いてくる上条に対して縁田はゆるやかに……
「そいうのがお好みでしたら私も大変助かるのですが……
やっぱり両想いにならないと無意味でしょう? 恋人はそのようなものですよ」
と恥ずかしい事をしれっと言ってのけた。
「わかってれば良いんだが……俺に彼女とかできんのかね………って、自分で言ってて悲しくなるが」
どんよりと肩を落とす上条は自分で自分の心を傷つけたらしい。
「勝手に悪いとは思ったのですが上条さんの深層心理から私の能力で気になる、または気になっていた人物を読ませてもらいました……が昨日と今日では違った結果が出たんですよね」
とパッと明るく笑ってよかった、よかったと言ってる縁田を上条が見て不思議な顔をしていたが
「あ、そうだ昨日あの後、彼女とどうなったんだ」
上条は自分の事は棚に上げるかの如く話をそらした。
結果が違うって事は……昨日今日でイメージが変った奴がいるってことか?
と上条は心の中で思うが、思い当たるのは人物は一人しかいない
などと縁田に聞いといて一人考えにふける上条だったが気になることを耳にする。
「あれ? 覚えてないんですか? 昨日も絡まれてる私を助けてくれたじゃないですか」
………助けた?
上条は考えを一時中断し、縁田の話に戻る。
「助けたって……昨日助けたのはお前じゃなくて女の子からスキルアウトの連中を引き離した…ってお前、縁田また女装させられて置き去りにされてたんか!」
後半、昨日の会話で縁田が女装させられる事を思い出した……
「縁田……俺は、お前に激しく同情したいと思う………」
なにやら縁田の肩に手を置き上条は涙を流した。
「いや……もういつもの事なんで慣れてしまったのですが、助けて貰えると嬉しいですねやはり」
そう言ってありがとうございましたと礼を言ってきた。
「あ、そういえば私またまた呼び出されているのでした」
そう言って縁田は昨日のように去ろうとした、裏のある一言を残して
「そうそう、居候を抱えるかもしれない上条さんに一言……彼女の気持ちに早く気付いてください」
そう縁田は言い残し、公園を出て行った。
「居候って……インデックスの事か? 今イギリスだよな? だとしても縁田がインデックスの事を知ってるわけないしな……というか抱えるかもしれないって言ったよな……」
そう上条はベンチで答えの出ない考えを抱いたが再び来た眠気に負け再び眠りに落ちるのだった……
□ □ □
「アイツ、今日もあの公園にいるかな……」
昨日と同じような時間帯にいつもの公園に向け歩いている美琴だが前から縁田が来るのを見つけた。
「あ、縁田さーん、こんにちは」
挨拶は大切だ、といっても昨日のことから苦労人としてしか知らないのでなんとなくだが……
挨拶をした美琴を見つけたのか、縁田は急ぎ足で寄って来て
「お、御坂さんじゃないですか、昨日は頑張ったみたいですね」
と余計なことをしたかもしれない一言が飛んできたので美琴は顔を赤くする。
「って、余計なことをしたんじゃないですよねっ!」
顔を赤く染めながら美琴は縁田に突っかかる。
「あー、大丈夫、大丈夫、上条さんの深層心理を寝てる間に尋ねただけだから上条さんは知らないよ」
と軽い口調だが真剣な眼差しで縁田は言い切って微笑みかける。
「ま、なんにせよ相談なら乗りますから頑張ってくださいね、ってやばい、殺される」
と後半は多分彼女にやられるであろう事を告げて縁田が走り去っていく、が少し行って立ち止まる。
「困ったことがあれば上条さんを頼ってくださいね……余計な事を起こすので………」
そう言って今度は止まらず走り去っていく。
「起すって……なんか嫌な予感がするわね………」
止めて聞けばよかったと美琴は後悔したが角を曲がって迷路のような裏路地に入ってしまったため今から追っても縁田を見つけることは困難だろう……
「アイツを頼れ、ってどんな事を起すつもりなのかしら……でも、少しは発展したって事かな……」
心配がある中、アイツの心情の変化があった報告に少し頬を緩ませながらいつもの公園に向かって歩き出す。
公園に入ると昨日のベンチにアイツがいた……どうやら寝ているようだ……
「寝たままじゃない……というか風邪引くわよこんな所に寝てたら」
美琴は上条を起そうとベンチの横に座り身体を揺さぶる。
「うぅ、うーん……」
唸るが起きる気配のない上条は横にそのまま体制を崩し美琴の肩に頭を乗せる格好になった。
「ちょっ、ちょちょちょっと! ……アンタ、何やってんのよ!」
ちょっと、以降は今にも消えそうなほど小さな声だった。
美琴の顔は耳まで真っ赤で湯気が出そうなほど身体も火照っている。
「み、御坂〜ビリビリだけは勘弁してくれ〜」
「な、なによ……そう言いながらも楽しそうじゃない……」
ふふっと笑いながら美琴を名前で呼んだりと、とても楽しそうな顔で寝ている上条
「……生殺しだわ………」
ちなみにこの後、上条が起きるまでタップリ1時間以上はこのままであった。
□ □ □
「で……御坂さん…この状況はなんでせうか」
起きた上条は自分の現状を認識して一番近くにいた美琴に聞いてみた。
縁田と別れた時はまだ夕暮れでもなかったのにすっかり夕焼けが沈みそうな時間帯になっていた。
「ア、アンタが頭を乗せてきたんじゃない……」
そう、不可抗力とはいえ行動したのは上条……
「そ、そうか……ごめんな、長時間迷惑かけちまったみたいで……でも起してくれればよかったのに」
上条の顔が赤くなる。
「アンタが気持ち良さそうに寝てるしさ、昨日夜遅くまで追いかけたせいもあるかな〜なんて……」
真っ赤になりながらも俯いてそう答えた、珍しく素直な美琴の一言は上条に大打撃を与えた。
「……………」
頭を元の位置に戻し、無言になった上条の顔を美琴は見た。
「なに人の顔見て惚けてるのよ……」
美琴の一言にこちらに戻ってきたのか
「いや……なんというか、会って数分だけど今日のお前、可愛いなと……」
と上条はカミングアウトした
「ふ」
「ふ?」
そこで上条は気付いた、多分この後に続くのは「ふにゃー」のはずで漏電が待っているはずなのだが……
ふと異変に気付く、ビリビリと漏れるような電気も出ていなければ火花も出ていない
「ふにゃー」
美琴は気絶したが漏電は予感通りしなかった。
□ □ □
「んっ、……あれ?」
確か……公園でアイツが起きるのを待っててそれで……
ポンッと軽く爆発し耳まで赤くなる……
「えーと御坂さん? ちょっと聞きたいことがあるのですが……」
半眼ではあるが真剣な顔をしている上条が美琴の顔を覗き込む。
「ちょっ、アンタ顔近いって……」
そう言うと上条も気付いたのか顔を少し離す。
「さっき御坂が『ふにゃー』ってなって漏電したと思ったんだが、右手で触れてもいないのに漏電しなかったんだ…御坂お前、今電撃使えるか?」
そう言われて美琴は指先に電気を出そうとしてるのか人差し指と人差し指を近づけている。
「何で……何で出ないの」
消え入りそうな、そして今にも泣き出しそうな声が聞こえた。
見ると驚きと焦りからか美琴の体は震えていた。
何度も、何度も何度も指を近づけては離し、近づけては離しを繰り返していたが……
「お、おい御坂まさか本当に出ないの……か」
上条の驚きのその一言に……美琴は泣き崩れた。
日も落ち空には月が昇った。
上条は、はじめはどうしたものかと頭を掻いたが……
上条は美琴の方に向き直り、ベンチに座りながら美琴を抱き寄せてこう言った。
「なあ、御坂……俺もどうしてこうなったかは分からないし、
お前に今何をしてやれるかも分からないけど……今は俺の胸を貸すから
泣くなら泣いてスッキリしちまえ、落ち着くまでこのまま一緒にいてやるから……」
そうやさしく美琴に上条はささやいた。
「……ありがとう」
美琴はそう言って少しの間上条の胸で泣いていた。
「グスッ……ありがと、落ち着いたから……」
そう言っても美琴はまだ辛そうではあった。
「大丈夫か? それにしても……この現象はなんなんだ、って言っても御坂でもわからねえんじゃ俺がわかるはずもねえんだが・・・」
美琴でも分からない原因不明の能力の消失、それでもコイツはこう言ってくれるんだろうと美琴は思う。
「これが原因で御坂が泣くなら……こんな幻想、俺がぶち殺してやる」
それでも、何か手がかりが欲しく白井に連絡を取ろうという事になった。
〜♪〜♪カチャ
「あ、もしもし黒子?」
どうやら早くも連絡が取れたらしい。
『もしもしお姉様?……お姉様?』
「なによ、黒子、そんなに言わなくても聞こえてるわよ?」
『変ですの、お姉さまの携帯からですのにお声が聞こえないですの』
……美琴が固まった。
「ねえ!ちょっと黒子、聞こえないってこれだけ叫んでも聞こえないの?!」
美琴は電話の相手黒子に向かって叫んでいるが……
『うーん、やっぱり出られませんの……何かの弾みで通話にでもなったのかもしれないですわね』
そして切られた……
「な、なあ御坂どうしたんだ?」
その言葉を聞くと同時に美琴は常盤台の寮に向けて走り出した。
後ろから「おいっ御坂!」と聞こえるが今はそれどころじゃない
走って、走って、走って………
全身から汗が出て制服がビチョビチョになるくらい全力で休まず走り、寮まで来た。
ドクン、ドクン……
心臓が脈打つ音がやけに大きく聞こえる……
「おい、御坂……どうした、んだよ急に……」
上条も休まず走り続けたせいか息をさすがに切らしている。
しかし、美琴は振り返らずに寮の戸を開けた……目の前には寮監が立っていた。
「あ、あの……門限を破ったことはごめんなさいっどんな罰でも受けます」
美琴はとっさに謝った……何かを否定したくて、否定して欲しくて。
「おい、そこの少年、常盤台の寮の前で固まってなにをしている」
返ってきたのは否定して欲しかった現実……
「あ、あの……御坂のこと見えないんですか?」
上条は寮監に目の前にいる美琴を指差し聞いてみる。
「ん? 何を言っている、御坂はまだ帰ってきてはいないが? …というか少年、君は御坂の居場所を知っているのか?知っているなら早く帰って来いと伝えてくれないか?」
そう寮監は言った……目の前にいる美琴本人がまるで見えていないかのように………
美琴は走り出した……あの時と同じ絶望に満ちた悲痛な面持ちで………
□ □ □
なんでこうなる……
上条は必死に走っていった美琴を追う。
なんでアイツばかりがこんな目に遭わなくちゃいけない……
途中見失ったが多分アイツが行く所はあそこだ……そう思い上条は走る。
ドンッ
しかし、道の角を曲がったところで誰かにぶつかり盛大に転ぶ。
「いっつぅ……す、すみません大丈夫ですか?」
盛大に転んだ割には軽い擦り傷程度ですんだようだ。
相手は転ばず受身を取って無事なようだった。
「こんな時間になにを慌てて走っているのですか、とミサカはいきなり飛び出したあなたに驚きつつ聞いてみます」
病院へ帰る途中の御坂妹だった。
「えっと、こっちに美琴来なかったか?」
明らかにすれ違ったはずだから分かるだろう、と期待を込めつつ御坂妹に聞いてみた上条。
「いえ、お姉様には今日は会っていませんが、とミサカは今日一日を振り返って答えます」
答えは上条もなんとなくは分かっていたが苦しいものだった。
「それよりも今日はあなたがお姉様を追いかけているのですね、とミサカはいつもと違う立場に少々興味を引かれながら先程の質問に答えられていない事に憤慨します」
そう言って少し怒った顔をする御坂妹
「ああ、わかった今説明するから協力してくれ」
「わかりました、とミサカはあなたが珍しく人を頼るので張り切って了承します」
そう言って御坂妹は上条に美琴の現状を知らされる……
□ □ □
美琴はあの思い出深い鉄橋に来ていた……
またあの時のように……彼が着てくれた場所に……
「能力は失うし……私の事をアイツ以外は認識してくれない……」
ここへ来る途中、ぶつかりそうになった御坂妹にも声をかけたが反応はしてくれなかった……
もういっそここで消えてしまった方が楽かもしれない……美琴はそう思い始めた。
美琴は絶対能力進化計画の時と同じくらい絶望している。
「なに弱気になってんだよ」
それはあの時、美琴に光をくれたアイツの声
「お前が見えないなら見えてる俺を頼ればいい……
俺から周りに伝えてさっさとこんなつまらない幻想は終わりにしちまおうぜ」
そう言って彼は私に笑いかけてくれた……
御坂妹にはさっき会って伝えたから向こうで調べられるだけ調べてくれるらしいと上条が言っていた。
「白井も説明すれば協力してくれるだろ」
そう彼は言うが問題は今の時間だ……なんだかんだあり、時間はもう日付が変わってしまっている。
黒子に頼むのもこの時間では迷惑だ……死ぬことはないと思うので明日朝になったら連絡しようという事になった。
「にしても……常盤台の寮には帰られねえし……やっぱし俺の部屋に来てもらうしかねえか……」
そう、寮にいても美琴を見える人間がいないのでは話にならないという事で上条の部屋に行く事になる……、美琴としてはこんな状況でなければ嬉しいのだが、今は少しでも落ち着いて休みたい欲求に駆られている。
「うん、それでいい……今日はもうなんか疲れた」
美琴の声には先程よりは良くはなっているがまだいつもの様な元気はない。
「そうか……歩けるか?」
疲れからか美琴の足取りはフラフラしている。
あーもう、しゃあねえなと上条は美琴をおんぶする事にした。
「よいしょっと……って御坂、お前以外とおも……ぐえっ、ちょ、ちょっと待て、俺が悪かったから御坂さん首絞めるのやべて……ほんど、おべがいじまず」
おんぶした後にお約束の一言を言おうとした上条は美琴に両手で首を絞められるのであった……
そこにはもう、あの時と同じ絶望した御坂美琴はいなかった。
□ □ □
「ここが上条さんの部屋ですよっと」
そう言って部屋の前で背中から美琴を降ろし、戸を開け中へ促す。
「隠すものとかないの? アンタの部屋は」
今はインデックスがいないので片付けるものもないし隠すものもない。
「あるわけないのですよ、上条さんは紳士なのですから……まあ興味はありますが………」
と後半は聞こえない声で言ったはずなのだが
「ふーん、興味はあるのね……」
聞こえていたようです……
その後、二人ともお腹は減っていたがかなり疲れていた為、そのまま寝ることにした。
美琴はベッドに横になってすぐ眠りに落ち、上条はそんな美琴に布団を掛け電気を消して久しぶりの浴槽ベッドで寝ることになった……
こうして二人の奇妙な同居生活が始まる。
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禁書の二次創作。上琴メインのダラダラ長く書いた話のその@。原作20巻より分岐した感じです。 | ||
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