IS-W<インフィニット・ストラトス>  死を告げる天使は何を望む
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一夏とシャルルはそれぞれのベッドに腰掛けていた。ヒイロは部屋の出口付近の壁にもたれかかって腕を組んでいる。

ヒイロと一夏の目の前にいるシャルルは普段と変わらないスポーツジャージなのだがコルセットをしていないのか胸があることが明らかだった。それも箒並みの大きさの胸である。

 

 正直、状況を把握しきれていない。様々な思いが頭の中をよぎるが、一夏はまず真っ先に知りたいことをシャルルに聞くことにした。

 

「で? なんで男装なんてしてたんだ?」

「それは、その…実家の方からそうしろって言われて…」

 

シャルルは落ち込んだ顔をしてそう答えた。

 

「実家っていうと、デュノア社の?」

「うん。僕の父がそこの社長。その人から直接の命令なんだよ」

「命令って…親だろ? なんでそんな―――」

「僕はね、一夏。愛人の子なんだよ」

 

その言葉を聞いて先程まで質問していた一夏が絶句してしまう。

 

「引き取られたのが二年前。ちょうどお母さんが亡くなったときにね、父の部下がやってきたの。それで色々と検査する過程でIS適応が高いことがわかって、非公式ではあったけれどデュノア社のテストパイロットをやることになってね」

 

その声はただ健気で、どこか乾いていた。自分の心の傷を切り開くかのように、つらいはずなのに、それでも淡々と話し続ける。ヒイロと一夏はそんな様子でも何も聞かず聞き続けた。

 

「父に会ったのは二回ぐらいで会話は数回ぐらい。本妻の人には何度も会っていたけど、『泥棒猫の娘が!』っていつも殴られたんだ。母さんもちょっとくらい教えてくれたら、あんなに戸惑わなかったのにね。子供には一歳下の長女には食べ物に生ごみが入れられたりしたね。次女は優しくて、僕の支えだったんだけど」

 

ヒイロは一夏の顔から一夏の怒りを感じた。人の人生をなんだと思っているんだとでも言いたいのだろう。しかし、人生とはそんなものだ。いい人生が送れる人間なんてそうそういないだろう。山あり谷ありだからことの人生なのだから。

 

「足長おじさんみたいなことをしてくれる謎の人からの援助…お金や衣服は来ていたからそれが支えだったんだけど…それから少し経って、デュノア社は経営危機に陥ったんだ」

「え?デュノア社は量産機ISの世界シェア第三位だろ?」

「…『イグニッション・プラン』だろう…欧州連合の第三次統合防衛計画『イグニッション・プラン』では次期主力機の選定中だ。……・今のところトライアルに参加しているのはイギリスのティアーズ型、ドイツのレーゲン型、イタリアのテンペスタU型で実用化ではイギリスが一歩リードしている。セシリアがIS学園にいるのも実稼働データを採る為だ。ラウラ・ボーデヴィッヒもそうだろう」

 

ここに来て一夏の疑問に答えるようにヒイロが話し始めた。

ヒイロはシャルルの顔を見ていた。まるですべてお見通しのように・・

 

「そう、ヒイロの言う通り。フランスはその統合防衛計画『イグニッション・プラン』から除名されていてね、第三世代機の開発は急務だったの。デュノア社でも第三世代機の開発をしていたんだけどラファールは第二世代機最後発でデータも時間も圧倒的に不足していて中々形にならなかったんだよ。それで、政府からの通達で予算を大幅にカットされたの。そして、次のトライアルで選ばれなかったら援助を全面カット、IS開発許可も剥奪されることになったんだ」

「流れは何となく分かったがそれがどうして男装に繋がるんだ?」

「……簡単な話だ。注目を浴びる為の広告塔。そして男ならば特異ケースとされる一夏や俺と接触し、本人及びその使用機体データを盗み出すことが出来る」

「さすがだね、ヒイロ。その通りだよ。一夏と白式、ヒイロとウイングガンダムゼロのデータを盗んでこいと言われているんだよ。あの人にね…」

 

父親はたまたまIS適性の高かったシャルルを一方的に利用しているだけなのだろう。

そしてそれは俺なんかよりシャルルが一番理解しているのだろう。一夏はそう思っていた。そしてシャルルもそれが真実だと思っていた。

 

「まあ、こんなところかな。でも二人にばれちゃったし、きっと僕は本国に呼び戻されるかな。デュノア社は潰れるか他社の傘下に入るか、僕にとってはどうでもいいことかな。はあ、話したら何か楽になったよ。聞いてくれて有難う。そして、今まで嘘ついていてゴメン」

「シャルルはこれからどうするんだ?」

「どうもこうもないよ。フランス政府も事の真相を知ったら黙ってないだろうから代表候補生をおろされてよくて牢屋行きかな」

「いいのかそれで!!」

「…ぼくだって…けど僕に選択する権利なんてないから、仕方ないよ」

 

一夏は納得できなかった。諦めているシャルルに希望を見いだせてあげたかった。

そして、頭からある規則を思い出す。そしてそれはシャルルを救うことができる。

 

「それなら、ここにいればいい!!」

「い、一夏?話が見えないんだけど」

 

シャルルが戸惑いながら一夏にそう言うと一夏は机から生徒手帳を取り出し、読み上げる。

 

「特記事項第二十一、『本学園に於ける生徒はその在学中に於いてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意が無い場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする』つまり、後3年間は大丈夫ってことだ」

 

と一夏は自信を持って言った。シャルルは驚いた顔をして

 

「…一夏、よく覚えられたね。特記事項って五十五個もあるのに」

「俺は勤勉なんだよ」

「…そんなことをしなくても、お前がフランス政府から呼び出されることはない」

 

とここでヒイロがいきなりとんでもないことを言い始めた。先ほどまでの話をなしにするような発言だった。シャルルは慌ててヒイロに聞き出す。

 

「ど!!どういう事!?」

「……考えてみろ…もし、お前の実の父…『マーシャル・デュノア』が俺たちのデータが目的なら俺のような工作員を学生として密かに潜らせ、端末から盗んだ方が確実だ…」

 

そう、ヒイロの言う通り、エージェントを使った方が確実に情報は手に入る。なのになぜか素人のシャルルを送り込んでこさせたのだった。

 

「お前をここに送り込ませたこと自体がマーシャル・デュノアの計画の内だと言う事だ」

「あの人がどうしてそんなことを」

 

シャルルがヒイロにそう聞き返すとヒイロはある紙束を投げてシャルルに渡す。それはA4サイズの何十枚の紙が閉じられているものだった。

 

「お前の知りたいことがそこに載っている…」

 

ヒイロはそう言ったので、シャルルは中を読み始める。一夏もその後ろから文章を見る。

どうやら誰かのある日記の一部を日本語で書いたものだった。日付はシャルルが来る2ヶ月前…つまり一夏がIS学園でヒイロと戦った日の数日後だ。そこに書かれていたことは…・

 

 

 

 

 

 

 

 

これは…

決して読まれることはないだろう。なので今回は独白と言う形で書かせてもらう。今から約2年前にあの子を引き取った。私が唯一愛したナタリーの子…しかし、私はナタリーとそっくりなあの子に愛を与えてやれなかった。いくら家の決められた結婚相手がいたからと言ってやはりナタリーのところへ行ってあげられなかった私の罪なのだろう。ナタリーもそれをわかっていて最後に子がほしいと言ったんだが…

 

 

 

と日記が始まっている。シャルルはその前の日記も見始める。そこにはシャルルの様子やいろいろ心配するような内容が毎日書いていた。シャルルは驚いた顔で先ほどの真実すべてが載っている日の続きを読む。

 

 

妻の策略…会社の面々が女性に代わってきたことにより私の立場も危うくなり始めた。もうすぐ私は社長を辞めさせられ、妻が社長になるだろう。私があの子の手助けをするのをわかっている妻は私をあの子に合わせないようスケジュールを調整してくる…

私は遠回りだが無記名であの子にお金や物をいろいろ与えていた。元々、ナタリーが一人で暮らし始めたころからずっとしていたが…

 

 

 

「え…あの『足長おじさん』はあの人だったの…」

 

シャルルは信じられないといった顔をし、体が少し震えはじめる。

 

 

 

妻にも、ナタリーにも悪いことをした。けれどこれ以上…あの子が私のもとにいたら妻にどんな嫌がらせをされるか分かったものではない。今のところ体に傷が残るようなことは起きてないと信頼のおける部下から聞いてはいるが…いつか虐待で殺されるのではないかと心配で仕方がない。妻のとの間にはあの子より一歳下の長女と三歳下の次女がいるが長女は妻に似てあの子をいじめているらしい。だからこれ以上は…私も我慢の限界だ。私はすでについてくると言った次女と私が信頼を寄せている部下たち、友人のIS委員会の理事とフランス政府関係者、そして日本のある技術者に協力であの子を自由にさせる計画を実行した。

まず、日本に現れた織斑 一夏と言う特殊事例を調べることで第三世代機を作るに役立つと妻に進言。その役としてあの子を行かせるべきだろうと私は述べた。あの子を織斑くんに近づかせるには男と偽らせて行かせるべきだと妻が言ってきたので私はそれを認めた。口調はナタリーと似ていたが…これもあの子のため…仕方がないだろう。次女にはあの子の支えになってもらおうと思う。そして、あの子がIS学園に出向いたらまず、あの子の国籍をフランスから自由国籍に変更させる。自由国籍取得には私以外にIS委員会の理事と政府関係者、ISに深くかかわっていた人物の署名がいるが友人たちに頼みあの子が行ってすぐに受理されるだろう。そして、日本の友人があの子を引き取ればそれで終わる。自由国籍の代表候補はISを取り上げることはできても拘束は犯罪を起こさない限り出頭義務は発生しない。これであの子が女の子とばれても連れ戻されることはない。デュノア社の社員でもないのだからな…後は友人があの子を幸せにしてあげれば…

私にはもうこれぐらいしかしてあげられないだろう。身から出た錆と言うやつだ。このことはあの子には言わないつもりだ。私はあの子の名を言う事さえ許されないことをしてきたのだから。ナタリーの葬式にも出てあげられなかった男が今更父親だと言えるだろうか…。友人から聞くには織斑くんは好青年で素晴らしい子と聞いている。女性関係にいろいろあるらしいがそれでも彼のまっすぐな心であの子の支えになってほしいと思う。

 

 

 

それが…父である私…マーシャル・デュノアの望みなのだから。

けど…もし我儘が許されるのなら…

 

 

 

 

日記はそこでその日は終わり、それ以降の日記には何も書かれていなかった。

シャルルは信じられないような顔…それもものすごく震えながらヒイロを見る。ヒイロはさらに言う。

 

「…お前の国籍はすでに自由国籍になっていた。ここにあることはおそらく真実だろう。日本人の技術者って言うのも俺たちをよく知っている槇村ことだ」

「槇村さんが!!」

 

一夏が驚いた。確かにブースター技術なら篠ノ乃 束に対抗できると言われている槇村の発言力は大きい。なので自由国籍取得もできたのだろう。

 

「ああ…マーシャル・デュノアと言う男は正直者らしく、こうやって偽るときは何かに本音を書いているらしい。お前のことは日記に書いていたが、重要書類の中に妻の愚痴、槇村のこと、フランス政府への怒りなどいくつかあったからな…」

 

そう言うとヒイロはずっとこっちを見ていたシャルルに目線を向け、名前を呼んだ。シャルルはビクッとするがヒイロは気にせず続ける。

 

「…感情に従って行動する事は、人間として正しい生き方だと俺は思う。…だが、この後の判断は……お前次第だ。」

 

そう言ってヒイロは部屋から出て行った。

一夏はシャルルに近づく。シャルルの目からは涙が沢山出ていた。日記のプリントアウトした紙を右手で握り、震えながら言う。

 

「…僕は…私は…父さまに愛されてたんだ…」

 

うずくまって泣くシャルルに一夏は肩を掴み、顔を上げさせる。泣きながら一夏の顔を見たシャルルは今の一夏の顔から優しさを感じていた。

 

「よかったな、シャルル。…俺は、俺と千冬姉は両親に捨てられた。でも俺の家族は千冬姉だけだし別に今更両親に会いたいとも思わないけど、シャルルにはちゃんと父がいたじゃないか。不器用だけどシャルルの幸せを考えていたお父さんが」

「…一夏ぁ」

「喩え何かあっても、俺が護ってやる。頼りないかもしれないけど強くなってみせる!だから…シャルルもお父さんとどうするか決めないとな」

 

もう誰かに護られてばかりいるのは嫌だった一夏。だから、シャルルの父、マーシャルの思い…シャルルの支えになること、それをなるために護って見せる。そう一夏は決意していた。

 

「私を…護ってくれるの?」

「当たり前だろ。シャルルは俺の仲間なんだからよ。だからシャルルも」

「有難う…」

 

シャルルの顔には、心からの、年相応の少女の笑顔が涙を見せながらも浮かんでいた。

 

 

 

 

 

ヒイロは廊下を歩きながら少し笑みを浮かべた。

ヒイロの両親はアディン・ロウとアオイ(後のアオイ・クラーク)で戦闘技術は父親と知らずにアディンから教え込まれ、幼少期は、義父であるセイスの作った《リーオー》の玩具を大切にしており、自分が持っているものは命とこの玩具しかないと考えるほど、父母から本当に愛されていると言う実感を持ててはいなかった。

しかし、ヒイロはそんなこと気にすることなくシャルルに真実を教えた。普通なら自分と同じ奴を作りたがるのが人だろうに。ヒイロも一夏と同じなのだろう。

その時、目の前からセシリアが歩いてきた。

 

「あら…ヒイロさん」

「……セシリアか」

「一夏さんは部屋におられますか?夕食まだ取られていないようでしたらお誘いしようかと」

「……一夏は調子が悪いシャルルの看病をしている。邪魔をしない方がいい」

「そうですか…仕方ありませんね。ついでにヒイロさんを呼んできてと布仏さんから言われてますので来てくださいな」

「本音が…了解した」

 

そうしてヒイロは食堂に向かったのだった。しかし、その心の中では

 

(…ハッキングの時…デュノア社の第三世代型IS構想で高速換装案とVT案と言う文字があったが…いったい…)

 

と考え事をしていたのだった。

 

 

 

 

暗い、暗い闇の中のアリーナにそれはいた。

 

「…」

 

それ――ラウラ・ボーデヴィッヒ思っていた

ラウラ・ボーデヴィッヒ。それが己の名だとは知っているが、それは何の意味も持たないことを理解している。彼女は戦うためだけに生まれた存在なのだから。けれど、唯一例外はある。織斑 千冬に呼ばれるときだ。

 

(あの人の存在が……その強さが、私の目標であり、存在理由……)

 

それは一筋の光の様でだった。出会ったときに一目でその強さに震え。恐怖し。感動し。心が揺れた。体が熱くなり、そして願った

 

ああ、こうなりたい――と

 

理想の姿は完璧でなければならない。ならばその完璧を崩す者を許せはしない。

 

「織斑 一夏―――。教官に汚点を背負わせ、教官にあのような顔をさせる張本人…」

 

ラウラはその存在が許せなかった。だから千冬の前から消したかった。しかし…

 

(織斑 一夏を狙ったものは『告死天使』に死を告げられ二度と戻ってこない)

 

かつて一夏がISを動かせると分かった後、IS学園に入るまでの短い期間で一夏は7つの組織に狙われていた。しかし、その刺客すべてを倒し、捕まえたものがいた。天使の羽を持つ者。

死を告げる天使…

ラウラはそれがヒイロだと転校してすぐにわかった。明らかに自分と同じようなにおいを感じ取ったからだ。

 

「ヒイロ・ユイと織斑 一夏の2人を排除する。どのような手段を使ってでも…」

 

眼帯を外し、金色のオッドアイが見える。その目は怪しく夜の闇の中輝いていた。

 

説明
第15話 マーシャルの想い
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ヒイロ・ユイ ガンダムW インフィニット・ストラトス IS 

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