冬コミ新刊エヴァLAS本「彼女の独占欲、僕の占有率。」サンプル
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アタシは考えた。

もしアイツの言う様に狂っているのだとしたら、正気だと言える状態はどういうものだろうか、と。

そこでこういう状況を導いた切欠を思い返してみた。

 

あの時迄はそう、アタシはアイツにアイツからはキスをさせなかった。

何故なら、アタシはアイツの気持ちに応えられているか自信が無かったからだ。

勿論、アタシからアイツへの気持ちはハッキリしている。

他の誰よりもアイツの事を想っている、愛していると断言出来る。

それでもそれがアイツの為になるかどうかは別問題だ。

 

そして、元々アタシはその気持ちを上手く表す事が出来なかった。

十四歳の時からの同居だからといって、今更という気は無かった。

単に、怖かったのだ。

口にした途端に拒絶される事が。

そしてアイツの気持ちを知る事が。

 

しかし気持ちは言葉にしなければ、ハッキリとは伝えられない。

胸がドキドキして、触れたい、一緒に居たいと思っていても、上手く言葉に出来なかった。

だから結局アタシがアイツの事を好きだと言ったのは、アイツがアタシを好きだと言った時に返事をした時だけ。

その一言だけでもアタシの心は恐怖で一杯だった。

アタシは言葉にせずに行動で示す事にしたのだ。

 

手の上ならば尊敬のキス。

額の上ならば友情のキス。

頬の上ならば厚意のキス。

唇の上ならば愛情のキス。

瞼の上ならば憧憬のキス。

掌の上ならば懇願のキス。

腕の首ならば欲望のキス。

さてその他は皆狂気の沙汰。

 

ドイツでも度々上演される古典劇の劇作家が作った有名な詩。

同じキスでもこれだけ意味が違うのならば――。

例え言葉を口にする事が出来なくても、アタシの気持ちを表す事が出来る。

多分アイツはこの詩を知らない。

それでもいい。

ただ一つの事を繰り返す事で、アタシの気持ちを表す事が出来るのなら。

そしてそれが愛情を示す事ならば、これ程アタシにとっての希望に成り得るものは他に無い。

その時からアタシは、言葉で伝える代わりに唇へのキスをする事で気持ちを伝える事を選んだ。

アタシにとってキスは、言葉以上に気持ちを表すものだったから。

 

 

 

     * * * * *

 

 

 

けれどそれは新たな不満を生み出した。

アイツはアイツでアタシからだけキスをする事に満足出来なかったからだ。

 

アタシはアイツの気持ちを改めて知る事に恐怖を感じていた。

アタシのママが実験の所為とはいえ心変わりをした様に、アイツも何時かは心変わりするのではないかと気が気ではない。

だから、もうこれ以上は知りたくない、と耳を塞ぐ様にアイツからのキスを拒んだ。

その代わり、言葉以外の気持ちの表現は受け取った。

手に、体に触れる事は拒まなかった。

 

しかしそれでは足りなかったという事なのだろう。

我慢出来なくなったアイツは、アタシをソファに押さえ込みキスをすると、アタシの唇を舌で抉じ開けた。

所謂大人のキスだ。

 

それはアタシ達にとっては青天の霹靂とも言える出来事だったかも知れない。

少なくともアタシにとってはカルチャーショックと言えた。

キスというものは、唇を触れ合わせる行為だと思っていたからだ。

 

そして唯一つ確実に言える事は、今迄のアタシからのキスはある意味で歯止めになっていたという事だ。

だって、幾らアイツの事が好きでも、ふとすれば我を忘れる程アイツの事で頭が一杯になるなんて事は無かった。

アタシというもののベースとなる部分はいつも頭の何処かに存在していた。

けれど今は――。

説明
SABO-P+Aqua Mortis冬コミ新刊エヴァLAS本「彼女の独占欲、僕の占有率。」収録SSのサンプルになります。今回も最初から最後迄、タイトルに違わぬ内容でお送り出来た筈…?◆表紙は今回彩色をお願いしたので、一味違った出来だと思います。◆通販は現在未定です。◆今回もちまちま売ってますので宜しくです。

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