IS-W<インフィニット・ストラトス> 死を告げる天使は何を望む |
教室に二人の転校生が入った瞬間、教室のざわめきが止まった。まるで時間が止まったような感じだった。
原因は転校生の一人の制服が男物だからだった。その一人が自己紹介を始める。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」
「お、男…?」
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国から転入を…」
その佇まいや話し方からして育ちはいいようだが、もう一人ISを操縦出来る男子がいることは報道されていなかったとヒイロは考えていた。
(それにコイツの動き方…)
もう一つヒイロはある予測を立てていた。しかしその前に
「き、」
「はい?」
「「「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」」」
女子の歓喜の叫び声が窓ガラスを揺らす事態になった。
恐らく騒音レベルはジェット飛行機と同じレベルに違いない。
「男子!三人目!!」
「しかもうちのクラス!」
「美形!ワイルド系織斑君とイケメン系のユイ君に続いて守ってあげたくなる系!!」
「地球に生まれて…良かった〜!!(織田●二風に)」
「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから〜!」
もうどこかで織田●二をやっている奴もいた。真耶は涙目になりながら沈めようとするが聞かず、最終的に千冬が鬱陶しそうにそれを鎮める。
そして、もう一人の転校生だが…軍服のような改造制服に左目の眼帯、温度を感じさせない冷酷な紅い右目。そして全身から放たれる凍てつくような鋭い気配。まるで過去のヒイロに似た感じだった。明らかに軍人だとヒイロは感じ取った。そして一夏に憎しみに似た感情を向けていることも…。
「………………」
当の本人は未だ口を開かない。目の前にいる人間を見下すような目でこちらを一瞥した後その視線を織斑先生にのみ向ける。
「……挨拶しろ、ラウラ」
「はい、教官」
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここでのお前は一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
かかとを揃え背筋を伸ばした姿勢と二人のやりとり。
(どうやら千冬は過去に外国の軍で教官をやっていたようだな…一夏に関係があるのか?)
ヒイロはそう考えているがそれでもラウラから目を離さなかった。
そして自己紹介がはじまりだす。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「………………」
「あ、あの、以上…ですか?」
「以上だ」
真耶のフォロー虚しく最低限な自己紹介で終わる。
そして一夏と目が合ったと思ったら彼に近付いていき、手を振り上げ、一夏の顔を叩こうとした。しかし、その手を止める者がいた。
ヒイロがラウラの手首をつかみ止めたのだった。
「貴様!!何をする」
「…………」
ヒイロは無言で答える。二人の目線が合う。それはまさしく兵士同士のにらみ合いでもあった。
やがてラウラはヒイロの手を振り払って、一夏に言った。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
その言葉に一夏はすぐにあの人というのが千冬とわかった。しかし…
(俺を認めない…?アイツ、なぜ?…千冬姉ぇに関係があるのか?)
と確証がないが言われる原因がわからなかった。
ラウラはその間に空いている席に着き、腕を組んで目を閉じて黙り込む。ヒイロもそれを見て席に着いた。
周りのクラスの女子は未だ状況が飲み込めていないのか呆然としていた。
「あー…ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!織斑、ユイ。デュノアの面倒を見てやれ」
千冬の号令にクラス全員が覚醒し動き始める。ヒイロは立ち上がり一夏の席に近づく
「行くぞ…一夏」
「わかってる!」
「君が織斑君?初めまして。僕は―――」
「ああ、いいから。とにかく移動が先だ。女子が着替え始めるから」
一夏はシャルルの手を取り、引っ張りながら教室を出る。その後ろをヒイロが続く。
ヒイロはここで一応ラウラとの関係を一夏に聞いてみた。
「一夏…アイツとは昔に何かあったのか」
「いや…初対面だ。だけど千冬姉ぇ絡みなのは間違いないと思う。千冬姉ぇ、昔ドイツに居たし」
「えっと…君は特殊事例の…」
「……ヒイロ・ユイだ」
「うん…よろしく、ユイくん」
「ヒイロでいい」
移動しながら会話する3人。男子のみがアリーナの更衣室を使うためである。
それにこうしないと転校生の情報を聞き付けた他クラスの人間が情報収集のため尖兵として派遣されて囲まれるからでもある。構っていたら遅刻して千冬の出席簿アタックの餌食だ。一夏もヒイロもそれだけは避けたかったのだ。
「いた!転校生!」
「金髪美形!王子様!!」
「者ども!!であえ…であえぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇええええええええ!!」
ついに他クラスや上級生に発見されてしまった。
ヒイロたちはものすごい勢いで廊下を駆け抜けて何とか先輩や女子の魔の手から逃れようと走り出すが後ろからものすごく走ってくる
「な、なに!?何で皆騒いでるの?」
「そりゃ俺達が男だからだろ」
「………?」
しかし、ここでシャルルは何故か意味が分からないような顔をした。
そこで一夏が再度言う。
「男でISが操縦出来るのは俺達しかいないだろ?」
「あ、ああ!そうだね…」
ここでやっとシャルルが納得した。しかし、その様子をヒイロは見逃さなかった。
一夏は気にせず話を続ける。
「それにこの学園の女子は極端に男子との接触が少ないからな。ウーパールーパー状態なんだよ」
「何それ…?」
「二十世紀の珍獣で昔日本で流行ったんだと」
「ふうん」
「それにしても良かったぜ」
「何が?」
「男がもう一人増えたからな。ヒイロがいてくれたおかげで大分楽だったけどそれでも男が少ないのはキツいからな」
「そうなの?」
とシャルルはさらに違和感のある発言をする。まるで今まで自分は関係なかったような反応だった。
しかし、一夏にとって今は更衣室に直行してさっさと着替えないと千冬の出席簿アタックが待っているためそっちを優先して考えるのを止めた。
「よし、到着!」
更衣室に入ると同時に一夏は一気に上半身裸になる。ヒイロもそれに続き上着を脱ぎ始める。
「うわぁっ!?」
「?荷物でも忘れたか?ってか早く着替えないと遅れるぞ」
「う、うんっ?着替えるよ?でも、その、あっち向いてて……ね?」
「別に見る気はないが…」
(変な奴だな。同性の裸なぞ見ても嬉しくないだろうに…それなの…わかってるはずだよな?)
一夏はそう思いながら急いでISスーツを着る。
ヒイロはその間に、いつもの緑のタンクトップにジーパンと言う格好になる。
「ヒイロはいいよな…私服でいいし」
「……こっちの方がやりやすいからな」
ISスーツは吸汗機能もあるからベタつきとかない。しかし、素材がラバーに近いので苦しく感じるのだ。
一夏がふと後ろをみるとシャルルは既にジッパーを上げて着替え終わっていた。ちなみに構図としては一夏とヒイロが同じ方向を向いていて背後でシャルルが着替えていた。
シャルルの着替えの速さを見た一夏は驚きながら言う。
「シャルル着替え早いな。コツとかあんのか?」
「いや、別に…って一夏まだ着てないの?」
シャルルはそう言う。
一夏は今スーツを腰まで通したところであった。
「引っ掛かって着づらいんだよなこれ」
「ひ、引っ掛かって…」
先ほども言った通りISスーツはラバーに似た素材でできている。そのため摩擦等で着にくいのだがよく見られるラバースーツよりかは遥かに着やすい。
しかし、何故かシャルルは顔を赤くして驚いていた?これもまたヒイロに怪しいと思われる要因になった。
「そういえばシャルルのISスーツはどこのなんだ?」
「あ、うん。デュノア社のオリジナル品だよ」
「デュノア?それって…」
「うん。僕の家だよ。IS関連企業で父が社長しているんだ」
「それでか。納得した」
「何が?」
「つまりシャルルは社長の息子なんだろ?気品のいいっていうか、いいところの育ち!って感じがするじゃん」
「いいところね…」
シャルルは視線を逸らして複雑な表情を浮かべている。何か触れてほしくことでもあったのだろうか…一夏はそう考えている間にヒイロが
「……そろそろ行くぞ」
と言って3人は更衣室を出たのだった。
「……一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」
「……ひ…人の頭をポンポンと……」
先ほどのラウラの一件で鈴とセシリアは一夏から聞き出そうとし無駄口を叩いて千冬にはたかれた。今日から実戦的な訓練に入るため千冬もいつも以上に厳しい。
「今日は戦闘を実演してもらう。凰!!オルコット!!」
戦闘の実演役に鈴音とセシリアが指名される。
先ほどの罰も含んでいるのだろうが、鈴とセシリアは文句を言いながら前へ出てくる。
「何で私(わたくし)が…」
「全部一夏のせいなのに…」
とやる気のない二人…当然の事だろうが、専用機を持っている二人はすぐに模擬戦が可能だからの選抜である。ここで千冬が二人のそばによりひそひそ声で二人の耳にささやく。
「お前らやる気を出せ。……あいつにいいところを見せられるぞ?」
「やはりここはイギリス代表候補生、私セシリア・オルコットの出番ですわね!!」
「まあ、専用機持ちの実力の違いを見せるいい機会よね!!」
と魔法のことばでた〜のし〜いなかま〜が、●●●●〜ン!!と二人のやる気が上がる。
箒はそれに対してどす黒いオーラを放っていたがヒイロは無視、一夏は気づいていなかった。
「それで、相手は鈴さんですの?それでも構いませんが」
「ふふん。それはこっちのセリフよ。返り討ちね」
「慌てるな馬鹿共。対戦相手は…」
と千冬が言いかけると空から風を切る音が聞こえ…
「あわわわぁ!ど、どいてください〜っ!」
と涙声で叫ぶ真耶がISを装備して落ちてきた。
「バ、バランスがとれないんですぅー!」
このままじゃ確実に地面と仲良くなるなぁ。と誰もが思い、全員逃げだす。ただ二人…ヒイロと一夏だけ逃げ遅れた。ヒイロはそのまま受け止めようと体制を整えるが一夏が白式を展開させ、山田先生を受け止める。
ただし、やはりかなりの衝撃で砂煙が立つ。ヒイロは右腕で砂を目に入らないよう防ぐ。
「いてて…。なんだ?この柔らかいの?」
「あんっ。…あ、あの。一夏君、教師と生徒はこのようなことは…。あぁでも織斑先生がお義姉さんになるのならいいかも…」
「へ?」
一夏はとぼけた声を発する。そして状況を確認する。
一夏(じぶん)が真耶を押し倒した形で、胸をわしづかみ。しかもちょっと揉んでいる状況を……
真耶も少し受け入れてる…と言うか千冬の妹になりたいのか?
(すげぇ巨乳!!…千冬姉ぇよりも大き…ってイヤイヤイヤ!!…)
流石に状況を把握した一夏は冷や汗をおもいっきりかく。その時、
「右に避けろ、一夏」
と言うヒイロの声と同時にシュンと高速で空気を切り裂く音が聞こえる。
「うわっ!」
一夏の目の前、5センチぐらいレーザーが通過する。
撃ったのはもちろん…
「ホホホホホホホ…私としたことが外してしまいましたわ?」
修羅と化しているセシリアだった。
しかし、甘く見てはいけない。修羅と化しているのはセシリアだけではない…
「一夏ぁ!!」
鈴が双天牙月を超高速スピンで投げつける。普通の人間なら首がちょん切れる威力だろう。ヒイロもさすがにまずいと感じ、ガンダムを起動、ビームサーベルを抜こうとした時だった。
「一夏君危ない!」
と皐月の声と同時に二発の銃弾が牙月を弾く。
「山田先生?」
なんと真耶が先程の体勢から、狙撃をし確実に当てて見せたのだった。これにはヒイロもそして他のメンバーも驚きを隠せなかった。
「山田先生は元代表候補生だ。これくらい当然出来る」
「そんなぁ。候補止まりでしたからぁ」
謙遜する真耶。そう…かつて真耶は日本の国家代表候補生だった。その実力は千冬がほめるほどの折り紙つきでもある。
「ということで、オルコットと凰で山田先生と2対1の模擬戦闘をしてもらう」
「えぇ?いくらなんでもそれでは」
「そうですよ?さすがに勝っちゃいますよ?」
セシリアさんが驚き、鈴が続ける。確かに他のクラスメイトも専用機持ちのセシリアと鈴が勝つと思っている。しかし、ヒイロは違った。
「……油断は禁物だセシリア、鈴音。さっきの狙撃を見て、今のお前達の実力では勝てない可能性の方が高い」
そう言うと二人の顔は少しムッとする。
そうして真耶対セシリア&鈴の戦いがはじまる。
「よし、デュノア。山田先生が使っている機体について説明しろ」
「はい。山田先生が使っている機体は、フランスデュノア社製の『ラファール・リヴァイヴ』です。全距離において対応可能なように武装が積まれています。第2世代最後期の開発で、スペック上は第3世代には劣りますが、戦い方によっては互角に戦うことも可能です」
空で戦いをしている中で千冬はシャルルに機体説明をさせる。
しかし、みんなは上空に夢中になっていた。
セシリアのレーザーを完璧に避ける真耶。癖とか知ってないと、あそこまできれいには無理だろうに軽々とやってのける。甲龍の龍砲まで絶対弾丸見えないのにタイミングとか狙いとか読み、回避していく。おそらくかつて一緒に行動していたことがあったルクレツィア・ノインと同じタイプだとヒイロは感じていた。
「では、速瀬。日本の『打鉄(うちがね)』と『ラファール・リヴァイヴ』の違いを分かりやすく言え」
「はい。私たち倉持技研で作った『打鉄(うちがね)』は安定した性能を誇るガード型で、初心者にも扱いやすいように作りました。今でこそ、多くの企業並びに国家、そしてIS学園においても訓練機として一般的に使われていますが元々は専守防衛を基礎としている我が国に合わせた機体です。一方『ラファール・リヴァイヴ』ですが特筆すべきはその操縦の簡易性で、それによって操縦者を選ばない事と多様性役割切り替えを両立している点です。装備によって格闘・射撃・防御といった全タイプに切り替えが可能で、参加サードパーティーが多いことでも知られています。ただし、『打鉄(うちがね)』と比べると安定性は低く使いにくいと言う点から性能の高い『ラファール・リヴァイヴ』と『打鉄(うちがね)』両方を訓練用として所有するところが多いと言う事です」
と皐月が説明している間に決着がつきそうになっている。
「くっ!鈴さん邪魔ですわよ!」
鈴がセシリアの射線に被っていて、セシリアは引き金を引けない。これもコンビネーションがうまく行っていない2人を真耶が誘導したからである
「うっさい!あんたこそ邪魔よ!」
そうして二人は激突。そこへ真耶が放ったグレネードが直撃
二人は撃墜されたのだった。
「くっ、うう……。まさかこのわたくしが…」
「あ、アンタねえ…何面白いように回避先読まれてんのよ…」
「り、鈴さんこそ!無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」
と二人が地上で喧嘩し始める。コンビネーションのことを考えると一夏とヒイロのコンビが一番完遂しているのでもし二人ならここまでにはならなかっただろう。コンビネーションに関してだけだが…
「これで教員の実力がわかっただろう。以後、敬意を持って接するように」
ちなみに今の真耶の武装ならヒイロは真耶に勝てるだろう。しかしそれは教師の面をつぶすことなのでヒイロは内心に止めておいた。それは一夏も思っていた。
この後授業に入り、一夏と箒が何かの約束をしているところをヒイロは見たが今はシャルルをただただ監視していたのだった。
授業が終わり、お昼ご飯の時間。箒にとっては初めて一夏との2人きりの昼食だと思っていた。箒は先ほどの授業の時に勇気をだして一夏を誘ったからだ。
一夏の分の弁当も作ったから屋上で食べよう―――と
しかし…
「…どういうことだ」
「ん?天気がいいから屋上で食べるって話だったろ?」
「そうではなくてだな」
箒は不満だった。一夏が『みんなで食べた方がいい』と言ってセシリア、鈴、シャルル、ヒイロ、皐月を呼んだからだ。セシリアと鈴はそんなことなくても乱入していただろうが…
「それにしても、さっきは凄かったなシャルル」
「え、何が?」
「何がって、雪崩のように押し掛けてきた女子達に丁寧に丁寧を二乗した対応だったから」
と一夏は言う。その丁寧な対応のトドメにシャルルは―――
『僕の様な者の為に咲き誇る花の一時を奪う事は出来ません。こうして甘い芳香に包まれているだけで、もうすでに酔ってしまいそうなのですから』
と言ったのだった。
嫌味くさくないし、本当にそう感じているようで『貴族の義務《ノーブレス・オブリージ》』と言うのを見たような感じだった。
ちなみに直訳すると「高貴さは(義務を)強制する」を意味し、日本語では、しばしば「位高ければ徳高きを要す」などと訳される。一般的に財産、権力、社会的地位の保持には責任が伴うことを指すのだが…いい意味では使われない言葉のようだ…
「ま、これから仲良くしようぜ。わからないことがあったら俺等に聞いてくれ。あ、ちなみにISの事はわからん」
「ったく一夏、アンタはもうちょっと勉強しなさいよ」
「してるって。多すぎるんだよ、覚える事が。お前らは入学前から予習してるからわかるだけだろ」
「ええまあ、適性検査を受けた時期にもよりますが、遅くても皆ジュニアスクールのうちに専門の学習をはじめますわね」
「でもそれは海外だけであって日本は高校か大学からなんだけどね」
セシリアの言葉に皐月が付け加える。
そう、ISに関して女性は選択で早い段階で勉強することができる。と言ってもそれは女尊男非が激しい海外であって日本では工学部の機械工学や電気・電子工学を専攻している人や工業系の高等専門学校に入った人でないと勉強しないのだ。
なので一夏が最初に参考書を電話帳として捨てたのがまずかったのである。
そんなことも気にせずシャルルは一夏にお礼を言う。
「ありがとう。一夏、優しいね」
「い、いや、まあ、これからルームメイトにもなるだろうし…ついでだよ、ついで」
「一夏さん、部屋割がもう決まったのかしら?」
「…部屋にソファ型の簡易ベットがあった。おそらく3人で一部屋だろう」
とヒイロが呟く。周りはそれに納得する。
「……それより飯にしよう。俺は飲み物を買ってくる」
「ヒイロ!!あたしメロジュー」
と鈴が手を挙げながら頼む。てか飯食いながらメロンジュースはどうかと思われるのだが…
「…わかった。お前たちはいらないのか?」
「じゃ…粗茶で」
「私も一夏と同じで頼む」
「わたくしはアップルティーをお願いしますわ。ペットボトルのもので構いませんので」
「僕もオルコットさんと同じものを」
「じゃ〜私は付いて行きます」
と一夏、箒、セシリア、シャルル、皐月の順に言う。
ヒイロは皐月とともに自販機にいって飲み物を買う。その帰りに皐月は言う。
「バスターライフルなんですけど、このままだと限界があると思います。技術的に…」
「……確かにな」
正直、いくら倉持技研の職員である皐月とあらゆることに精通しているヒイロを持ってしてもウイングセロのジェネレーターがあまりにも強すぎて限界が見えていた。
「今度の学年別トーナメントで俊之おじさんに頼もうかと思っているんですが」
「槇村にか…」
「はい…おじさん『光の翼計画』で強大なエネルギーの制御を行っているのでもしかすると」
『光の翼計画』…これは後々詳しく語られることだろう。なので今は置いておく。
ヒイロはわかったと言って屋上の扉を開けた。
「ほら、あ〜ん」
「あ、あ〜ん…」
そこに広がっていた光景は一夏が箒お手製の唐揚げを箒に絶賛あ〜んをしているところであった。
作者から言わせてもらうと口から砂糖でも拭き出しそうな展開である。
「い、いいものだな…」
「だろ? うまいよな、この唐揚げ」
「唐揚げではないが…うむ。いいものだ」
箒はとても幸せそうであった。皐月はニヤニヤしてヒイロはそれを見つつも何も感じず席に着く。
「「一夏!(さん!)」」
しかし、その行動に火がついたセシリアと鈴。自分達が作った(セシリアはサンドイッチ。鈴は酢豚)を一夏に向けて突き出している。屋上はすでにカオスと呼べるような空間に成り果てていたのであった。
今日一日の授業が終わり夕飯を終えた後、ヒイロ、一夏、シャルルは部屋に戻ってきた。
「……シャルル…お前は俺が使っていたベットを使え。俺は今から布団をもらってきて簡易ベットで寝る」
ヒイロはそう言って部屋を出ようとする。しかし、そこでシャルルが止める。
後から来た身としてベットが譲られるのが遠慮したんだろう。シャルルが何か言おうとする前にヒイロが顔を見て話す。
「気にするな。一夏…シャルルと茶を飲んで待っていてくれ」
そう言ってヒイロは廊下に出て行った。
ヒイロは考える。それは今日入ってきた転校生の事だった。
(ラウラ・ボーデヴィッヒ…アイツのあの目はかつての俺たちと同じだ…戦うことに疑問を持たない目…そして…シャルル、あの動き…明らかに何かで胸を縛っている動きだ)
本来ならわからない微細な動きでもヒイロの超人的な洞察力をもってすれば気づくことができたのであった。
(シャルル・デュノア…奴はおそらく女だろう。何の目的でこのような形で入学したのか…聞き出す必要があるかもしれん)
性別を偽ってまでの入学。それは通常ではありえないことである。何か特別な任務があると考えていいだろう。
しかし、ヒイロはシャルルに聞き出すことができなかった。なぜならシャルルが女だと言う確実的な情報がないからだった。
(かといって今のままで行動を起こすとカトルの二の前になる可能性が…)
そう言ってヒイロは苦虫を噛んだような顔を他の人にわからない程度でする。そうガンダムパイロットが忘れることができない事件。仲間のひとりのカトル・ラバーバ・ウィナーが実は女と言うニセ情報で残りのメンバーが翻弄され、最終的にはカトルがブチ切れ、暴れまくると言う忘れることができない出来事があったからだ。なにせカトルと比較的仲のいいトロワ・バートンさえも『カトル…元の優しいお前に戻ってく――グハァ!!』と言った感じで顔面を殴られていたからだ。そして普段叫ばないカトルが『ボクハ男ダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』と叫ぶと言ったことが起こった。
シャルルはカトルに雰囲気が似ていたのでどうも追求ができないでいた。
(フランス政府の国家代表候補生リストに『シャルル・デュノア』の名前はなかった。またフランス国籍のデータベースで写真検索をかけても出てこなかったことを考えると…意図的に消された可能性がある。やはり、確定するためにもさらに判断材料が必要だ。しかし…)
だがヒイロはいままでこんな任務をしたことがない。男か女か調べると言うものだ。いかにばれず、かつ確実的に判断できるか…思い浮かばなかった。
ヒイロは携帯を見る。そう…他の誰かに方法を聞こうと考えたのだ。こういうことは一般人の方がいいものを持っていると判断した結果だった。
(学校内の人に聞くと俺が調べていることがばれてしまう。ここは…)
そうしてヒイロは携帯の連絡先に目を落とすのであった。
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第13話 転校生 | ||
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コメント | ||
>アーティスト様 ご指摘ありがとうございます.粗茶ってそういう使い方だったんですね…日本人なのに…恥ずかしいです.そして悲しいことに修正する時間がないという事態.19話以降はちゃんと修正していきますのでこれからもよろしくお願いします(ウッソ・エヴィン) 相手に買ってきてもらうときに粗茶と言う言葉は使いません。粗茶と言うのは相手をもてなす際に使う日本独特の謙譲表現ですから。こういう文法的におかしな部分がちょくちょく見受けられるようです。(紅蓮のアーティスト) |
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