赤いサテンの白雪姫 |
1
テロップ「二十一世紀初頭、子供たちの世界には異変が起きていました」
早朝。ランドセルを背負った、一人の小学生がビクビクしながら、道を歩いている。
登校の途中らしい。
道の左右は高い塀が続いており、すれ違う人はほとんど居ない。
小学生の視線が、道のはるか前方をとらえる。そこには、一匹の異形の怪物が立っている。
童話に出てくる鬼や魔物に似た姿をしている。
その怪物の方も、小学生の姿を発見し、嬉しそうに顔を歪ませる。
小学生の方は、半泣きの表情になり、ワッと、今来た道を走り引き返す。
曲がり角を超えた時、小学生は、ドンと何者かの体にぶつかってしまう。
転んでしまった小学生が見上げると、相手は今見た怪物である。
怪物は、小学生を見下ろして、残忍な笑顔を浮かべる。
逃げ場を失った小学生は、絶望し、大粒の涙を流している。画面が真っ赤にフェードアウトする!
テロップ「子供たちが、怪物の姿を見るようになり、あちこちで襲われるようになったのです。
しかし、この怪物たちの姿は、大人には見えませんでした」
ある小学校の教室内。授業中にも関わらず、席が半分ぐらいしか埋まっていない。
まるで、インフルエンザが流行って、学級閉鎖直前のクラスみたいである。
テロップ「襲われた子供たちは行方不明となり、世界規模で子供の人口が激減しました」
2
テレビの生放送。子供たちの集団蒸発事件について扱ったニュース特番である。
スタジオでは、高名なる精神科医・光明寺りつ子が、インタビュアーに色々と意見を語っている。
光明寺りつ子。別名・催眠術ラリー。四十代ぐらいの知性派美人である。
ただし、いまだ独身(笑)。
世界有数の心理学者で、特に催眠術の研究に長けている事から、催眠術ラリーの異名を持つ。
インタビュアー「それでは、光明寺さんのこれまでの調査では、
この不可解な子供たちの集団蒸発事件には予兆があったとおっしゃるのですね」
光明寺「はい。ここ数カ月ほど前から、私の個人医院にも、
ノイローゼ気味の子供たちが多数、治療に訪れるようになっていました。
その子たちの共通点は、いずれも、怪物の姿を見る、と言うものだったのです」
インタビュアー「怪物・・・ですかぁ?」
光明寺「そうです。そのような症状を訴える子供たちが急激に増え出してから、
例の集団蒸発事件も始まったのです。
実際には、同じ奇病に冒されていた子供たちがもっと大勢いた事が、
あちこちの精神病院の報告から確認されています」
インタビュアー「しかし、そのような幻覚症状と集団蒸発事件がどう関わっていると言うのでしょう?
居もしない怪物なんかと」
光明寺「そこなんです。私も、よく分からないのは。
でも、子供たちは、皆、自分が怪物に襲われる恐怖を訴え、真剣に護衛を頼んできました。
そして、そのような子供ほど、早く、謎の蒸発をしてしまったんです」
インタビュアー「分かりませんねえ。
では、光明寺さんは子供たちが事実を語っていて、
怪物に襲われて、喰われてしまったから、姿を消してしまったとでも?」
光明寺「何とも言えません。しかし、大人には見えなくなってしまったものが、
純粋な子供たちの心なら、まだ目にする事ができると言う事なのかもしれません。
私には、子供たちが、ただウソをついているだけとも思えないのです」
インタビュアー「そうでしょうかね。
私には、一般に噂されているように、
子供を大量にさらう犯罪組織がらみの事件だと考えた方が無難のような気もするのですがね」
そこで、ディレクターの「カット!」の声が飛ぶ。
光明寺の出番の放送シーンが終了し、急速にスタジオ内部の片付けが始まる。
退場しかけた光明寺に、インタビュアーがねぎらいの声を掛ける。
インタビュアー「光明寺先生。今日は、色々と興味深い話をありがとうございました。
でも、私には、やっぱり、先生のお話は、事件の核心には触れてないような気がするんですけどね。
真犯人は、恐らく、子供ばかりを狙った大規模な誘拐組織じゃないのかな」
光明寺「(きっぱりと)この子供たちの集団蒸発事件は、全世界規模で起きているんですよ。
しかも、先進国の方が子供の蒸発率が高いと言う報告も受け取っています。
これほど広範囲で、深刻な事態だというのに、
なぜ、犯人と推測される誘拐組織の足取りが全く掴めないのですか?
この事件には、きっと、もっともっと恐ろしい秘密が隠されているんだと思います」
3
テレビ局を出た光明寺が、昼間の町中を歩いている。
人どおりは極端に少ない。特に、子供の姿はまばらにしか見当たらない。
その事が影響しているのか、大人たちも、誰もが暗い表情をしている。
光明寺の心のつぶやき「怪物を見ると言う症状を訴えたのは、
一番年上で十七歳ぐらいの子供までだった。
年齢的に、大人と子供を区別する境界線でもあったのかしら。
そして、この怪物幻視症を訴える患者は、最近、ピタリと息を潜めてしまった。
蒸発事件の方はいまだに発生していると言うのに、幻視症の方だけ突然おさまったとは思えない。
本当は、今でも怪物の姿が見える子供たちは沢山いるはずに違いないわ」
光明寺は、周囲を見渡しながら、考え事を続けている。
ふと、光明寺の目に、下校途中の一人の小学生の姿がうつる。
小学校高学年ぐらいの可愛らしい少女である。
光明寺は、それとなく、少女のそばに近づき、声を掛ける。
光明寺「(にっこりとほほえみ)ちょっといいかな?
おばさん・・いえ、おねえさんと、少しお話しない?」
少女は返事こそしないが、明るいまなざしで光明寺の顔を見つめている。
その時。
声「のん!何やってるのよ。早く、こっちにおいでよ」
声の方に目を向けると、少女のクラスメイトらしき小学生たちが数人でたむろしている。
のんと呼ばれた少女は、困った表情になり、
おろおろと光明寺のそばから離れると、友人たちのもとに早足で向かってしまう。
あとには、光明寺一人がポツンと残されてしまう。
友達と合流したのんは、皆から責められる。
友人A「ダメじゃない!皆から離れたりしたら。一人でいるのが一番危ないのよ」
友人B「今のおばさんと何を喋ってたんだ?どうせ、大人に話したって無駄だよ。
信じてくれないんだから。大人たちには怪物の姿が見えないんだよ」
友人C「自分たちの事は自分たちで守るしかないんだ」
のんは無口な性格らしく、皆から言い寄られても、弱っているだけで、
何も言い返そうとはしない。
4
子供部屋のベッドの上で、一人の子供がガクガクと震えている。
そばには両親が心配そうに付き添っている。
子供「(わめく)ほんとだよ!そこに怪物がいるんだよ!ボクを捕まえて、喰おうとしてるんだ!
なんで、パパとママには分からないの?」
子供が指さした部屋の片隅には、子供の視線では、確かに、恐ろしい姿をした怪物が立っている。
しかし、両親の視線だと、そこには何の姿も見えない。
困惑する両親は、お互いの顔を見あうと、ゆっくりと部屋の出口の方へ向かう。
母「(我が子へ)すぐ戻ってくるから、ここでおとなしくしてるのよ」
子供「(泣きながら)ダメだよ!一人にしないで!その間に殺されちゃうよ!」
しかし、両親はすがる子供をふりきって、部屋から出ていってしまう。
部屋には、泣き顔の子供と怪物だけが残される。
怪物は、この時が来るのを待ってたかのごとく、残忍な笑みを浮かべる。
子供の方は、しわくちゃな泣き顔の上、絶望から血の気までひいてしまう。
子供部屋のちょうど外の廊下では、
我が子の異常を見て、心身ともに疲れ果てた妻の事を夫が優しく抱きしめてあげている。
そこで、子供部屋の中から我が子の悲鳴が聞こえてくる。
びっくりした両親は、慌てて、子供部屋の中へと飛び込む。
しかし、そこには、すでに愛する我が子の姿はなく、無人の状態である。
5
路上に立っていた光明寺がポンと手をたたく。
光明寺「そうだ!私自身が子供に戻ってみて、子供の立場を体験してみたらいいのよ。
なぜ、すぐに気が付かなかったのかしら」
光明寺は、目を閉じて、自分の胸に両手をあてる。
光明寺の心のつぶやき「私は一流の催眠術師。自分で自分に自己暗示をかけてみましょう。
心だけ子供に戻るのよ」
光明寺がゴニョゴニョとつぶやく。
催眠術の文句らしいが、何となく、呪文を唱えている感じにも見える。
そして、光明寺が目を開いた時、世界が大きく変わっている。
(光明寺の姿自身、大人の今の彼女と小学生ぐらいの頃の彼女の姿がオーバーラップする)
太陽はまばやく、世の中は明るく見え、周囲が下から見たような眺めになっている。
幼い子供たちが、まだ慣れない世界へと感じる、希望と未知への関心にあふれた状態である。
なんとなく嬉しくなってきた光明寺は、笑みを浮かべ、スキップしながら歩き出す。
6
子供心に返った光明寺が、楽しそうに町の中を歩いている。
何もかもが新鮮に見えて、彼女の心は弾んでいる。
店の前に並んだ品物も、電信柱も、すれ違った野良犬さえもが、
光明寺の目には、とても素敵なものに写っている。
そんな光明寺の顔に、ふと、暗い陰りがよぎる。映画館の立て看板が目に入ったのだ。
何かのSF映画のイラストらしいが、醜悪なモンスターの姿が大きく描かれている。
光明寺が視線をそらし、本屋の店頭に目を向けると、そこには沢山の雑誌が並べられている。
中には、ホラー雑誌も何冊か混ざっており、
それらの表紙には気味の悪い幽霊の絵が毒々しく描かれている。
やや気分を害した光明寺は、早足で、この通りを駆け抜けてゆく。
7
子供になった光明寺が、小さな公園の前にまでやって来る。
公園の中を覗くと、あの「のん」と呼ばれた少女が、一人でブランコで揺れている姿を発見する。
光明寺は目を光らせ、公園の中に入ると、さりげなく、のんのそばに近づく。
光明寺「(のんへ)あたしもブランコにのっていいかな?」
のんは、きょとんとした表情で、光明寺の顔を見つめる。
光明寺は、返事も聞かずに、隣のブランコに腰掛けてしまう。
光明寺「さっきは、ごめんね。いきなり話しかけたりして。驚いた?」
のんが静かに首を横にふる。
光明寺「お友達はどうしたの?一緒に帰らなかったの?」
のん「(ポツンと)のんは一人で居る方が好き」
ようやく、のんが喋ってくれたので、光明寺の表情も明るくなる。
のん「でも、皆がダメだって。一緒にいた方が安全だって。
・・・ねえ、おばさんって、他の大人のひととは違うような感じがする」
光明寺「(喉をつまらす)お、おばさん?や、やだなぁ、あたし、こう見えても、まだまだ若いのよ」
のん「(慌てて)ご、ごめんなさい」
光明寺「そうだ。ラリーって呼んで。あたしの小さな頃のあだ名よ」
のん「ラリー?」
光明寺「(ほほえみ)そう。なんか、外国人っぽくて、かっこいいでしょう」
のんの顔にも笑みがこぼれる。ようやく、打ち解けてきた感じ。
二人は、そのまま、並んでブランコで揺れ続ける。
ひっそりとした公園の中に、他に訪れる者はいない。
光明寺「(つぶやくように)この公園も、ほんの数カ月前までは、沢山の子供たちが遊んでいたのにね。
なんで、こんな事になっちゃったのかしら」
のん「大人には分からないのよ。話しても本気で信じてくれない」
光明寺「(心をこめて)そんな事ないよ。のんちゃんみたいな良い子がウソつくはずないもん」
その時、光明寺の目が、公園の入り口あたりに釘付けになる。
そこには、恐ろしい姿の怪物が立っていたのである。
怪物は、光明寺たちの方をじっと見つめている。
光明寺「(さりげなく)なに、あれ?映画のロケでもやってるのかしら」
光明寺のその言葉に、のんが過敏に反応する。
のん「ラリーさん、あの怪物が見えるの?」
光明寺「(きょとんと)だって、あそこに居るでしょう」
のん「信じられない。大人には見えないと思っていたのに。
・・・逃げなくちゃ。捕まったら、殺されちゃうわ」
光明寺「どういう意味?やはり、子供たちの話は本当だったの?」
怪物は、ゆっくりと光明寺たちの方へ近づいてくる。
ブランコから降りた光明寺とのんは、急いで、公園の反対側の出口の方へと走り出す。
8
一本道を、光明寺とのんが、手をつないで、走っている。
光明寺「(のんへ)ねえ、どういう事?あれは一体、何者なの?宇宙人?ロボット?
それとも、地獄から来た化け物?」
のん「分からない。何も分からないのよ。ある日、突然、現われるようになったのよ。
でも、子供にしか見えないから、大人は何もしてくれないの」
光明寺「さっき、殺されると言ったわよね。捕まったら、どうなっちゃうの?」
のん「それも分からない。
でも、のんは、一緒にいた友達が捕まったのを見た事があって、
その子は恐ろしい殺され方をしちゃった。
だけど、そのあと、その子の死体は見つからなくて、
大人たちは行方不明と言う事ですませちゃったの」
光明寺「それが集団蒸発事件の真相なのね」
光明寺は、走りながら、考え事を始める。
光明寺の心のつぶやき「あたしが小さい頃は、
不気味な怪物や残酷な拷問とかが出てくるお話が大好きだった。
本当は怖かったくせに、なぜか、とても気になったのよ。
あたしが聞きたがるものだから、
親も、あたしを喜ばせるつもりで、お化けや幽霊の本を沢山買ってくれた。
おっかないテレビを見る事も許してくれた。
あの怪物と会って、そんな昔の記憶を思い出してしまったわ。
小さな子供は、脳の情報処理能力が未発達な為、
現実と空想の区別がつかず、虚構の物語さえも本当の出来事として理解すると言う。
あの怪物も、そんな幼い子供たちの想像力が現実世界へと引き入れてしまったものなの?
沢山の子供たちがそれを真実だと判断した時、それは現実にと変わるのよ!」
9
走り逃げてきた光明寺とのんが、十字路にまでやって来る。
しかし、二人は、そこで立ち止まってしまう。
十字路の四方向から、ゾロゾロと怪物がやって来たのだ。
その容姿はさまざまで、それこそ、古今東西の怪物が集結したかのような雰囲気である。
怪物以外に、他に人の気配はない。光明寺とのんは、完全に怪物たちに取り囲まれてしまう。
光明寺の体にしがみつくのんはおびえていて、抵抗しようと言う気力を完全に失っている。
光明寺の方も、恐怖で顔が青ざめ、体が小刻みに震えている。
光明寺は、必死に最後の勇気を奮い立てて、自分たちを包囲している怪物たちの姿を見渡す。
光明寺「(叫ぶ)あなたたちは、一体、なに?なぜ、あたしたちにこんなひどい事をするの!」
怪物たちは、ニヤニヤしながら、怯える光明寺たちの姿を観賞している。
怪物の一人「知らないよ。オレたちは、殺したいから、お前たちを殺しているだけだ」
光明寺の心のつぶやき「(がくぜんと)こいつらは、子供の敵よ!
子供たちの未来を食べる化け物なんだわ!」
怪物たちが、ジワジワと光明寺のそばに近づいてくる。
絶望した光明寺とのんが、同時に、大きな悲鳴をあげる。
その時。
光明寺の頬に、白くて、冷たいものがかすめる。
光明寺「(ハッとつぶやく)雪?まさか、今はそんな季節じゃないわ」
しかし、雪が本当に降っている。しんしんと辺りを白く塗り替え始めている。
この突然の異常気象に驚き、怪物たちも動きを止め、空を見上げている。
一陣のつむじ風が舞い、降りかけた雪をまきちらす。
その為、一瞬、周囲の風景がよく見えなくなってしまう。
そして、静寂する中、いずこから鈴の音が聞こえてくる。
澄んだ空気にきれいな鈴の音が共鳴し、今の殺伐とした状況に大きな違和感を与えている。
光明寺らも怪物たちも、鈴の音がする方向へと目を向ける。
そちらの方向からは、一人の少女がゆっくりと歩いて、近づいてきている。
年齢は、小学校高学年ぐらい。透き通るような白い肌をした美少女である。
サテン織りの白いドレスを着ており、
帽子も白、手袋も白、ハイヒールも白と、全体を白で統一している。
鈴は彼女のハイヒールの踵部分についており、彼女が歩くたびに、高い金属音が鳴り響くのだ。
この謎の美少女は、怪物たちを前にして、立ち止まる。
怪物の一人「(美少女へ)きさまは誰だ。オレたちとは違う臭いがする」
別の怪物「何者なんだ。オレはお前のことを知らないぞ」
さらに別の怪物「こいつは敵だあ!オレたちをかき乱しに来たんだ」
怪物たちはいっせいにうなり声をあげて、光明寺たちへの包囲網を崩すと、
ぞろぞろと美少女の方へと寄ってゆく。
怪物の一人「(どなる)異物を排除しろ!こいつを殺せえ!」
美少女も、手にしていたステッキをさっと振り上げる。
ステッキの外面が外れ、刀となる。このステッキは、仕込み杖なのだ。
先頭の怪物たちがわっと美少女に飛び掛かってゆく。
美少女も機敏に対応し、怪物の攻撃を軽やかにかわすと、素早く刀で怪物を斬り倒す。
真っ赤な返り血がビチャリと美少女のドレスを汚す。
かくて、恐ろしい戦いが始まった!
怪物たちは四方から美少女に飛び掛かってゆくが、
美少女は圧倒的に強く、次々に返り討ちにしてゆく。
美少女の攻撃には手加減がなく、群がる怪物たちを片っ端から八つ裂きにして殺してゆく。
美少女の刀で切断された怪物たちの頭や手足が宙を舞う。
怪物を一匹殺すたびに、美少女は怪物の返り血を浴び、その姿は次第に赤く染まってゆく。
彼女が動けば、ハイヒールについた鈴の音も鳴り渡り、
実にリズミカルに音が続いている為、それは虐殺のメロディのようにも聞こえる。
取り残された感じの光明寺とのんは、このおぞましい戦闘をぼう然と傍観している。
やがて、長く続いた殺りくの時間にも終わりが訪れた。
この場にいた全ての怪物を、美少女が皆殺しにしてしまったのである。
美少女の周りには、怪物たちのバラバラ死体が散乱し、
真っ白だった美少女も返り血の為にすっかり赤い色の少女に変わっていた。
降り積もり始めていた周囲の雪にも、怪物の血が飛び散り、深紅に染まっている。
異常な光景だが、事の張本人の美少女だけはケロッとしており、
落ち着いた視線で周囲を眺めている。
危機が去った事を理解した光明寺が、思いきって、勇気を奮い立たせる。
光明寺「(美少女へ)助けてくれて、ありがとう。でも、あなたは一体誰なの?」
真っ赤な美少女は、澄んだ瞳で光明寺の方を見つめると、冷たい笑みを浮かべる。
美少女「(低いトーンで)私の名前は、白雪姫」
白雪姫と名乗った美少女は、それだけ言うと、
光明寺たちの方に背を向けて、再び鈴の音をあたりに響き渡らせながら、歩き去ってゆく。
光明寺たちは、その勇姿をぼう然と見送っている。
そんな時、長い緊張感からようやく解放されたせいか、
光明寺の胸元へと、のんがどっとよろけてしまう。
光明寺「(ハッと)のんちゃん、大丈夫?」
そう言う光明寺も、どっと疲れが込み上げてきた様子。
光明寺「ダメだわ。子供の心では、これ以上、今の状況には耐えられそうにない。大人に戻らなくちゃ」
のんを抱き支えたまま、
しゃがみこんだ光明寺が、口元でゴニョゴニョと自己暗示解除の呪文を唱える。
光明寺の視線から見える周囲の世界がおぼろげに変化してゆく。
白雪姫と名乗った美少女はもちろん、怪物たちの死体や血痕も、どこにも見当たらない。
あの季節外れの通り雪さえ、全て、消えうせている。
今、光明寺の目に見えているのは、いつもの平凡でつまらない、日常の光景だけである。
安堵したのか、小さな笑みを浮かべた光明寺は、
のんを抱きしめた状態で、そのまま気を失って、目を閉じてしまう。
光明寺によるナレーション「催眠術を使って、私が覗いた子供たちの世界とは、
大人たちの理解を超えた不思議な空間でした。
子供たちは、皆、恐ろしい現実を前にして、一生懸命に戦っていたのです。
大人たちには分かってもらえず、孤独に、恐怖に小さな胸を震わせながら。
誰もが心身ともに疲れ果てていて、もはや限界のような状態でした。
でも、そんな子供たちにも一筋の希望の光がありました。
子供たちは、彼女の事をこう呼んでいます。<赤いサテンの白雪姫>と」
END。
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ホラーアニメ化を意識して書いたシナリオの第一話分です。大人の知らない、子どもたちだけの恐怖の物語です。 以前まで公開していたシナリオ版とマンガ版(予告編)を合体させました。マンガ版はコミpo!を使って、描いてます。 |
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