サテライトウィッチーズ 第三話
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 第三話「そんなの絶対に許さない!」

 

 

今日も夢を見た、ネウロイが私達の故郷に侵攻してきて、街も人もすべて焼き尽くしてしまったあの忌まわしい日を。

 

私はこれまでエースと周りの人間に持てはやされながらも、ネウロイの前では何も守れなかった、故郷と、友人の大切な恋人、そして……世界で一番大切な自分の妹を。

 

もう何も出来ない私には、このまま生きながらえている意味がない、でも消えてしまう前にせめて一匹でも多くネウロイを葬り去ろう、それが何も守れなかった私に出来る唯一の償いだから……命なんて惜しくない。

 

 

 

 

 

前回のネウロイ襲撃から数日後、芳佳とリーネは食堂で朝食の支度をしていた、ウィッチーズ隊では度々、こうやって隊員達がたまに食事を作り、自分達の故郷の料理を他の隊員達に振舞うのだ。

 

「ねえ芳佳ちゃん聞いた? カイハバ基地が迷子になった子供の為に出動したんだって」

「へえ! そんな活動もするんだ、すごいね〜」

「うん!たった一人の為にねー」

「でもそうやって一人一人を助けられないと皆を助けるなんて無理だからねー」

「そうだね!」

 

そう言って嬉しそうに会話する二人、するとそこに……。

 

 

「皆を助ける……そんな事は夢物語だ……」

 

 

「「え?」」

 

二人は食事を取りに来ていたバルクホルンが何か言っている事に気付く。

 

「え? なんですか?」

 

芳佳はバルクホルンが何を言おうとしたのか聞き返す。

 

「すまん、独り言だ」

 

しかしバルクホルンは芳佳の質問を適当にはぐらかし、浮かない顔で自分の席に歩いていく。

芳佳とリーネはそんなおかしい様子の彼女を見て顔を見合わせた。

 

「おー、なんかいい匂いするな」

 

するとそこに料理の匂いに釣られたガロードがやってきた。

 

「あ、ガロード君おはよー、今から朝ごはんなんだ」

「よかったら食べていきます? 今日は二人で扶桑の料理を作ったんですよー」

「え!? いいの!? やった〜!」

 

こうしてガロードは芳佳達と朝食を取る事になった。(普段は男子職員達と食べている)

 

 

「おかわりー!」

「俺もー!」

 

数分後、501の隊員達が皆集まって朝食を取る中、ルッキーニとガロードは空になったスープの皿を上げて芳佳にオカワリを要求した。

 

「はいはーい、ちょっと待ってくださいねー」

「ルッキーニはともかく、ガロードもよく食べるなー」

 

ルッキーニの隣にいたシャーリーは二人の食いっぷりに半ば呆れ気味に関心する。

 

「ま、食べれるときに食べないと! それに俺、こんなうまい料理食べるの初めてだよ!(ティファにも食べさせてあげたいなー)」

「そ、そうなんですか? 私が作ったんですそのスープ……」

 

リーネは照れ気味にもじもじしながら、トレイでほんのり赤くなった顔を隠す。そんな彼女に対してガロードはさらに言葉を重ねる。

 

「すごいじゃんリーネ! 将来は料理人かお嫁さんで決まりだな! いい嫁になるぜ!」

「へっ!?」

 

これが芳佳等に言われたならなんともないのだろうが、ガロードに言われたせいかリーネはつま先から頭のてっぺんまで赤くなり、頭から湯気が出ていた。

 

「ん? どうしたんだリーネ?」

「な、なんでもありませ〜ん!」

 

そんな二人のやり取りを見て殆どの隊員は苦笑いをしていた、するとバルクホルンは食事を残したまま席を立とうとしていた。

 

「あれバルクホルンさん? お口に合いませんでした?」

「食欲がなくてな……ガロード、食べていいぞ」

「マジで!? やりぃ! でもちゃんと食べないとダメだぞ? 人間いつ何が起こるかわからねえからな」

「ああ……」

 

バルクホルンはそのまま食堂から出てしまい、芳佳は自分達の料理がおいしくなかったのかなと思い不安を感じていた、するとその時、おかわりを要求していたルッキーニが催促してきた。

 

「おかわり早く〜!」

「あ、はいはい! ちょっとまってね〜!」

 

すると今度はペリーヌが、スプーンの上に納豆を乗せて芳佳に文句を言う。

 

「まったく、バルクホルン大尉じゃなくても、こんな腐った豆なんてとてもとても食べられたもんじゃありませんわ」

 

それに対し芳佳は残念そうな顔で反論する。

 

「でも納豆は体にいいし、坂本さんも好きだって……」

「だよなー、俺は好きだぜ」

「さ、坂本“さん”ですって!?」

 

ペリーヌは芳佳が美緒の事をさん付けで呼んでいる事を知り、物凄い形相で芳佳に詰め寄った。

 

「しょ、少佐とお呼びなさい! ワタクシだって少佐をさん付けで……ごにょごにょ……」

 

しかし途中で顔を真っ赤にして、言おうとした言葉を最後まで言うことなく俯いてしまう。

だが気を取り直して、メガネの奥から見える目を吊り上げて再び芳佳をにらんだ。

 

「ともかく、いくら少佐がお好きでも! この匂いだけは絶対に我慢ができませんわ!」

「おかわり〜!!」

 

すると放置され気味だったルッキーニは涙目で芳佳に再三おかわりを要求した。

 

「ああ! はいはい!」

「ふん!」

 

ペリーヌはそのまま自分の席に座り、芳佳からそっぽを向いてしまう、ガロードはそんなペリーヌに話しかける。

 

「んじゃそれも俺が食べていい?」

「好きにしなさいこの野良犬!」

 

 

 

それから一時間後、ガロードは扶桑海軍によって運び込まれたMSの残骸からビームライフルのエネルギーを抜き取っていた。

 

「よしよし、バッテリーは残ってたな、でもそんなにたくさんは撃てないか……節約しないと」

「ようガロード! やってるな!」

「おー! なんか面白そうな事やってるー!」

 

するとそこにシャーリーとルッキーニが、ガロードのMSの整備を見学しにやってくる。

 

「あれーお前ら、訓練じゃねーの?」

「今はバルクホルンとエーリカが飛んでんの、アタシ等はその後さ」

「ふーん、そういやバルクホルン、随分と元気なかったけど何かあったの?」

「うーん……私には判らないなあ、隊長やエーリカなら何か知ってんじゃないのか? あの三人出身が同じカールスラントだし」

「きっとお腹痛いんだよ! だから朝ごはん食べられなかったんだ!」

「ははは、まあそう単純だったらいいんだけどなあ」

 

ルッキーニの無邪気さに苦笑しつつ、シャーリーは整備されているDXをまじまじと見つめる。

 

「それにしてもいいなあコレ……どれぐらいの早さで飛ぶんだ?」

「んー、エアマスター程じゃないけど結構早いと思うぞ」

 

ガロードは自分の愛機と仲間のMS乗りが使っていた青いMSの事を思い出す、一方シャーリーはガロードの話を半分ぐらい聞きながらDXを見上げた。

 

「そっかー、いいなー、いつか私にこれを操縦させてくれ! いいだろ!?」

「お、おう」

 

目を輝かせるシャーリーを見て、ガロードはある人物達の事を思い出していた。

 

(シャーリーってあれだな……パーラに似ているな)

「ん? どうしたガロード、私の顔に何か付いているか?」

「いや、俺の知り合いにシャーリーと似ている子がいるんだ、多分気が合うんだろうなーって」

「へー! そうなのか!?」

「ねえガロード!? その人胸おっきい!?」

「あー、大きいっちゃ大きいか」

「おお〜!」

 

ルッキーニはそう言って期待に胸を躍らせて目を輝かせていた。普段からシャーリーの豊満な胸を枕変わりに活用している彼女にとって、シャーリーに匹敵する胸の持ち主に興味深々だった。

 

「なんだルッキーニ、鞍替えかこの薄情者〜!」

話を聞いていたシャーリーは、浮気者にはお仕置きと言わんばかりにルッキーニをぎゅーっと抱きしめる。

「あー、やっぱりシャーリーのおっぱいは心地いい〜」

 

(相変わらずでけえよな、もしティファにあんなの付いていたら……いやいや! ティファはちっぱいだろうとボインだろうと可愛いぜ!)

 

仲の良いシャーリーとルッキーニを見て、ガロードは頭の中で思春期特有の妄想を巡らせる、するとそこに飛行訓練を終えたバルクホルンとエーリカがストライカーユニットを履いてやってきた。

 

「お、訓練終わったのか、おつかれさーん」

「どもどもー」

「……」

 

エーリカが返事をする一方、バルクホルンは何も言わず通り過ぎていった。

 

「あー、バルクホルンの奴、最近元気無いな」

「喧嘩友達が元気無くて寂しいのシャーリー?」

「おー、お前生意気な事言う様になったな」

「はうーん」

 

そう言ってシャーリーは拳をルッキーニの頭にぐりぐりと押しつける。

 

「でもホントトゥルーデ元気無いんだよね、宮藤が来てから……」

「宮藤が来てから? どういうことだ?」

 

エーリカの何気ない一言に食いつくガロード。

 

「宮藤ってね……似ているんだよクリスに」

 

 

 

ガロード達はエーリカからバルクホルンに妹がいる事、その子がネウロイによって大けがを負い意識不明で、今はブリタニアの病院に収容されている事、そして芳佳が何となくクリスに似ている事を……。

 

「成程ねえ、バルクホルンにそんなことが……」

「なんかそれで最近しょっちゅう昔の夢見てうなされているみたいでさ……少し心配なんだよね」

(大切な人を守れなかったのか……だからあんなに悲しそうな顔していたんだな)

 

ふと、ガロードの頭の中にフリーデンとの旅の中で出会った人達の顔が浮かび上がる。

 

「なんか……放っておけないよな」

 

 

 

次の日、ガロードは基地の外でシャーリーとルッキーニと共に芳佳、リーネ、美緒、そしてバルクホルンの編隊飛行の訓練を見学していた。

 

「へー、芳佳最初の頃と比べて飛ぶのがうまくなったよな」

「そうなんだよー、まだウィッチになってまだ日が経ってないのにすごいよな」

「でもスピードはシャーリーが一番だもんね!」

 

その時、ガロード達の背後からペリーヌが現れ、飛行訓練を行う芳佳を睨みつけていた。

 

「あの豆狸……! また坂本少佐と……!」

 

ペリーヌの姿に気付いたガロード達は、不機嫌そうな彼女に茶々を入れる。

 

「なんだぁ? 急に現れたと思ったら……」

「んー? なんでペリーヌ芳佳の事嫌いなのー? 私は芳佳好きなのにー」

「あの豆狸! 坂本少佐にべたべたしすぎなのですわ! おまけに私の頭にモップをぶつけたり坂本少佐と一緒にお風呂に入ったりして……!」

 

そう言ってペリーヌは不機嫌そうに空を飛ぶ芳佳を睨み付ける。それを見たガロードはやれやれとため息をついた。

 

「お前……本当にもっさん好きだな」

「もっさん?」

 

ガロードの変わった美緒の名前の呼び方に、シャーリーとルッキーニは首を傾げる。

 

「俺が付けた仇名、坂本さんを縮めたんだ」

「も、もっさん!!?」

 

ガロードの美緒の呼び方に、ペリーヌは堪忍袋の緒が切れてしまい、ドカドカと彼に詰め寄り怒涛の言葉攻めを浴びせた。

 

「あ、貴方! その呼び方はいくらなんでも失礼でしょう!? 坂本少佐は貴方の上官で……!」

「いや、俺軍属じゃないし……ていうかもっさんもわっはっは言いながら気に入ってくれたぞ」

「そういう問題じゃありませんわこの野良犬!!」

「んだとう、お前ももっさんに付いて行く犬みたいなもんじゃないか、ほらぺリ犬」

「「ぶぶふー!!」」

 

傍でやり取りを見ていたシャーリーとルッキーニは、ガロードが付けたペリーヌの仇名を聞いて思わず噴き出してしまう。

 

「こここここここの野良犬! もう我慢なりません!! ここで消し墨にして……!」

 

そう言ってペリーヌが使い魔を憑依させガロードを攻撃しようとした時、突如基地中に警報が鳴り響いた。

 

「警報!? ネウロイか!?」

「いくぞ皆!」

 

 

数分後、ガロードはDXに乗ってストライカーユニットを履いたシャーリー、ルッキーニ、ペリーヌ、そして途中で合流したミーナと共にネウロイが出現した空域に向かった、そして先行していた芳佳達とも合流しネウロイの元に向かった。

 

「最近、やつらの出撃サイクルにブレが多いな」

「カールスラント領で動きがあったらしいけど、詳しくは……」

「カールスラント……!」

 

美緒とミーナの話を聞いていたバルクホルンは、ハッと目を見開く。

 

「どうした?」

「いや、なんでもない……」

「よし、隊列変更だ、ペリーヌはバルクホルンの二番機に、宮藤は私のところに入れ」

(また……!)

 

ペリーヌは美緒と組むことになった芳佳に対し嫉妬していた。

 

『もっさん! 俺達はどうするんだ!?』

「ガロードはシャーリーとルッキーニと組んでネウロイに当たってくれ」

「りょーかい!」

「んじゃパパッとやっつけちゃおう!」

 

そして彼女達の元にネウロイが接近してくる。

 

「敵発見! 宮藤! ついてこい!」

「あ、はい!」

「バルクホルン隊、シャーロット隊突入! 私は少佐の援護に!」

「了解!」

 

先行するバルクホルンは、二丁の機関銃の銃弾をネウロイに撃ち込んでいく、続いてシャーリー、ルッキーニ、ガロードもそれに続いて攻撃する。

 

『お前ら! 巻き込まれるんじゃねえぞ!』

「判ってるって!」

「そんなヘマしないよーん!」

 

余裕たっぷりのシャーリー隊、対してバルクホルン隊はペリーヌがバルクホルンの動きについていけないでいた。

 

(ワタクシがついていけないだなんて!)

 

ふと、ペリーヌの視界に美緒と一緒に飛ぶ芳佳が入ってくる。

 

「あの豆狸! 坂本少佐と一緒に……!」

 

そう言ってペリーヌはバルクホルンについて行こうと必死に加速する、それをリーネと一緒に飛びながら見ていたミーナは彼女の動きがいつもと違う事に気付く。

 

「やっぱりおかしいわ……!」

「えっ?」

「バルクホルンよ! あの子はいつでも視界に二番機を入れているのよ、なのに今日は一人で突込みすぎる!」

 

 

 

そして別の位置にいたシャーリーもその事に気付き、彼女に警告する。

 

「近づきすぎだぞバルクホルン!」

「大丈夫だ! これくらい……!」

 

 

 

その時、芳佳達の攻撃によってネウロイの装甲が少し薄くなった。

 

「あそこよ! あそこを狙って!」

「はい!」

 

ミーナの指示でリーネはその個所を狙撃する、するとネウロイはガラス片を散ばせながら小規模の爆発を起こし、そのままレーザーで反撃してきた。

 

「うわっ!?」

「くっ……」

 

皆避けたり魔力シールドで防いだりしてレーザー攻撃を凌いだ。

 

「! 近付きすぎだバルクホルン!」

 

美緒の警告でレーザーを回避するバルクホルン、そして彼女の後ろにいたペリーヌは魔力シールドでそのレーザーを防いだ。

 

「は!?」

「うっ!?」

 

すると押された勢いで、ペリーヌは移動していたバルクホルンとぶつかってしまう。そしてネウロイのレーザーが怯んだバルクホルンに襲いかかる。

 

「あああああ!!?」

 

バルクホルンが張った魔力シールドは間に合わず、レーザーは二丁あった銃のうち片方を爆散させ、その破片がバルクホルンの胸に突き刺さった。

 

「大尉!?」

「バルクホルンさん!!」

 

そのまま近くの小島に墜落していくバルクホルン、それを見た芳佳とペリーヌはすぐさま彼女を追いかけていった。

 

「バルクホルン!! くっ!」

 

その様子を見ていたシャーリーも追いかけようとするが、ネウロイのレーザー攻撃に阻まれてしまう。

 

『俺が行く! シャーリー達はネウロイを!』

「わかった! あいつを頼む!」

 

ガロードはシャーリーの代わりにバルクホルンを助けに小島に降りて行った……。

 

 

 

 

 

一方、負傷したバルクホルンを空中で受け止めた芳佳とペリーヌは、彼女を一旦地上に降ろし上着を脱がして怪我の状態を確認する。

 

「ワタクシのせいだ! どうしよう……!」

「出血がひどい……! 動かせばもっとひどくなる、ここで治療しなきゃ!」

「お願い! 大尉を助けて……!」

 

芳佳は血に染まるバルクホルンのシャツを見て事は一刻を争うと判断し、治癒魔法を発動させ彼女の治療を試みる。

 

「焦らない……! ゆっくりと……! 集中して……!」

 

そして芳佳の手から青白い光が放たれ、バルクホルンを包み込む。

 

「そんな力が……くっ!」

 

そうしている間にも、ネウロイの猛攻は止むことなく、ペリーヌは芳佳達を守る様に魔力シールドを張った。

 

「うっ……」

「今治しますから……!」

「私に張り付いていては、お前達も危険だ……! 離れろ、私なんかに構わずその力を敵に使え」

「嫌です、必ず助けます……! 仲間じゃないですか!」

「敵を倒せ……! 私の命など捨て駒でいいんだ……!」

「あなたが生きていれば、私なんかよりもっと大勢の人を助けられます……!」

「無理だ……皆を守る事なんて出来やしない……私はたった一人でさえ……! もう行け、私に構うな……!」

 

バルクホルンはあくまで芳佳達を逃がそうとする、するとペリーヌが芳佳達に話しかける。

 

「早く! もう持たない!」

「ど、どうしよう、早くしないと……!」

 

ペリーヌの限界が近い事を知り芳佳は焦り始める、そしてネウロイの無数のビームが彼女に向かって放たれた。

 

(だ、ダメ……!)

 

自分の魔力シールドでは防げないと思い、ペリーヌは覚悟を決めて目をギュっと瞑る、しかしその時……。

 

『させるかー!!!』

 

ペリーヌの前にDXが覆いかぶさるように割り込み、その身を呈して彼女をビームから守った。

 

「ガロード……さん!?」

『おいバルクホルン……ふざけるなよ! 捨て駒でいいってなんだよ!!』

「え……?」

 

先程までの芳佳達のやり取りを聞いていたガロードは声に怒りを込めてバルクホルンを叱咤する。

 

 

 

『この世界には……生きたくてもそれが叶わなかった奴が大勢いるんだ! それなのに死にたいだなんて……! そんなの絶対に許さない!』

 

ガロードの脳裏に、彼の目の前で死んでいった沢山の人間たちがフラッシュバックのように浮かび上がっていく、彼らはもっと生きたかった筈なのにそれが叶わなかった……。

 

そんな人間たちを見てきたガロードだからこそ、自分の命に価値を見いだせないバルクホルンに怒りを感じ、彼女を叱責する言葉に力と説得力が入っていた。

 

 

「だが私は……たった一人でさえ守れなかったのに……!」

 

バルクホルンはそれでも、自分の考えを曲げずにガロードの言葉に対し反論するが、彼の叱責に勢いをつけるだけだった。

 

『バカ野郎! 一人で無理なら皆で守ればいいだろうが! ここには芳佳もいる! ペリーヌも! シャーリーも! リーネも! もっさん達だって! 俺だっている! 一人で何でも抱え込むんじゃねえ!!』

「ガロード……ラン……!」

 

ガロードの魂の籠った言葉が、バルクホルンの心に力を注いでいく。

 

 

その時、DXの胸部にネウロイのビームが直撃し、中にいたガロードに大きな衝撃が襲う。

 

「ガロード君!」

 

芳佳はガロードの身を案じ叫ぶ、対してガロードは芳佳を安心させようと逆に笑ってみせた。

 

 

『へ、へへへへ……大丈夫だ、このくらい……俺は誰も死なせない、死なせるもんか!』

 

 

「死なせない……そうだな……!」

 

するとバルクホルンは起きあがり、武器を手にストライカーユニットを履いて浮かび上がった。“死なせない”というガロードの言葉が、彼女にかつてないほどの決意と生気を与えたのだ。

 

「クリス……今度こそ守ってみせる!!!」

「バルクホルンさん……!」

「大尉……!」

 

体力の限界が来てその場にへたり込んだ芳佳とペリーヌは、回復したバルクホルンのその心強い頬笑みに笑顔で答えた。

そしてバルクホルンはミーナ達を掻い潜り銃を乱射しながらネウロイに向かって飛んでいく。

 

「うおおおおおお!!!」

 

彼女の気迫の籠った攻撃はそのまま露出したままのコアに当たり、ネウロイはガラス片となって砕け散った。

 

「おー……やったじゃんバルクホルン!」

 

ガロードはコックピットから降り、覇気を取戻し完全復活したバルクホルンの雄姿をその目で直に焼き付けた。

 

 

 

 

 

その後、無茶をしたバルクホルンはあとでミーナにこってりと怒られた後、休暇届けを出して妹のクリスの見舞いに行ったそうな。

 

 

 

 

 

その次の日の事……ガロードは先日ネウロイの攻撃で損傷したDXの修理を行っていた。

 

「やっぱ一人でやると手間かかるな、でも基地の人間に触らせると何されるか判らねえし……」

 

そう言って機体の下に潜り込み修理を続けるガロード、その時彼は誰かの足音が近づいて来ることに気付いた。

 

「ん? シャーリーか?」

「あ、あのガロードさん……」

「あれ? ペリーヌ?」

 

自分の予想とは違う意外な訪問者にガロードは驚く、そのペリーヌの手にはいくつものコッペパンが入ったバスケットがあった。

 

「ん? 何それ?」

「そ、その……先日のお礼もまだでしたし、よろしければ昼食にいかがかと……」

「へー! ペリーヌが焼いたの!? すげーじゃん!」

 

そう言ってガロードはペリーヌからバスケットを受け取り、中のパンをがつがつと食べ始めた。

 

「あ、あの……あの時は助けていただきありがとうございます」

「モグモグ……いいっていいって、俺は当然のことをしたまでだよ」

「ま、まあその……あの時の貴方はカッコよかったですわ、一番は少佐ですけど……ワタクシ少しキュンと来ちゃいましたわ……」

「ふぇ? ふぁに? ふぃふぉふぇふぁい」(訳:え? 何? 聞こえない)

 

食べる事に夢中でペリーヌの最後の方の言葉を聞いていなかったガロード、するとペリーヌは顔を真っ赤にぷんぷんと怒り始めた。

 

「な、なんでもありませんわ! それではワタクシ失礼いたします!」

 

そしてペリーヌはそのまま走り去っていった。

 

「ゴクッ……何なんだアイツ?」

 

口に含んだパンを飲み込んだガロードは、ペリーヌの不可解な行動に首を傾げた……。

 

 

 

「ガロード……少しいいか?」

 

するとペリーヌと入れ替わる様に今度はバルクホルンが現れた。

 

「お? もう帰ってきたのかバルクホルン、妹さんの見舞いはどうだった?」

「ああ……医者の話ではもう目を覚ますだろうと言っていた」

「そっか、妹さん早く良くなるといいな」

 

エーリカからクリスの事を聞かされていたガロードは何気に彼女の事を心配しており、もうすぐ良くなると知ってほっと胸を撫で下ろす。

 

「ガロード……ありがとう、お前と宮藤のおかげで私はまた戦うことが出来た」

「いんやあ、俺はただ放ってはおけなかっただけさ、もう簡単に死にたいなんて思うなよ」

「肝に銘じておく」

 

そう言ってバルクホルンは、助けてもらった礼にと頭をぺこりと下げた。

 

「にしてもあの時の戦っているバルクホルン、すごかったなー、クリスもバルクホルンみたいなお姉ちゃんもって幸せもんだろ」

「そ、そうか?」

 

突然ガロードに褒められ、バルクホルンは照れながら頬をポリポリと掻く。

 

「俺さー、小さい頃両親が死んで家族とかいなかったからさ、兄弟とかに憧れてんだよ」

「そうだったのか……それじゃ私の事、姉と呼んでもいいんだぞ?」

 

ガロードの事を哀れに思い、バルクホルンは冗談交じりにそう提案する。

 

 

 

そ れ が い け な か っ た

 

 

 

「そう? それじゃ……お姉ちゃん!」

「!!!?」

 

“その時、バルクホルンに電流が走る……!”というナレーションが聞こえてきそうなほど、バルクホルンの心臓に言いようの無いインパクトが襲いかかり、そのまま後ろに吹き飛んでいった。

 

「え!? なんだ!? どうしたバルクホルン!?」

「い、いやなんでもない!!!(なんだ今のは……!? この気持ちは何だ!?)」

 

そしてバルクホルンは息も絶え絶えに必死に起きあがり、ガロードに再び提案する。

 

「す、すまないがもう一度私をお姉ちゃんと呼んでくれないか?」

「え? あ……お姉ちゃん?」

「はぐ!!?」

 

再びバルクホルンの心臓がキュンとし、彼女はそのまま仰向けに大の字で倒れた。

 

「な、なあマジでどうしたんだおい!?」

 

バルクホルンのオーバーすぎるリアクションに、ガロードはどう対処していいか解らずオロオロしていた。

 

「し、静まれい! 私はなんともない! これで失礼する!」

 

バルクホルンはそのまま飛び起き、格納庫から猛スピードで去っていった。

 

「なんだアイツ……?」

 

 

 

一方バルクホルンは走りながら、機関車の如く脈打つ心臓の鼓動を必死に抑えようとしていた。

 

(な、なんだこのクリスにお姉ちゃんと言われた時の幸せな気分にも似た、この……あの……なんだコレは!?)

 

自分の今の気持ちを言葉で表現することが出来ず、バルクホルンはそのまま自室に駆け込みベッドの上で悶えていた……。

 

 

生粋のシスコンのバルクホルン、真逆の何かにも目覚める……。

 

説明
バルクホルンとペリーヌがメインの第三話です。

一部のキャラが少しキャラ崩壊気味です。
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