ISジャーナリスト戦記 CHAPTER11 魔窟入学
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「全員揃ってますねー。それじゃあSHR(ショートホームルーム)始めますよー」

 

黒板の前というか俺のほぼ真ん前でにっこりと微笑む女性副担任こと山田真耶(やまだ まや)先生(さっき自己紹介していた)。

彼女の身長はやや低め、生徒のそれと殆ど変わらない。しかも服のサイズが合っていないのかだぼだぼしているようで、ますます本人が小さく見えてしまう。また、かけている黒緑眼鏡もやや大きめなのか、若干ずれている。

失礼を承知で何と言えばいいのか、『子供が頑張って大人の服を着てみました』的な不自然さ・・・というより背伸び感がするのだが、そう思うのは俺だけだろうか・・・・・・?

 

「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「・・・・・・・・・」

 

って、おーい!!俺以外返事せんのかい。何この入学早々の女子の連携感・・・緊張しているのはわかるけれども目上のそれも副担任の先生をもっと敬えよ。中学時代でもしっかり俺はやっていたぞ。

内心で一人ツッコミを入れていると反応の薄すぎるクラスに引き気味の山田先生は狼狽えながら記念すべき第一回目のSHRを進行させる。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

おおっとここで山田先生、生徒に進行を丸投げしたぁー!!どう思われますか、織斑さん。いやー、良い判断だと思いますがね私は。何時までも生徒の反応を窺っているようではダメなんです。今の行動は積極的に反応させる為の良い布石だと思いますよ。そうですか。

サッカーの実況みたいな事で気を紛らわしていた俺は自己紹介が行われている最中に改めて今自分が置かれている状態について頭を回転させる。

 

今日は受験に成功した者達にとって待ちに待った高校の入学式。新しい春の訪れ、その初日。ここまではいい。むしろ普通だ。だが如何せん俺はとある理由で普通の高校生では有り得ない状況でその日を迎えていた。細かい話はカットするとして早い話がクラスに男子は俺一人なわけである。

 

(まあ・・・わかっちゃいたけど、実際こうなってみるとアレだな、キツイの通り越してカオスだ)

 

前方を除くほぼ全ての方向から女子生徒の視線を感じる。席が真ん中かつ最前列というのが主な理由だがやはり俺が物珍しいのだろう。自意識過剰とかそんなモンじゃないからな。

溜息をこっそりついて窓際の方をチラリと向いてみる。するとそこには灯夜さんのが言い当てた通りに六年間連絡すら取ることができなかったファースト幼馴染こと篠ノ之箒がムスッとした顔で座っていた。俺と同じように望まぬ入学でもさせられたのかもしれない。時間があったら確認してみるか。

 

「・・・くん。織斑一夏くんっ!」

 

「あっ、はい!」

 

いきなり大声で呼ばれたかと思えばどうやら自己紹介の順番が何時の間にか自分の所まで回ってきていたようだ。先生のハートが発泡スチロール並みとは言わないけども兎に角弱いようなのですぐさま立ち上がって流れを止めないよう簡潔に自己紹介を行おう。緊張感がマッハでヤバイが気合を入れてやってやりましょう、はい。

 

「えー・・・・・・織斑一夏、です」

 

はいはい、気になるのはわかったから一気に眼光強めるのは止めましょうねー。まだ俺は名前しか言っていないんですよ、続けさせてくださいな皆さんや。いくら女子に苦手意識がない一夏さんでも怯んじゃうぞ。

 

「趣味は家事全般と剣道、あとそれから読書などです。自分以外男子がいないこの環境に正直何をどうしていいのか困っていますが、気軽に話しかけてくれると有り難いです。ISに関して未熟者ですがどうぞ宜しくお願いします」

 

締めに礼儀的に頭を下げる。・・・よし、パーフェクトだ。噛まずに言い切ったぞコンチクショウ。短くも長くもない自分の中では最高の自己紹介だった。でも、相変わらず無言のこの空気はなんなの。ちょい、次の方順番回ってきてますよー早くやっちゃいましょうよ。

まだ俺に発言を求めているのか一向に自己紹介は進まない。その『もっと何か話してよー』的オーラは何だ、そういうのは後にするように言ったではないか。察してくれよ、ねえ。

取り敢えず座っておくことにするとタイミングを見計らったように前の方のドアが開かれた。生徒に遅刻者はいないので現れるのに該当するのはただ一人、姿を見せていないこのクラスの担任だ。しかし、その人物は意外なことに俺のよく見知った人物でもあった。黒のスーツに同色のタイトスカート、同性ですら恐らく虜にするであろう鍛えられた非常に美しい悩殺ボディ。そして獣のように鋭い綺麗な瞳・・・どう見ても我が最愛の姉、織斑千冬です。本当にありがとうございました。

 

「(・・・当然と言えば当然か、ここで働いていることは薄々察していたしな)」

 

スポーツ選手が引退後にコーチや監督に就任して後輩を育成するのは珍しい話ではないので何となく姉の就職先には見当がついていた。それでもまさか担任になるとは思いもしなかったがよくよく考えてみればそうなるのに仕方ない状況である。指名手配中のマッドサイエンティストの妹、そして世界で唯一ISを使える男がいるクラスを管理するには並大抵の教師では無理がある。だとすると適任なのは世界最強の姉ただ一人しかいない。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

 

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

家で見せる態度とはまるで違う様子に『ああ、教師なんだな』と俺は実感を持った。自己紹介を一時中断させてもらうと断ってから千冬姉は担任としての自己紹介を行なった。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五才を十六才までに鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

すみません、やっぱりいつもの千冬姉でした。暴力宣言をしたからには逃げ場なんてないです、皆さん気を付けてください。てっきり困惑するだろうと思ってそう祈っていたのだが反応は真逆を行っていた。俺の鼓膜を破らんばかりの黄色い声が教室中に鳴り響く。

 

「キャ――――――!千冬様、本物の千冬様よ!」

「ずっとファンでした!」

「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです!北九州から!!」

 

へー、そーなのかー。結構離れているのによく来たな。

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

死ぬな、おい。命をなんだと思っていやがる。

 

女は何人寄っても姦しいという事を意味も無く学習していたら千冬姉は鬱陶しそうな顔で彼女らを見た。

 

「・・・・・・毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」

 

カリスマが強い分変態が集まりやすいんだと思います。性的な意味でない変態が。諦めてください。

 

「きゃああああああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾をして〜!」

 

前言撤回。性的な変態もいたようだ・・・諦めたらマズイから頑張ってください。影から応援してます。

生徒の自己紹介が俺が終わった直後で止まっていることを助言し少しでもカオスを和らげようと尽力してみる。しかし、余計なことにクラスメイトの女子は気がついて声を漏らした。

 

「あれ、織斑くんって、もしかして千冬様と知り合い・・・いや、姉弟?」

「それじゃあ世界で唯一男で『IS(アイエス)』を扱えるっていうのもそれが関係して・・・・・・?」

「ああっ、いいなぁっ。代わって欲しいなぁっ!!」

 

変態は一先ず黙りなさい。俺の気持ちを代弁するように千冬姉は五月蝿い女子を出席簿で制裁した。・・・痛そうだな、同情はしないけど。

そんなこんなでSHRは続けられ俺の奇妙なIS学園での日常がスタートした、まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、いきなり授業がスタートしてたった今一時間目のIS基礎理論授業が終わったわけだが未だに教室内は異様な雰囲気に包まれていた。

 

原因が俺にあるのは言われなくともわかってる。気軽に話していいよと言われてすぐさま行動できる奴なんて少ないだろうからまずは観察といったところだろう。隣のクラスだけでは飽き足らず上の学年の生徒までもが檻の中の珍しい動物を見るような目で視線を投げつけてくる中で俺は只管教科書を読んで自分のペースを保つ。

かれこれもう速読で三週目に突入した頃だろうか、何となくの感覚で内容を理解した俺は欠伸をしてから次の授業の準備に取りかかろうとした。だがそこで突然後ろから気配を感じて動きを止め振り返る。誰かが勇気を振り絞って話しかけに来てくれたかと思いきや、相手は初めて出会った頃から変わらない髪型の持ち主、篠ノ之箒であった。彼女は微妙に進化した不機嫌面で話しかけてくる。

 

「廊下で少しいいか?」

 

教室にいては話しにくいことなんだろうが廊下でも大して変わんないと俺は思うね。時間的にしょうがないってのはあるけどよ。

すたすたと廊下に出る箒を追いかけて外に出る。モーゼのなんとかみたいに女子が道を開いたのはマジでビビったがスルーしつつ階段近くの窓付近で立ち止まった。しかし、立ち止まってから問題の箒さんは何も話してくれません。新しいこの人の誘い方にさらにビビッた俺は箒関連で思い出したことをこちらからの話の切り口とした。

 

「去年の剣道の全国大会、優勝したんだってな。おめでとう」

 

「・・・・・・・・・」

 

箒は俺の言葉を聞くなり頬を赤らめた。ただし、口をへの字にした状態で。・・・怒っているのか嬉しいのかはっきりしてください。

 

「何でそんなこと知っているんだ」

 

「いや、新聞で見たから・・・・・・」

 

「な、何で新聞なんて見ているんだっ!!」

 

そりゃ新聞は読んだほうが身の為になるって言いますからな。全てを信用するわけじゃないけどある程度の情報収集には役立っているし・・・えっ、もしかして読んでないのお宅?

 

「まあ、そんなことより・・・久しぶりだな。髪型が変わっていなかったからすぐにわかったよ」

 

「・・・よく覚えているものだな」

 

むしろ忘れろという方が難しいと思います。別れが特に衝撃的でしたしね。・・・と、ここでタイムアップである。二時間目の予鈴が鳴り響き先程から気になっていた遠巻きの女子らの集まりも自然と瓦解する。IS操縦者たるもの行動は迅速で機敏じゃないといけない。

 

「俺たちも戻るか」

 

「わ、わかっている」

 

性格に関しては変わっていないように見えるが何処か精神的に無理をしているように感じられる。六年の歳月というものはこうも人を変えてしまうのかと考えつつも俺は授業に遅れないように足を早めた。

 

 

 

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「・・・はい?」

 

自身に与えられた予習期間のあまりの短さに焦りを感じた二時間目の後の休み時間。再び視線という名の集中砲火を浴びせかけられた俺は初日からへこたれるわけにもいかず引き続き授業内容の把握に尽力していた。そんな矢先に背後からまたもや接近する存在あり。振り返れば今度は地毛が金髪という明らかな外人さんであった。ロールがかかった髪とオーラから察するに結構高貴なお嬢様なのだろう。

IS学園は日本人だけの学校ではないのだから外国人の女子がいても何らおかしくも珍しくもない。うちのクラスはたまたま彼女一人だけが外国人だった、それだけのようだ。

 

「確か・・・オルコットさんであってましたっけ?」

 

一瞬セシリアさんと呼びそうになったがいきなり名前から入るのは失礼と思い名字を優先させる。こういうお嬢様は性格的に礼儀とか厳しそうだから困る。

 

「ええ、正解ですわ。・・・しかし、肝心な『代表候補生の』という言葉が抜けていらっしゃいますわよ」

 

「・・・・・・」

 

手厳しいな、おい。こちとらISの世界に関しちゃ素人なんだから甘くしてくれたっていいじゃない。

 

「『代表候補生』ね。あれか、オリンピックに出場できるかもしれないと期待されている選手みたいなやつか」

 

「・・・概ね間違ってはいませんが、そこらにいる選手と一緒にしないでいただきたいですわね。代表候補生というのは言わば、エリートの選手なのですわ!」

 

うん、それはわかった。・・・だけどな『代表候補生』でエリートなオルコットさんや、君と俺は初対面でお互いの経歴なんて把握していませんよね。だから普通にクラスメイトとして絡んできてください、その方がお互いの為です。

その旨を伝えてはみたのだが彼女は一人突っ走ってばかりである。終いには俺じゃなくとも『イラッ☆』っとくるような言葉を残しやがってくれた。

 

「私は優秀ですからISのことでわからないことがあれば、まあ・・・泣いてた頼まれたら教えて差し上げてもよろしくてよ。何せ私、入試で唯一教官を倒したエリートの中のエリートですから!!」

 

唯一の所『ゆ・い・い・つ』って感じで強調されたよ。しかしまあ、ドン底の渦に落とすようで悪いですが事実を教えてあげましょうか。親切(し・ん・せ・つ)にな。

 

「教官なら俺も倒したぞ。・・・もっとも、その後拘束されはしたがな」

 

「は・・・?」

 

アリーナに入ってすぐに拘束されるのは嫌だったので下を向いてボーイッシュな女の子を装い、そして俺は突撃してきた山田先生(あとから気づいいた)を近接ブレードで横一文字で一閃。続けて壁に叩きつけるようにして背後から蹴飛ばしフィニッシュした。それが事のあらましである。

 

「そ、そんな・・・私だけだと聞きましたが?」

 

「多分、女子ではな。俺が入学していなければ学年で唯一だったのにすまなかったな」

 

俺のせいじゃないんだよ。みーんな、大人が勝手に動いて決めたことなんだから。恨むなら俺を藍越に受けれなくしたあの人を恨んでくれ。

遠い目で窓の外を見つめている間にまた予鈴が鳴った。オルコットさんはブツブツと呟きながら自分の席に戻っていったがまだ何か納得していないようだった。

 

 

 

 

 

 

「―――それでは、突然ですまないがこの時間は予定を変更して再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者を決める時間とする」

 

本来は装備の特性について千冬姉直々に教える授業が三時間目に予定されていたようだったが何やら急を要する事態になったようだ。要約するとこうなる。

 

 

・クラス代表=クラス委員長=一年間ずっと変わらない。

 

 

凄いわかりやすいね状況が。ようはクラスのトップ決めて事務やら戦闘しろということか。自薦他薦を問わさなそうなのでまっ先に手を挙げて意見する。

 

「常識的に考えて代表候補生のオルコットさんが適任だと思います」

 

「ほう、では候補者はセシリア・オルコットと・・・・・・他にはいないか?」

 

器的にオルコットさんの方が適任でしょう。本人だってよく見たらやりたそうな目をしているし文句はないと思うんだが・・・・・・。

そう思ったの束の間、俺のほぼ背後にいた幾人かのクラスメイトが酷いことにある名前を頻りに連呼して推薦し始めた。

 

「はいっ、織斑くんを推薦します!」

「私もそれが良いと思います!」

「私も私も同意見です!」

「・・・以下同文」

 

「ちょい待てーい!!」

 

思わず立ち上がってしまう程に一斉射撃がハンパなかった。なので、猛抗議を無駄だとわかっていてもしてしまった。

 

「何だよ、常識的にオルコットさんだろ!?俺以上の適任者だろう!?それなのに何この連続攻撃、新手のいじめか!!」

 

入学していきなり苛められるとかマジ勘弁してくれよ。ただでさえ俺の描いた将来設計は破壊されてしまっているんだから。

オーバーリアクションでアピールしたが・・・・・・ダメだ、こいつら目がキラキラしてやがる。期待の眼差しオンリーかよ。

 

「私も納得がいきませんわ!」

 

そして思わぬ援護射撃が飛んできた。この私めが推薦したオルコットさんです。彼女は机を叩いて怒りをアピールして周りを怖がらせ反論する。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!私に、セシリア・オルコットに1年間そのような屈辱を味わえとおしゃるんですか!?いいですか、大体、クラス代表というのは―――――」

 

あれれーおかしいぞー?推薦してあげたのに何このボロクソのような言われよう。

「実力でいえば私が代表になるのが当然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります。わたくしはこのような島国にまでISの鍛錬をして来たのであって、サーカスをする気は―――――」

 

ないんでしょう、オルコットさん。それはわかるよ。・・・でもねえ、日本を舐めたらあかん。日本馬鹿することを言うのはタブーやで?

ここで反論して言い返してもヒートアップするだけだと思ったので再度手を挙げてこの状況に終止符をうつ方法を提案する。

 

「織斑先生、埒があかないので実際にISで戦ってみて決めましょうよ。俺はやりたくないから手加減するとか一切しませんから」

 

この発言に嘘はない。手加減して負けたりでもしたら余計に相手を怒らせるだけだし、勝負をするからには出し惜しみはしない。千冬姉もわかってくれたようで確認を俺に問うた。

 

「・・・良いのか、織斑。経験の浅いお前が勝つ見込みは限りなく低いぞ?」

 

「それは承知の上です。俺は正々堂々戦ってスッキリしたいだけですから」

 

手加減とかハンデをつけてもらいなよー、とクラスの女子は提案してきたが全て蹴った。俺にだって負けたくない男のプライドがある。・・・結局オルコットさんが正式に決闘にのって決着は一週間後に行われることになった。

 

 

 

 

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「えーと、ここだな。1025室っていうのは」

 

初日から波乱万丈だった俺は全ての授業が終了後に自分から進んで補習を受けに行き、授業であまりわからなかった点を何とかモノにしてこれから生活することになる寮の一室の前までやってきていた。そして、いざ渡された鍵を使い新たな我が住まいに足を踏みれようとしたのだがドアを開く前に咄嗟に後退る。

 

「―――!」

 

別にデカイ蜘蛛がくっついていたとかそういったことではない。自分を突き刺すようなクラスで感じたのとは違う冷たい視線が突然放たれたのだ。警戒して周囲を見渡すと自分が入ろうとした部屋から通路を挟んで二部屋分隣の部屋から銀髪の少女が半分顔を出して鋭く睨んでいた。

 

「・・・妖夢、さん?」

 

その少女は見間違えるはずもない中学時代に受験勉強を共にした剣道場での姉弟子、魂魄妖夢であった。彼女は周囲の様子を窺い誰もいないことを確認すると手に握り締めていた何かを俺に目掛けて勢いよく投げる。反射的にそれをキャッチし一体何なのかすぐに尋ねようとしたが彼女はそれよりも先に自分のすぐ隣をすれ違うように歩いて小声で囁いて言った。

 

「(必ず人目につかない場所で開けてください)」

 

言うだけ言って彼女は何処(いずこ)へと消えてしまった。気になりはしたもののまずは指示通りの行動を行うために握り締めた巾着袋をポケットに入れる。外側から触った手触り的に小さな箱状のモノが入っているみたいだったが中身が何なのかは後回し後回し。

 

「あ、やべっ・・・肝心なことに気がついたぜ」

 

入ろうとした自室が一人部屋である確率、計算不可能。というか一人部屋とかそんな都合のいい話がある訳がないね!確か基本二人部屋とか入学案内に書いてあった気がしました。

さっきの妖夢さんの謎介入がなければ俺は何も知らずに入って同室の女子の誰かと鉢合わせになっていたかもしれなかったのだ。相手の状態がヤバければヤバイほど俺の寿命は精神的に縮む。ここは冷静になって考え、『ドアをノックする』という安全な手段に打って出ることにする。

 

 

―――コンコン。

 

 

これならば鍵を使用せずとも相手が勝手に開けてくれるはず。待ち続けて何の反応も得られないのであれば今は無人ということだ。慎重になってドアに聞き耳をたててみる。

 

『―――はい、今開けます』

 

微かに聞こえた声に一先ずホッとするがまだ安心するのは早い。ドア越しの相手がドアを開きやすいように間隔をとり身構える。・・・数秒後、花のような香りと共に髪が湿った少女が隙間から顔を出した。髪は束ねてはいないが顔は見間違えるはずも無く明らかに―――――

 

「ほ、うき・・・?」

 

「い、一夏・・・?」

 

篠ノ之箒、その人だった。彼女は自室の中のシャワーを浴びた直後のようで寝間着にも着替えたばっかりのようだった。

 

「な、な、なんでお前が・・・」

 

「・・・えー、同室の織斑一夏です。よろしく」

 

狼狽える箒に簡潔に超短くした答えを教えた。はい、ちょっと入りますよ。荷物が届いていると思うんで。

事情を詳しく説明するためにも俺は箒の混乱をスルーして自分のだというベットに腰掛けて座った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ど、どういうつもりだ!男女七歳にして同衾せず!常識だ!」

 

いやね箒さん、どういうつもりだと問われましても大人が決めたことなんで文句は言わないでくだされ。俺が希望したとかありえませんからそれ。

 

「しょうがないだろ箒、取り敢えず要注意人物を纏めちまおうっていうのが上の人の魂胆なんだからよ。それよりもシャワーの使用していい時間とか朝起きる時間とか確認したいんだけど」

 

今はそれが一番考えねばならない問題なのだ。大浴場を使うことができない俺は・・・シャワーで体を洗うことを強いられているんだっ!!

凄まじい形相でそれを伝えると箒は顔をまた赤らめながら相談に乗ってくれた。変なことは言ってないのに何故赤くなるんだろう?

 

「ま、まずシャワー室の使用時間だ。私は七時から八時。一夏は八時から九時だ」

 

「エエエェェェェェェェェェェ(゚Д゚)ェェェェェェェェェェエエエエ」

 

「な、何だ不満なのか!?」

 

「・・・俺が早いほうがいいんだけどな、どうしてダメなんだ?」

 

事情があるなら渋々従うけど。まともな理由を聞かせてくれ。

 

「部活後にすぐにシャワーを浴びたいからだっ!!」

 

「いやでも、部活棟にシャワー設備あるよな?」

 

「わ、私は自分の部屋でないと落ち着かないんだ!!」

 

へー、じゃあ俺は遅くて九時まで汗臭くなった体のまま過ごさなければいけなんだ。・・・フーン。

 

「あ、もしもし、何でも相談センターですか。はい、実は―――――」

 

「一夏、何を・・・」

 

「何って、一日で溜まりに溜まったストレスを少しでも減らそうと電話一本で心に寄り添ってくれる方に連絡を入れたところだが、何か?」

 

実際は灯夜さんの携帯の留守電です。お世話になります。

 

「わ、わかった。なるべく善処するからそんな・・・絶望感漂う顔は止めろ」

 

ワオッ!液晶画面で反射してみた顔が凄い気持ちが悪い。・・・ま、演技ですけどね。

あくどい交渉術で週三か四日だけ早くて七時から入れることになった俺は喜ぼうとしたのだが、続けて発覚した部屋にトイレがない事実に頭を抱える。

 

「・・・どーすんだよ、一難去ってまた一難かよ」

 

各階の端に女子トイレしか存在しないのなら私は夜中にトイレに行きたい時にどうすればいいのでしょう。神よ、私に漏らせというのかこの年になって。

 

「・・・先生方に聞けばいいだろう」

 

「妥当だけども教えてくれるかな・・・」

 

先生方が『あ、考えてなかった。てへぺろ』状態ならTHE ENDです。そしてその後に然るべき場所へ訴えてやるっ!!

 

「んじゃま、今日のところはこのぐらいにしておくか。シャワー浴びてくる」

 

「あまり長く入りすぎるな一夏。消灯時間までにはあがれ」

 

「おう」

 

家から持ち出されていたバックから着替えとタオルを持ち出し俺はシャワー室に入る。一日を回想しつつ疲れきった体を熱い流水で洗い流すと問題の巾着袋の事を思い出し、箒が寝た頃を見計らって布団の中で開けることを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――そして時刻は夜の十一時。初日から気を張りすぎて疲れてしまった箒が深い眠りについたのを確認した一夏は枕の下に隠していた巾着袋を掴み携帯電話の明かりを使って中身を布団の中で確認し始める。巾着の紐を緩め、まず出てきたのは地方の土産売り場で売っていそうなカラクリの木箱であった。一目見ただけで普通の開け方で開くものではないと悟った彼は試行錯誤を繰り返し開けるための法則を考える。

 

「・・・右の面を上げたら下の面も少しずらしてと」

 

根気を入れて動作を試しているとコツを一夏は掴んでいった。微調整を繰り返していくうちにようやく作業の終わりが見え始める。

 

 

―――パカッ!

 

 

小さく箱が開く音が一夏の耳に入る。箱をひっくり返して中身を取り出してみるとベットには更に小さいガラスのケースに入れられた人の爪らしきものと紐で巻物のようにされた和紙に書かれた手紙が転がった。爪の方はさて置き手紙を読むことに彼は集中する。

 

 

「『一夏へ

 

これを読んでいるということは妖夢から無事に巾着袋を受け取ったということだろう。それを前提として俺は話を進めさせてもらう。彼女と俺の関係について疑問に思っているだろうからまずはそれから説明するとしようか。実は魂魄妖夢と睦月灯夜は篠ノ之束と亡国機業のそれぞれの計画を阻止する為に集まった者たちによって構成されたある組織に属している。例えるならば自警団みたいなものか。対外的には一応≪I.O.S.(イオス)≫と名乗ることにしているのでお前もその名前で覚えて欲しい。これで俺と彼女の関係の説明はおしまいだ。次に行くぞ』」

 

この時点で手紙の差出人が誰なのか一夏は一発でわかった。だから余計な警戒心を抱くことなく安心して読めると胸を撫で下ろし止まらず読み続ける。

 

「『いきなり生爪が出てきて驚いているだろうと思うが安心しろ、外見はリアルだがそれは人間の爪じゃない。爪を模した超小型通信器だ。出来るならばこの説明を読む共に動作確認をするといい。中指の爪に装着後、付けていない方の好きな指でいいから三回だけ付けた爪を叩け』」

 

書かれている内容に従いガラスケースから爪型の通信器だというものを左手の中指の爪の上に固定する。さらにそこで右手の人差し指を使い三回ほど爪を軽く叩いた。

すると途端に爪からタッチパネルと画面が映し出され携帯の明かりが不要になるくらい眩い光を出した。親切にも画面から手紙の続きが映し出される。

 

「『成功したようだな、次のステップに移ろう。次は使用用途の説明だ。通信器と言うぐらいだから何に使うのかは大体わかるだろう。俺との情報交換にはこれからコイツを使ってくれ。防水性もあるから剥がさなくていいからな』」

 

つまり、一人になれる環境ならば何処でも使えるということだ。映像、音声、チャットとモードを切り替えられるそうのでかなり重宝しそうだと一夏は内心歓喜した。

さっそく灯夜の方からチャットが開かれリアルタイムで通信が開始される。

 

『よう、一夏。入学初日からお疲れさん。すまないな、こんな手段で連絡をしちまって』

 

「いえいえ、むしろ感謝したいぐらいですっと・・・」

 

携帯で連絡を取るよりもずっと楽そうなのだ。携帯の通信履歴が調べられて関係が発覚される心配もない点が特に良い。

 

『そうか。気に入ってもらえて何よりだな、製作者の友人にもお前の感想を伝えておくよ』

 

「・・・凄い友人がいるんですね、羨ましいです」

 

『中には高校時代に厄介事に巻き込んで俺に対処させた馬鹿野郎もいるけどな。何故にガチホモの化け物と戦わされる羽目に・・・』

 

「―――ん?」

 

どっかで聞いたような話だと一夏は首を傾げる。確か弾や妖夢にストーカー被害の件について相談をした際に自分が話題に上げた話ではなかったかと思い出した。

 

「もしかして、高校時代にTさんとか呼ばれていたりしましたか?」

 

『・・・ナゼェオマエラシティル!?』

 

「オンドゥル語で返答しなくてもいいですよ。・・・でも反応を見る限りそうなのか」

 

今だけでなく昔も凄い人だったのだと彼は感心した。どうやって倒したのか知りたかったようだが時間の無駄だと断られ別の話を切り出される。

 

『んなことよりもだ、クラス代表決定戦でお困りの様子の一夏君に朗報です。近々、君の下に専用機が届けられることになりました』

 

「せ、専用機!?」

 

専用機とはそう簡単に貰える代物ではない。国が認めた一定の適性を持った者の中より選ばれた存在だけが手に出来る貴重なものだ。しかし、自分のデータをお偉いさんは取りたいのだろうがそれならば量産機で事足りるのではないだろうか。

 

『量産機はいちいち使用許可の申請が必要だし、なおかつ複数の使用者が出てくるせいで正確なデータが取れない。だったら専用機を与えて織斑一夏だけのデータを取得しやすいようにすればいいっていうのが事の顛末だ。貰えるものは貰っておけ』

 

「でも、貰えるからといって使いこなせるとは・・・・・・」

 

特に武装が意味不明なものばかりだったらそれだけで混乱してしまう。シンプルな武装がついていればそれだけ扱いやすいのだが。

 

『大丈夫。俺が入手した情報では今のところブレードオンリーの巫山戯た仕様になってるから』

 

「全然大丈夫じゃないですよ、それ。何処のゲームの縛りプレイですか」

 

シンプルがいいなとは思ったけれどもあまりにもシンプル過ぎである。それと縛りプレイというのは自分でやるよりも観てる方が楽しいモノだ。

 

『そういうと思ったよ。だから、届けられるギリギリのタイミングを見計らって特別に細工を施して武装を一つ追加してやる。ただし追加すると言っても変な武装じゃないから心配しないでもいいぞ』

 

「一つだけですか、まあ・・・付かないよりかはマシか」

 

ないよりもあったほうがいいと思うのは皆同じである。お弁当を買ってサービスで味噌汁が付くのなら貰う、そんな感じである。

 

『物足りないならその場その場で調達しろ、相手の武装を奪って使うというのも別に禁止されているわけでもない。普通に使えるわけでもないけどな』

 

「はぁ、そうですか」

 

ようは戦況を見極めてその場で使える手段を自分で確立しろということである。こればっかりは実際の戦いの場にいるわけでもない灯夜が何をどうしろと口を出せることではなかった。

灯夜はその後、『直前になったらまた連絡する』と言葉を残して通信を切った。箱に入っていた手紙は破るように指示を受けたため一夏は破ったのだがどういうことか書かれていた内容は綺麗さっぱり紙から消え失せていた。

 

長いように感じられた一日にようやく終わりが訪れる。

 

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くそう、東方キャラとのラブコメが書けねえよ!!

やっぱりマドカしか俺には書けないのか!?

ということで、割り切ろうと思います。色々と。東方キャラはあくまで伏線とサポートキャラみたいなもんです。ええ。

では、次回予告。

入学から大波乱だったというのに翌日も同じく騒がしいという現実に頭を悩ませる男子高校生、織斑一夏。残された1週間の間に彼は可能な限りのISの知識を得ようと奔走する。しかし、箒はまったくISについて教えてくれない。どうする一夏、このままでは勝利をその手に収めることは不可能なのか!?

次回、『CHAPTER12 知能疾走』

お楽しみに。

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