けいおん!大切なモノを見つける方法 第9話 さわ子センセイの悪巧みに乗る方法
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 第9話 さわ子センセイの悪巧みに乗る方法

 

 

 

 

 

 仲間の声援、監督の怒号、ボールのドリブル音、バッシュのスキール音。

 

 マッチアップのマークを外してフリーになった瞬間、パスが回ってくる。ボールミート後、フェイクをひとつ入れてディフェンスを振り切って、スリー。年に数回しかない本当に調子がいいときの打った瞬間に入るとわかるシュート。パツンと小気味いいノータッチでのネットの音が聞こえる。湧き上がる歓声。

 相手の不用意なパスをカットして再び攻守交代。目線でパスフェイク入れて、クロスオーバーでマッチアップのディフェンスを抜き去る。しかし相手チームのリカバリーが早い、捕まりそうになったときチームメイトがいいタイミングでスクリーンをかけてくれる。ピックロールで中に入ってきたチームメイトにパスを出す、どフリーでレイアップ。チームメイトとハイタッチしながらディフェンスに戻る。あと何点差だ?

 ウチのセンターががっちりとディフェンスリバウンドを獲る。ソレを横目に全力で走る。仲間のガードからドンピシャのパスが通り、速攻!と誰かが叫ぶ。絶好のカウンターチャンスでドリブルをする俺の前には誰もいない。

 

 最高だ、やっぱりバスケは最高だ。

 最高に気分が良かった。

 

 ところが、いつまでたってもゴールに辿り着かない。なんでだ、こんなにコート広かったっけ?

 それでもドリブルを続けていくと、ナニかに蹴っ躓いて派手に転んでしまう。

 ソレは何故か、俺がいつも使っているSGだった。

 いつも?……そうだった、俺は軽音部員だった。なんでだっけ?

 兎にも角にもなんでこんなトコにギターがあるんだよ、と疑問に思って辺りを見回すと、ココはバスケのコートではないコトに気付いた。

 俺は道路の真ん中でギターを抱えて突っ立っていた。

 いきなり憂の声が聞こえて、そちらを振り向く。しかし、ソコには憂はいなかった。

 代わりに自動車がコチラに向かって走ってくる。

 クルマが。

 猛スピードで。

 迫って。

 

 

 

 

 

 ベッドから落っこちて、目が覚める。

 

「あーあーあー。ホンット、素敵な夢だったなぁ……っ」

 

 汗だくのシャツを脱ぎ捨てて、俺は泣きそうになりながら、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カッチカッチとメトロノームの刻む音に合わせてギターをかき鳴らす。TAB譜をチラチラ覗きながらなんとかコードを押さえてストロークを繰り返す。

 時刻は午前7時過ぎ、場所は軽音部室。

 ゴールデンウィーク明け以来、俺は1、2時間早く登校して、朝練を行うコトが日課となっていた。

 元々中学校時代は毎朝5時起きで、バリバリ朝練をしていたので大した苦でもない。むしろ5時起きが体に染み込んでしまっているので、下手に早く起きて2度寝で遅刻しそうになるコトもしばしばなので、都合がよかった。

 ナニより、もっともっとギターが上手くなりたかったのだ。

 つーワケで練習練習。マメだらけの左手でコードを押さえて、右手でひたすらピッキング。

 今日もこんな感じで練習をしていると、いつもは来ないハズの来訪者が現れた。

 アンプから流れる音の中、誰かがドアを開けた気配がした。

 

「おはよう、フユくん。朝から精が出るわねー、ひょっとして毎朝やってる?」

 

 我らが軽音部の顧問、さわ子センセイだった。

 

「おはようございまっす。まぁ、ちょっと前からスね。ところでセンセイどーしたんですか?」

 

「譜面台借りに来ただけよ。それにしてもちょっと音大きいんじゃない?廊下の時点でギターの音聞こえてきたんですけど」

 

「あはは、スンマセン。自分の部屋と違って、爆音出せるのが嬉しくて、つい……」

 

 SGを立てかけ、俺は張った肩をほぐしながら長椅子から立ち上がる。

 

「俺今から休憩入れますけど、センセイちょっとお茶飲んでいきません?」

 

「んー……、そうね、じゃあ1杯だけいただくわ」

 

 俺に気を遣ってくれたのかそれとも本当に飲みたかったのかわからないが、センセイはテーブルの席に着く。

 

「吹奏楽部の顧問もセンセイがやってるんでしょ?大変だなぁ」

 

 お茶の準備をしながらセンセイに話しかける。ムギ先輩ほどじゃないが、俺だって多少はマトモなモン淹れられるようになったんだぜ。

 

「いやいや合唱部のコたちは良い意味でクセがないからやりやすくて助かってるわ、軽音部と違ってね?」

 

「オーイ、目の前に軽音部員いンぞー」

 

 可笑しそうに笑うさわ子センセイ、なんつう人だ。

 オレンジペコの入った高級ティーカップを先生に渡す。

 

「ありがと。……それにしてもフユくん、随分ギターに慣れてきたみたいね。前聴いたときよりかなり良くなってる」

 

「ホントですかっ?そりゃー嬉しいなぁ。きっと使ってるギターが優秀なんですね」

 

「澪ちゃんが言ってたわよ?フユはすごい頑張ってるって、努力家だってさ」

 

「澪先輩と梓は練習んとき俺に厳し過ぎですよ。もっと後輩を労わるように言っといてください」

 

「そんなコト自分で言いなさい」

 

「ヤですよ、また殴られる」

 

「ホンット、仲良いのねー」

 

 クスリと笑いながらお茶を飲むセンセイ。……やっぱ男子生徒から人気あるだけあって、えらく様になっていた。外見だけな。

 

「ところでなんでアナタひとりなの?他のコたちは?」

 

「あー、言ってないッス」

 

「言ってないって……」

 

「別にイイでしょう?ムリに付き合わすのもなんか悪いし」

 

「あのコたちなら喜んで練習に付き合ってくれると思うけど」

 

「そうですか?律先輩なんてメンドクセーとか言いそうだし、唯先輩なんて物理的に来れないでしょう、遅刻魔だもん」

 

「でも、なんだかんだで協力してくれるハズよ」

 

「そっすね、みんな優しいから。でも、そもそも俺はそんなみんなの足引っ張りたくないからこんなに練習してるワケで」

 

「なーんか……。焦ってるとまでは言わないけど、肩に力入りスギね」

 

「…………」

 

 そう言って、さわ子センセイはティーカップに口を付ける。その表情はドコか呆れた感じの色が見え隠れしていた。

 

「アナタの手のマメ見ればよーくわかるわ。尋常じゃなく練習してるでしょう?この朝の時間にしたってそうだし、家でも相当ギター触ってるんじゃない?」

 

 確かに生活のスタイルが激変するほど俺はギターをいじってる気がする。

 

「まるでソレが悪いコトみたく言いますね、センセイは」

 

「もちろん悪いコトじゃないわ、それだけ努力してるってコトだもの。でもね、……やっぱり肩に力入ってるっていうか、どこかムリしてるように私の眼には映るのね」

 

「センセイのメガネに問題があるんじゃないかなぁと。あ、こないだ俺もメガネ新調したんスけどね―――」

 

「茶化さないの。こういうコト言われて不本意だって感じるでしょうけど」

 

 別に不愉快になっているワケじゃない。でも、そんな風に言われるとどうしたらいいかわからなくなる。

 

「……単純に初心者って肩書に胡坐かきたくないだけですよ。初心者と経験者との間に絶望的なほど距離があるコトぐらい俺だってわかります」

 

「初心者と経験者、ねえ」

 

「音楽に学校のテストみたいにはっきりとした優劣はないんでしょうけど、例えば。この高校3年間で俺がギター歴4,5年の梓よりギターが上手くなる、なんてのはあり得ないでしょう。頑張ればなんとかなるとか可能性の問題じゃなくて、ムリだって断言できます。言ってるコトわかりますよね?」

 

 ギター歴1ヶ月なんて比べるまでもない。

 

「ま、おおよそ教師の言うコトじゃないけど、ムリでしょうね」

 

 何事もそうだが、経験というファクターは非常に重要だ。

 バスケでも同じコトで、小学生からやっている連中と中学から入る連中とでは、天地の差がある。もちろんソレは努力と才能でひっくり返すコトはできるが、そんなのはごく一部の連中だけだ。

 無限の可能性だとか、あきらめない限りだとか、綺麗事だけじゃ絶対に通用しない領域がある。

 

「でも、あの人にはかなわないとか、始めた時期が遅いとか、そんなんであきらめて努力しなくていい言い訳にはならないでしょう?だからこそ多少ムリにでも努力してるんですよ」

 

「……ちょっと気になったんだけど、フユくんってナニか今までにクラブとかやってたの?物凄く経験者っぽい言い方なんだけど」

 

 いきなりの質問に、俺は腹の中の覗きこまれたのような感覚に陥る。

 別にナニも、となるべく感情を殺して答えた。

 

「ふーん、まぁいいわ。とにかく今のままじゃ長続きしないわよ、言ってるコトわかる?」

 

「……努力家気取って調子コイて愚直にオーバーワークしてっと、そのウチ飽きるぜってコト?」

 

「ざっくりまとめるわねぇ……。ま、当たらずとも遠からず、ね」

 

 なんだろう?一体センセイはナニが言いたいんだ?

 このままじゃダメってこと?ナニが?

 

「ごめんごめん、ちょっと言い過ぎちゃったわね、そんな顔しないの。別にアナタを不安がらせようってワケじゃないから」

 

 俺はそんなに情けない顔をしていたのだろうか。

 誤魔化すように紅茶を飲む。温い。

 

「でも、俺はどうしたらいいかわかんないよ……」

 

「フユくん、アナタって本当に運がいいわよ、ツイてるわ」

 

 さわ子センセイはニンマリと楽しそうに笑う。悪役臭いそんな笑い方が、妙にマッチしていた。

 

「唯ちゃんをよーく見てなさい。彼女がきっと教えてくれる」

 

 お茶ごちそうさま、とそれ以上ナニも言わず、さわ子センセイは意味ありげな含み笑いをしながら、譜面台を持って部室から去って行った。

 ナニ企んでるんだ、あの人は。

 

「唯先輩、ね……」

 

 あのふわふわした人が教えてくれる?一体ナニをだろう。

 ……ギターテクの秘訣とか、ストレスフリーな生き方とか、マシュマロ豆乳鍋の作り方とか。少なくとも糖尿病になりそうな鍋の作り方ではないコトだけは確かだ。

 

「どっちにしたって、努力することが悪いワケねぇんだ。練習練習っと!」

 

 不安を払拭するようにわざわざ声に出して、再びギターを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 しかし、俺はさわ子センセイが言ったコトが妙に気になってしまう。

 不安と焦りがじんわりと胸の中を染めていく。

 常々思っているコトだが、さわ子センセイの影響で妙に意識してしまう。

 

 俺には、ナニが足りないんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
勢いとノリだけで書いた、けいおん!の二次小説です。
Arcadia、pixivにも投稿させてもらってます。

よかったらお付き合いください。
首を長くしてご感想等お待ちしております。
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