けいおん!大切なモノを見つける方法 第8話 梓との距離を縮める方法 |
第8話 梓との距離を縮める方法
世間はゴールデンウィークだなんだと騒いでいるが、実際いかがなモノだろうか?
普段の土日のようにハッキリと短いワケでもなく、夏休みのようにガッツリと長いワケでもなく。中途半端な印象が否めないのは俺だけじゃないハズだ。誰だって学生、社会人、主婦共々同じコト思うハズさ。つまりさぁ。
ゴールデンウィーク短すぎだろ!もっと遊びてぇよっ!……である。
気が付くと、ゴールデンウィーク最終日になっていた。
憂たちと隣町まで行ってB級映画を観てきたり。
ポッチャリくんの家で他の男友達たちとオールナイトでウイイレ大会をしたり。
唯先輩の家で軽音部のみんなと鍋をしたり。
朝から晩までバイトしたり。
二輪の教習所に行ったり。
光陰矢の如しと言うが、あまりにも早すぎる。ゴールデンウィークが始まったのがつい昨日のように感じるのだ。
さて、泣いても笑ってもゴールデンウィークはあと1日。
どう過ごしてやろうかなぁ、と朝を迎えたのだが。
姉の部屋で、珍しいモノを発見した。
MxPxのThe Broken Bonesを流しながら時間を潰していると、待ち合わせの時間の5分前に、中野さんがやって来た。
「ごめーんっ冬助くん!待たせちゃった?」
「やーやー、俺もさっき来たトコだから。それよっかムリに付き合わして悪ぃね、中野さん」
イヤホンを外し、iPodをポケットに突っ込みながら応える。
「そ、そんなコトないよっ。私今日ヒマだったしっ」
駅前の広場でこんなやりとりをしている俺と中野さん、まるでこれからデートにでも赴くような風で個人的に非常に嬉しいのだが、残念ながらそんなハッピーな出来事ではない。
「そーいや、中野さんの私服初めて見るなぁ。すげー新鮮、似合ってんね」
こういうとき、『可愛いよ』とか『素敵だね』とかサラっと言えたらいいのだが、ガキ特有の青臭さが邪魔して言うコトができなかった。我ながらガキだよなぁ。
中野さんは、セーラーシャツに春らしいライトグリーンのカーディガンを小慣れた感じで着こなしていた。クロップドパンツからのびる脚先はハーフブーツでシックにまとめられている。小さな体にちょっとギャップがあるくらいの大きなトートバックが彼女の可愛さに拍車をかけていた。
……ハッキリ言って、超可愛かった。
「ありがとうっ。冬助くんも……か、かっこぃぃよ……っ」
中野さんがモゴモゴとナニか言った気がしたが、よく聞こえなかった。
ちなみに、野郎の格好なんてどぉでもいぃわ!という意見が多数だと思うが。俺はマリンカラーのボーダーにブルゾンを羽織っている。履き慣れたカーゴパンツにお気に入りのブーツスニーカーをつっかけ、背中にはケースに包まれた―――アコースティックギターを背負っていた。
「ソレが電話で言ってた冬助くんのお姉さんのアコギ?」
「おぉよ。姉ちゃんの部屋でさ……あー、ウチの姉ちゃんさ、一人暮らししてて、引っ越してからまだ1度もこの町の新しい家に帰ってきてないんだ。だから荷解きできてないダンボール山ほどあってさ、そんでソレ片づけとけとか言いやがるんだぜ?あのアホ姉は。そんでしぶしぶ荷解きしてたらこのアコギ発見したってワケよ」
「大学生なんだよね、冬助くんのお姉さん。でも、勝手に持ち出しちゃってよかったの?」
「ヘーキだよ。さっき電話して訊いてみたら持ってたコト自体忘れてやがったワ。そんで『ンなモンくれてやる』だってさ。アイツはコロコロ趣味変わるからなぁ」
よく言うと多趣味だし、悪く言うと熱しやすく冷めやすい。まあ、あの人はそんなコト一切気にしないんだろうけど。
「……ったく、ゴールデンウィークぐらい帰って来いっつうの」
「ふふっ、仲良いんだね、お姉さんと。なんかそんなカンジする」
「ドコが?あの人がちょっと普通と違うだけだよ」
俺たちは目的地に向かって歩き出す。
「で、せっかくだからこのアコギ使ってやろうと。そんで、状態どうなんだろうとか、弦ナニ使ったらいいんだろうとかわかんないコトいっぱいだったんで、俺のギターの師匠にご登場願ったって流れよ」
「なるほどなるほど。ところで純も言ってたけど、冬助くんって方向オンチなんだったよね?つまり『10GIA』までひとりで辿り着けるか不安だったと。なるほどなるほど」
「……ナ、ナニ言ってんすかナカノサン?」
「方向オンチだったと」
「ばっ、馬鹿言うなっ!方向オンチとかじゃなくて、コレはだな……。なんつーか、土地勘が人より芳しくないというか、地図が嫌いというか、なんというかだな」
「大丈夫だよ?ちゃんと私が連れてってあげるからね」
「だから、その子供あやすみたいな言い方ヤメテ!?」
「へへっ、やった。ピックおまけしてもらっちったよ」
10GIAと呼ばれる近場の楽器店にて、用事はあっけなく終わった。前回の山中センセイのSGと同様にアコギをメンテに出し、中野さんオススメのアコギの弦を数セット購入し、ついでに弦を張り替えてもらった。
「冬助くんって、スグに誰とでも仲良くなるよね」
「や、あの店員さんはソレが仕事じゃんよ。俺がどうこうじゃなくてさ」
「そーかなぁ?」
なんて、話しながら店を出る。
「あ、そーいや、中野さん昼メシもう食った?まだなら奢るよ、付き合ってくれたお礼に」
「え?そんな、いいよ。悪いし」
「遠慮すんない。貴重な休日潰させてまで付き合わしてんだからさ」
なんだか、食欲を刺激する良い匂いが漂ってくる。商店街の屋台のタコス屋だった。中野さんとばっちり目が合い、即決。本場メキシコ仕込みと大それた売り文句の本格的なタコスを2人分購入し、その足で自販機へと向かう。
そして、俺たちは近くにある河川敷に陣取って腰を下ろすコトにした。このでっかい河なんていう名前なんだろう?
「今日は暖かいなぁ」
上着必要なかったな、と俺はブルゾンを脱ぐ。そーだねぇ、と中野さんもカーディガンを脱いで綺麗に畳み、トートバックに仕舞う。
河川敷にはちらほらと人の影が見える。川の向こうには釣りをしているオッサンがいるし、一家団欒の散歩をしている家族やキャッチボールをしている子供たちもいる。
中野さんにタコスと飲み物を渡し、俺たちは食べながらしばらくイロイロな話で盛り上がった。
お互いゴールデンウィークをどうやって過ごしたかとか。宿題をちゃんと終わらせたかとか。ゴールデンウィーク中に部活が1度しかなかったのは少ないよなとか。でも、その日の晩にみんなで食べた鍋すげー美味かったなとか。好きな音楽の話や最近のテレビの品評とか。しょーもない冗談を言い合って、互いに笑いあう。
恐らく中野さんと2人でこんな風にじっくりと世間話をするのはコレが初めてで、だからこそ俺たちは食事が終わっても河川敷から動こうとせず、本当にイロイロなコトを話し合った。
「はー、なんか気持ちいいな。私、寝ちゃいそう」
そう言って、中野さんはごろんと河川敷に寝転がった。
俺も真似するように、ごろんと寝転がる。
話がひと段落し、少しの間静寂が訪れた。
太陽光を乱反射してキラキラと光る河面やゆっくりと流れる雲を見ながら、俺はのんびりとこう思った。
「あ。今すっげー時間がゆっくり流れてるなぁ。時速何キロぐらいだろ?」
「えー?時間なのに時速ってヘンだよ」
俺が何気なく言った言葉に対しておかしそうに笑う中野さん。
「まぁヘンだけどさ。でも、時間ってその場その場で進む速さが違う気するんだよな。遊んでて楽しい時だとスゴイ速くて、時速300キロって感じ。逆につまんねぇ授業受けてる時なんてのは遅くなる、時速1メートルかな」
「あはは、なんかソレわかる。」
「で、今の時間の速さは。ヒトの歩く早さが時速約5キロだから……時速3キロぐらいかなぁ、今の時間は」
「なんか面白いね、確かにゆっくりだ」
「うん、落ち着く」
再び互いの声が途切れる。
「……なんか、俺。こーいうの、初めてかも」
「え?」
「俺さ、今までの人生すげー充実しててさ。でもどこか、体力っていうか精神っていうか、そんなんを削ってきた感じで余裕があんまりなかったんだよな。当然後悔なんかしてないし、むしろそんな風に戻りたいって思うけどさ」
河の傍で遊んでいる野球少年たちの楽しそうな声が聞こえてくる。
「でも、だから。こんなふーに、時間の速さが肌で感じ取れるくらい、贅沢に時間を使うの初めてなんだ」
ソレが良いコトなのか悪いコトなのかよくわからないけど。
悪くない気分だと、そう思った。
「私も。……高校入ってこんなにゆっくりしたの、初めてかも」
悪くないね、と彼女は呟き、うん、と俺も呟く。
「まぁ、今でも十分すぎるぐらい充実してるけどな!」
「そうだね。冬助くんはとりあえずもっとギター練習して、もっと上手くなってもらわないと」
「はい、そりゃもう中野センセイの弟子なんだから期待しててくださいよ」
俺の軽口に彼女はクスクス笑う。なんか猫みたいだなぁ。
あ、そーだ。俺はあるコトを思いつき、傍らに置いてあるアコギをケースから取り出す。
「中野センセイ、なんか1曲弾いてみせてや」
「え?や、ヤダよこんなトコでっ!恥ずかしいってばっ」
「いーじゃん、いーじゃん。弟子に見本みせてくれよ」
俺は手早く自分の耳を頼りに大雑把にチューニングを済ませ、強引にアコギとピックを中野さんに押し付ける。
中野さんは、仕方ないなぁ、と呟き、しぶしぶとアコギを構える。
「もうっ……。じゃあ、ちょっとだけだよ?」
じゃらん、とエレキギターとは全く違う生の音がギターから漏れてくる。
その曲は先輩たちが作った曲だった。慣れないギターだというのに、そんなコトを微塵も感じさせない流麗な演奏だった。
演奏が終わる。ヒュウ、と口笛を吹きながら、俺は感嘆の拍手を送った。
「やっぱ、中野さんすげーなー!それにアコギだとこんなにも音が違うモンなんだな。面白いや」
「なんってったって生ギターだもん。本来のギターの音っていうのはこんな感じなんだよ」
確かにエフェクターとかで歪ませてるモンなぁ、エレキって。
「はい、冬助くん。見本みせたよ?次は弟子の番でしょ?」
と、少し意地悪そうに笑って、アコギをこちらに渡してくる。
「おぉ、やっぱそう来るか……」
余計なコト言わなきゃよかったか?
つっても、ふわふわ時間の俺のパートまだ出来てないじゃんすか。
「よーし、ならコレでいきまっす」
俺は結構簡単でちょっとだけ練習してみたあの曲をやってみるコトにした。
原曲のテンポよりトロいスローテンポだが、ゆっくりと単調なストロークを繰り返す。
そして軽く息を吸って、アコギから流れるメロディと一緒に歌い始める。
体から妙な分泌液が出てきてるみたいに、不思議と気持ちがいい。
ジャカジャン、と最後だけカッコつけて弦をかき鳴らして演奏を終わらせる。
「おぶらでぃおぶらだ……。ビートルズで、Hey jude の次に好きなんだよ、この曲」
思ったより大きな声で歌ったので周りの人たちがこっちを見ている。……恥ずかしい、調子に乗って歌うんじゃなかった。
中野さんを見ると、何故だか彼女はハトが豆鉄砲喰らったかのような呆けているのか驚いているのかよくわからない表情をしていた。
「で、どースか?中野センセイ?」
「ぎ……」
「ぎ?」
「ギターは下手くそ、でも……」
「……そっすか」
思わず、ショボーンとなる俺。
「い、いや、そんなコトよりもっ!」
「そんなコトとか言うなよっ、コレでも家でコツコツとギター練習してたんだぜ?」
「や、だからそうじゃなくてっ。……歌だよ歌っ」
「歌?」
「うん、すごいよ。なんか……言葉にできないけど、スゴイ!」
「そっちよりギター褒めてもらいたかったなぁ」
「歌すごいのにな……。まぁギターは練習するしかないよ」
「はーい、がんばります……」
そう言って、俺は拗ねるように再びごろんと寝転がる。
中野さんも続いて寝転がる。
なんかもうココから動ける気しねぇな。
「あーあーあー、もうナニもする気が起きん」
「ダメでしょ、冬助くん。まだ宿題全部終わってないじゃん」
「そーだけどさ、中野さんだって完璧じゃないだろ?数学の応用問題んトコ謎っつってたじゃんよ」
「うん、困った。どうしよう?」
「こりゃ、憂に教えてもらうしかねーなー」
「……ねえ、冬助くん」
若干トーンが低い声が聞こえる。体を起こすと、中野さんが神妙な面持ちでこちらを見ていた。
「あのさ、冬助くんって憂と……」
「ん?ナニ?」
「…………」
「なんて?」
「だから………っ」
顔真っ赤で、挙動不審な中野さん。自分の手と俺へ視線が泳ぎまくっている。
なんだ?澪先輩のモノマネだろうか?
「憂がどしたん?」
「憂とさ、付き、あって、る……の?」
……へ?
「付き合ってるんじゃない、の?」
ひょっとして、周りから見たら俺と憂ってそんな感じなのだろうか?いや、ソレってけっこう嬉しくね?……って違う違う!
「や、憂とはそんなんじゃないよ。ただの友達って言うのはなんか悔しいけど……、まぁ仲良い友達だよトモダチ」
「そ、そっか……。そうなんだ……」
そっかそっか、と安心したように繰り返す中野さん。
「あ!まさか、あの事故のコトで俺が憂にナニか脅迫してんじゃねえかって、憂を心配してんのかっ!?ひでぇなっ、俺そんなん絶対しねぇよ!」
「ち、違う違うっ!そうじゃなくて、……や、もういいデス、今言ったコト忘れて……っ!」
うーん……。時々だけど、中野さんマジでナニ考えてんのかわからんときあるよなぁ。
「憂はさ、かなりモテるし、俺なんてアウトオブ眼中だな。けど、友達としてなら仲良くしてくれる。事故のコト抜きにしたってね、俺なんかにも構ってくれるワケよ。人と仲良くなりやすいっつうか」
「そこらへんさすがは唯先輩の妹って感じだよね」
「そう!俺もそう思う。……でもさ、人と仲良くなれるなれないとかじゃなくてさ、常に人と仲良くなりたいって思っときたいよ、当然のコトだけどさ」
「……うん」
「俺もそーだし、そっちだってそーだろ?」
俺の言葉に彼女が深く肯いた。
「冬助くんは―――」
「じゃあまず第一歩だな。コレ言うの何回目かわかんねぇけど。……『フユ』でいいよ」
「あ……」
「言っとくけど、呼ぶまでずっと言い続けるかんな」
「……けっこー、ガンコだよね。『フユ』ってさ」
そう言って、彼女は笑った。
「まぁね、数少ない俺のセールスポイントさ」
なんてコトない、ほんの小さな些細なコトだけど。
やっぱり、俺は嬉しかった。
そんな俺の嬉しさが彼女にバレないように、そっぽ向きながら立ち上がる。ギターと上着と杖を引っ掴み、思いつく。
「よっし、今から憂ん家遊びに行こーぜ?」
「えぇ!?今から?」
「そう今から!少なくともダラけきった姉ちゃんがいるだろ?」
そして、俺はついつい子供のように笑ってしまう。
「行こうぜ、梓」
「……うんっ、フユ!」
梓もすげーイイ笑顔で笑ってくれたんだ。
互いが互いに近づこうって思えたなら。
ソレはとっても素晴らしいコトなワケで。
こうやって、少しずつ距離を縮められたらいいな、と俺は思った。
「あ、もしもし憂?今からヒマ?今さ、梓と2人でいてさあ―――」
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勢いとノリだけで書いた、けいおん!の二次小説です。 Arcadia、pixivにも投稿させてもらってます。 よかったらお付き合いください。 首を長くしてご感想等お待ちしております。 |
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