異能者達の転生劇 Inネギま |
1981年×月 ((紅き翼|アラルブラ))
「能力が使えなくなった!?」
ナギの驚嘆の声がアジトに響いた。
とりあえずボリュームを下げてくれみんなのティータイムだぞせっかくの心休まる時間をどうしてくれると色々な事を言いたい所だが、聞き捨てなら無い事耳を傾ける。俺と同じなのか、俺の淹れた紅茶を啜るジャックやアルビレオ、新聞を読んでいたガトウや詠春も黙ってナギとミスティーの会話を聞いていた。
「マジで? そっかー大変だなーギャハハ」
「ま、後は『俺』に任せろ」
……それと、連合、帝国に通告するという((脅迫材料|みやげ))を持って((紅き翼|アラルブラ))に新しく入った連中も、含みのある目線を向けていた。というか、俺とそっくりな奴がいるのは何故だ?
「全部使えなくなったって訳じゃないんだけどね……」
バツの悪そうな表情。
団体としての戦力が落ちて負い目を感じているのだろうか?
しかしナギは話をさらにややこしい方向へ持っていきやがったのだ。
「全部じゃない……? まさか、お前他にも潜在的能力持っててそれを隠してたのか!」
「「「は?」」」
「……ああ」
全員ポカンとして理解に苦しむ表情をする。一方、付き合いが長いミスティーは一人頭を抱えていた。
「新しい能力なんて開花してないし隠しても無い。さらに言えば、アタシの親が凄かったわけでもないし手加減も、秘密組織に連れて行かれた事も、力を授ける伝説の秘宝も、死の淵から復活して魔眼を開いてもないから!」
「おお!? なんでわかった!?」
ああ、ミスティーの怒りゲージが上がってるのが目に見えてわかる。
「…………ハァ……。アンタに期待しても無駄よね。アンタ鳥頭だし……」
おもっくそため息を吐いて怒りを静める。
「お? おお? やっぱおかしい。いつもなら殴って終わりなのに」
「舌を歯に挟んで食い縛りなさい!」
べコォ! ミスティーの平手がナギの顔にめり込む。
うん。いつも通りありえない音を奏でる。
「ゼクト」
「ミスティアの事か?」
特に動きを見せず、静かに本を捲ってたゼクトに声をかけたが、俺の考えてる事はお見通しか。
「昨晩、貴方と一緒にいる所を見かけてな。何か相談でもしていたと思ったのでな」
「ご名答じゃ」
まぁ、この((面子|めんつ))で魔法に詳しく信頼性が高いのはゼクトくらいだろう(新しく入った奴らは論外。アルビレオは……信用ならない)。
「心配は不要じゃ。あやつの身体は特に悪くなってないぞ」
良かった。俺の料理の所為じゃなかったか。
だが、何故このような事に?
「それは、あやつの力に関係する事」
「ミスティーの力? ((創造理念|イメージ))を魔力で再現する奴か?」
「投影魔術とは似て非なるがの」
一旦言葉を切って紅茶を啜るゼクト。
「ミスティアの真の力は妄想を現実にする事じゃよ。お主の言うとおり頭に浮かんだものを魔力で再現じゃが、ミスティアの場合『こういう事が出来たら良いな』と思うだけで実現させるそうじゃ」
……なんだその壊れ性能は?
「ナギとラカン同様、規格外な存在じゃからのう。考えるだけ無駄じゃ」
存在がデタラメだから仕方が無い。と言っている。
ゼクトはとっくの昔に考える事を諦めたのか。
「……? だが、繋がりが見えないぞ?」
ミスティーの力は妄想を現実にする力―――あえて妄想具現化能力とでも言っておこう―――だとして、ミスティーの能力低下への経緯がわからない。
「妄想を実現させれば、それはもはや妄想ではない。力を使っている時は、頭の中にあるものが外に出てる状態じゃ。じゃが、言い換えれば抱く妄想が((実現して完全に現実|・・・・・・・・・))((になったのならば|・・・・・・・・))、ミスティアはもう実現できん」
ゼクトは本から目を離してミスティーとナギを見る。視線の先は外。
……また魔法合戦に発展したのかあの馬鹿共は。
「止めてくる」
「ここは未だ未開の地であるが、双方に見つかるのも時間の問題じゃ。気を引き締めてゆけよ」
ああ、と返事を返し、俺は弓を((投影して|・・・・))館から出た。
2002年8月 メルディアナ
寂しくもあるが嬉しくもなるこの季節は、いくら時間が過ぎても待ち遠しい季節だ。
「卒業証書授与―――」
ステンドグラスから漏れるほのかな光が聖堂を照らし、数十人の魔法使い達を祝福していた。
集まりの中心には数名の子供達がいる。
七年間の教育課程を終え、ここから外へ出て行く子たちだ。
「この七年間よくがんばってきた。だが、これからの修行が本番だ。気を抜くでないぞ」
何十年も繰り返した言葉を老人は紡ぐ。しかし、今年は少し違う。
周囲の目も例年とは違い、出て行く子への嬉しさや寂しさ、不安や期待の内、期待の目が特に多かった。きっと、彼なら何かするだろう。きっと、彼は有名になって帰ってくるだろう。そういったモノ。
それも必然。
ここには彼の英雄の子がいるのだから
「ネギ・スプリングフィールド」
「はい!」
緑色のローブを羽織った眼鏡をかけた赤毛の子供が元気よく声を上げた。
卒業式後。
メルディアナの長い廊下で、先ほどの赤毛の子供と同じく赤毛の髪をリボンで二つに分けた(ツインテールの)女の子、お姉さん的存在の((金髪|ブロンド))の女性が歩いている。
「ネギ、何て書いてあった? 私はロンドンで占い師よ」
「待って。今浮かんでくる所」
卒業証書と共に渡された用紙がほのかに輝くと、簡単な英単語が浮かび上がる。
A teacher in japan.
日本で先生をやる事、と。
一時的に、その場の空気が停止する。その場にいる全員が文字の意味を噛み砕いて飲み込むのに時間がかかっている。
そして、メルディアナ魔法学園に三人の絶叫が奔った。
ダッダッダッダ! とドアの向こうから走ってくる音が聞えた時、威厳のある風貌の老人は何事かと眉を顰めた。
ドパーン! とドアが勢いよく開く。
「こ、校長! 『先生』ってどーゆーことですか!?」
金髪の女性、ネカネ・スプリングフィールドと赤毛の少女、アーニャが吠える。
老人がこの学校の校長にも関わらずにだ。
しかし校長はそんな事気にも止めずと言った様子で、穏やかに彼女らが言った事を反芻する。
「ほう……、『先生』か……」
「何かのマチガイではないのですか? 10歳で先生など無理です!」
「そうよ! ネギったらただでさえチビでボケで……!」
老人の長年の経験から大体の事情は察せる。
毎年恒例となった修行先への不満から来る保護者のクレームだ。
確かに10歳の子供が遠い地で、しかも教師をやるなど前代未聞。
「―――しかし卒業証書にそう書いてあるのなら、決まったことじゃ。立派な魔法使いになるためには、がんばって修行してくるしかないのう」
しかしだ。
魔法の世界は普通の社会とは違い、『魔法』と言うものがあり、普通の社会ではひた隠し、魔法の世界では上手く活用しなければならない。
その環境の中で生きるというのは難しいもの。
友人の国の言葉で可愛い子には旅をさせろ。獅子の子落としとも言う。
たとえそれが自分の孫であっても魔法使いが通る道だ。
「ああっ……」
「あ、お姉ちゃん!」
心配性なネカネは、大切な弟が訳のわからない未開の地(偏見)へ行かせる事の不安がとうとう限界点へ達し、くらりと倒れこんでしまった。
ネカネが気絶してネギとアーニャがさらにネカネを心配する。まさにイタチごっこのようだ。
老人はふぅ、とため息をつき、ネギに顔を向ける。
「ふむ……。安心せい―――修行先の学園長はワシの友人じゃからの。ま、頑張りなさい」
「……」
ネギは黙り込み、アーニャはネギの後姿を見つめる。
やがてすぅ、と空気を肺に取り込み、大きな声で返事をした。
「ハイ! わかりました!」
ネギ・スプリングフィールドは―――――透き通った目をしていた。
2002年 五月辺り
ここは魔帆良学園の図書館島。
明治の中頃、学園都市創立と共に建築された世界でも最大規模の巨大図書館で、大戦中の戦火から逃れるべく世界各地から『裏表関わらず』様々な貴重書が贈呈された。蔵書の増加に伴い、地価に向かって改築に改築を重ねた結果、((学園長|このまちのおさ))ですら全貌を知る事ができなくなったというトンデモ逸話があるほどだ。
さらに貴重書を狙う盗掘者を避けるために((罠|トラップ))が張られ、本の山や巨大な本棚により図書館島はもはや((迷路|ラビリンス))と化した。
図書館島の全貌を知る為に図書館探検部なるものが発足したり、もう遺跡として登録した方が良いと思うほどとんでもない場所なのだ。
図書館島の魔法関係者でも中々は出入り難しいエリアに、高校生の男女が二人。
二人とも特筆する特徴が無いというか、個性が薄い印象を受ける。
男は茶髪を短く切り、女は同じ茶髪のセミロング。……以上。
何か調べ物をしているらしく、男はハシゴや本を積み重ねた階段を使って本を取って来て、女は机に向かってページを捲る。その作業を延々と続けていた。
古い図書館にあるような滑車つきのハシゴを登っていた男がふと女に声をかけた。
「((美月|みづき))〜。見つかったか?」
「……」
美月と呼ばれた女は答えない。
はぁ、とため息を吐いてまたハシゴを登り始めた。何故なら美月は一度集中すると声をかけても気付かない事がたまにあるからだ。
しかし((海人|かいと))は気付かなかった。
実は美月は長々させられた資料集めに負けて、舟を漕いでいた事を―――
「気付かねーと思ったか馬鹿」
ゴスンと魔力を込めた鉄拳が美月の脳天に降ろされた。
のそのそと起き上がり、キッと海人を睨みつける。
「痛い……」
「起きてんならちゃんと返事を返せよ。あと変なナレーション入れんな馬鹿」
「馬鹿馬鹿うるさい馬鹿。それに弟よ。今の時間を見たまえ」
はぁ? と言いつつ腕時計を確認する海人。
「うわ、もうこんな時間……」
「そのとーり。五時間ぶっとうしで疲れた馬鹿」
(……まだまだ大丈夫って言ったの自分だろ……)
海人は心の内でため息をつく。
「……そうだな。撤収するか」
「賛成馬鹿」
「馬鹿馬鹿うっさい馬……やめよう、エンドレスだ」
海人は思いっきりため息をつくと、読み漁って散乱した本に細かな宝石を振り撒く。
海人が宝石を撒いたのを見届けた美月は短く呪文を唱えた。すると本が独りでに動き出し、元の本棚、元の位置に戻っていく。
本が元に戻ったのを見届けた二人は互いに労いの言葉を掛け合い、散らばった宝石を拾い集めだした。
よほど地味で退屈な作業だったのか、海人は美月に話を振ってきた。
「最近師匠から連絡付かないな」
「どうせ何処かで人助けしてるだけでしょ。あの人『正義の味方』だから」
「……そうだな」
海人と美月は複雑そうな表情になり、
「「……」」
会話は終了。
一分ほど経ち、今度は美月から話を持ちかけた。
珍しい事もあるんだなぁ、と海人は美月の話を聞く。
「あんたのクラスに上条っている?」
「(上条……? ああ、あのフラグメイカー)いるな。フラグでも建てられた?」
「な訳無いでしょ……。まぁ、そいつが魔法の事知っちゃったって話。四月頃に」
またか……、と海人はため息をついた。
しかし、魔法がバレたからと言って『((魔術師|メイガス))』の自分が『魔法使い』の学園側を責め立てる権利は無いのだ。
この世界はおおよそ四つ分けられる。
一つは科学を発展させ、オカルトやファンタジーなど関わりの無い、普通の社会。
一つは魔力を用いた技術を発展させ、それを手段として使う、((魔法|マギ))の世界。
一つはオカルトを学問とし、社会から離れ計測できない事象をひたすら求める、((魔術|メイガス))の世界。
一つは魔術の世界に似て非なり、異能の力を生計に立てたり、社会に適合するもう一つの((魔術|ウィザード))の世界。
それらの世界は基本的互いに関わらないようにしている。
普通の社会は他の世界があるなんて露ほどにも思ってない。
魔法の世界は普通の社会に上手く溶け込み、時に干渉し、時に隠れる。その他の世界には特に接触しようとはしない。
魔術の世界は秘蔵を第一として、普通の社会に知られたら記憶を消すか殺すかの二択。その他の世界どころか同胞ですら関わりを持たない。
例外なのがもう一つの魔術の世界。彼らは魔法や魔術と違い、普通の社会に知られても何もしない。それどころか異能を使って商売もしてるし、公に公開している地域だってある。
それぞれのルールがある以上、海人は何も言えないのだ。
「―――ん? まぁ、バレたとして、それがどうなんだ?」
「それが、魔法使い達の動きがおかしいんだ」
それが本題のようだ。
「魔法使い達が上条って奴に接触して来ないんだ」
「―――確かに」
バレたならまずは接触して記憶を消すか話し合うのが『魔法使い』の定石(セオリー)。
だが、見逃したのなら時間が経ち過ぎている。
お人好し単純王で知られる上条が見てないフリをしているのは考えられるが、それを見積もっても『異常』な事態だ。
だとしたら、
「上条に何かある……?」
「クラスメイトでしょ。おかしい所はあった?」
美月が急かしてくる。
しかし、海人はいくら思い出しても、上条はお人好しの一般人としか。
「……すまん」
「いいよ。こっちこそ悪かった」
今度は二人でため息をつき、
「……美月」
「わかってる。あんたの考えてる事」
「そっか。じゃ、言いたい言葉はわかってる?」
「わかるよ海人。じゃ、せーので言おう」
「「上条当麻に何があるのか、それと学園が何を知っているのか調べよう!」」
息の合った二人の言葉が図書館島の片隅で反響した。
美月と海人は互いの目を覗く。目の前の異性が本当に姉弟なのかわからないが、今、確かに心が通じ合っている。
「さて、と。鬼が出るか蛇が出るか―――」
「ねぇ、これって先生の課題にも繋がるかも」
「繋がれば良いな。ホントに」
((海月|うみつき))美月。海月海人。
魔術師、または魔術使い。
二人はかつて、月の聖杯戦争を生き残った者。
そして、二人の師は―――――――
有無を言わさず一方的に要求を提示したら、普通に脅迫だと思うんですが。(1ページ目)
説明 | ||
第一部:人が死に、人ならざる者に出会い、異世界への生を与えられる。 自然の摂理に反した者が罰せられないのは間違っている。 第二部:紅き騎士は全てを消された上で異世界に放り出され、本来の主役は過酷な運命を課せられ、黒髪ツンツンは否応なしに巻き込まれる。 これは、狂いに狂った混沌とした物語。 この小説ではFateの魔術師はメイガス、とある魔術の魔術師はウィザードと分けます |
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