【南の島の雪女】琉菓五勇士チンスゴー(6)
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【お菓子工房の惨劇】

 

お菓子工房は、すでに撃破されていた。

 

白雪

「これは…なんと、むごい…」

 

言葉を失う白雪。両の瞳に、うっすらと涙が浮かぶ。

 

風乃

「ウソでしょ…ひどい…どうして…

 どうして、こんなことができるの…?」

 

涙ぐむ風乃。

 

必死にかけつけた白雪たちの努力もむなしく、

お菓子工房は、無残な姿をさらけだしていた。

 

まさに地獄。地獄の底の地獄。

人間に、こんなことができるはずがない。

悪鬼羅刹の仕業だ。と言えば、誰もが、納得するであろう。

 

白雪&風乃

「お菓子が! お菓子がひとつもない!!!」

 

お菓子工房なのに、お菓子が何ひとつとして、なくなっていた。

砂糖の、一粒すらも、クリームの、一滴すらも、ない。何もない。

「お菓子工房として、これ以上の悲劇はない!」と、風乃と白雪は熱く語る。

(※ちなみに設備機器類や、工房で働くおじちゃんおばちゃんは無事)

 

プレーン

「渡嘉敷のおじさん、無事だったか、よかった」

 

プレーンは、工房の中に入り、おじさんに声をかける。

 

渡嘉敷のおじさん

「でーじなとん(大変なことになった)。

 お菓子が、何もかも吸い取られちまった。

 こんなこと、初めてさぁ」

 

プレーン

「工房のみんなは? 無事か」

 

渡嘉敷のおじさん

「人も設備も無事さぁ。

 でも、お菓子はぜーんぶ取られちまった」

 

プレーン

「犯人はわかるか?」

 

渡嘉敷のおじさん

「でっかいお菓子の家が、突然、工房の前に現れたさ。

 はっし! 何かね!

 と思ったよ。

 すると、どんどん、工房のお菓子が吸い込まれていくんだよ、お菓子の家に」

 

プレーン

「お菓子を吸い込む、お菓子の家か。

 人知では考えられない出来事だな。

 …マジムンの仕業か」

 

白雪

「マジムン?」

 

プレーン

「魔物、という意味の沖縄の言葉だ。

 そして、このマジムンを操っているのは…」

 

プレーン

「ヤナムンだ」

 

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【吸い込まれていくお菓子たち】

 

通行人B

「た、大変だぁ!

 コンビニが、コンビニが…!」

 

工房の近くで、通行人がさわぎながら、走っている。

 

白雪

「どうした? 何が起きている?」

 

通行人B

「コンビニのお菓子が全部なくなっているぞー!」

 

風乃

「なんですって…!」

 

通行人C

「俺のシュークリームがぁっ…!

 とられたっ…!

 くそっ、くそっ…!」

 

すぐ近くにいた通行人Cは、紙箱の中身をぽろりと落として、泣いていた。

落とした紙箱の中身は、からっぽだった。

どうやら、さっきまで、シュークリームが入っていたようだ。もう影も形もない。

 

白雪

「おいおい。やばい事になってきてないか?」

 

プレーン

「ヤナムンめ…。やっかいなことを。

 急ぐぞ、まだ周辺のコンビニやスーパー、お菓子の店にいるはずだ!」

 

風乃

「向こうから、泣き声が聞こえるよ!

 きっと襲われてるんだ!」

 

プレーン

「よし、行くぞ!」

 

声のあった方向に、急ぐ。

 

子供

「うわーん、うわーん、痛いよぉ」

 

来てみれば、ひざをすりむいて、泣いている子供がいた。

転んだようだ。

 

プレーン

「よしよし、泣かないでくれ、痛いの痛いの、とんでいけー」

 

白雪

「おいおい、今はお菓子が先だろう」

 

風乃

「そうだよ、お菓子が先だよ!」

 

プレーン

「お前ら…」

 

プレーンは、白雪たちにさげすんだ視線を送る。

 

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【狙われるサンケー】

 

風乃

「この近くで大きいお店と言えば…

 サンケーしかないよね!」

 

赤い三角のロゴマークのついた、目の前の大きな建物を指差した。

サンケー。沖縄ローカルのスーパーである。

 

衣類から食べ物から、おもちゃや雑貨、ゲームコーナー、

食事コーナー、書籍に、電化製品。

だいたいなんでも扱っている。

 

無論、お菓子も扱っている。

 

風乃

「これだけ大きいお店なら、お菓子もいっぱいあるし、

 狙われないはずがないよ」

 

白雪

「ふーん、サンケーね。

 見たところ、なんでも取り扱っている、

 総合ショッピングストアってやつか」

 

風乃

「総合ショッピングストア?

 白雪、むずかしい言葉知ってるね」

 

白雪

「雪女バカにすんなよ…」

 

 

【白雪の知識 〜お店編〜】

 

白雪

「人間の通うお店は、俺、よく知ってるんだぜ。

 ジュスコとかアイオンとか、無音良品とか、

 イトウヨウカトウとか、インキホーテにチガサキ屋も知ってるし、

 まだまだあるな、えーと」

 

自慢げに、知っている名前を挙げて、指折り数える。

長年、人間界を旅したためか、知識は豊富なようだ。

 

風乃

「ジュスコなら、沖縄にもあるよ」

 

白雪

「ふーん、今度つれてってくれよ」

 

風乃

「いいけど、電気屋さんの冷蔵庫の中に入っちゃダメだよ。

 冷たいのスキだからって」

 

白雪

「いくらなんでも売り物の冷蔵庫には入らんよ」

 

風乃

「あと、アイス売り場のアイスを、ぜんぶ食べちゃダメだよ。

 冷たいのスキだからって」

 

白雪

「俺はそんなに食い意地ははっておらん!」

 

プレーン

「…さっきまでお菓子お菓子と言っていたのは誰だ」

 

プレーンの厳しいツッコミに「うっ…」とうなる白雪。

 

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【マジムン登場】

 

ヤナムン

「やれ、お菓子の家マジムンよ!

 サンケーのお菓子はぜーんぶ吸い取ってしまえい!」

 

サンケーにしのびよる黒い影。

全身まっくろで、スライムのような姿をした、

そのヤナムンは、横にいるマジムンに指示を出していた。

 

お菓子の家マジムン

「ううううう」

 

マジムンは、板チョコレートでできた扉をパカリと開ける。

 

ヤナムン

「ふっふっふ、人間どもよ、

 捨てられたお菓子の恨みを思い知るがいい。

 そして苦しむ姿を見せよ!

 それが俺にとって最高のごちそうだ!」

 

ヤナムン

「くっくっく、はっはっは、笑いがとまら…

 …はぁ!?

 おいこら、やめろ! 俺を吸い込むな!」

 

ヤナムンの体は、お菓子の家マジムンに吸い込まれそうになる。

 

ヤナムン

「おい、マジムン、俺を吸い込んでどうする!

 吸い込むのはお菓子だけにしとけって言っただろ!」

 

すんでのところで、踏みとどまるヤナムン。

マジムンは、吸い込むのをやめる。

 

お菓子の家マジムン

「ううううう」

 

ヤナムン

「何? 俺をお菓子と間違えただと?

 このフラー(バカ者)が!

 どこをどう見たら、俺がお菓子に見えるのだ!」

 

お菓子の家マジムン

「ううううう」

 

ヤナムン

「俺がコーヒーゼリーに見えただと!?

 いや、俺の体はたしかに黒いけどさ、そりゃーないぜ。

 貴様、帰ったら視力検査な!」

 

お菓子の家マジムン

「ううう…」

 

煙突を曲げ、しょぼんとするお菓子の家マジムン。

 

風乃

「ねぇ、プレーン。

 なんかあっちですごく怪しい恰好の人たちが

 さわいでいるんだけど…」

 

サンケーの横に立つ、お菓子の家と、コーヒーゼリースライム。

あまりに怪しすぎて、風乃たちに、ばっちりとマークされていた。

 

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【対決、お菓子の家マジムン】

 

プレーン

「おい、ヤナムン! 何をしている!

 悪いことはやめるんだ!」

 

プレーンたちは、ヤナムンの前に立ちはだかる。

 

ヤナムン

「げっ、チンスゴー!

 こんなところでやられてたまるか!

 やれ、マジムン!」

 

お菓子の家マジムン

「ううううう」

 

お菓子の家マジムンの、チョコドアがぱかりと開く。

 

白雪

「あいつ、何をするつもりだ!?」

 

プレーン

「ホワイト、警戒しろ!

 何をしてくるかわからんぞ!」

 

ヤナムン

「放て!」

 

マジムンの扉の奥から、大量のお菓子がはきさだれた。

キャンディ、チョコ、クッキー。

さまざまなお菓子が、はきさだれ、勢いよく飛びかかってくる。

 

プレーン

「お菓子が飛んできただと!?

 しかもあんないっぱい…」

 

白雪&風乃

「わああああっ!?」

 

お菓子、直撃。

だが、直撃したものが何かを知り、

白雪と風乃は、目の色を変えた。

 

白雪&風乃

「お菓子がいっぱいだ! 食べよう!」

 

2人は、マジムンからはきだされたお菓子を、地面から拾って、

口いっぱいにほおぼる。

 

プレーン

「2人とも目を覚ませ!」

 

プレーン

「そのお菓子はぜんぶ賞味期限切れだ!

 匂いでわかる!」

 

白雪

「な…なんだとっ!?」

 

口から、ばーっとお菓子を吐き出す白雪。

 

風乃

「でも結構いけるよ」

 

風乃は、お菓子(賞味期限切れ)をばりばりほおばる。

平然とした顔だ。むしろ笑顔。

 

プレーン

「…おいしそうで何よりです」

 

プレーンは、賞味期限切れのお菓子を平然とほおばる風乃を見て、

止められない、と思った。

 

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【隠しても、吸い取られていく】

 

ヤナムン

「さあ、チンスゴーどもがお菓子に気を取られている、

 今のうちに店内に突撃だ!

 思う存分暴れていいぞ!」

 

ヤナムンとマジムンは、サンケーの店内に突入した。

店内は、夕方の買い物客でごった返している。

誰もが、驚き、振り向く。

 

警備員

「な、なんだ、君たちは!」

 

明らかに怪しい、動くお菓子の家と、コーヒーゼリースライム。

警備員がとめないはずがない。

 

警備員

「うわっ!? 僕の飴玉がっ!」

 

警備員のポケットから、飴玉が飛び出す。

それは、お菓子の家マジムンの、開いた窓から、吸い込まれていった。

 

ヤナムン

「こんな飴玉一個では足りない。

 もっと吸い込め」

 

お菓子の家マジムン

「ううううう」

 

警備員

「うわあああああ!?」

 

警備員の帽子の中から、レモンパイが1個。

胸ポケットから、キスチョコ2個。

ズボンの中から、ちんすこうとサーターアンダギー。

そのすべては、お菓子の家マジムンに吸い込まれていった。

 

ヤナムン

「はっはっは! 愉快愉快!

 さあ、もっとどんどん吸い込め!」

 

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【新メンバー紹介】

 

サンケー内は騒然となった。

 

お菓子売り場のお菓子はもちろん、

買い物客のもっているお菓子や、ゲームコーナーの景品のお菓子にいたるまで

ありとあらゆるお菓子が吸い込まれていく。

 

ヤナムン

「満足したか?」

 

お菓子の家マジムン

「ううう♪ ううう♪」

 

ヤナムン

「よーし、じゃあ次の店、行こう!」

 

プレーン

「ちょっと待った!

 店をハシゴするのはそこまでだ!」

 

ヤナムン

「ふっ、今さら登場か。

 遅かったな。

 もうぜーんぶお菓子は吸い取った」

 

プレーン

「これ以上の被害は許さん!

 ヤナムンにマジムン。俺と戦え」

 

ヤナムン

「戦う? プレーンよ、お前ひとりでか?

 他のチンスゴーはどうした」

 

プレーン

「そんなことはどうでもいい!

 今日は2人の新メンバーがいるから大丈夫だ!」

 

プレーンのうしろには、その2人の新メンバーである、風乃と白雪がいる。

 

風乃

「私もメンバーなの!?」

 

いつの間にか、自分もメンバーになっていたらしい。

普通の女子高生を戦わせるとは、どんだけ戦力不足だ。風乃は驚きを隠せない。

 

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【ヒーローといえば】

 

プレーン

「ヤナムンよ、これ以上の暴走は許さない。

 2人とも、行くぞ!」

 

白雪

「お、おう…。

 だが、行くと言っても、何をどうするのだ」

 

プレーン

「決まっているだろう! 戦う前の決めポーズだ!

 これをしないと、さまにならない」

 

白雪

「…はぁ? 決めポーズ?」

 

風乃

「へー、楽しそう!」

 

プレーン

「ヤナムン、今から、チンスゴー参上のポーズをとるから、

 少し待ってくれ」

 

ヤナムン

「待っているから、早く済ませてくれ」

 

白雪

「…待っててくれるんだ?」

 

ヤナムンの妙な律儀さに感心する白雪であった。

 

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【集まってくる観客たち】

 

子供

「ねぇ、お母さん、チンスゴーが戦っているよ!

 ちょっと、人数が少ないみたいだけど…」

 

店員A

「なんだなんだ? チンスゴーだって?

 今日は、ヒーローショーは予定していないぞ?」

 

店員B

「今度は何が起きたんだよ。

 お菓子もぜんぶなくなるし…かんべんしてくれよ」

 

子供と親たちは、チンスゴーのヒーローショー見たさに、

どんどん集まってくる。

また、謎の事態を察知してか、店員たちも集まってくる。

 

白雪

「お、おい! どんどん観客が集まってくるのだが…」

 

風乃

「わお! ギャラリーがいっぱい。

 わくわくしてくるね!」

 

プレーン

「いっぱいの人に見られてこそ、われわれチンスゴーの活躍のしがいが

 あるというもの。さあ、ゆくぞ!」

 

チンスゴーは、「うおおおお」と大声を出すと、さっそうと、

ヤナムン&マジムンの目前に飛び込んでいく。

 

すたっ! と華麗に着地。

 

プレーン

「チンスゴー・プレーン! ただいま参上!」

 

しゅっ! しゅっ! と両手をアグレッシブに動かして

かっこよいポーズを決めるチンスゴー・プレーン。

 

「チンスゴーだ!」

「がんばれ!」

「応援している」

「愛している」

と、観客から、歓声があがった。

 

スーパーの大勢の観客に見られている、じろじろ、見られている。

白雪の、いろんなところに、視線がつきささる。

恥ずかしくてたまらない白雪。顔をぼっと赤くする。

 

白雪

「ち、チンスゴー・ホワイト!」

 

そして、自分で考えた、決めポーズをとる。

 

白雪

「なんだかなぁ…」

 

今、なんだか、少しだけ、ばかばかしいことをしているなと思った白雪。

しらける。ホワイトだけに。

 

ヤナムン

「バカを言うな!

 ホワイト! お前のどこがチンスコウなのだ!

 どこをどう見ても、チンスコウの形をしていないではないか」

 

白雪

「うっ…それは…」

 

痛いところを指摘されてしまった。

ホワイトはチンスコウではない、雪女だ。

成り行き上、チンスゴーの新メンバにならざるを得なかったのだ。

 

風乃

「ヤナムンさん! それは違うよ!

 ホワイトのお股にはチンスコウが生えてるから、

 立派なチンスゴーだよ!」

 

白雪

「風乃、お前はだまっとれい!」

 

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【次は私の番】

 

風乃

「次は私の番だね」

 

風乃はいったい、どんな登場の仕方をするのだろう、と、

心配そうに風乃を見守る白雪。

 

風乃は、ヤナムン&マジムンの目前まで走り、立ち止まる。

きりりと真剣な表情を整え、両の手のひらを開き、天高くかかげる。

 

風乃

「チンスゴー・ウィンド(風)! 参上!」

 

どこからか風が吹いて、風乃の髪が横になびく。

「風」の演出効果をあらわしているようだ。

 

ヤナムン

「ウィンドとか…。

 チンスコウの味でもないし、色ですらもないじゃないか!」

 

相変わらず、ヤナムンの厳しい突っ込みが入る。

 

風乃

「あっ、ウィンドじゃだめ?

 じゃあトルネードかブリザードで!」

 

ヤナムン

「そういうことじゃねぇ!」

 

風乃

「てへへ」

 

ヤナムン

「まったく、どいつもこいつも変な奴ばっかりだ!

 調子が狂ってしまうな!

 おい、チンスゴー。少しは考えて、セリフを言…」

 

プレーン

「沖縄の平和を守る5人のヒーロー!

 琉菓五勇士チンスゴー! 見! 参!」

 

ヤナムンの文句を強引に押し切り、決めゼリフをたたきつける。

 

ヤナムン

「強引にセリフを進めんな!」

 

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【5人いない】

 

ヤナムン

「何がチンスゴーだ!

 チンス『ゴー』のくせに、5人いないじゃないか!」

 

もっともな指摘だった。

チンス『ゴー』なのに、プレーン、ホワイト、ウィンドの3人しかいない。

 

プレーン

「晴れの日もあれば、雨の日もある。

 チンスゴーが5人いない日もあるさ」

 

ヤナムン

「それは理由になっているのか、プレーンよ…」

 

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【マジムンの恨み】

 

ヤナムン

「チンスゴーよ。

 サンケー中のお菓子はぜんぶ吸い尽くした。

 この『お菓子の家マジムン』によってな!」

 

お菓子の家マジムン

「ううううううう」

 

白雪

「お菓子の家が、動いて、お菓子を吸い尽くすだなんて…。

 今見ても信じられんな…」

 

ヤナムン

「このマジムンは、大量に作られたあげく、

 賞味期限がきれ、一口も手をつけられないまま、

 人間に捨てられたお菓子どもの、無念の霊のかたまりだ」

 

ヤナムン

「何も考えず、お菓子を作った奴が憎い。

 何も考えず、お菓子を捨てる奴が憎い。

 彼らはそう言っているのだよ…。

 だから、その憎しみを、俺が成就させてやろうというのさ」

 

風乃

「何をするつもりなの」

 

ヤナムン

「このお菓子の家は、今から、沖縄中のお菓子をくいつくす。

 お菓子がなくなれば、人間は困りだす。

 泣き出す子供や、あわてるスイーツ好きの女ども。

 この目で見届け、嘲笑してやるわ。

 人間の不幸こそ、俺の元気のみなもとよ。

 はっはっは…」

 

風乃

「沖縄中からお菓子をなくすですって!?

 ひっ、ひどい…なんてことを!

 鬼! 悪魔! ゾンビ!」

 

白雪

「ヤナムンの人でなし!」

 

甘いもの好きな風乃と白雪は、ヤナムンにブーイングをたたきつける。

 

ヤナムン

「いや、俺は、もとから鬼でも悪魔でも人でもないのだが…」

 

人外である、その黒い悪霊は、「人でなし」と言われ、おたおたと困惑するのだった。

 

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【観客の応援と、紙吹雪と、無力な2人】

 

「がんばれ、チンスゴー!」

「ヤナムンなんて倒してしまえ!」

 

周囲の人々の歓声とともに、クラッカーの音がなり、

吹き抜けとなっている2階・3階から紙吹雪が大量に舞い散る。

 

風乃

「うわぁ…すごい紙吹雪。

 私たち、すごく期待されてるみたい」

 

風乃の髪に、いくつもの紙吹雪がくっつく。

手で払い、落とす。

 

白雪

「プレッシャーがはんぱないな…」

 

風乃

「どうしたの、白雪。そんなに震えて。

 怖いの? おしっこちびった?」

 

白雪

「まだちびってはおらん!

 それに、怖いのは当たり前だろう!

 今の俺は、雪の術が使えないのだ。

 せいぜい殴るか蹴るかぐらいしかできん…。

 プレーンに頼るしか、ないのだ」

 

ヤナムン

「くっくっく、それはいいことを聞いた」

 

白雪

「うっ、聞かれていたか」

 

ヤナムン

「貴様が、役立たずの能無しであることはわかった。

 そこにいる少女も、弱そうだな。

 ということはプレーンさえつぶせば、俺の勝ちということだ。

 くっくっく、はーっはっはっは!」

 

白雪&風乃

「うん、そのとおり」

 

ヤナムン

「ちょっとは否定して!?」

 

ヤナムンは、あまりにストレートな返答に、心配を感じてしまった。

 

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【プレーン対マジムン】

 

プレーン

「いっきにきめるぞ! 

 チンスゴー・パンチ!」

 

プレーンは、お菓子の家マジムンに向かってダッシュで突撃し、

拳を突き出す。

拳が、マジムンの板チョコ扉を粉砕しようとした、そのとき。

 

お菓子の家マジムン

「ううううう」

 

バタン。板チョコ扉が開く。扉のすぐ前にはプレーンの姿。

プレーンは、扉を避けきれない。

 

開いた扉は、裏拳を放つかのように、プレーンの顔面に直撃し、

さらに、開いた扉と、壁の間に、プレーンを挟むこむ。

 

プレーン

「ぐはっ」

 

バキバキバキ、と音が鳴る。

チンスコウが割れていく音だ。

焼き菓子であるチンスコウが、硬いものにはさまれ、耐えられるはずがなかった。

 

白雪

「プ、プレーン!」

 

風乃

「あらら、扉と壁の間にはさまれちゃった…」

 

扉と壁のサンドイッチから解放されたプレーンの体が、

ぼたり、と力なく床に落ちる。

助けないと。

風乃と白雪は、横たわるプレーンにかけよる。

 

プレーン

「い、いかん…体にヒビが入って…

 力が…入らない…」

 

プレーンの体は、いつ粉々になってもおかしくない。

そう思わせるほどの、ヒビの量だった。

 

白雪

「プレーン! しっかりしろ!」

 

プレーン

「このままじゃ、俺の体はバラバラだ。

 だが、お菓子工房が使えない今、

 バラバラになるわけにはいかん。

 ホワイト、体のヒビを糸で縫ってくれ。

 裁縫、できるんだろう…?」

 

白雪

「ああ、裁縫はできるとも」

 

風乃

「…チンスコウって、糸で縫えるの?」

 

素朴な疑問を投げかける風乃に、

白雪は「さあ…」と困って答えるのだった。

 

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【風乃 対 マジムン】

 

気を取り直して、マジムンと対峙する風乃。

 

風乃

「マジムンさん、マジ強いよ…」

 

ヤナムン

「ダジャレのつもりか。バカにしおって。

 マジムンよ、チンスゴーの残り2人をさくっと

 やっつけてしまえ!」

 

お菓子の家マジムン

「うううううう」

 

マジムンの視線が、風乃と白雪をとらえる。

 

白雪

「風乃、先祖の霊を宿して戦えないのか!

 正直、俺では対抗できん!」

 

風乃

「無理だよ。おじいちゃんに連絡しても、

 何も応答ないもん」

 

白雪

「くそ、おじいさんはいったい何をしているんだか…。

 仕方ない、いったん逃げるぞ」

 

白雪の背中には、ひび割れたプレーンが背負われている。

 

風乃

「逃げるんだね」

 

白雪

「ああ、だが逃げる準備に時間がかかる。

 時間をかせいでくれ」

 

白雪は、足もとにちらばる、大量の紙吹雪に、視線を落とす。

この紙吹雪、使えるかもしれない。そう思っていた。

 

風乃

「おっけーです」

 

ヤナムン

「貴様ら、こそこそと何を話している!」

 

風乃

「ここでクイズです!」

 

ヤナムン

「へ?」

 

風乃

「個人情報クイーズ!」

 

どこからかマイクを取り出し、大声でさけぶ風乃。

 

風乃

「チンスゴー・ホワイトの体重は? 次の3つのうちどれでしょう。

 50kg、60kg、30kg」

 

白雪

「おいこら。

 俺の体重を、大勢の観客の前で披露するつもりか。

 問題をかえてくれ」

 

ヤナムン

「そうだそうだ、問題をかえろ!

 体重じゃなくて、スリーサイズにしておけ!」

 

白雪

「お前もちょっと待て」

 

子供

「おかあさん、スリーサイズって、なに?」

 

お母さん

「おっぱい、お尻、腰のサイズよ」

 

白雪

「教えんな!」

 

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【あいつの年齢】

 

風乃

「チンスゴー・ホワイトの年齢は、人間で言うとどれくらいでしょう?

 次の5つから選んでください。

 17歳、20歳、25歳、28歳、300歳」

 

ヤナムン

「明らかに、おかしい年齢があるのだが…」

 

風乃

「17歳?

 見た目にしては、若すぎる年齢だったかな?」

 

ヤナムン

「違うわい! 300歳だ、300歳!」

 

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【あいつの年齢 その2】

 

風乃

「だって、ホワイティは、人間じゃないんだもん。

 300年くらい生きてるかもよぉ?」

 

ヤナムン

「うぬぬ、そうやってゆさぶりをかけるつもりか!

 俺はのせられんぞ」

 

お菓子の家マジムン

「うううううう」

 

ヤナムン

「マジムンよ、何か言いたそうな顔をしているな」

 

お菓子の家マジムン

「ううう、ううう、うーうーう」

 

ヤナムン

「何? 25歳か28歳のどちらかだろう、って?

 うーむ。

 まあ、俺もそう思っていたところだ。

 しかし、あの300歳も気になる」

 

風乃

「ふっふっふ、どっちだと思う?」

 

ヤナムン

「俺は、自分の信念にしたがう!

 ホワイティの年齢は…」

 

観客A

「17歳!」

 

観客B

「28歳!」

 

観客C

「30歳!」

 

観客たちが次々さわぎだし、年齢を答えていく。

その勢いに、ヤナムンの回答はさえぎられていく。

 

風乃

「残念! みんな不正解!」

 

風乃

「ホワイティは、25歳くらいなんだって」

 

ヤナムン

「ふーん」

 

観客たち

「ふーん」

 

店員たち

「へぇー」

 

お菓子の家マジムン

「へー」

 

風乃

「あれ、リアクション悪いなぁ…?」

 

観客A

「ネタでもいいからさー、17歳とか300歳って言ってほしかったよね」

 

観客B

「そうそう普通すぎてつまんないって言うか」

 

観客C

「見た目相応だから、リアクションをとりづらいというか…

 まあつまらん結果だな」

 

周囲の人々のリアクションは、あまりに薄いものだった。

ホワイティ(白雪)の年齢が若く見えてるわけでもなく、老けているわけでもなく、

妥当なものだったからだ。

 

早く雰囲気を切り替えないと。

風乃は、新たな問題を出題した。

 

風乃

「じゃあ次は、ホワイティの体重を答える問題です!」

 

ヤナムン

「こいつ、問題を蒸し返しやがったぞ!?」

 

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【カラフル吹雪で逃走劇】

 

ふわり。

どこからか、風が吹いた。

白雪の足元を覆いつくしている、無数の紙吹雪が、風の力を受け、

ふたたび宙に舞いだす。

 

先ほど、観客たちによって、放たれた紙吹雪だ。

紙吹雪は、赤、青、黄色…と色とりどり。

スーパーのチラシをちょきちょきと切ったものだろう。

 

「吹雪を起こす要領で…っと」

 

白雪は右手をひらひらと動かし、何かを操作するような手つきで、

紙吹雪たちに指示を出す。

 

「舞え、紙吹雪!」

 

無数の紙吹雪が、ヤナムンとマジムンにむかって、流れていく。

 

ヤナムン

「うおおお!? か、紙吹雪だと!?

 なんだ、これは、前が見えん!」

 

色とりどりの紙吹雪は、ヤナムンとマジムンの視界を完全に覆いつくす。

白雪と風乃の姿を、とらえきれなくなる。

 

白雪

「今だ、逃げるぞ!」

 

風乃

「待って、ホワイティ!」

 

白雪

「なんだ!」

 

風乃

「おしっこ行きたい」

 

白雪のパンチが、風乃のみぞおちをえぐった。

 

 

次回に続く!

説明
【前回からのあらすじ】
公園で起きたトラブルを解決しようと、出動したチンスゴーたち。
しかし5人のうち4人は、階段から落ちて粉々になった。
生き残ったプレーンは、白雪を引き連れて、公園トラブルを解決。
安心したのもつかの間、新たな事件が起ころうとしていた。
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南の島の雪女

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