Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)8巻の1 |
第1章 姉
謹慎処分と昇格を受けた次の日。
俺は、きちんと学園に登校していた。そして、現在授業の終わり、教員が教室を出るのを見送ると、俺は、固まった背中を大きく伸ばす。
「ふぅ、やっと終わったー」
相当固まっていたのか、体中から鈍い音が鳴る。
「新学期早々、睡眠学習とはいい身分だねー。そんなんで次のテスト大丈夫か?」
そのとき、クラスの一人が、俺に近づいてきた。
「仕方ねーだろ。分かんねーんだから」
俺は、話しかけてきた男をジト目で睨みつけた。
長い髪を後ろで縛り、ピアスをいくつも付けているコイツは名は”サブ・アシュラ”。
俺と同い年で、今年度の《特待生》5人の中の一人だ。
俺もリリも同じく《特待生》だが、俺なんかは、ほかの4人とは違い、歳の関係でその枠に入ったようなものだ。
ちなみに今年度の《特待生》は全員同じ歳で現在13歳だ。
「そうだ、昇格おめ。以外に早かったじゃねぇか」
「どうも、相変わらず情報早い、な」
コイツは、いつもどこから情報を手に入れてるんだ?
「局の受付の彼女が、教えてくれたんだ。昨日、あの晩あったときに、な」
その答えは、すぐに分かった。
「・・・・お前の”彼女”って、いったい何人居るんだ?」
わかんねー、とサブは楽しそうに笑い返してきた。
ちなみに、コイツは俗に言う”女たらし”だって、女性陣が言ってた。まあ、その所為で、前にトラブルに巻き込まれたこともあったが、当の本人は、少しも反省していない。
「そんなことより」
その瞬間、サブの表情と空気が、急に真剣なものに変わった。
「なんで、報告書に俺たちのことを書かなかった? あのあと、俺たちは、注意だけで済んで、処罰はなかった」
「その情報は、別ソースか?」
俺は、口元に笑みを浮かべて訊き返す。
「まあ、な。発信源は、企業秘密だけど、な」
どうせ別の女だろ、と俺は呆れて笑った。だが、サブは、表情を崩さなかった。
その姿に俺は、ため息を吐く。
どうやら、かわせそうにない、な。
「・・・お前に期待してんだよ」
「・・・・・・はぁ?」
サブは、俺の返答が予想外だったのか訝しげな表情を浮かべた。
俺は、気まずくて視線をサブから外した。
「今の政府内部がどうなってるか。お前なら知ってるだろ? 俺は、お前なら、今のやりにく政府のやり方を変えられると思っている。だから、お前には、1日でも早く出世してもらわないと困る。ただ、それだけのことだ」
「・・・・・・」
俺の返答にサブは、驚いた表情を浮かべた。
「・・・・リョウ、お前、悪いもんでも食ったか? 一人暮らしになって、変なもの食ったんじゃねぇか?」
「・・・・」
心底心配そうな目をこちらに向けてきやがった。俺はそれをジト目で返してやる。
「・・・・俺がマジな話したら駄目なのか?」
「いやー、お前が組織のこと、考えてるなんて思っても見なかったから。つい、な」
「もういい、理由はそれだけ、だ。お前が偉くなればこっちも動きやすくなる」
「それなら安心しろ。俺も昇格したから」
そう告げると、サブは、俺に局員IDをこちらに見せてきた。
「・・・・軍曹」
「そういうこと。だから、俺は、お前の上官。2つ上な」
たしか、局入りしてまだ1年も経ってないはず、だ。
そのとき、俺は、改めてコイツの凄さを目の当りした。
私、リリ・マーベルは、現在進行形で憂鬱だ。
魔法科の窓際に座っているわたしは、今日の殆どを外を眺めて終わった気がする。その原因は、この間の誘拐事件遭遇。そして、極めつけは年末の家族旅行がである。
「はぁ〜」
「リリちゃん、どないしたん? 今日、ため息ばっかやけど」
「あっ、ポピーちゃん」
わたしは、隣に居たポピーちゃんに気づくと、視線を上げた。そんなポピーちゃんは、苦笑いを浮かべている。
「もしかして、引きずっとるん? 大丈夫やって、焦らんでもきっとようなるって」
そう言うと、ポピーちゃんは、優しい笑みを浮かべてくれた。
ポピーちゃんが、心配してくれたのは、わたしが、誘拐事件に負った傷のことだ。”傷”といっても、外傷ではなく、トラウマだけど。
診断では《男性恐怖症》と言われた。
そのトラウマの所為で、わたしは、現在、クラスの男子とも極力離れて行動している。
そして、家族の一人にもわたしは、後悔するような行動をしてしまった。
「ありがとう」
その優しい言葉にわたしは、笑顔で答える。
この髪を猫の尻尾のように細く束ねた女子生徒の名は”ポピー・ブライアン”。
この世界では、珍しい話方をする女性で、人当たりの良さでクラスでも人気者だ。
大きなマンションで一人暮らしをしていて、わたしとリニアはいつも放課後遊びに行かせてもらっている。
「しっかし、カイザー君もよりにもこんなタイミングで引越さんでもええのになー。リリちゃんが気にしてまうやろうに」
「仕方ないよ。一緒に暮らすときから”住む場所が決まるまで”って話だったんだから。それに、正直、少しホッとしてるんだ」
「どうして?」
「だって、これ以上傷付けずに済みそうだもん」
すると、ポピーちゃんは、呆れたような笑みを浮かべた。
「リリちゃんは、少し優しずぎや。まあ、これが”惚れた女の弱み”やな」
「ち、違うよ! リョウくんとわたしは、そんなんじゃないよ!」
わたしは、恥ずかしさで顔が赤くなるのを隠すように視線を外した。だけど、ポピーちゃんはその行動が面白かったのか楽しそうに笑う。
リニアもそうだけど、なんで二人ともわたしをからかうのが楽しいんだろう。
そのとき、突然、教室の扉が乱暴に開いた。
わたしは、視線をすぐに向けると、そこには、女子生徒が一人立っていた。そして、その生徒は、こちらに近づいてくる。
「よォ、そっちも終わったんなら、さっさと帰ろうぜェ」
「・・・・リニア、前々から言ってるけど。もう少し、加減して開けようよ。毎回、みんなの注目浴びてるこっちが恥ずかしいだから」
「ンなもン、気にしなきゃーいいンだよ。別に壊したワケじゃねェんだからァ」
その返答にわたしは、呆れたようなため息を漏らした。
この乱暴な言葉遣いで話す女子生徒の名は”リニア・ハワード”。わたしの親友の一人で、リョウくんと同じ兵士科の1年生だ。
「そういう問題じゃないような」
「気にしてもしゃーないよ。でも、リニアは、もっと慎ましさを覚えな」
すると、リニアは、苦虫をかんだような表情を浮かべた。
「ンなもん、とうの昔に研究所に置いてきた」
「・・・・・」
そう、リニアは、普通の人と身体の作りが違う。過去に、どこかの違法研究所で、人の身体を強化する実験が行われていた。リニアは、その事件の被害者の一人で、そのとき、身体の約50%を機械に替えられてしまったのだ。
「ン? なんだァ?」
「ううん。なんでもない」
リニアは訝しげな表情をわたしに向けたけど、気付かれないようにわたしは、すぐに誤魔化した。
「まあ、ええやんか。それより、ここから出ようか。時間は、有効につかわなアカンしな」
ポピーちゃんは、そう言うと机の上のカバンを持った。わたしも急いでカバンに教科書をしまう。そして、わたしたちは、教室を後にした。
学園から出ると、俺はすぐに寮の自分の部屋を目指した。
今日から1週間、ただの学生になった俺は、別にやることがないので、学園からそのまま自分が住む寮へ戻ってきた。
この寮だが、本島の魔連本局に隣接しており、学園がある南地区までの距離が少しある。通学には不便だが。それ以外は不便じゃない。
「そういえば、最近道場に顔出してねーな」
『あまりサボってると、後が怖いわよ』
「別にサボってるわけじゃないんだけどな。しかし、謹慎中って行っていいのか?」
『サクヤに訊いてみなさい。勝手に行動すると、また怒られるわよ』
この親みたいな返答する奴の名は”二ア”。
二アは、俺の《ウエポン》太刀型の魔武器のAIだ。
《ウエポン》には、AIが常備されているのが基本で、魔導師の補助する役割が備わっている。
だが、二アは、その中でも特殊で、なぜか”感情”がある。だから、話していても機械と会話している感覚でなく、人と話している感覚だ。
まあ、偶に口うるさいときもあるんだけど、な。
「ん?」
そんなことを考えていると、自分の部屋に到着した。だが、その瞬間、俺は、すぐに違和感を覚えた。
「(二ア)」
『(どうしたの? 急に《念話(テレパシー)》に切替えて)』
「(中に誰か居る)」
そう告げると、俺は背負っていた袋からニア、太刀を取り出した。そして、扉に手を添え、部屋の様子を探る。
『(・・・・魔力は感じないわね。なんで分かったの?)』
「(匂い、それと音と気配)」
『(・・・・貴方、もしかしてまた進んだんじゃないでしょうね)』
すると、ニアの声色が少し低くなった。
「(少しだけだ。まだ、飲まれてない)」
俺は、それに短く答える。すると、二アは、黙り込んでしまった。
俺は、改めて意識を扉の向こうに集中する。
人数は・・・・・一人? だが、どういうことだ? まったく敵意が感じない。
俺は、大体の相手の位置を読み取ると、手を離し、一呼吸する。そして、勢いよく扉を置けると、居合いの形で鞘から刃をを抜いた。
だが、刃は、侵入者の首元で止めた。
部屋には、ニット帽を被った女性が一人ベッドの上に座っていた。そして、俺は、ソイツのことを知っている。
「・・・・何しに来た?」
俺は不法侵入者を睨みつける。だが、その女性は少しも臆していない。
「随分な挨拶ね。こんな可愛い子が部屋で待っててあげたのに。とりあえず、その物騒なもの締まってよ」
それどころか、楽しそうに笑みまで浮かべている。俺は、言われて通り、刃を鞘に納めた。
「頼んでねーよ。大体、不法侵入だろ。どうやって入ってきたんだ」
「セキュリティは、簡単に解除できたわ。駄目ねー。すべて電子化にするから頭を潰せは軒並み全部解除できたわよ。ここ、アマ過ぎるんじゃない?」
「ここ(魔連)の寮に侵入する犯罪者なんて、物好きぐらいしかいねーよ」
そう返すと、俺は、刀を壁に立てかけた。
この侵入者もとい女性の名は、”ミュウ・ネットスカイ”。
コイツとは、3年前、南島の街外れにある《スラム》で、数ヶ月の間一緒に住んでいたことがある。そんときは、俺は、前に住んでいたマンションから家出していて、匿ってもらっていた。
まあ、そのスラムでも問題起こして、そんときミュウとも連絡がつかなくなったんだが。この間のリリ誘拐事件で、なぜか再会した。
「それもそうね」
「それで、用件はなんだ? 積もる話をしに来たわけじゃねーんだろ?」
俺は、すぐに本題に入るように催促する。すると、ミュウのネコ目が不機嫌な形へ変わった。
「雰囲気は柔らかくなっても、愛想がないのは変わってないわね。衝撃な再会を演じたのに・・・・・・あっ、もしかして恥ずかしがってるの?」
「摘みだすぞ?」
俺は、指を鳴らしてゆっくりとミュウに歩み寄る。すると、ミュウは、焦った表情で手を振った。
「ストップ! ストップ! 冗談だって。もう、そんな怖い顔しない」
『お取り込み中、悪いけど。リョウ、そろそろ紹介してくれないかしら』
「!?」
急に二アが話し出したことで、ミュウは、驚いた表情を浮かべる。
「なに、今の!? まさか、あの剣から?」
『初めまして、二アです』
その声を聞いた瞬間、ミュウはすぐに壁に立ててある太刀の前へ移動した。
「・・・・・すごい、魔連のバンクあさったから知ってたけど。こんなに精密だなんて。これじゃあ、AIじゃなくて人間ね」
『・・・・・・それで、貴女は、名前教えてくれないのかしら?』
「ああ、ごめんなさい。私は、ミュウ、ミュウ・ネットスカイよ」
『それで、リョウとはどこで?』
「南地区のスラムでね。本当にすごい。どうやって、動いてるのか知りたいわ」
「勝手にさわん、な。それで、用件はなんなんだ?」
俺は、二人の不毛な会話を切る。
たくせっかちね、とミュウは、渋々二アから視線をこちらに戻した。
「この間の報酬を貰いに来ました」
「報酬? このPDA端末の代金のことか?」
俺は、ポケットから一台の小型端末を取り出す。
「それは、貴方が私と連絡が取れるように渡しただけ。だから、プレゼント。それじゃなくて、この間の事件解決を手伝った件」
「おい、あれって、お前があの転送装置を俺で実験にしてチャラだろ」
そう、あの誘拐事件の際、俺は別の世界に滞在しており、すぐに戻ることができなかった。
しかし、コイツの発明した装置のお蔭で間に合うことができた。だが、その転送装置は、人体実験をしておらず。俺は、その被験者になる形になった。
「実験は接いで、それとこれとは、話が違うわ。あの子達に情報の提供もしたし、ね。だから、時間稼ぎができたでしょ?」
どうやら、旗色は悪いようだ。俺は、これ以上もち札がないので、降参した。
「・・・・分かった。それで、なにすればいいんだ?」
その言葉を聴いた瞬間、ミュウの表情は、先ほどとは打って変わって、険しくなった。
「お願い、私と一緒にスラムに来て。合ってほしい人がいるの」
その言葉に、俺は、嫌な予感しかしなかった。
学園から出たわたしたちは、途中買い物を済ませて、ポピーちゃんが住むマンションでいつもの放課後を過ごしていた。
「へー、カイザー君の過去に、そないなことが」
話題は、年末年始の起きたこと。そして、今あがっているのはわたしの家族旅行の話だ。
「人のこと言えねェけど。アイツも結構ヘビーな話持ってるよなァ」
「うん、でも、それもホンの一部だと思う」
まだまだあるんだろうなー、とわたしは、天井を仰いだ。全部を知ろうとはできないのは理解しているつもり。でも、それでもリョウ君は、少し抱えすぎな気がしてならない。
「なんや、うれしはずかしの話が聞けるおもーたのに。予想外やったわ」
「そ、そんなことあるわけないでしょ! 家族旅行だよ!」
わたしは、顔に熱を感じながら必死に否定した。しかし、それが間違いだった。
「おいおい、家族が居なかったらどうしてたんだァ?」
すると、リニアとポピーちゃんは、楽しそうに笑みを浮かべる。
まったく、この人たちはすぐにそっちに話をもっていきたがる。
「それより、リニアは、どうしてたの?」
これ以上続けたら、集中攻撃されそうなので、すぐにリニアに話を振ることにした。
「オレ? オレは、アニキたちのメシ作ってただけだぜェ」
「おとんのところは? 実家には帰らんかったんか?」
その瞬間、リニアは不機嫌な表情を浮かべた。
「別に帰る理由はねェし。大体、アイツを親とも思ってねェよォ」
そう言うと、リニアはコップのジュースを乱暴に飲み干した。
「オメェこそ、どうなんだァ? 里帰りしたのかよォ」
「ウチ? してへんよ。だって、帰ったら気まずいやん」
「気まずい?」
わたしは、ポピーちゃんの言葉に疑問を覚えた。
そのとき、不意にインターホンが鳴った。
「おっと、誰やろなー」
その音に、ポピーちゃんは、持っていたコップをテーブルに置き、玄関へと移動した。
「アイツ、たしか両親死んで、姉と二人だったよなァ?」
「うん、そのお姉さんも療養のために自然の多いところで住んでるって言ってたよ」
「なら、仲がワリィのかァ?」
「そんな風には見えないけど、避けているは感じられるかな」
それにしてもあの”気まず”ってどういうことなんだろ?
「どないしたん!?」
そのとき、玄関からポピーちゃんの声が上がった。その声に、わたしとリニアは、すぐに立ち上がり、玄関へと向かう。
すると、ドアの向こうには、一人の女性が立っていた。しかもその女性は、誰かに似ている気がする。
というより、この人もしかして・・・・。
「お姉、なにしにきたん!?」
そのポピーちゃんの声で、わたしは、やっと分かった。
この人、ポピーちゃんにそっくりだ。
説明 | ||
おはようございます。こんにちは。こんばんは。 ”masa”改め“とげわたげ”です。 今作、1年の休載からついに書き終えることができました。 今まで読んでくれた方やこれから読んでくれる方。 簡単でいいので、よろしければ、感想おねがいします。 |
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