鶴の恩返し−D |
土曜早朝、美琴は気分良く目覚めた・・・気分良くと言っても当然まだ眠いわけだが
「ふぁああ・・・、朝食作らなきゃ・・・」
美琴はあくびを途中で噛み殺しながらパジャマを脱ぎ、着替えを済ます。
「それにしても、この生活に慣れちゃってるけど・・・私、この生活から抜け出せるのかしら」
と思う美琴、というのもここは本来上条当麻の部屋であり
御坂美琴という少女がこの部屋に寝泊りしていることが異常なのだ。
「悩んでても仕方ないか・・・ちゃっちゃとご飯作って、当麻起さないと」
そう思考を切り替え、美琴はエプロンをつける。
この動作も、料理をする事にもこの4日間ですっかり慣れてしまった美琴だが
ふと、これじゃ恋人って言うよりは夫婦って感じじゃ・・・・とか思った為に朝食のご飯ネタを一品消費して暗黒物質を作ってしまった・・・
「あー・・・・どうしよ、これじゃ・・・もう再起不能よね・・・」
見るに耐えない物質と化してしまったご飯を見る・・・
ご飯ネタ・・・・というのは実際にオムライスを作ろうとしていたのだが・・・・・・
そのチキンライスが暗黒物質になってしまったため、今日は軽食にしようと早々に美琴はメニューを切り替えるのであった。
まずトーストを焼くため、トースターに食パンにひと手間加えてセットする。
ちなみにひと手間とは焼き色がハートになる工夫だ、まあそれはさておき
次はベーコンを2枚を熱したフライパンでこんがりと焼き、そこに卵を割って落とす。
その間にも切った人参とブロッコリーを蒸しておき、卵も半熟になるよう蒸す。
結果、半熟ベーコンエッグと蒸し野菜の付け合せの二品が完成した。
チンッ
という音と共に2枚のひと手間食パンが飛び出す。それを皿に取ってもう一組セットする。
焼きあがる前に上条を起こしに美琴は向った。
・・・・・・・・・・・
上条はまだ浴槽ベッドでまどろんでいる。
一応、自力で1回起きたのだがあまりに早い時間だったため二度寝を決行。
「・・・・ま、起き・・・・・」
うーん、あと4分・・・・
「当麻・・・・・!・・・・・・・・さい!!」
なんか、うるさい・・・あ、お腹すいてきたな・・・朝飯なんだろ・・・・
「むにゃむにゃ・・・・美琴ー飯ー」
「だーかーらーっ!朝食だから起きろつってんでしょうがー!!」
と、叫ぶと同時に美琴は現在も継続で電撃が撃てないので拳を振り下ろす。
ガツという鈍い音が響き、上条は覚醒した・・・と言っても痛みよりも叫び声で起きた感じだ。
「み、美琴・・・えーっと、おはよう」
「はいはい、おはよう当麻、朝ご飯多分、冷めちゃってるわよ?」
そう言って美琴は溜息をつく
リビング兼ベッドルームに行くと二人分の朝食が冷めるがままになっていた。
「わりぃ美琴・・・待っててくれたのか、しかもせっかく作ってくれたのに・・・・」
と冷めた朝食を見て上条は呟く
「ま、しかたないでしょ、さっさと食べちゃいましょ」
そう言って美琴は先に座り、上条を食べるよう促す。
「うーん、遅く起きておいてこんなこと言うのもなんだと思うんだが・・・この食事を食べれば、しばらく美琴の手料理食べられなくなると思うとゆっくり食べたいと言いますか・・・・」
と上条は赤くなりながら、頬を掻いて座る。
「そ、そそんなに食べたいなら・・・いつでも作りに来てあげるわよ・・・」
そう言うと美琴は「・・・・いただきます」と顔を恥ずかしさで耳まで赤らめて食べ始める。
いつでもって・・・まさか、そのうち一緒に暮らすとかって言いださねえよな?
と若干心配な上条だが
「いただきます・・・」
深追いはせずに食べ始める。
楽しそうに食事をしながら時間は過ぎる。
・・・・・・・・・・・・
皿も洗い終わり、洗濯物の収納・身支度・窓の鍵チェックと終ったところで
「さて、と・・・そんじゃ、準備も終ったところで2泊3日の遊園地デートに行きますか」
と上条は言い、美琴と手を繋ぐ
「・・・うん」
短いが美琴はそう返した、何気なく手を繋いでくれた当麻に嬉しくなりながら
こうして少し変わった共同生活五日目が始まる。
今、現在二人は上条の部屋を出て電車に乗って遊園地のある学区に向かっている最中だ。
比較的土曜で混んではいるが、座ることは出来たので思案する時間も出てくる。
「それにしてもオープンしてまだそれほど経ってねえ上に、ホテル宿泊付のチケットなんて高けーはずだろ・・・縁田のやつなに考えてんだか・・・」
と素朴な疑問であったが、それよりも少し怪しい・・・と思う上条である。
なにせ、このチケットを送ってきたのはあの縁田である。
きっと少なからず何か目的があるんだろうが・・・・それがわからない。
ハア・・・と一つ溜息をつき
悩んでいてもしょうがねえし、楽しむことに専念しますか
と上条はこれ以上わかりもしないことを考えるのをやめ、今を楽しむことにする。
それにしても美琴が静か過ぎると隣を見るとなにやら悩んで、何かブツブツと言っている。
「ん? どうした美琴」
と声をかけた上条にビクッと反応し、上条の手を見てくる。
「・・・・・・・? どうしたんだ、人の手を見て」
と上条は疑問に思った。
一方美琴は
もう・・・電車に乗ったら手を離すってそんなに一緒に手を繋いでいるのが見られるのが嫌なの・・・?
と少し前まで繋がれていた手を見て心の中で溜息をつく
「私から手を繋いだら嫌がるかしら・・・・うーん・・・」
とブツブツ上条の手を見ながら呟く
そこに鈍感な上条の一言である、やっぱり実行しないと伝わらないと思い美琴は上条の手を握る。
「なっ、美琴? ・・・・あーすまん、気付かなくて」
上条はいきなり手を握られたことに驚いたが、先ほどの美琴の挙動と今の行動で手を繋いでいたかったんだと理解する。
「いいわよ、別に・・・人目が気になるなら人がいないときに甘えるから・・・」
と後半は上条にでさえもやっと聞こえるような小さな声で言う。
美琴は何気ない上条の行動で一喜一憂する自分にあーでもない、こーでもないと葛藤しているのだが、上条はそれを知ることは多分ない・・・
「まあ、そう言うなら、いいけどよ・・・・」
と上条は明後日の方を向く、美琴は後半の一言が聞こえていない上条に安堵と不満を覚えた。
『まもなく第六学区〜〜駅です、お降りの方は忘れ物のないよう・・・・』
と車内アナウンスがなったので美琴は気分を切り替えた。
「それじゃ、降りるか美琴」
と美琴の手を握ったまま席から立ち上がる上条
不意に引っ張られ手を繋いだままの美琴は「ふぇ?」と変な声を出してしまった。
「いや・・・その、人目気にし過ぎて美琴の気持ちとか考えとかわかってやれなかったからさ」
と上条は説明するように美琴に言う
「だから、今日はなんかしてる時以外は手を繋いでていいか?」
と真剣な顔をする上条に美琴はこころを撃ち抜かれていたが・・・・
「い、いいわよ、でもね・・・わからなかった罰として今日は私のいう事聞いて貰おうかな・・・ダメ?」
と後半は上条を撃ち抜く上目遣いの潤んだ瞳攻撃で逆に返していた。
「反則だろ・・・そんな目で見られたら断われないじゃないですか、いいですよ、上条さんを好きにしてください」
投げやりになった上条だがそれでもどこか楽しそうだった。
少なくとも今は・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
午後2時頃
今はお昼時もとっくに過ぎ、遅い昼食をとりに来たお客が少しいる地下のカフェテラスにいるわけだが・・・・・・
「あー、疲れた・・・・上条さんはもうだめです」
と上条はテーブルに突っ伏した。
なぜなら、ここに着いて今まで乗ったのは絶叫系のみ、この遊園地はどうやら地下にもアトラクションが広がっており、最下層にホテル、地上は絶叫系と観覧車という組み合わせらしく、そのせいで上条は今まで絶叫系に美琴が飽きるまで乗っていたわけである。
「縁田の野郎・・・月曜にでもぶっ飛ばす・・・」
などと縁田にすれば八つ当たりもいいとこなのだが、上条に今それを説明しても無駄だろう。
ちなみに開園して少ししか経っていない土日なので、人はかなりいて待ち時間も相当なのだが・・・それでも絶叫地獄を味わうことになった理由。
それは上条の後ろを歩いて入園した美琴が丁度1万人目のお客様、という事でペアのフリーパスというその時は喜べる物を貰ったからだ。
「当麻大丈夫? はい、これ」
と上条にコカ・ゴーヤとホットドッグを渡す、因みにホットドッグは例の2,000円もするお嬢様御用達の物ではない
「それにしても、途中で気分悪くなったなら言いなさいよ」
美琴は無理に絶叫系に付き合ってくれた上条には嬉しく思うが、それで上条がダウンしてしまっては楽しめない。
そこで、食べ損ねていた昼食をとるという事で休憩を入れた。
ただ、全身がシェイクされた様にグッタリしている上条を動かすのは酷なので美琴が注文した物を取りに行ったのだ。
「いや、今日は美琴の好きなようにしようと言った手前、止めるのも野暮だよな・・・と思ったわけで」
ははは、と力なく笑う上条
「当麻が楽しめてないなら私が楽しめる訳ないでしょ」
そう言って美琴は自分の頼んだヤシの実サイダーシェイクというここのカフェオリジナルの飲み物を一口飲む。
「これ、微妙ね・・・そもそもサイダーとシェイクを混ぜるのがまず・・・」
と自分の頼んだものに文句を言う美琴
「ん・・・・美琴、それじゃ少しそれ貰ってもいいか?」
と上条は言うや否や許可を貰う前に飲む。
「ちょ、え・・・とう、ま」
いきなりの間接キスにぽんっと小爆発する美琴
しかし、その上条は「うーん、確かに微妙だな」と全然気にしていない
「当麻・・・間接キス・・・」
と少しして上の空になってしまった美琴の一言を聞いた上条は
「え、あ・・・」
と真っ赤になる。
少し、純粋な二人には恥ずかしいものであった。
しばらくして二人が落ち着いた頃
観覧車は明日乗るとして、このあとはどうする? という話になった。
「地下にあるほかのアトラクションって言っても今日中に回りきれないし、明日もあるんだよな」
と上条はコカ・ゴーヤを飲みながら言う。
「今日は早めにチェックインした方がいいわよね?そうなら、今日は軽めのアトラクションがいいんじゃない?」
美琴は確認する様に上条を見る。
「そうだな、確かこの飲食フロアの下の階層に軽めのアトラクションが集合してるんじゃなかったか?」
そう言いつつ、上条は園内パンフレットを確認する。
二人はやることが決まると下の階層に降りて行った。
□ □ □
で・・・日は落ち
とある学生寮
「ねえ、初春・・・・ホントに明日行くの?」
佐天は初春に連絡を取っていた。
『そーですねー、明日は珍しく風紀委員の仕事もないんで暇なんですよ』
とここ最近仕事詰めだった初春は遊びに行きたいようだ。
「でもねぇ・・・・差出人に心当たりのない友人とのペアチケットって、怪しすぎない?」
『大丈夫ですよ佐天さん、身元も確認しましたし・・・なんなら連絡とって見ます?』
いいって・・・と思っていると・・・
カタンッと郵便受けに何かが入れられる音がした。
「ん? 初春ちょっと待ってね」
そう言って佐天は郵便受けの中を見る。
入っていたのは茶色い封筒だった差出人は例のチケットを送りつけてきた人物
佐天は勢いよく戸を開け、階下を覗いたが・・・・
「誰もいない・・・・」
『どうしたんですか?佐天さん』
少しばかり佐天は恐怖を感じたが
「え、ああ、なんでもないよ」
とそう返した。
その後、明日は遊園地へ行こうという事になり電話を切った。
佐天は少し落ち着いたところで茶封筒を開けて読んでみる。
御坂美琴さんの友人の方へ
もし、この手紙やチケットで怖がらせていたら本当に申し訳ないのですが・・・
あなた方、お二人は御坂さんが上条さんと付き合い始めたことを知っていますね?
しかも、そのことを彼女のルームメイトに伝えて邪魔を入れることなく見守ってくれることに感謝します。
直接この手紙やチケットを理由もしっかり説明してお渡しできればよかったのですが・・・それは叶わないので・・・
で、本題ですが本日からあの二人は遊園地で楽しんでいますので、あなた方も明日、楽しんでいただけたら幸いです。
今、二人のことを知っているのは貴女方と私達の4人だけです、まあ目撃者はたくさんいると思いますが
それでは、よい休日を・・・
縁田汰鶴
という内容であった、読み終わった後には先ほど感じた恐怖は払拭されていた。
「いい人・・・だよ、ね?」
まず思った感想はそれだった。それにしても私達にまでチケットを送る必要はあるのか? と思わないでもない。
初春の情報からするとこの人物は書庫にはLv2で登録されているらしいのでお金持ちとかではないらしいが、美琴と上条を困らせた人物であることはこの手紙で明らかだ。
「罠・・・じゃないよね、私達をはめても意味がないし」
と考えていたが眠くなってきたため、佐天は考えるのをやめ寝ることにした。
・・・・・・・・・・・
とある風紀委員支部
「それじゃ、二人とも戸締りお願いねー」
そう言って固法先輩は帰路についた。
「ではでは、白井さん、私も帰るので戸締りお願いしますね」
そう言って初春も帰路についた。
「ハア・・・・帰ってもお姉様はいないですし、憂鬱ですの」
そう言って白井は帰ろうともせずデスクに突っ伏する。
「説明は後でする・・・と言われましても気になるものは気になるものですの・・・」
白井はあの表面上は頼りない上条の顔を思い出す。
お姉様はあの殿方を好きでいらっしゃいますし、まあ、お姉様は言いませんでしたけどバレバレですの
そう考え、フフッと笑みをこぼす。
「上条さんの前ではお姉様はお姉様らしく振舞えるのですね、私はまだその様なお姿は見ていませんが・・・」
と後半は白井の顔に影を落とす。
「そうですの、私はまだ守られる立場でお姉様や上条さんに肩を並べられるまでに至ってませんの」
白井は上条や美琴に助けられた場面、場面を思い出す。
「ハア・・・ウジウジしてても仕方ありませんの、説明はして貰えるようですし・・・納得がいかないなら上条さんを攻撃すればいいんですの」
と危ないことを考える白井だが、今は誰もそのことにつっ込む者はいない。
目を閉じて気を静めると白井は立ち上がり、支部の戸締りをして帰路につく
□ □ □
時間は少し戻る
上条と美琴は軽いアトラクションを楽しんでいたが時計を見てそろそろチェックインするか、となり最下層に降りた。
「和洋中すべてのホテルがあるんだな」
とパッと見た感想を上条は挙げる。
日本庭園のようなものがある旅館、竹やぶや池のある中国風のホテル、ごくごく普通の洋風のホテルなどである。
「私達の泊まるホテルはあれね」
美琴が指差す先にあったのは後者の洋風のホテルであった。
上条はロビーでチェックインを済ませると荷物を持ち、美琴と共に部屋に向かった。
その間美琴と上条は無言で俯いていた。
チンッとエレベーターが部屋のあるフロアに止まり、上条と美琴はエレベーターを降りて部屋に向かう。
部屋に着くと荷物を置いて一言
「・・・なんで相部屋のダブルベッドなんだ」
二人が俯いていたのはロビーでそのことを知ったためだ、受付の人からは怪訝な目で見られた。
「べ、別に泊まれればいいじゃないっ」
と言いながらも美琴は少し赤くなっている。
「なら美琴はベッドな、俺はいつもみたいに浴槽にでも寝るから」
とそう言って頭を掻いた、恋人になったので一緒でもいいのだろうが多分そうすると理性が危ないと思う上条
「まず飯にしないか?」と相部屋を意識しないところに行きたかったのだが・・・
「ここの夕飯部屋まで直接運んでくれるらしいわよ」
「・・・・・・・・・」
その一言で上条の希望は打ち砕かれた。
しばらく気まずい空気がながれていたが、それも慣れるまでであった。
慣れてから二人は、明日行こうと思うアトラクションや白井にどう説明しようかなど色んな話をした。
コンコンッ「ディナーのご用意が出来ましたので、中に運び込んでよろしいでしょうか?」
とホテルマンの声が聞こえたので夕食にする。
中に料理を運び込んで終ったホテルマンは
「それではカートを外にご用意しておくので食後は乗せて置いてください、回収は10時頃ですので」
と言って礼をして去っていった。
食べ始めて上条は
「やっぱり、美琴の飯のほうが美味いよな・・・」
とホテルにはかなり失礼な一言を言う。
「これも美味しいわよ・・・・でも、ありがと・・・やっぱり当麻には作りがいがあるわ」
嬉しくなる美琴を見て上条も嬉しく思った。
その後も食事を楽しんでいたが、不意に美琴が話題を切り替えた。
「ねえ、当麻・・・このまま楽しく過ごせるなら私はもうレベル5の超電磁砲じゃなくてもいい・・・そんな風に思うの、当麻は今のただの女の子の私は嫌い?」
上条はそれを聞いたが即答した。
「俺は言ったろ? 御坂美琴のことが好きだって、だからレベルも能力も関係ない・・・・もちろん、この先もこの想いは変わらない」
そう言った瞬間、美琴の顔が笑顔になるが・・・・
「なら、同じベッドでもいいでしょ? 当麻」
「・・・・・・・へ?」
上条はいきなりの話題切り替えについていけなかった。
「やっぱり、恋人になったら添い寝とかしてみたかったのよ・・・・・」
と顔を赤くする美琴だが、行動力は今まで以上に上がっているらしい。
上条としてはそれは、今はまだ恥ずかしく出来そうにないのだが・・・・
「今日は私の好きにしていいんでしょ?」
の一言で朝の自分を少し呪いたくなるのであった・・・
「ハイ・・・」
「よろしい♪それじゃ片付けましょうか」
そう言って上条たちは部屋の外にあるカートに食器を載せようとしたのだが、カートには一枚の用紙が置いてあった。
「なんだこれ?」
上条は用紙を取り読んだ。
このようなやり方で大体私が誰かわかると思いますが、一応名乗っておきます。縁田です。
さっきのホテルマンは私が変装していたんですよ?
あ、ご心配なく、料理は正真正銘ホテルのものなので安心して下さい。
そろそろ本題に入りましょう。御坂さんの能力を制限しているのは承知だと思いますが・・・・・・
実は、その能力解除は月曜の朝きっかり7時に行われる事を先に述べておきます。
ちなみに、もう解除はしてありますが認識の拒絶も本来同時に切れるように設定してあったんですよ?
でも、上条さんが本来の気持ちを少しでも出せたことと、御坂さんも気持ちを伝えたことで
もう、大丈夫だと私は判断しました。
残りの明日一日を存分に楽しんでください。
月曜はいつもどおり登校できないと思うので、私は公園のベンチでお待ちしています。
そう書いてあった。
「あいつがしたことは無茶苦茶で美琴を傷つけたかもしれないけどさ、俺らにとっては今を紡いでくれたんだよな」
上条はそう呟いた。
「そう、ね・・・縁田さんは私達の事を考えてくれてたのよね・・・それでも・・・・」
二人の意見は言わなくても一致している・・・感謝はしているが一発殴ってやる・・・だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
用紙は丸めてゴミ箱へ捨て、食器はカートに置いた。
いつもの流れだと風呂に入るのだが・・・ここのホテルどうやら中階層に温泉が入っているらしいのでそこに向かう。
見た目と中身は洋風のホテルだったが施設は洋風とか関係ないらしい。
「それにしても助かった・・・これ以上あの刺激があると上条さんはどうにかなってしまいそうです・・・」
今は美琴と別れて一人寂しく温泉に向かう上条
「卓球台まであるよ・・・ここってもしかしてとんでもホテルなんじゃ・・・・」
もはや初見のイメージとはかけ離れていた。
「お、ここか・・・・」
と入っていった上条は驚いた、のれんが掛かっていた為和風の温泉をイメージしたが
そこには学園都市ならではの最新式のサウナやら最新式の浴槽(温泉対応大型浴槽)がプールのようになっていた。
しかし、プールと違うのは漢祭でむさ苦しいというような感じである。
「今日の疲れを癒しますか・・・」
服を脱いでロッカーに預けて浴室に入る。
そして、頭を洗おうとシャワー前の椅子に腰掛けたのだが・・・横から誰かが声をかけてきた。
「あれ、カミやんなんでここにいるんだにゃー?」
「・・・・・土御門、お前こそなんでここにいるんだよ」
隣人で魔術、科学両サイドに属する男が隣で身体を洗っていた・・・
「ま、こっちから説明させてもらうとだな・・・・・・舞夏がどうしても行きたいと言うもんだから、権力を使ってちょちょいとにゃー」
と、さらっととんでもないことを土御門は言い放った。
「お前・・・そこまでするか? 普通・・・」
呆れる上条だが次に言われることを忘れていた。
「舞夏の頼みならどんなことでもするにゃー、カミやんこそ・・・なんでここにいるのか説明して欲しいぜよ?」
「うっ、それは・・・・ってお前昨日部屋にいたのか?」
と少しでも時間を引き延ばそうとする上条
「いたんだぜい、だから一応会話も聞こえてたぜよ」
そう言って笑ったので上条は一発殴った。
「いきなりとは酷いにゃー、カミやん・・・でも、今舞夏も向こうで会ってると思うぜよ」
ちなみに多分知り合いだにゃー、と付け足してきた。
「はあ・・・なら、俺が話す必要はねえじゃねえか・・・」
そう言って上条は洗い終わった頭を流し、今度は体を洗っていく。
「それにしても、カミやんは色んな事に巻き込まれてくんだにゃー、それで・・・解決はしたぜよ?」
土御門は顔色を変えず聞いてくる。
「ああ、一通りな・・・、あとは周りに説明しないといけないことだけが俺に残った」
上条は俯き目を閉じた。
「カミやんの彼女も大変なんだにゃー、カミやん病の患者は多いから説明だけでも一苦労ぜよ」
と言い、ハッハッハと笑ったのでもう一度殴った。
「だ、だから、いちいち殴るのをやめて欲しいぜよ・・・」
「だったら変なことを言うんじゃねえ・・・」
上条もわかってはいるのだ。説明しないといけないという事は・・・・そして今のところ浮ぶ人物が三人
美琴、インデックス、白井・・・この三人だ。
「ま、どうするもカミやんの自由ぜよ? でも・・・どんな結末でも誰もカミやんを恨まないと思うぜい」
土御門はそう言ってニッと笑う、そして逃げるように温泉に入りに行ってしまった。
「恨まない・・・か、土御門の言う事は間違いじゃねえ・・・後は俺次第だ・・・」
上条は決意を決める。
・・・・・・・・・・
「おっ、みさか、みさかー」と温泉の戸をくぐるといきなり声をかけられた。
「って、土御門・・・なんでいるの?」
と驚く美琴をほっといて話を進める舞夏
「みさかもやるなー、あの上条当麻を落とすなんてー、ちなみに私は義兄に連れてきてもらったんだー」
「あー、そうなの・・・でなんで当麻のこと知ってるのよ?」
美琴としては舞夏が上条のことを知ってることに嫌な予感がしてならない。
なぜなら上条は片っ端から厄介事に手を出し、その度に女の人と仲良くなる・・・と思う。
「あー、それなら心配要らないぞー、うちの義兄が上条当麻の隣人だから知ってるだけなんだー」
の一言に安堵する美琴
「それならいいんだけどさ」
と話しながら二人はシャワー前に腰掛ける。
「それで、それでみさかー、上条当麻とはどこまでいったんだー?」
ぶっ、と吹き出して顔を真っ赤にしたことで何を勘違いしたのか
「そうかそうかー・・・・みさかはもう大人の階段を登ってしまったんだなー、白井が知ったらどうなるだろうなー」
さらに赤くなる美琴をさし置いて、舞夏は話を続ける。
「それにしても、上条当麻がまさかここまで手の早い奴だったとわなー」
などその他諸々恥ずかしいことを言い続ける舞夏、それを美琴は止める事も出来ずに俯きながら顔を赤くしている。
「それでそれでー、みさかー、ホントはまだ付き合ったはいいけど全然進展してないんだなー」
と急にまともな方に話を戻され顔を上げた。
「ふんふん、なるほどなー、全然進展してないのかー」
どうやら最初からおちょくられていたらしい・・・
「わかってたんなら、あーいう事言わなくていいじゃない・・・」
「どーいう事、なんだー? みさかー?」
とフフフと笑う舞夏に美琴は
土御門には敵わないな・・・・と思わざるをえないのだった。
・・・・・・・・・・・・
その後、温泉からあがると上条と金髪サングラスの男が言い合いをしながら合流地点で笑いあっている。
「当麻、待った?」
「お、こっちもさっき来たばっかだぞ」
そうやりとりをしてると
「カミやんは何もわかってないにゃー、そこはさっきじゃなくて今来たばかりと言わないといけないんだぜい」
とハァと溜息をわざとらしくつく金髪サングラスの男
「それよりも喉が渇いたー」
と舞夏が言うので
「それじゃ、お邪魔するのも悪いんで先におさらばするぜい」
土御門兄妹は去っていった。
「「・・・・・・・・」」
あの兄妹は嵐のようだと思う二人である。
そして、二人は部屋に戻るべくエレベーターに乗る。
「やっぱりさ、美琴に隠し事はいけないと思うんだ・・・後で少しそのことで話し聞いてくれるか?」
「・・・・・・うん、わかった」
美琴は何を言われるかなんとなく予想が出来ている、それっきり部屋に着くまで上条は黙ったままだった。
部屋に着き上条は窓際に立った、美琴はベッドに腰掛けた。
「言わなきゃならないことは多分いっぱいある・・・けど今はその中でも伝えなきゃいけないことだ」
上条は目を閉じ
「美琴、お前も知っているインデックス・・・あいつとは去年夏から同居して生活してた・・・それは、あいつも色々人に言えない事情があってかくまっていたんだが他からみれば同居になる・・・多分これからもそうなるかもしれない・・・」
そう言って上条は美琴を見つめる。
「美琴、再度確認する・・・それでも俺と付き合ってくれるか?」
「うん・・・付き合うわよ・・・でも納得はしない、けれど当麻の言ってることもわかる」
美琴はインデックスのことは知っている、上条のいう事にも理解し賛成もする。
だが、納得はいかない・・・多分したくない・・・それでも・・・当麻と別れたくない、ならすることは
「だから、解決するまで私も一緒に手伝ってあげるわよ、そのほうが早いでしょ?」
そう言って美琴は笑ってくれた。
「ありがとう・・・美琴」
上条は美琴に近づき抱きしめた。
「ありがとう・・・」
上条は泣いているようだった・・・
嬉しさなのか、今まで堪えていた何かなのかはわからない・・・それでも美琴はしっかりと上条を抱き返すのであった。
しばらくして上条は美琴を抱きしめていた手を緩め、美琴の隣に座る。
「ごめんな、急に泣いたりして」
と言う上条の頭を優しく撫でる美琴
「いいのよ、たまには・・・当麻はいつも頑張り過ぎてるんだから」
そう言って美琴は上条に微笑む。
「美琴・・・・ごめん」
上条は美琴にキスをした、とても・・・とても・・・短い
「・・・・・・・・・・・」
美琴は自分に何が起きたか理解できなかった・・・・・
それでも、美琴は動いていた・・・・・・今起きたことが現実か確かめるために本日2度目のキスをした。
今度も短いキスであったが、それでも二人は幸福に満たされた気分であった。
「謝んないでよ・・・バカ」
それは小さな声であったが上条には聞こえた。
「わりぃ・・・」
こうして二人は一歩階段を登るのであった。
その後、少し話していたが上条がベッドに寝てしまった。
丁度良く上条の右腕が横に投げ出されているのを見て、美琴は腕枕にして寝ることにした。
「先に寝ちゃう当麻が悪いんだよ?」
と笑って当麻の右腕に頭を乗せる。
近くにある上条の顔、唇を見て先ほどしたキスの感覚を思い出し、顔を赤くする美琴だが・・・
「この時間も明日で終わり・・・か・・・嫌だよ、ね?当麻」
上条に問うが答えてくれるはずもなく、美琴は
「おやすみ、当麻・・・」
そう言って寝ている上条に3度目のキスをした。
そうして上条の懐に入り丸くなって寝るのであった・・・・
こうして共同生活の5日目が終るのであった。
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禁書の二次創作。上琴メインのダラダラ長く書いた話のそのD。原作20巻より分岐した感じです。 | ||
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