Black dream〜黒い夢〜(3) |
それから幾日かが過ぎ、ようやく新人達が「アークスとしての任務」に慣れてきた頃。
地響きを立てて崩れ落ちた大きな身体。
硬い岩盤のような身体を持つ「ロックベア」と呼ばれていたエネミーが地に倒れ伏した。
巨体が未だ唸り声を上げているが、もはや立ち上がる力も無い。
「ひーえー…怖かったなぁ」
「二人とも大丈夫?」
「こっちは問題ない」
アフィンが高台の上でライフルの照準機から目を離すと、エリが振り返った。
リュードが大剣を背に戻して頷く。
大きく息をしてから、アフィンはその場で胡坐をかいた。
「こんなヤツまで凶暴化するなんてなぁ」
「…本当は大人しいのよ、ロックベアは」
倒れ伏している巨人のような原生生物に、エリはふと哀れみの視線を落とした。
本来、ロックベアはもっと森林の奥に生息している。
エリが以前ロックベアに出くわした時、こちらが身構える前に逃げるように森の奥へと姿を消したほど、臆病で気の優しい生物だったはずなのだ。
「これも、ダーカーが発生するようになったせいなんですかね?」
高台から飛び降りて来たアフィンは、エリやリュードを見て呆然とする。
「って、先輩傷だらけじゃないですか!相棒も!」
「あ」
擦過傷だらけのエリ。
リュードもやはり体のあちらこちらに傷が見えた。
巨体に似合わぬ俊敏な動きをするロックベアが、何度もその巨体を空に躍らせ彼らを下敷きにしようとした。
それを避けつつ、ぎりぎりの場所で戦っていた結果がこの状態。
慌ててエリはディメイトを二つ取り出し、一つをリュードに手渡そうとすると。
「大丈夫、持っている」
小さく頷いてリュードが自分のディメイトを飲み干すと、細胞単位での組織修復が始まった。
傷口が塞がって行く様子を見ながら、アフィンが思わず呟く。
「やっぱりフォースを仲間にした方がいいのかなぁ」
「え?」
「基本のチームが4人じゃないすか、まだオレら一人余裕がありますし、誰か仲間にした方が今後よくありません?」
「そ、そうよね…」
「今みたいな時も、フォースだったらぱぱっと回復してくれるだろうし」
アフィンに言われずとも、それは判っていた事。
ハンター二人に、レンジャー一人。
あまりにもアンバランスな編成。
エリは小さく頷いた。
「そうね。アークスカウンターに申請を出してみるわ」
しかし、思い当たる友人がいない。
ナベリウスに警戒態勢が敷かれてから、単独行動をしているフォースは殆ど見なくなった。
回復やテクニック攻撃に優れたフォースはどこのチームからも引く手数多。
エコーはゼノと組んで、他の新人達と共に別行動を取っていると聞いた。
アークスシップに帰還して、チームの二人と別れてからも。
エリはロビー中央のベンチで、ずっと考え込んでいた。
残る手段は一つ。
目の前に、クラスカウンターがある。
そこは、「戦う手段」を決める場所。
「ハンター」「レンジャー」「フォース」という、大まかに3つに分けられた戦闘術。
各々の適正を確認し、場合によってはそれを変更する。
頭の中に看護士のローラの言葉が幾度と無く繰り返し響いた。
『フォースになりなさい。貴女のその力はその為のものなのよ』
己の戦闘時にいつも腰に下がる、使い込まれたクシャネビュラ。
今となっては、それが無ければ戦えない程手になじんでいる。
これからフォースになったところで、その戦い方に慣れるまでどれだけ時間が掛かるか。
勿論エコーや他のフォース達の戦い方を見ているので、どう立ち回ればいいのかは大体判っている。
だがエリはどうしても、その一歩が踏み出せなかった。
「惑星アムドゥスキア?」
「そうです、そこに向かって欲しいと要請が」
さらに数日後の朝。
エリはアークスカウンターで驚きの声を発していた。
カウンターの係員に食って掛かるように身を乗り出す。
アフィン達は少し離れたロビーでその様子を見ていた。
「何故?まだ私のチームには早いはずよ?」
「貴女の力を買っての事だ」
振り向くと、科学者風の二人の男女が立っていた。
セミロングの黒髪、釣り上がった目をした女性が男性を従えている。
怪訝そうにエリが見つめるのにもかまわず、その眼鏡を左手で引き上げた後、手元のホログラム資料を見た。
「私はアキ。貴女のその『探知』の能力をお借りしたい」
「探知…??」
「知っているか?今アムドゥスキアにダーカーが異常発生している。ナベリウスなど比較にならない程に」
「ダーカー!?」
惑星アムドゥスキア。
探索を許可された恒星系の中で、ハピタブルゾーン(生存領域)の内側ぎりぎりの場所に位置する惑星。
星全体が強力な地磁気に覆われており、かつ恒星に近いためその表面の殆どは生物が存在しない。
未だに地殻変動が激しく、唯一の居住空間である筈の地下空洞には絶えず溶岩が噴出し、地割れや岩盤落下が起きている。
そんな劣悪な環境に適応している「龍族」と呼ばれる種が住んで居る事も確認されていた。
中には、人語を解する種族も居る。
独自に進化してきた龍族は、その環境から自身が戦闘種族だった筈。
そんな場所にまで、ダーカーが?
「でも、あそこはまだ彼らには厳しい場所かと…」
「勿論あなた方だけではない。もう一組チームを派遣する。そこでダーカーの侵食状況、場合によってはその討伐も含めてデータを収集して欲しい。勿論龍族達からも、だ。別ルートで私も龍族の居住空間へと向かうつもりではある」
「龍族からも、ですか」
「そうだ。これは私からの『((クライアントオーダー|個人的依頼))』ではあるが、私もこれは『上』から依頼されて調査している。そのあたりを承知していただきたい」
その口調には、有無を言わさぬ強さがあった。
ちらり、とチームの二人をエリは見る。
先日のロックベア討伐の時に露見した「回復力の無さ」。
とはいえ、他のチームも同行するというならば、その辺りも少しはフォローされるだろう。
エリは眉間に右拳を当てるようにして考え込んでから、アキに向き直った。
「わかりました。お引き受けします。ただし出来るだけ他チームは「回復能力の高いメンバーを持つ」チームを選抜してください。それが条件です」
「承知した。出発は午後。急がせるが宜しく頼む」
「了解」
敬礼をしながら、エリは立ち去って行くアキ達を見送る。
探知の能力は「使うな」とローラに念を押されたばかり。
しかし依頼は命令と同等の力を持つ。
断る事は、出来なかった。
「確認するわ。今回の目的は『ダーカーの出現状況の調査および、その時点で発生するダーカー殲滅。決して無茶はしないで。危ないと思ったら遠慮なく他チームの回復要員の所に逃げる事」
キャンプシップで、二人の顔を交互に見ながら念を押すように語る。
首の後ろで、アークスの命令およびデータ収集の全てを司る「戦略OS」が起動する音が微かに聞こえた。
今回の依頼の全容が、二人の腕のホログラムモニターに映し出された。
「武器の選択は出来れば『凍結』の属性の物を。絶対に単独行動はしないでね」
「了解した」
「わかりました」
『モニター同期が取れました。危険な場所ですからくれぐれも気をつけてくださいね』
ブリギッタの心配げな声に、彼らは頷く。
テレプールへ次々に飛び込み、次に視界が開けた時。
あまりの熱風に彼らは思わず口を押える。
「うわっちっ!!!」
『アムドゥスキアに転送を確認。個別に対熱フォトンフィールドを展開させます』
ブリギッタが各々のOSへコマンドを打つと、一気に体感気温が下がった。
見えないフォトンの壁が、彼らを守っている。
「うわぁ…地獄ってのはこういう所を言うんですかね」
アフィンが言うとおり、その環境の劣悪さはエリの知るものより更に悪化していた。
到るところに溶岩の川が流れ、地面には数え切れない亀裂が走り。
その隙間から亜硫酸ガスの蒸気が立ち上り、絶えず赤光りしている溶岩が見え隠れする。
時折、炎が噴出している場所もあった。
地鳴りが絶えず、頭上からは溶岩が剥離して落下する様が見て取れた。
「ようエリアルド、元気そうだな」
「ルーキー君たちも、頑張ってるみたいね」
ふと振り返ると、そこにエコーとゼノが、見た事の無い新人アークスを二人引き連れていた。
「やっぱり貴方達が来たのね」
「お互い様だろそれは。依頼が来た時に何となくエリアルドのチームじゃないかって思ってたんだ」
何となくそんな気はしていた。
他チームと組む場合、その殆どは「気心の知れた者同士」で組まされる事が多い。
お互いに自己紹介を済ませると。
「補助は私にまかせてね!」
「頼むから先行するなよなー?」
「何よ、ゼノが遅すぎるんじゃない」
胸を張ってエコーが主張すると、すかさずゼノが横槍を入れる。
相変わらずの仲の良さ。
同じチームの新人達も苦笑している。
エリはほんの少し笑みを浮かべてから、目の前に広がる光景に一瞬にして表情を切り変えた。
冗談を言っている場合ではない。
依頼を受けたリーダーとして、エリは号令をかけた。
「行くわよ、みんな」
「おう!」
「任せて!」
流石に7人のアークスが居ると、その安定感は抜群。
たとえその半分が新人とはいえ、フォローに回るベテランの動きが良いお陰か殆ど怪我もせず、トカゲのような原生生物達を蹴散らしていく。
ある程度進んだ所で、エリは特有の「首筋に走る悪寒」を感じた。
その様子に気付いたのは、他ならぬエコー。
「エリアルド?」
「ダーカーが来るわ!みんな警戒して!」
言い終わらないうちに、彼らを取巻くように「黒い渦」がそこかしこに発生し始める。
ゼノが指で鼻を弾いてニヤリと笑った。
「来やがったぜ…!!」
『ダーカー出現を確認!直ちに殲滅行動に移ってください!』
ブリギッタの声と共に、黒い渦の中心から四ツ足の真っ黒い「うごめくもの」が現れる。
胴体の中心に赤黒い「核」を持つ「ダーカー」。
まるですばやい蜘蛛のように、奇怪な動きで近づいてくる。
エコーのチームの新人は女性フォースと機械の身体を持ったレイキャスト。
その二人とアフィン、エコーを守るように、ゼノとエリ、リュードはダーカーと正対した。
「ちょ、ちょっと待って!なんだこの数!!」
アフィンが悲鳴を上げた。
彼らがナベリウスで遭遇したダーカーとは比較にならない程、地面を埋め尽くし始めていた。
原生生物達も含めると、相当な数にのぼる。
「騒いでる暇があったら一発でも打て!ヤツらは待っちゃくれねぇんだぞ!」
「わ、は、はい!!」
「どおりゃあああああああああ!!」
ゼノが雄たけびを上げ、黒い破片を撒き散らしながらダーカーを殲滅していく。
アフィンは隣同士になったレイキャストと頷きあい、砲撃を開始した。
エリもリュードも、同じように迫ってくる黒い集団に刃を向けた。
「いーくーわーよぉ!!」
超特大の氷の嵐が、前衛をフォローするようにダーカーを巻き上げ、凍りつかせた。
新人の女性フォースが必死に((回復テクニック|レスタ))を唱えると、戦う彼らの廻りに癒しの風が吹く。
「助かるわ、ありがとう!」
エリはそう叫びながら、もう一度ダーカーの集団へと斬り込んで行く。
ほっとしたように、青い髪のフォニュエールは頷いた。
エコーが攻撃の合間に、補助テクニックで彼らの防御力や攻撃力を補ってくれた。
居るのと居ないのとでは、安心感が違う。
やはり、フォースは必要なのだ。
頭の片隅でそう考えつつ、エリはダーカーを殲滅し続けた。
首筋のチリチリした感覚がふと消えた。
戦うのに必死で、周りを見る余裕があまり無かったのだが。
それでも「ダーカーの気配」が消えた事がわかる。
『ダーカーの消滅を確認しました。各自の状況を確認してください』
ブリギッタの報告に、思い出したようにエリはリュードへと目をやった。
最後に残っていたダーカーを叩き潰すように切りつけたその顔は、至って普通の「必死な顔」。
「あの時」の表情とは違う。
少しほっとして、エリはようやくクシャネビュラを腰に収めた。
「みんな大丈夫?」
「オーケーオーケー。全然問題ない」
「怪我も殆どしていないみたいね」
「問題ないです」
「あの数を倒せるなんて、先輩方ってやっぱすげえや」
各々の報告に、エコーが特大の「レスタ」を放った。
全員を取巻く、フォトンの風。
少なからず付いていた裂傷が一瞬で消えてしまった。
「これでよしと」
「すっげぇ、エコー先輩すっげー!!」
「でしょー?」
大げさなアフィンの反応に、エコーは胸を張って笑う。
その一方で、ゼノがリュードに歩み寄った。
「大したもんだな、リュードとか言ったっけ。あんたが後ろを守ってくれたお陰で存分に戦えたよ」
「いや、こっちこそ助かった。強いんだな」
「まあねー、確かにオレ強いよ?」
握手を求めてくるゼノに、リュードは頷いて握手を返す。
素直にお互いの力を認め合える。
ある意味、エリにはその光景が羨ましかった。
「さあ、龍族の住処まではもう少しよ」
そう言って歩き出そうとした瞬間。
目の前に、音を立てて「壁」が立ち上がった。
「…えっ!?」
まるで、彼らが進むのを阻むように。
それは到底乗り越えられない高さの「隔壁」。
『そこまでにしてもらおう』
どこからともなく、声が聞こえる。
翻訳機を通したその異質な響きの声は、彼らを立ちすくませるに充分な力を持っていた。
「誰だ!」
ゼノの叫びに呼応するように。
岩の上、岩盤の影、そこかしこから現れた「人影」。
「ディーニアンだわ」
エリの言葉に、全員がその姿をまじまじと見つめる。
ディーニアン。
龍族の中でも「人のような姿」を持つ、独自の文明を持った好戦的な種族。
炎の中に住んでいる為、その全身は硬い鱗のような皮膚で覆われている。
杖のようなものを持った者、剣と盾を持っている者。
数多くのディーニアン達が、いつの間にか彼らを取巻いていた。
『それより先に進まれては困る』
その中から、一際存在感の大きなディーニアンの一人が前に出た。
ディーニアンの「長」。
杖を地面に突き立て、鋭く見据えてくる。
エリがそれを受けるように、一歩前に。
「…私達はあなた方と敵対するつもりは無いわ。ここに出現したダーカーの調査に来たのよ」
『断る』
「…何故?」
『早々に去れアークス。貴様達と交わす言葉は無い』
拒絶、そして「殺気」。
そのあまりにも一方的な言葉に、思わずゼノが前に出た。
「そりゃねえんじゃねえか?俺たちはアイツらを退治したんだぞ?」
『その「ダーカー」を呼び込んだのは貴様達だと、何故気付かぬのだ?』
エリは思わず身を乗り出した。
「私達が…ダーカーを呼ぶ…ですって?」
『調査と称して我々の領域に入り込み、穢した者共。それが貴様達アークスだ。我らの掟すら守ろうとしなかった愚か者共…』
領域?
掟?
表情は良くわからない。だが、その言葉には怒りが満ちている。
『掟を破りし者…悉くカッシーナの元へ。去らぬというなら、貴様達にも会わせてやろう…我らの神に』
ディーニアンの長が杖を高く掲げると。
その場に居たディーニアン達が一瞬にして姿を消した。
そして。
「上だ!!!!」
ゼノが叫ぶ。
振り仰いだ瞬間、空から炎の塊が無数に降り注いだのだ。
「きゃぁああああああああ!!」
「うわぁーーーーっ!!」
悲鳴を上げ、彼らは必死に「火炎の球」から逃げ惑う。
それが収まった瞬間、雷鳴のような地響きが洞窟の中に響き渡った。
「ヴォル・ドラゴン!!」
「何だと?!」
エリは、自分の発した言葉が信じられなかった。
伝説だと思っていた。
龍族の神と呼ばれる、ヴォル・ドラゴン。
データ上に神話としてしか書かれていなかった「生物」が目の前に舞い降りたのだ。
描かれていたその姿のとおりの大きな爪翼を持つ「巨大龍」。
身体は紅蓮の鱗に包まれ、額と背中の二つの角が凶悪な輝きを放っている。
『思い知るがいい。我らの神の力を』
ディーニアンの長は高笑いし、何処へかと姿を消す。
残された彼らの前に、炎の神が居た。
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PSO2「ファンタシースターオンライン2」の自分の作成したキャラクターによる二次創作小説です。 (PSO2とその世界観と自キャラが好き過ぎて妄想爆裂した結果とも言う) はい。すいません。「書かない詐欺」はもうしません。俺は開き直るぞジョジョォぉぉぉおお(撲殺) 今後の展開は「あくまでCβ時点での予想」で構成されています。実際とは違うと思われますので、ご承知ください。 (文章的におかしい部分をこまめに修正していたりします。ご了承くださいますよう) |
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