索敵殲滅
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 目標が望遠機能でズームされ、数値的に距離が示された。

 その距離はおよそ5000メートル。

 艦影からすればサラミスクラスだ。

「マルスAよりマルスリーダー」

無線チャンネルを隊長専用とのチャンネルで開くよう操縦桿の脇にあったキーボードをすばやくたたいてそう言った。

 その後、同じく腋にあったポインターを手にとってレーザーを放ち、目前に広がる宇宙の光景から大きな照準アイコンに示された小さいサラミスの艦影を指ししめした。

「マルスリーダー、確認した」

これで俺のやった目標照準はマルス小隊にデータ共有されたはずだ。

「サラミス型巡洋艦が一隻だけというのはちょっと納得がいかない。近くにもう一隻ぐらいいるはずだ」

 リーダーからの言葉で、俺はセンサーの情報を画面に小さく出して確認してみる。

 レーダー、ミノフスキー効果で使用不能。

 熱厳センサーでは熱源はサラミスとマルス小隊以外には撃破された宇宙機の破片しかなかった。

「マルスA、クリア」

敵反応の確認が取れない旨を伝えると、もう一機のザクからも「クリア」とのことばがでた。

 しかし隊長は戦術を考えているのか、しばらく無言でいた。

 しかしそれも5秒くらいであり、隊長のザクがすっと少しばかりの速度で前に出て俺とマルスBに見えるような位置についた。

 その後手振りを隊長のザクが示した。

 その指示は、俺を隊長機の左後ろに、マルスBが距離をとって隊長機の後方につくとの内容だ。

「Dフォーメーションか」

無線を封鎖したあと思わずつぶやいた。

 隊長機が加速を始めた。

 

 ジオン公国の総帥がジオン独立を表明したテレビ演説の直後、すでに極秘に移動を行っていたジオンは一気にそこから各サイドへの攻撃を強行した。

 だが俺たちはコロニー攻撃にも地球軌道艦隊にも参加せず、サイド5ルウム宙域に展開した。

 距離的にルウムはサイド3のジオン本国から近いため、下手をすれば本国に地球連邦の攻撃を加えられる危険があった。

 だから、それに使われる連邦軍部隊を釘付けにするための戦力が俺たちだったと後にわかった。

 連邦の主力はジオン本国からは地球を挟んで反対側のルナツーにあり、いわば警戒の防衛線として地球軌道艦隊があった。

 コロニー駐留軍は主に陸戦戦力で、各サイドにある戦力をまとめても地球軌道艦隊より小さかった。

 しかしサイドへの恫喝に使っているだけあって戦力はコロニーを物理的に破壊できるほどのもので、たぶん3日ほど暴れればサイドは全滅するだろう。

 俺たちはそういう意味では国に一番危険な因子を排除するというお題目が声高らかに部隊内部で喧伝された。

 しかしいま伝説ができるのは地球軌道であってルウムではなかった。

 士官学校を卒業したが成績はいいほうでもなかったし、何か特別な才能があるわけでもない。

 俺は結局マルスAとしてやっていくしかないわけだ。

 サラミスはいまどこだ?

 マルスリーダーは俺の右ななめ前にいる。

 さらにその右側に望遠機能で拡大されたサラミスの噴射ガスが見えた。

 マルスリーダーのザクが加速を停止した。

 俺もあらかじめ噴射時間をタイマーセットしていたので機を見計らったように自動でマルスAのザクが噴射をやめる。

 加速の時間は40秒。

 初期の速度が6m毎秒あったから2分後にはサラミスに近接しているはずだ。

 連邦の近接自衛火器の射撃は約1.5kmの範囲で始まる。

 そこに到達するには80秒必要だから、40秒間は少なくとも弾幕にさらされる危険が大きい。

 もっとも、最初の攻撃でサラミスの火器システムを沈黙させられなければもっと長い時間敵弾を受けかねないことになる。

 モビルスーツは近接火器にも強度面で不安が残る。

 装甲でなくてもセンサー類をやられてしまったら有無を言わさず戦闘不能だ。

 いっそぎりぎりまで接近をかけてすれ違いざまになぎ払える剣のようなものがあればいくらか違うかもしれない。

 接近してしまえば射程から逆に外れる。

 同士討ちになる危険があるからだ。

 操縦桿のファイアーボタンに親指をかけた。

 訓練と違ってやはり少しばかり焦りがある。

 すぐにマシンガンを撃ち始めればすぐに目前のサラミスが撃破ができる。そんな根拠のない自信があった。

 いや、自信なんかではなく、単なる願望だろう。こうあってほしい、という願いだ。

 生き残るために危険を排除したがる本能が冷静な判断を失わせるのは最初にやった戦闘でわかっていた。

 そう、これでもう3度目の戦闘になる。

 再びマルスリーダーの手信号が見えた。

 ここで再度無線を復活させ、マルスリーダーの指示が出るのを待つ。

 ここまできたらあとは攻撃が数秒後には発生するだろう。

 「いくぞ!」

 隊長の声が聞こえたと同時にマルスリーダーが加速を開始した。

 そして加速をやめて1分が経過するとサラミスとの距離は2000メートル。

 マルスリーダーの速度をコンピュータが自動で計測。約12秒間の増速で7m毎秒の増速があった。これで400メートルほど距離が縮まる。

 増速のタイミングを確認するため、ザクのOSのガジェットのひとつであるタイマーがカウントを開始した。さらにマルスリーダーからマズルフラッシュ。

 曳光弾が見えた。それはすぐにサラミスへと吸い込まれていく。

「マルスA!離れるな。俺に続くんだ!撃て」

射撃のスコープを調整。戦いで正確に狙いを定められるのは敵の攻撃がこないとわかりきっているスナイピングのときだけだ。

 だが当てたいところに当てるにはちょっとしたコツがある。

 ザクは一気にサラミスから1000メートルまで進入した。

 サラミスのほうはレーダーをまだ調整しているのか、射撃の的を探しきれないようでまだ何も放たなかった。

 マルスリーダーと俺は数発ほどザクマシンガンを撃った。

 ぼんやりと写っていた艦影はここまで近づくとだんだん大きくなるスピードが速まってきた。

 さすがにここまでくると目視されていると思える。

 目視というか、光学機器に観測されているだろう。

 宇宙では射撃を行うと独特な振動があり、ザクは自動で微調整を行いぶれを軽減するが、しかしここで射撃のコツを使ってみる。

 サラミスの上面を掠めるようにまず一発。

 その直後にまた一発を放つ。

 このタイミングが合えばザクマシンガンは自身の発生さえたブレが射角になってある程度、撃った弾たちを広範囲に散らすことになる。

 ここで俺がザクの機首を上げた。

 スラスターを噴射し上に上がっていくとサラミスは俺のザクの下へ滑り込む形で迫ってくる。

 マルスリーダーのザクは手足を振り背部スラスターをふかす。

 つまりアンバックで機体を回転させつつスラスターで直進運動をザクに与えた。

 俺たちのザクはサラミスの上面構造近くを蛇行するように機動してサラミスの対空砲に対し命中弾を撃ち込んだ。

 対空砲を沈黙させたことを実感し、俺はマルスリーダーの後を追ってサラミスから離脱する。突入方向と反対側、つまり俺たちは結果的にサラミス上空を通過したことになる。

 ここでマルスBを見てみると、マルスBは少しばかり加速した後はそのまま慣性で航行してサラミスを横切って俺たちについてきた。

 つまり俺たちが砲を黙らせたので安全に通過できたわけだ。

 それがおれたちの役割でもある。

 けりはザクバズーカを持っているマルスBに任せればいい。 

 マルスBは機を180度ほど旋回して後ろを向いた。

 そしてザクバズーカからガスが噴射されたのがわかった。

 サラミスに数発の、ガスを引く物体が突入した。

 一発は艦橋に、後の2発はサラミスのエンジンと船体側面の中心に吸い込まれる。

 モニター画面に熱源警報が出る。

 爆発が起こったのだ。

 俺もザクを反転させるとサラミスに穴が開いているズーム画像を確認することができた。

 バズーカの弾から受け取った反動もあり、サラミスは不自然な回転を始める。

 上下左右に複雑な回転運動を行っている。

 撃破成功だ。

 しかしここで加速の手を緩めてはだめだ。

 もっと増速をかけてその場から離れなければいけない。

 サラミスの爆発により運動エネルギーを得た船体破片が一気に押し寄せてくる。

 加速度を40秒かけて23メートル毎秒の増速を行って、60秒滑走し、7000メートルの距離を稼ぐ。

 破壊の度合いでも違いは出るが、レーザーセンサーでは警報がやんでおり、破片は別の方向に集中して飛び去ったと思えた。

「減速しろ」

マルスリーダーがザクのスラスターを噴射しながらそういった。

 俺もザクを進行方向に対して逆にむかせ、スラスターを噴射させた。

 2分ほど噴射し、ようやく敵発見直後からの増速分をゼロにすることができた。

「これからコムサイとランデブーする。見つけたら教えろ」

 長距離通信は一部の強力な電波以外はミノフスキー効果で減衰される。

 そのために母艦に帰るにはあらかじめ決められたランデブーポイントと待ち合わせ時間が必要になってくる。

 ムサイ級のコムサイはその用途に適したものだといえる。

 つまり、母艦からみて小型な機を分離することで母艦を危険にさらさずにすばやくザクの推進剤補充や回収を容易に行えるのだ。

 今回はパトロール中の遭遇戦であり、いわばサーチアンドデストロイ任務だ。

 決められた時間に出撃し決められたポイントにいるわけではないので、自力でランデブーポイントに向かい、そして待たなければいけない。

「通信が入った」

 数時間してマルスリーダーがコムサイの赤外線通信を受信したようだった。

 ザクが回収かあるいは推進剤補充のみに終わるかはにコムサイに乗り合わせている作戦参謀の判断だ。

 だが一隻でも撃沈すれば休養が与えられるのがサーチアンドデストロイの通例になっている。

 このように、一瞬で片がつく戦闘は戦争中旬までは半々の割合だった。

 戦艦やビーム砲が乱舞する戦場も、索敵のみに時間を費やすサーチアンドデストロイも、敵側がモビルスーツを配備しない間のいわば一息つく時間だったに過ぎない。

 ルウム戦役を経て地球降下作戦の補給ルート防衛にいたり、最終的には再度宇宙が主戦場になった。

 その間にももビルスーツは多種多様な進化をとげ、戦術もそれを応用した戦い方になっていく。

 だがここで重要なのはモビルスーツのアンバックや加速度の大きさではなく、あくまで人間が戦い方を理解しているのか、ということだ。

 俺もルウムを戦い、ルナツーとの宇宙戦艦と勝負し、宇宙要塞でモビルスーツと戦った。

 だが、戦場の鉄則を常に察知してそれに沿わなければどこかで確実に命を落としていた。

 戦争は人間に持てる力を強いるものなんだろう。

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一週間戦争の一場面です
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ガンダム

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