真・恋姫†釣行 −釣り編 前編− |
真・恋姫†釣行
―劉邦柾棟―
「流琉と白蓮には違う釣りをしてもらう。」
「どうしてだ?劉邦?」
「その方が飽きないからだ。(+作者の都合だ)」
「分かりました。それで、私達三人はどういう釣りをするのですか?」
「一人はさびき釣り、二人はエレベーターだ。流琉と白蓮で好きなのを選んでくれ。」
「私は釣りが初めてだから、簡単に教えてくれないか。」
劉邦が二人に釣りについて簡単に説明した。
その後、白蓮と流琉とでジャンケンとなり、勝った流琉は迷わず、サビキ釣りを選んだ。
サビキ釣りという釣りだが、ご存知の人も多いだろう。
一本の中糸から数本の枝糸が生えており、その枝糸の先に針が付いている。この針には薄い布で装飾がされていて、この布が疑似餌となる。そして、中糸の一番下には籠が付いているというのが、サビキ釣りの仕掛けだ。
釣り方としては、籠の中にオキアミを入れて、海の中に落とし、竿を上下に動かす。すると、籠の中からオキアミが溢れだし、それを餌にして魚が寄ってくる。魚はオキアミを食べるのだが、その中には疑似餌が含まれており、間違って疑似餌を食べようとすると、魚の口に針が掛かってしまうと言う仕組みだ。
沿岸の小型魚である。イワシや、アジ、ルリスズメダイ等の熱帯魚や、ゴンズイやクサフグ等の毒魚と幅広い。
だから、釣りに行って、サビキ釣りをすることになったら、ゴンズイとクサフグには気を付けて貰いたい。
ゴンズイは棘があり、その棘が毒針となっている。間違っても素手で触ってはいけない。万が一(夜の場合、結構な確率で釣れてしまうww)、ゴンズイが釣れてしまったら、枝糸を切って、捨てるのが良い。
ゴンズイの対処に慣れている人は、利き手で中糸を持ち、ゴンズイの口に利き手の反対側の親指を突っ込み、親指と人差指とで下顎を挟み、針を利き手で外す。
ゴンズイが小さかったり、針を飲みこんだり、ゴンズイが釣れて機嫌の悪い人の場合は、竿を振りまわして、ゴンズイを防波堤に叩きつけて、ゴンズイを気絶させてから、口の中にペンチを突っ込んで無理矢理引き抜く。
この方法は作者もよくするが、周りに人が居ないので、やっている。この方法を使うときは周りに人が居ないかどうか十分注意して貰いたい。ちなみに、作者は食べたことが無いのだが、煮付けや一夜干しは結構美味しいらしい。
食べる時はハサミで背鰭と胸鰭にある棘を切れば、大丈夫だ。
クサフグだが、前身毒まみれなので、死にたくないなら食べないことをオススメする。
しかも、クサフグはストレスを感じると体表から毒の粘液を出す。同じフグ類なら問題無いのだが、水槽で飼うときは十分注意して貰いたい。
「劉邦兄様!アジとイワシが釣れます。」
そう言って、流琉は劉邦に竿を見せる。
竿には5つ針が付いているのだが、内2つにアジが、1つにカタクチイワシ付いていた。
「もう、竿の上げ下げのコツを掴んだか。
「はい。頭の中で仕掛けがどう動いているのか考えたら、何とか出来ました。」
「サビキ釣りは竿の上げ下げのやり方一つで釣果が変わってくる。この調子で頑張ってくれ。」
「はい!劉邦兄様!イワシ食べますか?」
流琉は劉邦にいう。
カタクチイワシは内臓に大量の消化酵素があり、放っておくと、消化酵素がカタクチイワシの内臓を溶かしてしまう。そのため、一般の消費者はカタクチイワシを生で食べたことのない人が多いだろう。
生で食べるのならば、釣って、2、3時間以内に食べることをオススメする。
「でも、小さ過ぎないか?」
そう、カタクチイワシとは本当に小さい。
そのため、魚捌きに慣れた人でなければ、短時間で捌くことは出来ないだろう。
素人がすると、手の体温が魚に移り、身が崩れて来てしまう。
劉邦はそれを心配した。幾ら流琉でもこのサイズは無理ではないのだろうか?
「大丈夫です。カタクチイワシはこの捌き方をすれば、簡単にできるんです。」
そう言って、流琉は小刀でカタクチイワシの頭を落とし、腹を開いた。
その開いた腹に流琉は指を入れて押し、その指を左右にスライドさせた。その後、魚を裏返し、同じ事をする。
そして、中骨と鰭を引き抜き、残った骨を包丁で落とした。
この工程をわずか1分で流琉は行った。
そして、流琉は持って来た鞄の中から醤油を取りだし、捌いたカタクチイワシに掛ける。
「ひゃい、ひゅーひょーひゃん(はい、劉邦さん)。」
「あの…、流琉さん?一体何をしていらっしゃるのでしょうか?」
「((ひょっひーへーふへふひょ。|ポッキーゲームですよ。))((ひゃひゃひゅひひはひへふへひょ//////。|カタクチイワシですけど//////。))」
「では、お言葉に甘えて。」
そういって、顔を真っ赤にした流琉に劉邦は近づく。
流琉の口から垂れているカタクチイワシに劉邦の唇が当たり、イワシを咥えようとした次の瞬間だった。
「なあ、劉邦、私と劉邦の釣りはどうなっているんだ?」
ジト目で二人を見ている白蓮だった。
二人は咄嗟に離れる。劉邦は咳払いをし、流琉は口から落ちそうになったカタクチイワシを食べてしまう。
残念ながら、二人のポッキーゲームver.カタクチイワシは中断されてしまった。
幾ら白蓮の影が薄いとはいえ、この扱いはあまりにも酷過ぎる。
目の前でイチャイチャされた白蓮の内心はかなり穏やかからかけ離れたものだった。
劉邦は白蓮と自分用に用意していた竿を用意する。
「そうだったな。白蓮。悪かった。だから、そのジト目は止めてくれ。そう、白蓮の釣り、エレベーターな。……なあ、流琉、この((魚籠|びく))の中のアジ何匹か貰って良いか?」
「構いませんが、どうするのですか?」
「俺と白蓮の釣りの餌だ。」
エレベーターと聞いて何だ?と思う人も多いだろう。エレベーターとは関西で使われている仕掛けだ。
エレベーター仕掛けというのはとてもユニークな釣りで、まず。道糸の先のオモリを付ける。
そして、海にそのオモリを投げ込む。この時点では餌どころか、針すらついていない。これのどこが釣りなのだろうと思うだろうが、これには続きがある。スナップ・サルカンというサルカンという金属の輪っかを用意する。このスナップ・サルカンという奴は少しばかり変わったサルカンでスナップが付いている。
そのため、スナップ・サルカンを用いた仕掛けは付け外しが簡単だ。
そんなスナップ・サルカンのサルカンの方に糸を二つ付ける。その糸にはそれぞれ針が付いている。
その針を餌であるアジの鼻と背中に掛け、その仕掛けを竿の糸に取りつけ、海に落とします。
すると、アジは深い所から浅い所まで好きな所を行き来できる。
その姿はまるで、紐にリードを繋げて、そのリードに繋がれている犬のようだ。
この様子をエレベーターに例え、この仕掛けをエレベーター仕掛けと呼ばれている。
この仕掛けの長点は生きたアジを遠投しなくてすむので、アジが弱りにくいため、餌交換しなくてよい。
そして、そんなエレベーター仕掛けで狙う獲物は、
「ヒラメ!スズキ!ヒラマサ!カンパチ!?」
「そうだ。有名な魚ばっかりだろう。」
「あぁ、大物釣って!もう影が薄いなんて呼ばせないからな!覚悟していろよ!」
「その意気だ!」
白蓮は先ほどまでやっていたジト目を解除し、喜んでいた。
劉邦と流琉も助かったと内心喜んでいる。
こうして、三人の釣りが始まった。
劉邦は外洋に向かってアジを走らせ、回遊魚であるヒラマサやカンパチを狙う。
外道として、68cmのスズキが上がり、続いて80cmのカンパチが上がった。
劉邦とは違う釣りをしている流琉は順調にアジとイワシの数を増やしている。
イワシは群れで来るため、一匹釣れたら、爆釣だ。アジも順調に数を増やしている。
一方の白蓮はというと内側の磯と砂地の境目を狙っている。砂地に居るヒラメ狙いが丸分かりだ。
そして、そんな白蓮は一匹も魚を上げていない。
「おい!劉邦!アタリがきた!どうしたらいい?」
「まず、竿を立てて!リールを巻いて!」
「分かった!」
白蓮は流琉のやっているサビキ釣りとは全然違うような引きを感じた。
重い。最初は根掛かりかと思ったが、竿がビクビクと動く為、やはり魚だろうと判断する。
劉邦はカーボン製のたも網を持って、白蓮の方に来た。魚を救うつもりだ。
流琉も自分の釣ったアジを餌にして釣る魚がどんなものか興味があるのか寄ってきた。
そして、白蓮は水面まで持ってきた魚を海面から持ち上げた。
「うおおおおお!ファイトォォォォォ!」
「「いっぱーーーつ!!」」
三人の掛け声で魚が防波堤の上に乗った。三人は白蓮の大物に喜ぶ。
防波堤のコンクリートの上で魚はそんな三人を祝福しているのか、防波堤の上でダンスするようにはねている。
だが、次の瞬間、そんな踊っている魚を見て、三人のテンションは一気に下がった。
「なあ、劉邦、流琉、これ何だ?」
「ウツボだな。」
「ウツボですね。」
「…………ウツボだよな。」
「……まあ、………そのドンマイ。」
「大丈夫ですよ。ウツボって灰汁がきつくて料理しにくいけど、美味しいし、灰汁がきついけど、釣り餌のアジだってたくさんいます
から、次ですよ!次頑張れば、絶対ヒラメ釣れますよ!頑張りましょう!」
そう、ヒラメを期待していた白蓮が釣ったのは、市場ではあまり流通していないウツボだった。
グロテスクな見た目と小骨が多い上に、取りにくい所為であまり人気が無い魚だ。
肉食でアジだけではなく、イカや蟹など、様々なモノを食べる為、外道として釣り人の間では有名だ。
白蓮が凄い勢いで堕ち込む。ヒラメという高級魚を狙っていたのにも関わらず、見た目が最悪の外道が釣れてしまったのだ。ものすごい絶望だろう。希望が一気に絶望に変わった時の白蓮は本当に厄介だ。
落ち込んだ白蓮の厄介度は、絡み上戸の白蓮を遥かに超え、酔っ払って猫化したときの春蘭にも匹敵する。
白蓮がいきなり厄介になってしまったため、劉邦と流琉は動揺を隠せなかった。
動揺のあまり、流琉は励ましの言葉で同じ事を2回も言ってしまっている。
しかも、その2回言った言葉が『灰汁がきついけど』である。もはや最悪だ。
それが、白蓮の落ち込みのツボに入ってしまったのか、白蓮は更に落ち込んで行く。
白蓮の纏う空気があまりにも怖い為、劉邦と流琉は奥歯をガタガタいわせて抱き合っている。
「なあ、流琉。」
「はい!」
「ウツボって美味しいんだよな?」
「はい!美味しいです!灰汁がきついk!」
テンパってしまっている流琉はまた『灰汁がきついけど』と言いそうになる。
咄嗟に劉邦が口を抑えるが、殆ど言いきってしまっていため、白蓮の目はレイプ目になる。
手には何故か((鋸|のこぎり))が握られている。一体どこから出したのだろう?
だが、そんなツッコミを入れることが出来ない空気だ。
おそらくツッコミをいれたが、最後、鮮血の結末が待っているだろう。
「なあ、劉邦?」
「なんでありましょうか!白蓮様!」
「ウツボ……美味しいらしいな。」
「はい!どうやら!そのようであります!灰汁がきつ!」
もう、完全なチェックメイトだ。白蓮の目から完全に光が失われた。
劉邦は気絶して現実逃避をしたかったが、気絶したら、何をされるか分からない。必死に舌を噛み、何とか気を持たさせる。この後嫌な予感しかしない劉邦の額からは滝のように冷汗が噴き出していた。
武闘派の劉邦でも今の白蓮の相手は無理…いや、無理過ぎる。
「そういえば、さあ、劉邦?」
「はい!」
「さっき、ポッキーゲームしようとしていたな?魚で。」
「え?」
「私もポッキーゲームしたいな。あれで。」
そう言って、白蓮が指したのはさっき釣ったウツボだ。
未だに活きが良いのか、防波堤の上でウネウネ動き回っている。
そんなウツボの鰓蓋を白蓮は掴むと寄ってきた。
「なあ、劉邦、先にこっち咥えてよ。」
そう言って、白蓮はウツボの顔を劉邦に近づける。劉邦の目の前でウツボが口を開ける。ものすごい牙だ。
劉邦には白蓮が餌として使ったさっきのアジの断末魔が何故か聞こえてきた。
「さっき、流琉とはポッキーゲームしていたよな?」
「いや、あれは未遂d」
「してたよな?」チャキ(首にのこぎりを当てられる音)
「はい。してました。」
「だったら、私とやってくれても良いよな?」
「アレは捌いたカタクチイワシだったからで………。」
「どうして、流琉とは流琉の釣った魚でポッキーゲーム出来て、私とは私の釣った魚で出来ないの!?」
「ひぃ!……いや、ウツボの牙ってさ、あまりにも凶悪だからさ、なあ?」
「そんなこと言うんだ。劉邦。わかったよ。」
「ほっ。」
「無理矢理するから!」
「え?」
「私のキャラ立ちの為にポッキーゲームして貰うから!そうじゃないと、私の出番がなくなるじゃない!それに、私のこと好きなんだ
よね?だったら、協力してよ!」
「確かに、白蓮は好きだが、それでも…それでも守りたい唇があるんだ!!!」
劉邦は白蓮の懐に入り込み、海へと飛び込んだ。
その後、二人は流琉の伝磁葉々によって、救出された。
海水で頭が冷えた白蓮は、正気に戻り、劉邦に謝り倒した。
心の広い劉邦はあっさり許し、劉邦は白蓮と一緒にヒラメを狙うことになった。
その後、何とか、白蓮が40cmのヒラメを上げ、白蓮は上機嫌だった。
白蓮のヒラメゲット祝いに、三人で仲良くポッキーゲームver.カタクチイワシをした。
―berufegoal―
berufegoalは焔耶と釣りをしている。
彼らがやっている釣りはジギングという釣りだ。ジギングとはジグ(Jig)と呼ばれるルアーを使う釣りだ。
普通のルアー釣りと違うのは、ジギングはジグと言われるルアーしか使わない所だ。
ジグとは金属の塊だ。その為、普通のルアーに比べてとても重い。
その為、とても丈夫であり、遠くまで飛ばせるという長点があるが、沈下速度が速いという欠点がある。
初めて釣竿を持った焔耶は所掌戸惑い気味だ。内陸出身の彼女は釣りというものが初体験なのだ。
釣りというものを話では聞いてはいたが、こんな仰々しいものとは彼女は思っていなかった。
彼女が話に聞いていたのは、細い竹竿に先に細い糸を付け、浮きと重りと釣針を付けて、釣針に餌を付けて釣る物だとばかり思っていたからだ。その為、リールという大量の糸を巻いている器具に驚いたし、ルアーしかついていない仕掛けにも驚いた。
berufegoalが焔耶との釣りにこれを選んだのは訳がある。
彼女は根っからの体育会系で考えることが少しばかり苦手だ。その為、仕掛けがごちゃごちゃした釣りはすぐに糸が絡まってしまい、焔耶を飽きさせてしまうのではないかと判断したのだ。
ルアー釣りはリールの部分で糸が絡まることがあるが、それと隣と糸が交差することさえ注意すれば糸が絡まることは殆ど無い。ブラックバスのルアー釣りでよく起こる根掛かりはあり得ない。
なぜなら、ルアーを投げるのは無限の大海原、障害物の『し』の字も無いからだ。
そんなberufegoalと焔耶が狙う魚は
「シイラ?」
「あぁ、シイラだ。マジでイカスな魚だ。」
シイラとは?と書く。漢字の通り温かい海に生息する表層性の大型肉食魚だ。
名前の由来は((粃|しいな))という実りのない稲穂から来ていて、体が大きい割に思った以上に食べる所が少ない所からこのような名前が付いたという説が最も有力だ。
浮遊物に集まる習性がある。当然浮遊している水死体にも寄ってしまい、水死体を食べているのではないかと思われてしまっている為、地方によっては「シビトクライ」や「シビトバタ」などという名前もある。
性格はとても好奇心旺盛だ。イルカのように船によって来ることからDolphinfishとも呼ばれている。
ハワイでマヒマヒと呼ばれている高級魚はシイラのことである。
体長は最大のもので2m、体重は40kg近くまで達する。
成長すると雄は額が著しく張り出るが、雌は丸いので、雄雌の見分けがしやすい。
魚体の背部はコバルトブルーやメタリックグリーンで、体側は黄金色ととても鮮やかだ。
引きの強さやその特徴的な見た目からか、ルアー釣りの対象としてもとても人気が高い。
「だが、待ってくれ。berufegoal。」
「どうした?」
「さっき、じぐ?という、この魚の形をした重い疑似餌使うんだよな?」
「それがどうかしたか?」
「シイラって魚は表層付近に居るんだろ?こんな沈みやすいのは向いていないんじゃないのか?」
「そうだな。だが、間違いなく、俺達にはピッタリの釣りだ。」
そう言って、berufegoalはジグを遠投する。
カウボーイのように、頭上で竿を振りまわし、その遠心力で遠投するという派手なキャストだ。
なんとも無茶苦茶なキャスト方法だが、berufegoalに投げられたジグは50mほど、飛んでいく。
しかも、飛んで行った方向は彼の狙い通りという。
普段の便利屋家業がもたらした体術のおかげだろう。
「コイツを! 巻く! 力をこめて! 角度を変え! 巻く! さらに… もっと速く! ブチ巻いてやる!」
berufegoalはひたすらリールを巻く。巻いて巻いて巻きまくる。
沖防波堤の上でberufegoalはステップをしながら、竿を上下左右に動かし、リールを巻いて行く。
ただリールを巻くだけの行為が焔耶に目には一つのダンスのように映った。
「そして、絶頂を迎えた後―― 君は自由だ」
そして、berufegoalは少しばかり糸巻きの速度を緩めた。その瞬間、大きくberufegoalの竿が撓る。
真剣にチャラけるつもりで糸を巻いていたberufegoalからすれば予想外の出来事だろう。
だが、その実、魚にはジグが猛スピードでジグザグに泳いで逃げる餌の小魚に映ったのだ。
そして、糸巻きの速度を緩めたのが好機と思った魚がジグに食いつかないはずがない。
「Hiiiiiiiiit!!!!」
berufegoalは背中を仰け反り、フッキングをする。突然の出来事に焔耶は驚いた。
焔耶はこれまで釣りというものを経験したことの無い。当然今日初めて生きた魚を見るのは始めてだ。
そんな彼女の目の前でberufegoalの竿に魚が掛かったのだ。
彼女は目を潤ませ、嬉しさのあまり興奮している。
「そうだ、焔耶。言い忘れていたが、先にシイラを釣った方は負けた方を膝枕させることが出来るからな!」
「おい!何だ!それは!そういうことは勝負する前に言え!卑怯だぞ!」
「ハッハー!勝負の世界は非情だぜ!焔耶!」
魚に反撃する間も与えない様に、berufegoalは一気にリールを巻いて行く。
焔耶がberufegoalの邪魔をしないのは、生きている大きな魚を見たいからだ。
口では文句を言いながら、まだ見ぬ魚に興奮している。
そして、berufegoalは魚を近くまで寄せると、一気に海面から魚を引き上げた。
「おぉ!berufegoal!これがシイラか!?」
「いや違う。たぶんカツオだな。」
「うわぁ、マルソウダか。ジギングにおける最悪な外道釣りましたな。」
そう言って後ろからぬっと現れたのは黒山羊。どうやら、雛里と色んな人の釣りを見て回っているらしい。
そんな黒山羊によるとこの魚はマルソウダガツオという魚らしい。
ソウダガツオとカツオは微妙に違う。腹鰭の間にある突起がカツオの場合、2本あるのだが、ソウダガツオの場合は1本しかない。他にも二つの背びれの間隔が狭い方がカツオで広い方がソウダガツオという違いがある。
ソウダガツオの中でもマルソウダガツオは不味い上に、腐りやすいし、おまけに食えない魚らしい。
食おうと思えば食えないことは無いのだが、マルソウダガツオは地方によっては大量のヒスタミンを含んでいる為、ヒスタミン中毒を引き起こしてしまう可能性があるのだ。
それでも食べるのなら、釣ってすぐに血抜きをして、内臓を取って、氷で〆て、血合を取り除いて、お茶漬けか焼き魚がいいだろう。
もう1種類のソウダガツオであるヒラソウダガツオというのが居るが、こちらは旬のものは美味しい。
だが、どちらのソウダガツオも腐りやす過ぎる為、普通のスーパーの鮮魚売り場で置いていない魚だ。
一般消費者が目にするとすれば、ソウダ節という鰹節もどきぐらいだろう。
この魚を知っているのは漁業者か釣り人ぐらいだ。berufegoalが知らないのも無理は無い。
「ってことは、まだ膝枕の勝負は決まっていないんだよな。」
「Shit!」
そう、berufegoalという男は劇的に賭けごとに弱かったのだ。
結果、この賭けは焔耶が勝ってしまったのだが、焔耶は148cmの大物シイラを釣った嬉しさのあまり賭けを忘れてしまっていた。それからも、berufegoalと焔耶のシイラ釣りは続いた。
焔耶がシイラを上げてから数時間後、何とかberufegoalもシイラを上げた。
焔耶のシイラより若干小さい129cmだった。それでも大物であることには変わりない。
その後、延々二人ともソウダガツオが続いた。そんな時だった。
「うぅ!あぁーあ、このアタリはまたソウダだな。」
「ハッハー、美人のお嬢ちゃんに相手でも、そう簡単に良い魚はやれないって海が言ってんだろ。」
「それだったら、お前には一匹もシイラが釣れていないだろう?」
「違いないな。」
「それはそうと、このソウダガツオ地獄も飽きウワァ!」
焔耶はいきなり悲鳴を上げて、海の方に走り出した。
どうした?と声掛けようとした瞬間、ある事に気が付いた。そう焔耶の竿が撓り過ぎていた。
シイラにしてもこの撓りはありえなさ過ぎる。
だから、焔耶が海に向かって走っているのではなく、海の中に引き摺りこまれそうになっていることにberufegoalは気が付いたが、ソウダガツオらしい魚が掛かったはずなのに、どういうことだ?と考えた。
釣り講義中に黒山羊が言った言葉をberufegoalは思い出した。
『青物狙いで注意しなければならないことが1つあります。それがシャークアタックです。』
『黒山羊よ。シャークアタックと申せば、サメに襲われることで相違ないか?』
『えぇ、間違っていませんよ。ひっとーさん』
『どこが問題なんだ?海の中に居るならサメに襲われるのは分かるが、釣り人は陸の上だろ?』
『では、万が一、魚が掛かって、釣りあげる前にその魚がサメに襲われたらどうします?』
『普通に引き上げたら良いのではないのか?』
『サメは遊泳能力が低く、そこまで速く泳ぐことは出来ませんし、真後ろに泳ぐことも出来ませんが、効率よく前進するのに特化した
体つきとなっています。シャークアタックをするような大型のサメのパワーはとてつもなく強いです。障害物の無い平地の防波
堤の上に居る釣り人が海の中の大型のサメ相手に綱引きするというのは、台車の上に乗った人が地面の上に立っている人と綱引き
をするのと同じです。シャークアタックに遭遇したら、竿を捨てるか、手持ちのナイフで糸を切って下さい。海に引き摺りこまれ
ます。………あぁ、でも丈二さんや狼兄様なら何とかしそうだしな。……外史補正掛けとくか?
そんなわけで、恋姫にだけは絶対に守らせて下さい。』
「おい!焔耶!竿を捨てろ!サメだ!」
「サメ?サメぐらい、私の力で釣りあげてみせオワァ!」
焔耶は意地を張ったせいと言うのもあるが、何故か防波堤の上に落ちていたバナナを踏んで、滑ってしまう。
なんでこんな所にバナナがというツッコミを入れている場合では無いため、ツッコミは無しだ。
バランスを崩した焔耶はサメの力に負け、海へと転落する。
berufegoalはギターケースからリベリオンを取りだし、焔耶が落ちた海へと飛びこむ。
海の中でberufegoalと焔耶を待っていたのは頭部が左右に張り出していた大きな魚だった。
その魚は二人を餌と認識し、殺意を向けて来る。
berufegoalは焔耶にテトラポットの上に登って避難するようにサインを出した。
武器を持っていない焔耶は素直に彼の言う事を聞く。
「Huh!これまで仕事で悪魔を何匹も見てきたが、悪魔みたいな魚は初めてだぜ。」
その魚の名前はアカシュモクザメだった。
その特徴的な頭から英語ではScalloped hammerhead(直訳:貝殻ハンマーヘッド)と言われている。
メジロザメ科のサメやホホジロザメほど人を襲う事は無いのだが、サメ類の中では気性は荒い。
海水浴場にも現れることもあり、死亡事故が発生している。
「悪魔鮫が5匹かよ。」
このアカシュモクザメの最も厄介な所は群生することである。
冬の与那国島で、アカシュモクザメが100匹近くの群れをつくるというのはスキューバダイビングをする者の間では有名な話で、それを目的に毎年多くの客が訪れるという。
水産系の高校では、このサメの駆除実習という講義があるぐらいだ。沖合での出没率は高い。
「おい、聞け。悪魔鮫。よくも焔耶を危ない目に合わせてくれたな。今すぐシンディの店のストロベリーサンデーを出せば、命だけは
勘弁してやる」
berufegoalが中指を立てて、サメを挑発する。
アカシュモクザメは目の前の餌の行動が挑発だったと分かったのか、一斉に襲いかかってきた。
berufegoalはリベリオンを前に出し、防波堤の壁を蹴って、海中を猛進する。
ただの突きに見えるかもしれないが、『スティンガー』という技だ。
彼が編み出した技は悪魔と戦う為に編み出したオリジナルの技だ。
幾ら水の中で、ピザ(オリーブ抜き)を食べていないとはいえ、彼がシュモクザメを貫けないはずがないのだが、海の中は水の抵抗だけではなく、波によって体を安定させることが困難なため、攻撃を命中させるのは至難の技だ。
そのため、攻撃はそれてしまう。
「チッ!外したか。やっぱり海の中では動きにくいな。だが、ハンデには丁度いいぐらいだ。」
そう言って、彼は再びシュモクザメと対峙する。その後、彼が行った事はシンプルだ。
自分に噛みついたサメの頭を叩き切る。そうして、4匹を仕留めた。
そして、残りの1匹と思った時、berufegoalはある事に気が付いた。
残っているサメの口に見覚えのある桃色のルアーが付いていた。
「テメェが焔耶を海に落とした奴か。覚悟しろよ。」
仲間のサメの血を嗅いで興奮状態にあるサメは彼が何を言っているのか分かっていない。
興奮状態にあるサメはただ目の前の獲物をどうやって食べようかとしか考えていない。
berufegoalはリベリオンをそんなサメに向かって投げた。それを難なく避けたサメは大きな口を開けて突っ込んで来たが、シュモクザメに噛まれない様にberufegoalはサメの頭を掴み、下あごに足を掛ける。
サメは鼻や鰓蓋を触られるのを嫌う習性にある為、berufegoalに鼻の近くを触られてかなり気が立っている。
そんなイラついているサメは目の前に居る得物を食おうと前に進んだり、左右に首を振ったりするが、口の中に獲物が入ってこない。そんな状況をberufegoalは『サメでロデオをしているようだ』と楽しんでいる。
さて、この状況をどうしようかとberufegoalが悩んでいたその時だった。
「そろそろお遊びは終わりかよ。」
サメは防波堤に向かって進み始めた。どうやら、防波堤に獲物をぶつけて弱らそうと言う腹らしい。
それをberufegoalも察知したが、彼は逃げない。逃げれば、腕に噛みつかれると分かっているからだ。
そんな状況に置かれた彼が取った行動は簡単だった。サメとの力比べだ。
防波堤にぶつかる直前に彼は足を鮫の口から離し、右足を防波堤に刺さったリベリオンに掛け、左足を防波堤に掛ける。サメのあまりのパワーにberufegoalは腕を曲げてしまう。
やはり、海の中での力比べには無理があったのかと思われたが、彼は再び腕を伸ばして、サメを押し返す。
どうやら、本気では無かったらしい。
「なかなかガッツがあるな。だが…」
berufegoalは右足をリベリオンから離し、サメの腹を蹴った。蹴られたサメは海面を越えた。
防波堤刺さっていたリベリオンをberufegoalは抜き、防波堤を蹴り、テトラポットへ行く。
そして、次はテトラポットを蹴り、ジャンプして海から出る。
ジャンプすると、サメは防波堤の真上3mぐらいの所に来ていた。
「Jack pot!!」
腰にあった愛銃エボニー&アイボニーを抜き、サメの頭に向かって乱射する。
頭が貫通したサメは血潮を撒き散らしながら、250cmの巨体が防波堤の上で倒れた。
ピクリとも動かなくなったサメの頭から血が溢れだし、防波堤のコンクリートを赤く染めていく。
berufegoalも遅れながら、防波堤の上に着地する。
「フーッ、ったく、一張羅がボロボロだぜ。結構高かったんだが、また買い直しかよ。
こうやって、また借金が増えて行くのか。マジで溜まったもんじゃないな。」
berufegoalはサメに噛まれてボロボロになった服を脱ぎ、上半身裸になる。
ズボンやパンツを脱がないのは、R指定になってしまうからだ。
「っと。」
「おい、berufegoal大丈夫か!?」
フラフラのberufegoalに、焔耶は咄嗟に駆け寄り、支える。
普通なら、berufegoalの傷はすぐにふさがるはずなのだが、戦っていた所が海の中だった所為か、傷のふさがりが遅く、海の中で血を流し過ぎてしまったようだ。
さっきまで普通に立っていられたのは、彼のテンションが高く、ランナーズハイ状態だったからだろう。
そんな貧血+ピザエネルギー切れでフラフラのberufegoalを焔耶はお姫様だっこして防波堤の建物の休憩部屋に連れて行く。普段の焔耶ではありえない甲斐甲斐しさだ。これにはさすがのberufegoalも驚く。
更に、ストロベリーサンデーを作ってきて、アーンをしてきたので、berufegoalはそれを喜んで食べた。
焔耶は料理に慣れていない為、丈二のレシピを見たのにも関わらず、塩と砂糖を間違えて入れてしまった。
だが、そんな猛烈にしょっぱいストロベリーサンデーをアーンで食べさせられたberufegoalは嬉しさのあまり、味覚が落ちていたのか、ストロベリーサンデーが少しだけしょっぱいようにしか感じなかった。
そして、しょっぱい原因は潮風や自分の髪から滴り落ちる海水の所為だと自己完結。
その後、berufegoalが回復するまで、焔耶は膝枕をした。
−うたまる−
「ねえ、うたまるお姉ちゃん、この籠、何に使うの?」
「これはね。蟹籠って言うんだよ。」
「こんなんで本当に蟹取れるのかよ。」
「取れるわよ。でも、使い方を間違えれば、これは最悪の道具よ。」
「怖いの?」
「うんうん、正しい使い方をすれば怖くないよ。璃々ちゃん。」
蟹籠とはご存知だと思うが、名前の通り、蟹を取る為の籠だ。
蟹を取る漁業は基本、この蟹籠を使うか、底引き網を使うかのどちらかである。
網で掬っても良いのだが、そうなると、うたまるは璃々につきっきりになってしまう。
折角ここまで来て、釣りが出来ないと言うのも寂しい為、蟹籠を用意したのだ。
構造は簡単だ。籠の中に餌を入れる袋がある。普通は魚の切り身を入れる。
そして、魚の切り身の匂いに釣られて、蟹が籠の中に入る。
蟹は籠の中に入ったは良いが、籠の構造上、外に出れないようになってしまうというわけだ。
これが蟹籠の仕組みである。
そして、そんな蟹籠をうたまるが最悪の道具と表現したのには理由がある。
「幽霊漁業?なな、なんだよそれ?」
「別に本物の幽霊が出て来る訳じゃないのよ。」
「良かった。璃々、お化け怖いもん。前に、翠お姉ちゃんも怖いって言ってたよね?」
「べべべべ別に怖くないぞ!何言ってんだ!璃々!!」
「あぁ、お化け。」
「Φ★ΔΠ§〒◆⊆Σ!!」
「やっぱり怖いんだ。」
「卑怯だぞ!!うたまる!璃々!」
「璃々、何も言ってないよ?」
幽霊漁業と言い方はあまりしない。『ゴースト・フィッシング』の方が知っている人もいるかもしれない。
簡単に言えば、逸失漁具による漁業だ。だが、これだけでは分からないだろう。
今回の蟹籠を例に説明してみると分かりやすい。
まず、ある蟹籠が沈められたとする。餌があり、その籠を引き上げる紐もちゃんと着いている。そして、籠の中に蟹が入る。そこで、水揚げすれば、籠の中の蟹は回収され、人に消費される。意味のある漁業だ。
だが、もし、蟹籠を引き上げる為の紐が切れてしまったら、そこから阿鼻驚嘆の蟹籠地獄が始まってしまう。
具体的に説明するとこうだ。蟹籠の中に入った蟹は籠の中の餌を食べてしまえば、他に食べるものがない。
そのため、餓死してしまう。すると、餓死した蟹から死んだ蟹の匂いが辺りに漂う。
すると、その匂いに釣られて、また蟹が寄って来て、蟹籠の中に入る。
蟹籠の中の死んだ蟹を食ってしまえば、他に食べるものが無くなってしまうので、餓死してしまう。
そして、また死んだ蟹の匂いが…と蟹籠が壊れるまで、意味のない漁業が無限ループし続ける。
最近の蟹籠の強度はとても高い為、壊れるまで、10年以上は掛かってしまう。まさに、蟹籠地獄だ。
この蟹籠地獄で蟹達は人に食されることなく、自然の生き物の糧となることなく、無駄死にしてしまう。
まるで、幽霊が漁業しているようなので、『ゴースト・フィッシング』と呼ばれている。
近年漁業者の間では問題となっており、自然に帰る素材による漁具の開発や、強度の高い素材による漁具の開発、逸失漁具の回収や漁具の投棄に対する取り締まりを行っている。
「だから、この紐、絶対に無くしちゃ駄目だよ。」
「うん、分かったよ。うたまるお姉ちゃん。」
「まあ、殆どの都道府県の漁業調整規則で蟹籠って禁止されているから、本当は使ったら、即効罰金か豚箱に行っちゃうから、駄目な
んだけど、此処は都合の良い外史って設定だからおkってことでね?」
「誰に言ってんだよ?」
「ん?読者ですよ?」
「ドクシャって誰だよ?」
「気にしないください。翠お姉さま。」
うたまるは黒山羊から教えてもらった知識を披露する。
北海道の場合、北海道海面漁業調整規則44条には遊漁者(漁業者でない釣り人)が使用できる漁具は竿釣り及び手釣り、たも網(網口・網長40cm未満に限る)、徒手による採捕と明記されている。その為、北海道では蟹籠の使用を禁止している。他にも取ってはならない魚種や、釣りの禁止エリアもこの漁業調整規則に書かれているので、釣りをされる方はこれを読んでおくのを作者はオススメする。
自分の住んでいる都道府県がどうなのか、気になる人は『○○県漁業調整規則』とググって下さい。
「今回は蟹籠にセットする餌として秋刀魚の切り身を使います。」
「此処に入れたら良いの?うたまるお姉ちゃん?」
「そうだよ。後は沈めて、紐の端っこを此処に結んでおくから、璃々ちゃん、忘れないでね。」
「うん!」
「よし、じゃあ、釣りを始めましょうか。翠お姉さま。」
「あぁ、待ちくたびれたぞ。」
そして、うたまるは2本磯竿と直方体のゴム状のバケツ、エアレーションの付いた小さな入れ物を持って来た。
竿はとても細くて柔らかく、とても長い。
このゴム状のバケツはバッカンというらしく、中には解凍されたアミエビが大量に入っている。
エアレーションの付いた小さな入れ物の中にはたくさんのウニが入っていた。
「で、これで何を釣るんだ?」
「腐ッ腐ッ腐ッ腐ッ腐ッ腐ッ腐。」
「何が腐っているの?うたまるお姉ちゃん?」
「璃々、たぶん『ふっふっふっふっふ』って笑っているんだよ。コイツ時々おかしいから。」
「おかしくなんかないわよ!…………ごほん、それで、私達が釣る魚だけど、高級魚石鯛です。」
「えぇ!お姉ちゃん達美味しいの、釣るの?」
「って、石鯛釣るのに、ウニ使うのか?」
石鯛は季節ごとによって餌が異なるのだが、美しい模様や小さな口からはとても考えられない様な、固い物を好んで食べる。今回餌として使うウニ、サザエや、ヤドカリ、ハマグリは石鯛の大好物だ。
そんな堅いものを食べるのだから、当然顎の力はとても強い。その為、石鯛用の釣り針はとても頑丈だ。
牙も鋭いので、針に直接結ぶ糸は普通のハリスではなく、ワイヤーハリスと呼ばれる丈夫なモノを使う。
仕掛けは落とし込みと呼ばれる仕掛けを使われるのだが、今回の二人の目的である石鯛の落とし込みは普通の落とし込みとは少しばかり異なっている。
まず、サルカンという二つの金属の輪っかが繋がった金具の片方の輪っかにリールからの道糸を結ぶ。
そして、もう一つの輪っかの方に瀬ズレワイヤーというワイヤーを結ぶ。
瀬ズレとは針を咥えた魚が岩の中に隠れたりすると、釣り糸が岩等に擦れてしまう、この岩に糸が擦れる現象のことだ。瀬ズレワイヤーとはそんな瀬ズレが起きても、糸が切れない様にする為の金属製の糸のことである。
三又サルカンという三方向に金属の輪っかがあるサルカンの一つの輪っかにに瀬ズレワイヤーを結ぶ。
もう一つには捨て糸という名前の糸を結び、その先にはオモリが付いている。
捨て糸は瀬ズレで糸が切れてしまっても構わないということから、捨て糸と言われている。
最後の輪っかには石鯛針の付けられたワイヤーハリスが結ばれている。
これで仕掛けは完成だ。…とまあ、なんとも、厳つい仕掛けを石鯛では使う。
「で、こっちのは何に使うんだ?」
「これは撒き餌ですよ。」
「なるほど。餌をばら撒いて、寄ってきた魚を釣るってわけだな。魚も馬鹿すぎるだろう。」
「あら、だったら、料理の匂いに釣られて食堂に来る翠お姉さまも同類ってことで宜しいかしら?」
「うぐっ、そうだよ。どうせ、あたしは馬鹿だよ!脳筋だよ!」
翠は防波堤の上で『の』字を書き始めた。
璃々ちゃんに怒られたうたまるが翠に謝り、何とか翠は立ち直った。
こうして、うたまると翠の釣りが始まった。
テトラポットの上に二人は立つ。
璃々ちゃんには危ない為、少し離れた所で二人の釣りを見たり、風と一緒に遊んでいたりしている。
そして、海に仕掛けを降ろし、仕掛けの近くに撒き餌を撒く。
本命の餌を中心に餌を撒かないのは、石鯛はとても慎重な魚であるからだ。
他の魚の行動を見て、それから動く。その為、少し撒き餌から離れた所に本命の餌があった方が良いのだ。
竿の感触に注意しながら、うたまると翠とのガールズトークタイムが出来た。
「翠お姉さま。」
「どうした?」
「今日来ている外史管理者だったら、どのカップリングが良いと思われますか?」
「はあ!?」
「私としては、そうですね。まず、黒山羊さんは……受けですね。あんな口調だけど、襲われたら絶対良い声で鳴くと思います。アヘ
顔は結構……いや、絶対にアリ。それから、狼様は………うん。それとberufegoalさんはね、そうね………あぁ、もう!!ご飯三
杯でも五杯でも行けそう//////ちょっと、ご飯取って来ますわ!」
「…行ってらっしゃい。仕掛け上げといた方が良いぞ。当たりが来たら、竿引き摺りこまれるからな。」
「分かっていますとも、翠お姉さま?」
そう言って、うたまるはリールを巻いて仕掛けを上げると、鼻息を荒くし、頬を染めながら、スキップで建物にある食堂へと向かって行った。『友達選ぶの間違えたかな?』と翠は内心思った。
だが、うたまるは翠にとってこれまで見たことのないタイプの人で、とても新鮮だった。
それに彼女と居るととても楽しい。そのため、このまま彼女の友達であり続けるのも悪くないとも思っているが、自分もいつか毒されてしまうんじゃないかと若干心配しつつ、この場に、朱里や雛里が居なくて助かったと翠は安心する。おそらく、二人が居たら絶対に翠は洗脳されていただろう。
「ねえ、翠お姉ちゃん、うたまるお姉ちゃんとても嬉しそうだけど、何かあったの?」
「何でもないから、気にしなくて良いよ。」
「??」
数分後、うたまるは炊飯器を持って戻って、防波堤の上に炊飯器を置く。
そして、仕掛けを海に降ろし、ご飯をしゃもじで食べながら、釣りを再開した。
うたまるはご飯を食べながら、ブツブツ呟いたり、いきなり立ち上がり、『劉邦&berufegoal攻めの黒山羊受けの鬼畜3P!これよ!!KTKR!』と大声で叫ぶ。璃々の頭上には幾つもの『?』が出ているが、璃々の教育上宜しくないと判断した翠は頑張って誤魔化し切った。
中途半端にうたまるの言っていることが分かってしまう翠は自分を呪った。
「おっかしいな。確かに、今引いたんだけどな。」
「翠お姉さま、当りあったのですか?」
「あぁ、でも何でか、掛からないんだよ。」
「三段引きですね。」
「三段引き?」
三段引きとは慎重な性格の魚に良くある引きだ。
慎重な魚は餌を何度も噛んだり、吐いたり、飲み込んだりと、餌が安全な物か確かめる。
だが、文字通り、三回目の当りが良いというわけでもない。1回目で本当りが来る場合だってある。
初めて釣りをする人からすれば、何処で当りを取ったら良いのか、判断するのが難しい。
だから、一つの目安として、柔らかい当りがあったら、ゆっくり竿先を送りこむのが良いとされている。
竿先を送りこむことによって、糸に余裕が出来るので、餌は自然な動きをする。
その結果、石鯛達は安心して餌に食いつくのだ。それをうたまるから教えてもらった翠は数十分後に、
「来たぁ!」
「えぇ!ちょっと!なんで!私の方が翠お姉さまより釣りに詳しい筈なのに、翠お姉さまの方が先に当たりが来るのよ!」
釣り場でよくあるビギナーズラックと言われている奴である。
もう、『お前の日頃の行いが祟ったのだろwwプゲラww妄想(笑)ww腐女子乙ww』と言う他ない。
「何か今、作者に腹が立ったわね。」
「そんな事良いから、このリールを巻けばいいんだよな!?」
「えぇ、そうです。それから、竿の持ち手の部分が糸を直角になるようにして下さい!」
「えぇ!えええ!?どうしたら良いんだ?寝かしたら良いのか?立てたら良いのか?どっちだよ!」
大物が掛かれば、竿を立てるのが常識と言われているが、それは竿の寿命を縮めてしまいかねない。
足元の魚を釣る時は特にそうだ。竿がUの字に曲がり、バキッと言ってしまうことなんて、結構ある。
作者もイカを釣る為の竿で鯉を釣ろうとして15000円の竿を折っているww
「もうちょっと、寝かす!」
「わ、分かった!」
翠の竿は大きく撓っているかなりの大物のようだ。
それから数分間、翠はリールを巻き続けるが、魚も黙って釣られるつもりも無く、何度も反撃する。
反撃の度に、リールのスプールと呼ばれる糸が巻かれた所はキリキリと音を立て、回転し、道糸を吐きだす。
魚の反撃が終わると翠がリールのハンドルを回し、糸を巻く。魚が左右に走らないのは磯の魚の特徴だ。
その激闘の末、魚を翠は足元まで、寄せ、うたまるが伸ばしたたも網で掬った。
数時間粘って始めて魚を釣った翠はうたまるとハイタッチをする。
「で、これがうたまるの言っていた石鯛なのか?」
「えぇ、体形からして、そのはずだと思うんだけど?」
うたまるが疑問を持ったのも無理も無い。
翠が釣りあげた魚には石鯛の特有の縦縞が確かにある。それだけなら、石鯛と言い切れるのだが、石垣鯛特有の黒褐色の斑紋もある。石鯛にも見えるが、石垣鯛にも見え、どちらか判断に困るものだ。
そんな翠が釣った魚は近鯛と言われており、近◆大学が石垣鯛と石鯛を交配させて、人工的に作られた魚である。自然界にも稀にいて、一部では長崎石鯛と言われているが、近鯛という名の方が有名だ。
近鯛と名付けら得たのは、石鯛×石垣鯛で思いつく名前が無かったかららしく、近◆大学が作ったからという理由から、近鯛と名付けたのだ。増殖学研究者も結構遊び心があるようだ。
近鯛は石鯛と石垣鯛の二つの良い所を持っていると言うが、具体的な所までは作者もさすがに知らない。
その代り、近鯛は生殖機能を持っていない為、繁殖することが出来ない。
そのため、自然界で見つかりにくいと考えられる。
そんな近鯛の幼魚は餌として近◆大学の養殖しているマグロの幼魚に与えられている。
完全養殖されているマグロの幼魚とはなんとも贅沢な奴だ。
その後、翠が1匹石垣鯛を上げ、うたまるが石鯛を上げた。
うたまるが目的の魚を釣って満足した為、璃々の相手をすることとなった。
璃々は風と桃香と顔がボロボロのひっとーの4人で遊んでいた。
何故顔がボロボロなのだろうと、うたまるは疑問に思ったが、隣の笑顔の桃香が少し危険だと本能的に察知し、何も言わなかった。
そして、璃々に蟹籠を上げると言うと、璃々が3人を誘った。
渡り蟹は夜行性であるため、一晩蟹籠を沈めておくのだが、今回はご都合主義が効いている。
「じゃあ、璃々ちゃん、風ちゃん。上げてみて。」
「うん。風お姉ちゃん頑張ろうね。」
「べべつに、オメェの為にやるんじゃなんだからよ。」
「これ、宝慧。璃々ちゃんにツンデレは高度過ぎるのですよ。」
「うんとこしょ!どっこいしょ!蟹籠はすぐに上がりません♪」
「俺が幼子だったの頃を思い出すな。寺子屋で読んだ本にそのような一節があったか。」
「あの話は露西亜の民話なのですよ。」
「何で風ちゃんが知ってるの!?」
「秘密なのです。」
「そうか。秘密か。」
蟹籠が上がり、中を見てみると渡り蟹とアナゴが入っていた。
アナゴは死体を食べる習性があるので、一部地域では不気味な魚と嫌われている。
蟹籠の餌に釣られてアナゴが蟹籠に掛かることはそこまで珍しくない。
「蟹さん綺麗。」
生きている渡り蟹は個体によって異なった色をしている。
青黒い甲羅に白色の模様が入っていたり、黄色だったり、黒かったりする。
これは捕食者の目をごまかす為の保護色だからだ。住んでいる環境によって異なってくる。
そんな渡り蟹が蟹籠に9匹も入っていた。こうして、蟹籠も無事大成功に終わる。
−狭乃 狼−
「ちょっと、この船速すぎない?」
「はっはっは!頭でっかちの軍師はこのような速さで怖気着いているの…うっぷ。」
「華雄は横になっとけ、もう少しで酔い止めの薬効いてくるはずだから。」
「すまない。狼」
「ったく、酔い始めてから、酔い止めの薬を飲むってアンタおかしいでしょ!」
「酔い止めというぐらいだから、酔いを止める効果があるのかと思っt……ふぅ。」
「桂花?俺に抱きつくのは良いが、二の腕に爪を立てるのは止めてくれないか?地味に痛い。」
三人を乗せた船は猛スピードで南へと向かっていた。
華雄は予め酔い止めの薬を飲んでいなかった為、船酔いでグロッキーだ。
1時間もすれば、薬は効いてくるはずだが、華雄を心配させまいと、狭乃狼は華雄のすぐ近くに座り、華雄の手を握って安心させている。そして、そんな狼に桂花はしがみ付いている。
狼にしがみついているのは、船の速さにビビってしまっているからだ。
爪を立てているのは狼にもっと構ってほしいと言う本心の裏返しだろう。
「本当に沈まないんでしょうね?」
「桂花、その話、11回目だぞ。」
「五月蠅い!この船、黒山羊の船なんでしょ!アイツの船一回沈没しているんでしょ!誰が安心するのよ!」
「だから、それはぶつかったからで、そうそう沈むもんじゃないから、安心しろって。」
「タイタニックって話あったでしょ!アレって氷山にぶつかって沈んだのよね!此処にも氷山なったらどうするのよ!」
「落ち着け、桂花。こんな温かい海だと、氷山解けてるから。」
「此処はあの黒山羊が外史なんでしょ!何よ、じーく・はいる・ひなりんって!あんな頭のおかしい奴が作った外史がまともな筈無い
じゃない!」
桂花は無茶苦茶な暴言を吐いて、正気を失っているが、意識はハッキリしている。
ある意味グロッキーな華雄よりマシだが、厄介さでは雪蓮に暴言を吐かれた時の華雄より厄介だ。
そんな状態が出港から2時間ほど続く。
「船が遅くなったわね。」
「何かあったのかな?ちょっと見て来る。」
船が遅くなったことにより、桂花はため息を吐き、脱力する。
華雄も薬が効き始めたのか、顔色が良くなっている。
狼は立ち上がると、船の操縦室、通称・ブリッジへと向かった。
ブリッジの大きなモニターには『水面付近にカツオの魚群あり』と書かれていた。
『魚種まで特定できるとはハイテクにも程があるだろう!』とツッコミたくなるような代物だ。
狼は二人の居る部屋に行くと、今から釣りを始めるから外に出るように即す。
外に出ると大量の鳥が飛んでいた。カツオドリだ。
カツオドリとはペリカンの仲間で、熱帯海に生息しており、カツオの群れの上をよく飛ぶ鳥だ。
そんな海面で群れているカツオドリの群れを鳥山という。
九州でカツオを獲る時はこのカツオドリの鳥山を見て、漁師は動くらしい。
「じゃあ、まず、この竿でカツオを釣るぞ。」
「狼よ。私はトローリングをしたいと言ったはずだが?」
「アンタ自分で見た番組忘れたの?」
カジキマグロをトローリングで釣る場合、ルアーを使う方法と餌釣りをする方法の2つに分けられる。
ルアーは先ほどまでの説明で多くの人が分かっているとは思うが、疑似餌に針の着いた物の事を言う。
そして、トローリングでカジキを釣る時に使われる餌がカツオだ。
そのため、トローリングをする時はまずカツオ釣りを行わなければならないのだ。
「ということで、この小さなトローリングをしてカツオを釣るぞ!」
「カツオなら、一本釣りの方が格好良い気がするが、そっちは無理なのか?」
「あぁ、なんでも、『狼兄様が一本釣りでカツオを釣るとひっとーさんと被ってしまうからNGという方針でお願いします。』との作
者からの御達しで、カツオを釣るのもトローリングでということになった。」
「要するに、作者の都合ね。」
「まあ、良い。カジキと戦う前の練習だ!」
狭乃狼はカツオのトローリング用の仕掛けを準備する。
仕掛けはゴム状のタコさんウィンナーもとい、烏賊に似せた疑似餌だ。
そして、その疑似餌を流すだけだ。釣ったカツオは船の甲板の生け簀にカツオを入れる。
十数匹釣ると、狼はブリッジに向かい、機械を操作する。
これで、カジキマグロを狙うように船は動いてくれる。
狼は竿を二本取りだす。両方の竿に付いているリールにはナイロンラインという太い糸が巻かれていた。
そして、そのナイロンラインの先にはこれまで以上に大きな釣り針が付けられていた。
今回用意された釣り針は鮫避け釣り針、通称:SMART HOOKという特殊なモノだ。
2011年6月7日に発表されたこの釣り針は、釣り針から磁気が出る。
その磁気によって、サメだけが嫌がるという仕組みになっている。なぜ、サメだけが嫌がるのかというと、サメにはロレンチーニ器官という感覚器がある。この感覚器は通常、遠くの電磁波を受信し、獲物を探しだすのに使われているのだが、これを逆に刺激することによって、鮫避け効果を発揮させるのだ。
そんな特殊な釣り針にカツオを付ける。鼻掛けという針の付け方で、文字通り、魚の鼻に針をかけるのだ。
そして、針の付いたカツオを海に落とす。後は船を走らせるだけだ。
「よし、これで、今からカジキ釣りだな。」
そう言って狼は華雄に変わった形のベルトとベストを渡す。
ファイティングベルトと言われているベルトと、ファイティングジャケットと言われているベストの様な物だ。
大型のカジキマグロの引きは強い為、腕の力だけでは釣ることが出来ない。その為、全身の力を使って釣ることが出来るように、竿を体に固定させる必要がある。
竿の尻を腰に固定させる役割があるのが、ファイティングベルトだ。
そして、リールとチェーンで繋いで固定する上着がファイティングジャケットだ。
これを着て竿を装着していれば、両手を放しても、竿が飛んでいくことは絶対にない。
2つを狼は華雄に着せる。いつもの服装でも装着できたのは幸いだ。
2つを着た狼は華雄に当たりが来た時の対処方法を教える。
当たりが来たら、まず、他の竿をの仕掛けを回収する。これなら桂花でも出来るので、桂花にも教えておく。
そして、当りのあった竿のリールとファイティングジャケットを繋ぎ、竿から離れない様にする。
そして、ロッドホルスターという船の竿を固定する所から竿を外し、ファイティングベルトに竿の尻を固定する。
後は、デッキの中心のある椅子に座って格闘するだけだ。
椅子に座って大丈夫なのか?という疑問が初心者にはあるだろうが、実はこの椅子に座った方が釣りやすい。
この椅子には車いすのように足を乗せる所がある。それを利用すれば、腕と足の屈伸運動によって、竿を立てたり寝かしたりするのが容易に出来るので、ポンピングを行いやすい。
ポンピングとは、糸巻きのテクニックの一つで、まず竿を立てる、そして、いきなり竿を寝かし、リールのハンドルを回して糸を巻き取って行き、また、竿を立てて、を繰り返す糸巻き方法だ。
『ラインの強度が飛躍的に上がった今日では、ポンピングは古く、竿を立ててひたすらリールのハンドルを回す糸巻きのクレーン巻きの方が良い』という釣り人もいるが、作者の経験上、ポンピングの方がリールを巻く腕への負担が減るので、持久戦には向いていると思っているが、まあ、糸巻きの方法なんて、人それぞれだろう。やりたいようにやれば良いと思う。
狼なら、腕だけでも楽勝では無いのか?という疑問が上がるが、そうすると糸が絶対に切れてしまうか、魚が針から外れてしまう。万が一、糸が切れなかったとしても、そもそも、盛り上がりに欠けてしまう。
そのため、狼が釣り道具に触っている間だけ、狼の力を制限するような設定をこの外史に黒山羊が施した。
「とまあ、仕掛けを用意したのは良いが、魚が掛かるまで暇だし、椅子に座って竿でも見ながらボーっとしようか。」
「それなら、飯はどうだ?」
「さっき吐いてたアンタは丁度いいかもしれないけど、私はまだお腹空いていないわ。」
「そうだな。じゃあ、冷蔵庫の中のハ○ゲンダッツでも食べるか。」
「そうね。それぐらいなら、丁度良いかも。」
そう言って、狼は椅子から立ち上がり、船内キッチンへと向かう。
後ろから二人の『私ラムレーズン!』『私もだ!』というリクエストが聞こえてきた。
狼は冷蔵庫の扉を開け、バニラ1つとラムレーズン2つ取る。
内心、狼はラムレーズンな気分だったが、華雄と桂花が悲しむ顔を見たくないので、自分の分はバニラにした。
スプーンもちゃんと3つ持って行く。これが何処かの性獣なら、スプーンを一つだけ持って行って、使い回しして、華雄と桂花と間接キスしたあげく、ペロペロするのだが、狼はそんな奴ではない。
「っと、飲み物も入れて行くか。」
狼はティファ○ルで湯を沸かし、マンゴーティーを入れる。
念願の華雄と桂花と3人の釣りが叶い、かなり上機嫌だ。嬉しさのあまり、狭乃狼は鼻歌を歌い始める。
紅茶が入れ終わったので、鼻歌を歌いながら、デッキへと向かった。
「迫りくる影を一網打尽♪ 叩き斬って? 気高く吠えろ? 牙r!!華雄来たのか!」
狼が外に出ると、華雄がデッキの中央に座り、ポンピング方式で糸を巻いていた。
狼は近くの机の上にティーポットとハーゲンダッツを置く。
桂花はどうすればいいのか分からず、あたふたしている。
かなり引きが強いのか、雄たけびを上げながら、華雄はリールのハンドルを回す。
そんな華雄の頑張りもあって、糸は順調に巻かれて行く。このまま、後10mも巻けば、釣れると思った。
だが、いきなり、リールから糸が出て行く。どうやら、魚が反撃に出たようだ。
ひたすら、魚は遠くへと走る。
華雄はリールを巻こうとするが、ドラグを少し緩めていた為、幾ら巻いても糸は出て行く。
ドラグとはリールの糸が巻かれたスプールを固定する為のナットの様な器具だ。
そんなナットの様なものが緩いのであれば、閉めれば良いだけの話なのでは?と初心者は思うかもしれないが、そうすると、糸の弾力だけで、魚の引きを受けなければならない。そうすると、人が海に落ちるか、糸が切れるかのどちらかだ。だが、ドラグを少し緩めておけば、巣プールが回転し、糸を出すことによって、人が海に落ちることも無ければ、糸が切れることも無い。
華雄は魚の反撃が弱まるのをひたすら待つ。
「おぉ!あれか!」
「すげぇー!」
「………はぁ。」
遠くで魚が水面で跳ねたのだ。遠くても視認できる強大な((吻|ふん))、間違いなくカジキだ。
背びれの形、吻の長さから、カジキの中でも最大級のメカジキだ。
カジキは吻で舵木(船の舵をとる硬い木板)を突き通すことから((舵木通し|カジキドオシ))と昔は呼ばれていたが、それが略され現在の((梶木|カジキ))となったという説が有力である。
華雄の竿に掛かったメカジキが取った、水面に尾で立つように暴れまわる様子をテイルウォークと言う。
そんな凄まじいテイルウォークに3人は感嘆の言葉しか出なかった。
そして、相手の姿を見た華雄は闘志が燃えてきた。
それから、華雄の攻撃とカジキの反撃が何度も続いた。
流石の華雄も30分近い持久戦で、滝のように、汗をかいている。
30分程度の戦闘なら、汗をかかないのだろうが、普段使わない筋肉を使っている所為か、疲労の色が見える。
「華雄、喉乾いてないか?」
「いや、それより、汗がベトベトで気持ち悪い。そのペットボトルの水を頭から掛けてくれ。」
「おう、わ、分かった。分かったが、頭から水をかけると、下着透けるかもしれないぞ。」
「かまわん!今、私は女では無い!一人の釣り人だ!透けた下着ぐらい、見たいなら、見ていろ!」
狼は華雄の頭に水をかける。そして、華雄は頬を叩き、再びリールのハンドルを巻き始めた。
桂花に『厭らしい目で華雄を見たら、引きちぎるわよ。』と釘を刺されたが、狼は華雄の闘志に当てられた為、華雄の透けた下着を見るような行動には出なかった。これが何処かの犬なら問答無用でクンカクンカペロペロしていただろう。
そして、1時間の激闘の末、カジキが船に近づいて来た。
狼はビッグゲームグローブという丈夫な手袋をはめた左手で道糸を掴み、左手に巻きつける。
そして、右手で持ったギャフという鉤針をメカジキの鰓蓋に引っかけようとした。
だが、突如メカジキは暴れ出したのだ。
普段の狼なら、踏ん張れたのだが、今の彼は漁具を触っている為、一般的な成人男性の3分の2程度しかないうえに、しかも、その触っている漁具である道糸は彼の左手に巻かれた状態で、船から体を半分以上乗り出しているうえに、完全な不意打ちだった。
海の中に引きずり込まれるのは必至だった。
「「狼!!」」
華雄と桂花は悲鳴を上げる。
だが、カジキが暴れ始めたことによって、再び引き始めたので、華雄はそれどころでは無い。
もちろん、武闘派でない桂花には浮き輪を用意して、狼が上がってくるのを待つしかなかった。
一方、海に落ちた狼だが、落ちた時に手にまかれていた糸が解けた。
そして、目の前でカジキが暴れている。
「よし、漁具を触っていないから、本気を出せる。」
狼は指の関節を鳴らすと、水中で構えた。
敵意を当てられたメカジキは狼目掛けて突撃してくる。
カジキの狩りを知っているだろうか?あの吻で刺す?…違う。吻で叩いてくるのだ。
しかも、メカジキはswordfishという名前があるぐらいで、その吻はとても鋭い。
あの吻で叩かれたら、気絶するか、斬られてしまう。
そして、気絶か致命傷を負って死んだ魚をカジキは食べる。これがカジキの狩りだ。
それを事前に聞かされていた狼の行動は一つしかなかった。
狼はカジキの行動を予測し、カジキの吻を真剣白刃取りしたのだ。
そして、右足を上げ、メカジキの脳天に踵落としをする。
海の中で抵抗がキツイとはいえ、狼の本気の踵落としを喰らったメカジキは脳震盪を起こし、気絶した。
そして、狼は海から上がった。
「「狼!」」
「悪い、心配させた。華雄、桂花。感動の再会の前にカジキ上げてしまおうぜ。」
「そうだな。」
「ふん、私を心配される奴なんて、そのまま魚に刺されて死んでしまえば良かったのよ…馬鹿//////」
華雄がギャフで引っかけ、狼と華雄でメカジキを引き上げる。
二人で協力して引き上げたメカジキは超が付くほどの大モノで、365cm、287kgだった。
3人は抱き合い、華雄がカジキを釣りあげたことと狼が海の中から生還した喜びを分かち合った。
「え?」
「私の為に此処までしてくれたお前への礼だ。」
狼は華雄からの不意打ちのキスで茫然とする。
華雄は顔を真っ赤にして、『着替えて来る』と言い残して何処かに行った。
桂花に金属バットで脛を殴られた狼は、悶絶しながら、我に返る。
ちなみに、この金属バット、本来の用途は魚の頭を殴って気絶させる為のものである。
漁具で殴られた狼の悶絶は猛烈に痛がった。事実滅茶苦茶痛い。
その後、落ち着いた狼は、カジキの尾の付け根をロープで結び、船に固定する。
そこに、華雄が来た。着替えた華雄は濡れても大丈夫なように水着を着ていた。スク水は反則である。
3人はトローリングを再開した。
「あ。」
「どうしたのよ?」
「ハ○ゲンダッツ。」
「「あ。」」
ハ○ゲンダッツはドロドロに溶けて、液体になり、紅茶は濃くなり過ぎて渋くなっていた。
どうも、黒山羊です。
久々に釣用語使いまくって、頭がパニックになりましたww
ググりながら、SS書くなんて、人生初ですwwってか、一人6000字は書いたなww
そんな釣用語満載の、出来るだけ分かりやすく解説したつもりのSSは如何だったでしょうか?
今回は劉邦さん、berufegoalさん、うたまるさん、狼兄様の4人の釣りをお送りしました。
恋姫達とイチャイチャしながら、釣りをするというのは、御満足いただけたでしょうか?
まあ、一部、ヤンデレになったり、殴ってきたりと、愛情の裏返しがありましたね。
他にも、ガンダムS■EDのネタだったり、Scho◎l Daysのネタだったり、Devil May Cryのネタだったりと、分かる人には笑えるネタを入れたつもりだったのですが、分かったでしょうか?
次回は骸骨さん、ひっとーさん、丈二さん、龍々さん、黒山羊の予定です。
こんな感じで次回も書いて行こうと思うのですが、大丈夫でしょうか?
イチャチャ成分が苦手な方は言って下さい。
劉邦さん達も、勝手にイチャイチャイベント書いてすみません。
だって、イチャイチャイベントが無いと書き難いこと、この上ない!!
うたまるさんと翠の関係を百合ではなく、友達の関係でもそれなりに書けたのは、一重にうたまるさんのキャラのおかげだと思います。
では、またお会いしましょう。
ご機嫌へぅ( ゚∀゚)o彡°
説明 | ||
滅茶苦茶釣りがしたくなってきた黒山羊です。 ネタが同じ話で被らない様に、気を付けて、参加ユーザーを2つに分けたのですが、それでもやっぱり、被っているような気がして仕方がないですww これで皆さんが釣り好きになってくれたら、幸いです。 |
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総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
3542 | 3268 | 11 |
コメント | ||
あれ?趣味の範囲の釣りはもっとほのぼのしてると……(汗。 魚を調理する時は自分も手伝いますのでよろしく。(龍々) いいじゃないか、もっとやってくれたまえ。(某社長風に) あぁ、それとウチの家内は華琳そっくりとはいえ言葉遣いや性格は結構大人しいんで、そこんとこ宜しく頼む。(峠崎丈二) さて、次回私はどう風といちゃいty・・・ゲフンゲフン・・・どんな魚を釣るのか、楽しみにしてますw(量産型第一次強化式骸骨) なるほど、確かに力に抑制かけていないとつまらんな、トローリングは。ところで、俺が海に落ちたときの華雄と桂花の叫びなんだが、山羊さん?俺の名前の読み、間違えてない?“おおかみ”、じゃないよ?“ろう”、だよ?と、重箱の隅つついてごめんなさい。面白かったですwww(狭乃 狼) |
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真・恋姫†無双 日本近海は世界最高の漁場といっても過言ではない。 | ||
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