迷子の果てに何を見る 第四十九話 |
修学旅行 二日目 その1
side other
湖の近くに立つ別荘のテラスで、椅子に座った一人の男と顔を隠した複数の男女が集まっていた。
「報告を聞かせてもらいましょう」
「はい、関西呪術協会の過激派とは無事に接触が出来ました。また、その際に有力な情報を手に入れる事も出来ました」
「ほう、それはなんですか」
「数ヶ月前、リョウメンスクナが封印されていた地に『形なきもの』が封印した鬼神が居るという情報です」
「それは本当ですか」
「はい、どうやら『形なきもの』が作り出した鬼神の様なのですが制御が出来ずに封印を施した模様です」
「制御が出来なかったのに封印。つまり『形なきもの』でも滅ぼす事が出来ない鬼神という訳ですか」
「そうだと予測されます。また、その封印の解呪術式も提供されました」
そう言って電話帳並みの厚さの本を渡される。
「……多いですね」
「はい、『形なきもの』が施した封印の特徴は魔力が少ない者でも使える強固な物で欠点は封印と解呪に必要な知識がこれだけ必要だという事です」
「任せても大丈夫ですか」
「一日もあらば」
「では任せます。証拠は必ず残さない様に、行きなさい」
「「「はっ」」」
椅子に座る男の指示で他の者が解散していく。
「さて、どうなることやら」
side out
side アリス
平和ですねぇ〜。昨晩は私達の班以外が大枕投げ大会を開催しましたがうるさくて眠れなかったリーネさんが大爆発。一人でクラスを壊滅させた後に大説教会が開催され途中で新田先生に見つかりましたが、あの新田先生がスルーして何処かに行ってしまう位昨日のリーネさんは怖かったみたいです。ちなみに説教は日が昇る寸前まで続きそれが終わり次第リーネさんはダイオラマ魔法球に引っ込みました。おかげで私の班以外は体調不良で静かなものです。
「それで今日はどこに行くんですか」
「関西呪術協会」
「えっ?」
「正確には関西呪術協会本部にある京都神鳴流道場ですね」
「鶴子姉さん達に呼ばれたのよ。なんでも他流試合があるから来いって連絡が今朝あったのよ。零樹達も呼ばれているから」
「なんか嫌な予感がするんですけど」
「もちろんあなたも出るのよ」
「私、神鳴流の門下生じゃないんですけど」
「私達もそうよ。けどちょっと大きな仕事が入って人数が足りないから呼ばれたのよ。まあウォーミングアップだとでも考えときなさい」
「強さ表でどれ位に」
「相手は500あれば良い位よ。ただし、試合後に鶴子姉さん相手に戦う羽目になるだろうから」
「そんなに強いんですか」
「ちょっと歳の事を話したら滅殺斬空斬魔撩乱が大量に飛んで来たわ。斬魔剣とは体質的に相性が悪いのに、それを乱れ撃ちにされたのよ。さすがに死を覚悟したわ」
「私も斬魔剣とは相性が悪いので止めるに止められず父上が来るまで逃げの一手で」
「零樹はうまく逃げ切っていたわ。地中に潜ってじっと息を殺して二日間隠れていたわね」
「ウチはそのときおらへんかったけど皆が二、三日寝込んどったのは覚えとるわ」
「あと、戦闘狂の月詠もいるわ。確実に襲われるわね」
平和だったらよかったな〜
side out
side 零樹
今朝、鶴姉から他流試合の数合わせの為に来る様に言われ、班員を連れてR畏古社にやってきた。ちなみにR畏古社ってのは関西呪術協会の表の顔の事だ。こんな時の為に班員をMM以外の関係者だけにしておいて良かった。
「坊、お帰り」
「「「お帰りなさいませ、零樹様」」」
前言撤回、一人でくれば良かった。草姉を筆頭に巫女さん達に出向かいをされてしまい鋭太郎達が唖然としている。
「草姉、僕になんか恨みでも。あと坊って呼ぶのも止めて」
「いややなあ、そんな訳あるかいな。ただ坊に彼女が出来たって聞いたからお祝いせなあかんなって、長が。あとウチにとっては坊はいつまでも坊や」
「どこからそんな情報が」
「坊より早う来とる嬢達からやけど」
「姉さんの馬鹿野郎?????」
そう叫ぶと同時に周囲の空気中の気体が変動するのが感じ取れた。主に酸素と水素が増えて、足首には鎖がいつの間にか付けられていた。その後、爆発音とともに意識が途切れました。
これが僕の一番の弱点、打たれ弱さです。攻撃は基本躱すか、反らすかなので障壁で受けるという事は殆どしない。障壁に回す分を攻撃に回していますから。障壁は保険です。弾幕を張られた時とかの、だから咄嗟の爆撃を素で受ける羽目になりました。それだけなら問題は無かったんですが、ご丁寧にベクトル反転の結界を張られまして爆発のエネルギーを全て喰らうというお仕置きに涙が溢れてきます。
そして無理矢理覚醒させられ、ぼろぼろのまま僕は道場の方に引きずられていき、先鋒として出されました。ボロボロな上に僕以外は女という事で笑っていた相手方に少し腹が立ったので裏神鳴流(詠春さんが父さんの修行の際に開発させれた流派)決戦奥義、万華桜吹雪で全員ズタボロにしました。ちゃんと生きてますよ、剣士としては死にましたけど。
それが終わると戦闘狂の世話をレイフォンと鋭太郎に任せて怪我の治療です。真祖なので怪我自体は治っているのですが破片などが体内にある状態で治るとそのままなので傷口を再度開き異物を取り出さなければなりません。これがめんどくさいんです。方法は簡単ですが。
用意する物は熱湯消毒済みの刃物。
方法は、識別魔法を使い異物の場所を確認する。次に刃物でその場所まで切り裂き、手を突っ込んで抜き出す。これを麻酔無しで行なうだけです。縫合しなくても数秒あれば治せるので簡単なんですけど痛いし、臓器の触感が気持ち悪いんですよね。
「これで最後ですね」
最後の破片を取り出し一息つきます。この治療はひさしぶりなので少し時間がかかりました。幼かった頃は父さんが取り出してくれていましたから、最近は新年会などで怪我をする位で、その時はちゃんとした(?)外科医の((間|はざま))先生が居るのでその人に取り出してもらっていましたから。
「零樹君、今大丈夫ですか?」
「アリスさんですか、少し待って下さい」
用意してもらった和服を羽織りナイフなどの道具と下に敷いていたシートを片付ける。
「もう良いですよ」
「失礼しますね」
襖を開けてアリスさんが部屋に入って来る。
「道場の方はどうなりましたか」
「今も男子が頑張ってますよ。零樹さんが見ていた通り四月一日さんはそうそうにリタイアしてますけど残りの二人は鶴子さん相手に生き延びてますよ」
ちょうど鋭太郎の声が聞こえて来たところを考えるとそろそろレイフォンもダウンするでしょうね。フォローに入っているはずの鋭太郎がやられた以上、あっ、レイフォンの悲鳴が聞こえました。
「坊、長が呼んどるでぇ?」
「草姉、いきなり人の部屋に入ってくるのはどうかと思うんだけど」
「もしかしてお邪魔やっ」
「千草さん、私、今の千草さんみたいな人って一番嫌いなんですよ」
かなり強力な呪符が顔すれすれに飛んでいったので草姉が顔を青くしています。
ちなみにお値段一枚数十万?百数十万です。それだけする理由は、再利用可能で使用後は手元に転送され、威力も強力。ついでに材料がそこそこ貴重だからです。材料は世界樹から作り出した和紙に中国に生息している竜の髭から作った筆、父さんが作り出した術式に父さんの血を凝縮したもので書かれてますから。
「草姉、少し時間がかかるって言って来てくれない。10分位で行くから」
「わ、分かったわ。ほんじゃ、待ってるさかい」
草姉を見送ってからアリスさんの頭を撫でます。
「周囲から遊ばれるのが嫌だからと言っても今のはやり過ぎだと思いますよ」
「分かってはいるんですけど身体が勝手に動いてしまう以上はそういう風に振る舞うしかなくなってしまう訳で」
……つまり一種の照れ隠しという訳ですか。なら仕方ないですね。
そう判断して後ろから抱きかかえる様にして座ります。もちろん頭を撫でる手は止めません。アリスさんも僕の方に体重をかけてきます。そのまま何も話さずにぼ?っとしてました。ああ、平和ですね。
side out
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はぁ?、草姉には困ったものだね。 まあ、お世話になったから何も言えないんだけど。 by零樹 |
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