けいおん!大切なモノを見つける方法 第3話 友達を勇気づける方法 |
第3話 友達を勇気づける方法
「軽音部?」
それは、とある昼休みのコトだった。
「うん、そーだよ。私のお姉ちゃんが新歓ライブやるんだって!」
憂はまるで自分のことのように嬉しそうに、弁当をつまみながらそう言った。
「あーあーあー、例のお姉ちゃんね」
「はいはいはい、例のお姉ちゃんね」
机を寄せ合って一緒に昼食をとっていた俺と純は呆れながらそう言った。
知り合ってまだ間もないが分かったコトがある。憂という人物を表現する中で1番合っているモノはシスコンだ。二言目には『お姉ちゃんがね――』『お姉ちゃんなら――』である。
憂はとても優しくしっかりしているが、どこか遠慮がちで1歩後ろに引いているフシがある。そんな彼女が最も感情的というかハイになって話すことが、1コ上の姉である。水たまりを見て、『お姉ちゃんコケないよね…』と過保護すぎな心配する憂を見て、俺と純は逆にそんな憂を心配したりする今日この頃。
「軽音部か。俺ン中学はなかったなぁ、そんなカッケー部活」
俺はコンビニのおにぎりをパクつきながら中学時代を思い返す。合唱部とか吹奏楽部とかならあったっけ。
「アタシらの中学もなかったよ。つーかマジカッコイイじゃん、バンドだよバンド!けっこう興味あったりするかも!」
と、息をまいて喋っている女子生徒は鈴木純。
彼女は賑やかだ。よく喋り、よく笑い、感情を溜めずに表に出すコトが多い。それ故に、人付き合いが上手いと思う。なんというか距離の取り方を心得ているんだろうな。そんな彼女のコトを、俺は密かに尊敬していたりする。
「今日の放課後にでも行ってみない?軽音部。……あ、新歓ライブだっけ?」
「新歓ライブは明日だから今日は普通に部活やってると思うよ。私は行ってもいいけど、フユくんは?」
「あー、ごめん。今日バイトあるからムリっぽい。2人で見学してきてや」
「付き合い悪いよ、フユ。ちょっとぐらいイイじゃん」
「ダメです。……そもそもバイトしてっから部活入るつもりないし」
ちなみに2人は俺のコトをフユと呼んでくれている。憂はけっこう抵抗あったみたいだけど、最近はもう慣れてきたみたいだ。
「えー!?バイトばっかりしてると灰色の青春送るコトになるよアンタ」
「灰色とか言うなや!つーか憂も部活入らないって言ってなかった?」
「うーん……ご飯つくったり家事とかで忙しいから、部活やるのはちょっと難しいかな」
憂の両親は昔から仕事やら旅行やらで家を空けることが多いらしい。彼女の世話焼きな気質のルーツはそこなんだろうな。
「そっかー、フユも憂も部活やらないんだ……。なんかつまんないな」
そう言って、彼女は本当につまらなそうにパックのオレンジジュースを口に含んだ。
俺も純たちと一緒になにか部活動をやれたらすげー楽しいとは思うんだけど、バイトのせいで毎日部活に参加できないのだ。バイトは週に2、3日くらいなので、実際のところ部活をできなくもないのだが、毎日顔を出せないと中途半端な感じがしてイヤだ。……我ながら体育会系だよなぁ。
「とにかく今日はムリ!でも明日の新歓ライブはちゃんと見に行くよ、憂の姉ちゃん見てみたいしな」
「フユ、憂のお姉さんにナンパすんなよ?」
「え!?……フユくん、ホントのホントにだめだよ!」
「……………」
「で、翌日の放課後になったワケだが、ナニか言うコトはあるか?裏切り者の純ちゃんよ」
「だから、ごめんって言ってるでしょ!裏切りとか言わないでよ!」
結論から言うと純は軽音部ではなく、ジャズ研究会に入部することとなった。昨日、軽音部の見学後にジャズ研に寄った際、とある先輩の演奏に一目惚れしてしまったらしい。
「すごくカッコいい先輩がいて、つい……。でもホントにごめんね、憂」
「気にしないでいいよ!しょうがないよ、どこに入るかは純ちゃんの自由なんだし」
別に悪いコトをしたわけでもなんでもないのだが、純は申し訳なさそうにしている。
「ジャズっつうと、ディキシーランドジャズとかビックバンドジャズとか、そういうのか?」
「おー、フユ意外と詳しいじゃん、そんな感じのヤツだよ。この後先輩たちと相談して、新入部員でどんなジャンルのジャズやるか決めるんだ」
一転して、楽しそうに話し出す純。
自分に合った部活を見つけることができたコイツを、普通に羨ましく思う。
「そっか。それじゃ頑張れよ、純」
「また明日ね、純ちゃん」
「ありがとっ、いってくるね!」
そう言うと、彼女は嬉しそうにジャズ研の部室に向かうため、意気揚々と教室から出て行った。
いってらっしゃいー、と憂は小さく手を振っている。
「……にしてもジャズね。まあ、アイツらしいって言えばアイツらしいか」
「純ちゃんがコンサートとかで演奏するの楽しみだね?」
「気ぃ早すぎだって」
今年の文化祭とかでやんのかな?とか考えながら、俺は席を立つ。
「じゃ、2人しかいねえけど、軽音部の応援にいきますか」
「うんっ」
杖を突きながらカコカコと歩いて教室から出ようとすると、隣で憂がナニかを見つけたように、あっ、と小さく声を上げた。
「ん?……あれ中野さん?」
俺がそう声を掛けると、ドアに手をかけていた中野さんはビクリと硬直してこちらを向いた。
「中野さん、今帰るトコ?」
「うん、冬助くんたちも?」
「や、俺らは――」
チラリと横目で憂を見てみると、ナニか言いたそうに中野さんを見ている。憂がナニを言いたいのか把握するのに1秒も要らなかった。
「あのさ、ちょっと頼みがあるんだ。今から軽音部の新歓ライブあるんだけど、中野さんも一緒に来てもらっていいか?憂の――こっちの平沢さんの姉ちゃんが出るんだって。俺らで応援したげようぜ」
「……私なんかが、付いて行っていいの?」
「悪かったら誘うワケないだろ。あ、そういや2人はほとんど初対面だっけか?」
中野さんと憂は少し緊張していたみたいだけど、同性だからなのかすぐに打ち解けたみたいだ。これからよろしくね、とハニカミながら話している2人を見て微笑ましくなっている俺だが、時間がかなりヤバイことに気付いた。
校舎から少し離れた場所にある講堂に着いたときには、すでに新歓ライブは始まっていた。脚を怪我している俺は歩くスピードがトロいので、2人には先に行ってもらいたかったんだけど、憂がそれを許すワケがなかった。
扉を開けて講堂内に入ると賑やかな音が大音量で飛び出してくる。ちょうど曲が終わるところで、時間的に1、2曲目だと思う。
「けっこう人いっぱいだー」
憂の言う通り、思ったよりも多くの人がこの新歓ライブを見に来ていた。独特の熱気の中、曲が終わり、新1年生たちの拍手が鳴り響く。
『どうもー、軽音部ですっ!えっと、新入生のみなさんご入学おめでとうございます!』
そう言ってMCを始めたギターを提げたその先輩は、なんだか初めて見た感じがしない。というか、隣にいる友達に滅茶苦茶似ていた。間違いなく憂の姉ちゃんだろう。
「あの人憂の姉ちゃんだろ?憂によく似てんね」
「うんっ、よく言われるんだ」
憂の耳に口を寄せて感想を言う。メガネを持ってくるのを忘れたのでハッキリとは見えないが、それでも似ている様子が見て取れる。憂と同じ栗色のショートボブヘアで、大きな目とか背格好とかそっくりだ。
『私、最初に軽音部って聞いてカルーい音楽だと思ってたんですよぉ。それで、カスタネットができればなーって思って、軽い気持ちで入部しました。なので、皆さんもそんな感じで気軽に入部してくださいっ』
…………。
「……あの人憂の姉ちゃんだろ?憂とは似てないね」
「……うん、よく言われるんだ」
『それじゃあ聴いてください、わたしの恋はホッチキス!』
ひでぇ曲名だ、と感想を抱いた次の瞬間、演奏が始まった。力強いドラムが鳴り響き、それに合わせるようにギターやキーボードが呼応する。そんな賑やかな音をまとめるようにベースの重低音がリズムを縫っていく。
真剣に、でもどこか楽しそうに演奏する4人の先輩たちは、ナニかエネルギーのようなものを全開で放出していて、ひどくカッコよく俺の目に映っていた。
「すっげ……」
思わず素でそんな感想が出てきた。
その曲はまさにガールズバンドといった感じで、俺が普段聴いている音楽とは全くの別モノだった。だけど馴染みがないだけにとても新鮮に感じて、心地よかったのを覚えている。
憂の姉ちゃんの歌声を聴き入りながら憂を見ると、リズムに乗って楽しそうに手を叩き、憧れのお姉ちゃんを応援していた。中野さんは……。
中野さんは、その小さな体で目いっぱい背伸びをして、誰よりも真剣に演奏を聴いていた。プルプルと震えるように背伸びをして演奏を凝視する彼女はなんだかとても可笑しく、そして微笑ましかった。そんな彼女の様子に憂も気付き、俺たちは何故だか嬉しくなってクスリと笑う。
中野さんを連れてきてよかったな、と俺は思った。
結論から言うと、中野さんは軽音部に入部するコトとなった。
どうやら彼女もギターの腕に覚えがあるらしい。純とはまるきり反対で、ジャズ研はしっくりこなかったようだが、軽音部にはナニか感じるモノがあったらしい。
「緊張しすぎだっての」
「わっ、わかってるよっ」
新歓ライブの翌日、俺と憂と中野さんの3人は3階の音楽準備室――つまり軽音部の部室前にいた。
入部の意を軽音部の先輩たちに伝えるのだが、中野さんが妙に緊張しているので俺と憂で彼女の背中を押すコトにしたのだ。
「梓ちゃん、平気だよ!お姉ちゃんすっごく優しいから!ほら深呼吸して」
息を吸って吐いてと深呼吸して平常心を取り戻そうとしている中野さん。憂も一緒になって深呼吸しているのがなんか可愛い。
「スッと行って、スッと入部届渡すだけだよ。落ち着け」
そう言ったとき、俺は妙な既視感を覚えた。前にもこんな感じが、ってかしょっちゅうあったぞ……?
その既視感の正体はすぐに分かった。バスケの試合でコートインする際の緊張でガチガチになってるチームメイトだった。男なら1発頭ドツいてビビってんなよ、と無神経な発破かけられるんだけど、さすがに女の子にそりゃできねぇわな。
「―――大丈夫だよ。なんかあったら、俺が力になるから」
我ながら凄まじく月並みな物言いだ……。
それでも、中野さんは少し驚いた顔をして、そしてゆっくりと肯いた。
音楽準備室に入っていく中野さんを俺たちは見送りながら手を振った。
「梓ちゃん、上手くいくといいね」
「心配性だなぁ」
とか言いつつ、俺も音楽準備室から目が離せない。
しかし、そんな心配は杞憂だった。しばらくすると、『確保ぉーーっっ!』と怒号が聞こえ、直後に中野さんの黄色い悲鳴が聞こえ、ガヤガヤと楽しそうな声が音楽準備室から漏れてくる。今頃先輩たちにもみくちゃにされているんだろう。
「憂、なんで笑ってんの?」
「そういうフユくんも笑ってるよ?」
「え、嘘、マジか?」
俺たちは音楽準備室を後にして、並んで帰路に着く。
「よかったね」
「ああ、よかったな」
一体全体ナニがよかったのかよくわからなかったけど、俺たちはガキみたいに笑ってよかったよかったと呟く。
「スーパー寄って帰ろうぜ。献立ナニにしようかなっと。……奥さん、今日はなんかお買い得な狙いドコありますか?」
「えっとですね、本日のオススメはですねー」
そんな馬鹿な雑談をしながら俺と憂は桜並木を歩いていく。
と、平和を実感している俺だが。
数日後、中野さんと軽音部のクセの強さを思い知らされるコトになるとは、まだ知らない。
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勢いとノリだけで書いた、けいおん!の二次小説です。 Arcadia、pixivにも投稿させてもらってます。 よかったらお付き合いください。 首を長くしてご感想等お待ちしております。 |
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