銀魂で二次創作「土方、規制さる」(前篇)
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『と、いうわけで、昨日から地球を訪れている銀河連邦議会のチャンスグアネ議員の指導のもと、明日から江戸全域の風紀を健全化することになります。注目されるのは、江戸最大の歓楽街であるかぶき町の出方でありますが・・・ここで、現場の結野アナをお呼びしましょう・・・』

「え?何?結野アナ来てるの?どこ?!どこに来てるの生結野アナ?!」

テレビを掴んで食い入るように覗き込んでいる銀時の後ろでは神楽がTKGを食べている。

「銀ちゃん、テレビの前に立つと見えないアル、さっさとどくネ。」

「わーってるよ。ちょ、これどこだ・・・生中継だよね?これ、生なんだよね?間に合うよ、これ、急いで現場行けば生で結野アナだよこれ。」

「毎回毎回、よく飽きないアルな?」

神楽は呆れながら茶碗を卓上に置く。すると、卓上に置いてあった一枚の紙切れが目に入った。

「かぶきちょう、ふうきかいぜんきゃんぺーん?何アルかこれ?」

「ん?あぁ、それか。子どもの情操教育に良くないものを取り締まるんだと。うちにも一応お前がいるからな。さっきババアが持ってきたんだよ。」

「良くないものって何を取り締まるアルか?」

「何って、そりゃ、お前アレだよ、ジャンプだとSQでバス○ードが担当してるようなアレとか、一昔前は鳥○先生が主に担当してたアレだよ。」

「何だ、お色気アルか。そんなものにイチイチ目くじら立てて反応したり前かがみになったりするのは頭の悪い中学生だけアル。」

 

「いやいや、大人になるとアレなんだよ、子どもの前でお色気シーンとか見せられると反応に困るんだよ。例えば、父と娘の一家団欒の時に、突然テレビで濡れ場が流れたとする。父は中高年、最近娘との距離を感じ始めた。娘は中学生。世間知らずのクセにあれがウザイこれがキモイとかぬかしはじめて、最近はお父さん臭いから近寄らないで!とか言っちゃってる。そんなときに、娘と会話を交わす数少ないチャンスであるところの夕食。うかうかしてたら娘は外で飯を食ってくるような歳になってしまう。残された時間は少ない。そんなタイミング、この値千金の夕食、団欒の時にテレビから濡れ場が流れてきちまった。場の空気は最悪だ。テレビを消してしまえば、会話の糸口も消えるから消すことはできない。無論、濡れ場をガン見するのは問題外だが、ここでチャンネルを変えてしまえば、あの程度で動揺してチャンネルを変えるような小物だと思われてしまう。神楽、この局面、お前ならどうする?」

 

「どうするもこうするも、そんなもの無視して食事を続ければいいアル。人間みんなセックスして生まれてきたんだよ。それを恥ずかしいとかいやらしいとかお前ら一体何さまのつもりアルか。サイボーグか試験管ベイビーにでもなったつもりあるか?ようするにセックスだのオッパイだのを説明するのが恥ずかしかったり面倒くさかったりする大人の都合ネ。面倒くさいからって責任を誰かに押し付けたり、文句言えば問題が解決すると思うなんて、今までの大人を作ってきた教育と社会環境はよっぽど劣悪だったネ。子どもの教育に悪いから規制して欲しいアル。」

 

「・・・・ま、まぁ、つまりお前みたいな面倒くさいアホを増やさないためだよ。アホなこと言ってねぇでガキは寝てろ。もう10時過ぎてるぞ。」

銀時は面倒くさくなったので、お茶を濁して冷蔵庫からいちご牛乳を取り出そうとした。

「あれ?銀ちゃん、テレビにアホが映ってるアルよ?」

「何?結野アナのどこがアホなんだ・・・よ?!」

 

『ご覧ください、こちら、かぶき町の入口では、今回の規制に反対する市民が抗議活動を展開しております。彼らの一人と話しをすることができました。さっそく、話を聞いてみましょう!』

 

『あなた方はなぜ、抗議活動を?』

 

『僕たちが応援してるアイドル、寺門通のCDが規制対象になるかもしれないからです。お通ちゃんの歌や活動はいろんな人を元気づけたり、生きる気力を与えてくれますが、誰かを傷つけたり悪い影響を与えたりするようなものではないんです。それを解ってもらうために、僕たちはこうして集まっているんです。』

 

「新八じゃねーか?!ツッコミがゆるいと思ったら何やってんだあんなところで!俺の結野アナを今すぐ返せ!」

「あーあ、ぱっつぁんもこれでイタいアイドルヲタの仲間入りネ。今頃ネットでつるしあげ喰らってるヨ。」

 

『そちらの方は?』

 

『愛のためです!』

『愛?それは、具体的にどういうことですか?』

『恋人の写真や動画ファイルを全部手放せなんて、できると思いますか?!お妙さん!俺の愛はこんな規制には負けませんよ!安心してください!』

『若!私のコレクションも永遠に不滅ですからね!大船に乗ったつもりでいてください!!』

『ちょ・・・それは普通にストーカーなんじゃ・・・誰か、警察に通報してください!』

『警察?それなら心配要りませんよお嬢さん。俺、警察ですから!』

 

それが、事件の始まりだった。

 

[chapter:The Nameless Dog(土方、規制さる)(前編)]

あの晩、夜食のマヨネーズを愉しんでいた俺のもとに、近藤局長が留置所に入れられたという知らせが入った。

もちろん、直ぐに会いに行こうと思ったんだが、折悪く俺は翌日から始まる風紀取り締まり作戦の打ち会わせで詰め所を離れなれなかった。

近藤さんを山崎に任せた俺は、打ち合わせが終わると先に寝ることにした。

 

事態が急変したのは、次の朝からだった。

[newpage]

「あ・・・どうも、その、副長。」

「おはようございます・・・副長、殿・・・」

 

詰め所ですれ違う隊士たちの態度が妙だ。

何か、違和感のようなものを感じる。

 

「・・・あ?俺の名札が無い・・・??」

詰め所に入り、勤務に就いたことを示すために名札を裏返してかけなおすのが組のルールだ。だが、俺の名札が無くなっていた。

「っつかしぃなあ?昨日の夜まではあったんだけど・・・?」

「なにやってるんですか、その、副長。」

「おう、山崎か。」

「あ、名札ですか・・・名札は、その・・・それが・・・」

いつものことだが、妙にオドオドした山崎はおずおずと一枚の名札を指差した。

俺はその名札を見るなり「朝っぱらからいい度胸じゃねぇか山崎。死ぬか?」山崎の胸倉を掴んだ。

「うわぁぁぁっ!やめ、やめてください、その、えぇえとあの、副長ーっ!」

「なんだよ手前ぇは!人の名前くらいちゃんと呼べねぇのか?さっきから副長副長うっとうしぃんだよ!俺の名前は」

「アーーーーーーッ!アーーーーーーーーーーーッ!」

「な、なんだよ急に!」

「えと、その、副長!とにかくソレはマズいんですよ!詳しくは後で話しますから、とりあえずその名札をひっくり返しちまってください。」

「・・・・。」

山崎は、それきり万策尽きて覚悟を決めたとばかりに黙り込んだ。

これじゃ埒が開かねぇな。そう思った俺は、この不愉快極まりない名札をひっくり返して、詰め所に入っていった。

 

「沖田さん、あの・・・副長、お連れしました。」

「おう、ご苦労。それじゃ、入ってもらってくれ。」

山崎に連れられて部屋に案内された俺は、言われるままに中に入った。

中には「どうも、わざわざすいやせんね、う○こマヨネーズ。」沖田が居た。

「あの名札は手前ぇの仕業か?!総悟!」迷い無く抜き打ちした刀を白羽取りにしながら「ま、待ってくだせぇ、う○こマヨネーズさん。こうするより他無かったんですよ。」総悟があまりにもやる気に欠けた弁解をした。

「黙れ腐れドSが!手前ぇ、今日がどういう日か解ってんのか?!かぶき町の風紀を改善するためにキャンペーンを張るってときに警察が悪ふざけしてたら示しがつかねぇだろうがっ!」

「だからですよ!机の上の書類を見てください!」

山崎が割って入り、机の上を指差した。

「あん?なんだよこれ、通達じゃねぇか・・・・・・・・・って、なんだこりゃ!?」

 

「解って貰えやしたか、う○こマヨネーズさん。そういうことです。つまり、土方十○郎(ヒ○カタトウシ○ウ)は、ションダイシラハプロ星の言葉で『自主規制』って意味なんでさぁ。そんなわけで、今日の午前0時から江戸条例で土方○四郎は放送禁止、表現禁止になっちまった。通達が来たのはう○こさんが」「いや、ちょっとその略し方やめてくんない?!」「仮眠室に入ってからだったんで、こうして俺達だけで対処したってわけです。解ったかこのクソマヨネーズ。」「名前変わってるし。っつーか、マヨネーズ馬鹿にされてるみたいで腹立つんですけど!?」「副長、マヨネーズと引き換えに何かを失ってます。」

 

「やれやれ・・・まぁ、加賀真理子が外国語ででっかいウ○コって意味だとか、そういうのあるもんな。まぁ、仕方ねぇ、キャンペーンでションダイシラハプロ星の天人どもがいる間だけは大人しく名前を伏せておくか。」

「何ヌルイこと言ってるんですかウ○コさん。あんたこの先ずっとウ○コマヨだよ。」

「はぁ?何を馬鹿なことを・・・」

「あの・・・それが、本当なんです。副長。」

山崎は書類をめくった。

「江戸の条例は、この先他の地方が条例を作ったり国が法令を整備するときの雛形になりますから、ここで出来たルールが全国に適用されたり、一時的どころか法令がある限り副長が死んでも有効な規制として機能し続けますよ。」

「あー、それとウ○コ副長、あんた漫画だったら全身モザイクですぜ?」

「え?!あ!なんだこれ?!人を卑猥物みたいな扱いするんじゃねぇよ!」

「仕方無いじゃですか、迂闊に「土方十四○」なんて言ったり描いたりしたらチャンスアグネ大使に泣き落とされて社会を敵に回しちまいますよ?警察がそんなことするわけにもいかないでしょう。」

「よそから行き成り首突っ込んできてこんなふざけた条例に従えるか!っていうか、何顔赤くしてんの総悟!?」

「からかわないでくださいよ。朝っぱらからあんな卑猥な言葉を言わせるなんて、あんたとんだドSだ。ドSウ○コだよ。」

「お前それワザとだろ?ワザとやってるんだろ?!」

 

「そのぐらいにしてやれ、う○こ。」

ふすまをあけて、近藤勲が入ってきた。

「近藤さん!あんたからも言ってやってくれ!」「いや、う○こに順応してきてませんか?副長。」

「うむ。総悟、その呼び方は良くないぞ。」

「近藤さん・・・」

ふてくされた総悟に近藤は書類をめくって見せた。

「ほら、ここを良く見てみろ!マヨ○ーズもト○を連想させる単語として放送禁止だって書いてあるだろ?駄目だよ、警察官なんだから法令遵守しないと!」「おっといけねぇ、俺としたことが、朝っぱらからとんだ桃色発言をしちまったぜ。いや、すいやせんでした近藤さん。武士として、人間として恥ずかしいです。」

「いや、あの、ストーカーの現行犯で捕まったあんたに言われたくないんですけど。っていうかお前らどこまで人のこと馬鹿にすりゃ気が済むんだ!?」

「お前のことを言っているんじゃないぞ、○シ。これはあくまで、土○十四郎というものについて言っているんだ。気にすることはないさ。」

「気になるだろ!俺全身モザイクになってるんだぞ?!」

「まぁ、そういうわけだから、よろしく頼みやすぜ。モザイクう○こ。」

「とりあえず、この『ピー』ポ君の気ぐるみの中に入っていてくれ。これなら職務に問題あるまい?」

「なんだよその放送禁止みたいな名前は?!やってられるか!俺は大使に直談判にいってくる!」

俺は足早に屯所を出た。

何だ?何が起こっているんだ?とにかく何とかしないといけない。

言いたくは無いが、ここには救い様の無いアホしかいない。

この状況を打開するには、もっと別の人間の手を借りるしかなさそうだ。

「・・・ったく、気にいらねぇが、奴らのところに行ってみるか・・・。」

煙草を咥えながら歩いていると、絹を裂くような女の悲鳴が聞こえた。俺は咄嗟に声のした方向を振り返り、刀に手をかけて辺りを警戒した。

「キャーッ!土○よ!朝っぱらから○方丸出しよ!」

「え?何?俺??」

直ぐにサイレンの音と隊士の足音が聞こえてきた。まだ屯所から離れていなかった。

 

「だから駄目だつってるでしょ?警察官が土○丸出しとかマジで問題だよこれ、不祥事なんだから!」

その場で確保されて取調室に入れられた俺は、近藤さんから理不尽な説教を喰らっていた。

「いや、そんなこと言われてもだな、俺は生まれたときから俺でしかないんだから、突然規制されても・・・」

近藤さんはため息をつきながら背後にあったダンボールを机の上に置いた。

「頼むよ、○シ。これも、かぶき町の、いや、江戸の子どもたちを健全に育てるためなんだ。」

一転の曇りも無い、馬鹿正直な目だった。こんなことを言われてしまうと、俺はなにも言えなくなる。

「・・・ったく、しょうがねぇな。ほとぼりが冷めるまでこれ着とけばいいんだな・・・。」

俺は仕方なく、その気ぐるみに袖を通した。

「すまないな、ト○。これも、やがて生まれてくる俺とお妙さんの子どものためなんだ。」

「いや、その心配は永遠に非実在だろ。」

 

[newpage]

ともあれ、こんな異常な状態は耐えられない。

屯所からは俺の名前がついたものや、マ○ネーズが一切排除されてしまった。

コンビニにもマーケットにもマヨネー○が消えていた。

なんだこれ、俺が何かしたのか?っていうかマヨ○ーズまで規制するとかホントどういう神経してるんだションダイシラハプロ星の連中は?!

 

だが、俺だって武士だ。侍だ。

侍は誰かを、何かを護るために戦う。俺だってそうだ。

かりに、名前を失おうと、居辛くなろうと、それが子どもたちや江戸に暮らす人たちの生活を護ることになるなら、それにも耐えなきゃならねぇ。

なにより、主である近藤さんの顔を潰すわけにもいかねぇじゃねぇか。

そう言い聞かせて、俺は誰もいない道場に座って、一人で金打した。

 

だが、新しい生活は思った以上に過酷だった。

だんだんと俺の周りにあったものが規制されはじめ、自主規制という形で店や製造主がタバコやマヨネーズを作らなくなったり売らなくなったりし始めたのだ。

「おい山崎、ちょっとコレ高いんじゃないか?」

「勘弁してくださいよ副長。もうマヨ○ーズ買えるところ全国的に少なくなってて、ブローカー探すので精一杯なんですよ。」

山崎に金を渡し、闇マ○ネーズを受け取った俺は早速中身を啜りながら天を仰いだ。

「ったく、面倒な世の中になってきちまったなぁ・・・。」

 

やがて、かぶき町では闇○ヨネーズすら手に入らなくなった。

マヨネー○だけじゃねぇ。エロ本も、酒もタバコも、あらゆるものが「不健全」の名の下に規制され、ビビッた店やメーカーは製造や流通を停止しちまっていた。反面、最近、何故だか総悟がやたらに仕事熱心になっていて、真撰組の検挙率や事件の解決数も上がってきていたので、近藤さんの株が上がってきているのはせめてもの救いか。まぁ、全てがうまく転がるわけじゃねぇってことだな。

 

だが・・・なにごとにも限界というものがある。

空の○ヨネーズの容器をプッシュして残り香を嗅いで飢えをしのぐのももう限界だった。

そして、

 

「よし聞けお前達!本日から、真撰組ソーセージの付け合せに、裏の畑で取れたトマトを使った真撰組ケチャップが支給されるようになった!まだ試作段階だから、隊士はこれを試食してどんどん意見を聞かせてくれ!」

 

近藤さんたちの発案による、真撰組ケチャップ生産計画は俺の精神を更に追い詰めていった。

冷蔵庫にあって、マヨネー○に限りなく近い外見をしながらまったく異なるもの「ケチャップ」。その存在はマ○ラーたるこの俺には許容が出来ないものだった。ものだったのだが・・・。

 

ついに、ある晩、あのチューブの感触が恋しくて耐えられなくなった俺は、気がつくと冷蔵庫の前に立っていた。

「い、いやいや、何やってるんだ俺は?外道だよ?ケチャップなんて犬のエサだよ?なに、ケチャップって。じゃあトマト食べればいいじゃない?あんなものがマ○ネーズの代わりになるわけないじゃん。あんなの・・・」

冷蔵庫を開けると、そこには新開発の真撰組ケチャップが満載されていた。

「う・・・あぁぁ・・・」

思わず言葉にならないため息が漏れる。

無意識に手に取ったそれは、ひんやりとしたチューブの中からずっしりとした独特の質感を与えてきた。久しく感じてこなかった満タンのチューブの感触だ。こいつのキャップをひねって、口に咥え、チューブの腹を力一杯押し込みたい。そんな衝動に襲われる。何がなんだかわからないうちに、俺は白いキャップをひねっていた。新品のキャップは軽い抵抗のあと、プラスチック樹脂のストッパーが千切れる独特の音と感触を齎した。それが体に染み渡る。駄目だ、俺は、もう・・・

「おやおや、土○さん。こんな時間にお食事ですかい?」

「なッ!?」

振り向けば、そこには総悟が立っていた。宇宙の果て、暗黒空間にある暗黒ドS星雲の王子は果てしなく邪悪な顔をしていた。

「あれ?それマヨ○ーズですかい?暗くてよく見えねぃや・・・電気点けやしょうか?○ヨラーの○方さん。」

「手前ぇっ!張り込んでやがったな!」

「いやですぜ、俺はただ、真撰組ソーセージにつける『ケチャップ』を取りに来ただけですよ。」

総悟はソーセージを見せながら近づいてきた。

「いやぁ、最近じゃ鬱陶しい闇マ○ネーズの売人も減ってきて、少しは江戸の町もマシになってきやしたね。」

「・・・お前ぇ、ワザとやってるだろ?」

「なんのことですかい?」

「山崎ボコボコにしてマヨネー○の売人を片っ端から取り締まってるのはお前ぇだって言ってるんだよ。」

「なんのことだかサッパリ解りやせんね。つまらん言いがかりはよしてください。」

総悟はケチャップのキャップを開けると、そのまま中身を啜りだした。

「あーっ美味ぇ。仕事のあとのケチャップは堪らねぇぜ。俺、このままケチャラーになっちゃおうかな?」

「・・・・・。」

喉が鳴る。思わず生唾を飲み込んでしまった。たとえあれが芳醇な黄金色でなく、毒々しい赤色をしていても、あのひんやりとした喉越しは今の俺にとって何ものにも代えがたい感触だった。

「・・・・。」

「あれ?どうしたんですか土○さん、そんな物欲しそうな顔して?もしかして、これですかい?」冷蔵庫から新しいケチャップを取り出した総悟は「遠慮なく啜っちまってください。新品ですよ。ほら。」といって俺の目の前にそれを置いた。

「・・・。」

「どうしたんですか、やらないんですか?そうですか。じゃあ、これも俺が貰っておきやしょう。」

「な・・・っ!?」

二本同時だと?!総悟、貴様は二本同時に・・・ッ!?

「あー美味ぇ。二本同時に食うケチャップはマ○ネーズみたいな味がするから不思議だぜ。」

「〜〜ッ!」

俺は限界を予感した。

[newpage]

冷蔵庫ごとケチャップを叩き斬った俺は、そのまま屯所を逃走した。

もう駄目だ。真撰組に俺の居場所はなくなってしまった。

「・・・ッケ。また一匹狼の野良犬に逆戻りかよ・・・。」

人目を避けて、路地裏に入った俺は懐から煙草を取り出そうとした。が、俺の手が煙草を取ることはなかた。煙草はもう手に入らなくなっていたのだった。その手は、かわりにライターを取り出していた。

「・・・これは・・・」

ケチャップだった。

どうやら、総悟に見つかったときに咄嗟に隠した奴らしい。

「・・・二本同時にいくと、マヨネー○の味がするってのか・・・なら、半分はマ○ネーズの味がするってことだな?!」

俺はもうわけのわからないことを言いながら、ケチャップを見つめ、「マ、○ヨラーなら、マヨ○ーズ的な味のする物を発見するのも使命だよな。そうだよ、これは実験だ。実験。そうそう科学に犠牲はつきものだからな・・・そうだ、俺はマヨネー○の未来のために進んで犠牲に・・・」ケチャップのチューブに口を近づけていった。

 

だが、それは俺の武士道に反する。近藤さんを裏切るにも等しい背信行為だ。

「う・・・ぉぉぉぉおッ!」

俺はケチャップを投げ捨てた。

力いっぱい投げつけたケチャップは中身をぶちまけながら道端に転がった。薄汚い野良犬が匂いと音を嗅ぎつけて近寄ってくるが、やがて見限って去っていった。

「・・・犬も食わねぇか。ケチャップは犬のエサ以下だってことだな。ざまぁ見ろ総悟。」

ケチャップを見捨てた野良犬は、またトボトボと歩きながら今夜のエサを探し始めた。

それを見た俺は、何かとても懐かしい物を思い出したような気がした。

「そうだ・・・俺は、自分で食べるものくらい、自分で見つけられるさ。」

そう言った時だった、路地裏に二つの足音が進入してきた。

「お兄さん、いい覚悟だね。そんなお兄さんにご褒美だ。一杯やらないかい?」

「手前ぇは・・・・!」

指名手配中のテロリスト、桂小太郎と、エリザベスとかいう生き物だった。

「遠慮するな。」

桂はマヨネーズを、エリザベスはダンボールを差し出してきた。

「このダンボールは?」

「とりあえずそれを着ていろ。お前の姿は卑猥すぎる。」

 

俺は『ピー』ポ君のきぐるみを着たまま、桂とエリザベスと共にかぶき町を歩いていた。

「で、どこに行くんだ?」

「我々のアジトだ。っていうか、きぐるみの中でマ○ネーズ食べるのやめてくんない?匂いつくからさ。」

「すまねぇ。ここのところご無沙汰でな。本来ならとっ捕まえてやるところだが、どうも今回は事情が事情だ。とりあえずは協力してやる。」

「ふん、助けてやったのに態度がデカイな。まぁいい。今の江戸の状態には我々もいささか迷惑しておってな。アジトにはそういう連中が集まっている。きっとおぬしの力にもなってくれるだろう。」

 

なるほど、この訳の解らん規制騒動の前に呉越同舟ってわけか。

なんにせよ、突然名前とマヨネーズを失った俺は、この奇妙な連中と結託することになったのだ。

 

後編へつづく。

説明
突如、己の存在が有害指定されてしまったとしたら?どこにでも居るマヨラーに突然降りかかった理不尽。その原因は?二次創作は不慣れなのですが、非実在青少年云々について、嫌みの一つも言ってやるつもりで書いたものです。
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土方十四郎 銀魂 青少年健全育成条例案 非実在青少年 銀時 マヨラー マヨネーズ ケチャップ堕ち 新八 

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