IS-W<インフィニット・ストラトス>  死を告げる天使は何を望む 
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いよいよクラス代表決定戦が始まろうとしていた。今回の内容は3日間で行い初日にヒイロ対セシリア、2日目に一夏対セシリア、最終日にヒイロ対一夏の予定だった。

だが、やはりそううまくは行かない事態となってしまったのだった…

 

ヒイロは別室に呼ばれていた。間もなく試合だと言うのに、目の前には真耶と千冬がいて深刻な表情でヒイロを見ていた。

 

「…トラックがIS5機に襲われているだと?」

 

ヒイロはそう千冬に聞き返した。

 

「ああ…一夏が使うIS『白式』を乗せた倉持技研のトラックが現在こっちに向かっているのだがそのトラックに所属不明のIS5機の攻撃を受けていると連絡があった。日本政府に自衛隊IS部隊の出動要請をしたが…このままでは間に合わない」

 

このままだと先にトラックがやられ、『白式』は強奪される。

本来なら政府が間に合わないのならIS学園の教師たちが行けばいいのだが…

 

「私たち教師部隊は行動に制限がかかっていてIS学園以外で展開するのは日本政府の許可がいるんです」

「だが、生徒の一部は国家や所属命令で緊急時のみ使用することが可能だ。お前はガンダムの整備のためIS学園と倉持技研の合同プロジェクト『Gプロジェクト』のテストパイロットとして倉持技研の所属になっている。だからお前は出撃できる。ヒイロ…頼めるか?」

 

『Gプロジェクト』

それはヒイロがもたらした技術。『ガンダニュウム合金』と『ゼロ・フレーム構造』を用いてガンダムタイプのISを作るといったものだ。ヒイロとしても自身の機体の整備のためそれを認めた。だが情報はかなり徹底している。まずウイングゼロの情報はハッキング対策のためすべて紙で書かれており、また言葉も読めないように暗号になっているほどだ。

本来なら『エネルギー・ジェネレーター』も研究、搭載しようとしたのだがそれは学園上層部がヒイロに文面化するのを止めるように言われた。

アレは行き過ぎた力だと判断したからだろう。

ヒイロは千冬の話を聞いて自分のやるべきことを把握した。

 

「…任務了解。ただちに出撃準備に移る」

 

そう言ってヒイロは部屋を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

一方、IS学園に向かう道の途中では、一台のトラックが5機のISに追われていた。日本政府の計らいでIS学園までの道は封鎖してもらっていたので車一台もない。しかし、それが仇となってこんな目立つような襲撃をされたことでもある。逆に一般人に被害が出ないっていうのも今回のおかげなのだろうが…

 

「くっ…このままでは追いつかれる!」

 

ドライバー兼倉持技研の推進システムの権威、槇村 俊之はそう言う。槇村は『白式』のある人に譲渡する前、『白式』のブースターの開発をしていた。また今回の『Gプロジェクト』の主任でもある。その恰好はだらしなく、また今ではあまり見かけないレンズが大きめのふちありメガネをつけている。(イメージは○ティー・ハンターの槇村)

槇村はトラックをうまく操作してISからの攻撃を避けていた。トラックの装甲も『ガンダニュウム』ほどではないがかなりの強度のものを使ってはいるが、そろそろ敵が接近しようとしている。敵のISは前回ヒイロが戦った奴らと同じだった。だが違うのは隊長がいないことである。

 

「私が出るよ!!トラックのハッチ開けて」

 

運転席のモニターに映る顔は菖蒲色のショートシャギーでアホ毛が一本、ピョンピョン動いており、目は大きめで若干釣り上がり、その瞳は黄土色に近い茶色で槇村を見ていた。

 

「な…何を言ってる。お前の機体はまだ顔と胸のところしか『ガンダニュウム』を使っていないんだぞ。絶対防御の強度も弱いって言うのに……お前が怪我とかしたら、俺はあの人に合わせる顔がないんだ」

「俊之おじさんは心配性だね〜大丈夫だよ。すぐ逃げるから。このままだとトラックがやられて、『白式』は奪われちゃうよ」

 

飄々と答える彼女に槇村は心配そうな顔をする。

だが、彼女の言う通りでもある。このままだと『白式』は奴らに奪われるだろう。それだけは避けなければならない。

槇村は苦しそうな顔をし、光の反射で眼鏡の奥の目が見えなかったが、

 

「…頼む…((皐月|さつき))…」

 

と言ったのだった。

 

「まかされた〜!!」

 

と言って皐月は通信を切った。

早い段階で両親を失っていた皐月にとって父の部下にして年齢は離れていたけど親友だった槇村は父親代わりだったので、槇村を守りたかった。たとえ槇村の命は助かっても『白式』を奪われると槇村の立場が危うくなる。だから…

 

「お願いね、『ガンダムアテーナ』。おじさんのためもあるし、何より…わたしは“アレ”を見たいから死ねないの」

 

『ガンダム』…彼女はそう確かに言ったのだ。ヒイロ・ユイ以外が持つガンダム。『Gプロジェクト』の初号機である。

ネックレスを触りながらそう言うと、ネックレスが光り、装着を始めた。

体全身に白とスカーレットのカラーリングの装甲が纏う。ところどころ黄色のワンポイントが入る。サイズBの胸にも装甲で覆われ、背中にはT字を斜めにしたというかΓ字型というか短く突き出たパーツの根元付近から長めのパーツの多方向加速推進翼が現れる。

この段階ですでに皐月の体は顔以外ロボットのようになっていた。

そして、最後に顔の装甲が現れる。後頭部にブレードアンテナが現れ、そのまま頭を白い装甲が覆う。顔にはヒイロのガンダムのようなスリットは無く、すべて緑のレンズに覆われ、顔が認識できなくなった。そしてヒイロのガンダムと同じような目がレンズの奥で光った。

これが『ガンダムアテーナ』である。改めて見ると、ヒイロの『ウイングゼロ』よりスマートでまた女性的なフォルムをしている。

 

「武装展開」

 

皐月がそう言うと武装が右腕に展開される。

 

「…やっぱり『烈斬』しか使えないわね。『烈洸』、『((天之瓊矛|アマノヌホコ))』はまだ調整中か…後、二日あれば…」

 

今気づいたが、彼女の声と言葉使いが大人のような感じ…大人のお姉さんのような感じになっている。これは槇村の部下たち…つまり倉持技研の『Gプロジェクト』のメンバーのほとんどがオタクの集団だったせいで槇村に内緒でマスクにボイスチェンジャーと自動言葉使い変換機(特許申請中)をとり付けられて、外そうとしたのだがISコアが気に入ったせいではずせなくなったからだ。

彼女が展開した武装は新型複合兵装シールドガンブレード『烈斬』。

ガンダニュウム合金製小型物理シールドと同じくガンダニュウム合金製高周波ブレード、五十二口径機関砲が一体化した倉持技研の最新作。

外見は某武力介入するアニメの○クシアの○Nソードのシールドをサイズそのまま、ブレードを細身にしてその上に機関砲の銃身が乗っている。ブレードと機関砲は独立しているので折り畳む必要はない画期的な兵器だ。

 

「『ガンダムアテーナ』…出るわ!!」

 

トラックの扉が開き、バーニアが火を噴く。そして知恵・学芸・工芸の神のガンダムは空へ駆け上がった。

 

「何か出てきました。副隊長」

 

黒いISを使う奴の一人がそう言う。

 

「『ウイングガンダムゼロ』か!?」

「いえ…これは、『Gプロジェクト』の試作1号機、『ガンダムアテーナ』です!!」

 

なぜ彼女たちがヒイロが使っていたのが『ウイングガンダムゼロ』と言う名前だと知っていたのか?

そして、今回IS学園で初めて公開される『Gプロジェクト』の事を知っていたのか?疑問が絶えないが話が進むことで分かるだろう。

 

「私とオーギス3と4はここで『女神』の相手だ。5と6はトラックを追って『白式』の奪取だ!!槇村博士を殺すなよ!!奴は生け捕りにするんだ」

 

副隊長であるコードネーム『オーギス2』はそうオープンチャンネルで指示すると5、6はそのまま走るトラックを追いかけようとする。

 

「させないわ」

 

すぐさま『烈斬』の五十二口径機関砲で攻撃しようと皐月は構えるがその前にオーギス2、3、4によるマシンガンの波状攻撃が開始される。

皐月はそれを『烈斬』のシールドとシールドエネルギーによる物理シールドをうまく使い分けながら回避する。

 

「我々の相手をしてもらうぞ。女神様」

 

とオーギス2は言うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

一方、ヒイロももう出撃ができる体制だった。

すでに外向け用の発射ピットにゼロを装着している。

 

「千冬、バスターライフルの代わりとして、射撃系の兵器はないのか?」

『…今すぐに使えるのはあまり使われない実弾のロングライフルだけだ』

 

通信で千冬が言ったのでヒイロは周りを見渡すと、そこにはゼロを装備したヒイロの1。5倍はある長い砲身のロングライフルだった。

 

『物理的威力は最強だがあまりにも反動が強く、また大きすぎて使える奴がいなくてな…』

 

このライフルの問題点は照準が反動でずれてしまう事である。ISを装備してもよほどの筋力がないと使えず、また重すぎるのも弱点であるのだ。だがヒイロはそんなの気にせず、右手でライフルを取り出撃体制に移った。

 

「問題ない。出撃する」

 

そう言ってカタパルトにのって、ヒイロはロングライフルを両手で水平に持つとそのまま出撃した。

 

ヒイロが空を飛んでいるとIS学園島と本土を結ぶ橋の上に一台のトラックが猛スピードで渡っていて、そのボディーはもうボロボロであった。そしてハイパーセンサーで300m先の運転席を見ると槇村が頭から血を流しながら運転していた。

すでにトラックの横には前回、一夏を襲った奴らが近接ブレードでトラックの荷台を攻撃していた。ドライバーやエンジンを破壊しないところから見ると槇村には死なれては困るのだろう。

ヒイロは右脇にロングライフルを抱え込み、左手でライフルに取り付けられたバーを持つ。動くのを止め、狙いを定めるとトリガーを引いた。ドンと言う鈍い音とともに弾丸が空気を斬りながら飛んで行き、『オーギス5』の近接ブレードの側面から貫いて折った。物理的ダメージが高いのは納得できるものだ。

 

「な!!」

「向こうからの攻撃だと!?」

 

敵が慌てているところでヒイロは左手でビームサーベルを取り出す。そして一気に翼で接近する。敵は多数のミサイルを放つがすべて避けるか左手のビームサーベルで切り裂く。

 

「…こちらはウイングゼロのヒイロ・ユイ。援護する。今のうちに行け」

 

ヒイロは((秘匿通信|プライベート・チャンネル))でそう言うと映像が出てきた。頭から血が出ているがすでに止まっているようだ。

 

『こちらは倉持技研の槇村だ。すまない、実は奥のほうで研究員の一人が足止めをしているんだ。そっちにも援護に行ってくれ。頼む』

「…任務追加了解」

 

ヒイロはそう言うと通信を切り、前にいるオーギス6に向かってロングライフルを片手で発射した。反動がきついはずなのに、ヒイロは狙い通りオーギス6のブレードを打ち抜いた。

 

「クソ!!『ウイングゼロ』か!!」

「散開して、挟み撃ちにするぞ」

 

((秘匿通信|プライベート・チャンネル))による通信でヒイロにはわからなかったが挟み撃ちにして攻撃するのが動きで分かった。オーギス5、6は左右から突っ込んでくるがヒイロは急上昇する。そして二人が固まったところでサーベルを戻し、両手でロングライフルを構え、恐ろしいほどまでに連続でトリガーを引く。狙いは相手が持つマシンガンや足についているミサイルポット。それを次々と破壊する。

 

「くそ、これ以上は損害しか出ない…撤退するぞ6(シックス)」

「くつ…了解」

 

敵が撤退するのを確認するとヒイロは翼を羽ばたかせながらそのまま本土の方へ向かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「お、織斑くん織斑くん織斑くんっ!」

 

慌ただしく第3アリーナ・Aピットに飛び込んで来たのは、もう落ち着きが無い先生と定着しつつある真耶である。あいかわらず生徒を不安にさせてくれるが今日はいつも以上にあたふたしてて不安になる所かこっちが先生の事を心配になってしまう。

一夏たちは本来ならAピットでヒイロに会うつもりでいたのだが肝心のヒイロが来ていないのだ。

 

「山田先生、落ち着いて下さい。はい、深呼吸」

「すはすはすはすはすは」

「先生…全然深呼吸できていません」

 

箒からの鋭いツッコミが炸裂した。そう言っていると後ろから頭に包帯を巻いた男の人が現れた。

 

「織斑 一夏くんだね。初めまして、倉持技研の槇村だ。今日から3日間だけここにいることになった」

「あ…初めまして、織斑 一夏です」

 

互いに挨拶をしあう二人。そして槇村から

 

「実は今、君の専用機『白式』を持ってきたんだ。」

 

それを聞いて一夏は驚いた。まさかこんな場所で専用機を拝むことになるとは思ってもみなかったからだ。今日は後で最適化するからその時だと思っていたからである。

 

「織斑、すぐに準備をしろ。ユイは今、倉持技研の関係で駆り出されている。だからお前が今日オルコットと試合しろ。アリーナの使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものに…」

「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えてみせろ、一夏」

「ちょっ、ま…」

「「「早く!」」」

 

真耶、箒、そしていつの間にか現れた千冬の声が重なる。一夏はついていけなかった。ヒイロがなぜ今この場にいないのか?倉持技研の関係ってなんなのか?

しかしそんな考えている時間すら許される事は無く、ゴゴンッと音をたててピット搬入口が開かれる。斜めにかみ合うタイプの防壁扉は、重い駆動音を響かせながらゆっくりとその中のものを晒していく。そして、扉の先には…。

 

 

 

 

――――『白』が、いたのだった。

 

 

 

 

 

 

「くう〜」

 

皐月はピンチに追い込まれていた。元々皐月の腕はいいとは言えない。研究員として幼い時から倉持技研…父親や槇村のもとで働いていたからだ。日本はISによる女尊男卑がひどくないのはこの倉持技研の技術者がほとんど男で構成しているからである。だから男のロマンに走ることも多いのではあるが…彼女自身、頭はとてもよく、研究員+テストパイロットだった。しかし、どちらかと言うと技術者よりでISの適性ランクはB−だったのだ。

一対一ならまだ戦えるのだが一対三では勝ち目がなく、また逃げる隙も与えてくれはしない。武装も『烈斬』しかなく、『烈斬』の五十二口径機関砲で牽制するが、一人は接近戦を、後二人は遠距離からマシンガン、ミサイルで攻めてくる。特にガンダニュウム合金のシールドでないと相手のブレードを受け止められないので、結果牽制ができなくなる。そうなると必然的にシールドエネルギーの物理シールドを展開しないといけない。そうこうしているともう残量エネルギーが100を切ってしまったのだ。

 

「まずいわ…どうしましょ〜」

 

一方、敵の方は予定通りだった。『白式奪取』は失敗しても問題ない。本当の目的は『Gプロジェクト』の機体のデータを得ること。この時点で目的は達成しているのだか…

 

「このまま押して奴を捕える」

 

オーギス2はいけると判断して、行動を開始する。だがこの判断がまずかった。突如後ろからオーギス4が狙撃され、両足と背中のブースターがやられたのだ。オーギス4はそのまま地面に着陸、逃走を図った。

 

「距離500mのところからの狙撃です」

「なんだと」

 

そう言って狙撃してきた方向を見ると、翼を羽ばたかせ、ライフルを水平に持ってこちらに向かってくるヒイロのウイングゼロだった。

 

「あ…ああぁ〜」

 

皐月は感動の声を上げた。理由は後で知ることになるだろう。

ヒイロはそのまま皐月に通信を入れる。

 

「こちらはウイングゼロのヒイロ・ユイ。援護する…」

「あ…『ガンダムアテーナ』の((速瀬|はやせ)) ((皐月|さつき))よ。お願いね、ボ・ウ・や」

(ってボウヤっていうつもりなかったのに〜)

 

すべての原因は『エロかっこいいお姉さん口調』に設定したオタク研究員共である。ヒイロはこの口調と声で自分より年上だと判断した。間違った判断であるが…

ヒイロはロングライフルを再び撃つ、が今度はさすがに見え見えだったので避けられる。しかし、ヒイロもそれはわかっていた。その動きに合わせるように皐月がガンダニュウム合金製高周波ブレードで斬りかかる。その間に襲われているオーギス2を援護するためにオーギス3が接近する。ヒイロはまたロングライフルを使おうとするが…カチカチと言う音しかしない。

 

「弾切れか…」

 

ヒイロはロングライフルそのものをオーギス3に投げつける。それに気づいたオーギス3は回避する。その隙を狙ってヒイロは右手でビームサーベルを出して、斬りかかった。

3はなんとか受け止めたが、ヒイロはそれも計算に入れていた。競り合った状態で両肩の蓋状の装甲が開くとそこから4銃身式機関砲のマシンキャノンが現れ、至近距離で発射した。オーギス3のシールドエネルギーはどんどん削られていき、ついに0になってしまった。

 

「副隊長…申し訳ありません…」

「く…目的はすでに達している。離脱するぞ」

 

皐月の攻撃を避けながらオーギス2が答えるとそのまま離脱したのだった。

その様子をヒイロは見届けた後、皐月に話しかけた。

 

「その形状…『Gプロジェクト』の試作1号機か」

「ふふふ、そうよ。興味あるのかしら?」

(違うの!!そうじゃなくて興味あるんですかっていいたかったのに〜うにゃああ〜)

 

と皐月は心のなかで落ち込んでいたのだ。

 

「…任務完了、これより帰投する。お前もついてこい」

 

とヒイロは彼女のセリフをスルーすると皐月と一緒にIS学園へ向けて飛んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒイロが皐月のもとへ向かっている頃、一夏はセシリアと戦っていた。

開始同時にセシリアの大型のレーザーライフルの砲撃を受け左ショルダーアーマーが弾け飛び、その砲撃を文字通り引き金にして、セシリアのレーザー砲による連続砲撃。

圧倒的にIS操作経験の少ない一夏にそれは凌ぎ切れるものではなく、初弾のように直撃こそ避けるが、それも辛うじて。 一夏も応戦するために武器を展開するが、出てきたのは実体剣一本のみ。『白式』にはそれしか搭載していなかったのだ。しかし、それでも粘る一夏はセンスはある。

 

「二十七分。このブルー・ティアーズを相手に初見でこうまで耐えたのはあなたが初めてですわね」

 

オープンチャンネルからセシリアの勝ち誇った台詞が一夏に向けられる。

ブルー・ティアーズの肩部アンロックユニットに搭載されたビット兵器『ブルー・ティアーズ』による全方位オールレンジ攻撃によって、一夏のシールドエネルギーも残り僅かと追い詰められていうからこそのセリフだった。

後の無い一夏。セシリアは四機のうちの二機のブルー・ティアーズによる多角砲撃に加え、既に装甲を失っている左足に向けて一夏が体勢を崩すタイミングにあわせてレーザーライフルで狙う。

が、一夏もそこに当たれば即敗北と理解しているようで、気合と共に無理な体勢ながら急加速でブルー・ティアーズの砲撃をかいくぐり、セシリアに体ごとぶつかる。

その衝撃で砲口がそれて一命を取り留める。

 

「無茶苦茶しますわね。けれど、無駄な足掻きっ!」

 

セシリアが距離をとってから待機していたもう二機に指示を送るが、一夏はなにかを掴んだのか、今度は的確にブルー・ティアーズの砲撃をかいくぐり遂に一機を一刀に伏せる。

 

「なんですって!?」

 

思いもよらない反撃に驚愕しているセシリアに、一夏は大上段から一気に攻め込む。

とはいえ黙って距離を詰めさせるセシリアでもなく、下がりながらブルー・ティアーズへ新に指示を下す。

 

「わかったぜ!!この兵器はお前が命令を送らないと動かない!しかも――」

 

だがセシリアのその動作は織り込み済みと言わんばかりに、再び危なげなくレーザーを回避して更に一機破壊する。

 

「その時、お前はそれ以外の攻撃をできない。制御に意識を集中させてる必要があるからだ。そうだろ?」

 

言葉尻こそは問いかけだったが一夏のその自信に満ちた口調と表情は、既に確信しているに違いない。いや、一夏は確信していた。いくら剣道を収めていたとはいえ、初めての実戦とISの起動が二回目という圧倒的な経験不足、それに三次元方向からの砲撃によるプレッシャー。セシリアも、そんなあからさまで致命的な弱点を悟らせないように戦術を組んでいたはずだった。なのに一夏は気がついた。驚異的の戦闘センスが垣間見た瞬間だった。

 

「すごいですねぇ。織斑くん」

 

真耶がその様子を見て感嘆の声を上げる一方で、千冬の表情は忌々しげに歪んでいる。

 

「あの馬鹿者。浮かれているな」

「え?どうしてわかるんですか?」

「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろう。あれは、あいつの昔からのクセだ。あれが出るときは、大抵簡単なミスをする」

 

千冬に言われ、真耶は再び見てみると確かに一夏の左手は忙しなく動いている。

 

「へぇぇぇぇ……。さすがご姉弟ですねー。そんな細かいことまでわかるなんて」

「ま、まあ、なんだ。あれでも一応私の弟だからな……」

 

真耶に言われてハッとする千冬。実はこの千冬はかなりのブラコンである。よほど弟、一夏の戦いを見ていたのだろう。指摘させたことで照れ始めている。もっとも、彼女を超える妹大好きシスコン大将がいるのだがそれは近いうちに…

 

「あー、照れてるんですかー?照れてるんですねー?」

 

ここぞとばかりにからかう真耶。しかし、それは千冬のヘッドロックが炸裂するフラグだった。骨がきしむ音が真耶の頭蓋骨から発せられる。

 

「いたたたたたっっ!」

「私はからかわれるのが嫌いだ」

「はっ、はいっ!わかりましたっ!わかりましたから、離し――あうううっ!」

 

ざわめいているモニタールームを余所に、試合は大きく動く。

残り二機のブルー・ティアーズを屠り、一気に詰め寄る一夏。

タイミング的には、セシリアがライフルの照準を合わせるのも間に合わないだろう。

だが代表候補生というエリートであるセシリアがいくら虚を突かれたとはいえ、ブルー・ティアーズ二機を落とされる間に回避行動の一つもとっていないというのは、果たしてありえるのだろうか?あまりにも不可解すぎるのだが一夏はそのことに気が付かづ接近戦をするためにさらにセシリアにせまる。そして一夏のハイパーセンサーに移った彼女の顔には笑みがあった。

その表情に、一夏はこの段階で初めて何かあると気が付き、慌てて制動を掛けるがそれよりも早くセシリアのサイドスカートアーマーが動き出し、一夏の方を向く。

 

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!!」

 

セシリアの叫びと共に、ブルー・ティアーズの砲口からミサイルが発射された。

 

「一夏っ!!」

 

ミサイルが着弾し、爆煙に消える一夏を見て、千冬と同じモニタールームにいた箒が悲鳴にも似た声をあげる。騒いでいた千冬と山田先生も同時にモニターを注視するが…

 

「――ふん。機体に救われたな、馬鹿者め」

 

モニターいっぱいに広がっていた黒煙が晴れると、言葉に安堵の色を混ぜながら千冬がそう悪態をつく。

まだわずかに残っていた煙を、まるで引き裂くかのように掃うのは、機械的だったその装甲はより鋭角なフォルムとなり、手に持っていた剣はショートソードのような形状から大きく反りの入った太刀に近い形となっていた『白』がいたのだ。

 

「ま、まさか……((一次移行|ファースト・シフト))!?あ、あなた、今まで初期設定だけの機体であそこまで戦ってたっていうの!?」

 

セシリアが驚いたのも無理はない。一夏は今まで初期設定…つまり某機動戦士の量産型以下で戦っていたようなものなのだから。

 

「よくわからないが……これでやっと、この機体は俺専用になったわけだ」

 

一夏は新たにモニターに映った武器情報を確認すると…

 

――――接近特化ブレード 雪片弐型 使用可能――――

 

とあったのだった。

 

「これは……千冬姉が使ってた武器だよな……」

 

雪片…かつて一夏の姉、千冬が世界大会で優勝した時に使っていた最強の剣。その後を継ぐ剣が今、一夏の手にあったのだった。

 

(まったく。つくづく思い知らされるよ)

 

一夏は心中でそう感じた。自分の姉がいかに偉大で、そして自分の事を心配してくれていることを

 

「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

一夏がそう言うと雪片弐型が変形し、青白い光の刃が現れた。ヒイロのビームサーベルに似ているがその形状は刀に近かった。

 

(三年前も、六年前も、そしておそらく十五年前も。あの人は何時でも俺の姉だ)

 

「でもそろそろ、守られるだけの関係は終わりにしないとな…これからは俺も、俺の家族を守る」

 

どこか遠いところを見ているような目をしていた一夏だったが、今度はセシリアを――自分が倒す敵を真っ直ぐ見据える。

今まで以上に腹を決め、自らの進むべきところだけを真っ直ぐ見る一夏の表情。それはヒイロが一夏にあのリリーナ・ドーリアンと同じものを感じたときと同じ目だった。

 

「…は?あなた、何を言って―――――――」

「とりあえずは、千冬姉の名前を守るさ!弟が不出来では、格好が付かないからな」

 

誰にでもなく、自分に言い聞かせるように言う一夏。

 

「いったいさっきから何の話を…ああもう、面倒ですわ!!」

 

それに対して痺れを切らせたセシリアがミサイルを仕掛けるが、初期設定の状態でもブルー・ティアーズの砲撃を避けきった一夏にとって、一次移行を終え一夏専用にフォーマットされた白式を駆る一夏は、それまでよりも素早く移動する

 

(見える……!)

 

沢山のミサイルを青白く光る刃ですれ違いざまに斬り捨て、続けざまに先ほどよりも圧倒的に早く安定した加速でセシリアへ肉薄する。 

 

「おおおおっ!!」

 

気合一閃。振りぬいた斬撃がセシリアを捉える直前に、決着を告げるブザーが鳴り響いた。

 

『試合終了。勝者――セシリア・オルコット』

 

というアナウンスが流れて、場所を問わずこの試合を見ていた人間が状況を把握しきれずに一様にぽかんとしていたのだった。

 

 

 

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後書き

 

感想、意見お待ちしております。

 

ちなみに今回ヒイロが使ったロングライフルのモデルは

http://kodama3.skr.jp/note0809.htm

 

説明
第05話 『白』と『反抗の象徴』…現る
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タグ
再構築 ヒイロ・ユイ ガンダムW IS インフィニット・ストラトス 

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