来栖加奈子の非日常 後編 |
来栖加奈子の非日常 後編
秋葉でのメルルイベント翌日の放課後、アタシはクタクタになって家路を歩いていた。
「桐乃の奴もあやせの奴も、少しは前みたいに体裁を気にしろよな……」
桐乃は鈍器でアタシの記憶を消そうとするし、あやせはアタシが桐乃の兄貴と一緒だったことを理由に殺そうとするしでもう大変だった。
命からがら学校を出て来るのが精一杯だった。
2人とも去年までは学校を代表する模範優等生で通っていたのに今じゃ見る影もない。
今日という日に死ななかったことをアタシに感謝しながらのっそりと歩く。
すると、前方の十字路の死角になっている場所から見知った男女声が聞こえた。
「……ん、じゃあな」
「……ん、じゃあね」
誰の声と思い出す暇もなく男が目の前に現れた。
「桐乃の兄貴……」
「加奈子じゃねえか」
桐乃とあやせという極悪非道な修羅に追い回されていたアタシは友軍と思える男の姿を見て不覚にもホロッと来ちまった。
「それは、何ていうか俺の妹が本当に悪いことをしたな。すまない」
喫茶店の中、桐乃の兄貴はアタシに向かって頭を下げた。
「まったくだ。もう少しで死んじまう所だったんだぜ」
アタシはチョコレートパフェを掬って口に入れながら頬を膨らませて怒ったポーズをして見せる。
「そうだよな。あの加奈子が泣き出すぐらいなんだからよっぽど怖かったんだよな」
うんうんと納得して頷いて見せる桐乃の兄貴。
けど、その姿を見てアタシの頬は急激に熱を持った。
「泣いてなんかねえっての!」
立ち上がって強く詰め寄る。
「俺のシャツの袖を掴みながら泣いてたじゃねえか」
「泣いてねえっ! 嘘ばっかりほざくなら、ここのパフェはおめぇの奢りだからな!」
「まあ、ここは元より俺が奢るつもりだったから良いんだけどよ」
桐乃の兄貴は顔をしかめて苦笑いを浮かべた。
「しかし最初見た時は小悪魔系のムカつくガキだと思ったが、加奈子にも案外可愛い所があるんだな」
「うっせぇっ! アタシは元から超絶可愛いっての!」
拳を振り上げながら抗議する。
さっきとは違う恥ずかしさがアタシの全身を駆け巡る。
「わかったわかった。加奈子は元から可愛い。これで良いんだろ?」
桐乃の兄貴は爽やかに笑ってやがる。
「わかりゃ良いんだよ。わかりゃ」
椅子に座り直して息を吐き出す。
口では納得したもののアタシ的には何か子供扱いされている気がして複雑だ。
パフェを平らげ終えて一息吐く。
桐乃たちだけのことじゃない。
最近アタシの身に降りかかって来た厄介事の全部が頭の中を駆け巡っていく。
「学校にいても、モデルの仕事していても、家に居ても24時間心が休まる暇がねえ」
何度も何度も溜め息が口から漏れ出る。
何かもう人生が嫌になる。
「学校や仕事先は妹やあやせがいるから大変なのもわかる。けどよ、家に居てもって、親と仲が悪かったりするのか?」
桐乃の兄貴は心配そうな顔をして尋ねてきた。
「別にそこまで悪くはねえよ。ただ……」
「ただ?」
天井を見上げる。
1週間前からの親のアタシへの態度を思い出してみる。
「成績悪くて来年もJC、女子中学生やることになるかもって伝えたら、それ以来ろくに口もきいてくれないし、ご飯もまともに作ってくれねえんだよ」
酷くね、うちの親?
こういうの養育放棄って言うんじゃねえのか?
「それは全面的にお前が悪いだろうが」
けれど、桐乃の兄貴はアタシの意見に同意してくれない。
「何でだよ?」
「幾ら私立とはいえ、中学生で留年はまずいだろ。病気とか特別な事情があるわけでもないのに」
桐乃の兄貴は疲れたように頭をガックリと下げた。
「やっぱりマズイか? でも、JKよりもJCの方がこう価値が高い気がしねぇ? よりピチピチした感じがしてさ」
「それは一部のロリコンエロオヤジどもの考え方だろうが。普通の感性を持っている奴は、単に頭が悪くて留年した奴を好意的な目で見たりしねえよ」
冷たい視線がアタシに突き刺さる。
「やっぱり勉強して高校進学しないとダメか?」
「ダメだな」
付け入る余地のないきっぱりとした返答。
「じゃあさ、アンタがアタシに勉強教えてくれよ」
急な思い付きだった。
でも、悪くないんじゃないかと思った。
「何で俺が? 同級生の友達に教えてもらえば良いだろうが?」
桐乃の兄貴は嫌そうな顔を向けてきた。
けど、アタシにだって同級生に頼めない理由がある。
「アンタの妹に頼んだら、アタシは変なクスリ飲まされるか鈍器で殴られて記憶を失わされて桐乃の部屋で三次元メルルとして一生飼われる運命に陥るっての」
「否定はしない。うちの妹ならそれぐらいのことはするだろう」
桐乃の兄貴は真顔で答えた。
「あやせに頼んだら、『勉強の出来ないモデルは必要ありません』とか銃殺されて、しかも『汚い花火です』とか評価しそうだから嫌だっての」
「否定はしない。あやせならそれぐらいのことはするだろう」
桐乃の兄貴は真顔で答えた。
「アタシには他に友達いねえよ。だから、頼めねえんだよ」
「すごく納得いった。辛い告白をさせてしまって済まなかった」
桐乃の兄貴は深々と頭を下げた。誠意を感じさせる謝罪だった。
「アタシに友達がいないことをそんなにあっさり受け入れるなぁっ!」
凄く、凄く悲しかった。
やっぱりアタシって友達いないキャラだって思われてるのか?
まあ実際にいねえけどよぉ……。
「とにかく、アタシには勉強を見てくれるヤツがいねえんだ。だから、アンタが見てくれ」
「だから何で俺が? 俺だって大学受験の準備で無茶苦茶忙しいんだぞ」
桐乃の兄貴はこれだけ頼んでいるのにまだ了承しねえ。
「何でだよ? 現役JCと一緒にいられる機会なんてそう滅多に訪れるもんじゃねえぞ。キモオタたちなら泣いて喜ぶシチュエーションだぜ」
「うちにはそのJCが無茶苦茶態度デカい面して君臨してんだよ。一緒に勉強なんて考えただけでも胃が痛くなるっての」
「チッ。否定できねえ」
アタシも桐乃と一緒に勉強はご免だ。
「でもよぉ、アタシと一緒にいれば大人の色気と子供の可愛らしさがハイブリッドされたR−15特有の色香を常に堪能できるんだぜ。すっげぇ、お得だろ?」
スカートの裾を摘んで少しだけ上げてみせる。
アタシお得意の誘惑のポーズ。
けど、桐乃の兄貴は全く反応を見せない。
「この間あやせの側を偶々通り掛かったら、わたしの匂いを嗅ぎましたねって事実無根の因縁付けられて殺されかけた。R−15の色香なんか頼まれても要らねえよ!」
「チッ。否定できねえ」
あやせは重度のツンデレ兼ヤンデレだからなあ。
自分の匂いを嗅いでもらおうと企んで嫌われてたんじゃ世話ねえっての。
「という訳だ。俺に加奈子の勉強を見る余裕はない。じゃあ、この後俺は図書館で勉強しないといけないんでそれじゃあな」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよっ!」
気付くとアタシは大声で呼び止めていた。
ほんと、アタシらしくない行動だった。
「まだ何か用か?」
「……あの、そのよぉ、アタシがアンタと一緒にいたいから。それじゃあ、一緒に勉強する理由としてダメなのかよ?」
自分でも何を言っているのかよくわからない。
わからないまま自信なさ気に桐乃の兄貴を見る。
心臓がバクバク言い出しやがった。
「えっと、それはどういう意味だ?」
桐乃の兄貴も戸惑った顔をしていた。
「あ、アタシはアンタの地味な顔を見ているとホッとすんだよ。安心できるんだよ。だからそんなアンタに勉強見てもらえばアタシの成績も上がるんじゃねえかってよ……」
喋りながら最も当惑していたのはアタシ自身に違いなかった。
けれど、喋ることでアタシが何を考えていたのか自分で理解することができた。
心臓のバクバクはますます激しくなって、次にアタシが何を喋り出すのかますます予想が付かなくなってやがるが。
「何で俺の“地味”な顔見てると安心すんだよ?」
桐乃の兄貴は地味という部分を特に強調しながら尋ねて来た。
不満が燻っているのが見て取れる。
「そりゃあ、アンタだけが何だかんだ言いながらアタシのことを見てくれるし、話も聞いてくれるからさ。なんてぇの、心の支えになるっていうか、信頼できる。そんな感じ?」
「「えっ?」」
アタシと桐乃の兄貴は同時に驚きの声を上げた。
けど、アタシがコイツをこんな風に考えていたなんて、本当に全然気付かなかった。
ていうか、ちょっ、これ、心臓の音が激しくやばいんじゃねえか?
体育でマラソンさせられた時より激しく高鳴ってるぞ。
「加奈子にそんな風に思われていたなんて意外だったな」
ポリポリと頭を掻く桐乃の兄貴。見ているだけでもむず痒そう。
「あ、アタシだって自分の気持ちに気付かなかったんだから仕方ないだろうが!」
何かもう勢いだけで喋っている。それが自分でよくわかった。
けど、それがわかっていてもアタシは自分を止めることができなかった。
心臓の喧しい騒音はもっと止まらない。
「だからとにかくアタシはアンタといると幸せな気持ちになれんだよ。だからアンタに勉強を教えて欲しい。それで悪いかよっ!」
自分でも何言ってんだかわからない。
でも、とんでもないことを口にしていることだけはわかる。
「俺と一緒に幸せになれるって。それって……」
「ウッセェっ! 女がここまで言ってんだ。どういう意味かぐらいわかれっての!」
これはもうつり橋効果ってヤツに違いねえ。
高所恐怖症のヤツがつり橋をグラグラ揺らされたら相手に好意を示して命乞いするしかねえってヤツ。
アタシはもうこの胸のバクバクを止める為に桐乃の兄貴に好意を示して自分の命を救うしかなかった。
自分でも訳がわかんねえけど、目の前のコイツに好きって気持ちをぶつけないと助からないような思いに駆られていた。
「いや、だけど、俺とお前は……」
「ウッセェっ! アタシはアンタのことを好きだって言ってんだよ! それが悪いかっ!」
遂に、遂に言っちまった。
ていうか、アタシってば桐乃の兄貴のことが好きなのか?
そうなのか?
男なんて今までアタシをチヤホヤして良い気分にさせるものか、飯を奢ってくれる財布ぐらいにしか考えたことはなかった。
どっちも上手く行った試しはねえけど。
じゃあ、目の前の男は何なんだ?
コイツは別にアタシをチヤホヤしてくれもしねえし、飯どころか缶ジュース1本奢ってくれねえ。
なのに、アタシは桐乃の兄貴に惹かれてる。
この感情は一体何なんだ?
もしかして、これが恋ってヤツなのか?
だからアタシはコイツに向かって好きなんて口走っちまったのか?
アタシの心はアタシが物事を脳で理解するよりも前に想いを口走っちまいやがる。
ていうことは、やっぱり、アタシは桐乃の兄貴が、この冴えないダメ男が好きってことなのか?
「アタシは、アンタのことが……好き……なんだよ!」
口にして言葉の意味をかみ締めればかみ締めるほどに恥ずかしさが増していく。
頭が熱で爆発しちまいそう。
けれど、この想いを、この言葉を否定する気には少しもならねえ。
っていうことは、やっぱり……っ!
自分の知らなかった気持ちに気付いちまった。
こうなったらもう突っ走るしかアタシにはなかった。
アタシは、桐乃の兄貴に受け入れてもらえるように必死に自分の想いをぶつけることにした……。
「お、俺は加奈子のことが……」
そして、桐乃の兄貴は遂にアタシをどう思っているのか答えを口にしようとした瞬間──
「京介お兄ちゃんっ! 浮気はダメぇええええええええぇっ!」
金髪のガキが飛び込んできて桐乃の兄貴に体当たりした。
「ぶ、ブリ公っ!?」
確かめるまでもなく、その飛び込んで来たガキはブリジットに間違いなかった。
「痛ててててぇ」
桐乃の兄貴は腹を痛そうにさすっている。
身長差があるのでブリジットの頭からの体当たりは桐乃の兄貴の腹に直撃した。
「京介お兄ちゃんっ、浮気は絶対にダメだからねっ!」
ブリ公は大きな瞳からポロポロと涙を零しながら桐乃の兄貴に訴えている。
「わかってるって。俺はブリジットちゃん一筋だから浮気なんて絶対しないって」
そんなブリ公に笑顔で応える桐乃の兄貴。
うん?
ちょっと待て。
今の2人の会話の内容、何か凄くおかしくなかったか?
アタシが言うのもなんだが、もの凄く反社会的な要素が含まれてなかったか?
「お、おい。桐乃の兄貴、それからブリ公……」
2人に手を伸ばそうとして途中で止まる。
「すまない、加奈子」
桐乃の兄貴に90度の角度で上体を曲げて謝られてしまったから。
「お、おい……」
「俺はこの通りブリジットちゃんと付き合ってるんだ。だから、加奈子の気持ちに応えてやることは出来ないんだ。すまない」
また90度の角度で謝られてしまった。
「ごめんね。京介お兄ちゃんはわたしと好き合っているの。だからかなかなちゃんにはあげられないの」
ブリ公にまで深々と頭を下げて謝られてしまった。
「そ、そうなのか」
アタシは動かない頭を必死にフル回転させる。
桐乃の兄貴とブリ公の発言を整理してみる。
桐乃の兄貴はアタシとは付き合えない。
付き合っている女が他にいるから。
そして桐乃の兄貴が付き合っている相手というのが目の前のブリ公(10歳)だという。
つまり、つまりだ……。
「桐乃の兄貴……テメェッ、ロリコン犯罪者だなっ!」
拳を固めて殴り掛かる。
けれど、アタシの目の前にブリ公が両手を広げながら立ちはだかった。
「京介お兄ちゃんには指1本触れさせないよ、カナちゃんっ!」
アタシの行く手を邪魔するブリ公からいつにない強い気迫を感じた。
「それにわたしと京介お兄ちゃんは純愛なのっ! 京介お兄ちゃんは犯罪者じゃないよ!」
「そうだっ! 俺とブリジットちゃんはまだキスしかしていない清い仲だ。キスの最中に舌だって入れたことはまだないっ!」
「オメェは少し黙ってろ、このロリコンッ!」
京介の女の趣味がそっちだったなんて……ショックだぜ。
「大体、ブリ公はコイツのどこが好きなんだ? あんまり会ったこともないだろ?」
ブリ公は左右に広げていた手を閉じて胸の前で組み直した。
「かなかなちゃん。わたしね、イギリスにいた頃は日本人の男性はみんなロリコンでマザコンで同性愛者なんだって思ってたんだ」
「否定はしないぜ。俺の知る限り、俺以外の男の99%はそうだからな。高校の中じゃ男同士で色目使いまくりだぜ」
「ブリ公、その知識は一体どこから得た? そしてオメェは少し黙ってろ」
アタシのイベントに来るキモオタたちにはそういうのもいるかもしれないけどよ。
「でもね、京介お兄ちゃんはわたしが知っている日本人像とはまるで違ったんだよ」
ブリ公は真夏のひまわりを連想させる明るい笑顔で笑った。
「京介お兄ちゃんと恋人になったのは1ヶ月前の夕立に降られた日のこと。傘がなかったわたしは店の軒先で雨宿りしていたの。そうしたら京介お兄ちゃんが全裸で通り掛ったの」
「全裸なら幾ら雨に打たれても服が濡れることがない。保温効果もばっちりだから夏に最適なスタイルだぜ」
「他に気にするものがもっとあるだろうが……」
何故警察はこの男を放置したのだろう?
「京介お兄ちゃんのワイルドなスタイルにわたしはとっても驚かされたの。それからとても可愛い神秘のリヴァイアサンが目に入って来たの。リヴァイアサンはイギリスと日本を結び付けたの。東西文化の融合なんだよ♪」
「フッ。俺のリヴァイアサンは女性の心を掴んで離さないのさ♪」
「テメェッ、まだ年端もいかねえブリ公に何てものを見せやがるっ!」
靴を脱いで変態に向かって放り投げる。国家権力は本当に何してやがる?
「ワイルドな一方で京介お兄ちゃんはとっても紳士でもあったんだよ。お財布を持っていなかったわたしに傘を買ってくれたの。髪を乾かすようにタオルも貸してくれたの」
「真の男とは紳士と野獣の両方を兼ね備えているものなのさ」
「タオル持っているのならまず自分の腰に巻けよ!」
アタシの絶叫が店内に木霊する。
アタシってこんなツッコミキャラだったか?
「京介お兄ちゃんの男の魅力にすっかりメロメロになったわたしはすぐに好きですって告白したの。そうしたら京介おにいちゃんもわたしのことを好きだって言ってくれたの」
「ロウきゅーぶを見た俺は真実の愛に目覚めたんだ。まったく、小学生は最高だぜっ!!」
「フザケンナッ!」
桐乃の兄貴の顔面に一発グーで決めてやる。
「そんな訳でわたしと京介お兄ちゃんはラブラブなお付き合いをしてるんだよ♪」
「一昨日ブリ公が電話してすぐマネージャーを引き受けたのはそういう裏があったのかよ」
じゃあ、さっき桐乃の兄貴がこの喫茶店に入る前に別れたのもブリ公だってことかよ。
そういや確かにあの声はブリ公のものだった。
声の正体に気付いていれば告白して振られるなんて切ない思いもせずに済んだのによぉ。
「でね、かなかなちゃん。京介お兄ちゃんったら初デートの時もとっても格好良かったんだよ♪」
「フッ。俺はいつでも格好良いのさ」
「いや、もう聞かせてくれなくて良いから。っていうか、惚気話は必要ねえよ」
「そんなこと言わないで聞いてよ、かなかなちゃん♪ 京介お兄ちゃんったらね♪」
その後もアタシは2人の“純愛”という名の苦痛な惚気話を日が沈むまで散々聞かされ続けた……。
喫茶店から自宅へと向かう道すがら、アタシはフラフラになって今にも倒れそうだった。
「今日は本当に人生最悪の日だぜ、まったくよぉ……」
他人の惚気話を延々と聞かされることほど苦痛なことはそうはない。
しかも相手が自分の好きな男とガキンチョと思っていた後輩のカップリング。
精神的な打撃は果てしなく大きかった。
「学校での出来事といい、喫茶店での出来事といい、人生やめたくなるぜ、本当によぉ」
今日何度目になるかわからない大きな溜め息が漏れ出た瞬間だった。
「そう。だったら加奈子の人生の終焉をわたしたちがお手伝いしてあげるわ」
「リアルメルルに不必要なものは全部捨て去っちゃえば良いのよ」
「ゲッ……」
……アタシの目の前に2人の死神が現れた。
薄暗い夜道の路上、助けを求められそうな人間は周囲に誰も存在しない。
終わったな。アタシの人生。
だったら、最期に言いたいことを思いっ切り述べてコイツらにも不幸をおすそ分けしてやるぜ。
「けどよ。アタシを亡き者にした所で桐乃の兄貴はオメェのもんにはならないぜ。何たってアイツはもうブリ公の物なんだからよ!」
空を見上げる。
北斗七星とその脇の蒼い星だけがとても輝いて見えた。
「お兄さんと一緒に喫茶店に入っただけでは飽き足らず、お兄さんが幼女と付き合う犯罪者だなんて悪評まで広めようとするなんて許せませんっ!」
「バカ兄貴が幼女趣味なら、アタシは10歳の時にもう手を出されてるハズだってのっ!」
桐乃の兄貴のロリコンを認めたくない2人の修羅が跳び掛かって来る。
2人はそれぞれアタシの首と心臓を狙っている。
体力が尽きたアタシにはその一撃を避けるだけの力がもうない。
あやせたちの攻撃が迫り来る中、アタシはこれまでの人生が急に頭の中に蘇り始めた。
走馬灯ってヤツだな。
そしてアタシの走馬灯の中心にいたのは桐乃の兄貴だった。
チッ。初めて本気で好きになった男だからやっぱり恋人になりたかったよなあ。
アタシ一体、どこで選択肢を間違えちまったんだろ?
BAD END
カナカナ道場を見ますか?
はい
⇒いいえ
来栖加奈子の日常ルートへの扉が開かれました
説明 | ||
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