黒天編 外伝 エピローグ |
黒天編 外伝 桃園門外の変 エピローグ
気付けばそこにいた。
どうやって来たのか
何故ここに居るのか
そんなことは分からない
ただ、気付けばそこにいた
周りは真っ暗で何も見えず、何もない。
風も吹かず、何も香りもしない。
どちらが北で、どちらが南か分からない。
どちらが天井で、どちらが地面か分からない。
とにかく、何も分からない。
しかし、何もする気もしない。
動く気もしない。
その場を調べる気力もない。
ただただ、どうにでもなれとそう思う。
あんな世界
壊れてしまえばいい。
「ここにいましたか」
どこからか突然、女の声がした
しかし、探す気はしない。
「あなたは死にました。あの外史で・・・肉体的にも・・・精神的にも・・・」
外史?
何を言ってやがる?
「あなたが死んだ後のこと・・・知りたくはありませんか?」
別に・・・
オレには関係ない
「まぁ、そう言わずに・・・こちらをご覧ください」
急に目の前に一冊の本が浮かび上がってきた。
もちろん開く気はしない。
しかし、その本はひとりでにパラパラと捲れ始め、あるページでピタリととまる。
桃園門外の変
「その本は外史事件目録・極東編といいましてね。あなたが暮らす国をベースに作られた外史が掲載されています」
何だこの女・・・
何を言ってやがる。
「私が言いたいことはその本を読んで見えくださいということです」
・・・・・・・・・
いやいやながらその本へと眼を移し、順に文字を追っていく。
「ッ!?なんだよこれっ!!全然違うじゃねぇかっ!!!」
そこで初めて声が出た。
「直由様が将軍暗殺の主犯!?情報もすべてでたらめじゃねぇかっ!!あいつが殺ったんじゃねえかっ!!」
草薙はその宙に浮いている本をぶんどるように乱暴にとると次々とページをめくっていく。
「若はこんな人じゃねぇ!!!吉之助だって!!皆だって!!こんな奴じゃねぇ!!好き勝手書きやがってっ!!」
「それが・・・あなたが死んだ後に語り継がれている歴史ですよ」
コツン、コツンと足音が聞こえてきた。
その音は真正面から聞こえてくる。
草薙は顔をあげると、暗闇から女が姿を現した。
その女の姿に草薙は見覚えがあった。
「貴様っ!!あの時の女っ!!」
「覚えていますか・・・当然ですね」
その女はあの襲撃があった前に刀が濡れてしまわないようにと袋を持ってきた女だった。
「貴様っ!成明の仲間だったのか!!」
「厳密には違います。あの時はただ、私に与えられた役目を果たしていただけです」
「そんなの関係ねぇ!!!」
草薙は自分の腰にある愛刀へと手をかけようとした。
しかし、その掴んだ手は空を切り、そこにあるべきものがなかった。
「あなたの刀はお預かりしています。それよりも、あなたには知って頂きたいことがあるのです」
「黙りやがれっ!!」
草薙は女の下へと突っ込んでいき、拳を振り上げようとする。
しかしその動作の途中で体が急に重くなっていき、その勢いは衰えていく。
そして遂には体が完璧に動かなくなってしまった。
「き・・・さま・・・なに・・・しやが・・・」
「ご無礼をお許しください。ですが、どうしても聞いていただきたいのです。外史と・・・正史について」
「さっきから・・・訳のわからねぇことを・・・」
「今はおとなしく聞いていてください。お願いします・・・」
「・・・ちっ」
草薙は殺気から何とか動こうとしているが、一行に動ける気配がしない。
これではあの女のいうことを聞くしかない。
あの女の言いなりになるのは腹が立つが、今はそうしておくのが得策だろうと考え、ジッとしていることにした。
「ありがとうございます。まず・・・あなたの住んでいた世界ですが・・・実際の正史には存在しないのです」
「あん?何言って・・・」
「あなたの住んでいた世界は私たちが言う所の外史という世界です」
外史・・・
さっきから何度も出てきている言葉だ
「外史とは正史の中で発生した想念によって観念的に作られた世界のこと」
「・・・・・・分けわかんねぇ・・・」
「簡単に言いますと、例えば誰かが正史の歴史で実際に起こった事件や出来事をベースにして物語を作ったとしましょう。その物語がまず初めの外史、私たちの言うところの“発端の外史”となります」
「つまり外史ってーのは、作り話ってことなのか?」
「そう考えていただいてよろしいと思います。そして、その作られた外史を正史の人間が読んだり見たりすることで、その外史を面白いと思い、その外史を支持する人たちがその外史について考えることで、さらなる外史が生まれていきます」
女は淡々と話を進めていく。
それを草薙は意味が分からずともついていこうと耳だけは傾けている。
「そして、その外史という物語を好きになった人たちはその外史をベースにさらなる外史を生み出していきます。あなたの国の歴史上の人物に織田信長という人物がいますね」
「ああ・・・誰でも知ってんな」
「その織田信長がもし女だったら・・・」
「んなわけねぇだろがっ!」
「いいえ、外史ならありうるのです。ただの物語ですから・・・その他にも、もし織田信長が女で明智光秀も女であり、本能寺の変の本当の原因は好きな男の争奪戦の行く末のことだったら・・・」
「なっ・・・」
「本能寺の変は後の豊臣秀吉の謀略により明智光秀がそそのかされて起きたことだったとしたら・・・」
女はありもしないようなことを次々と述べていく。
自分が知る歴史では考えられない。
だが、外史ならそれを実現できる。
空想の世界を生み出すことができる。
「正史より生まれるそれら一つ一つの想念や妄想が形作られて、一つの世界を形成する。それが枝分かれしていき広がっていく無限の世界のことを外史と定義するのです。ここまでは大丈夫ですか?」
「なんとなく・・・」
「理解が早くて助かります。そして、あなたはその作られた物語の登場人物の一人だったということです」
「ちょっと待て!そんなわけねぇだろうが!!オレは確かに現実世界で生きていた!!オレが物語の登場人物?信じられるわけねぇだろうがっ!!」
「いいえ、それは間違いなく事実なのです。あなたの名前は正史のどこにも出てきません。もちろん、子来さんも・・・直由さんもね」
「んなバカな・・・将軍後継者の若までか?」
「あなたも子来さんもこの外史が生成される過程で作られた架空の人物であり、生きていた時代は作られたものです。あなたの生きた外史のベースになっているのはおそらく正史でいう江戸時代の桜田門外の変と呼ばれるもの・・・その事件が起きた時、子来という人物はおりません」
「・・・・・・」
もはや草薙は絶句するよりほかなかった。
いきなり自分の今まで生活していた世界が作りものだと言われて誰が信じられようか。
しかし、女の話し方を見るに、それは嘘とはいえなかった。
「マジ・・・なのか・・・」
「心の整理には時間がかかりましょう。ゆっくりと考える時間はありますので今はお話を聞いていただけませんか?実は本題はこれからなのです」
「無茶苦茶言いやがんな・・・お前・・・」
「あなたが生きた外史・・・それは幾重にも枝分かれしてきた末端の外史・・・枝分かれ過ぎたがゆえにおかしくなってしまった外史・・・」
そう言いながら草薙の前で宙に浮いていた外史目録がまた、パラパラとめくれ始め、別のページを開く。
「この外史では子来が無事将軍になり、その時代を繁栄させるという結末の外史が描かれています」
「本当かっ!!」
「ですが、この外史を読んだ正史の人間がある想念を持ち、さらなる外史を描きました。“もし、子来が将軍になれず、死んでしまったら”」
「っ!?」
「そしてさらに別の人が想念を抱いてこう思います“子来のそばに絶対に負けない最強の侍がついたら”さらにこう思う人も出てきます“子来にはライバルがいてそのライバルに蹴落とされて殺されたとしたら”」
「・・・・・・まさか・・・」
「そうです。幸せな結末を面白く思わない正史の人間のそのような想念によって、不幸な外史が生まれる。その世界はたとえ妄想の作り話であったとしても、その物語の中にも生きている人たちがいる。その外史の人間をわざわざ不幸にする外史を作っていく。その典型的な例が・・・あなたの生きた世界なのです」
「あの結末は・・・正史の人間が望んだ結末だというのか?」
「はい」
・・・・・・・・・・・・
「そんな外史は生まれてはいけない。だから、私たちのような外史の管理者がいるのです」
「外史の管理者・・・」
「妄想の行き過ぎた外史、正史からあまりにも離れすぎた結末を描いた外史、倫理的に影響がある外史・・・そのような外史を未然に消去し、生まれてしまった場合はその外史の剪定を行う者、その仕事を担うのが外史の管理者です」
草薙の頭の中はもうぐちゃぐちゃで何も考えられる状態ではなくなっていた
「もちろん外史の剪定だけが役割ではありません。その外史の世界の人間になり、外史の行く末を見守るのもわれらの仕事です。これが今回、私があなたの世界にいた理由です」
しかし、女の話だけは聞く
真剣に
理解はできなくとも
ただ、真剣に
「そして、あなたには私とともに外史を消去する“剪定者”になっていただきたいのです」
「オレが・・・剪定者に?」
「私は長い間、あなたのような人を探していたのです。あなたほど剪定者にふさわしい人物は今までいませんでした」
「なぜ・・・オレなんだ?」
「あなたは正史の人間の“ある想念”により誕生したからです」
「想念・・・?」
「“もし、子来のもとに絶対に負けない最強の侍がついたら”。この想念が子来のいる世界にあなたを生まれさせた最大の要因です。そして、その“だれにも負けない最強の侍”が“正史に実在した人物ではない”というのが最大のポイントになってきます」
「最強・・・正史に存在しない・・・」
「“だれにも負けない”“最強”それはつまり、“戦闘においては負けることがない”ということです。外史を剪定するにおいて、この“設定”をもつ人物は非常に脅威なのです。なにせ、外史の人間よりも上位にいるはずの管理者にも負けることはないということなのですから・・・この設定を持つ人物を私たちは“規格外”と呼んでいます」
「・・・・・・・・・」
「なら、規格外対規格外の戦闘になればどうでしょうか?」
「・・・・・・どうなんだ?」
「その結論は“永遠の戦いが続く”です。お互いが負けることがないのですから」
「永遠の戦い・・・」
「あなたはその規格外のひとりなのです。なので、あなたの剪定者としての役割は“規格外”の者と戦っていただき、永遠に終わらない戦闘をしていただく。そしてその規格外をあなたがひきつけている間に、私がその外史を潰す、消去する。その役目を担ってほしいのです」
「おれが?」
「“正史に実在した人物がだれにも負けない最強の人物になったら”この想念はだれもが考えうるありきたりなものです。ですが、その人物は外史の管理者・・・特に“剪定者”にはなることができません。なぜなら、あるルールが存在するのです」
女は少しだけ小さく息を吐く。
そして、今度はゆっくりと大きく息を吸い込んで次の言葉に備えた。
「“例外事項を除き同一人物は同一外史に一人以上存在することができない”というものです」
「・・・・・・わけがわからん」
「例えばの話をしましょう。例えば私が“織田信長がだれにも負けない最強の人物になったら”という想念により生まれた織田信長を外史の剪定者に任命したとしましょう。しかし、その織田信長はたとえ偽名を使おうと“別の織田信長が存在する外史に存在することができない”のです。また、それがたとえ“架空の人物”であったとしても“だれかモデルになった人物が正史にいる”という場合も“そのモデルが存在する”外史には存在できないのです」
「・・・・・・ふむ・・・」
「つまり、どの世界の、どの時代の、どの場所においても絶対に正史では存在しない“架空の人物”にこそ外史の剪定者にふさわしいのです。そして・・・もうひとつ、あなたが剪定者に向いている理由があります」
「・・・なんだ」
「先ほど申し上げましたが、あなたの暮らしていた外史は正史でいわれる桜田門外の変から派生した“末端の外史”。つまり、まだあなたが暮らしていた外史から枝分かれした外史がまだ存在しないのです。そして、あなたの存在が“初めて”登場した外史・・・この意味をお分かり頂けますでしょうか?」
「・・・・・・わかんねぇ」
「あなたが外史の管理者として外史に降り立つ際、先ほど申し上げたルールが一切適用されない。言い換えるなら、あなたが存在できない外史はない。すべての外史に降り立つことができるのです」
「どの外史においても同じように剪定者としての仕事ができるってことか・・・」
「そうです。あなたのその力・・・あなたと同じ境遇の者を作らないためにも、私とともに外史の管理者になりませんか?」
草薙はその答えをすぐには返さない。
「もし、ここで断られるのならそれでも結構です。ですが、私はこの幸運を、チャンスを逃したくはないのです」
想像できるだろうか
一体一日にどれだけの人間が妄想し、想念を抱いて外史を生成しているのかを
その無限に広がる外史において一人の人物が特定の条件を満たす人物を探し当てる。
“ぜったいに負けない”“最強”という規格外者の能力を持ち
それが“正史では存在しない架空の人物であること”
さらに数万数億以上の外史の中から“初めて生まれた人物”を探し当てることの確率を・・・
「もし、あなたが私とともに外史の管理者になっていただけるのなら、私は“ある機会”をあなたに差し上げることができます」
「・・・なんだ」
「成明とその息子麻呂に復讐する機会を・・・です」
「ッ!?」
「あの外史において、あなたは処刑にあって死んでしまいました。つまり、“あなたはあの外史に存在しません”。そこで、わたしがすぐさま、あなたを外史の管理者に任命し、あの外史をともに潰そうと提案します」
「・・・・・・」
「あの外史を潰す方法はただ一つ、成明と将軍になるはずだった麻呂を殺し、外史を想定外の終末に追い込み、歪みを生じさせること」
「・・・詳しく聞かせろ」
「外史は物語ですから、かならず決まった“終わり”というものが存在します。その終わりをむかえた外史がさらなる外史を生み出す枝となり種となるのです。では、そのきめられた“終わり”とは全く違う“終わり”をむかえた外史はどうなるのか。それは、その外史に歪みが生じ、腐り果て、その外史から二度と別の外史が生まれることはなくなる」
「それが・・・剪定・・・」
「はい。一度切られた枝から、葉っぱが生えることはありません。悲しき外史からさらなる悲しき外史が生まれることはなくなります」
「若が・・・死ぬという物語は・・・」
「二度と生まれることがありません」
「また、ほかの正史の人間が若を殺すような物語を作ったら・・・どうなる?」
「一度外史の管理者によって剪定された外史の設定は二度と外史として存在することができなくなります。そうしないと無限に剪定されるべき外史が増えてしまいますからね」
「若が・・・死ぬ外史が・・・作られない・・・」
「今回の場合は、もはや正史に登場するはずの人物がだれ一人存在しないこと、正史とは全く違う結末を描いたこと、だれも幸せにならない外史の結末が描かれたことなどが剪定すべき理由になるでしょうね。上層から文句も言われないでしょう」
「・・・・・・・・・なってやんよ」
「はい?」
「なってやるって言ってんだっ!剪定者にっ!!外史の管理者って奴にっ!!オレみたいな思いをすんのはオレだけで十分だ!!それに・・・敵討ち・・・させてくれんだろ?なら、オレに悩む理由はねぇな」
それに子来と直由、吉之助を亡くしたこの心に痛みは、戦いに明け暮れることで、同じ境遇のものを救うことで、まぎれるような気がした。
「ありがとうございます。では、私のほうへ来てください」
女がパチンと指を鳴らすと同時に、草薙にかかっていた金縛りがスッと取れていった。
草薙は少し体を動かした後、女のもとへと近づいていく。
そして、女は近付いてきた草薙の額にチョンと人差し指を当てる。
その指先からほんのりと温かな光が一瞬だけ光った後、何事もなかったかのようにスッと消え失せる。
「はい。お終いです。これであなたも外史の管理者です」
「・・・・・・意外にあっさりしてんだな・・・何にも変わった感じはしねぇんだが・・・」
「ふふっ、そうですね。私も初めてのときはびっくりしましたよ。ですが、これであなたと私は同胞です」
「おうっ!よろしく頼むな」
「では・・・剪定に向かいましょう。これが私の初めての剪定になります」
「初めて?」
「はい・・・私も外史の管理者になって日が浅いんですよ。あなたとほとんど変わりません。時間に表すと五十年ほどだけ私が先輩なだけです」
「へっ?・・・・・・・・・そうなのか・・・?」
「はい。同期も同然ですねっ」
「そう・・・か」
「どうしましたか?」
「いや・・・別に・・・。あと・・・成明の奴だけはオレに殺らせてくれ」
「もちろんそのつもりですよ。私は荒事に向きませんので」
「よし・・・、行くか・・・っと、最後にも一つ聞いていいか?」
「なんでもどうぞ」
「オレが断ってたら、お前はどうするつもりだったんだ?」
「また、何百何千の確率の中から貴方と同じ条件の人を探したでしょうね・・・私はあなたのような相棒が必要なので」
「・・・・・・訳ありか?」
「・・・・・・私は・・・上を目指さねばならないのです」
「そのための駒か?オレは?」
「・・・・・・・・・そう思われても仕方ありませんね」
「いんや、思っちゃいねぇよ。今のオレは若の敵さえ討てれば今はそれでいい。その後は、強ぇ奴との戦でも楽しみながらお前に協力してやんよ」
「ありがとうございます」
「んじゃ、行こうぜ。オレの敵討ちによ」
「その前に自己紹介をしておきましょうか?」
「前に一回聞いたのに教えてくれなかったからな・・・」
「下心が見え見えでしたので・・・ふふっ」
「私の名前は八咫(ヤタ)カガミと申します。あなたは?」
「オレは草薙・・・草薙ツルギだ」
END
説明 | ||
長編外伝のエピローグになります。 この黒天編という外史の秘密をできる限り載せてみました。 次回から恋姫無双の黒天編10章を再開する予定です。 |
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