【ショートショート】誰も座らない席 |
この高校に転入して、もう3日がたった。
人見知りの俺は、まだ誰とも仲良くすることができず、
少し悩んでいた。
だが、それ以上に、もっとちがう悩みがあった。
教室の、俺のうしろの席。
3日たった今も、誰も座らない。
少なくとも、俺が教室にいる間は、誰ひとり座っていない。
先生は、うしろの席に座っていたであろう「そいつ」の
名前を、出欠のとき、呼ぶことはない。
長期欠席者がいるのだろうか。
「そいつ」は、先生や生徒からもハブられているのだろうか。
いわくつきの席で、そこに座ると死ぬ、とか。
いやいやまさか…バカげている。
俺は、誰かにたずねてみようかとも思ったが、恥ずかしくて
なかなかきけないでいる。
人見知りとは、本当にやっかいなものだ。
それに、真相を知るのも、すこし怖い。
もし、ほんとうに呪われた席であったら。
怖がりの俺は夜も眠れないだろう。
そんなこんなで、1ヶ月が経過した。
いぜんとして、俺のうしろの席には、誰もいない。
「そろそろ梅雨かぁ…。
雨がいっぱい降るなぁ。
あーあ、ゆううつ」
隣に座ってる生徒が、そんなことを言う。
「ほんと憂鬱だよなー! 困るぜい!」と俺は返したかったが、
なんとなく恥ずかしいので、「ああ…」とだけ返した。
「ああ…」ってなんだよ。
無愛想すぎるだろ、もっとがんばれ、俺。
そんなことを考えながら、これからの人間関係について
憂鬱になっていたころ。
「おー、すごい雨だな」
窓側に座っている生徒が、窓の外を見て言った。
今日は、朝から天気が悪かった。
雨が降るのも時間の問題と思っていたが、ついに降った。
「ねぇ、君」
前の席に座っている女子が話しかけてくる。
あまり話したことない奴だ。
なんだ、俺に何か用か。
お母さん以外の女と話すのは、本当に久々だ。
なんだ、何の用だ。
緊張。手に、汗がじんわりとにじむ。
背筋がピンとのびる。
「うしろの机にさ、バケツ置いてくれる?」
「…ん?」
「だから、君のうしろの机。
バケツ置いて。
その机の上の天井、雨漏りひどいから」
そう言って、バケツをさしだす。
「…なるほど、そういうことか」
「何がなるほどなの?」
「俺の後ろの席に、誰も座っていなかった理由。
1ヶ月ぐらいずっと悩んでいた。
こんなオチだったとは…」
「あっはっはっは! 何それ。そんなことで
1ヶ月も悩んでいたの!?
おもしろーい!」
「す、すまん」
笑い声の迫力におされ、なぜか謝ってしまった。
前の席の女子生徒が大声で笑ったとたん、
周囲の生徒も、何ごとか、とたずね、
女子生徒がその理由を暴露すれば、
周囲の笑い声がだんだん増えていった。
は、恥ずかしい。
あんまり俺をいじめないでくれ…。
その後、何のフォローもなく、俺は笑いものにされただけだった。
まあ仕方ない。1ヶ月もそんなことで悩んでいたら、誰だって笑う。
俺だって笑うと思う。
人見知りって、いろいろ損だなぁ、と思いつつ、と
俺はひとりで下校するのだった。
でも、うしろの席の謎がわかったのは、とてもよいことだった。
これで、悩みのひとつをクリアしたのだから。
明日はどんな悩みが待ち受けるのだろう、と思い、
憂鬱と興味をいっしょくたに混ぜ、帰り道をゆっくり歩く。
< おわり >
説明 | ||
転入生である「俺」は、転入したばかりのクラスで、ある謎に気づく。 俺の後ろの席に、数日たった今も、誰も座らない。 長期欠席か。いじめか。呪いか。 人見知りの俺は、誰にも理由をきけないでいた。 |
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コメント | ||
亜浪さん、感想&アドバイスありがとうございます! 主人公のやつ、相当な人見知りでして、なかなか打ち解けられん困った奴です。でも、これから少しずつ打ち解けられるかもしれませんね。(新原) 主人公が微笑ましくて良いですね。「皆に笑われちゃったけど、少し打ち解けることができたよ」っていう締めなら、なお良かったと思います。(亜浪) |
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