けいおん!大切なモノを見つける方法 第1話 正しい学校を選ぶ方法 |
第1話 正しい学校の選び方
「さっくらーがおかー、こーこー♪」
そう、桜ヶ丘高校。
俺はこの春、この学校の生徒――高校生になった。
「――ああ、さっくらーがおかー、こーこー♪」
ついさっき入学式で覚えたばかりの校歌を口ずさみながら、俺は自分のクラスの教室を探しながら校舎を歩いていた。
生まれて初めて締めたネクタイが妙にくすぐったく、落ち着きなく首回りをいじる。買ったばかりの真新しい上履き。ちょっと裾が長めのスラックス。体に馴染んでいないブレザー。下ろし立ての制服と窓の外から見える春の象徴である桜たちが、高校生になったということを実感させる。
高校なんて中学の延長だろ、とかそんな冷めたことを思っていたけどそんなことはなく、少しは大人に近づいたんじゃないかと錯覚してしまう。
「あーあーあー、イイ雰囲気の学校じゃん」
桜ヶ丘高校は全部の校舎ではないが大半が木造校舎で占められている。そのせいか変に気取ったところがなく、特別に厳しい校則も進学意識もなく、好感が持てるような気がした。おまけに数年前まで女子高だったこの学校はなかなかに女子生徒の数が多く、我ながら邪だなぁと思いつつも健全な男子である俺は嬉しく思う。
最高だ、この学校に入ってよかったな、と俺は素直にそう思った。
俺のクラスは1年2組、教室に入ると何人かが無遠慮な視線を寄越してくる。
……そりゃこのトシで杖ついてるヤツいたらちょっと変だよなぁ。
ちなみに比較的に根気よくリハビリを続けていたので右脚の状態はかなり良くなっている。だけどまだ脚に長距離を歩くほどの負荷はよろしくないらしいので杖を持たされている訳だ。まあ学校までそんな距離ないから平気だと思ったんだけど家族の人が持って行けとうるさく心配してくれたので、こうして持ってきている。
ジイさんっぽくて格好悪ぃ、なんて子供っぽいことを考えながら自分の学籍番号に割り当てられた席に着く。
俺は後ろの席の生徒に声をかけることにした。
「よっす。男女比ひでえとか思ってたけど案外そうでもないのな」
こういうとき、ほとんど人見知りしない自分の性格を、俺はけっこう気に入っていたりする。数少ないセールスポイントだな、とか適当なこと考えながら周りを見渡す。
「俺ら含めて10人はいる――ね」
俺は言いながら声をかけた男子生徒を見る。ぽっちゃりした体格で悪い意味で眼鏡が似合う造形の顔だなぁとか失礼なことを思っていると、手元にあるクラス名簿を凝視していたそいつはゆっくりと俺を見た。
「………まさか、お前もなのか?」
………は?
「お前も桜校にはレベル高い女子がわんさかいるという噂を聞いて桜校を受験したのかっ!?」
そいつは驚きながらもその暑苦しい顔をこちらにずいっと寄せてきた。ヤメテ。
「フッ、まあお前程度の地味なモブキャラが何人いようとこの僕が主人公補正で速攻カノジョつくっちまうがナ」
そのポッチャリくんは、前衛的なデザインのセルフレームメガネをクールにクイっと持ち上げ、ドン引きして喋れないおれに気持ち悪い台詞を言い放つ。何気に地味でモブとかキツいこと言うなや。
入学早々絶対に近づいてはいけないカテゴリーの人間に俺は話しかけてしまったようだ。
「だが、モブキャラとはいえこの高校を選んだことは評価してやるぜ」
「いや、今すっごい勢いで入学を後悔してるんスけど、俺……」
こんな学校でマジ大丈夫なんか……!?
「確かにお前の言う通り今年は男子生徒の数は多い。それでも7割以上が女子!数が多いとそれだけカワイイ娘が多くなる、これ真理ナ」
コイツヤバイ……。
しかし、結構舌が回って喋るのが好きそうな奴なので、俺はついつい会話を続けてしまう。
「そんな理由で学校選んでるヤツいねーよ!………まぁちょっとは嬉しいけどさ」
俺はポッチャリくんの机に頬杖をつきながらクラス名簿を眺める。
「随分女の子に飢えてるみたいだけど、ひょっとして中学、男子校だったんか?」
「普通に共学だよ悪かったナ、ってかこの辺りで男子中学校とかあるわけねぇだろ。………ん?お前地元民じゃねぇのか?」
「そーだよ。この春に2コお隣の県から引っ越してきた」
「女のためだけに越境してくるとは……、さすがモブキャラ、根性が違うナ」
「親の仕事の都合だよっ!つーか俺どんだけチャラいキャラなんだ!?」
ちょっとムキになって大声でツッコミを入れてしまったので、周りの生徒が数人俺の方に振り向く。
その時―――ひとりの女子生徒と目があった。
すぐに目を逸らされてしまったけど、この変態とこんな内容のトークを続けるのもナンなので、その女子生徒に話しかけることにした。
「なぁさ、キミってここらの中学の人なん?」
俺がそう声をかけると、その子はビクリと小さな体を硬直させ、驚いたように目を大きくしてこちらを見た。
「……わ、私のコト?」
うんそう、と言いながら俺は彼女を見る。
その女の子はとても小柄でクリっとした大きな目が、どこか小動物を髣髴とさせる。長い黒髪をツインテールにして縛っている。
………ポッチャリくんじゃないけど、確かにこの学校の女子はレベルが高いよな。すっげー可愛い。
「う、うん。ちょっと遠いけど南中だよ」
「あれ?お前中野じゃね?」
と、ポッチャリくんが食い付く。
知り合いかなんかかな?
「そうだけど……」
「僕も南中なんだヨ。クラス一緒になったこと1回もないけど、お前のこと知ってるぜ!」
喰い気味に中野さんに話しかけるポッチャリくん。
なんで知ってんだよ、と思ったがこいつなら自分と同じ高校に進学する女子ぐらいチェックしてんだろーな。
って中野さんちょっと引いてる引いてる。顔引きつってんぞ!
「中野さん、中学でもコイツこんなんだったんか?」
「わかんないけど、多分そうだと思う」
困ったように答える苦笑いな中野さん。どうやらポッチャリくんが強烈な個性の持ち主であって、同じ中学でも他の人は常識人のようだ。ホッ、一安心。
「俺さ、他県から引っ越してきたからまだ友達はこの変なヤツしかいないんだ。よかったら中野さんも仲良くしてやってな」
俺がそう言うと、中野さんはちょっと恥ずかしそうにモゴモゴしながら、こちらこそよろしく、と言ってくれた。
些細なことだけど、えらく嬉しく感じるのは多分恥ずかしそうにしている中野さんが大層可愛く見えたからだろう。
「入学早々ナンパとは……、さすがモブキャラ、根性が違うナ」
「どこがナンパに見えんだよ……っ」
「いいか、漫画とかだとお前みたいなチャラいモブキャラはフラまくって学校中の女を敵に回した挙句、ドロップアウトして不良になって主人公に倒された後あっさり改心しちゃう程度の小物だぞ?」
「俺どんだけ安い量産型キャラなんだよ!?あとどうせなら最後まで悪役やらせろや!」
こいつはマジで何考えて生きてんだ、漫画読み過ぎ。
そんな俺たちのバカなやり取りが面白かったのか、中野さんは俺たちを見てクスクス笑っていた。硬い表情がようやくだがほぐれてきたらしい。
俺はなんだか嬉しくなって、ワザとらしく、ナンパじゃねえからホントにっ、とオーバーに弁解する。
するとまたポッチャリくんがバカなことを言って俺と中野さんを笑わせてくる。
新しく始まった高校生活。
もうバスケはできないけど。もう昔のように走れないけど。
きっとバスケを忘れて楽しい3年間を送れる。
そう思った瞬間―――
「……あのっ!」
急に後ろから声をかけられたので、振り向く。
直後、それこそ漫画のように俺の顔からサァーと血の気が引いた。
「私のコト、覚えてますか?」
忘れるわけがない。
……平沢、憂。
最悪だ、こんな学校入らなけりゃよかった、と俺は素直にそう思った。
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勢いとノリだけで書いた、けいおん!の二次小説です。 Arcadia、pixivにも投稿させてもらってます。 よかったらお付き合いください。 首を長くしてご感想等お待ちしております。 |
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