愛の一時
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 子供として見ていた分、あの時のりんの気持ちには正直驚いた。

今でも気持ちはあまり変わっておらず、かといって、今まで通りとはやはり違っていて。

なんというのかよくわからないもやもやが俺の中には残っていた。

 

 だけど、一つだけわかってることがある。それは、俺は心底幸せであるということ。

想われることは嫌ではないし それどころか、むしろ嬉しい方だ。

 

 しかし、周囲に知れた時の驚かれ方はそれはもうすごかったもんだ。

いくら血が繋がってなかったとしても、みんな親子を見る目で見てたからな。

それは俺も似たようなものだったかもしれないが。

 

 そんなことを仕事の帰り道でなんとなく頭の中で浮かんでいた。幸せと一緒にある

ちょっとした違和感。驚きはしても、誰も批判はしなかったのは回りに理解者が多いこと

に感謝はしていた。

 

 何か引っかかる感じが残るのは何でだろう。

 

 そんな違和感を抱えながら俺は自分ちにたどり着いていた。ドアの鍵穴に鍵を

差し込んで中へ入っていく。音に反応したどこかの犬猫のようにご機嫌な顔をして

俺の前に小走りに近寄ってきた。

 

「ダイキチ、おかえり〜」

「おう、ただいま」

 

 親バカなこともあるだろうが、傍から見てもりんはとても可愛く綺麗に見えた。

そんなりんからは、少々古臭い匂いを感じ取れる時がある。

 

 なぜなら、料理に関してすごく古臭いから。初々しい感じが全くしないのはなぜだ。

でも、明らかに目の前にいるのは誰もがうらやむほど眩しい女子大生だ。このギャップが

ある意味個性的で良いと俺は思っていた。

 

「今日は仕事どうだった?」

「あぁ、いつも通りだったよ」

 

 スーツを脱いで、よっこらせという掛け声と共に腰を降ろすと、人を小ばかにする

ような笑い方をするりん。

 

「ダイキチ、年寄りクサイ」

「仕方ねえだろ。年寄りなんだからよ」

 

「え〜、ダイキチ。まだまだ若いよ」

「どっちだよ・・・」

 

 えへへ。と、まだ幼さが残るような笑顔を無防備に俺に向けるりんを見て

少し不安になる。これだけの年の差があると、当然将来のことが気になってしまう。

 

「りんさ・・・、この後どうするつもりだよ」

「この後って?」

 

 夕飯の用意されていて、ビールをコップに注いで最初の一杯を飲み干して

一息つきながら、りんにそれとなく聞くと。何のこと?ってきょとんとした顔を

俺に向ける。

 

「これだけ年が広がってると確実に俺の方が先に逝くだろう。その後のことだよ」

「えぇ・・・まだ、先のことだし考えたことないなぁ」

 

 そう言われて俺がりんの年の頃も似たような考え方してたなと思って苦笑する。

だが、俺とは違い、りんはちゃんと考えているのかもしれない。頭も良いし。

 

「そうか・・・」

「あ、でも一つだけ言えることがあるよ」

 

 目を輝かせて俺の顔を覗き込むりんの上目遣いにドキッとする。それを探られない

ように誤魔化すのが精一杯の俺。

 

「なんだよ・・・」

「私、ダイキチがおじいちゃんになって死んでも。私、ずっとダイキチから離れないから」

 

「なんだ、そりゃ」

「再婚なんてしないってこと」

 

「・・・」

「ダメ?」

 

 そんな風に聞かれちゃダメとは言えないことがわかっていて、聞くんだから性質が悪い。

そこまで嬉しいことを言われて、喜ばない男がいるわけがないだろうに。

 

「あー、わかったわかった。この話は無しにしよう」

「えー、ダイキチから振ってきた話なのに!」

 

 ずるいずるい、ぶーぶーと言いながら反論する、りんに掌を振って避けるような

仕草をした。

 

「ダイキチずるーい!」

「わーったわーったって」

 

 だけど、そんなりんが愛おしくて、拗ねてぽかぽか叩いてくる、りんの背中に手を

伸ばしてそのまま自分のもとへと引き寄せる。うるさく言うりんを一瞬黙らそうとした

だけだったのだが、りんの方が俺の目をジッと見つめて、若干潤っている気がした。

 

「り・・・んっ・・・」

 

 この変な空気を誤魔化そうと何か言おうとした俺の口をりんは塞ぎに来た。

それも、何とも啄ばむような可愛らしいキスである。

 

「ダイキチかわいい」

「誰がだ・・・。りんの方がかわ・・・」

 

「ん?」

「な、何でもないよ・・・」

 

「ちぇっ、もう少しだったのに・・・」

「お前なぁ・・・」

 

「じゃあ、言うまで続けるから・・・!」

「ちょっ・・・んっ・・・!」

 

 力は俺の方が当然強いのだが、こうも強気に攻められると抵抗できる気がしない。

離すのは容易いが、それをしたくなくなるほどの良い匂いと柔らかさに身も心も

溶けそうになる。

 

「りん・・・」

「ん・・・」

 

 深い何かをしたことがない俺達はまるで子供の遊びのように何度もその簡単で

単純なキスを繰り返した。これが思いのほか甘い気分にさせてくれるのだ。

 

 それは俺の体力が尽きるまで続けられて、結局その日は、俺の口からりんのことを

可愛いと言う言葉が出ることはなかったのだった。

 

「もう、強情なんだから」

「別にいいだろうよ」

 

 疲れてご飯を軽く済ませた俺は、布団の上でごろんと横になると、すぐ隣に

パジャマ姿のりんがすり寄せてくる。ここ最近はこうしているが、どうにもこそばゆい。

子供の時以来だもんな。

 

「拗ねてる、ダイキチかわいい」

「拗ねてねえよ!」

 

 そういって、振り返り。りんを抱きしめながら、俺はポソッと聞こえるか聞こえないかの

音量で呟いた。

 

「だけどな・・・俺はりんのことは好きだよ」

「え・・・」

 

「じゃあな、おやすみ」

「え、ダイキチ!もう一回言ってよ!」

 

「ぐーぐー!」

「そんなあからさまな、寝言いっても通じないからね!ねぇ、ダイキチ〜」

 

「ぐー!ぐー!」

 

 しばらくそんな子供じみたやりとりをした後に俺の根気に負けたりんは渋々眠りに

就いた。細目でそれを確認した俺は背を向けたりんの背中を見ながら、もう一度独り言を

呟いた。

 

「色々あったが・・・、りん、お前のこと・・・俺がちゃんと幸せにしてやるよ・・・」

 

 そういってから、俺は仰向けになって目を瞑った。色々なことを思い出しながら、

それでも疲れのせいか思ったより早く睡魔に取り込まれて意識は霞んでいった。

 

 考えさせられることもあったが、みんな幸せそうでこれでいいんだと心より思える

ようになった。俺は本当に幸せものなんだなって、思いながら、またいつもの日常に

戻っていく。

 

説明
うさぎドロップ10巻見てからの、そ
の後のお話を妄想したやつです。ちゅっちゅっですw
苦手な人は戻ってくださいな♪
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うさぎドロップ 鹿賀りん 河地大吉 

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