【南の島の雪女】琉菓五勇士チンスゴー(2) |
【一つ屋根の下】
(はっ…よく考えれば、今、白雪はチンスコウが生えているから、
男なんだよね。
そして、私はうら若き乙女。
今、私と白雪で、同じ部屋に男女2人きり。
これは…)
風乃の妄想は際限なくふくらんでいく。
(もし何かの間違いで、白雪が私にほれてしまったら、
大変なことになるよ!)
「白雪!」
「なんだ、風乃」
「今すぐ私の部屋から出てって!」
「なぜに!?」
「チンスコウの生えた白雪は男!
私はうら若き乙女!
そして2人は、今、ひとつ屋根の下!
男女のあやまちは絶対NOだよ!
だから今すぐ出て行って!」
「俺が男になっても絶対に
お前にはほれないし、
ほれたら熱湯に入って溶けて死ぬ」
白雪ははっきりと意思を告げる。その声に迷いはない。
「またまた〜、白雪ったら、素直じゃないんだから!」
「素直も何も、俺の正直な気持ちを告げたまでだ。
お前にはほれないから、安心しろと言っているのだ。
……おい、俺の手をつかんで、何をするつもりだ」
風乃は、白雪の右手首をつかんで、白雪の右手を、自分のほうに寄せていく。
「白雪、ウソばっかり。
こうされても、私にほれないって言える?」
白雪の手は、ゆっくりと、
成長の止まった、かすかな胸のふくらみに触れさせられた。
白雪のひとさし指が、風乃の胸にちょこんと刺さる。
「お前…何をしている」
ぴきぴきと何かが切れそうな白雪。
「あれ? なんだか反応悪いなぁ…
うーん、予定では、ここで白雪が興奮しだして、
危険な男になる予定なのに」
「おい、やめんか!
さっさと俺の手を放せ!」
「えい、えい、どうだっ、どうだっ」
白雪の手を強くつかみ、平らな胸に、無理やり押し付ける。
やわらかさのカケラもない、ただの無味乾燥な壁だ。
「お前の胸をさわっても、まるでうれしくない。
何もなさすぎて、触れる楽しみがない」
「おかしいなぁ…」
風乃は、白雪の手をはなす。
と同時に、風乃は、白雪にむかって、両手の指をわしゃわしゃ動かし、
近づいていく。
「おい!? 風乃、今度は何をするつもりだ!」
「何って…こうするんだよっ」
風乃の両手の指が、白雪の両胸にむにゅうとくいこんでいった。
「うっわー、すごいすごい!
さっすが、白雪のおっぱい! 指がめりこむ!」
「またバカな真似を…
おい! 人の胸をさわるな!」
「えい、えい、えい!」
風乃は、白雪の胸を激しくもみしだいた。
「はぁ、はぁ、すごい…、すごいよ、白雪…」
風乃の指から、白雪の胸の余った部分がはみ出る。
「白雪の胸をさわってると」
「私、こんなにコーフンするのに」
風乃の頬は激しく紅潮し、それは炎のようだった。
「どうして白雪が私の胸をさわっても」
鼻から大きく息を出す。
「コーフンしないのかな」
肩を小刻みに上下させる。
「オカシイなぁ…」
風乃の瞳は、すでに正常な輝きを失っており、
どこまでも、どこまでも、黒い彼方を見つめている。
「おかしいのは…」
白雪、拳をぎゅっとにぎりしめ、一息ためる。
「お前の頭だ!」
白雪の鉄拳が、風乃の頭に炸裂する。
【琉菓五勇士チンスゴー】
「風乃のバカっ。俺をからかってばかり。
もういい。俺は寝る。寝て、少しでも現実逃避する」
「白雪、そんなに落ち込まないでよ。
白雪のちんすこうは、たぶん立派なはずだから」
そういう風乃は、頭に立派なたんこぶを生やしていた。
先ほど白雪に殴られた頭の傷が、まだ残っているようだ。
「立派と言われてもうれしくない」
「まあまあ。
気分転換にテレビでも見ようよ」
風乃はリモコンで、テレビをつける。
「ほら、おもしろい番組やってるよ。
『琉菓五勇士チンスゴー』って言うんだよ。
沖縄の平和を守るため、ちんすこうの精霊の5人組が
力をあわせて、悪者を退治するんだ」
「またちんすこうか…
もうこりごりだ」
「この番組を見たら、
白雪のちんすこうも勇気が出るよ!」
「そこに勇気はいらん」
【琉菓五勇士チンスゴー2】
白雪と風乃の見た番組の内容は、こうだった。
人間サイズのちんすこうから
手足が生えたような物体が、5体。
彼らは「琉菓五勇士チンスゴー」と名乗る精霊で、
ヤナムン(悪霊)たちから、
沖縄の人々の安全を守っていた。
今回は、携帯ゲーム機にとりついた
ヤナムンを退治するお話だった。
ゲームの中のモンスターたちに、
ヤナムンがとりつき、子供を襲っていく話だった。
ヤナムンによって、ゲームの中にとじこめられた子供を、
救おうとするチンスゴー。
しかし、敵は強い。
チンスゴーたちは粉々にされてしまう。
チンスゴーたちの身体はちんすこうで
できており、甘くおいしく、そしてもろい。
こけるだけで、複雑骨折レベルの重傷を負う。
粉々に粉砕された彼らの姿は、手足だけがぴくぴくと
動いており、実に気持ち悪い。
「うっわー、チンスゴーたち、やられちゃってるね。
体バラバラ。
すっごいスプラッタだね」
大ピンチである。
これからどのような逆転劇を見せるのか。
というところで、CMになった、
白雪は、上半身を前に傾け、
真剣な表情で、じっとテレビを見つめている。
「白雪」
「……」
「ねぇ、白雪ったら」
「なんだ」
「すごく真剣な顔でテレビ見てるね、白雪。
そんなに気に入った、チンスゴー?」
「…そういうことではない」
「もしかして、スプラッタ好き?」
「もっと違う」
【中の人】
白雪が、真剣な表情でチンスゴーを見つめていたのは
理由があった。
「あのちんすこうども、人間ではないな。
普通、あの手のキャラクターは、
人間が中に入って、演技を行っているはず。
それなのに、中に人がいる気配がない」
「え? 白雪、わかるの?」
「ああ。あのちんすこうども、本物の精霊だ」
「ところで、白雪の中にも人がいるの?」
「…言っている意味がわからない」
【琉菓五勇士チンスゴー3】
CMが終わり、チンスゴーの後半パートが始まった。
テレビのナレーションは流暢に語る。
「ゲームの世界で、粉々になったチンスゴーたち。
このままでは子供たちが、ヤナムンたちに
捕まったままだ。立ち上がれ、チンスゴー!」
ナレーションの終了と同時に、映像が切り替わる。
近くのお菓子工房で、新たなチンスゴーが5体つくられる映像だ。
「お菓子工房があるかぎり、
どんなに粉々になろうが、焼かれようが、
復活する無敵のヒーローなのだ!」
というナレーションが終了したあと、
場面が切り替わり、近くの公園で作戦会議をしている
チンスゴーたちの姿がうつされる。
チンスゴー(プレーン)※リーダー。茶色。
「ヤナムンめ、あんな凶悪なモンスターに
化けるとは、これでは負けてしまうぞ」
※ヤナムンとは「悪霊」のことを言う。沖縄の言葉。
チンスゴー(パイン味)※黄色
「すでに1回負けて粉々になっているんですけど…」
チンスゴー(ゴーヤー味)※緑
「またゲームの世界に入って戦うのか?
俺はごめんだ。また粉々になるぞ。
お前たちを作るのはコストがかかる、と
工房の親父さんもお怒りだ」
チンスゴー(ハイビスカス味)※ピンク
「お腹すいたー」
チンスゴー(モズク味) ※ブラック
「私めに名案がございます」
プレーン
「モズク。何か名案があるのか。
さすがチンスゴーの策士だけはあるな」
モズク
「それは…」
モズクの考えた策とは。
モズク
「携帯ゲームの中で、ヤナムンを倒すことです」
それは、携帯ゲームの主人公キャラをチンスゴーが操り、
ヤナムンのとりついたモンスターたちを、
ゲーム内でばっさばっさと倒していく方法だった。
パイン
「携帯ゲームのキャラを操って、中にいるヤナムンを倒し、
子供たちを助けるんだろう?
よし、僕、ゲームが得意なんだ。
僕にまかせて!」
この策は見事に功を奏した。
ゲームの主人公は、
剣・槍・斧・弓といった武器や、
風、炎、雷、光、闇といった魔法を駆使し、
次々とヤナムンたちを倒していった。
パイン
「このっ、このっ…ふぅ…」
汗水たらしながら、携帯ゲーム機のボタンを、カチャカチャ動かす。
ヤナムンを倒さねば、子供も助けられないのだ。
真剣にならざるを得ない。
ちなみに、パイン以外の4人は、周りで応援しているだけである。
プレーン
「パイン! 右だ、右にもヤナムンがいるぞ!」
ゴーヤー
「プレーン、お前、目が悪くなったのか?
あれはヤナムンじゃない。
ただの石像で、背景だ」
ハイビスカス
「パイン、次、私ね!
私もゲームしたい!」
モズク
「パイン、近接戦が多すぎます。
もう少し、遠距離攻撃をうまく使って…」
パイン
「ああもう! うるさいな!
ゲームに集中させて!
…ああっ」
パインの集中力がとぎれた、その瞬間。
主人公がヤナムンの一撃を受け、倒れゆく映像が
ゲーム画面にうつる。ゲームオーバーだ。
ちなみに5回目だ。
プレーン
「だから言っただろう! 右にいる奴はヤナムンだと!」
ゴーヤー
「いや、主人公を倒したのは、天井に潜んでいたヤナムンだ」
ハイビスカス
「パイン!
次、私、私!
ゲーム機かして!」
モズク
「パイン、もっとかしこく戦わないと…」
パイン
「……」
パインは黙り込んだ。
肩がわなわなと震えている。
ゲームオーバーで落ち込んでいるのではない。
別の感情だ。
やがて、果実がはじけとぶように、何かが切れた音がする。
パイン
「お前らうるさすぎなんだよ!
体の真ん中に穴あけるぞコラァ!」
プレーン
「パ、パイン。そう怒るな。
みんな悪気があったわけじゃ…」
パイン
「うるさい!
悪気がなくても、傷つくものは傷つくんだよ!
こんなもの…
こうしてやる!」
パインは、携帯ゲーム機を勢いよく持ち上げると、
地面にむかって、たたきつけるように投げ捨てた。
携帯ゲーム機は、ただの小さな破片へと変化し、
地面にちらばっていく。
無論、この携帯ゲーム機は、チンスゴーの所有物ではなく、
子供の所有物である。
プレーン
「ああ! なんてことを!
子供が、ゲームの中にとじこめられたままだぞ!
これでは、中の子供がばらばらだ!」
ゴーヤー
「携帯ゲーム機と、ゲームソフト代…
プラス、精神的苦痛。
弁償うん万円はいくだろうな」
ハイビスカス
「ひどいよ、パイン!
次は私がゲームする予定だったのに!」
モズク
「パイン、後先を考えない行動は慎みましょう」
4人の仲間から非難轟々。
携帯ゲーム機は粉々。
パインは、反論しないで黙っている。
パインは、心の真ん中にも、
ぽっかりと穴があいたような気分を感じ、黙り込むのだった。
一方、テレビの外の世界では。
白雪
「ゲーム機バラバラ、
チームワークもバラバラ。
なんだ、このグダグダな展開は。
どこからつっこめばいい?」
風乃
「テレビにモノを突っ込んじゃダメだよ、白雪。
壊れちゃうよ」
白雪
「はいはいすいませんでしたーっと」
テレビの外の人たちも、チームワーク(意思疎通)が
うまくいってないようだった。
【琉菓五勇士チンスゴー4】
話は、テレビの中の世界に戻る。
突如、粉々になったゲーム機から悲鳴があがった。
プレーン
「な、なんだ!? 誰の悲鳴だ!」
ゴーヤー
「視聴者の悲鳴でないといいけどな」
チンスゴーたちは、あたりを見回す。
悲鳴をあげるような人物は見当たらない。
すると、粉々になったゲーム機から、2つの影が
飛び出してきた。
大きな影と小さな影。
まず、大きな影が声をあげる。
ヤナムン
「おいおいおい!
いくらゲームオーバーしたからって、
何もゲーム機破壊することはないだろう!
ゲーム機ごと死ぬかと思ったわい!」
大きな影の正体は、ヤナムン(悪霊)だった。
チンスゴーより、ふたまわり以上の大きな体をしている。
その姿は真っ黒で、スライムのように、不定形で実体がない。
そして、もうひとつの影。
それは、ヤナムンやチンスゴーよりも
小さな影だった。
小さな影は口を開く。
子供
「ねぇ、ヤナムンさん、このゲーム難しいよ。
なかなか仲良くなれない」
小さな影は、子供だった。
手には携帯ゲーム機を持ち、ヤナムンを見上げながら、
不満そうな顔をしている。
ヤナムン
「大人でも苦戦するゲームだから、当たり前だろう。
って言うか、さっさと俺のゲーム機を返せ!
あんまり泣くから、落ち着かせるために
俺のゲーム機を与えたが、ずっとゲームばかりしてやがるぜ」
子供
「もう少しだけね。ね?」
ヤナムン
「仕方ねぇ奴だな」
ゴーヤー
「携帯ゲーム機の中で、携帯ゲーム機で遊ぶ子供か。
なかなかシュールな光景だな…」
プレーン
「おい、ヤナムン!
お前の悪だくみは知っているぞ!
子供をつかまえてゲームの世界に閉じ込め、
ゲームばかりプレイさせて、
ダメな大人にするつもりだったんだな!」
ヤナムン
「なんという言いがかり」
【琉菓五勇士チンスゴー5】
ハイビスカス
「ねーねー、なんのゲームをプレイしてるのかなぁ?」
ハイビスカスは、子供の遊んでいる携帯ゲーム機の画面を
のぞきこむ。
画面には、人間が何人か表示されている。
ヤナムン
「人と仲良くなるゲームだ」
ゴーヤー
「ヤナムン、お前…
人と仲良くなりたいのか?」
ヤナムン
「バ、バカを言うな!
人間どもとなれあうつもりはない!
俺は、わざとゲーム内で嫌われているのさ!
どうやったら、人間に嫌われるのか、研究したくてだな…」
子供
「ヤナムンさん、何を言っているの?
ヤナムンさんのゲーム記録を見たけど、
人間全員から好かれているよ」
ヤナムン
「ば、バカ!
そ、それを言うんじゃない!」
プレーン
「ヤナムン、お前…」
ヤナムン
「う…」
何を言っていいかわからず、
ヤナムンは、チンスゴーたちから顔を背けた。
顔が赤い。
沈黙が流れる。
やがて、沈黙を断ち切るように、プレーンが口を開く。
プレーン
「ゲームの中とは言え、
人間を魅了し、支配し、操るつもりだったんだな!
おのれ、この悪者め!」
ヤナムン
「なんという言いがかり」
ヤナムン
「…だが、空気の読める言いがかりだ!
そうさ。俺は、人と仲良くなるゲームをプレイして、
どうすれば人間をだませるのか研究していたのさ!
さあ、俺がにくいだろう!
かかってくるがよい! チンスゴー!」
ヤナムンは、言いがかりをつけられた。
にも関わらず、にやりと笑みを浮かべていた。
悪者というポジションである自分を誇り、
ほめたたえるかのような笑みだった。
【突然の訪問者】
「風乃ー、お友達が来てるわよ」
下の階から声が聞こえてくる。母親の声だ。
「えー、今、テレビがいいところなのにな」
テレビでは、チンスゴー対ヤナムンの
最終決戦が繰り広げられている。
風乃は、困ったような表情で、テレビを見たり、
部屋のドアを見たりしている。
迷っているようだ。
「早く行ってやれ」
白雪が促す。
「うん、あーえっと、白雪。
ちょっと聞きたいことが…」
「なんだ? チンスゴーを録画しておけってか?」
白雪はテレビのリモコンをにぎった。
「ううん。
チンスゴーを見て、元気になったかなって」
風乃は、白雪の股の間を指差す。
「白雪のち・ん・す・こ・う!」
「早く行けっ!」
白雪の投げたリモコンが、風乃の額へと飛んでいった。
次回に続く!
説明 | ||
【前回までのあらすじ】 道に落ちてた虹色チンスコウを食べたら、体に異常があらわれてしまった白雪。とりあえず家に戻って、今後のことを考えようとしたが… |
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