本編
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悪魔騎兵伝(仮)

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第二話 気高き理想。仮面の共鳴。

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C1 謁見

C2 鉄の仮面

C3 家族愛

C4 議論

C5 盟主の威光

C6 暗黒大陸連邦の黒い影

C7 口論

C8 化石

C9 爆発

C10 掲げられた狼煙は…

次回予告

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C1 謁見

 

トーマ城玉座の間。玉座に座るエグゼナーレ。傍らには三大臣とヴォルフガング・オーイーがいる。その前に跪くファウス。後ろに参列するアレス王国兵士達。

 

エグゼナーレ『盗賊討伐大義であった。』

 

エグゼナーレは玉座から立ち上がりファウスのもとに歩み寄る。

 

エグゼナーレ『アレス王国領からの長旅と盗賊討伐でさぞ疲れたことであろう。』

 

ファウスは顔をあげる。

 

ファウス『そ、そのようなことは…。』

 

エグゼナーレはしゃがんでファウスの顎を親指と人差し指であげ、顔を近づける。エグゼナーレの美しい顔立ちと怪しく艶かしい眼がファウスを見つめる。

 

エグゼナーレ『そんなことはあるまい。盗賊を捕縛してきた折、そなたはかわいらしい天使のような寝顔をしていたではないか。』

ファウス『あっ…。』

 

ファウスは顔を赤らめて、下を向く。エグゼナーレはファウス達に背を向けて玉座の方に歩いていく。

 

エグゼナーレ『この城は昔、そなたらの居城であったな。』

 

エグゼナーレは玉座の前で止まり、振り返る。

 

エグゼナーレ『懐かしい思い出もあるだろう。ファウス王子。特別にアレス王国領時代の物であしらった部屋を用意した。第二次遠征には日取りもまだある。ゆっくりと休まれよ。』

 

エグゼナーレは玉座に腰掛ける。ファウスは立ち上がり、一礼する。

 

ファウス『ありがとうございます。』

 

エグゼナーレは三大臣とヴォルフガング・オーイーの方を向く。

 

エグゼナーレ『誰か、ファウス王子を案内しろ。』

 

三大臣達は顔を見合わせ、眉を顰める。エグゼナーレは眼を細めて彼らを睨みつける。ヴォルフガング・オーイーが前に出る。

 

ヴォルフガング・オーイー『私が案内いたしましょう。』

 

モーヴェがヴォルフガング・オーイーの方を向く。

 

モーヴェ『よ、よろしいのですか?今日の午後には暗黒大陸連邦の輸送機に乗って、オルテンド王国オルセンド王が、他にはアンセフィム・ロズマール王国アンセフィム王、ロズマリー・ロズマール王国のバイオレッタ宰相にメルミン王国スカートー将軍とルソタソ王国ハンザイサ将軍が兵站の打ち合わせの為に参られるというのに…。』

 

ヴォルフガング・オーイーは口髭を触り、モーヴェの方を向く。

 

ヴォルフガング・オーイー『何、息抜きも必要ということですな。』

 

ヴェイロークがファウスの横に歩み出る。

 

ヴェイローク『ファウス様。兵の指示は私が出しておきます。ここは次期盟主様のご好意に甘えなさい。』

 

ファウスはヴェイロークの方を向き、頷く。

 

ファウス『うん。ありがとう。ヴェイローク。』

 

ヴェイロークはカストの方を向く

 

ヴェイローク『カスト、ファウス様のことは任せたぞ。』

カスト『はい。』

 

カストはファウスの傍らに駆け寄る。ヴォルフガング・オーイーがファウス達の前に立ち、アレス王国兵士達はヴェイロークの指示に従う。

 

C1 謁見 END

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C2 鉄の仮面

 

ヴォルフガング・オーイーの巨大な背中の後ろをついて行くファウスとカスト。トーマ城の一室の前で三人は止まる。ヴォルフガング・オーイーがノブを回し、扉はきしむ音とともに開く。扉の奥には初老の男性が描かれた絵画が飾られ、箪笥の上には宝石等が綺麗に並べられている。ファウスの前にブレンが現れ、一礼する。

 

ブレン『ファウス様、お待ちしておりました。』

ファウス『…この方は?』

 

ファウスはヴォルフガング・オーイーの方を向く。ブレンは一歩前に出る。

 

ブレン『ファウス様。お忘れですか?私はブレン、あなたを庇い死んだ農奴の父親でございますよ。』

 

ファウスの丸く見開かれた眼にはブレンが映りこむ。ファウスはブレンに頭を下げる。

 

ファウス『ごめんなさい。僕…。僕の命を救うためにあなたの息子さんは…。でも、僕は…僕はあの時のことを何も思い出せません。』

 

ブレンは首を横に振り、微笑む。

 

ブレン『いえいえ、とんでもありません。幼かった故、またあのような惨事であればなおさらでしょう。アレス国王からは所領と収入を頂き、安泰した生活を送らせてもらっております。あれだけの墓石を作っていただき、息子もアレス王国に殉じられて光栄に思っていることでありましょう。さあ、どうぞ。私どもがあつらえましたこの部屋へ。』

 

ファウスは袖で涙を拭いながら部屋に入る。ファウスの潤んだ眼に箪笥の右端の錆びた鉄の仮面が映る。

 

ファウス『これは…。』

 

ファウスはそれに近づき、両腕でそれを持ちあげて覗き穴をしばらく見つめる。ヴォルフガング・オーイーは口髭をなでる。

 

ヴォルフガング・オーイー『アレス王国では王族の子が幼い頃は鉄の仮面をつけるというしきたりがあるそうですなぁ。』

 

その手から滑り落ちたそれは床に当たって大きな音を立て、円状に転がる。

 

ブレン『どうなさいました!?』

 

彼の顔は青ざめ、視線は何も無い空を見つめている。カストとブレンはファウスの傍らに駆け寄る。ヴォルフガング・オーイーは細めた眼でファウスを見つめる。

 

カスト『ファウス様、大丈夫ですか!?』

 

ファウスは瞬きし、首を震わせてカストを見る。

 

カスト『ファウス様…。』

 

ファウスはカストを見つめる。

 

ファウス『う…うん。何でも…何でもないよ。少し疲れてただけ…。』

 

ファウスはヴォルフガング・オーイーの方を向く。

 

ブレン『お気に召しませんでしたか?』

ファウス『ブレンさん。ごめんなさい。せっかくのおもてなしなのに僕…。疲れてしまっていて…。』

 

ファウスはオーイーの方を向く。ヴォルフガング・オーイーは顎をさする。

 

ヴォルフガング・オーイー『…う〜む。市街に行きましょうか?トーマ城城下町の活気を見れば、元気が湧いてくるやもしれません。』

 

ファウスはカストと顔を合わせる。カストは頷き、ファウスはヴォルフガング・オーイーの方を向いて頷く。ヴォルフガング・オーイーは二人に背を向け、二人はその後をついて行く。鉄の仮面を元の位置に戻すブレン。

 

C2 鉄の仮面 END

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C3 家族愛

 

トーマ城城下町を連れだって歩くファウスとヴォルフガング・オーイーにカスト。人の賑わう市場を通り過ぎる三人の前に大木を扇状に取り囲む群衆達が現れる。

 

ファウス『あれは…?』

 

ヴォルフガング・オーイーはファウスの顔を見る。

 

ヴォルフガング・オーイー『ファウス様。行きますかな?』

 

ファウスは頷く。

 

ファウス『うん。』

 

三人はその群衆に向かい近づいて行く。ヴォルフガング・オーイーは群衆男Aに話しかける。ファウスとカストは顔を見合わせて、群衆の中に入っていく。

 

ヴォルフガング・オーイー『何があった?』

群衆男A『それが、獣人の…。』

 

カストが群衆をかきわけ、ファウスが群衆達に頭を下げながら正面に出る。大木の下に倒れた椅子。その傍らにオラウータン獣人が首に縄をかけ、風に左右に揺られながら眼を見開き口から舌を出してぶら下がっている。失禁の跡が残るズボン、真下の部分には土の色とあいまって黒い染みができている。眼を覆うファウス。

 

金切り声。

 

オラウータン獣人の妻『保険金がでないってどういうことよ!!』

 

ファウスとカスト、群衆達は声がした方向に顔を向ける。保険会社の男と向かい合うオラウータン獣人の妻、その傍らにはオラウ-タン獣人の幼女がいる。保険会社の男は契約書をオラウータン獣人の妻に見せる。

 

保険会社の男『…だからですね。奥さん…自殺した場合は保険金が支払われないのですよ。今年から法改正により変更されたんですよ。』

オラウータン獣人の妻『そんな理不尽な…あんなに月々支払ってきたのに!』

 

オラウータン獣人の妻は口を閉ざして目の前にぶら下がっているオラウータン獣人を睨みつけ、ハンドバッグを投げつけ、足元に落ちている石ころや木々を次々と拾っては投げつける。

 

オラウータン獣人の妻『役立たず!ろくでなし!臆病者!!弱虫!!だいたいあんたが意気地が無いからいけないのよ!ガキ一人を殺す命令に怖気づきやがって!!このウジ虫野郎が!!』

 

ファウスは一歩出る。

 

ファウス『止めて下さい。死んだこの方が気の毒ですよ!』

 

オラウータン獣人の妻はファウスを睨みつける。

 

オラウータン獣人の妻『あんた誰なのよ!』

 

カストはファウスの傍らに出る。

 

カスト『この方はアレス王国第二王子ファウス様だ。』

オラウータン獣人の妻『アレス王国王子…あんたが!』

 

オラウータン獣人の妻はファウスの前に駆け寄ると、オラウータン獣人の死体を指さす。

 

オラウータン獣人の妻『あんたがあんな腐れた盗賊達を捕まえてこなければこんなことは起こらなかったのよ!!!!夫も…夫も除隊されて、自殺することもなく…ううっ。』

 

オラウータン獣人の妻はその場に崩れ落ち、大粒の涙を流しながら泣き続ける。傍らのオラウータン獣人の幼女は彼女の袖口を何度も引っ張る。

 

オラウータン獣人の妻『なんで死んだのよぉおおおおお!!。』

オラウータン獣人の幼女『ママー、ママー。』

 

ファウスは掌を開き、下を向いてうるんだ瞳で見つめる。

 

ファウス『僕は…僕は…。』

 

ファウスの横にシュヴィナ王国兵士を二人引き連れた。ヴォルフガング・オーイーが現れる。

 

ヴォルフガング・オーイー『こ、こんなところにおりましたか。暗黒大陸連邦の輸送機が予定より早くつくことになりまして…。』

 

カストはファウスを揺する。

 

カスト『ファウス様!』

 

ファウスは青ざめた表情でカストの方を向く。

 

カスト『…行きましょう。』

ファウス『……う、うん。』

 

カストはオラウータン獣人の方を向いているファウスの手を引く。ファウスとカストはヴォルフガング・オーイーと二人のシュヴィナ王国兵士の後をついて行く。振り返るファウスの眼に映る、泣き続ける獣人の親子。

 

C3 家族愛 END

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C4 議論

 

シュヴィナ王国ジープ。助手席のシュヴィナ王国兵士Aは後ろを振り向く。

 

シュヴィナ王国兵士A『王侯の方々を乗せるのにこの様な車で申しわけありません。』

ヴォルフガング・オーイー『止むを得んだろう。そうでしょう?ファウス様。』

 

ヴォルフガング・オーイーはファウスを見る。ファウスは俯き、じっと下を見ている。ヴォルフガング・オーイーは口髭をなぞる。カストはファウスの肩を揺らす。

 

カスト『ファウス様。』

 

ファウスは瞬きしてカストの方を見る。ヴォルフガング・オーイーはファウスの方を見つめる。

 

ヴォルフガング・オーイー『先程の親子のことですかな?』

 

ファウスは頷く。

 

ファウス『…はい。』

ヴォルフガング・オーイー『気にすることはありません。放っておきなさい。』

 

ファウスは顔をあげ、オーイーを見つめる。

 

ファウス『でも…手は差し伸べるべきだった。そうでしょう。オーイー様。今からでも遅くない…僕、行きます。行って…。』

 

ヴォルフガング・オーイーは口髭をなぞる。

 

ヴォルフガング・オーイー『止めなさい。彼らに情けをかければ、弱者を笠に着る強盗が多発しますぞ。』

 

ファウスは上体を前傾してヴォルフガング・オーイーを見つめる。

 

ファウス『で、でも!』

 

ヴォルフガング・オーイーはファウスを睨みつける。

 

ヴォルフガング・オーイー『ここはあなたの領地ではありません。その様な対応をあなたがすれば、我が主君もそれ以上の対応をしなければ示しがつきません。ことはあなただけの問題ではないのですよ!討伐できぬ上、こちらの名にも傷がつく!そのような盗賊よりたちが悪い輩の相手などしておれば国庫はすぐに空になってしまいます!分かりますな!』

 

ファウスは肩を落として頷く。

 

ファウス『…はい。』

 

ジープがシュヴィナ王国の街並みを通り過ぎる中、ファウスの眼にはジープの床が映っている。ジープがグラルタ軍港に停止する。

 

シュヴィナ王国兵士A『着きました。』

 

シュヴィナ王国兵士Aは左側を指さす。顔をあげたファウスの眼に入り込む超巨大航空戦艦アクマド。3人はジープから降り、オーイーを先頭にしてアクマドへと向かって歩いて行く。

 

C4 議論 END

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C5 盟主の威光

 

飛行板上に上がるヴォルフガング・オーイー、後ろに続くファウスとカスト。飛行板上には赤い絨毯が敷かれ、テーブルの上に豪勢な食事が並び、兵士や使用人達が行き交う。眉を顰めるオーイー。ヨナン、パンデモと若い女が彼らの前に歩いて来る。

 

ヨナン『ファウス王子、随分と遅いお出ましで。』

 

カストが前に出る。

 

カスト『ファウス様は次期盟主様のご好意に甘え、オーイー様と共に城下を巡っている時に知らせが入り、急報だったのです。』

 

ヨナンは鼻で笑う。

 

ヨナン『それは言い訳にしか過ぎぬよ。遅参してきて…言い訳とはおこがましい。』

若い女『だいたいオーイー殿がついていて遅れるとは。』

パンデモ『管理責任がなってないのでしょうな。ハハハハハ。』

 

玉座に座るエグゼナーレが眉を顰めて彼らの方を向いている。モーヴェがエグゼナーレの方を向き、駆け足で彼らの下へとやって来る。

 

モーヴェ『まあまあ、お三方とも一国の国王の子弟と大臣がみっともないことは止めましょう。まだ暗黒大陸連邦の輸送機は着いておりませんよ。』

 

若い女はモーヴェに詰め寄る。

 

若い女『しっ、しかし、モーヴェ様!この方々は会場の準備もまともには手伝っていないのですよ。』

 

モーヴェは身を引いた後、若い女に詰め寄る。

 

モーヴェ『どなたか知りませんが、これを他国の使者達が見たらこの様子をどう思うことか。』

 

若い女は眼を丸く見開いてモーヴェを見る。

 

若い女『いえ、モーヴェ様。あの、私、ジェルンですけど…。』

 

皆が一斉にジェルンを見る。

 

一同『えっ!?』

 

暫し、沈黙。ジェルンは辺りを何回か見回す。ヴォルフガング・オーイーが咳払いをした後、口を開く。ヨナンはジェルンから一歩離れる。

 

ヴォルフガング・オーイー『確かに遅参は私の不手際。』

 

ヴォルフガング・オーイーはファウスに頭を下げる。ファウスは頭を左右に振ってヴォルフガング・オーイーを見つめる。

 

ファウス『そ、そんなオーイー様は僕の為に城下を案内して下さっただけ。頭を下げる必要なんてありませんよ。僕が…僕がもっとしっかりしていれば…。』

 

ヴォルフガング・オーイーは豪勢に装飾された飛行板の方を向く。

 

ヴォルフガング・オーイー『しかしながらこの状況は感心いたしません。これはまるで戦勝後の祝賀会ではございませんか。確かに貴族連合の力と繋がりは強力ではありますが帝国は無限の魔脈を持つアビス層を有し、イレジスト王の怨念ともいうべき我々を凌駕した進んだ科学技術を持っております。帝国の力を侮ってはなりません。』

 

エグゼナーレが玉座から立ち上がり、オーイーの前に来る。

 

ヴォルフガング・オーイー『おお、これはエグゼナーレ様。』

 

エグゼナーレはヴォルフガング・オーイーを見つめた後、微笑む。

 

エグゼナーレ『ヴォルフガング・オーイーよ。貴公の言うことも尤もだ。しかし、力を見せつけなけなければ、次期盟主として他国に示しがつかないだろう。』

 

ヴォルフガング・オーイーは顎髭をさすり、エグゼナーレを見る。

 

ヴォルフガング・オーイー『そういうわけですか。それならばこの様な豪勢なそぶりも開戦しても余裕があるという盟主としての威光を示しますな。非礼をお詫びします。』

 

ヴォルフガング・オーイーは一礼する。

 

エグゼナーレ『別によい。』

 

エグゼナーレはジェルンの方を向く。

 

エグゼナーレ『時にジェルンよ。』

 

青ざめた顔のジェルンは方を上下させ、エグゼナーレの方を向く。

 

ジェルン『はっ、はひ。』

 

エグゼナーレはジェルンに近づき、耳元で囁く。ジェルンは何回か頷き、青ざめた顔は元に戻る。

 

ジェルン『あ、は、はい。そういうことなら喜んで…。』

 

エグゼナーレはジェルンを連れてアクマド艦橋へと入っていく。

 

C5 盟主の威光 END

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C6 暗黒大陸連邦の黒い影

 

アクマド艦橋より現れる煌びやかな衣装を身に纏い、化粧を施すことによって更に美しく見えるエグゼナーレ。アクマド飛行板に設置された会場の人々は一斉にエグゼナーレの方を暫く見とれている。ファウスは口を開く。

 

ファウス『……綺麗。』

 

デンザインがファウスの傍らに着き、咳払いをする。

 

デンザイン『ウォッホン。無理もあるますまい。次期盟主殿は元服するまで暗殺を避けるため姫として育てられたのですからな。』

 

ファウスは頷きながらエグゼナーレの方を見ている。傍らのカストはファウスとエグゼナーレの方を何回か見た後、口を開く。

 

カスト『ファウス様も十分カワイイですよ!』

ファウス『えっ?』

 

ファウスは瞬きしてカストの顔を覗きこむ。カストは顔を赤らめて、そっぽを向く。

 

カスト『なっ、なんでも無いです。』

 

黒い影がアクマドを覆う。

 

シュヴィナ王国兵士『な、何だあれは!!』

 

シュヴィナ王国兵士達は剣の柄に手を当てる。ヨナンはテーブルの下に潜り込み、ジェルンは玉座の後ろに隠れる。ファウスの周りに集まるアレス王国兵士達。ファウスは上を見上げ、喉を鳴らす。エグゼナーレは上を見上げ、口を開く。

 

エグゼナーレ『落ち着け、あれは暗黒大陸連邦所属の飛行機だ。』

 

超巨軍用機サンダーバードがアクマドの飛行板に降りてくる。エグゼナーレは眼を丸くしてサンダーバードに駆け寄り、サンダーバードの外壁を撫でまわす。

 

ジェルンは玉座の後ろから忍び足で出、ヨナンはテーブルの下から顔を出すと辺りを何回か見回し、お付きの巨人血種のアドヴァンに抱えあげられる。

 

サンダーバード機長の声『お嬢さん。危ないから下がりなさい。』

エグゼナーレ『おおっ!』

 

エグゼナーレは少し跳ねて身を引き、サンダーバードを眺める。

 

機長の声『あ、し、失礼いたしました。エグゼナーレ王子殿、様。ここにおいでになると怪我をするかもしれませんのでどうぞ玉座にお戻りください。』

 

エグゼナーレはサンダーバードを2、3回見まわした後、何回か頷いて玉座へと戻る。両脇の格納庫よりジャンク級戦車が三台ずつ現れる。サンダーバードのハッチが開き、赤い絨毯が敷かれる。暗黒大陸連邦のラッパを持った兵士達が駆け足で降り、絨毯の両脇に整列する。戦車が祝砲を討ち、暗黒大陸連邦兵士達がラッパを吹き鳴らす。

 

サンダーバード機長の声『メルミン王国スカートー将軍!ルソタソ王国ハンザイサ将軍!』

 

セーラー服アーマーに身を包んだ女将軍スカートーとエントでボンテージアーマーに身を包むハンザイサが互いに距離を取ってハッチを下る

 

サンダーバード機長の声『ロズマール王国アンセフィム国王と護衛のチレ、バイオレッタ宰…!ごほん、げほん、ごふん!アンセフィム・ロズマール王国国王アンセフィム国王と護衛のチレ、ロズマリー・ロズマール王国バイオレッタ宰相!』

 

六眼の仮面を被ったアンセフィムが、鎧が不釣り合いな護衛の女重騎士チレを連れ、派手な衣装で着飾った女宰相バイオレッタと距離をとってハッチを下る。アンセフィムはヴォルフガング・オーイーの方を向く。彼の歩みは少し緩やかになり、正面を向くとまた普通の速度に戻る。

 

サンダーバード機長の声『オルセンド王国オルテンド国王!侍従のシモーヌ!』

 

オルテンド国王が風に白髪を靡かせながら、大きな鞄を持つ侍従の少年シモーヌを傍らにハッチを下る。

 

サンダーバード機長の声『暗黒大陸連邦外交官ガトンボー、同じくP・エロ!』

 

黒いスーツに身を包んだトンボ昆虫人のガトンボーと道化師の顔をしたP・エロがハッチを下る。ガトンボーは駆け足でエグゼナーレに駆け寄る。ヨナンが立ち上がる。

 

ヨナン『薄汚い昆虫人め!次期盟主殿の御前を汚すとはどういう了見か!そうそうに立ちされ!』

 

エグゼナーレはヨナンを睨みつける。

 

エグゼナーレ『ヨナン王子!外交官ガトンボー殿に対して失礼ではないか!』

 

ヨナンの顔が青ざめ、汗が大量に垂れる。

 

ヨナン『うえっ!こ、この方がガトンボー…。し、失礼いたしました。』

 

ヨナンはゆっくりと椅子に腰を下ろす。ガトンボーはヨナンの方を向く。

 

ガトンボー『いえいえ、別に構いません。若い頃も現在も他国で同様の扱いを散々受けておりますからな。ハハハハハ。』

 

ガトンボーはエグゼナーレの方を向く。

 

ガトンボー『エグゼナーレ様。申し訳ありません。』

エグゼナーレ『んっ?何か謝ることでもあるのか?』

ガトンボー『カスター機長は目立ちたがりの上、お調子者故。お気に召したのならばよろしいのですが…。』

エグゼナーレ『まあ、よいよい。中々面白くいい余興だ。』

 

カーボーイハットを被ったカスター機長がポーズをとって現れる。

 

カスター『最後にこのサンダーバード機長カスター参上!!!イーヤッホウ!!!!』

 

カスターはハッチから飛び上がり、着地に失敗して地面に体を打ちつける。エグゼナーレが吹き出し、会場から笑い声が漏れる。ファウスはカスターの下へ駆け寄る。

 

ファウス『あの…大丈夫ですか?』

 

ファウスはカスターに手を差し伸べる。

 

カスター『お〜イテテテテ…。』

 

カスターはファウスの方を向く。

 

カスター『あ、ああ。すまねえな。ちょっくらドジっちまっただけだ。問題無いぜ!』

 

カスターは親指を立て、ファウスを見る。カスターは立ち上がるとエグゼナーレの方へ向かう。ファウスは首を傾けて、カスターの後ろ姿を見つめる。カスターはエグゼナーレの前まで来るとカウボーイハットを取り、跪く。エグゼナーレは微笑む。

 

エグゼナーレ『大義であった。』

 

C6 暗黒大陸連邦の黒い影 END

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C7 口論

 

アクマド飛行板に設置された会見場。テーブルには豪勢な食事が並ぶ。アンセフィムが立ち上がる。

 

アンセフィム『エグゼナーレ殿。我々は兵站の打ち合わせに来たのだ。この様な豪勢な饗応は不要。』

 

スカートーがアンセフィムの方を向く。

 

スカートー『アンセフィム殿、そのような華の無いことを言うものではありませんわ。』

 

ハンザイサがアンセフィムの方を向く。

 

ハンザイサ『エグゼナーレ殿のせっかくの饗応を無にするものではない。』

 

アンセフィムはスカートーとハンザイサの方を向く。

 

アンセフィム『華?スカートー将軍にハンザイサ将軍!これではまるで戦勝後の祝賀会ではないか。我々は帝国にまだ勝利していないのだぞ!』

 

アンセフィムはエグゼナーレの方を向く。

 

アンセフィム『エグゼナーレ殿。新興…とはいえ帝国の力を侮ってはなりません。再建された軍備、アビス層、我々を遥かに凌駕した科学技術…不確定要素は多々存在しております。』

 

エグゼナーレは頬杖をつき、そっぽを向く。ヴォルフガング・オーイーが一歩前に出る。

 

ヴォルフガング・オーイー『そういきりたたなくてもよろしいではございませんか。』

 

ヴォルフガング・オーイーは口髭をなぞり、顎をあげてアンセフィムを見る。

 

ヴォルフガング・オーイー『だいたい、この様な場所に来て仮面を取らぬとはいくら王侯とはいえ非礼ではありませんか?』

 

アンセフィムは仮面を取る。一同はアンセフィムの方を向く。アンセフィムの端麗な顔立ちには刀傷がついている。

 

アンセフィム『この赤猫目につけられた傷跡を見れば気分を害してしまう者もいるでしょう。なおさら食卓となれば食事が不味く感じられるかと…。』

 

バイオレッタが笑いだす。

 

バイオレッタ『ケセラセラ、そのような些細なことで…。小心なアンセフィム殿にはその趣味が本気で悪い仮面と不釣り合いな鎧を着た護衛がまことに似合うことですね。』

 

アンセフィムはバイオレッタを睨みつける。

 

アンセフィム『…た、確かにこ、この仮面は趣味が悪いかもしれない。しかし、護衛のチレは水際の闘いには強いぞ。』

 

護衛のチレは顔を真っ赤にしてアンセフィムを叩く。

 

チレ『ア、アンセフィム様!何いうか。た、確かにオイラは漁村出身だども…。』

 

暫しの沈黙。ヨナンが笑いだし、他の王侯や配下も笑いだす。ファウスは瞬きしながら笑っている王侯たちを見まわし、オルテンド王は腕組みをする。チレは顔を真っ赤にしてアンセフィムの後ろに隠れる。

 

バイオレッタ『ケセラセラ、護衛の重騎士が笑わせる。水際の戦に強い?ただの田舎娘ではないですか。アンセフィム殿も堕ちたものですね。』

 

バイオレッタはエグゼナーレの方を向く。

 

バイオレッタ『やはりロズマールを継ぐ者はロズマリー女王が良いのでは?』

 

オルテンド国王は周りを見回し、口を開く。

 

オルテンド『我々は我々の目的を忘れたのですか?些細なことでいがみ合い。どうでもいいことで足を引っ張り合うのは止めにしましょう。』

 

アンセフィムとバイオレッタは顔を見合わせて、頷く。

 

オルテンド『エグゼナーレ様。饗応の続きを。』

 

オルテンドはエグゼナーレの方を見つめる。

 

エグゼナーレ『そ、そうだな。』

 

エグゼナーレが楽人達に目配せし、彼らは音楽を奏でだす。

 

ファウスはオルテンドの傍らに駆け寄る。

 

オルテンド『うん?どうしたのだ。ファウス王子…。親父殿は元気にしておられるか。』

 

ファウスはオルテンドの顔を覗きこむ。

 

ファウス『はい。でも、今は帝国との国境上にいます。』

オルテンド『そうかそうか。』

ファウス『オルテンド様は政情不安定なトロメイア大陸半島の国々との友好関係を作り、その架け橋として働いておられます。僕、凄いって思います。』

 

オルテンドは白い髭をさする。彼はグラルタ湾を見つめる。束ねた髪が潮風に靡く。

 

オルテンド『…凄くなどないよ。ただの罪滅ぼしさ……。』

 

ファウスはオルテンドの視線の方向を見つめ、暫くして周りを見回す。アンセフィムに頭を下げるチレ。アンセフィムは首を横に振り、チレの肩を叩く。赤ら顔のハンザイサとスカートー。

 

ハンザイサ『ピチピチギャルの宴はまだかいの。隣が48歳の…。』

スカートー『飲みすぎだ!だ、黙れ!この…。』

 

カスターは肉を頬張りながらエグゼナーレを見る。

 

カスター『しっかし、すばらしい!なんとすばらしい船だこれは。この巨体のサンダーバードが着艦できる空母がこの世にあろうとは!しかも、これを止めてまだ余裕のある飛行板!パーティ-会場すら入るし、武装も充実。何より食い物が上手い!このような軍艦は何処の国にもありませんよ。』

 

P・エロのテーブルの食事は一つも減らず、ナイフとフォークもそのままの状態で置いてある。

 

P・エロ『確かに…この船はすばらしい。しかし、これだけの巨体となれば動かす動力源や燃料は相当なものとなるでしょう。』

 

エグゼナーレは片手を挙げる。楽人達の演奏が止む。

 

エグゼナーレ『その様な事は無い。』

 

P・エロは眼を見開く。エグゼナーレは笑みを浮かべる。

 

エグゼナーレ『よかろう。諸君らを特別にアクマドの機関室へ案内しよう。ついて参れ。』

 

エグゼナーレは立ち上がる。

 

C7 口論

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C8 化石

 

王侯と配下達がアクマドの格納庫を横切る。大量の人型機構と航空機が並べられている。P・エロは眉を顰めて、人型機構を眺める。カスターは息を荒げて人型機構を眺める。

 

カスター『凄い搭載量だ…。』

P・エロ『…航空機と上陸艇だけにすれば更に良いのに。』

 

アクマド機関室に王侯を始め、その配下がぞろぞろと入りこむ。丸い球体に無数の顔面や手足がまばらに突き出て、唸りを挙げている。唖然とする王侯とその配下達。

 

P・エロ『これは…。』

 

エグゼナーレは手でそれを指す。

 

エグゼナーレ『これは絶滅した古代エルフ族の化石、彼らの持つ絶えぬ魔力が動力源となり、この巨大なアクマドを動かしているのだ。』

 

シャロンは暫く古代エルフ族の化石を見つめ、頭を手で押さえる。

 

ファウス『シャロン、どうしたの?』

 

シャロンはファウスの方を向く。

 

シャロン『気分が悪くなりました』

ファウス『大丈夫?』

 

エガロは眼を細めてシャロンの方を向く。

 

シャロン『少し、風に当たってきます。』

ファウス『う、うん。僕もついて行くよ。』

シャロン『大丈夫ですよ。お気づかい感謝します。』

 

シャロンはファウスに背を向け、扉から消えていく。

 

ガトンボー『ほぅ、これが噂に聞く古代エルフ族の化石ですか。』

エグゼナーレ『そう。あの顔の化石を。』

 

一同はエグゼナーレの指さした古代エルフ族の顔の化石の方を向く。

 

P・エロ『…普通のエルフ族とは耳の形が違っておりますな。』

 

エグゼナーレは腕組みをし、眼を閉じて何度も頷く。

 

エグゼナーレ『そう。古代エルフ族の化石を発掘するのも稀なのにこの様な巨大なものが産出されたのは珍しくてな。父上がアクマドの建造へと回したのだ。』

 

P・エロは一歩前に踏み出す。

 

P・エロ『ということは…これがあの永久機関として名高い…。』

 

P・エロはエグゼナーレに駆け寄り、両手でエグゼナーレの手に握手する。

 

P・エロ『また、これと同じような物。いやいや普通の古代エルフ族の化石でも発掘された時は是非とも暗黒大陸連邦との取引をお願いしたい。』

エグゼナーレ『あ、ああ、構わぬが。』

P・エロ『では、宜しくお願い致します。』

 

P・エロは両手を放す。

 

エグゼナーレ『では、宴の続きをしよう。』

 

ぞろぞろと飛行板へ戻っていく王侯とその配下達。P・エロはトイレに駆けこんでいく。ファウスはグラルタ湾を見つめているシャロンに向かい駆けていくが、トイレの前まで立ち止まる。トイレの扉を少し開け、中を覗きこむファウス。P・エロがしきりに手を洗っている。

 

P・エロ『汚らわしい…族め…チッ、触っちま…じゃね〜か。たくっ、いくら取引上…要…は言え…。』

 

ガトンボーがファウスの肩を叩く。

 

ガトンボー『P・エロは神経質なところがありましてな。まあ、お気になさらずに。』

 

ファウスはガトンボーを見た後、ゴミ箱に捨てられた白い手袋を見て首を傾ける。ファウスはトイレの扉を閉め、グラルタ湾を見つめているシャロンに駆け寄る。

 

ファウス『シャロン。調子はどう?』

 

シャロンはファウスの方を向く。

 

シャロン『ファウス様。大変申し訳ありません。軽い船酔いだったみたいで。』

ファウス『そう…。』

シャロン『御心配なさらずに。』

 

エグゼナーレは玉座に座り、手を振り上げる。楽人達が音楽を奏でる。会場は元の活気に戻る。

 

C8 化石 END

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C9 爆発

 

トーマ城城壁の上。ファウスは城壁の手すりへ寄りかかり、グラルタ湾の方を見つめる。オルテンドがシモーヌと共に歩いて来る。

 

オルテンド『おや、ファウス王子。』

 

ファウスは瞬きしてオルテンドの方を向く。

 

ファウス『オルテンド様。』

 

オルテンドは腰をかがめてファウスに微笑みかける。

 

オルテンド『こんなところでお一人でどうされたのですかな。』

ファウス『この湾の向う…ロズマール帝国との国境上でお父様はどうされているのかなって考えています。』

 

オルテンドは立ち上がり、ファウスと一緒にグラルタ湾の水平線を眺める。

 

オルテンド『鋼強を知られたアレス国王のこときっと大丈夫ですよ。』

 

ファウスはオルテンドを見上げる。

 

ファウス『オルテンド様。オルテンド様はトロメイア大陸半島の危険な国々との架け橋として平和的な話し合いをもって尽力なされているんでしょ。帝国の方々とも話し合うことはできるはずです。こんな戦なんて起こさなくても、人は…分かりあえるはずでしょう。』

 

オルテンドは自分の傷だらけの掌を見つめ、ファウスの方を向く。

 

オルテンド『ファウス王子は…まだ、お若いな。』

 

オルテンドはファウスの頭を撫でる。ファウスは上目遣いでオルテンドを見つめる。

 

オルテンド『あなたが思うように世界が綺麗ならば良いのですが…そうもいきません。』

 

靴音。9名の男女達がざわめきを立てながらトーマ城城門へ入る。オルテンドは時計を見る。

 

オルテンド『おおっ、もうこんな時間か。それではファウス王子。』

 

オルテンドは歩きながらシモーヌの方を向く。

 

オルテンド『シモーヌ、行くぞ。』

 

シモーヌは頷き、ファウスに一礼するとオルテンドの傍らに駆けていく。オルテンドとシモーヌはトーマ城の喜びの塔に入っていく。

 

カスト『ファウス様!こんなところにいたんですか。』

 

カストがファウスの傍に駆けてくる。

 

カスト『ガトンボー様がファウス様を見かけたと聞いて…。』

 

ガトンボーが一礼してファウスに近づいてくる。ファウスもガトンボーに対して一礼する。ファウスはガトンボーを見る。

 

ファウス『ガトンボー様は市民との話し合いには参加されないのですか?』

ガトンボー『私は兵站の打ち合わせに、市民との話し合いにはP・エロが参ります。』

ファウス『P・エロ様が…。』

ガトンボー『市民との打ち合わせには昆虫人の私等よりも市民階級出身の彼が適任ですよ。』

 

ファウスはグラルタ湾を見た後、ガトンボーを見る。

 

ファウス『ガトンボー様。ガトンボー様はこの世界の様々な国々と交渉をなされているのでしょう?』

 

ガトンボーは頷く。

 

ファウス『世界は綺麗なのかな?』

ガトンボー『綺麗?…まあ、綺麗には見えますよ…。』

 

ガトンボーは時計を見た後、喜びの塔を見る。

 

ガトンボー『おお、そろそろ始まった頃ですかな。』

 

ファウスとカストも喜びの塔の方を向く。大音響と共にトーマ城の喜びの塔の最上階より煙が上がる。

 

ファウス『な、なんてこと!』

 

喜びの塔の構造物の一角が崩れ落ちる。

 

ファウス『た、大変!』

 

ファウスとカストは喜びの塔へ駆けこんでいく。

 

ガトンボー『ファウス王子!くっ!』

 

シモーヌが胸に右手を当て、ズボンに左手を入れ込み、口からよだれを垂らしながら恍惚の表情を浮かべている。 シモーヌの丸く見開かれた眼が扉から現れたファウスを捉える。

 

ファウスとカストは黒ずんだ部屋に入るなり鼻を抑え、青ざめた表情で散乱している瓦礫を見渡す。ファウスは一歩前に踏み出し、躓く。足元の黒く煤にまみれた千切れた手を見るファウス。

 

ファウス『ひっ!』

 

ファウスは尻持ちを付く。瓦礫に挟まれ、四肢が途切れ黒焦げになった市民革命の指導者達。顔面が半分焦げたジェントン。瓦礫に顔面を潰され、仄かに焦げた肉片と飛び出た目玉のP・エロ。

 

オルテンドは口から一筋の血を流し、天を見上げている。ファウスはオルテンドに駆け寄り、両肩を持って彼の体を揺らす。

 

ファウス『オルテンド様!オルテンド様!!あ・・・あぁ!』

 

オルテンドの上半身はゆっくりと倒れる。下半身は無く、炭化しかけた臓物がはみ出している。ファウスは周りを見回す。駆け寄るカスト。ファウスの眼とシモーヌの眼が合う。ファウスは胸に握り拳を当てる。ファウスは眉を顰め、彼の丸く見開かれた眼に入り込むシモーヌ。ファウスは身を引いた後、シモーヌの方に駆け寄る。

 

ファウス『だ、大丈夫ですよ。』

 

ファウスは呪文を唱える。ファウスの掌が光輝き、シモーヌの傷が少し回復する。シモーヌは前進を震わせ、顔を真っ赤にしてファウスを睨みつける。シュヴィナ連合兵士達とガトンボーとモーヴェが駆けこんでくる。

 

ガトンボー『な、なんて酷い有様だ。P・エロにオルテンド国王まで…。』

 

爆発音と共に振動。

 

モーヴェ『なっ、なんだぁ!』

シュヴィナ王国兵士A『あ、あちらを!兵舎が、兵舎が砲撃され、炎上しております!』

 

モーヴェは兵舎の方を向く。ファウスとカストは崩れた部屋の片隅に駆け寄る。大音響と爆発の下、赤い光と黒い煙に覆われる貴族の施設。

 

エグゼナーレ、アンセフィムとチレ、ヨナン、バイオレッタ、着崩れた衣装を着たスカートーとハンザイサ、ヴォルフガング・オーイー、パンデモ、すっぴん顔のジェルンとその他大勢が駆けこんでくる。喜びの塔最上階で周りを見回す彼ら。ヴォルフガング・オーイーはシモーヌの方を向き、また周りを見回す。シュヴィナ連合兵士Aが駆けこんでくる。

 

シュヴィナ連合兵士A『た、大変です!パノラマウンテンを占拠する市民革命団体が我が兵舎に向け発砲!戦死者10名!!負傷者200名!!せ、声明を発表いたしました!』

 

エグゼナーレはシュヴィナ連合兵士Aの方を向く。

 

エグゼナーレ『何だと!』

 

パンデモは眼鏡を掛け直し、ハンカチーフで額の汗を拭くと口を開く。

 

パンデモ『パノラマウンテン…強硬派のジェイコッブか!おのれ!!』

 

ジェルンはシュヴィナ連合兵士Aに詰め寄る。

 

ジェルン『せ、声明は!声明の内容は!!』

 

シュヴィナ連合兵士Aは引きつった表情を浮かべる。

 

シュヴィナ連合兵士A『い、今、電波ジャックにより、発信されているところです!』

 

シュヴィナ連合兵士Aは小型TVを取りだしスイッチを入れる。画面に映りこむジェイコッブとジェイコッブ革命団団員達。

 

ジェイコッブの声『市民よ!立ち上がれ!!今こそその重い腰を押し上げ、我々の搾取された権利を取り戻し、自由と平等を実現するのだ!!長らくにわたり、奪われてきた我々の本質を取り戻す時が今、来たのだ!武器を取り、旧世代の搾取者共を葬り、その血によって新たなる時代の幕開けとならん!今こそ…。』

 

エグゼナーレは小型TVをシュヴィナ連合兵士Aから奪い取ると地面にたたきつける。小型TVは壊れる。

 

エグゼナーレ『ふざけたことを!』

 

シュヴィナ連合兵士Bが駆けこんでくる。

 

シュヴィナ連合兵士B『た、大変です!市民達が武器を手に持ち、トーマ城を取り囲みました!』

エグゼナーレ『ええい!兵達は何をしている。早く奴らを殺せ!!』

 

ヴォルフガング・オーイーが一歩前に出る。

 

ヴォルフガング・オーイー『エグゼナーレ様。彼らを殺してはなりません。』

 

エグゼナーレはヴォルフガング・オーイーの方を向く。

 

エグゼナーレ『な、なぜだ!ここまでコケにされて…。父様の…父様の留守中にこんな…。』

ヴォルフガング・オーイー『私に考えがございます。』

 

ヴォルフガング・オーイーはシモーヌを御姫様抱っこすると喜びの塔の崩れた部分から飛び降りる。市民達の前に砂煙を上げて降り立つヴォルフガング・オーイー。市民達は喉を鳴らし唖然とする。

 

ヴォルフガング・オーイー『このような年端のいかない子供を巻き込んで恥ずかしくは無いのか!!』

 

塔の上から見守る一同。

 

市民A『ま、巻き込む?何を言っているんだ!』

ヴォルフガング・オーイー『この爆破騒ぎはお前達の仕業であろう!』

市民B『馬鹿な、俺達がリーダー達を殺して何の得があると言うんだ。お前ら貴族がやったのだろう!』

ヴォルフガング・オーイー『では、私達がこの年端もいかない子供を巻き込み、オルテンド国王を殺すことで何の得があるのだ。不名誉でしかない!この会見はシュヴィナ王国側が用意したものでオルテンド王の参加も当初から予定されていたのだぞ!』

 

市民は沈黙する。

 

ヴォルフガング・オーイー『この爆破騒ぎで一番得をしているのはパノラマウンテンの狂人ではないか。奴はこれに乗じて君達の頭になろうとしている。目障りなリーダー達が消えた空白を狙ってな!君達はこれから奴の手足となって働くことになるのだぞ!あんな狂人の!それでもいいのか!!』

 

市民達は互いに顔を見合わせる。

 

市民A『あんの野郎!』

市民B『ぶっ殺してやる!』

市民C『あいつがやったに違いねえ!』

 

市民達はパノラマウンテンの方へと向かう。モーヴェがエグゼナーレの傍による。

 

モーヴェ『ここは市民と共闘してジェイコッブを討ちましょう。』

エグゼナーレ『あんな奴らの…。』

 

エグゼナーレは拳を震わせ、市民達の方を睨みつけている。エグゼナーレは表情を解き、パンデモを見る。

 

エグゼナーレ『分かった…。この共闘は後々、何らかの益となろう。よし、出発する。』

 

エグゼナーレは振り返り、黒ずんだ部屋を暫し眺めると扉より去っていく。続く一同。

 

C9 爆発 END

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C10 掲げられた狼煙は…

 

森林に設置された司令部。モーヴェは歩きながら兵士に指示を出す。

 

モーヴェ『武装した市民達に囲ませておけ。我々は指示があるまで動かなければ良い。』

 

パノラマウンテンを見つめるファウス。

 

パノラマウンテンを取り囲む市民達。モノレール砲がとまりジェイコッブが上部構造のハッチから飛び出す。

 

ジェイコッブ『時が来たのだ!』

 

市民Dは欠伸をする。市民Bが頭に指を当てくるくる回した後、掌を広げる。

 

ジェイコッブ『支配者により簒奪された我々の権利、搾取される金銭!これらを我らが手に取り戻そうではないか。』

 

市民達は一斉にジェイコッブを見る。

 

ジェイコッブ『諸君らはよく決断してくれた!腰を全く動かそうとしない無能な指導者達を自らの手で排除してくれた!これからは共に歩もうではないか!!市民よ!今こそ立ち上がる時なのだ!!』

 

市民達は一斉にジェイコッブを睨みつける。

 

市民A『ばか言ってんじゃないよ!』

 

市民達は一斉にモノレール砲に向けて発砲する。ジェイコッブは銃弾が飛び交う中、辺りを見回し、唖然として下を見る。

 

ジェイコッブ『お、落ち着け、諸君!』

市民C『ざけんな!なぜ俺達がリーダーを殺さなければならない!』

市民D『俺たちに濡れ衣を着せるんじゃねえ!このド犯罪者め!!』

 

ジェイコッブは市民達を睨みつける。

 

ジェイコッブ『馬鹿を言っているのではないわ!君達は狡猾な貴族連中の口車に乗せられ、みすみす革命の機会を逃すのか!!』

 

止まない銃弾の雨が服や頬をかすめる中、立ちつくすジェイコッブ。

 

森林の貴族連合軍司令部。無線の前に立つシュヴィナ連合兵士A。

 

ジェイコッブ革命団団員A『こちらはジェイコッブ革命団。こちらはジェイコッブ革命団。』

シュヴィナ連合兵士A『モーヴェ様。ジェ、ジェイコッブ革命団より、通信です!』

 

シュヴィナ連合兵士Aはモーヴェの方を向き、モーヴェは彼に近づく。ファウスは彼らの方を向く。

 

モーヴェ『繋げ!』

ジェイコッブ革命団団員A『おお、やったー!繋がったぞ!奴が戻ってくる前に早く!俺たちは降伏する。』

ジェイコッブ革命団団員B『た、頼む。俺たちはあの気違いの革命という言葉に惹かれてここ脱退などできなかった!すれば殺されていた。あの気違いのことだ分かるだろう!』

ジェイコッブ革命団団員C『お、俺は女にもてたかっただけだ。た、助けてくれ。あいつを殺すから命ばかりは…。もちろんただでとは…俺たちはあいつを殺す。』

 

モーヴはエグゼナーレの方を向く。

 

モーヴェ『どうなさいます。エグゼナーレ様。』

エグゼナーレ『団員達の降伏を認める。』

ジェイコッブ革命団団員A『おおっ、良かった。』

ジェイコッブ革命団団員C『神様、エグゼナーレ様、感謝いたします。』

 

モーヴェはエグゼナーレの方を向く。

 

モーヴェ『本当によろしいのですか?』

 

エグゼナーレは頷く。

 

ファウスはパノラマウンテンの方へ目を向ける。

 

ジェイコッブ『…なんたること!なんたることだ!!ここで動かなければ君達は一生貴族の奴隷として牛馬のごとく使われる哀れな家畜となり果てるぞ!貴族の為に血をまき散らすエサとなるぞ!』

 

ジェイコッブを乗せたモノレール砲は高速で動きだす。バランスを崩したジェイコッブはモノレール砲にしがみつく。ハッチからジェイコッブ革命団員Aが現れてジェイコッブを拳銃で撃つが外れる。

 

ジェイコッブ『お前ら…お前らまでも!』

 

ジェイコッブは立ち上がると宙に舞う。

 

ジェイコッブ『たとえこの命が尽き果てようとも、我々の搾取された権利が戻るまで我が魂はこの地に留まり革命の礎となろう!』

 

ジェイコッブはモノレールの路線に降り立ち、剣を振り上げる。剣は七色に輝き、モノレール砲の路線に振り下ろされる。路線は切断され、崩れ落ちる。

 

ジェイコッブ『革命よ!!永遠なれーーーーーーーー!!』

 

脱線したモノレール砲はジェイコッブを細切れの肉片にして空中に四散させ、飛んでいく。無線機から流れる声。

 

ジェイコッブ革命団団員A『ひっ、何だ!』

ジェイコッブ革命団団員B『飛んでる!た、助けてくれ!』

ジェイコッブ革命団団員C『し、死にたくない!だ、誰か!!』

 

ファウスはモーヴェの傍らに駆け寄る。

 

ファウス『モーヴェ様!彼らは降伏しております!救出を!』

 

モーヴェは立ち上がり、ファウスの方を向く。

 

モーヴェ『あなたは我々の兵達を殺した敵を助けるために兵にまた犠牲となれというのですか!!エグゼナーレさまが温情を示されただけでも良いのでは?』

 

モーヴェは無線機の方を向く。無線機から漏れる音。

 

ジェイコッブ革命団団員A『助けてくれい!』

ジェイコッブ革命団団員B『ひ〜!し、死にたくない!!』

 

モーヴェは唾を地面に吐く。

 

モーヴェ『ケッ、自業自得だ。ボケ!』

 

無線機より漏れる音『ぎぃいやあああああああああああああ!』

 

モノレール砲は空の彼方に光となって消えて行く。モーヴェの背中を目に映し、立ちつくすファウス。司令部を片づけるシュヴィナ連合兵士達。

 

C10 掲げられた狼煙は… END

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次回予告

 

帝国の灯

 

END

説明
・必要事項のみ記載。
・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。
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R-18グロテスク 悪魔騎兵伝(仮) 

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