錯覚
[全1ページ]

ねぇ?

 

君もボクを見てくれないの?

 

ボクの名前を呼んでくれないの?

 

君が今呼ぶその名前は、ボクの名前じゃないんだよ?

 

ずっとずっとボクの本当の姿を見てもらえなくて。

 

ボクの本当の名前を呼んでもらえなくて。

 

いつからか始まった自問自答。

 

ボクは誰なの?

 

ボクはなんなの?

 

自分は、人が認めてくれて初めて自分なんだ。

 

誰にも認めらてない、みてもらえないボクはなんだろう。

 

幾度となく繰り返した問いに答えは出なくて。

 

何時からだか問いかけることすらも諦めた。

 

ボクを見てよ。

 

名前を呼んでよ。

 

そう思う事すらも煩わしくなって。

 

心を閉じて、固めて、冷たくして。

 

自分でも触れられないくらいに心を冷たくしたんだ。

 

誰も見てくれないなら、

 

誰も名前を呼んでくれないなら、

 

一人でいいと思ったんだ。

 

孤独がいいと思ったんだ。

 

 

 

 

 

あるときボクは、誰かに拾われた。

 

ボクに与えられた部屋には、人に傷つけられたポケモンたちがたくさんいて

 

真ん中にポツンと、一人の子どもがいた。

 

その子はポケモンと会話をしているみたいだった。

 

ポケモンが語ることに涙を流していたんだ。

 

あの子なら、ボクの名前を呼んでくれるかもしれない。

 

ボクの姿を見てくれるかもしれない。

 

ふと、そんな希望がわいてきて。

 

思い切って声をかけてみたけれど、やっぱりボクの姿は見えなくて

 

ボクの名前も読んではくれなかった。

 

あぁ、やっぱりダメだった。

 

淡い希望すらすぐに断ち切られた。

 

もう、誰にあっても希望なんて抱かない。

 

今までよりももっと、冷たく、固く、奥底に閉じ込めて。

 

ただ、孤独の中で見ていよう。

 

ここから動くことすらせずに。

 

心だけではなく、体まで固めてしまって。

 

 

 

 

 

そうして僕は、ずっとあの子のことを眺めていた。

 

傷ついたポケモンたちの語る外の世界。

 

ボクの知らない世界も沢山あったけれど、あまり興味はなかった。

 

結局、ボクの姿を見る人はいなかったし、名前も読んではくれないからだ。

 

そうしてその子は、偏った知識だけを増やしていった。

 

ずっと部屋に閉じこもっていたその子が、ある日部屋を出て行った。

 

数日後に帰ってきたその子の顔にあった表情は、戸惑い。

 

自分で外の世界を見て、初めて知ったことに戸惑っていた。

 

その子はいろいろと語ってくれた。

 

外の世界は、今まで聞かされていたこととあまり変わらなかったこと。

 

でも、ポケモンを愛していて、ぽけもんから信頼されている人がいたこと。

 

その人に何度も負けてしまったこと。

 

その人とあってから、1つの目標を決めたこと。

 

その目標は教えてくれなかったけれど、ボクらに語るうちに、戸惑いの表情は消えていた。

 

 

 

 

 

 

戸惑いの無くなったその子は、目標のために旅を続けた。

 

たまに帰ってきて、必要なものを補充してまた出て行く。

 

そんなことを何度も繰り返していたある日、ボク以外のポケモンたちはみんな、どこかへ連れられて行った。

 

みんなを連れて行った彼には、ボクは人形に見えたのだろう。

 

本当に孤独になった部屋で、ボクはなにも考えず、思わず、ただ日々を過ごしていた。

 

たまに誰かがくるけれど、ボクには気がつかずに去っていく。

 

いつも来る服と違う服の人もこの部屋に来たけれど、やっぱりボクには気付かなかった。

 

あぁ、ボクは本当に人形になってしまたのだろうか。

 

心も、身体も、動かなくなってしまったのだろうか。

 

誰か、誰かボクを見てくれないだろうか。

 

ボクの本当の名前を呼んではくれないだろうか。

 

こんなことを思うのもいつ振りだろうか。

 

それすらも忘れてしまうほどにボクは心を動かす事をしなかった。

 

でも、やっぱりもういいや。

 

誰もボクを見てくれないのだから。

 

誰も名前を呼んではくれないのだから。

 

 

 

 

「そんなことはないよ」

 

 

 

いきなり聞こえたその声は、この部屋の中心にいたその子のもので。

 

「ごめんね。あの頃の僕には見えなかったけれど、今なら見えるよ」

 

本当に、本当に見えてるの?

 

また、君はボクのじゃない名前を呼ぶんじゃないの?

 

「嘘じゃないよ。ずっとボクを見守っていてくれてありがとう。ゾロア」

 

あぁ、あぁ、本当にボクの名前を呼んでくれた!

 

本当にボクの姿が見えているんだ!

 

そう思った瞬間、ボクはその子に抱きついていた。

 

「ずっと、寂しかったんだよね。でも、これからは僕がそばにいるから」

 

その一言を聞いた瞬間、まだ心は冷たいままだけれど、少しだけ温かくなったように、

 

ボクの頬を、涙が濡らした。

説明
誰もボクを見てくれないのだから。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
343 341 0
タグ
ポケモン ゾロア N 

keelroyalさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com