外史異聞譚〜幕ノ伍〜
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≪漢中/張公祺視点≫

 

仲達と公祺の邂逅より二日後

アタシは華陀を伴い、漢中へと足を運んでいた

 

驚愕と恐怖に満ちたあの会談の後、司馬仲達は早々に場を辞した

後に残されたのは、いまだ驚愕から立ち直れぬアタシと、それを心配そうに見つめる華陀が残ったって訳だ

 

で、その華陀は一見根拠のない自信と共にアタシに告げる

 

「何があったか俺は知らんが、とりあえず会ってみてもいいのじゃないか?

 その太守とやらに」

 

いざとなれば俺が護ってやる、といい笑顔で告げる華陀に、ようやくいつもの自分が戻ってきた公祺である

 

「な〜にを言ってんだかこのバカ弟子は…

 だいたい、アンタがアタシに勝っているのはいいとこその身長と突き抜けたバカさ加減くらいなモンじゃないか」

 

そう言って豪快に笑う公祺に、それでこそ我が師匠とばかりに大仰に頷く華陀

 

「それならもう心配はいらないな

 で、どうするんだ師匠?」

 

「そんなもん行くに決まってるだろ?

 あの強烈な猫っかぶり仲達ちゃんがあそこまで心酔する太守ってーのが、いったいどれだけの悪人なのか見なきゃ損ってもんさね」

 

公祺の言葉に華陀は首を傾げる

 

「猫被り?

 俺にはそうは見えなかったが…」

 

真剣に悩む様子を見せる華陀に苦笑するしかない公祺がそこにいた

 

「ま、ゴットヴェイドォォォ!!の奥義を極めるのに直進するのもいいけどね

 医なんてもんは結局人間が相手なんだ

 そういう心の機微を知るのもまた修行だよ

 頑張りな、バカ弟子」

 

ますます首を傾げる華陀の肩を叩き、笑い声と共に道場に戻る公祺がそこにはいた

 

 

そんな訳で二人は現在、鎮守府の中にいる

 

予め仲達が人相を含め手配をしていたのだろう、先触れもなく登城したにも関わらず、二人はすんなりと通された

その余りの手際の良さに、思わず呆れ返る公祺である

 

そんな公祺ではあるが、通された客間やそれまでの通路にしっかりと目を配るのを忘れてはいない

 

(んー…

 なんとなく寂しいというか殺風景だねぇ…

 実用的って言えばそうなんだろうが、清潔感はあるのに余分なものが可能な限り削られているな…)

 

住居を見れば人為が判る、とはよく言われるが、ここまで殺風景な城を見るのは初めてである

 

と、茶器を持ってやってきたのは侍女ではなく、仲達そのひとであった

 

「よう、ご招待に応じてお邪魔してるぜ、仲達さん」

 

華陀の空気を読まないバカさ加減に、アタシははじめて感謝する事にした

司馬仲達はといえば、それには当たり障りのない挨拶を返しつつ見事な手際で茶を準備している

それに少々疑問をもったアタシは、別に遠慮する事でもないだろうと考え素直にそれを聞くことにした

 

「茶とはまたおごってるねえ、ここはそんなに裕福なのかい?」

 

「まさか…

 恥ずかしながら、普段は我が君も私も白湯で過ごしておりますよ?」

 

「おやおや、お貴族様とも思えない暮らしぶりだね」

 

「我が君が待ち望んだ来客です

 水杯や白湯で御持て成しする訳にもいきません」

 

相変わらず優美に微笑む仲達の言葉に嘘はない

来客に備えて茶や酒肴は調えてはあるが、現在は一刀の判断で嗜好品や贅沢品に関する出費は可能な限り抑えられている

こと嗜好品に関する限りでいうなら、一刀や仲達よりも侍女達の方が嗜んでいるくらいである

一刀は仲達まで遠慮をする必要はないと言っているが、そこは彼女が頑として拒んでいる

実際は客間もふたつあり、今回は敢えて実務用の装飾を廃した方に案内をさせていた

 

そういった事情を敢えて見せていると察した公祺は、遠慮なく茶に手を伸ばしながら質問を続ける

 

「どんな悪人かと思えば、これまた随分と律してるもんだね

 いったい何を考えているんだい?」

 

それには微笑みを返すだけで答えようとはしない仲達である

まるで

 

「我が君を見れば全てが解りますよ」

 

と…

 

 

なんとなく緊張を孕みはじめた空気の中で、さすがに焦れたのか華陀が言葉を発しようとしたそのとき、すっと視線を外に移した仲達が居住まいを正した

 

「お待たせ致しました、張公祺殿

 唯今我が君であり漢中太守でもある“天の御使い”北郷一刀様が参りました」

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≪漢中鎮守府/北郷一刀視点≫

 

三ヶ月振りに袖を通したフランチェスカの制服と革靴は、なんというか非常に俺に馴染んでいた

何が悪いという訳ではないんだが、どうにも自分がコスプレをしている感覚がしているのがその理由である

 

(うん、今はあまり目立つ訳にはいかないんだけど、やっぱりこっちのがいいよな)

 

侍女には全員、臨時の休暇を取らせているので、足取りも軽く客室に向かう

 

で、司馬懿に指定されたタイミングで来たわけなんだが…

 

(えっと、なに?

 一体なんなのこの緊張感…)

 

いつものように優美に微笑んで下座にいる司馬懿はいいとして、あっけにとられているというか、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている一組の男女はどう対処すればいいのだろう

 

元々威厳やら貫禄やらというものに全く自信のない一刀は、開き直っていつもの自分でいくことにした

 

「えっと、はじめまして

 お待たせしちゃってすいません

 俺が漢中太守の曹元徳です

 とはいってもそれは世を偲ぶ仮の名前っていうか、本名は北郷一刀っていうんですけどね」

 

ぽかーんとしたまま動かない二人にかなり不安になりつつ、一刀は司馬懿へと視線を送る

意味合いとしては

 

(なにかした?)

 

である

対する司馬懿はといえば

 

(さあ?

 たまには我が君の真似をしても罰は当たらないでしょう?)

 

という、投げっぱなしジャーマンさながらの放置っぷりだ

その仕種となんとなく機嫌よさげな様子に、意趣返しをされているんだな、と推察する

 

(そういえば、爆弾発言して思考能力奪うのって、元々俺が懿にやってたんだっけ…)

 

こういうのを因果応報っていうんだろうな、と思いつつ途方に暮れていると華陀が呆然としながらも言葉を返してきた

 

「あ、あんたが管輅が占いでいってた天の御使いなのか…?」

 

「確証はできないけど多分ね」

 

あっけらかんと答える一刀に言い募ろうとする華陀だったが、張公祺に制されて押し黙る

張公祺は、席を立ち、表情と仕儀をを改める

 

「失礼を致しました

 私は張公祺、隣に控えますのが高弟の華陀と申します

 本日は我らゴットヴェイドォォォ!!をお招きいただき、ありがとうございます」

 

予想に反してきっちりとした礼に面食らう一刀である

 

「あ、いや、なんというか、呼びつけたのはこっちなんでね

 そう畏まられても話がし辛いだろうし、無礼講とは違うけど話しやすいようにしてくれて構わないよ」

 

そう言いながら仕種で着席を促し、用意されていた席に座る

そして、場が落ち着くのを待って本題に入ることにした

 

「実は回りくどいのは苦手でね

 わざわざ足を運んでもらったのは他でもない、先日仲達に届けてもらった書状の件なんだ」

 

視線で先を促す張公祺に頷き、一刀は話を進める

 

「仲達から聞いたと思うけど、俺は実は天の御使いってやつで、ある目的のために回りくどくも一般の人間として官位をもらって、身分を隠して太守をやってる

 それで、太守になってやりたかった事のひとつが、君達五斗米道…ああ、この世界ではゴットヴェイドォォォ!!なんだっけか

 ともかくもその理念と方向性は共に歩めるものだと知っていたから、こうして来ていただいたって訳なんだ」

 

ここまで一気に話した一刀に対する各々の内心はこのような感じである

 

司馬懿は

(ああ…

 我が君までが残念な人達と一緒のところにいってしまわれた…)

と心で涙し

 

華陀は

(素晴らしい!

 さすがは天の御使いだけはある、我らがゴットヴェイドォォォ!!を過たず一発で完璧に発音してみせるとは!)

と感動に打ち震え

 

張公祺は

(一発で完璧に発音してみせるのは確かにすごいけど、話の内容に気になる部分が多すぎる

 こりゃあ覚悟を決めないと食われっちまうね…)

と警戒と疑念を顕にした

 

そして、疑念を隠そうともせずに一刀に問いかける

 

「えっと…この場合は天の御使い様、と呼ぶのがいいのかね?」

 

「呼びやすいように呼んでくれて構わないけど、できれば北郷か一刀がいいかな?」

 

「ま、呼び方は後でもいいよな…

 で、聞きたいというか確認なんだが、これってここまで話した以上、首を縦に振らなきゃ殺すって意味なのか?」

 

張公祺の言葉に素で驚く一刀である

 

「えっと、ちょっと待ってくれ

 どうしてこの話の流れで殺すってことになるんだ?」

 

それにいや〜んな笑顔で応える張公祺

 

「そりゃあそうだろうさ

 アタシには

 『秘密を教えたんだから従わなきゃ口を封じるぞ』

 と言ってるようにしか聞こえないね」

 

そう言われて思わず“ぽんっ”と音がしそうな感じで一刀が手を叩く

 

「あ、なるほど確かに…

 うん、これは俺が急ぎすぎたね

 まあ、ここで張公祺さん達を殺すとか帰さないとか、それは絶対にないから安心してくれていいよ

 理由は簡単で、ここで貴女達になにかあれば、ゴットヴェイドォォォ!!を慕う多くの人達が暴動を起すのはほぼ確実だからね

 今の俺達にはそれを押さえ込む力はない

 だからそれは絶対にないよ」

 

張公祺は疑念を隠さないままその言葉に首肯し、次の疑問をぶつける

 

「じゃあ、天の御使いって風評を利用しないのはなぜだい?」

 

「それも簡単

 今の漢室に天の御使いなんてものが出てきたら、宦官にいいように扱われてその挙句暗殺されるだけだからさ

 ただ、将来のために俺も自由に切り回せる拠点が欲しい

 だからこうやって太守をやっている、という訳さ」

 

「太守をやるってことは、アンタも結局権力が欲しいだけなんじゃないのかい?」

 

それにはしばし考え込む一刀である

 

「そうだなあ………

 色々ひっくるめて国力って言っちゃうけど、それを自分の構想に沿うように扱うための権力は確かに欲しいかな

 贅沢したりするための権力はいらないけど」

 

子供が飢えて指を咥えている横で菓子を食うような権力はいらないな、と呟く

 

「俺は、今俺が考えていることを最初に理解できるのは仲達だと思うし、事実その通りだったんだけど、それで彼女を口説いてこうして一緒に来てもらっている

 でもね、それをこの世界で一番最初に“政治”として実行できるのは張公祺、貴女だと思ってるんだ」

 

実は一刀のこの言葉にはかなりの誤解があるわけだが、結果としてそうなっているので彼は気付かないままである

仲達はいまだ一刀の構想を“一刀が考えているようには”理解してはいないのだから

 

そんな内情など張公祺に判れというのもまた酷な話だ

なにせ一刀は思ったことをそのまま言っている訳だし、司馬懿は大陸一といってもいい、鉄壁の猫を被っている

 

「で、結局アンタ、一体なにがしたいんだい?」

 

「例え話になるけど、怒らないで聞いてくれるかな?

 ゴットヴェイドォォォ!!は世襲で教主が決まるよね?」

 

「まあ、そうだな」

 

「で、その時に信者から圧倒的な支持を得ている高弟と才も人間性も劣る直系、張公祺なら恐らくは後者を選ぶよね?」

 

その通りなので張公祺は素直に頷く

 

「俺が考えてるのは前者が選ばれる世界なんだよ

 指導者は世襲や一部の特別な人間であってはならない

 そして選んだ人間はその結果に責任を負わなければならない、そういう世界なんだ」

 

張公祺はしばし黙考する

一刀が発した言葉を無理やり噛み砕いて飲み込むために

 

(相当な覚悟をしていたけど、こりゃアタシじゃどうにもならんかも知れん…

 悪人ならまだしもコイツの中身はバケモンだ)

 

そこに一石を投じたのは、それまで無言を貫いていた司馬懿だった

 

「我が君は、100年の後には民衆が皇帝を選ぶ世界

 家柄でも血筋でもなく、その人柄と能力によって指導者が選ばれ、選んだことによって起こる全てを民衆が自分の責任と受け入れる事ができる

 そういう未来をお考えなのです」

 

唖然とするふたりを咎めることもなく、司馬懿は柔らかく言葉を続ける

 

「今の世界は民衆は何を選ぶ事もない代わりに、政治に対して責を追う事もまたありません

 王が帝が選んで与え、放棄されているとしても責を負う、これが“当前”の事なのです

 しかし、我が君が志操する未来は違います

 民衆が考え、選び、自ら掴み取り、そして支える

 それこそが“太平”だとお考えなのです」

 

それに応えたのは張公祺ではなく華陀だ

 

「俺はいまひとつ理解できていないと思うんだが、太守が俺の師匠を認めているのは、その行動で民衆に支持されているから、という事か?

 ただしゴットヴェイドォォォ!!の次の指導者は、血筋ではなくあくまで実力であるべきだ、と、そういう事なのか?」

 

それに笑顔で首肯する一刀

 

「華陀さんが今言った事で大筋は合ってるよ

 世襲が悪だとは言わないけれど、知識や技術も含めて、最終的には広く世間に流布し門戸を開くべきだと思う

 どうしても継ぎたいのであればそれに至る努力をするべきだし、そういった事柄を悪用しようとする輩を排斥できるよう、法と律をきちんと定めなければならない」

 

冷めかけた茶を手に取りながら話を続ける

 

「そのためには民衆が最低限の努力と労働を課されるのが基準にはなるけど、そうして衣食住が十分に整えられなきゃならない

 “衣食満ちて礼節を知る”とも言うけれど、生活に余裕がなければ勉学には手が届かない

 健康や社会に不安があるうちは明日を見る事などできはしない」

 

間を取るようにゆっくりと茶を口に含む

 

「俺が今、身を偽ってまで権力を得て、時期を見て大陸に覇をなそうと考えるのは、そういった“下地”を整えるためだ

 それが俺がこの大陸に与えられる“太平”だと、そう信じている」

 

そう言って表情を引き締める一刀に、恐らく今はじめてといってもいいだろう、張公祺が真剣な表情で向き直った

 

「今までの太守に対する言動をお詫び致します

 その上で改めてお尋ね致します

 今太守がお考えになっているのは“民衆が自分のために税を納め、民衆が選んだ人物がそれを活用する社会”である事に間違いはございませんか?」

 

それにしっかりと首肯する一刀

 

「であれば、残念ながら私は太守の意向に添う事はできません」

 

その言葉に思わず声をあげそうになる華陀を制し、言を繋ぐ

 

「しかしながら、お話の趣旨は十分に理解できました

 ですのでしばしのお時間を戴きたい

 なぜなら…」

 

ここでいつもの豪快な笑みを満面に浮かべ

 

「アタシは道場に戻って皆に聞かなきゃならないからね

 アタシがゴットヴェイドォォォ!!の教主として、今のままアンタについていっていいのかを、さ」

 

張公祺の言葉に一刀の笑顔のギアが全開になる

それを見て一気に顔どころか指先まで真っ赤になった彼女を誰も責められまい

隣で見ていた司馬懿にしてからが、表面上は変わらないものの、内心では溶けきって既に原型をとどめていなかったのだから

 

「ちっくしょー…

 一体今度の太守はどんな悪人かと思って来てみりゃあ、中身はバケモンでその上天然のコマシ野郎ときたもんだ…

 勝負になんかなんねぇよこりゃ…」

 

素晴らしい笑顔だ流石は天の御使い、と感心するバカ弟子に恨みの視線を送りつつ、ひとり呟く張公祺である

 

そうして先程までの緊張感が嘘のように解け、自然な流れとして酒肴の席が供される

 

和やかに席は流れ、それもそろそろ終わろうかという時に華陀が発した一言が、和やかだった宴席を全てブチ壊したということを、当の華陀と一刀は全く理解していなかった

 

「そういえば一刀、お前が天の御使いであろうとなかろうと、俺と魂の兄弟であるのは変わらないわけだが」

 

「待ってくれ、俺はいつお前と魂の兄弟なんかになったんだ?」

 

「まあ、細かい事は気にするな!

 それでなんだが」

 

「細かくないけどまあいいか…

 で、一体なんだ?」

 

「今は名を隠してるといったが、一体何時頃それをやめるつもりなんだ?」

 

その言葉に凍りついたのは、宴席の参加者であったのか、それとも世界であったのか…

 

 

「そうだな…

 もう5年くらいで多分、今上帝・劉宏が死ぬだろうから、その前後になると思うよ?」

 

 

それは、天の知識でくくるにも受け入れ難い、あまりにも恐ろしい一言であった

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≪漢中鎮守府/北郷一刀視点≫

 

無事といえるかどうかは判らないが、数日後には張公祺を含めた五斗米道の人達が漢中鎮守府下に移住してきた

 

早速一刀は、鎮守府の一部を仮の道場として解放すると同時に、司馬懿と三人ですり合わせて街道と邑や鎮守府の区画整理の草案を立てることにした

 

張公祺が幕下にきたことで、特に治安に関する問題は大きな進展を見せたといっていい

元々俺が想定していたのは、都市計画として一定の区画を設けた上で、区画の内容や人口比率に応じて役所を置き、有事の際には警備兵をそのまま守備兵として起用する、という常設兵の設置だった

これに張公祺の構想と五斗米道の信者が加わることにより、救急病院としての性格を付加させた上で警備の指揮をとれる人間を各所に配置することができる、という訳だ

 

張公祺が言うには、鎮守府を中核として街道で邑を繋ぎ、要所に休憩所を設置してこういった役所と同じ性格を持たせることができれば、治安を含めかなり効率的な改善が見込めるはずだ、とのこと

 

旅の安全は人民の流れになり、それは国力の増大に向かうという道理は俺も司馬懿も納得ができたので、収穫期後に予算を組み、農閑期に一部を試験を兼ねて実行しよう、という事で大方針はまとまった

 

(まあ、パーキングエリアを作って消防と警察と診療所を置こう、ってことだよな)

 

張公祺としては、自分の構想の基礎がはじめられると聞いて目を輝かせているが、国をひとつ根底から作り直すような大事業である

 

俺が洛陽に向かった際に国力を底上げするための手はいくつか打ってはいたが、ここにきて再度痛感している事がある

それは圧倒的な人材の欠如である

 

特に、これをこのまま3人で推し進めるとすれば、俺や張公祺はともかく、司馬懿の負担が異常に高くなる

この世界における“軍”や“兵”とは、すなわち国が直接動かせる最大の“労働力”である

その管理に訓練、行動計画の総括を司馬懿ひとりにやらせるのは恐らく可能だ

だが、それでは遠からず潰れてしまうのは誰の目にも明らかなのだ

となれば積極的に人材を求めるしかなく、その機会は今を置いて他にはない

 

そう考えて、俺は詮議の席でふたりを前に次の思惑を披露することにした

 

「ふたりとも聞いてくれ

 俺はこれから、懿に旅に出てもらおうと思っている」

 

その言葉に先に反応したのは公祺だった

 

「仲達ちゃんを旅に?

 ぶっちゃけるけどさ、そんな余裕どこにもないと思うんだけど?

 今でも既にカツカツだってーの、一刀だって判ってるだろ?」

 

視線で同意を示す司馬懿

そんなふたりに笑顔を返しながら、俺は目的を説明する

 

「確かに余裕は全くないんだけどね

 このままいけば、遠からず人材不足で漢中は破綻する

 実はそういった点で言うなら、人材さえ整えば国力を一気に引き上げられるだろう策も既に仕込んである

 懿は知ってるだろ?

 洛陽に行った時に世話になった商人に、俺がいくつか買い物頼んでたの」

 

それにゆっくりと首肯して司馬懿が答える

 

「確か、豚に兎に鶏の親種、それと蕪に小麦に蕎麦、大豆と胡麻の種、あとは椿と林檎と楢と樫の苗木、でしたね

 兵糧に換算すれば10万の兵を1年は食べさせられるくらいの資金をあてていた、と記憶しております」

 

なんだその馬鹿げた量は、と公祺が呟く

 

「ま、どれをどのように活用していくかは公祺には後で説明するとして、とりあえず国力を引き上げ産業を確立するための下準備は仕込んである

 そうなると問題になってくることがあって、それがこれから懿に旅に出てもらおう、という理由なんだ」

 

続きを促す視線に、一刀は頷いて応える

 

「募集をして人材を集めるのも当然やるけど、今はそれでは絶対的に人が足りない

 なので懿には旅に出てもらって、俺が天の知識で知っている人材を集めてきて欲しい、ということなんだ」

 

何人集まるかは判らないけどね、と呟く一刀に得心がいったのかしっかりと頷くふたり

 

「公祺に頼んでもいいのかも知れないけど、多分公祺のお弟子さん達は君がいないと動いてはくれない

 それに、この地域の人々の人望を考えてもどうしても外せない

 つまりは、今の漢中を支えられるのは張公祺しかいないってことだ

 他にも懿を推す理由はあって、俺が求め考える人材を的確に見抜き、思想を理解してもらった上で口説くのは、司馬仲達以外の他には絶対にできないことなんだ

 なぜなら、懿がいなければ、そもそも今の俺はなかったわけだしね」

 

そう言って最早固有スキルともいえる“天然人誑し”な笑顔をふたりに向ける

 

かたや爪の先までを真っ赤に染め、かたや微笑みを浮かべて硬直している二人を気にも留めず、一刀は暢気に会議を進める

 

「まあ、それは後できちんと煮詰めよう

 まずは目の前にある課題を片付けるとしようか」

 

 

そんな一刀に内心で盛大に罵声を浴びせながら、それでも従う司馬懿と張公祺であった

説明
拙作の作風が知りたい方は
『http://www.tinami.com/view/315935』
より視読をお願い致します

また、作品説明にはご注意いただくようお願い致します

当作品は“敢えていうなら”一刀ルートです

本作品は「恋姫†無双」「真・恋姫†無双」「真・恋姫無双〜萌将伝」
の二次創作物となります

これらの事柄に注意した上でご視読をお願い致します


その上でお楽しみいただけるようであれば、作者にとっては他に望む事もない幸福です

コラボ作家「那月ゆう」樣のプロフィール
『http://www.tinami.com/creator/profile/34603』
機会がありましたら是非ご覧になってください
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コメント
田吾作さま>即時に理解というならこの二人で打ち止めでしょう(小笠原 樹)
通り(ry の名無しさま>医者やらせとくには100人分は働きますからなあ、恋姫無双の華陀は(笑)(小笠原 樹)
他の外史だと呼ばなくても勝手に優秀な人材が転がり込んできたからなぁ……使える人材が一人(将来的にはもう一人+)だけじゃロクに機能しないわな。さて、この遠大な理想を語っても尚ついていける人間はいるのやら。(田吾作)
華佗の存在がこうなるとありがたいなぁ。(通り(ry の七篠権兵衛)
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