Masked Rider in Nanoha 十九話 誰かが君を愛してる |
久しぶりに踏む海鳴の地。とは言っても、五代にとってはつい二日前ぐらいの感覚なのだが。転送ポートとして使っている月村家の庭。そこに降り立った五代と光太郎はとりあえず歩き出した。五代に説明をされながら、光太郎は広い庭を持つ月村家にやや圧倒されていた。
そして、しばらく歩いた先に一人の女性がいた。紫色の綺麗な髪。それを見た五代は最初忍かと思った。だが、背丈が若干違う事に気付いて思い出す。自分は五年以上後の時代に来てしまった事を。つまり、目の前の女性は五年前はもっと小さかった相手。そう思い至った五代はその相手の名を呼んだ。
「すずかちゃんっ!」
その声に女性は一瞬震え、ゆっくりと五代の方へ振り向いた。そこには、何ら変わらない笑顔の五代がいた。
それを見つめるのは、もう子供らしさを少ししか感じさせないすずか。光太郎は、そのすずかの表情と瞳からおぼろげながら事情を察し、五代から少し距離を取った。
「……五代さんっ!!」
走った。叫ぶように名前を呼んで。すずかはその勢いをつけたまま五代へ抱きついた。それを受け止めるも、勢いを殺しきれずに五代はそのまま後ろへと倒れる。
だが、すずかはそれに構わず五代に抱きついて泣いていた。そのすずかのすすり泣く声に気付き、五代は優しくその頭を撫でる。
「えっと、ごめんね。帰るの、遅くなって」
「……いいんです。こうして……帰ってきてくれたから!」
五代の声に顔を上げ、すずかは笑顔でそう言い切った。その目からは涙が流れている。それを見た五代は慌ててハンカチを取り出し涙を拭う。そんな光景を見ながら光太郎も微笑みを浮かべていた。
それから少しして光太郎の存在に気付いたすずかが恥ずかしくなって五代から離れ、やや慌てるように屋敷へと向かって歩き出した。それが照れ隠しである事を五代も光太郎も分かっていたが、あえて何も言わず苦笑してその後をついて歩き出す。
その途中で五代はすずかから簡単にこの五年間の月村家の事情を聞いていた。
「そうなんだ。忍さん、結婚してドイツに……」
「うん。相手はなのはちゃんのお兄さんの恭也さん。五代さんも知ってるでしょ?」
「そっか。あの頃から付き合ってたもんね。で、ノエルさんは二人と?」
「そう。あ、後で電話して。お姉ちゃんもノエルもきっと喜ぶから」
庭から歩きながら話す二人。光太郎はそんな二人の後ろを歩きながら庭を見渡していた。だが、その目はどこか鋭い。
(……トラップが仕掛けられている。それだけじゃない。監視カメラや赤外線センサーまで……)
月村家の庭中に設置された仕掛けに気付いた光太郎だったが、どうしてそんな物を仕掛ける必要があるのかが理解出来ないでいた。確かに月村家は裕福なのだろう。だが、これは警備と呼ぶには行き過ぎていると光太郎は思った。
中には下手をすると相手を殺しかねないぐらいの物もあるのだ。まだ光太郎は知らない。月村家は吸血一族で、その命や技術を狙ってくる者がいた事を。庭にあるトラップはその頃の撃退用の物だった。
光太郎がそうやってトラップに意識を向けていると、すずかが五代に問いかけた。
「それで、さっきは聞きそびれたけどあの人は?」
「南光太郎さんって言って、俺と同じ仮面ライダーの先輩なんだ」
「仮面ライダー?」
五代の言った聞きなれない言葉にすずかは小さく首を傾げる。それに五代がクウガと同じような存在と説明した。それにすずかは驚いたが納得はしたようで、意を決したように光太郎の方を向き直った。
「あの、私月村すずかと言います。さっきはお恥ずかしいところをお見せしました」
「すずかちゃん、か。俺は南光太郎と言います。それとさっきの事なら気にしないで。大事な人に五年振りに再会出来たら、俺だって感激して思わぬ行動に出るかもしれないから」
光太郎の気遣いにすずかは微笑む。だが、すぐにその表情を改めるとどこか言いにくそうではあったがはっきり告げた。
「五代さんと同じ光太郎さんにはお話しします。実は、私は吸血鬼みたいな存在なんです」
「……そうなんだ。じゃ、ここのトラップはそれに関連して?」
「え? 分かるんですか?」
光太郎の言葉に感心したように声を上げるすずか。五代もびっくりしている。何せ、五代も忍やノエルから聞いて初めてその存在を知ったのだから。そんな二人の反応に光太郎は少し悲しそうな声で「うん」と返し手を叩いて明るく告げた。
すずかが少し人と違うのは分かった。だが自分は気にしない。すずかはすずかだから。そう光太郎は心から言い切った。それが五代やなのは達と同じ言葉だったためか、すずかは嬉しくて涙を流して頷いた。その笑顔は、まるで絵画のような美しさがあった。
そして屋敷へ入った五代はまた再会を果たしていた。相手の名はファリン。月村家でイレインと共に五代を慕っていた女性だ。
「ホント?に、心配したんですからっ!」
「ごめんね。俺もすぐ帰ってくるつもりだったんだけど……」
まるで妹と兄のように見え、光太郎は笑みを浮かべる。その隣ですずかも同じように笑みを浮かべるが、ふと横目に映った光太郎の表情が気になったのか視線をそちらへ向けた。光太郎は笑みを浮かべてはいる。だが、その笑みに影があるのをすずかは感じ取った。
何かを思い出し、その辛さを堪えているかのような目。そんな風に光太郎の目が見えたのだ。そう、光太郎は眼前の光景からある思い出を連想していた。それは懐かしく悲しい記憶。
(杏子ちゃんも、あんな感じだったな。俺達がサッカーで怪我したりすると、よく怒られたっけ……)
思い出すのは、幼馴染の男とその妹。その二人は、今はもう自分の傍にはいない。五代に詰め寄り文句を言いながらも嬉しそうなファリンに、光太郎は過ぎし日の思い出を重ねていたのだ。
その哀しげな瞳にすずかは言葉を失う。五代とは違う哀しみ。それを光太郎は持っている。そんな風に見えたのだ。その哀しげでどこか懐かしそうな横顔。それにすずかは見入る。
先程聞いた話で光太郎も五代と同じような力を持っている事をすずかも知っている。つまり、変身するという事。それは、人に言えない秘密を抱え孤独と戦ってきたという証。すずかは、そう考えて静かに光太郎の傍へ行き、その手を握る。
それに気付いた光太郎にすずかは小さく、だがはっきりと告げた。
―――貴方は、一人ぼっちじゃないです。
その言葉に光太郎は黙った。それにすずかは続けて言った。どこかで光太郎を待っている人がいる。五代にもいたのだからとそう締め括って。
それに光太郎は心から笑顔を見せ、その手を握り返す。その暖かさに感謝して。その優しさに感謝して。ここは彼が守った世界ではない。だが、きっと己が守った世界にも、すずかのような心の持ち主が沢山いる。
そう思い、光太郎は誓う。決して哀しまないと。どこかで、自分を愛し、信じてくれる者がいる。求めている者がいる。なら、それに応えて戦い続けよう。仮面ライダーは、その気持ちで今日まで世界を守り続けてきたのだから。
そう固く信じて光太郎は思った。すずかの手の温もり。これを自分達は守るのだと。その時、誰かが玄関を開けて帰ってきたのを光太郎の耳が捉えた。大きな音がし、何者かがこちらに向かって歩いてくるのだ。それをすずかも感じ取ったのか小さく苦笑しながら呟く。
「イレインが帰ってきたんだ」
「イレイン?」
すずかの言葉に光太郎は聞き返す。それを彼女が説明しようとした時、リビングのドアが開いた。そこには、買い物袋を両手に提げたメイド姿の女性がいた。
「今帰った……」
「おかえりイレイン。それとごめん! 遅くなったけど、もうストンプ見せられるからっ!」
五代の姿を確認し、硬直するイレイン。そんな彼女に、五代は手を合わせて申し訳なさそうに言葉を掛ける。最後には笑顔でサムズアップを忘れずに。それにイレインは呆然としながら小刻みに震え出す。
そんなイレインに気付き、五代は不思議そうな顔をした瞬間―――その胸に小さくない衝撃を受けた。
「っ!!」
「おわっ!」
イレインが荷物を放して五代に抱きついたのだ。それに感嘆の声を上げるファリン。光太郎とすずかは揃って驚き、苦笑する。イレインは泣きながらただ力無く五代を叩いていた。そして五代はそんなイレインに笑顔を浮かべ、静かにただいまと言った。
それにイレインも消え入るような声でおかえりと返すも、すぐに涙混じりの声で遅いんだよと付け加えるのを忘れなかった。
そんな光景が、たっぷり三分。そして、立ち直ったイレインが照れ隠しに五代を割と本気で殴り飛ばし、それにすずか達が慌てる事でこの再会は終わりを向かえるのだった。
時刻は午後十時を過ぎ、空には月が昇っている。あの後、五代は全員の前でストンプを披露。その見事さに全員が拍手をし、五代は嬉しそうにそれに応えていた。すずかは自室でそんな光景を思い出しながら月を見上げ、視線を月から目の前の相手へと向けた。そこにいるのは真剣な表情の光太郎だった。
ファリンやイレインの力などを知った光太郎は、夕食が終わった後、すずかに尋ねたのだ。二人も同族なのかと。それにすずかは違うと返し、自動人形の説明をした。すると、それを聞いた光太郎は表情を険しくし、彼女に聞いて欲しい話があると言ったのだ。
そのため、今の状況になっている。光太郎の眼光は鋭く、一切の虚偽を許さないと告げているようだった。すずかはそんな彼の眼差しに息を呑みつつ、会話を切り出した。
「……それで、話って何ですか?」
「自動人形と言ったけど、彼女達は改造されてああなったのかな」
「改造? いえ、ファリン達は元々そういう風に作られたって聞きました」
すずかは以前姉の忍から聞いた自動人形の話をしていく。彼女達は機械ではない。生物と呼んでいい存在でちゃんと生きている。心もあるし、感情だって見せる。だが決して人間を改造してなんかいない事を。
光太郎はそれを聞いて意を決して尋ねた。誰かがその技術を使って悪用したりしていないか。もしくは、ミッドチルダにその技術を教えていないかと。それにすずかが困惑する。何故そんな事を聞いてくるのか理解出来ずに。
「あの……どういう事ですか?」
「……いたんだ。ファリンちゃん達のような体の少女が」
「ミッドに、ですか?」
すずかの問いに光太郎は無言で頷く。その顔は嘘を吐いているものではなかった。それを知り、すずかは愕然となった。夜の一族しか知らないはずの自動人形。その技術を応用したのか、それともたまたまなのか知らないが、それを使った者がミッドにいる。
これを姉が知れば、烈火の如く怒るだろうとすずかは確信した。それと同時にその子達は平和に暮らしているのかときっと聞くはずだろうとも。
(ノエルを連れて行ったのだって、ノエルが希望したからだったし……)
本来なら忍はノエルを残していくつもりだった。だが、ノエルが共にいたいと言ったので忍は仕方なく彼女を連れていったのだ。その表情は言葉とは裏腹にとても嬉しそうだったのをすずかは鮮明に覚えているのだから。
すずかがそんな事を思い出していると、光太郎は自動人形の事を詳しく教えて欲しいと告げた。それにすずかは自分が分かる範囲で、と前置いて話し出す。
元々は夜の一族が長命で孤独になるのを嫌がって作られた存在。しかし時が進むにつれ、夜の一族を狙う相手が頻繁に現れ、それに対する対抗手段になってしまい、気が付けば後期型は呼び名も変化してしまった事を。
その名は既に在り方が変質した事を如実に表すものだった。
「戦闘機人、と呼ばれたそうです」
「……そうか」
光太郎はその話を聞いて複雑な想いを抱いていた。自分の周囲に誰もいなくなる。そんな孤独を避けるために作り出された存在。それは、きっと話し相手が欲しかったんだろうと理解出来る。一人ではない。その証明が欲しかった。そのために、自分勝手ではあるが命を作り出したと。
だが、時代と共にそれが変わり、ただの護衛や戦いの道具のように扱われる事になってしまった。家族として望まれた者達を自分達の都合で戦闘機械へ変えてしまう。そんな人間の自分勝手さ。それを痛感し、光太郎は拳を握り締める。
(どこでも……同じなのか……)
そう考えて光太郎は内心で首を振る。違う、そうじゃないと。すずか達のように同じ人間として考え、家族として愛している者達もいる事を光太郎は知っている。人は愚かで、醜いのかもしれない。だからこそ、賢く、美しくなろうと出来るのだ。
そう思い直し、光太郎はすずかを見る。すずかはどこか不安そうな眼差しをしていたが、それに気付いて光太郎が笑みを見せるとその顔に明るさが戻った。
「ファリンちゃん達がどういう存在かは分かった。でも、すずかちゃんみたいな子なら心配ないね」
「はい。ファリンもイレインも大切な家族です。決して戦闘機人なんて呼ばせません」
「うん。俺は、もう一度ミッドに行ってその子達を捜してみるよ。もしかしたら、すずかちゃんの親戚がいるのかもしれない」
「そうですね。でも、光太郎さん」
「何?」
話が終わったと思って立ち去ろうとする光太郎だったが、それをすずかが引き止めた。不思議そうに振り向く光太郎へすずかはこう言った。もし親戚だったとしても何も言わないで欲しい。幸せに暮らしているならそのままそっとしておいてくれと。
そのすずかの気持ちに光太郎も笑顔で頷き、約束すると答えた。そして、そのまま光太郎は部屋を後にし、割り当てられた部屋へと歩いて行った。
その遠ざかる足音を聞き、すずかは思う。光太郎が言った言葉を思い返していたのだ。人間を改造してというのは、もしかしたら光太郎の世界で見た事なのかもしれないと。だからあんなにも怖い顔をしていたんだろう。そう感じたのだ。
すずかは知らない。それは光太郎自身の事を指している事を。だが、すずかはどこかで察していた。光太郎の哀しみ。それは、その事が大きく関わっているのだろう事を。
翌日、光太郎は単身ミッドへ向かう。すずかが連絡し、唯一動けたフェイトと共に。五代へは、すずか達と色々と話をした方がいいと言い残して。そこで光太郎は出会う。あの姉妹と、その体の秘密を知りながらも我が子として愛情を注ぐ夫婦に。
ミッドチルダにあるそう大きくはない一軒家。そこの小さな庭でバイクを磨いている男が一人いた。翔一だ。彼は、ビートチェイサーを丁寧に磨き上げてその出来映えを眺めて頷いた。
「よし」
だが、その視線がハンドルへと移動するとその表情が少し変わる。
「……あの時は気付けなかったけど、これガードチェイサーと一緒だよな……」
そう、かつて自分が乗ったG3−Xのバイク。それとビートチェイサーには共通点が多いのだ。名前やハンドル、更には警察が開発した物だという事まで。
そして、そこまで考えて翔一は思い出す。G3はそもそも第四号、つまりクウガをモチーフにして作られたと聞いた事を。そう考えると、翔一の中にはある仮説が浮かび上がった。
(榎田さんがクウガを研究してて、小沢さんはそのデータを使ってG3を作ったのかも。だからバイクの名前もチェイサーなのかな)
本当は違うのだが、生憎翔一はそれを知らない。G3を始めとする一連の開発は全て小沢による物で榎田は一切関わっていないのだ。考えれば分かるはずだ。榎田はクウガの協力者だ。それは五代がどんな気持ちで戦っていたかを知る人物である事を意味する。
そんな彼女が、いくら防衛のためとはいえ恐ろしい力を生み出す事に賛成するだろうか。神経断裂弾さえ開発に成功した後、どこかで後悔していたのだから。それを知らぬ翔一は榎田と小沢が面識があるかもしれないと考え、元の世界へ帰った時にでも機会があれば聞いてみようかと思った。
そうして翔一がビートチェイサーを前に色々考えていると、後ろから何者かが静かに近付いてくる。そして、考え込んでいる翔一へ声を掛けた。
「何してるの、翔一さん」
「あ、ティアナちゃん。……洗濯物は?」
「もう干し終わったけど?」
ティアナはそう言って空になった洗濯籠を見せる。それに翔一も頷いて動き出す。昨日ティーダと共に翔一がランスター家を訪れた際、そこにはティアナがいたのだ。何となく嫌な予感がした事もあり、許可を取って自宅へ戻ってきた事を告げたティアナは翔一を見た時どこか不思議な感じを受けた。
何故か心穏やかになる雰囲気を。そしてそこで彼女はティーダの口から翔一の説明を聞いて驚いたのだ。兄の命の恩人だと言われたのだから当然だろう。しかし翔一は次元漂流者のため、しばらく面倒を見る事にしたと聞いた時はさすがに小首を傾げた。
それでも受け入れたのは、ティーダは翔一がいなければ確実に死んでいたと言われたからだ。何せそれを聞いた瞬間、ティアナの中で翔一は自分にとっても恩人となったのだから。
ティーダは今日も仕事で家にはいない。ティアナも本来ならば寮生活なので学生寮へ戻ってもいいのだが、今日は休日ともあり翔一とゆっくり話してみる事にしたのだ。しかも、今までと違いいつ戻っても誰かいるというのはティアナにとっては大きな変化だ。
そこでまず行ったのは家事。翔一は世話になるため家事を率先してこなす。勿論ティアナも出来ない訳ではないが、翔一の方が手馴れているので内心少しショックを受けた。料理もそう。昨夜、翔一が作った料理を食べた時に感じたのは、まるで店の味だと言う事。翔一はティアナとティーダの疑問を聞いて、レストランで働いていたと答えて二人を納得させた。
その後、ティーダが入浴に行った際にティアナは翔一とある事を話したのだが、それもあって彼女は今日家に残っていた。
「ね、翔一さん」
「ん? どうしたの?」
「アタシ、将来なりたいものが決まったって昨日言ったじゃないですか」
「えっと、執務官補だよね?」
翔一の言葉にティアナは頷く。兄を支える仕事がしたい。そうティアナは言ったのだ。それは無論昨日のティーダ撃墜未遂事件の顛末を聞いての事。
―――今日みたいな事がないように、アタシがお兄ちゃんを支えたい。
そう、実はティーダには特定の執務官補がいないのだ。それはティーダ自身のこだわりのため。彼は事件毎に適したパートナーを選ぶのだ。それは、暗に自分と合う相手がいないと言っている。それを知るからこそ、ティアナは執務官補になり、ティーダを支えたいと思ったのだ。
「はい。だからアタシ、来年には陸士の訓練校へ行こうと思ってるんです」
「そうなんだ」
「で、ちょっと翔一さんにお願いがあって」
「お願い?」
翔一の疑問にティアナはやや照れくさそうに答えた。訓練校も寮生活になるが、休みの際は今と同様帰宅が許される。だから休みになったら帰ってくるので料理を教えて欲しい事を。そうティアナが告げると翔一は微笑みながら承諾する。
実は翔一としてもティアナが顔を見せてくれる事が嬉しかったのだ。彼は記憶を失ってから一人でいる事が少なかった。しかも、この世界では家族が出来ていた事もあり一軒家で一人きりというのが寂しく思えていたのだから。
その旨をティアナへ翔一が告げると彼女はやや苦笑する。大人である翔一がそんな情けない事を言ったからだ。だが、そこである事を思い出しティアナは仕方ないかと納得した。翔一は次元漂流者で知り合いがミッドにはいない事を思い出したのだ。
実は、翔一は従来の次元漂流者とは違う。管理外である地球に知り合いがいるにはいるし、彼がしっかりと思い出せばミッドにも知り合いはいる。だが彼は五代を捜す事に意識を奪われている節もあり、その情報をティーダが探ってくれているため未だにクロノの苗字を思い出さずにいた。
「でもティアナちゃん。それでいいの? だって学校の成績はかなりいいってティーダさんが自慢してたのに」
「たしかに学校の勉強はやりがいもあるし自信があるけど、やっぱりアタシはお兄ちゃんの手助けがしたいから」
「そっか。うん、ならティアナちゃんの好きなようにすればいいよ。俺、応援するから!」
ティアナの強い眼差しを見て納得した翔一が浮かべる笑顔とサムズアップ。それにティアナも笑みを返すが、その仕草に引っかかるものを感じて問いかけた。
「えっと翔一さん。昨日からそれよくやるけど、一体何の意味があるの?」
「これ? これはね……」
翔一が教えるのは五代から聞いた意味合い。その話を聞いて感心するティアナ。そして、笑みを浮かべて言ったのだ。翔一にも似合ってると。それに翔一が嬉しそうに笑い、ティアナも似合うようになれると告げた。
そこでティアナはふと思い出す。まだ翔一が捜している相手の名前を聞いていなかった事を。
「そういえば、翔一さんが捜してる人って何て名前?」
「えっと、五代雄介さん。あ、それかクウガ」
「クウガ? あだ名か何か?」
「う?ん……そんな感じかな」
翔一の答えに何か妙なものを感じるティアナだったが、とりあえずその名を覚えておく事にした。彼女も自分に出来る限りで翔一の手助けをしたいと思ったから。兄を助けてくれた相手。その恩に応えるために。
ティアナは、こうして翔一と時折日々を過ごす。その度に彼が世話になってきた人達の話を聞き、ティアナは思うのだ。本当の強さとは、誰かの笑顔のためにと思い行動する事。それを翔一も五代やリンディ達局員から教えてもらったのだ。
その事も含めて翔一はティアナへ告げる。ティーダを支えたいと思った優しさを忘れないようにと願いを込めて。それを感じ取り、ティアナは笑みを浮かべて力強く告げた。自分も兄だけでなくみんなの笑顔を守れる人になってみせるからと。
そしてティアナは宣言通りに陸士の訓練校へ入校する事になり、そこで運命の相手と出会う。ルームメイトとなる一人の少女。その名はスバル・ナカジマ。後に親友となるスバルとの日々さえ、本来と違う形に変わる。いずれそこで彼女は知る。スバルを助けた存在。それこそが翔一が捜している相手なのだと言う事を。
ジェイルラボ内訓練場。そこに四人の少女がいた。その視線は全て目の前の存在へと注がれている。その相手は、先程四人と引き合わされた事で驚きから大声を出し、今もどこか落ち着かない様子だった。
「えっと、俺は城戸真司。よろしく」
「僕はナンバー8、オットーです。ISはレイストーム。簡単に言えば光線による多連装攻撃です。よろしくお願いします、真司兄様」
「アタシはナンバー9、ノーヴェ。IS、ブレイクライナー。簡単にいやぁ……空中に道が作れるって事。よろしく、兄貴」
「アタシはナンバー11、ウェンディッス。ISはエリアルレイブって言って、この板を浮かす事ッスかね。よろしくお願いするッス、にぃにぃ」
「私はナンバー12、ディードです。ISはツインブレイズと言いまして、双剣使いです。よろしくお願いします、真司お兄様」
四人は後発組であり、最後のナンバーズである戦闘により適した戦闘機人だ。そんな四人からの自己紹介に真司はもう慣れたのか呼び方への反応はしなかった。ただ、感覚的にウェンディはセインと似た匂いがすると思い警戒していたが。
ちなみに、各員の表情は以下の通り。オットーは穏やかな笑み。ノーヴェはぶっきらぼうではあるが、どこか嬉しそう。ウェンディは楽しそうに笑い、ディードは柔らかな笑顔だった。
そして、全員の自己紹介が終わったところでジェイルが手を叩く。それに真司がやや身構えた。これまでの経験上、この後の展開が分かっているからだ。そんな真司に目もくれず、ジェイルは四人へ告げた。
それは、これからトーレ、チンク、セッテの三人を相手に模擬戦をしてもらうというもの。それに頷く四人と肩透かしを喰らい蹴躓く真司。そんな光景を見て、笑みを浮かべるのはセインとディエチだ。トーレ達三人は既に戦闘態勢。クアットロとウーノは訓練場の再点検をしていた。
「じゃ、準備をしてくれるかい」
「「「「了解|(ッス)」」」」
それぞれ配置につく四人。対するトーレ達は適度に力を抜いているようで少し緊張気味の四人を見て笑みさえ浮かべている。無理も無い。四人は、データ共有があるとはいえ、まだ目覚めたばかり。対してトーレ達は何度も実戦を経験した者達なのだから。
そう、ドラグレッダーの餌を得るための戦い。それをウーノとクアットロ以外は経験している。龍騎はトーレやチンクに言われた事もあり、最初の戦い以降余程でない限り手を出さないようにしていた。
そのため、トーレやチンクは原生生物相手ではあるが実戦を何度も経験している。セッテもセインやディエチなどと共に餌取りに参加し、命がけの戦いを経験していた。まぁ、彼女達は揃って一度龍騎の助けを受けているのだがそれはご愛嬌というものだ。
そして始まる模擬戦。それを眺めて真司は唸る。トーレ達に翻弄されながらも、それでも何とか喰らいつこうとする四人に。どうやらそれはセインも同じようで、拳を握り声を出している。ディエチも四人へ声援を送っているのは同じ心境と言うところのだろう。
心情的には、やはり二人も姉よりも妹側。すると、二人の声援が始まってから四人の動きが良くなった。トーレ達と訓練を通じて理解を深めた二人の助言。それに素直に従って。それにトーレ達も気付き、少しだが動揺する。その僅かな隙を四人は見逃さない。即興で見事な連携を組み上げたのだ。
「ディード!」
「ええ!」
「しまったっ!」
オットーのレイストームがトーレの退路を絶ち、すかさずディードが攻め込む。それを阻止しようとセッテが動く。両腕のブレードを投げ放ち無防備なディードを狙ったのだが……
「させねえぞ、セッテ姉!」
「なっ……馬鹿な!?」
トーレを援護しようとしたブレードをエアライナーが弾き飛ばす。更にその上を疾走しながらノーヴェがセッテへ強襲した。それと同時にチンクの方でも動きがあった。
「邪魔は駄目ッスよ!」
「くっ!」
ライディングボードをウィリーさせ、チンクへ向かっていくウェンディ。その狙いは、チンクの二人への支援妨害だ。
そんな光景を見て、クアットロとウーノは軽い驚きを覚えた。三人の中で要になっているトーレ。それを確実に潰すべく、二人で事に当たらせる決断。そして、それをより確実にするため、セッテとチンクの足止めをしに行く行動。
それらを、四人は一瞬で実行に移したのだ。そして、それを見て感心するジェイル。真司はもうどちらでもなく声を出して応援している。言うなれば小学校の運動会だ。赤勝て白勝てを地でいく応援なのだから。
結局、四人は善戦したものの敗北した。トーレを追い詰めたまでは良かったのだが、やはりディードだけ決定力が足りず、それを見たオットーが援護したのだが高速機動に持ち込まれて分が悪くなったのだ。
更に、オットーという司令塔兼砲撃手がトーレへ集中した事で拮抗していたノーヴェやウェンディも押し返され、本気になった三人の前に敗北を喫したのだ。
「よく頑張ったよ、四人共さ。俺、途中からトーレ達負けるんじゃないかって思ったし」
どこか落ち込む四人に、真司はそう元気付けるように声を掛ける。そう、本当に真司は心から思ったのだ。四人が勝つんじゃないかと。大健闘。その言葉に相応しい程のいい勝負だった。だから、真司はオットーの頭を優しく撫でた。次にノーヴェ、ウェンディ、ディードと良く頑張ったと想いを込めて撫でていく。
それにどこかくすぐったそうにしながらも四人は笑みを見せた。それに真司は頷いて、今日の夕食は久しぶりにアレを作ると宣言した。それに首を傾げる四人だったが、ジェイル達は上機嫌で笑みを見せた。
そう、真司が言ったアレとは餃子。実は、真司はナンバーズが目覚める度に餃子を振舞っていたのだ。真司が特別な料理と言っていて、滅多に作らないのだ。
なので、久々の餃子にジェイル達は喜びを隠せない。その周囲の喜びを理解出来ず小首を傾げるノーヴェ達を置き去りに、真司は腕まくりをしながら気合を入れ始めた。
「じゃ、セインとディエチは餡を作る手伝いをしてくれ。クアットロとウーノさんは皮で包むのをやってもらうから」
そう言って真司は息込んで歩き出す。ジェイルは呆気に取られているノーヴェ達へ「頑張ったね、汗を流しておいで」と父親のように告げてその後を追う。トーレ達三人もそれに続くように歩き出し、ノーヴェ達へ今後に期待していると激励の言葉を掛けて去って行く。
ウーノとクアットロも彼女達に良く頑張ったと労いの言葉を掛けて歩き出した。それを見送るノーヴェ達へセインとディエチが近寄る。どこか茫然としているノーヴェ達へ「悔しいだろうけど、次勝てるように頑張ろう」と励まし、その手を掴んで立ち上がらせたのだ。
「ま、まずお風呂に行って汗とか流してきな」
「トーレ姉達もいるだろうし、色々と話をするといいよ」
「ありがとうございます、セイン姉様、ディエチ姉様」
オットーがそう言うと、ディエチはやや照れくさそうにしながらこう言った。自分は確かに稼動時間で言ったら姉かもしれないが、呼び捨てでいい。ただ、とある事情があって早く目覚めただけなのだからと。
それに戸惑うノーヴェ達へディエチは小さく笑うとならばと続ける。
「じゃ、あたしもみんなを名前で呼び捨てにするからそれでどうかな?」
「あ?、あたしはお姉ちゃんって呼んで欲しいかな。順番的にも稼働時間的にも上だし」
笑顔で告げるディエチと苦笑気味で告げるセイン。それにノーヴェ達は顔を見合わせ、笑みを浮かべて頷いた。
「分かったよ、ディエチ。それとセイン姉様」
「これからよろしくな、ディエチ。それとセイン姉」
「よろしくッス、ディエチ。それとセイン姉」
「よろしくディエチ。それとセインお姉様」
「あたしはついでみたいに言うな??っ!!」
ノーヴェ達の言葉に対してセインの心からの絶叫が訓練場に響き渡る。それにディエチだけが苦笑するのだった。
おまけ
「いい湯だ?」
その夜、真司は男湯でノンビリしていた。結局広さは希望通りではなく、大人五人ぐらいがゆったり入れるものになってしまったが、これぐらいならいいかと真司は納得した。ジェイルとも共に入り、ここで語り合った事も何度かあったため、すっかりここは男二人の安らぎの場となっている。
「真司兄、いる??」
「……セインか。何だ??」
突然外からセインの声が聞こえてきた。それにいつもの背中流しかと思いながら真司は用件を尋ねる。それにセインは案の定背中を流しに来たと答えて真司を納得させた。仕方ないなと苦笑しつつ、真司は少し待てと声を掛けて湯船から出る。
だが、頭に乗せていたタオルを前につけ直し、いいぞと言って呼び入れた彼を待っていたのは予想とはまったく違う状況だった。
「お、お邪魔します、真司兄様……」
「あ、兄貴……背中、流すから」
「あっれ?、にぃにぃ、結構貧弱ッスね?」
「あの、お兄様……どうかされたんですか?」
何と、入って来たのはオットー達四人の妹分だったのだ。声を掛けてきたはずのセインはどこにもいない。彼女達は当然タオルで体を隠してはいるが、ノーヴェやディードはそれでも中々のものがあった。オットーはしっかり隠し切れているのでセーフ。しかしウェンディだけは隠す気が無いのか大胆にもタオルを頭に乗せているのだから性質が悪い。
真司はそんな光景にふるふると震え、拳を握る。それに不思議そうな表情のディード。オットーやノーヴェもその様子に気付き、真司を見つめる。ウェンディは何となく察しがついたのか、小悪魔的な笑みを浮かべて耳を塞いでいた。
「セイ???ンっ!!」
「いいじゃん。あたしやセッテだってやった事なんだからさ!」
真司の怒声を聞いて、セインは悪びれもせずにそう返してその場から立ち去った。それに気付いて追い駆けようとする真司だったが、その腕をウェンディとノーヴェが掴む。
「まぁ、いいじゃないッスか」
「背中……流すから」
彼女達にもセインがこう言ったのだ。自分を含め、真司が来てから起動した者は誠意を込めて背中を流すのが通例だと。無論それは嘘なのだが、念のためにと彼女達がセッテに聞いた際彼女も背中を流したと答えたため現状と相成った。
それでもノーヴェ達は大なり小なり恥ずかしがっているのでいいだろう。真司は一人そんな彼女達を見て興奮する事なく項垂れていた。ノーヴェ達と親睦を深めさせようとしたのだろうが、別にこんな方法を取らなくてもと考えて。
(この事でまたウーノさん辺りに怒られるんだろうなぁ……きっと俺とセインが)
「セイン、俺、こんな事頼んでないぞ……」
そんな呟きを聞きながら真司のどこを洗うかを相談するノーヴェ達。結果、背中をノーヴェが、両腕をオットーとディードが、ウェンディが頭を洗うという事で落ち着いた。
今回、真司はお咎めなしとされた。そうなれば最早言うまでもないだろう。セインは姉妹全員一致のお仕置きを受ける事となった。だが、その内容は肉体的ではなく精神的なもの。そう、一週間栄養食の刑という恐怖の内容。
それは、目覚めてからずっと真司の食事を食べていたセインにとってまさしく地獄となるのだった。
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四人の中で、唯一改造人間の悲哀を持つ光太郎。自動人形は、彼にとっては複雑な存在でしょう。
一方、翔一の癒しに擦れていないティアナも色々と感化され、原作通りの進路を決めます。
真司は、やっと全員お目覚め。今後は人数多くて大変です。
説明 | ||
月村家を訪れる五代と光太郎。そこで戦闘機人に関する事を知る光太郎はある事を決断する。 一方、ランスター家に居候する事になった翔一はツーテールの少女と繋がりを作り始めるのだった。 |
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