仮面ライダーディージェント
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楓はサイクロンへの変身を果たし、メタルへ加勢する為に一気に駆け抜ける。

現在メタルはディボルグの振り翳す槍によって、鍔迫り合いの状況に陥っている。

 

歩が言うにはあの仮面ライダーはパワーだけは無駄に高いらしいので、早く手助けに行った方がいいだろう。

サイクロンの特性による風の恩恵を受けて猛スピードで距離を詰めると、その勢いに乗った状態でディボルグを思いっきり殴り付けてメタルから引き剥がす。

 

「てりゃあっ!!」

「サンキュー!楓!!」

 

[滞在世界ノライダーノ増援ヲ確認。危険レベルスリーニ達成。ライドカードシステム、オートリロード機能ノ使用ヲ許可シマス]

 

サイクロンのサポートにメタルがサムズアップしてそれだけ返していると、再びディボルグドライバーから電子音声による報告がなされる。

聴いた感じでは、今度はカードを無尽蔵に使って来るようだ。

 

「ったく、どんどん面倒になって来るなコイツ」

「みたいね。でもこうやって徐々にリミットを解除して行くって事は、それだけ負担が強いって事なんじゃないの?」

 

今のディボルグは、例えるなら長距離マラソンを走っているのと同じだ。

早く走れば走るほど、疲れが溜まり易くなって何(いず)れは動けなくなる。

こうやって徐々に手強くなっていくと言う事はつまり、それと同時に自分の首を絞めている事にもなるのだ。

 

サイクロンの仮説を聞いたメタルは「成程な」と小さくぼやくと更に続けた。

 

「だったら今がある意味チャンスでもありピンチでもあるな。克也が死ぬまでに絶対に倒すぞ」

「了解、所長」

 

[アタックライド…スラッシュ!]

 

サイクロンが所長の決定方針に短く返事を返していると、ディボルグはおもむろにカードを一枚取り出して「スラッシュ」効果を発動させると、こちらへ迫って来た。

 

[ジョーカー!]

 

「行くぞ!楓!!」

 

[ジョーカー!]

 

「ええ!分かってるわよ!」

 

メタルがジョーカーメモリを取り出してスイッチを押しながら号令を放つと、サイクロンは何処か活き活きとした声色で言い返しながら、ジョーカーへとメモリチェンジした相棒と共にディボルグを止める為に駆け出して行った。

 

 

 

 

 

「……やっぱり、彼女にとってあの場所が居場所なんですね」

 

麗奈は何処か活き活きとしているサイクロンの様子を見て誰にでも無くそう呟いた。

先程彼女が零していた愚痴の通り、やはり彼の傍にいる事こそが藤原楓と言う名の一人の女性のいるべき場所なのだろう。

その証拠に、今の彼女には先程の陰りが一切見えない。

 

「居場所、か……」

 

ふと隣から仰向けに倒れている歩がそんな事をぼやいていたのが耳に入った。

徐にそちらを見やると、彼はただただ虚ろな目で夕焼けから夕暮れに変わりつつある空を見上げているだけだ。

 

そう言えば、彼について分からない事がいくつもある。

例えば彼が所有しているディボルグドライバーと酷似しているDシリーズと言っていた装置…アレは自分の上司に当たる人物がある日落ちていたのを拾った物だ。

自分のいた世界でも、アレは間違いなくオーバーテクノロジーで造られたと分かるほどに高性能な物。

そんな物を持っていて、尚且つそれについて詳しく理解しているとなれば、只者ではないだろう。

 

彼はある計画の遂行の為に動いていると言っていたが、そんな彼に居場所なんてあるのだろうか?

そんな事を考えながら、この青年に一つ訊ねてみた。

 

「あの、聞いても良いですか?」

「なんだい?」

 

声に感情が籠っていない為に素っ気なく聞こえるものの、しっかり聞いている事を確認すると更に続けた。

 

「歩さんには、あの人達みたいな居場所はあるんですか?世界中を渡り歩いてると言っていましたが……」

「………」

 

それを聞いた歩はどう答えようか悩んでいるのか、しばらく黙ってしまった。やがて考えがまとまったのか軽く息を吐き捨てて一拍置いた後、その質問に答えた。

 

「……僕の居場所はもうない。完全に破壊されてしまったから」

「破壊された?」

 

歩の言葉を反芻するようにオウム返しに答えると、彼はまたも一拍置いてから短く簡潔に答えた。

 

「僕が壊した」

「!!」

 

それだけ言うとまたも黙って虚ろな目で空を見上げる。

克也の時と違って感情の浮き沈みが浅すぎて何を考えているのか分からないが、嫌な事に触れてしまっていたような気がした。

 

「そ、その…ごめんなさい!気になって、つい……!」

「そんなに気にしなくても良いよ。それに、今の僕にはああ言う居場所がある」

 

麗奈が聞いてしまった事に対して謝ると、歩は大して気にした素振りを見せる事なく、ある一か所を指差しながら質問の続きを答えた。

 

歩が示した方向には、ディボルグに奮闘するこの世界の二人のライダーがいる。彼が言っているのはきっとサイクロン…楓の事だろう。

 

「今の僕には、家族みたいな人がいる。その関係は、あそこにいる二人と似た様な物?だから」

「何で大事な部分だけ疑問形なんですか?」

 

何故か最後の部分だけ自信なさげに答える歩に、思わずツッコンでしまった。そこは自信を持って答えましょうよ……。

 

「向こうがこっちをどう思ってるか分からないからね。確信が持てない限り断言できない」

 

どうもこの青年はかなり引っ込み思案な性格らしい。

彼の言う人物が一体どう言った人なのか分からないが、家族と言っているくらいなのだからもう少し期待しても良いのではないだろうか?

そう思っていると歩は更にその人の事について続けた。

 

「それに、無理矢理連れ回してるようなものだし、僕が彼女の世界に立ち寄らなければ、こんな計画に巻き込む事もなかった……。その所為で、彼女が別の世界に連れ去られてしまった…本当に悪い事をしたと思ってる……」

 

まるで粛罪の言葉を述べる様に、彼は淡々とその人の事を吐露した。

先程の楓の弱音と言い、これでは自分がシスターになった錯覚さえも覚えてしまいそうだ。

 

だが、彼が思い悩んでいる事が分かって、少しだけ安心した。

歩と初めて会った時、この青年には感情と言う物が一切ないように思えていた。

それはまるで、心を持たない機械や人形が何の起因もなく勝手に動いているかのような不気味さを醸し出している印象だった。

しかしこうして話してみればどうだ?彼も悩みを抱え、他人の事を思える一人の人間だと実感させられる程に人間味を帯びている。

 

先程歩が自分の世界を壊したと言っていたが、少なくともそんな事をするような人には見えないし、歩が話している人物も、そう簡単に彼を裏切る様な真似はしないだろう。

それなのに彼は自信が持てなくてこうして内側に溜め込んでしまっている。それなら赤の他人である自分から言える事は一つだ。

 

「歩さん…貴方はもっと周りに頼っても良いと思います」

「……?」

 

麗奈が話しかけると、歩はチラリとこちらを見て何の話をしているのか分からないと言った雰囲気で軽く首を傾げた。

麗奈はその見た目と動作のギャップに内心苦笑しながらも、促されるように更に続ける。

 

「周りに頼る事は別に悪い事ばかりじゃないんです。確かにヴァンさんに戦う事を協力してもらってたりもしてますが、アレは頼ると言うよりも効率を考えた理論的な判断…と言った感じです。もう少しくらい、誰かに甘えても良いんですよ」

 

そう言い切ると、歩は僅かに微笑んで近くにいないと聞き取れないほどに小さな声で呟いた。

 

「そうか……。前にも彼女…亜由美にも似た様な事を言われたよ……」

 

歩はここに来てようやくその人の名前を口にした。ある程度自分に心を許したと言う事なのだろうか?

現に今の彼は何処かつっかえが取れたような雰囲気だ。

しかしそれだけでも言ってみた甲斐があったと言うものだろう。

 

[アタックライド…ディメンション!]

 

「ッ!楓!二手に分かれるぞ!」

「分かったわ!」

 

ふと前を見ると、ディボルグが[ディメンション]を発動させて無数の槍を床から生成して、周囲一帯を槍の草原に変えていた。

それに対してジョーカーがサイクロンに散開する様に指示を出して、二人はその場から離れて難を逃れる。

やがて槍の生成限度が来たのか突き出す槍が現れなくなったのを境に、ジョーカーとサイクロンが同時に槍の合間を掻い潜りながらディボルグに迫ってほぼ同じタイミングで殴り付けた。

 

「凄い……」

 

その戦いを見て思わず麗奈はそう驚嘆の声を零した。

一部の戻った記憶の中でも、少なくとも自分のいた世界にある既存の兵器でも歯が立たなかった程なのだ。アレを倒す事は容易ではない筈なのに、あのディボルグを二人がかりとは言え圧倒している。

一体何故……?そう思っているのは歩の同様で、その戦いを状態を起こして食い入るように見つめている。

 

「よく見ておけ、若手の仮面ライダー達よ……」

「例えどんなに強い奴でもね……」

 

ディボルグが数瞬遅れて槍を振るうが、ジョーカーとサイクロンは後ろへジャンプして悉(ことごと)くかわすと、ジョーカーが正面を向いたまま此方に話し掛けてきて、それに続く様にサイクロンも紡ぎ出す。

 

「街を…守るべき物を壊そうとする奴には……」

 

[ジョーカー!マキシマムドライブ!]

 

サイクロンの後に続きながら、ジョーカーはドライバーからジョーカーメモリをマキシマムスロットへ挿し込んでマキシマムドライブを発動させる。

 

「絶対に屈しない」

 

[サイクロン!マキシマムドライブ!]

 

更にサイクロンもそれに続いてジョーカーと同じく自身のガイアメモリをマキシマムスロットに挿し込むと、ジョーカーが左手をスナップさせるのと合わせて、右手を軽くスナップさせる。

 

「それが……」

「私達……」

 

『仮面ライダーだ!!』

 

最後に声を合わせて互いにスナップした手でディボルグに指差すと同時に、サイクロンのマキシマムドライブの効果で周囲に突風が逆巻き、ディボルグの動きを牽制する。

その風に乗る様に、二人の仮面ライダーは息の合ったジャンプで高く跳び上がる。

 

「行くわよ、駆」

「何時でも良いぜ、相棒」

 

サイクロンのマキシマムドライブ時に発生する突風によって傍にいるジョーカーにも風による恩恵が与えられてサイクロンと同等の高度まで上昇し、やがて最高到達点まで舞い上がると、サイクロンの問い掛けにジョーカーが頷き返した。

 

『ライダー・ダブルキック!』

 

これまた同時に技名を叫びながら左右対称に飛び蹴りに態勢に入り、風に乗ったライダーキックを放ち、ディボルグへ目掛けて直撃して吹き飛ばした。

 

やがて二人が着地すると、二つ同時のマキシマムドライブを受けても尚、立ち上がるディボルグの姿を見た。

 

「クソッ!まだ駄目か…!」

「ならもう一度……」

 

ジョーカーが未だに戦闘を続けようとするディボルグに毒吐き、サイクロンがもう一度マキシマムドライブを発動させようと構えた時、それは起こった。

 

[ディボルグ損傷ダメージ、超過シマシタ。フリーズシマス]

 

ディボルグドライバーからそんな報告がなされた。

フリーズ…つまり動きが止まると言う事だ。そしてその言葉の通りにディボルグの動きが完全に停止し、ディボルグドライバーから小さく「カチリ」と言う何かが外れた音が聞こえた。どうやらセキュリティが緩んだようだ。チャンスは今しかない。

 

「楓、今だ!!」

「了解!」

 

ジョーカーが一番素早く動けるサイクロンに指示を出すと、彼女は超スピードでディボルグに迫ってバックルを掴んで無理矢理引き剥がした。

 

するとディボルグの身体がダークブルーのノイズに包まれて消えて行き、やがて装甲を纏っていた克也が露わになって呪いの鎧の呪縛から解放されると、彼はそのまま膝を突いて倒れた。

 

 

 

 

 

「う…ぐぅぅ……。まさか、こんな結果になっちまうとはな……」

(装着者の肉体が分解されていく…神童さんの話だと、マキシマムドライブで消えない様にしてると言っていた筈だけど…どうやらバーサーカーシステムの負担は除外されてたみたいだね……)

 

どうやらまだ意識が残っているようで、倒れた克也の口からそんな小さな声が漏れるが、彼の身体から塵が噴き出し始めて徐々に身体が消えていくのを見ながら歩は推察していた。

 

いくら神童による細工と言えど、ディボルグへの変身による負担は耐え切れなかった様だ。いや、正確には敢えてそこまでを範疇に入れずに細工をしたのだろう。

そうすればこの世界を破壊した後に装着者である克也がまたディボルグドライバーを使うという危惧が無くなるのだから。

 

「ぬ…うぉああぁぁぁぁ……!!」

 

しかしそれでも尚、克也は動かない筈の身体を無理矢理動かして立ち上がると、ジョーカーとサイクロンを荒々しく息を乱しながら睨んだ。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……!!」

「コイツ…まだやるつもりなの…?」

「当たり…前だ…!こんな形で…消えるつもりは…ねぇ…!!」

 

サイクロンの呟きに克也は身体が消えていく痛みに苦しみながらも、声を絞り出した。

 

やっと駆との因縁の対決にけじめを付けて三度目の死を全うする筈だったのに、こんな無様な…駆と俺を生き返らせた奴等の娘なんかに助けられた上で消えるつもり等さらさらない!

 

しかし今尚自身の身体からは分解して塵へと変換された肉片が大気中へと散っていく。

まだこんな所で消えたく…死にたくない!!

 

「……少し、良いですか?」

 

ふと声のした方を克也と仮面ライダー二人が見ると、そこには第三者である別の世界の仮面ライダーとも言える人間の一人が、感情の籠ってなさそうな声色でこちらに覚束無い足取りで歩いて来た。

 

「何の…用だ…!?俺にはもう…時間が……!!」

「これは、貴方のメモリですか?」

 

克也の次の句を無視してその駆と同じファッションの男は懐から一本の白いガイアメモリを取り出した。

そのメモリに描かれていたイニシャルは“E”。間違いなく、自身が持つべき運命のメモリ・エターナルメモリだった。

 

「何故…貴様がそれを……!?」

「理由は分かりませんが、エターナルを倒した後、このメモリを持って行った方が良いかと思いましたので、今まで持ってたんです」

 

人とメモリは惹かれ合う…何時かそんな話を聞いたのを思い出した。

 

理論はよく分からないが、ガイアメモリに内包されている記憶が適合者と惹かれ合い、その人物の下へ自然と集まって行くのだそうだ。

 

剛や健にメモリを与えた時だって、二人は迷うことなく自身に適合できるメモリを選び、ドーパントへと変わった。

そして自分の目の前にも、運命とでも言うべき現象が起こり、この男が自分の下まで届けに来てくれたのだ。

 

「変身していれば、しばらくは持つ筈です。コレを使って、まだ戦いますか?」

「アンタ、何言ってんの!?そいつはこの街を壊そうとしたのよ!?そんな奴に今更ガイアメモリなんか渡しても、被害が広がるだけよ!!」

 

何の因果か、この男は自分をもう一度仮面ライダーとして駆ともう一度戦わせようとエターナルメモリを克也の前に差し出すも、この男の行為に反発するかのようにサイクロンが批判の意を唱えた。

 

まぁそれも当然の事だろう。自分は最早害悪以外の何物でもない、ただの悪魔だ。

そんな人間とも言い難い奴に、メモリを使わせる事を許すわけがない。

 

「いや待て、楓」

「え…?」

 

しかしジョーカーがサイクロンの前に遮るように手を出してそれ以上言わせるのを止めた。何のつもりだ一体…?

サイクロンがその行動に呆気に取られていると、ジョーカーは自身の意見を紡ぎ始めた。

 

「アイツはちゃんとした形で落とし前を着けたいんだ。その気持ちは俺も同じさ…だから頼む。アイツを、正真正銘の仮面ライダーとして死なせてやってくれ」

 

それを聞いたサイクロンは黙り込んでしまうが、一拍置いてから軽く溜め息を吐いて変身を解くと、ロストドライバーをジョーカーに手渡した。

 

「しょうがないわね…でもその代わり、自分でも満足できる様にけじめを着けないと、もうアンタのご飯作ってやんないわよ」

「おっとぉ、そいつは勘弁だな。今度こそ、ちゃんとケリは着けるさ」

 

冗談交じりにそんな会話を交わすと、ジョーカーはこちらへ向かって手に持ったロストドライバーを投げ渡した。

本当に自分をエターナル…仮面ライダーとして葬るつもりらしい。そう思うと今までとは違う笑みが零れて来た。

自虐的な笑みでも狂気に満ちた笑みでもない…“嬉しい”と言う感情から現れる笑みだ。

 

「フ…フッフッフッフ……こんな気持ちになったのは…本当に久しぶりだ……」

 

克也は込み上がる歓喜の感情を出来る限り抑えつつ、白スーツの男の手から掻っ攫う様にエターナルメモリを受け取り、今度はロストドライバーを腰に装着した。

 

「駆…ここからが俺達の、正真正銘最後の勝負だ。俺はお前を殺すつもりで掛かるから、お前も俺を殺すつもりで来い」

 

[エターナル!]

 

エターナルメモリのスイッチを押してガイアウィスパーを鳴らす。それによってガイアメモリを起動させ、更にロストドライバーのスロットへ挿し込む。

 

そして、これでもう二度と言う事もなくなるであろう最後の合い言葉を、残りの命をすべて捧げる勢いで高らかに叫んだ。

 

「変身!!」

 

[エターナル!]

 

克也の叫びにガイアメモリが呼応して、ドライバーのスロットが自動的に斜めに傾き、克也の姿をまた別の姿へと変える。

 

白い体躯に靡く黒いローブ。

両腕の蒼い炎の刺青に三本の角飾り。

 

それは十年前に忽然と姿を完全に消した風都を守っていたもう一人の仮面ライダー……。

 

風都の人間はその白い怪人をこう呼ぶ……。仮面ライダーエターナルと。

 

「ふぅ…少しは楽になった……。これならお前とも決着を着けられそうだ」

「ああ。だがこちとらもうとっくに身体にガタが来てるからな。一瞬で決めるぞ」

「分かってるさ」

 

変身する事で一時的に肉体を強化してなんとか消滅を防いだ事で身体への負担が消えるが、それも長くは持つまい。ジョーカーの言うとおり一瞬で決める必要があるだろう。

 

[エターナル!マキシマムドライブ!]

[ジョーカー!マキシマムドライブ!]

 

どちらからともなく互いのガイアメモリを、それぞれのベルト、またはコンバットナイフに備え付けられたマキシマムスロットへ挿入し、その付近に設けられたスイッチを押してマキシマムドライブを発動させる。

 

「駆…これで本当に最後だ……」

「行くぜ克也…いや、相棒……」

 

エターナルがナイフを構え、その先端に巨大な蒼い光球を生成しながら最後の一撃を放つ宣言をすると、ジョーカーは昔の時の様に、もう一度自分の事を相棒と呼んだ。

まったく、何処までも優しい男だな、お前は……。

 

「さぁ来い駆うぅぅぅぅ!!」

 

己の全てを懸けた叫びと共に、触れた物質を粉砕するエターナルの必殺技・「ネバーエンディングヘル」を、ナイフを振るって投げ飛ばした。

 

「ライダー…キック……」

 

対するジョーカーは何の小細工もないただただ純粋な、ジョーカーメモリのエネルギーを纏っただけの右足による飛び蹴りを、全てを粉砕せんとする光球とエターナル目掛けて真正面から迎え撃った。

 

「ぬぅぅ…はあぁぁぁぁ!!」

「な…うぐあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ジョーカーのキックと光球がぶつかり合った瞬間、ジョーカーは身体を捻ってキックに回転を加えると、光球を貫いてそのままエターナルへと直撃した。

そして最後に、ジョーカーの…最高の相棒からの手向けの言葉が耳に入った。

 

「これで決まりだ。小野塚克也、永遠に眠れ……」

 

ジョーカーによるマキシマムドライブによって身体中がスパークしながらも、エターナルはその言葉に小さく答えた。

 

「あぁ…そうさせてもらう……」

 

そして次の瞬間、仮面ライダーエターナル…小野塚克也は爆発を起こして本当の死を迎えた。

 

 

 

 

 

爆炎が晴れるとそこには変身を解いた駆のみが立っていた。

エターナルに変身していた克也の姿はどこにもなく、代わりにエターナルメモリとロストドライバーが落ちているだけだ。

 

「………」

 

駆は黙ってメモリとドライバーを拾い上げると、麗奈と歩の傍まで歩み寄った。

 

今の駆の表情は帽子の所為でどうなっているのかよく分からないが、その雰囲気からはどことなく哀愁を感じさせていた。

 

「ワリィな、世話掛けちまって」

「別に気にしなくても構いません」

「そうですよ。これは私達の問題でもありましたから」

 

駆の謝罪の入った礼に対して、歩と麗奈は謙遜しながら答えると、彼は今思い出したのか、もう一人の別の世界の仮面ライダーの事を思い出した。

 

「そういや、もう一人いなかったか?緑色の剣持った奴……」

「あ、そうでした!歩さん、ヴァンさんはどうしたんです!?」

「彼なら下の方で僕達を待ってます。かなり重症を負ってましたから、早く病院にでも連れて行かないと……」

「そいつぁヤバいな。俺が送ってやるよ。せめてもの礼だ」

 

何故だろうか…何時も通りのお気楽な言葉使いであるにも関わらず、目元が見えない為かどこか無理をしている感じがした。

 

「駆……」

「楓、帰るぞ」

 

楓が言い切る前に、駆は帽子を被り直しながらその先を言わせないように口を挟みながら自分が着けていた方のロストドライバーを押し付ける様に手渡し、その場を後にしようと入口へと歩き始めた。

 

「待って!」

 

今度は大きな声で相棒を呼び止める。

楓には一つ言っておきたい事があったのだ。彼の相棒として、言っておきたい事が……。

 

「駆、今は…今だけは、泣いても良いんじゃない?」

 

その言葉を聞いた途端、駆は進めていた足をピタリと止めた。

それを皮切りにするかの様に楓は更に続ける。

 

「私、アイツの事何にも知らないけど、少なくともアンタの相棒だったんでしょ?だったらいなくなって悲しいんじゃないの?辛いんじゃないの…?」

 

駆とは長い付き合いだから良く分かる。

彼はどんな事があっても決して仕事に私情を挟まない。それが彼の信条でもあり、ハードボイルドでもある由縁だ。例え親しい人が死んだとしても泣かないし弱さを誰にも見せない。

それは元相棒の克也だろうが自分だろうが決して揺らぐ事はない。

しかしそれが自分にとって一番辛いのだ。

 

彼は自分にとって最高のパートナーであり、同時に最愛の人でもある。

そんな彼が例え相棒でもある自分にさえも弱さを見せてくれない、委ねてくれない事が、頼りにされていない様で何だか寂しい。

 

「………」

 

駆はこちらに振り向く事もなく、ただただ黙って立ち止まっているだけだ。

楓はそんな彼に歩み寄ると、後ろから優しく抱き締めた。

 

「お願い、お願いだから…私にだけは、本当の気持ちを見せて?私の、最高で最愛なパートナーさん?」

「……ッ!!う…く……ッ!!」

 

抱き締めた体が震え、楓の頭上から嗚咽の声が漏れ始めた。

やがて嗚咽の声は徐々に大きくなりながら膝を突いて倒れた。

駆の頭の位置が低くなった事で見えたその表情は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっており、精悍な顔が台無しになっていた。

 

「ほらほら、折角のカッコいい顔が台無しよ?」

「ウル…ゼェよ…ひっ……。お前が、泣けって…言ったんだろうが……うっ…うああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その顔に思わず苦笑しながら宥めるように言う楓に、駆は嗚咽混じりに楓の腕に手をやりながら言い返す。

しかし涙腺が限界を迎えてしまったのか、堰(せき)を切ったかのように泣き叫んだ。

そして彼の心を現すかのように、日が完全に沈んで辺りを暗闇に染めた。

 

こうして、この街の仮面ライダーと、別の世界からやって来た仮面ライダーによってこの事件は幕を閉じた。

そしてこの事件は後に「風都タワー倒壊事件」として世間に知れ渡る事になるが、事件の真相を知る者はこの事件に関わったほんの一握りの人物だけとなり、謎のまま闇へと葬られた。

説明
第45話:Aの悩み/これで決まりだ!
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仮面ライダー 独自解釈あり 挿絵募集中 ディージェント ディケイド 

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