勇パルと
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地底に掛っている一本の橋。

 

その橋に寄りかかっている女性がいた。

 

 

「毎晩毎晩賑やかね…。」

 

 

髪は程よく伸びた金髪、尖った耳、緑色の目をした女性。彼女の名前は水橋パルシィ。

 

元は人間だったのだが、ある事をきっかけに妖怪となり、地底に追いやられた過去を持つ。

 

 

「こっちは年間無休で疲れてんのに。みんな楽しそうに…妬ましいわね。」

 

 

パルシィは右側の旧地獄街道を眺めながら呟いた。

 

しかしすぐにため息をつき正面を向きなおす。

 

本当は一緒に酒を飲みたい、一緒に楽しみたい。

 

 

「でも私が行っちゃうと空気壊しちゃうし…。」

 

 

彼女はつい最近空気を壊したことがある。それは酒の席で自分の能力を発動してしまったからだ。

 

酒を飲んでいると楽しかった。

 

だが周りがそれ以上に楽しんでいたのを見て何故か非常に羨ましく感じ、悔しかった。

 

周りの声が聞こえてくるたびに楽しかった感情が嫉妬に変わっていき、大声で毒を吐いてしまった。

 

その時感じた空気は一瞬だがとても冷え切っていて、恐ろしかった。

 

すぐに周りは元通りになったものの、パルシィはいてもたってもおれず、逃げるようにして家に帰った。

 

これが彼女を祭りに参加したくない理由である。

 

あれから知人たちが誘ってはくれたものの、なかなかいけない自分がいた。

 

「大丈夫って言われても周りが気になるじゃない…。」

 

組んだ腕の中に顔をうずめ大きなため息を再びつく。

 

 

「おぉいたいたぁ!」

 

 

いきなり聞きなれた声がパルシィの鼓膜に飛び込んできた。

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「勇儀!?」

 

 

右手に杯左手に酒の入った大量の一升瓶を持った鬼が笑いながらこっちに歩いてきていた。

 

名前は星熊勇儀。鬼の四天王の一人で、パルシィの隣で酒を飲み、暴走を最も近くで見て、場の空気を元に戻したのは彼女だった。

 

 

「なんであんたがこk」

 

「やっと見つけたよ。まぁとりあえず呑もうぜ。歩き疲れちまったよ。」

 

 

勇儀はパルシィの言葉を遮り、隣を借りるよと話すと、胡坐をかいた。

 

 

「で?何か言いかけてたみたいだったけど、どうしたんだい?」

 

 

杯を傾けながら何食わぬ顔で聞いてきた勇儀にパルシィは「元はあんたのせいなんだけどね。」と前置きをして

 

 

「なんであんたがここに来てんのよ?」

 

 

と、若干低めのテンションで問いかけた。

 

すると勇儀は、あぁそんなことか と言わんばかりの反応をしながら答えた。

 

 

「いやぁ、パルシィが呑みに来なくなったから気になって散歩がてらに探してたんだよ。」

 

「勇儀…。」

 

わざわざ数日来なかった自分の為に探し回ってくれていた勇儀に、パルシィは少し嬉しい気持ちになった。

 

 

(散歩がてらって言葉には少し引っ掛かったけどね…。でも、すこし感謝しなきゃね。)

 

 

「しかしお前さんの家の中の風呂や便所、寝室とかを探してもいなった時は若干焦ったなぁ。あっ、後サンマうまかったよ。」

 

 

(前言撤回)

 

 

パルシィは心の中で即答し、間髪入れずにツッコミを入れた。

 

 

「なんで私を探すのにそんなとこ探すのよ!! しかもそのサンマは今日の晩御飯のおかずにしようとしてたのにぃ!!」

 

「いやだってもしかしたらパルシィが暗黒の眠りを誘うル○ファーに襲われてるのかもってな。」

 

「襲われるか!! しかもそんなカード社長ぐらいしか使わないわよ!!」

 

 

ぜえぜえと息を切らすパルシィを見て勇儀は笑っていた。

 

 

「何が可笑しいのよ?」

 

 

肩で息をしながら不満げに問いかけた。

 

 

「いやぁ、そこまで元気なら大丈夫だったんだなってな。」

 

「なっ…!」

 

「ほれ、呑むだろ?」

 

 

勇儀は飲み口を開けた一升瓶をパルシィに差し出した。

 

 

「…ありがと。」

 

「どーいたしまして。」

 

 

杯に新たに酒を注ぎながら楽しそうに答えた。

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パルシィはもらった一升瓶に口をつけ一気に半分飲み干した。

 

そして盛大にむせた。

 

 

(おちょこか何か貰っておくべきだったわね…。)

 

 

「…ここで何日過ごしてたんだい?」

 

「え?」

 

 

いきなりの勇儀の質問に一瞬思考が止まったがすぐに理解し、答えることにした。

 

 

「三日四日じゃなかったかしら。 あんまり気にしてなかったし。」

 

「…そうか。」

 

 

声のトーンがいくらか下がって勇儀が答える。

 

 

「どうかし…わっぷ!?」

 

声が気になり振り向いたと同時に勇儀がパルシィを抱きしめていた。

 

 

「ちょ、ちょっと、いきなり何よ!? 痛いって勇儀!」

 

「すまなかったな。」

 

「はぁ?何がよ? てか苦しくなってりてるんだけど!」

 

 

パルシィはいきなり抱きしめられため窮屈な体制で鬼の腕の中にいた。

 

そして何故自分が謝られているのか理解できていなかった。

 

 

「三四日も一人きりにさせてごめんな。」

 

「…。」

 

「もうみんなと酒を呑んでもいいんだよ。みんなと騒いだっていいんだよ。 もう一人でいることはしなくていいんだよ。」

 

「…。」

 

「まだ戻りづらいなら私やヤマメ、キスメ、地霊殿の連中だっているんだ。 そんだけでも集まって一緒に呑んだりワイワイしようじゃん。

 

「…。」

 

 

嬉しかった。

 

パルシィは何も答えれなかったがとても胸が熱くなり、涙腺が緩んでいるのを感じた。

 

 

「…さいよ。」

 

「え? なんて?」

 

「離しなさいよ!! そろそろ本当に窒息しそうなのよ!!」

 

 

パルシィの訴えに勇儀はカラカラと笑いながらパルシィを解放した。

 

 

「悪い悪い。 全然気づけなかったよ。」

 

「あぁもう!酸欠で頭がクラクラするじゃない。」

 

 

視界が回転する中、勇儀の顔をとらえながら新たな酒を手探りで探すことにした。

 

 

「さぁて、それじゃ行くか。」

 

「ゑ?」

 

 

耳鳴りもひどかったが今の言葉はハッキリと聞き取れた。

 

 

「だからみんなと呑みに行こうって事だよ。」

 

 

勇儀は立ち上がりながらそう答えた。 

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってよ。 いきなり戻って呑むなんでできるわけないでしょ!?」

 

「そうなのか?」

 

「当たり前じゃない! なんていうか…その…。」

 

「もうみんな忘れてると思うんだがなぁ。」

 

「えっ、でも…なぁ…。」

 

 

そうは言ってくれてもやはり抵抗はある。

 

すると勇儀は少し考え、「あっ」と声にだしパルシィに喋りかけてきた。

 

 

「じゃあ明日に行こうか。」

 

「ふぇ?」

 

「今日は行きにくいんだろ? なら今日はゆっくりしてまた明日行こうじゃないか。」

 

 

勇儀の提案はパルシィにとってとてもありがたいものだった。

 

 

「そうだなぁ、明日は一人じゃ行きにくいだろ? そんなら私が迎えに行くよ。」

 

「…うん。 分かったわ。 じゃあ明日は頼んだわよ?」

 

 

こんなに晴れ晴れした気持ちになったのは随分と久しぶりに感じた。

 

 

「そんじゃ、今日は帰るとするかな。」

 

「そうね。 お腹も減ってきたし。」

 

「…家まで送ろうかい?」

 

「いらないわよ!! そこまで私は子供じゃないし!!」

 

「人の好意はしっかり受け取るもんだよ。」

 

「あんたは鬼でしょうが!!」

 

 

そんなやり取りをしているうちにパルシィは家に到着し、そこで勇儀と別れた。

 

 

「はぁ〜疲れた。 もうお風呂に入って寝よ。」

 

 

そしてパルシィは風呂に入り、湯船に浸かりながら今日の勇儀との会話を思い出していった。

 

 

「…あんなに抱きしめられたの何時ぶりだろ?」

 

 

すると勇儀の言葉が次々と浮かび上がってくる。

 

 

「えへ えへへへ えへへへへへぇ。」

 

 

自然と笑みがこぼれ声も漏れだした。

 

 

(なんだか恥ずかしいけど…。 まぁいいわよね。)

 

 

風呂から上がってもニヤニヤが止まらないパルシィはそのまま寝室に行きすぐに寝ることにした。

 

今日はいい夢を見れそうだ。 そう感じながら深い眠りにつくことにした。

 

 

「明日からも宜しくね、勇儀。」

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旧地獄街道さえも寝静まる丑三つ時。

 

パルシィ宅の寝室に一つの人影。

 

ゆっくりと物音立てずにパルシィの寝顔を覗き込む。

 

そしてフッ と笑いパルシィ宅を後にする。

 

 

「あの顔ならもう大丈夫だな。 明日が楽しみだねぇ。」

 

 

人影は機嫌よく杯に酒を注ぎ、鼻歌を口ずさみながら歩いて行った。

説明
pixivで初めて投稿した作品です。
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タグ
東方 勇パル 星熊勇儀 水橋パルシィ 

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