参道 |
ある晴れた涼しげな昼下がり。
左手には、草木多い茂る斜面。
右手には崖と、見下ろせば街の風景。
そして正面には木漏れ日に包まれた赤い鳥居と…沢山の『犬』。
いや、あれは『犬』と形容してよいものだろうか。
大きな体躯を包む、羊毛のような白い下毛と、ウェーブのかかった巻き毛。
この毛むくじゃらの『犬』を犬として分類するならば、
一番近しいのはハンガリー産の大型犬、コモンドールであろう。
ただ一つ、違いがあるとすれば、
それは、ヒトによっては、とても些細なことであるかもしれないが、
…『一ツ目』なのだ。
目が一つしかない『犬』という品種を未だ見たことのない私は、
やはり、あれを『犬』と呼んでいいものかどうかと思案する。
いや、思案していたい。していたいのだが。
私はこの『犬』の群れの先、鳥居の向こう側に用事があるのだ。
正直、こんなところで時間を費やしている暇など、ありはしない。
しかし、しかしだ。
「あの『一ツ目』をすんなり横切れるものだろうか?」
あれをコモンドールと仮定したとしても、
元々の人見知りの激しい性格に、筋骨隆々とした体躯。
どちらかと言えば愛玩よりも番犬とした風格を醸し出している。
吹けば飛ぶモヤシのような私では、
ひとたび襲われれば、抗う術はないだろう。
「お困りかな?」
私の右側から声がした。
真横を見れば『彼』は居た。
いったい『彼』は、いつからそこに立っていたのだろう。
背は私より頭2つ分ぐらい高く、おそらく190はあるだろう。
横幅は少なく見積もっても、華奢な私の2人分以上といったところか。
この先の神社に勤める神主さんであろうか。
しかし、それにしては風変わりな、というか、派手な姿をしている。
金色の着物には、炎のような赤い刺繍がほどこされ、
右手には…靴べら? いや流石に違うだろう。どこかで見たような物なのだが、名前がすぐには浮かばない。
頭には、今時珍しく冠をかぶっており、その中央には『王』の一文字が刻まれている。
そして、日の光加減であろうか、
『彼』の顔は、とてもとても、赤く見えるのだ。
『彼』は無造作に、大きな赤い左手を、私に差し出した。
向こう側に連れて行ってくれるのだろうか。
私は、その大きな赤い左手に、私の小さな白い右手を預けた。
「怖いかね?」
それは『彼』に対する問いなのか『犬』に対する問いなのか。
返答に困った私は、今感じたことを、素直に話すことにした。
「とても大きくて、硬くて、暖かかい手ですね」
そう言って目を細めて『彼』を見上げると、
『彼』は少しだけ、嬉しそうに見えたような気がした。
そして私達は、ゆっくりと、鳥居に向かって歩き始めた。
説明 | ||
参道を通じて描くなんでもない日常 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
346 | 345 | 0 |
タグ | ||
参道 日常 オリジナル | ||
花梨さんの作品一覧 |
MY メニュー |
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。 |
(c)2018 - tinamini.com |