博麗の終 その12 |
【チェックメイト】
「なっ!」
あの八意永琳が、驚きを口にしていた。
『こんなことが出来るなど、聞いてはいないぞっ!』
そんな思いが脳内を駆け巡っているのだろう。
屋根越しに八雲紫がいる所を振り返り、酷い形相で睨み付けた。
が、瞬時にそれは霧消した。
知っていたはずだ。
レミリア・スカーレットは、遊んでいただけだったのだと。
いつも、いつでも、どんな時も。
幻想郷の歴史に名を刻んだ時も。
異変を起こして退治された時も。
異変が起きて解決に向った時も。
勝ちも、負けも。
過程も、結果も。
何もかもがただのお遊びで、ただの一度も本気など出したことがないと。
気付いていたはずだった。
幻想郷縁起にある「大暴れ」すらも、遊びの一つに過ぎなかったのだろうと。
だから、八意永琳は紅魔館の戦力を推し量ることができなかった。
『幻想郷の誰もが、吸血鬼レミリア・スカーレットの真の実力を知らないのでは?』という仮説。
その一つがあるだけで、もはや全てが無意味であるのだから。
そして今、未知かつ予想外の戦力増強という、指揮官として最悪の一手を打たれてしまった。
戦闘開始直後に、指揮官であり最高の頭脳を持つ八意永琳の想定を軽く超えられてしまった。
ただでさえ、劣勢が予想される戦いである。
刹那、八意永琳は『この戦いに勝機などあるのか?』という疑問を抱く。
しかし今は、そんなことを考えている場合ではない。
もっと緊急で、重大な事案が目の前にあるのだ。
現段階でもう部隊は制御を失っている。用意した3軍のうち、人間の里軍は司令官のアリスと副司令官の慧音で一体を。そして何故か着いてきた藤原妹紅が一体を、半分死にながらではあるが足止めしている。戦力外の人間の里軍本体は、すでに後方へ撤退済みのようだ。ここはしばらく持ちこたえられるだろう。
妖怪軍は司令官の八雲藍が一体を相手取って互角以上の戦いを、副司令官の橙と妖怪軍が、一体を相手取って劣勢ながらも持ちこたえている。橙の指揮力は、意外にも高いようだ。ここは時間をかければ手助けなしで勝利するだろう。
しかし、指揮を拒んで遊軍となった妖怪等混成軍は、たった一体に蹂躙されている。ばらばらに攻撃をしては吹き飛ばされて、連携の欠片もない無駄な突撃を繰り返している。ここは駄目だ。手助けを入れなければ、間も無く総崩れとなる。
このように、一瞬にして全ての部隊が行動不能に陥った上に、本命であるレミリア・スカーレットは左手首より先を失ったのみである。このまま従者を連れて、博麗霊夢の元へと歩んでしまえば事が終わってしまう。ここに至っては、八意永琳が自らレミリアを止めるしかない。
……ないのだが、指揮官としてどうしようもなく気になる一点がある。
賢者の知恵をもってしても結論が出ない、手詰まりの思考――――
『五本の指は、迎撃の部隊全てを押し込めるほどに強力な化物と化した。
戦況を見ても、高確率の勝利を目算できるのは八雲藍くらいだろう。
その八雲藍でも倒し切るには時間がかかるのは、藍が橙にかけている声からも推測できる。
とにかく被害を最小限に抑えながら粘るように指示が飛んでいるのだ。
あの九尾の狐が苦戦するほどに、強力な化物になっているということだ。
ならば、同様に切り落とされた手の平は?』
いまだにレミリアの足元にある血溜りで、滴る血を受け続けている手の平。この正体がわからぬ限り、最強であり指揮官である八意永琳が動くわけにはいかない。指の一つ一つが力のある妖怪以上の化物となったのだから、手の平がそれ以上の存在となる可能性は高いと見るべきだろう。レミリアが進もうとするならば行く手を阻む選択肢を選ばざるを得ないのだけれど、手の平と血溜まりのところにいる限りは何が出るのかを確かめなくてはならない。
その上で判断するしか、術がないではないか。
情報が少なすぎるのだ。
最強の底が見えないのならば、何を画策しようと無駄に終わるだけだ。
全てが等しく、偶然と希望的観測による愚策へと導かれてしまう。
状況から言ってしまえば、八意永琳はすでに詰んでいる。
説明 | ||
確実に勝つべき時に信頼していた情報に誤りがあったら、 有能な指揮官はどうするべきなのでしょうか。 |
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