仮面ライダーEINS 第十七話 未来から来た男 |
――2011年11月13日 12:35
――学園都市 中央区 販売部
『そういえばさ、一騎』
「なんだ?」
インカムの奥から相棒、晴彦の声が聞こえてきた。ちょうど新しくできた定食屋で腹ごしらえを終えたところだった。結構美味であったが、神代屋とかいう名前はどうにかならなかったのだろうか?
「おっと、失礼」
「失礼」
インカムに集中しすぎて店を出るときに男性を肩をぶつけたが相手は怒っていないらしい。
そのまま一騎は晴彦との会話に集中する。
『昨日の未明に学園都市上空でエネルギー反応があってさ』
「ああ、量子力学の先生がやけに騒いでたのはそれか……」
理系学区のそこら中に観測用の機材が散乱……に近い状態であった。こういうときは理系の科学者はかなりファナティックになる。
『さっき結論が出て、別の空間から物体が転送されてきたみたいだよ』
「そうか」
『これ、普通の国だったら大騒ぎなのに学園都市だったらこんな反応になるんだよね……』
「まあ空から電車が現れたのを見てしまったら普通の人間として生きるのは諦めるよな」
そう言いながら理系学区の警戒に参加するために、ガードチェイサーのエンジンをかける。
「しかし物体が転送されてきたということは、その大きさも構成も大体分かるんじゃないのか?」
『そう、そこなんだよ。転送されてきたのは明らかに人間と思われる有機物なんだよ。それも二つ』
「だが、行方を眩ましていると?」
『言葉が通じる相手なら良いんだけどね……っと、中央区食品部から救助要請。あの噛ませ犬からだよ』
どうやら晴彦はツヴァイチームが根本的に気に入らないらしい。ツヴァイからの救援要請をめんどくさそうに一騎に伝えた。
「今日は随分近場でドンパチしてやがるな」
しかし相手はツヴァイを圧倒していると考えられる。気を引き締めないと、いくらアップグレードしたアインツでも敗北する危険性があった。
「さぁて、行きますか」
第十七話 未来から来た男
――2011年11月13日 12:45
――学園都市 中央区 食品部
戦いの音が聞こえている食品部を一騎が駆けていた。一つの路地を通り過ぎようとしたその時、ツヴァイが一騎の足下に転がってくる。
ツヴァイは変身を強制解除し、尾木は意識を失っている様だ。
「おい、尾木!」
ここに尾木が倒れているのを考慮すると、ツヴァイが何者かに倒された事になる。
視線をあげて伸びている路地の奥では一人の鋭い眼光の青年がこちらを見つめていた。ただ者ではない。一騎は一瞬にして身構え、アインツコマンダーを手にした。
「何者だ?」
「天の道を往き、総てを司る男」
「ほう、面白い自己紹介だ」
一騎が右手を左上に突き上げる。敵意を察しとった。
その動作を確認した男は、右手の人差し指を突き上げる。どこからともなく赤いカブトムシ……人工の物のようだ……が現れ彼の手に収まった。
――変身
天道総司/仮面ライダーカブト
ACTER:水嶋ヒロ
ハニカムのアーマーが次々に構成され、総司は仮面ライダーカブト・ライダーフォームに変身した。
「驚いた。あんたも仮面ライダーか」
しかも学園都市が未確認の仮面ライダーだ。
4――9――1――3
――変身!!
『EINS』
アインツギアから飛び出た白のリングが回転を始め光球となり、その中からアインツが姿を現した。
アインツは路地の中を静かに前進しつつ、カブトはそれを待ち受けるように主戦場に導いた。
アインツは、力強い拳、手刀、裏拳とそして蹴りを高速で繰り出し、カブトは上半身からの攻撃を受け流し、一撃の重い蹴りには蹴りを合わせてながらもカウンターを繰り出すが、攻撃は一進一退の状況であった。時折アインツの投げも入るが、壁を足場にしてカブトの体制は崩れず、明らかに崩れたその体勢からもカウンターが伸びてくる。それを巧く受け流し、アインツは右の拳を伸ばした。そしてカブトも右手を伸ばした。二人が同時に拳を突き出し、ぶつかり合った。
「……仮面ライダーか」
「その通り!」
状況を打破するというよりも流れを変えるという意味で、アインツはアインツコマンダーに入力する。
2――2――2
――超変身!!
『SPLASHFORM!!』
突如アインツギアから緑のリングが飛び出し、カブトに間合いを強制的に開けさせる。
さらに着地の隙を狙って、アインツ・スプラッシュフォームがスプラッシュロッドを突き出す様に跳びかかる。
これを短剣携行武器カブトクナイガンで受け止め、再び間合いが開いた。リーチが長いアインツの方が有利に思えた。
状況を打破するために……カブトにしてみればおそらくトドメを刺す為に左腰のスイッチを勢いよく押した。
『CLOCKUP』
次の瞬間、カブトは姿を消しアインツが吹き飛ばされた。勘でスプラッシュロッドを盾に出来たのが不幸中の幸いか。スプラッシュロッドは叩き折られ、少なくともこの戦闘中には使う事が出来なくなったが。
少なくともアインツの目にはカブトが消えた様に見え、次の瞬間には数回攻撃を与えられた形跡があった。
すぐさま起き上がったものの、あたりにカブトがいた……否、いる気配だけがある。
「ハル!奴はどうやって移動した!?空間転移でもしてるのか!?」
『もうそれに近いレベル。超速移動だ。データを表示形式で送る』
送られてきたデータを目視した。
だが相手が超速で行動している以上、アインツが対処できる手段は一つしかない。
『一騎!なりふり構っている場合!?』
「クソ!ライダー相手にネタバレかよ!」
アインツはアインツコマンダーを開き、コードを入力する。
5――5――5
――リミットカット!!
『SPLASH!!Release!!』
アインツの身体に雷がまとわりつく。アーマーの縁に金の意匠が現れ、腕にもエネルギーの経路が繋がりその流れも金色に変化する。
纏われていた雷が振り払われ、アーマーの色が戦場を駆け巡る緑風へと染まり、瞳とアーマーから疾風があふれ出した。
『一騎、超速モードの制限時間だけど……』
「データはファイズとアクセルからたんまり得ている。必要ない!」
アインツはそう叫ぶとアインツギアに手をかざした。
『ACCELDRIVE!!』
次の瞬間、アインツはカブトの世界に入門した。
アインツ・スプラッシュフォームのリミッター解除モードは超速移動を可能としている。設計者もまさか初戦を仮面ライダー相手に使用するとは思っていなかった。
そして驚きはカブトも同じだろう。自らの世界についてきたアインツを、拳をもって迎え入れた。
しかし先ほどのアインツ・エナジーとカブトの徒手格闘はであった以上、勝負が決しないのは目に見えていた。だからこそアインツは先ほど送られてきた情報を信用して逆転の一手を指す。この高速のヴィジョンでも正常に反応しているアインツコマンダーを開きコードを入力する。
0――0――0
――ライダードレイン!!
『RIDERDRAIN!!』
格闘戦の一手として必殺技を押し出す様に放った。
空振り。カブトには少なくともそう見えただろう。
『CLOCKOVER』
『Time Out』
しかし彼のベルトは異常を訴え、彼の世界が終了する。
そしてアインツの高速移動も同時に限界を訴えた。リミッター解除形態もスプラッシュフォームも維持できなくなったのか、エナジーフォームに逆戻りする。
「あんたの超速移動は、特殊な粒子に電圧を加え、高速の粒子の流れを形成する。そしてその流れにあんたが乗れば超速移動の完成だ。その流れ……エネルギーを吸収しながらなぎ払えば……あんたはその流れに乗れなくなる」
左の掌に右の拳を打ち付けた後、アインツコマンダーを開きコードを入力する。
9――9――9
「加えてエネルギーを振り払い、大きく乱せばそれを短時間で再形成するのは困難だろう」
その動作を必殺技と予見したカブトもベルトの上部に設置されているキーを三つ、リズムよく叩いた。
『One!Two!!Three!!!』
――ライダー・・・キック!!
『RIDERKICK!!!!』
「ライダーキック!!」
『TRANSFORM!!RIDERKICK!!』
カブトが必殺技を発動させると同時にベルトから頭部のホーン部分に向かって電流が流れ、すぐさま右足に溜まり始める。そしてアインツの右足にも先ほど吸収したエネルギーが上乗せされ白く輝き始める。
アインツは右手を左上に突き上げ、両の手を後ろに向かってかざし、助走を付けるため駆け出し、カブトはそれを待ち受ける。
「はぁ!!」
「おりゃあ!!」
カブトの周り蹴りとアインツの飛び蹴りがぶつかった。
互いに吹っ飛んだ。しかしお互いがお互いここで負ける気は筆頭無かった。アインツは食らいつくようにアインツコマンダーを開き、カブトはカブトクナイガンを再び取り出す。
――超変身!!
『BLUSTFORM!!』
ほぼ同時に、カブトはカブトクナイガンを、アインツはブラストアクスガンを発砲した。
お互いの弾丸はお互いを相殺し続けるが、連射力の勝るブラストアクスガンの数発がカブトに、威力に勝るカブトクナイガンの数発がいくつかの弾丸をはねのけアインツに直撃した。
力尽きた様に、カブトとアインツの変身が解除され総司と一騎として再び対峙した。一騎の後ろではG-6の歩行音が聞こえている。
「逃げな」
「……?」
「ツヴァイをやったのはあんたじゃないのだろ?」
「よくわかったな」
「あんたと戦って分かったよ。俺の足下にツヴァイが転がってきたときに、あんたは変身を解除してた。あんたほどのやり手なら"残心"で変身を解除しないはずだ」
最後のあたりは少なくとも、喧嘩の相手に負けたくないという子供の道理で戦っていただろう。
「ああ」
総司が立ち去った後、一騎は壁に腰掛け空を見つめた。
「こりゃまた一波乱、ありそうだな」
――2011年11月13日 14:00
――学園都市 理系学区 医療学部
――一騎の研究室
「データどれくらい取れた?」
シャワーを浴びてさっぱりした一騎が、晴彦の椅子に肘をかけながら眺める。
「うーん。一応あの相手が使っていた人工カブトムシと超速移動くらいかな?」
晴彦のモニターには人工カブトムシ"カブトゼクター"と超速移動"クロックアップ"の詳細データが表示されていた。カブトゼクターに関しては上手くスキャン出来たらしく、構造がそれなりに把握できたらしい。超速移動に至っては時間軸が乱れるほどのエネルギーを放出しているらしく、各所でそれが観測されていた。
「んでツヴァイと戦ってた奴は?」
「ああ、こいつ」
画面に映ったのは緑の醜悪な怪人が一体。最初はツヴァイが圧倒し手柄を独り占めにしようと目論んでいたらしいが、緑の怪人が突如"脱皮"を始めたのだ。
これには画面を見ていた二人も驚き画面を食い入るように注視した。
「……一騎、知っている?」
「右から左へ」
「もしかして……こいつが今朝の空間転移から出てきたんじゃないの?」
あまりにも他の生物との共通性のないその形状、そして学園都市のデータにもない。そして画面に映されていた怪人は、さらに濃い緑の体表を持つ姿へと変えた。
「こいつの識別はマグナワームとでもしておこうか」
そしてマグナワームは画面から突如消えた。
「おい、今の!」
「間違いない。一騎が戦ってた仮面ライダーと同じ能力を持っている……」
画面では既にツヴァイは敗北していた。そして戦場に先ほどの総司が現れ、マグナワームは再び高速移動を行い逃走した。
「かなりの可能性で、空間転移から出てきたのはマグナワームとさっきの仮面ライダーってことか」
そう言って一騎は顎に手を当て、晴彦も腕を組む。
「こっちからそういった干渉はなかったんだよな?」
「そもそもこっちからはそういったそのレベルの干渉はできないよ」
空間を裂くというのはかなりの難儀だ。学園都市の技術を持ってもしても物質転送ですら失敗している。ガラスケースと融合した哀れなマウスとはまさにこのことだ。その技術で空間転移とはまさに笑わせる。
「この技術を観測すれば、少しくらい頂戴しても……なぁ」
「これはいいお小遣い稼ぎになりそうだ」
そう言って一騎と晴彦は不敵な笑みを浮かべるのであった。
次回予告:
――ワーム?偶然の不一致とはまさにこのことか。
――そこだ!
――天の道を生き、全てを司る
第十八話 雲一つ無い快晴
説明 | ||
この作品について ・この作品は仮面ライダーシリーズの二次創作です。 執筆について ・隔週スペースになると思います。 ・日曜日朝八時半より連載。 ・とりあえず宇宙きたわ。マジで来てたわ。 ・ちなみに短いです。どえらい短いです。 |
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