中秋の名月
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いつの間にか、布団に潜りこまれても、霊夢は何も言わないようになった。

きっかけはなんだったのか、二人とも思い出せなくなっていた。

最初はたぶん酒が入っていた。

それで最初は酔いに任せた戯れに、次は冗談で、その次は、二人とも真っ赤になった。

秋の長夜の虫の声に抱かれながら、二人はささやかな幸せを育み、お互いを愛した。

 

「お団子、作らなきゃ」

「そういや、そろそろ中秋の名月だな」

ぽつりと、そんな会話をした。

 

その日は雨になった。

「せっかく作ったのに、月が見えなくて残念だねえ」

「見えない月を想像しながら食べるのが風流なのよ」

「なんだその負け惜しみは」

「うるさいわね。そういうもんなのよ」

 

夜には、雨が上がっていた。

雲が全て雨になって落ちてしまったように、夜空は晴れ渡っていた。

障子の隙間から月が出ていた。

青白い部屋の布団の上で、霊夢は魔理沙の小さな胸に耳を当てた。

「心臓の音がする」

魔理沙は、霊夢の背中を撫でた。

「そりゃあな」

 

今までひっそりしていた虫の声が、だんだん高くなってきた。

夜は、これから始まるようだった。

説明
2011年の秋に書いたものです。
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東方 霊夢 魔理沙 

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