唯vsセシリア |
アリーナ
山田先生がアリーナ使用の許可申請を行ったのだが、案外早く許可が下りた。
なぜならさすがにこんなに早くアリーナを使うクラスはなく、さらに訓練機が使用不可。
それですんなりと申請が通ったのだ。
上空ではセシリアが自身の専用IS・ブルーティアーズを展開して待っている。
地上では一夏と箒が唯に近づいて話をしている。
「唯・・本当に大丈夫なの・・?」
「ああ、相手はISだ。ただではすまないぞ。」
唯は二人とも本気で心配しているのがよくわかる。
唯は見るものを魅了する笑みを浮かべ二人に言う。
「ああ、あの凝り固まった考えを持っているお嬢様と女性が強いと信じて疑わない愚かな幻想を抱いた女子に見せ付けてやるチャンスだ。」
「・・気をつけてね。」
これ以上何を言っても無駄だと判断したのか二人は唯から離れる。
一夏と箒は唯に対して・・。
(唯・・あなたにいったい何があったの・・?どうして目が金色に変わっているの・・?)
(それにあの雰囲気・・ちょっとやそっとじゃ身につかないものだ・・。)
二人は離れてから唯にいったい何があったのかと疑問を抱く。
そうこうしているうちに千冬から「織斑弟は行動不能、もしくは降伏。オルコットはシールドエネルギー0、もしくは織斑弟と同じく行動不能、降伏。」と勝利条件を言った。
生身の人間にISには勝てない。
クラス全員は本当にそう思っていた。
男が女に勝てないという事実が覆されるということにまったく気づいていなかった。
「試合開始!!」
だが、千冬の開始合図で戦闘は始まってしまった。
せめて何事もない様にと祈るだけ。
そのような視線で皆、唯を見ていた。
「火傷で済ましてさしあげますわっ!!」
そう言うと、セシリアはライフルを向ける。
威力を抑えているという事だろう。
セシリアの人としての安全な部分が見えた瞬間だった。
「さぁ、踊りなさい。この私のブルーティアーズが奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」
そう言ってトリガーを引く。
誰もが直撃だと思い、目をそらした。
「ふん・・。ワルツね・・。」
だが、唯は身体を傾ける事でそれを避けた。
「当たってやるわけにはいかない。それともイギリスの代表候補生というのはこの程度の実力しかないということか?」
そう言って挑発する。
セシリアは驚愕した。
普通なら、恐怖で動けるはずもない。
攻撃は直撃するはずなのだ。
(たまたまですわ・・。)
そう思いもう一度、引き金を引く。
「遅いな。」
また避けられる。
生身の人間が、ISの攻撃を・・しかもレーザーを避けるのだ。
誰もが驚愕した。
唯の後ろで、レーザーにより風で舞いあがる砂。
「これだけか?」
その目は、酷く冷ややかで・・。
・・恐ろしく禍々しい目だった。
「だとしたらつまらんな・・。さっさとその背中にある翼っぽいものを使ったらどうだ?もしかしたら当たるかもしれないぞ?」
唯は皮肉と挑発の意味を込めて言う。
その言葉にセシリアは怒りの表情を見せる。
「行きなさい!!」
そう言うと背部にマウントされていた、翼のようなものをパージした。
それらは各個意思をもち、アリーナを飛んだ。
ビット型の兵器・・その名称はブルー・ティアーズ。
機体名称と同じ事から、その機体の特徴とも思われる兵器だ。
セシリアを少し見る。
してやったりと言う顔だ。
だが、唯は全く驚きもせずに唯の中にいるもうひとつの人格と会話を交わす。
(ねえねえ、ボクもやりたいな。・・あのしてやったりの表情を恐怖で歪ませたいんだ〜♪)
(もう少し待て。・・代わったらほどほどにして置けよ?)
(わかってるって〜♪)
唯のもうひとつの人格の言葉が終わったのがきっかけか、ブルー・ティアーズがレーザーを発射する。
「・・・。」
身体を回転させ、その場から身体をずらす。
レーザーは空を切る。
だが、逃がさないといわんばかりに唯を追撃する。
二基で攻撃。
三基で攻撃。
四基で攻撃。
四基全てで波状攻撃。
そのどれもが、見る者全ての目を奪うような美しい動きで回避する。
どの攻撃も完全に当たらない。
動く事で唯の美しく光る黒の髪の毛が跳ねたり回ったりして、その回避を幻想的なまでに美化していた。
観客席のクラス全員が唖然とする。
一夏も箒も、教員である山田まで唖然とした。
アリーナに映る光景は、自身が思っていた価値観を覆すようなことだったのだから。
その様子を見ていた愛琉と束は・・。
「う〜ん、美しいね〜。ゆいにゃんの動き。あれ編集して売ればお金になるね〜♪」
「そうね。・・束、そろそろあの子が出てくるわ。」
「うんうん、ゆいにゃんのテンションもいい感じにあがってきてるみたいだしね〜☆」
千冬はその言葉に疑問を抱く。
(あの子・・?いったい何のことだ?)
管制室でこんな会話が展開されているころ、唯の動きに変化が起こる。
(・・来る!)
唯はレーザーを回避すると同時にもうひとつの人格と会話を行う。
(ねえねえ、もういいでしょ?)
(ああ、いい感じにテンションがあがった。このまま俺がやっても勝てるが・・ユリに任せる。)
(オッケー♪)
すると唯の動きが大きく変わる。
(来たね・・。)
(来たわね・・。)
束と愛琉以外は気づいていないだろう。
唯の黒目が赤目に変わったことを・・。
レーザーの波状攻撃はしばらく続いたが唯(?)はそのすべてを回避していた。
「アハハ!楽しすぎて狂っちゃいそうだよ!!」
そう言って近くにある、観客席の壁に向かって走る。
(っ!? 悪あがきをっ!!)
セシリアはそう思いながら、ブルー・ティアーズでそれを追う。
だが、セシリアは気づいていない。
唯(?)の走るスピードが圧倒的に速くなっていることに。
やがて唯(?)は壁に近づき逃げ場がなくなった。
そう思ったセシリアは己の想像を覆される。
「なっ!?」
「はぁ!」
唯(?)が走った勢いそのままに高く飛び、壁をけってブルー・ティアーズに飛び乗る。
「よいしょっと!」
それを踏み台にして、近くにあるブルー・ティアーズに飛び移る。
さらに同じ行動を繰り返し、最後の一基を強く蹴ると空中に止まっている、セシリアのライフルの上に立った。
その姿に、全員が驚愕し見惚れた。
美しくなびく黒い髪・・。
だが、その目はひどく獰猛でまるでジャッジメントのようだった。
そして唯(?)はセシリアを笑顔で見下ろす。
「アハハ、さっき振りだね♪」
「あ、ああ・・。」
セシリアは恐怖で唯の目と性格が先ほどまでとは違うことにまったく気づいていない。
セシリアは訳がわからなかった。
目の前にいる男はなぜライフルの上に立っている?
目の前にいる男は生身で自分はISを展開して絶対有利のはずなのになぜ攻撃が一撃も当たらない?
怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・。
セシリアは今、恐怖という感情に包まれていた。
そんなセシリアをわかっているかどうかは知らない唯(?)が口を開く。
「さて、お祈りは済ませたかな?・・行くよ!」
そう言って唯(?)はライフルから飛び降り、なんと空中であるにもかかわらずパンチやキックといったラッシュ攻撃(参考・デビルメイクライ4のエキドナ戦のドーム状になって種・・キメラシードを生み出す場所へのバスター。)を仕掛けたのだ。(顔は殴ってないよ。)
その光景に愛琉と束以外の全員が唖然となる。
普通なら人間は重力に従って落下するはずなのに唯(?)は少しずつ落下しながらもラッシュ攻撃を行っている。
「ふ、はっ!」
「キャアァァァァァー!!」
唯(?)のラッシュ攻撃に恐怖したセシリアは操縦を忘れISは落下していく。
唯(?)はそれを察知してかフィニッシュの体制に入る。
「そろそろ危ないかな・・。これでフィニッシュ!」
締めにサマーソルトを繰り出し、反動で近くにあったブルーティアーズに着地。
操縦を忘れたISは重力に従い、地上に落ちる。
全員が目を見開いた。
地上に落ちた瞬間、大きな土煙を上げ姿が見えなくなる。
全員が、戦闘の行方を不安に思った。
そして土煙が晴れた。
「「「「!?」」」」
そこには青いISを纏ったセシリアが関節技を決められていた。
唯(?)は一瞬のうちにセシリアのもとへ向かい、関節技を決めていたのだ。
「う、うう・・。」
セシリアは苦しそうに手を動かすが、唯(?)に触れる事が出来ない。
何度も何度も手を動かすが、思うように動かない。
4基のブルー・ティアーズも、操縦者が意識を飛ばさないため地面に落ちていた。
「アハハ、誰がボクに勝てるの?教えてよ。ねぇ。」
唯(?)の無邪気なその声が、アリーナに響く。
大きな声ではないのだが、静かすぎるアリーナには十分響いた。
一夏と箒と千冬は唯(?)に違和感を覚える。
(あれ・・?唯のしゃべり方・・。)
(さっきとは違うな・・。)
束と愛琉は一夏と箒を見て感心する。
「へぇー。ち〜ちゃんはともかく、いっくんと箒ちゃん。ユリちゃんに気づいたみたいだね。」
「幼馴染は伊達じゃない・・というところかしら?」
こんな会話が繰り広げられている間、セシリアは眼の端から涙を流した。
未だ手は動くが、恐怖で足は動いていない。
「そこまでっ!!」
千冬の声がアリーナに響く。
セシリアの精神が崩壊する寸前、まさにベストタイミングだ。
千冬の声を聞いた唯(?)は・・。
(ほら、試合終了だ。外してやれ。)
(は〜い♪ま、絶望に染まったいい表情を見せてもらったしね♪)
唯(?)はセシリアの首から手を離す。
赤目から黒目へと代わる。
セシリアは地面に倒れ込むと、意識を失った。
「オルコット戦闘不能。 勝者、織斑唯!!」
アリーナに試合終了の合図が響く。
唯は管制室のほうに向き直って言う。
「先生、オルコットを保健室に運ぶ。」
「いいだろう、許可する。」
千冬に許可をもらった唯は気絶しているセシリアをおんぶして保健室に向かう。
アリーナは未だ先の戦闘光景から抜け出せないでいた。
生身の人間が・・それも男が、武器も何も使わずISに勝ったのだ。
夢だと思いたいのだろう。
誰も動こうとしない。
否、動けない。
もちろんその中には一夏や箒の存在も入る。
管制室でその光景を見ている千冬と束と愛琉は、少し口を釣り上げていた。
女尊男卑が当たり前だと思っている者たちには、いい刺激だろう。
所詮ISを動かせる女のみが上に立っていて、ISを使えない男は下だ。
そう言う愚かな概念を誰もが持っている。
ISの恩恵を受けている女たちは、自身の立場を全く理解していない。
ISが無ければ男も女も関係なくただの弱い生物だという事に。
自然とISは人間より上にある物として、全ての者に見られるのだ。
だがISを使わなくてもISを倒す事が出来る。
これは一種のパワーバランスの崩壊だった。
人間鍛えてしまえば、ISなんかただのスーツと変わらないし、男だろうが女でISを使えなくても策を練って挑めばISを倒せてしまう可能性もある。
もちろん、絶対防御は無敵ではないのだ。
今の戦闘は、その事をありありと見せつけた。
「さて、これでISと言う絶対的勝利は消えた。」
「みんなもわかったと思うけど、ISは万能じゃない。ISがなければ男の子も女の子も変わらないんだよ〜☆」
千冬と束がそう言うと、呆然としていた生徒一同は気がついたのか管制室の方を一斉に見る。
「女尊男卑が当たり前だと思うなよ?・・解散!教室に戻れ!」
千冬は念を押した。
この発言で、女尊男卑の考え方が少しでも変わってくれる事を祈りつつ・・。
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