ワルプルギスの夜を越え 3・二人の聖処女
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こっから先は弾みを付けて処理していこうかと考えています

良いものを作るのに考えすぎは良く無い

最初のテンションを信じて淡々と組み上げるという形を自分の中につくろうとリハビリ中ですが良かったらお付き合いください。

 

相変わらず原本まどかのキャラはQBさんだけなんですけどwww

そろそろ辛辣な方向にはいっていくかもなっと

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切妻の背が四つ足の生き物の添った背骨のように落ちくぼんだ形。

建物の老朽からくる萎みを現す屋根に細く伸ばされた煙突、そこから白い煙が流れ出ている。

冬の近づく程に太陽は早く姿を消す、城塞都市の住人が活発に動く時間も短い

通りの家には少しの灯が続き、道の在処を照らしてはくれるが教会の回廊から下に降りた羊小屋の当たりには何もない。

小道と教会の一重の壁を背中に立つ小屋は、真っ暗の仲にポツンと立っているが、今日は女の子達の黄色い声が多く寂しげな外とは対照的な賑わいに満ちていた

 

「久しぶりの肉入りスープだな………」

 

干し藁の山に座ったエラは小屋の正面一番奥に作られた小さなキッチンで火に掛かる鍋をうっとりとした顔で見ている

そのキッチンでシグリと並んで夕餉の仕度をするのはロミー

ふくれっ面のロミーは食器を草で磨きながら、火に掛かった鍋をのぞき込んだ

 

「どこにあるの?細かく切りすぎなんじゃないの?」

 

鍋の中で煮通したベーコンは溶けて本当に小さな塊なっていた

ロミーは久しぶりに出る肉を楽しみにしていたのに、元々もらい物で小さな塊だったベーコンは更に細かく刻まれスープの出汁を助ける程度にしかなり得ず、当然口の中を楽しませる大きさのものはまったく無くなっているのに不満を漏らすも鼻腔は香ばしくなった香りを大きく吸い込んでいた

生意気な口とは裏腹、スープの出来を楽しみにしている幼い顔に向かってシグリはとろりと説明をする

 

「全部ぅ???スープの中にいるよ???ロミーの分も、エラの分も???今日はご馳走なんだよ???おいしいよ???」

溶ける言葉のシグリ

肉の在処に文句を言うロミーにエラは藁山から回りを見回して

 

「ちっ、在るだけましだろー、耳毛ウサギの野郎がいたらとっつかまえて煮込んでやろうと思ったんだけど………最近見ねーからよぉー」

 

口を尖らせながらも良い煮込みの匂いを楽しむ

料理を担当するシグリ、食器を仕度するロミー、キッチンから干し藁の山に続く道に組み立て式のテーブルを仕度するエラとアルマ

そこに帰宅したナナとヨハンナ

ナナは青黒いボロの外套を入り口の藁の上に置くと、玄関に牧舎の杖を引っかけて

 

「エラ、お土産あるよ」と黒い鞣し革の袋を差し出した

「待ってたぜー!!」

 

エプロンを括るベルトに着けていた袋の中身、入れ口までぎっしり詰まった羊の毛

雲をボロ袋いっぱいに閉じ込めたような、真っ白には遠く灰色でどこか錆びた感じの綿にエラは目を輝かせて駆け寄ると

 

「これでハンスの足袋が作れるぜぃ!!」

 

袋の中を改める

放牧の間、ナナは羊を追っては毛を拾う。

落ち穂拾いと同じで、道に落ちてしまったのならばそれは頂く事ができる

羊の小屋を掃除する時もエラやシグリは毛を集める

寒さの堪える季節を前に一番大切な仕事でもあるが、矢張り放牧の間に集める毛の量は掃除程度で拾えるものより遙かに多く質も良い

キッチンから少しのところに張られた板間にエラは青い眼を輝かせて袋の毛を広げる

 

「うっはー、いいわー、こんだけあると良いの作れるぜー」

喜ぶエラを遠目にシグリが

「う??ん、厚布取ってあるから明日繕おう??」

「ちゃんと教父さまに報告してあるの?」

店を広げたエラと、楽しげに話すナナにアルマは注意をした

 

「ちゃんと挨拶の時に見せてきたよ。毟ったものなんてないから」

 

深く前髪をかぶり目が見えないようになっているナナは、口を大きく横に広げて笑みでアルマに大丈夫と告げる

「たくさんあると毟ったって言われるからね、でも本当に拾ったのだけ、森を歩くと木に引っかかったりするけど………それは仕方ないことだしね」

広げた口に悪戯な舌がペロリと出る

 

「やるなーナナ、引っかかって毟れちゃったのは仕方ねーもんなー」

「もう、でもたくさんあると助かるわね」

 

悪戯な方法、でも貧しい少女達の少しの知恵でもある

アルマは苦笑いでそれを見過ごす事にする

 

「よし、しっかり仕分けて作るぜー」

 

見た目の怖さとは別にエラは物作りに長けた女の子だった

もちろん、そうしなければならない生活。欲しいものが必ず手に入る裕福さとは縁のない孤児達の知恵と成長がそうさせているのだが、それを差し引きしてもエラの器用さは目を見張るものがあった。

 

何せみんなが暮らす羊小屋の中の家具のほとんどはエラが作ったものだ

枯れ木や倒木を拾いベッドをつくりテーブルを拵え、シグリが居座るキッチンの石を積み、左官仕事で仕立てたのもエラだ

コンビのシグリもゆったりした性格とは別に物作りには才能を発揮していた

料理と縫い物、小屋の仲間の服を作り、飾りのステッチや刺し子をするのは彼女だ

 

「ねーぇ!!あっち(私)の手袋はー!!次作ってくれるって言ったでしょー!!」

 

食器をテーブルに並べたロミーは板間に広げられた羊の毛を見て、エラを睨んだ

 

「順番でしょー」

 

小さくても一人前の少女は頬を膨らませて仁王立ち。でもエラは目を細めてからかうように言い返す

 

「やかっしー、まずはハンスのだ。お前はほとんど家にいるからいらねーだろ」

 

ロミーはまだ5歳。もちろん正確な歳を知る者はいないが、ここにいる10代のメンバーの中では一番小さい。

だから出来る仕事も少なく、家事手伝いがメインでもある

外に働きに行くエラやシグリ、ナナのように町の外にまで行く者に比べたら順番は落ちる

 

「うーん………欲しいよー!!あっちだって薪割りとかしてるもん!!」

 

確かに家の近くにしかいないロミーは大きな事は言えない。

口をすぼめ、恨めしそうな目をする

 

「僕の方が働いてないよ………エラ、ロミーに作ってあげてよ」

 

二人のにらみ合いにハンスが声を掛けた

大人の男が着る上着を無理して羽織っているために上着だけが立ち上がっているようにも見えるハンスは咳をし、言葉を選んでしゃべる

ほとんどどころかずっと家にいる自分、弱った体を温めるための足袋は欲しいが、仕事をしていない身を顧みるにまったくの贅沢品

姉のヨハンナに支えられた青白い顔は間仕切りの壁にもたれたまま

 

「ロミーは良く働いてるよ………」

 

申し訳なさそうな顔にエラは両手を挙げる

 

「あー、わーったよぉ、ちょっと足せば二つとも作れるさ」

頭に被っていた羊の毛の帽子を見せて

「こいつは予備だからよー、ロミーのは指無しのなー、それで折半だ」

エラは二人の思いを察して口を尖らせた

 

家の仕事とハンスの身の回りの世話もするロミー。ロミーに感謝しつつも働けない事を申し訳無く思っているハンス

二人のいじらしさと

 

「ありがとうエラ」

 

姉として感謝を即座に口にしたヨハンナの姿に、頭を掻く

 

「さあ、話しは後にして、暖かいうちに頂きましょう」

 

シグリと一緒に鍋からスープを注いだアルマは笑顔でみんなが席に着くことを進めた

小さなロウソク一つ、そこを囲むように縦長のテーブルに着く仲間達

 

「今日はナナが無事に帰って来て、小屋の仲間でみんな揃って食事ができるわ。感謝しましょうマリア様に」

 

家長*1であるアルマは手を重ね、糧に対する祈りを始める

皆一応に手を重ね、アルマの祈りに目を閉じて従う

 

「神の御子たるイエス様の母マリア様に、今日ここに私達の仲間が集いて共に糧を得られる事を感謝します………」

 

赤毛の髪に薄いストールをかぶり*2手を重ねていたアルマは祈りながら、久しぶりに揃った仲間の顔を確かめようと目を開けるが………

誰もが堅く目を閉じ敬虔を現し、祈りに頭を下ろしている中でナナは上の空だった

意識して顔を下げず、壊れた屋根の端から星を追っている目が、自分を見ていたアルマと合うとナナは見える口元で笑って見せた

前髪に隠された目の下で笑う口

アルマは小さなため息を落とし、目を細め眉をしかめる中で祈りの言葉を続けた。

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「入るよ」

 

仕切りの戸を軽くノックするナナにアルマはどうぞと呼び込んだ

軽い仕切りなのでナナが中二階の部屋の前まで歩いて来ているは解っていた

アルマの部屋

羊小屋は大きな一軒家だ。

とはいえずっと昔、主要な城塞都市から離れたこの町は裏街道の一本として小さな護りを任されていた時代があり

その当時教会を置くことで蛮族に手を出させないようにした経緯があった。

教会が中心にある町を攻める事は、神に対する謀反とされ大規模戦争に発展する

ヴァロア朝*3が有った頃、この戦争の形式は出来上がっていた

攻城戦は辛酸を極める恐ろしい戦いだ。そのための蓄えを教会が持つのも絡む理由からのものだった。

あれから200年以上たち大きな争いはなくなった

教会の持つ倉庫の一つだった小屋は、今孤児達の住処となって朽ちるままに建っている。

元が倉庫だったのでがらんとしていたのを間仕切りして各々の部屋としているが、中身の大半が干し草置き場で普段からエラとナナはそこで寝起きしている。

ロミーは冬の間は寒さに負けるのでシグリと一緒にキッチン前、暖炉の近くで寝起きをし、ヨハンナとハンスはその裏に作られた部屋にいる。

そしてアルマはネズミよけに作られた中二階に住んでいた………かつてはもう一人の友と一緒に

 

「座って、そちらに」

 

ストールを掛け寒さに備えた肩の上、赤毛を編み込みながらアルマは自分の反対に位置するベッド、今は誰も使っていないベッドにナナ座らせると

 

「まずは無事に帰って来てくれてよかったわ」

労いの言葉を確認するようにかけた。

 

「うん、ありがとう。雨も有ったしね、気にして城壁まで見に行ってくれてたんだよね………、ありがと」

 

重ねるように礼を言うナナにアルマは一息つき頷く

相手の顔を前髪の下から見ていたナナは注意をされる前に話しを切り出す事にした

アルマが自分を呼び出す時は大抵説教である事と、先の祈りの時の不敬を叱責されると考えていた

やっと放牧から帰った今はすぐにでも休みたいという気持ちも気を押して、嘘でも笑った口をみせながら先に声をかけた

 

「それでね、申し訳ない事なんだけど修道院には行けなかったよ。雨が降って羊が泥濘に落ちたら困るから………ごめんね、リーリエに手紙を渡せなくて」

「それはいいわ、行かなくて正解よ。危なかったから」

アルマの返事はナナが考えている以上に素っ気なかった

 

無二の親友であるリーリエがヘマをやらかして修道院に送られた時は泣き叫んだもので、そのために手紙を渡して欲しいと放牧前に手渡されていた

それが届かなかった今、先の不敬に対する叱責を忘れるほど落胆するのではと考えていたナナには肩すかしのように感じられた

アルマの青い眼は部屋の角に開けられた月の光に揺れながら落ち着いた口調で

 

「落ち着いて聞いてね、東の方のね………修道院の近くに魔女が出るようになったのよ」

魔女、ナナは一瞬固まったが

「魔女………ふーん、そっか、だったら祈るしかないね。マリア様の加護を」

「ナナ、ふざけた風には言わないで」

 

顔を背けて加護を語った相手をきつく、それでもゆっくりとした口調で諫めるアルマ

誰が聞いても分かるほどナナの口調は軽かった。唇を噛み顔を背けたナナは注意に対して

 

「だってそういう………魔が現れる時こそマリア様が助けてくれるのでしょ」

「ナナ、その力は私が授かっている」

 

アルマは立ち上がり仕切りのドアを開ける。誰か他の者がいないかを確認すると

 

「魔女を倒すための聖処女*4として私はここにいる。マリア様が直接手を下すような事はないのよ」

 

教義に基づく救済を知り語るアルマに対してナナの顔は沈むように下を向いていた

何かを言い返すとも返事をするともしない態度で

 

「それで………何?」

 

俯いたままナナは静かに聞いた。

説教をするアルマの顔を見ないままで

「何か用事があって呼んだのでしょ?」

 

「うん、そう僕からのお願いもあって呼んでもらったんだよ、ナナ」

 

声の主は軽いステップで開けられていた窓をくぐりアルマの隣に座った

真っ白な毛並みに長い耳、王侯貴族が好むボア感高い大きな尻尾を持つ赤い眼それは陽気な声で続けた

 

「君にも聖処女になって欲しくてね」

 

ナナは座っていた位置から引く事はなかったが、少し苛立ちの篭もった声で相手を睨むと

「耳毛ウサギ………、まだこのあたりにいたのか、エラに見つかったら鍋に入れられるぞ」

「僕の名前はキュゥべえだよ。憶えてよ。後なんでみんな食べようとするの?」

小首を傾げてキュゥべえと名乗った生き物は愛らしく聞き返した

「冬なんだ、食べられる肉を見逃す手はないだろ」

可愛さなどそっちのけの返事

 

「食べないでね。名前も覚えてキュゥべえよ、それでね」

棘の口調のナナと、ベッドのキュゥべえ。二人の会話にアルマが入ろうとしするが

 

「その話しは………断ったでしょ、私はならない聖処女なんかに」

 

アルマの説教に及び腰を見せたナナだったが、譲れない気持ちをきちんと答えた

ナナのきつく結んだ唇が意思の硬さを物語っているのを感じたアルマは

 

「やっぱりダメなのね」

諦めた口調で、緊迫していた表情を緩めた

 

「前にも言ったよね、私は聖処女にふさわしくないし、それに、なりたいなんて考えた事もない」

自分の意思をしっかりと念を押す顔、口元には怒りにも似た痙攣も見える

アルマにはわかったが、横に座ったキュゥべえは首をなんどか傾げると

 

「ナナにも願いはあるでしょ、僕どんな事だって叶えてあげられるんだよ」

赤い眼がナナの隠されている前髪の中の目を探すように覗くが

「願いなどない」

栗毛を押さえて言い放つ、頑なな石の壁のように跳ね返して

ナナは聞く耳持たぬと奇妙な人語を解する生き物キュゥべえを睨んだ

 

「近寄るなよ」

気味悪いと手で払う仕草を見せて、アルマを見る

「この話しはもうしないって約束だったでしょ。悪いけど私はマリア様に帰依してないから」

「ナナ、それは言わない約束よ」

きつい口調を押さえアルマは回りを気にして言い直した

 

「ナナ、教会があって教父様がいて、マリア様の教えを知る事で私達は今日を生きてる。なのにそんな事言ったら…リーリエのように町を追い出されてしまうわよ」

 

詰め寄った顔は本気で心配しているのを十分に感じさせた

ナナも思わず言い返した本音だったが、声を小さくして謝った

「ごめん…でも、まだそこまでマリア様を信じられないっていうか…こんな事が起こるのならばなんでマリア様が助けてくれないのかって…」

 

なだめる手で肩を押し、立ち上がってしまったナナをもう一度ベッドに座らせると

 

「私達のような孤児はその信心を試される。貧しさや寂しさに負けてしまわない?そういうものに惑わされてしまわないか?だからこそ与えた力を正しく使い魔女を駆逐するのが務めなのよ」

 

二人の会話を聞く赤い眼は何も言わない

ナナは黙ったまま下を向く

 

「ナナ、後は願うか願わないか…願う事でマリア様への信心から奇跡は起きる。私ナナには奇跡は必要だと思っていたの。その願いの代償として貴女が私に変わって聖処女になってくれないかと………でもわかったわ」

 

俯いたままのナナ、言葉はなくても強く拒否を示しているはわかる

相手の強い意志を確認したようにアルマは窓際の星をおいながら語った

 

「私、祭りが終わったらラルフのところに行くの、知ってるよね」

 

羊小屋に住む少女達の中、家長であるアルマは今年の冬を越す祭りが終わったら、町一番の商家の次男坊ラルフの元に嫁ぐ事が決まっていた

教会が中心の町だが、平穏な時が長く続き権威だけでは統治はうまくいかない

教会の押す信心だけでは人の繁栄は得られないのと、それでも強い教会の威光に取り入りたい貴族以外騎士以外の階級者達を繋ぐ嫁として

寂しげな瞳が窓の外を見つめる

 

「ラルフの事は好きでも嫌いでもないわ、だけど教父様があってマリア様の教えがあって私は今日までここに居られた。だから勧められるままに嫁ぐわ。でも私が嫁いでしまったら誰がマリア様の意志を継いでくれるのか………それだけが心配なの」

 

ナナは黙って聞いていた

アルマは窓にもたれかけた姿勢で

 

「ナナ、先に謝っておくわ。今まで貴女に無理強いをしようとしてごめんなさい。そして私がもう一つの考えを実行するために貴女に迷惑をかける事を許して欲しいの」

少し潤んだ瞳の前でナナは答えた

 

「リーリエに会いに行くの………」

「そう、リーリエをここに戻してもらうの。私が嫁げば家長が居なくなるでしょ、リーリエのした事は………まあ今となっては些細な事。きっと許して頂けるはず。私に代わりリーリエが戻り………マリア様の意志を継ぐ、これならばきっと神様もマリア様も許してくださるし、教父様も家長の必要を知っているから許してくださるわ」

 

十分に考えた行動である事をアルマは告げると申し訳なさそうに

 

「ただね、私が修道院を訪ねるって事は…」

「身代わりがいるって事だね、任せて」

 

危険な道とわかっていてアルマが一人で修道院に行く事など誰も許さない

ましてや教会の威光を求める商家との縁談は、教会の財力を助ける大切な婚儀でもある。

そのコマとして決まっている娘を今更手放しにはできない

もちろんアルマが結婚を嫌って逃げるような事はないのだが、悪い先例としてリーリエが縁談を踏み倒しているのを鑑みるに面倒が多くともきちんと手順を踏んで会いに行きたいと申請するのが上策。

 

これは願いだから、孤児の家長が次の家長を指名する大事な願い

アルマとリーリエは無二親友だった事を考えれば嫁ぐ前の最後の願いは無下にはされない

会いに行き、リーリエの悔い改めるという意思を拾う事、それを教父様に伝える事。これは信心への回帰でもある行為。

伝導の意を思えば許さない訳にもいかない

 

後は修道院に行けると決まれば護衛のために商家から数人の共、そして何かあった時、その場に置いていける者が必要となるかもしれない

赤毛の眉をしかめ言いにくそうに口ごもるアルマの顔にナナは明るく答えた

 

「アルマ、私は大丈夫。そういう所から逃げる方法も良く知ってる。その仕事は付き合わせてもらうよ。だから気にしないで」

 

自分のできる事で手伝のには前向きに言う

野山を歩くのに適切な知識を持っている事も誇りで、それをアルマが評価してくれている事が誇らしかった

 

「危険な道のりよ。魔女もでるかもしれない、もちろんその時は私が助けるけどね」

「それはお任せ。でも獣がでたら任せて、追い払うのはお手の物だよ」

 

手首に着けた黒曜石の火打ち石を回して見せる

「やつらは火を嫌うからね、振り払ってあげる」

 

苦笑いのアルマ

二人は手を握り前向きな決断に対して賛成をした

その姿をキュゥべえは不思議そうに見ていた。

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翌日アルマはリーリエに合うための願い出のためヨハンナに付いて教会の堂内に入った

普段はアルマでもここに入る事は許されていない、ここに入るにはヨハンナのように聖書の知識をそれなりに持っていないといけないからだ。

堂内はグラス・マレライを通して得られる光で明るい空間を作っている。逆に建物の両翼を暗くし説法の壇上を浮かび上がらせるように作られた場所は神の御座を演出していた。

いつもなら神聖にして静かすぎる場所。

 

そこに響く鳴き声

 

アルマとヨハンナは昼を知らせるカリオンの音を聞く前に用件を済ませたかったのだが、3日前より泊まりに来ていた貴婦人の泣き声で事を簡潔に済ませる事は出来なくなっていた。

貴族を押しのけて自分の用事を教父に告げるなどできない事、ヨハンナの注意もあり二人は教壇のとなりにある部屋でしばらく婦人の泣き声を聞かされる事になった。

 

そしてカリオンが昼を知らせる音を響かせる頃になっても、婦人の遠慮のない泣き声は止まる事なかった。

 

「…鐘の音に合わないわね」

 

祝福を告げる天使のラッパを模しているカリオンの音の中、混ざる悲壮の声をアルマは聞き苦しいと零した。

泣き続ける婦人の姿を横目に長くなった待機にため息を落とすアルマに、涙の理由をヨハンナ簡潔に告げた

長すぎる時間でアルマがイライラしているようにも見えたからだ

 

「北の港からいらっしゃった貴族様です。流行病とかは無かったのですが…10日前にお嬢様が急に亡くなられ、お嬢様に使えていた侍女も何人か後を追うように一緒に亡くなっていたそうで…」

 

澄んだ音が泉に綺麗な波紋を残すから美しいと感じるのならば、教父様の腕にしがみつき泣き叫ぶ少し太めの貴婦人の声は波紋を歪ませる濁音の響きを持っていた

死によって自分より先に逝ってしまった娘を想う母の心にアルマも落ち着いた返事をした

 

「そう、それならば仕方のない事ね…辛い事ですものね」

辛い事といいながらも孤児であるアルマには母の涙の意味など理解の範疇になかった

ただ、それほどに悲しくても肥え太った身を持っている姿に不快感を憶えただけだった

 

「あんなに食べていても悲しいのね」

誰に言うでもなく、長くつづく嗚咽を聞き続けた

「悲しみに目方は関係ありませんよ」

おかしな事をと真面目な顔で口を挟むヨハンナに

 

「そうね、減るのは心ばかりだものね」と、細くした青い眼で伝えた

 

「そう減るのは心よ、体なんて飾りだもの。貴女は正しい事を言うけど…随分と奥様を見下げた態度をするのね」

オリーブ油を髪に湿らせ黒の小さな髪止めを着けた少女は、いつの間にか二人の前に立っていた

目の色も黒く、細くそり上げた眉毛の視線は明らかにアルマを睨んでいた

歳の感じはアルマと同じぐらい、日焼けのない白い肌と苛立ちを存分にしめした桃色の唇

 

「失礼しました。どちら様で」

 

相手の返答から彼女は喪服婦人の侍女である事はわかっていたが、気が付かなかったようにアルマは立ち上がって聞いた

身の丈も同じぐらい?相手のとの間を確認すると、恭しく頭を下げた

 

「私?私はアーディ婦人が子女イリーネ様に仕える者。イルザと申します。…貴女はアルマね」

 

ピンと緊張を張った声は刃物のような視線

アルマは自分を知る彼女の言葉に一歩引く、ヨハンナはもっと下がってしまっている

何しろ急に注意を受けた相手の迫力に恐れを成していた

しかし小声でアルマに相手の事は伝えた

これ以上失礼があったり、苦言されるのを恐れたからだ

「この方は亡くなったお嬢様に仕えた侍女です…」そっと耳打ちした。

 

恐れるヨハンナをうしろにアルマはペコリとお辞儀をする

 

「初めましてイルザ様、私のような者の名を知っていて下さるなんて驚きました」

「ええアルマ、貴女の事は良く聞いてましたから。でも残念だわ、聞くに貞淑であると知っていたのですが…そんな形じゃ教養のない言葉が出てもしたかがないのかもしれないわね。でも遠慮してちょうだい、それでも口に出すのならもっと右の方*5でいいなさな。悲しみを愚弄するなんて実に失礼だわ」

 

「そのような事は」

 

顎を傾げ深いを眉間の皺に見せるイルザに対して、アルマもまた不快を感じていた

それは矢継ぎ早な言葉での叱責に対してではなかった

普段ならばどんな事であれすぐにでも自分の非礼を謝るアルマが感じた不快感は、彼女の右手に光っていた

特殊な名入りの指輪と、爪の文字

イルザは自分の顎下に添えた右手を見せつけるように立っていた

 

「何?自分だけ特別だと思ってたの?」

 

イルザが知っていて自分話しかけてる事を恐怖した

 

「どうして?ですか?」

思わず出たアルマの言葉はヨハンナにはまったく理解の出来ない言葉だった

緊迫する二人の間から一歩も二歩も離れて、アルマとイルザの顔を俯き勝ちな目だけで追うが、二人の間が何を示しているかまでは知りようがなかった

冬を近づける冷えた風が三人の間を静かに走る

氷の視線のイルザは右手を隠すと、薄く笑った顔を見せて

 

「アルマ、警告してあげる。貴女はもう長くないわ、だから無駄な事をしないで静かに暮らした方がいい。最後時を惨めに終わらないためにも」

 

抑揚を押さえた少女にしては低いトーンは恐ろしい事を口にしていた

アルマの死を暗に示す声にヨハンナは耐えられない気持ちで飛び出してしまった

 

「何を言っているのですか、なんという恐ろしい事を…ここをマリア様の聖堂と知っての物言いですか、やめください」

 

震える声の抵抗を前にしながらもイルザの目はアルマだけを見ていた

 

「いい私はきちんと言ったわよ。もう何もしない事だけが貴女の余生を楽にしてくれる方法なの、忘れないで」

 

ひるまぬ声に抵抗の言葉を失っているヨハンナの肩をアルマは支えて

 

「ええ聞きましたわ、でも私も願ってそうしているので…ご忠告は有りがたく受け取っておきます」

昼越え夕暮れ時を知らせるカリオンが鳴り響く、鐘の音の高城にキュゥべえは尻尾をはためかせて座っていた

赤い眼は三人の少女をただ見つめ続け、遠い東の方への嶺を交互に見ていた

 

その日の夕刻、教父の元を訪ねたアルマの嘆願は聞き入れられた。

祭りの近づく中で仕度の人手も考慮され、修道院への出発は明日と急な話だったが久しぶりにリーリエに会える事にアルマは素直に喜んでいた

 

ただヨハンナの心にはイルザの言った事が深く刺さっていた

暗い穴を胸に開けられたような気持ちに食事も進まなかった

 

翌日軽い身支度をするナナとアルマにヨハンナは言った

 

「どうしてもすぐに行くの?」

憂いで暗く沈んだ顔にアルマは笑った

 

「大丈夫よ、すぐに戻ってくるから」

 

その日はとても良く晴れていた。きっと何も起こらないだろう。いや、起こらないで下さいとヨハンナは祈った。

強く深く祈った日だった

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時代背景と注釈

特にみなくても大丈夫だぜー

 

*1 家長

家の長、書いて字のごとく

しかしこういうのが必要だった時代

孤児だからバラバラしていればいいというわけではなく、一定の規則を持っているという表明のためにも必要とされた

特に彼女達は孤児ながらも教会の保護下にいるわけなので、節度などを重くみられる

そのため家長を置きしっかりと生活規則を守っている、守らせる責任者がいるとするため

本当は彼女たちの家長は、教会の教父様になるし男の仕事でもあるが

基本的に教会は親無し子の何かしらの責任などとりたくないから便宜上年長の者がなっているという事

 

*2 髪に薄いストールをかぶり

女性が神に祈るための必需品。最近はどうなのかしらないw

コリントの信徒への第一の手紙11:2?10の中で

すべての男の頭はキリスト、女の頭は男、そしてキリストの頭は神であるとされている

神の御前で頭の毛を見せたまま祈るのは不敬とされた。得に女は男より劣る生き物とされていた時代なので男に変わって家長をするアルマは髪を隠して家長として祈りを捧げているという事

ただしこの教会がメインで祭っているはマリア様なので…なんともいえないwww

そして母マリアを信心しなさいと息子キリストは一度も言ったことがないのはステキな事実であるwww

 

*3 ヴァロア朝

お菓子王国の前身(嘘)

ブルボン朝フランスの前の王朝。この王朝のころにフランスは100年戦争を経験し、ジャンヌ=ダ=アーク(ジャンヌ=ダルク)の国家救済を受けている。

100年戦争っていってもひっきりなしにやってたわけじゃない

けっこう所々で一休みしなから、気が向いたら戦争っていう迷惑な時代だった

この頃の聖処女伝承からアルマ達は自身を「魔法少女」とは言わず「聖処女」と称していると理解して欲しい

ていうか…魔法なんて付いたら火炙り一直線になってまう

教会の威光も強く反映されているから、ここでは「魔法少女」=「聖処女」でやっていこうと考えてます

旦那自重してください

 

*4 聖処女

上で書いたそれ

コの時代だとジャンヌはすでに聖人に列聖されている。この戦争の中、旗をもって戦場に立ち救国に奔走した彼女の伝承に基づきアルマ達はきゅうベエとの契約で得られる力をマリア様の力と解釈している

もちろんQBはさらりとそうではないよ??なんて否定もするのだが、時代的にも孤児である事からも信心がないと生きる場所がない彼女達に思想の選択権なんてない

むしろ自分達で選択の自由を放棄している状態なんだけど…そういう時代だったのさー、女って辛い時代大杉

 

*5 右の方

ニューキャラ・イルザが言った言葉

右の方というのは難聴になりやすい為、きこえないところで言いなさいという意味

もちろんイルザが仕える婦人は耳が悪いわけではないが、アルマの発言が許せなくて嫌味で言った

むろんエラの前で言ったら問答無用の喧嘩になる。彼女は片耳がないから

ちなみにこの時代耳の悪い人は多かった、衛生環境とか病気とかで耳鼻咽喉関係の病気は当たり前に多かった

そして貴族は大抵入れ歯だった

説明
魔法少女まどか☆マギカから、至高の敵ワルプルギスの夜誕生の物語を
出来る限り原作まどかを踏襲する形で描いております
現在原作キャラはキュゥべえさんのみですが、宜しければ優しい目でお付き合いください
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