迷子の果てに何を見る 第九話
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第九話 ((闇の魔法|マギア・エレベア))

side エヴァ

 

とうとう完成した。

まだ試してはいないが理論上これで良いはず。

これであいつを私のものにできる。

早速始めなければ。

待っていてくれ、レイト

 

 

 

 

 

 

 

 

side レイト

 

アリアドネーで教授を始めてから結構な年月が過ぎた。

弟子たちが授業を任せれる位に成長した為、引き継ぎを行い元の世界に戻る為の研究を行っているが現実性が無いものばかりで困っている。

今は息抜きの為に散歩をしている。

 

「学園長に頼んでゲートの調査をさせてもらおうかな。アレが一番無難そうだし」

 

そんなことを考えているとおかしな魔力を感じた。

 

「エヴァ?けど何だこの違和感は」

 

感じたのはエヴァの魔力だったがどこかいつもとは違い何処か禍々しさを感じる。

以前戦ったことのある悪魔の様な禍々しさが。

 

「オーイ、旦那ドコニイルンダ」

 

「チャチャゼロか、ここにいるぞ」

 

慌てた様子のチャチャゼロの声が聞こえたので返事をする。

 

「ナニノンキナコトヲイッテヤガル、ゴシュジンガオマエノセイトタチヲオソッテンダヨ」

 

最初、チャチャゼロが何を言っているのか理解できなかった。

エヴァは襲われない限り誰かを襲ったりはしない。

だからこそアリアドネーに来てからは誰一人殺したりもしていない。

 

「何でエヴァが」

 

「ソンナノ旦那のセイダロウガ」

 

「オレの?」

 

「旦那ハサイキンゴシュジンニアッタカ」

 

「いや、全然」

 

「ソレガゲンインでスネチマッテンダヨ」

 

「じゃあ、生徒を襲ってるのって」

 

「ヤツアタリジャネエノカ」

 

あきれながらも現場に向かいながら学園長に念話を飛ばす。

 

『何かあったのか?』

 

『ちょっとエヴァと痴話喧嘩になるから生徒を避難させてくれ。既にケガ人も出ているみたいだから転移魔法でそっちに飛ばす』

 

『わかった』

 

 

 

 

 

 

現場に辿り着くと一面の氷と氷付けにされた生徒たちと、いつもと違うエヴァだった。

オレはすぐに生徒たちを転移させエヴァと向き合う。

 

「エヴァ、これはどういうことだ」

 

「レイト、久しぶり、本当に久しぶりだな」

 

周りの状況やオレの怒りを意に介さず、エヴァは笑っていた。

なぜ笑っている?

 

「一体何が目的なんだ」

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック。来れ氷精、闇の精。闇を従え吹雪け、常夜の氷雪」

 

オレの問いにエヴァが呪文を唱えだすので身構えるがここからが違った。

 

「『闇の吹雪』、固定、掌握」

 

放出されるはずの魔力を身にまとうという技を行使した。

そしてエヴァの違和感が更に脇だった。

 

「私が編み出したお前の知らない新しい技法、『闇の魔法』だ」

 

オレの知らない技法というがオレは知っている。

机上でだが既にオレは『闇の魔法』を完成させている。

しかし、オレに適正が無いこととリスクの高さから封印している。

まさかエヴァが独自に開発するとは思っても見なかった。

そしてエヴァは闇に落ちている。

吸血鬼だからか浸食率はまだ低いが確実に闇に浸食されている。

 

「エヴァ、今すぐそれを解くんだ」

 

「嫌だ、これを解いたらお前はまた私のことを見なくなる。どうしてもと言うなら力づくで解かせるんだな」

 

「いいだろう」

 

一瞬で意識を狩ろうと瞬動で背後を取り首筋に手刀を叩き込む。

 

「なっ」

 

だがその腕が凍り出しエヴァから離れる。

 

「汝は熱」

 

凍った腕に呪符を貼り熱を放出させ解凍を行う。

その間にもエヴァは魔力糸を使いオレを絡めとろうとする。

オレも影を操り魔力糸を切っていく。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック。来たれ氷精 爆ぜよ風精 氷爆」

「我が手に宿るは炎の精、汝の一部で立ち塞げ。フレイムドーム」

 

エヴァが唱えた氷爆に対し炎の膜で時間を稼ぐ。

周りの炎のおかげでオレの影は小さくなりエヴァのゲートも防ぐ。

 

「チッ、闇の吹雪の前にこおるせかいを取り込んでいたか。魔法主体でやるしかないな」

 

凍っていた腕が完全に動くのを確認してから詠唱にはいる。

このときオレは重大なミスを犯してしまったがそれに気付いたのはすぐ後だった。

 

「空よ、力なき我らに偉大なるその力をお貸しください。我が望むは雷雲。その力によって彼のものに裁きを(メル・ウォン・レイス・ラーメルス。来たれ雷精 風の精 雷を纏いて吹きすさべ 南洋の嵐 )」

 

意識を奪う為に雷の魔法の同時詠唱し完了と同時にフレイムドームを解除。

目の前に巨大な氷塊が迫っていた。

とっさに先の魔法の対象を氷塊に変更する。

雷が氷塊に落ち砕け散る。氷塊の破片の隙間からエヴァが見えたので瞬動を使い破片をくぐり抜けてから雷の暴風を放つ。

それに対してエヴァは左手を出すだけだった。

一瞬、諦めたのかと思ったが地面が突如光り、フレイムドームで溶けた部分に魔法陣の一部が見えエヴァの行動が何を意味するのかを理解した。

ーーー敵弾吸収ーーー

オレは雷の暴風に出来る限りの魔力を注ぎ込んだ。

どれだけ強くなるのか簡単に想像できた。

 

 

 

 

side out

 

 

 

 

 

side エヴァ

 

レイトが私を見てくれている。

レイトが私を心配してくれている。

『闇の魔法』のリスクが高いことは承知の上だった。

この身は既に吸血鬼。魔のものだ。

これ以上人に忌み嫌われようがレイトが手に入るなら何の問題も無かった。

その為に私は万全を期した。

敵弾吸収陣をあらかじめ用意しこおるせかいで覆う。

さらに何人かの生徒を凍り付けにしこの場で戦う様に。

接近戦で倒されることの無い様にこおるせかいをあらかじめ取り込み、幻術でいつもの姿を見せる。

そしてレイトは雷の暴風を使って来た。

これを取り込めばあいつを超えるだけの力を手に入れることが出来る。

あいつの雷の暴風を取り込んだ瞬間、私の意識は落ちた。

 

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

side レイト

 

オレの雷の暴風をエヴァが取り込んだ。

理論上なら雷系を取り込んだ場合機動性が上がるはず。

これから来るであろう攻撃に備えて防御を固めるがエヴァは一向に動きを見せない。

不振に思ったが答えはすぐに分かった。

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

 

エヴァが落ちてしまったのだと。

そしてエヴァが動き出した。

その動きはとてつもなく速く、ぎりぎり捉えられるか捉えられないかの速度。しかしそこにはエヴァの優雅さは無く、ただ獣が暴れているだけだった。

しかし一番の問題は攻撃されるたびに凍ることだ。

直接触れられない様に魔力を体中に纏っているが確実に少しずつ凍っていき動きが鈍くなるのが分かる。

咸卦法が使えれば何とかなるだろうがそれを使わせてもらえない。

そして、とうとうエヴァの腕がオレを貫いた。

 

「がはっ」

 

吐血するが貫かれた部分からは血が流れない。体の内側から凍っているからだ。完全に凍らない様にレジストするがこれ以上氷系の魔法を取り込まれたらアウトだ。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック」

 

最悪だ。理性が無いのに知性は残ってやがった。

 

「来れ氷せ......」

 

急に詠唱が止まり、腕を引き抜き頭を抱える。

オレは一度距離を取り治療と解凍を無理矢理行う。

 

「いやだ、わたしは、見てくれ......一人は、傍に。......レイト、殺したくない」

 

苦しげにエヴァが言葉を吐き出していく。

 

「好きなんだ。傍に居てくれ」

 

その言葉にオレは絶句した。

オレはエヴァを強い女性だと思っていた。

だから一人にしていても大丈夫だと思い込んでいた。

だが、今ここにいる彼女は一人の、か弱い少女だ。

そして彼女をここまで追い込んだのはオレ自身だった。

それが許せなかった。

エヴァは今必死で闇に完全に落ちるのを抗っている。

オレが好きで傍にいて欲しくて見捨てられたくなくて。

だからオレは本気を出す。

エヴァを救う為に

 

「我が身に宿りし大いなる意思よ。我が身を喰らいその身を示せ」

 

体から魔力と気が大量に失われると同時にオレの体に変化が訪れる。

羽が生え、体の表面を鱗が覆い、爪が鋭くなる。

思考速度が速くなり、瞳が竜の物となる。

オレの世界にいる7頭しかいないはずの竜と呼ばれる寄生型思念体の8頭目。

シンの姿に。

 

「エヴァ、今そこから救ってやる」

 

 

side out

 

説明
大事なことにいつも気付けない。
どれだけ長く生きようとも女心だけはさっぱり分からん。
byレイト
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