IS-W<インフィニット・ストラトス> 死を告げる天使は何を望む |
アリーナの一件から一時間が経過しており保健室のベッドでは保健医の先生によって打撲箇所に包帯を巻かれた鈴とセシリア、そしてベットで寝ているヒイロが居た。
「心配したよ〜大丈夫?」
と皐月が二人に声をかける。
「別に助けてくれなくてよかったのに」
「あのまま続けていれば勝っていましたわ」
「お前らなぁ…。まあ別に感謝されたくてやった訳でもないし俺自身がムカついて乱入しただけなんだけどさ、ヒイロには感謝しろよ。あの時ヒイロが来てくれなければやられてたぞ?」
「だ、だからあのまま続けてれば勝て――」
「どうやって?あのヒイロさえも倒されるぐらいだぞ」
「「うっ……」」
二人はああ言ってるが素人の一夏から見てもあの状態では勝ち目無かったと分かっていた。ヒイロもAICの存在を知らなかった故に動きを止められ、本気ではなかったとはいえ一方的にやられた。おかげで彼の右足は骨折する羽目となった。
だが…上空30mからガンダムが解除されながら落ちたにも拘わらず、骨折で済んだ彼を保健医は驚かされた。
「好きな人に格好悪いところを見られたから、恥ずかしいんだよ」
そこにシャルルが飲み物を持ってきて爆弾発言をした。しかし、一夏には何言ってるのかよく聞き取れなかった。
「なななな何を言っているのか、全っ然っ分かんないわね!こここここれだから欧州人って困るのよねえっ!!」
「べべっ、別に私はっ!そ、そういう邪推をされるといささか気分を害しますわねっ!!」
二人とも顔を赤くしてカミカミなセリフを言ってるが、無論唐変木の一夏にはその理由もわからなかった。
シャルルは一夏のその反応に溜め息をつく。
しかし、一夏には考えさせるものがあった。それはヒイロが初めて見せた強い感情を乗せた言葉…
『俺もお前と同じだった…戦うだけの存在、そのためだけに様々な技術を教えられた。だが…お前のような考えはいつか…世界は間違った歴史をたどらせる!!悲しく惨めな戦争の歴史をな!!…強者など存在しない、人類すべてが弱者なんだ!!お前も千冬も弱者なんだ!!』
あの言葉…一夏もヒイロから聞かされていた。人類すべてが弱者だと、一夏はその意味を今考えなければならないと考えていた。そして、
『俺たちは……あと何人殺せばいい?俺は、あと何回あの子とあの子犬を……そして“アイツ”を…殺せばいいんだ…』
ヒイロの過去について一夏は知っていた。だが、“アイツ”と言われた存在は知らなかった。そのことが一夏の心の中で引っかかっていた。無論アイツが誰のことで、その結末を知っているのはこの世界で鈴だけである。
その時、像が猛スピードで走ってくるような地響きが聞こえ、そして次の瞬間には保健室の扉が空中を舞った。
吹き飛ばされた扉を躊躇い無く踏みながら入ってきた…いやもはや雪崩れ込んできたと言ってもいいものは保健室を埋め尽くす程の女子生徒だった。
「織斑君!!」
「ユイ君!!」
「デュノア君!!」
「「「「「これ!!」」」」」
押しかけた女子達は一夏とシャルルを取り囲むと一枚の用紙を突きつける。
「えっと、なになに――『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、三人一組みでの参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは』――」
と途中まで一夏が読み上げたのを遮って女子達は二人にこう告げる。
「私たちと組もう、織斑君!」
「私たちと組んで、デュノア君!」
「ユイ君は…?」
一斉に下を向いて手を差し出す光景は、テレビ番組の告白企画の物に似ていた。
しかし、当の一夏とシャルルは困惑の表情を浮かべている。特にシャルルは実は女という事情を鑑みると、ペアを組むと言う事は常時より必要以上に接触の機会が多くなり、それによって性別がばれる危険性も格段に上がる。普段はニブいがこういう時はいち早くシャルルが危惧している事に気付いた一夏は、女子達の波を掻き分ける様に手を上へ伸ばし宣言した
「悪い。俺はシャルルと――」
「…俺と組むからあきらめろ」
「ひ…ヒイロさん!?」
そこに入ってきたのはさっきまで寝ていたヒイロだった。皐月は驚いたが、女子軍団は気にしなかった。そしてきっぱりと宣言したのがよかったのだろう、詰め寄っていた女子たちも口々に
「まぁ、そういうことなら……」「他の女子と組まれるよりはいいし……」「やっぱ刀一本の織斑君が攻めよね……」「じゃ〜ユイくんとデュノア君が受け」
と言って去って行った。一夏はホッとして気を緩めたが、だがまだ強敵が残っていた。
「一夏っ!」
「一夏さんっ!」
「あ、あたしと組みなさいよ!幼なじみでしょうが!」
「いえ、クラスメイトとしてここは私と!」
鈴とセシリアがベッドから飛び出し掴み掛かろうとしてくる。さっきの女子生徒とは違って説得は難しい。それこそ先ほどの女子が4つ星モンスターなら二人は星屑ドラゴン並みの強敵であるのだから。
「ダメですよ」
しかし、そこにやってきた真耶の声で状況が変わったのだった。突然のニューカマーの来訪に皆驚いていた。
「お二人のISの状態をさっき確認しましたけど、ダメージレベルがCを超えています。当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥を生じさせますよ。ISを休ませる意味でも、トーナメント参加は許可出来ません。それに!!ユイくんは骨折なんですよ。ユイ君も認められません」
「うっ、ぐっ……!わ、分かりました……」
「不本意ですが……非常に、非常にっ!不本意ですが!トーナメント参加は辞退します……」
「……問題ない。今から治す」
へ…
とこの場にいる人間全員呟いた。ヒイロはそう言った後、ベットから起きると右足をベットに固定し動けなくするとものすごい力で足を上えと引っ張り始めた。
顔はさすがに少し苦しそうな顔をしていた。
「ひ!!ヒイロさんなにを!!」
「ゆ!!ユイさ…」
皐月の言葉を聞いて、真耶が止めようとしたがその時、骨と骨がぶつかり合うような強烈な音が響いた。
そして、ヒイロは普通に歩き始めた。保健医は驚きながら
「し…信じられない。自分で骨をつなぎ直した……確かに、この状態なら彼の回復力を見ると2週間後の大会に普通に出れます」
と言った。あまりにも衝撃的な光景だったので、真耶は気絶したがヒイロはそんなのお構いなしに皐月に話を振る
「ゼロの修理はどうなっている?」
「え…あ、はい。装甲の交換だけだったのでもう終わっています。むしろ一夏くんの白式の方が問題発生していて」
「え!!」
「え!!じゃないです!!元々、無理をさせ過ぎていたせいか治りが異常なまでに遅いんです。大会に間に合わそうとするなら左手の装甲とブースターの方向転換用可変ウイングのフレーム交換が必要なんですよ!!原因は…瞬時加速《イグニッション・ブースト》中の方向転換です」
ヒイロのガンダムよりも一夏の白式の方が問題だった。
一夏の体を守るため、白式が無理をしていた分ここに来て悪影響が出てきてしまったのだ。
白式の治りが遅いのもすでに内部にダメージが大きいからである。
しかし、これも白式が一夏の思いに答えるための…すなわち『白式』自身が望んだことでもあった。
「…皐月…ゼロの予備の装甲を白式に回せ。そうすれば出れるだろう」
「正気ですか!?そんなことして白式がどうなるか分からないんですよ。最初からガンダニュウムを乗せるための機体ではじゃないですし…」
「頼むよ!!皐月さん!!」
一夏は頭を90°まで下げ、お願いする。それは一夏がラウラとの決着をつけたいからなのであろう。
「…わかりました。けど、白式が拒否を示したら無理ですからね」
と笑顔で答えた。なんだかんだで皐月も一夏を信頼しているのであろう。
その時、ヒイロの携帯が震えはじめる。どうやらメールが届いたようだ。
ヒイロは携帯を開け、中を確認すると見たこともないアドレスで
『異世界から来た死を告げる天使へ 渡したいものがあるので午前0時に時定市の総合運動公園アリーナに来られたし』
とあった。ヒイロは罠かと考えた。その時、ブレスレットの緑色の水晶が一瞬だけかすかに光り、あるビジョンがヒイロの脳内をよぎる。それはゼロが見せた未来だった。そしてそこに映っていたのは…
時定市立総合運動公園
それはIS学園への唯一の公共交通手段であるモノレールの終着駅である時定市にある運動公園。ちなみにこの町はヒイロと仲良くなった女子高生が住んでいる町でもある。
そんな運動公園のサッカー競技場でヒイロは直ったばかりのガンダムで空から舞い降りる。そしてその状態で少し待っていると空から何かがものすごい勢いで落ちてきたのは…
「……」
無言のヒイロが見たのはヒイロと同じサイズ(ガンダム展開時で)の大きな金属製のニンジンだった。それもアニメチックにデフォルメされた巨大なニンジンである
それは二つに割れて中からスモークとともに一人の女性がくるくるとフィギュアスケーターのように回転しながら現れる。
「やふ〜!!ひーくん、元気ぃ〜♪みんなのアイドル、篠ノ之 束さんだよ〜!!」
服装はアリスとウサギが同居した『一人不思議の国のアリス』、自称『一日に三十五時間生きる女』、そしてISの生みの親でもある篠ノ之 束、その人であった。
「……俺に渡すものって言うのはなんだ?」
「ええ〜いきなりそれ聞いちゃうの〜。もっと会話しよ〜よ」
束はニコニコしながらそう言うがヒイロは彼女の目からは世界に絶望したような目をしているのを感じた。そして…世界を自分の好きなように変えたがるような狂気も感じられた。
「ま〜いいけどね〜。はい、ひーくんにはいっくんを守ってもらう必要があるからね。“これ”をそれに内蔵させるといいよ」
「……わかった」
束が渡してきたのは正方形の小さなICチップだった。
ヒイロはガンダムのままでそれを受け取ると、背を向け、さろうとする。しかし、その足を止め、ここで初めてガンダムを解除した。そして
「篠ノ之 束…お前はこの世界をどう思っている?」
「ん?う〜ん…そうだね〜つまんない世界かな。」
「…そうか…だが、この世界は一人一人の人間が造っている事を忘れるな」
「何が言いたいのかな?」
緊迫した空気が流れる。ヒイロが後ろを振り返ると束の顔からは笑顔が消え、無表情になっていた。それでもヒイロは話を続ける。
「…たとえ、どんなに人類が愚かだとしても…信念を持つ者がいる限り、この世界はお前の思うようなものにはならないだろう。そして、どんなやり方をしようとも人の心に光は消えることはない。俺は…それを、アイツから見いだせた」
「…………」
「篠ノ之 束……今ここにある世界を…人類を信じてみろ!」
「!!!!!!!!!!!!」
ここで束は信じられない顔をした。今まで、親友の千冬すら言う事が出来なかったセリフを…人の闇の中で生き抜いたヒイロが言ったのだ。宇宙に行くために開発したIS。しかしそれは認められず、認めてほしさゆえに『白騎士事件』を引き起こした。そして今度はその目的が宇宙開発ではなく、兵器として認められゆがめられたことにより束はさらに人を信じられなくなった。けれど…そんな裏切りや殺し合いの中で生きたヒイロが言った。
今あるこの世界を信じてみろ…と
「…俺から言えるのはそれだけだ」
そう言って再びガンダムを展開し、告死天使は空へと舞いあがったのだった。
その様子を束は見た後、尻餅をついた。そして本人もわからない涙を流すのであった。
「高出力ビームキャノン二門…その威力は一撃でシールドエネルギーを500削る。ただし重量の増加に伴い飛行不可で陸戦でのホバリング機動をつけないと移動できない。また、砲身の放熱をしなければならないため発射後3分のインターバルが必要…他にもツインガトリングにホーミングネットバズーカ、などなど…」
IS学園、一年生寮の暗闇の一室。ここには早瀬 皐月がベットの中でPCを叩いていた。口からはよだれが垂れていた。そう彼女はメカオタゆえにこのような顔になってしまっている。
「これが新型パッケージ…『マドロック装備』かぁ〜はやく使いたいな〜。それにアテーナも上半身は全部ガンダニュウム合金になったしね〜」
アホ毛をピョンピョンさせながら楽しみにしている皐月。だが大会が3on3になっていることを完全に忘れていて、パートナーを探し忘れるのであった…
ラウラは自室で悩み、苦しんで、さらに苛立ちを感じていた。理由は二つ…一つはヒイロの最後に言った言葉が引っ掛かっているからである。
『俺たちは……あと何人殺せばいい?俺は、あと何回あの子とあの子犬を……そして“アイツ”を…殺せばいいんだ…』
あの言葉を聞いてラウラはある光景が脳裏をよぎった。自分が教官と…千冬と殺し合うことを…自分が死ぬのはむちろん覚悟はしているが嫌だ。けれど千冬を殺すのも嫌だと思ったのだ。自分も軍人である以上、政府にたて突くテロリストを殺したことはある。だが、自分の親しい人間を殺したことはなかった。
ヒイロの発言は初めてラウラに引き金を引く恐怖を教えたのだった。
そしてもう一つは…
「この私が…あの織斑 一夏におくれを取っただと…ふざけるな!!」
そう、一夏におくれを取ったことだ。『瞬時加速《イグニッション・ブースト》中に方向転換』という荒業をやってのけ、一撃をもらってしまったのだ。おかげで大会では対ガンダニュウム合金用兵装はプラズマ手刀のみである。レールガンは同型だが威力の低いものと交換せざるおえなかった。
「織斑 一夏…貴様だけは……」
ラウラの目には先ほどの戸惑いを捨て、怒りの炎に包まれていた。静かに…そして…大きく…
そして、トーナメント当日を迎えたのだった。
後書き
ってことで束の修正してやる編です。
束のあの他人に対する会話は書いている自分が結構不快になってしまうのと、この小説の最大の敵は束ではないので修正しました。
修正の仕方で文句が言われそうなのでこうした方がいいという方どんどん意見お願いします。
説明 | ||
第17話 さみしがり屋の白兎は涙を流す | ||
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コメント | ||
いやぁぁ・・・・・読んでてとても楽しいです・・・。 これからも読ませてただきますので、がんばってください♪ (桜満 椿) >クロエ様 マドロックがどのような活躍をするのか…楽しみにしててください(ウッソ・エヴィン) >ZG-3様 ありがとうございます.再録18話と新作19話が完成しましたので楽しみにしててください.(ウッソ・エヴィン) >古手様 私は急いで次話を投稿することを…強いられているんだ!!(ウッソ・エヴィン) まさかのマドロックとは・・・イイ!(クロエ) 早く次の話を見ることを強いられているんだ!(古手雅樹) |
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