蜥蜴皮膚の男:1−2
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砂をするような音が聞こえる。天井木の板の隙間から洩れる光が眩しい。

人間が三人程度入れる広さで丸太と板を組み合わせて作ってある牢屋のようだ。

その時、ずしんと大きく地面が揺れた。地震ではない。この牢屋が移動しているようだ。

しかし車輪の音はしない、乾季の今は川などないはずだが感覚は船に近かった。

意識が完全に覚醒してくると、首筋にまだかすかに痛みがある。

それに長い間同じ姿勢だったのか、手足が痺れて感覚がない。

起き上がろうとした時に足かせがつけられていることに気がつく。

サイズが小さすぎるせいか鉄の輪が足首に食い込み、擦れて血がにじんでいる。

 

「あの、大丈夫ですか」

 

消え入りそうな少女の声だ。少女は大陸の交易共通語で話しかけてきた。

交易共通語が話せるならかなりの身分か、学があるということだ。

少なくともこの砂漠にきて初めて聞いた。

交易共通語なら俺にも理解できる。

隣に少女が体育座りをしている。ただでさえ小さい姿がよりいっそう小さく見える。

 

「おまえは、あの時の…」

 

少女はおでこのあたりがぱっくりと割れていた。棍棒で殴られたところだ。

出血は止まっているようだが、傷口が少し黄色みがかっている。化膿し始めているのだ。

「あの時?」

少女は不思議といった表情だった。

そうか、俺が絡まれていたときに少女は既に気絶していたのだ。

 

「いや、なんでもない。とりあえず俺たちはどこに向かっているんだ?」

 

「えっと-------処刑場かと」

 

少女はうつむきながら、気まずそうに呟く。

 

「処刑?」

 

確かに俺は処刑される理由がある、先に仕掛けられたからとはいえ男二人を殺したのだから。

この少女も何か罪を犯したのだろうか。

 

「はぃ。正確にはっ---儀式みたいなもので、生贄なんですよ私たち。あとその、よろしければお名前うかがっ

 

てもっ------」

 

額の傷が痛いのか大男がこわいのか、少女は視線を泳がし、噛みながら言った。

 

「えっと、わけがわからないことばかりだが、一応俺の名はヴァダンだ。そんで生贄

 

かそこらへんのこと知っているのなら教えてくれないか?」

 

「はぃ。えっと私はアリリスと申します。」

 

アリリスが話しだしたとき、大きく地面が傾き、アリリスが俺のほうに転がってくる。

横転でもしたのだろうか、とっさにアリリスを抱える形でキャッチした。

アリリスは傷口を打ったのか小さな悲鳴を上げ。

 

「あの、すみません」

 

とやっぱり俺に目を合わせない形で言った。

こうまで拒絶されると結構傷つくな。確かに喧嘩以外でこの体で良かったことなんてなかった。

 

「なあ、この乗り物ってどうなってんだ?」

 

さっきから気になっていた。四方は板が隙間なく組み合わさっていてどこにいるのか、どんな形をしているのかわからなかった。かろうじて採光のためか天井には一定の間隔で隙間がある。

 

「えっと、簡単にいえばソリをヤームにひかせているんです。」

 

ヤームとはこの地方で酪農や荷物を運ぶときに使う家畜のことだ。

少し大きめの牛のような生き物で、水平に長く生える角が特徴である。

 

「そうか砂地じゃ車輪は沈んでしまうからな。しかしそんな乗り物聞いたこともなかった。」

 

「あっ――っと、生贄のことですよね。」

 

「そうそう。」

 

「まず何を話せばいいのやら、え―――っと。」

 

「まぁ生贄の理由は、単純にわかると思うんですが前の雨季で十分に雨が降らなかったんですよ。」

 

「雨乞いってわけか。」

 

「そうです、あの村の中を見たのならわかるでしょうが、雨季に雨が十分降らなかったせいで作物が枯れてし

 

まい食べるものもなかったというのに、帝国に去年以上に年貢を納めなくてはならなくなったのです。」

 

「こんな辺境にも帝国は来ているのか?」

 

驚きだった、帝国からかなり離れた南方の砂漠にまで帝国に制圧された村があるとは。

 

「はい。帝国はここ二、三年南方諸国への遠征のために砂漠のオアシスや村を拠点とするために制圧していま

 

す。」

 

「知らなかった、でも帝国兵なんてみなかったし、帝国が許すのか?帝国なら土着宗教を弾圧して聖徒教に改

 

宗させると聞いたが。生贄というか火あぶりにされるのはこの村の連中だろ。」

 

「本来ならそうなのですが、帝国では今は収穫期、士気を保つために徴兵した兵士は一時的に故郷に帰れるの

 

です。帝国も領土を広げすぎてあらゆるところで戦争をしています。

そのため、聖騎士団をはじめとする職業軍人以外の農民に税の免除を理由に徴兵してますが、農民ゆえに規律や士気も低いのですが、このやり方で随分と王に対する支持力も上がったようです。」

 

「随分帝国いや、国の政治事情や文化に詳しいな。どこかの貴族の娘さんか?」

 

帝国でさえ識字率がごく僅かの身分の高い貴族や神学校出身者、兵長階級でも一部の者のみにかぎられるに、このように国や大陸で起こっている事柄を鳥瞰したように考えられる。

そんな人間がこんな僻地で番族につかまっているなんて、貴族の一人娘にしちゃできすぎる。この年でましてや女が政治知識をもっていてもこの大陸では何の役にも立たない。

 

「えっと、貴族ですか。――――そうですね、似たようなものです。」

 

少女はほめられたことが嬉しいのか恥ずかしそうにうつむいている。

でも会話しているうちに最初のころの緊張はほぐれてきたのか、落ち着いてきている。

すると外から男たちが何か呼びかけあっている声が聞こえてくる。

目的地に到着したのだろうか。ヤームが鞭で叩かれているのか、甲高くうなり、ソリが止まった。

 

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第二話です。
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