幻想郷帰宅日記 第五章 |
第五章「直進!地獄街道縦穴!」
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小悪魔「なになに、どの穴に落ちたって?」
ルーミア「こっちー」
語り部変わりまして、小悪魔よ。
あの後、人間が落っこちたという穴にアタシと妖精が向かった。
バカ妖精との言い争いの後、あの人間が何処かへ行ってしまったという様子だった。
小悪魔「んで、どこにその穴があるって?」
人食い妖怪に指示される場所をよく見たが、穴の様なものはなかった。
ルーミア「あれーここにあったんだけどー」
何だか人食い妖怪がそわそわと行って帰ってを繰り返した。
小悪魔「どーせ、あんたが食べちゃったんじゃないの〜?」
まぁ、この妖怪なら良くあることだろう。
その時、ふと考えが止まる。
あ・・・・どうしよう
パチュリー様になんて言えば・・・・
小悪魔「も、もしかしたらそっちの坂に転がって行ったのかもね〜」
と、こう考える。
・・・・・確かに、神社の後ろの坂にはあの人間が背負っていた背嚢が転がっている。
まぁ、万にひとつも可能性が無いわけではないでしょ・・・・嫌な予感はするけど。
ルーミア「そーなのかー?」
チルノ「くくく、アタイに怖気づいて逃げ出したとかー?」
小悪魔「それはあり得ないわね」
チルノ「何よー!」
仕方ないわね。
とにかく、"わが身の安全"を考えて人間を捜す事を決めた。
小悪魔「人間捜し、行くわよ」
ルーミア「よやくこうすけーどこー」
チルノ「あっ、待ちなさいよ!皮肉者!」
小悪魔「はいはい、日陰者ね」
チルノ「そういった・・・わよ!バーカ!」
卑怯者だろうかという謎の心の声を無視しつつ、先を急いだ。
こうしてアタシ達、"人間捜索隊"はその人間を捜しにまた森へと進んだのだった。
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そんな俺はというと。
光助「あぁああああぃぃえああああああああああああいあー!!」
あの後足を踏み外して穴の下へ真っ逆さまに落っこちていた。
そう、自由落下!これを自由落下と呼ぶのか!
なんて言っている場合ではない。
光助「あぁああああああああああああちぃさぁあああああああ!!!あああ?!」
今の今までは体ぎりぎりの細い穴をスーッと落ちていたのだが、下の方に光が見えて・・・
スポッ
光助「あ」
なんだかもっと広い洞窟穴に出たのだが・・・・
やはり縦である。
光助「うわぁあああああああああああああああああああああああ!!」
もっと落下速度が増した様に感じる。
穴は広い方が落ちるスピードも遅く感じるというものらしいのだが。
何だか速い。やばい。
光助「うわぁあああああ・・・・!!」
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あの後どれぐらい落ちただろうか・・・
暫くすると、落下のあの胃が浮く感じには慣れた。
光助「・・・・どうなるんはおぅー」
落下の勢いで舌を噛みそうになりながらも何とか心の呟きを口に出した。
と、その時、穴の下から明りが見えて・・・・
ついに終点に差し掛かったようだった。
見ると、下の方は湖の様になているようだ。
水ならなんとか。
しかしまてよ・・・・この速度から落ちたら表面はきっと固いだろうな。
本で読んだ事がある。
落下速度が速ければ例え水であろうとスポンジであろうとその対象は強固になると。
確か水なら強度はコンクリ並み。
確実に死ぬじゃないか!
光助「うわぁ!・・・・・うわぁああああ!あああ・・・・」
もはや元気の無くなった声で最後の力を振り絞り、衝撃に耐える。
その時。
ズビィイイイイイイイイー・・・・
着水する瞬間、何だかネットのようなものに絡まれた。
光助「あぁあああ・・・・えぇ!?」
俺の体を受け止めたネットはそのまま伸縮を繰り返し・・・・
ィイイイ・・・・・ヨヨヨヨォオオオオオオオン!!
光助「うぅううううーわぁああ!!」
と、音を立てて水平に戻った。
俺の体は天高くトランポリンのように跳ね、湖の真上で止まった。
光助「な、何だこれ・・・」
俺は体を起こし、そのネットを見た。
蜘蛛の巣、のようなネットだ。
いや、これは蜘蛛の巣だろうか。
光助「なんだってこんな所に・・・・ハッ」
俺はすっかり忘れていた。
ここは何が何でも"幻想郷"だという事を。
これもきっと蜘蛛の妖怪か何かが獲物を捕える為に張った蜘蛛の巣なんだろうと。
光助「ば、化け蜘蛛とか!?」
しかし、それにしてはなんというか・・・・粘性が無い。
本当に上からの衝撃吸収の為に張られたもののような感じがする。
光助「一体これはなんだろう・・・・」
俺は巨大な蜘蛛の巣の上であぐらをかいて考えた。
すると
?「なんだい、また地上から誰か来たのかい」
唐突に蜘蛛の巣の端から声が聞こえた。
突然の声にびっくりする。
光助「うひゃぁい!?」
思わず顔を両手にうずめて暗い蜘蛛の巣の端を見やる。
と、そこには茶色い服を着た黄色い髪の少女が立っていた。
?「見た所あんた、人間だね・・・・・なにしに来たんだい?」
少女が尋ねてきたので慌てながら答える。
光助「あ、ああ、あの、上の神社に来たんですが、その後ろの穴から落ちてしまいまして」
?「へぇー、あそこはもう塞いだはずだったんだけどねぇ」
少女は驚いた表情をしながら頭を掻いた。
この人・・・・妖怪かな。
?「んー手違いがあったかなー」
頭を捻る少女・・・・にまずは、とばかりにお礼を言う。
光助「あの、助けて頂いてありがとうございます、俺は光助というものです」
少女が一旦思考を止めてこちらに向き直る。
?「・・・・おや、人間にしては礼儀正しいやつだね」
にぃ、と歯を出して笑う。
ヤマメ「あたしはヤマメ、ここはあたしの住処さ」
光助「ヤマメ、さん・・・・宜しくお願いします」
ヤマメ「あぁ、よろしくね」
更にニコッとヤマメさんが笑う。
ヤマメさん。
確か蜘蛛の妖怪だったか何か。
ちょっとだけなら知っている。
名前だけ・・・・
と、自己紹介はここまでにして、この洞窟にも詳しそうなヤマメさんに尋ねてみる。
光助「ええ・・・・早速ですけども、ここは出口とかってありますか?」
ヤマメ「それなんだけど・・・・・ちょっと調べてくるね、待っといでな」
何だかおばぁちゃんみたいな口調でそういうと、ヤマメさんは上へ蜘蛛の糸を展開しながら登って行った。
光助「一緒に行った方がいいんじゃないかな」
ぼそっと呟く。
しかし先ほど「穴は塞いだはず」と言っていたから確認しに行ったのかもしれない。
暫く蜘蛛の巣の上で待っていた。
すると、
スルスルスルー・・・・・っと細い一本の蜘蛛の糸を伝ってヤマメさんが降りてきた。
ヤマメ「あぁ、入口は確かにふさがれてるね」
えぇ?ホントに?
光助「確かにそこから落ちたんですが・・・・」
ヤマメ「あぁ、あの細い穴だろう?確かに塞がってるね」
一体どういう事なのだろうか?
考えていると、ふと上のメンバー達が気になった。
ルーミアは、まぁまず論外だな。
小悪魔は・・・・・パチュリーさんとのやり取りを見る限りあり得なさそうだな。
もしかしたらチルノ辺りがいたずらしたのかもしれない。
妖精ということもあるし。
光助「はぁ・・・・でも」
なんとかあの集団からは抜け出せたのだ。
一安心。
光助「・・・・」
とはいっても何だか心にぽっかりと穴が開いたみたいだ・・・・
寂しい・・のかな?
いやいや。
ヤマメ「どうしたんだい?」
心配そうな顔をしてヤマメさんがこちらを覗きこんでくる。
光助「あ、ああ、いや何でもないです」
慌てて首を横に振る。
ヤマメさんは"そう?"と短く頷くと、頭をくるくると指でこね回しながら考えにふけっていた。
俺は奥の方に続く通路・・・・というか巨大な縦穴が気になった。
そこでヤマメさんに尋ねる。
光助「そういえば、上とは別の出口とかは無いんでしょうか?」
ヤマメさんは更に難しい顔をして考えていた。
ヤマメ「うーん、地上の出口、かぁ」
光助「はい」
彼女は暫く考えていたが・・・・
ヤマメ「・・・・うんうん、じゃあやっぱりあそこへ行こう」
光助「え、どこでしょうか?」
気になる。
この深い穴でも抜け出せる場所があるのかと。
ヤマメ「地獄さ」
what?
光助「へ?今なんと・・・・?」
ヤマメ「地獄さ、二度も言わせないでおくれ」
それは・・・・
死ねってことでしょうか!?
そ、そうか!ここは幻想郷・・・・
人間は妖怪の飯であり、人間の天敵は妖怪に違いないのだから。
今までの安直で気安い考えに叱咤しながら俺は顔を蒼白にする。
目の前にいるのはまさか人が主食な妖k・・・・
ヤマメ「そうさ・・・・何怖い顔してるのさ、町の事だよ」
光助「え?!」
一瞬猛ダッシュで逃げようかと考えていたが、ヤマメさんの一言でキャンセルされた。
光助「あぁ、町・・・・ですか?」
ホッとする。
ヤマメ「あぁ・・・・人間の地獄ってどんなイメージなんだい?全く」
そう言うと、ヤマメさんは巣から降りた。
ヤマメ「じゃあ、案内するからついといで」
光助「あ、はい!」
俺もヤマメさんに続いて飛び降りようとしたが・・・・
光助「うぃよっこいしょって高ッ!」
降りようと下を見たが・・・・
その高さに驚いた。
優に30m位はあるだろう。
これを難なく飛ぶとは・・・・流石妖怪である。
ヤマメ「あぁ、人間にはちと高すぎたかい・・・・じゃ」
と、ヤマメさんは呟くとこちらに向かって再度飛んできた。
その身軽さにただただ唖然とした。
ヤマメ「ホレ、おぶってやるから」
そう言うとヤマメさんはその小さな背中をこちらに向けてきた。
光助「え・・・・でも流石に重いのでは?」
自分の体の大きさとヤマメさんを比較する。
だいたい30p程の差があるだろうか。
こう見えても俺は身長が高くて体重もそこそこあるのだが。
ヤマメ「なに、人間一人くらいなら軽いもんさ」
と、ヤマメさんは得意げに笑う。
そうなのか、とルーミアじみた独り言を呟き・・・・
光助「で、では、失礼します」
ヤマメ「あぁ、気を付けるんだぞ、暗いから」
なんとも優しい妖怪である。
ヤマメ「んっ・・・・」
よっとばかりにその小さな背中に負ぶさり、準備をする。
体重は掛かっているはずだが、よろけもしないヤマメさんに驚いた。
うーん、妖怪という割には暖かい背中だと思う。
・・・・失礼か。
ヤマメ「じゃ、しっかりつかまっとれよ」
という一言と共に、下へジャンプした。
光助「くぅっ・・・・ううううううう!!」
さっきの落下で少しは慣れたこの胃の浮遊感ではあるが、気持ちのいいものではない。
ヤマメさんの小さな背中にひしとしがみ付く。
ヤマメ「?・・・・ふふふ」
ヒュゥウウウウウと音を立てて、程無く下へ着地した。
・・・・ストッ
何とも軽い音と共に、一瞬浮く感覚がして地面に降り立った。
その隣にはさっき見えた広大な湖。
ヤマメ「ほい、到着」
光助「あ、ありがとうございます」
負ぶさったままお礼を言う。
暫く無言の状態が続き・・・・
ヤマメ「・・・・もういいかい?」
光助「エッ、あっ、はい!」
しばらく呆けた顔をしていた俺はそそくさとヤマメさんの背中を降りた。
ヤマメ「じゃ、ついといで」
光助「は、はいっ」
俺はヤマメさんの後を追い、巨大な縦穴の中へと歩みを進めた。
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その頃の地上・・・・
小悪魔「居ないわね・・・」
ルーミア「こうすけー」
チルノ「はぁーつーかーれーたー」
アタシ達は"人間捜索隊"を結成したはいいものの、また山の中で迷っていた。
ルーミア「穴なのになー」
さっきから人食い妖怪の言っている事が気にはなったが・・・・
小悪魔「そんな穴なんて何処にも無かったっての!」
ルーミア「そーなのかなー?」
小悪魔「さっきちゃんと確認したでしょ?」
チルノ「つかれたーちょっと休もうよー」
さっきから妖精なんだけど・・・・
小悪魔「ちょっとアホ妖精!静かにしてくんない?!」
チルノ「あぁ?!つかれたからつかれたっていってんでしょ?!」
小悪魔「そんなに言うならさっさと帰ればいいでしょ!」
アタシは直に言う。
何でこの旅に加わっているのかも謎だ。
妖精なら妖精らしく何事にも飽きて何処かへ自由に飛んでいけばいいものを。
チルノ「そーしたいけどさー・・・・」
ルーミア「よやくこうすけー」
ズモモモォォォオオ・・・・
何やら人食い妖怪が捕獲用の暗闇を展開し始めた。
チルノ「う、ううー!!わかったわかった!さがすって!」
妖精は慌てたように暗闇から逃げた。
・・・・ひょっとして、人食い妖怪に弱みでも握られているのかしら?
小悪魔「じゃあ黙って捜しなさいよね・・・・そこら辺の茂みに転がってるかもしれないし」
ルーミア「そーなのかー?」
やれやれとばかりに目を前へ向けると。
ん?
頭から何やら聞こえてくる。
パチュリー『ザザ・・・あーあー・・・・』
小悪魔「(げっ!パチュリー様!?)」
なんと、我が主のパチュリー様からの通信だった。
パチュリー『・・・・あ・・・・ああー小悪魔・・・・聞こえてる?』
急いで返事を返す。
小悪魔「は、はいは〜い!聞こえておりますよ〜♪」
とりあえず、人間が消えた事を隠さないと・・・・
パチュリー『・・・・さっきから光助の反応が消えてるんだけど』
ギクゥ!!!
ばれてる!
小悪魔「あ、ああー・・・・トイレに行ったんですよ、はい!」
思い付きだがそれっぽい事をとりあえず伝える。
バレそうになったらこの人食い妖怪が食べたことにしてしまおう。
それかこの妖精に・・・・
パチュリー『・・・・そうなの、わかったわ・・・邪魔しちゃダメよ・・・・』
小悪魔「あ、ハイハイです」
あれ・・・・意外と大丈夫だった。
セフセフ
パチュリー『・・・・あとその辺りは何だか結界が崩れかけてるから、注意するように光助に言って頂戴ね・・・・』
小悪魔「は、はい!了解しました〜♪」
そして通信が切れた。
小悪魔「ー・・・・・はぁああああ」
押し込めていた溜息が一気に出て来る。
まぁ今は何とかなったが、このままではいずれバレてしまうだろう。
早く人間を見つけないと・・・・・
小悪魔「さぁ!行くわよみんな!」
ルーミア「おー」
チルノ「ちょっと!指図しないでよね!」
こうして私達"人間捜索隊"は更に歩みを進めたのだった。
その先は妖怪の山本拠地である事も気付かずに・・・・・
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俺はヤマメさんの後に続いて巨大空洞を進んでいた。
その間、暇つぶしがてら俺の話をしていた。
ヤマメさんは俺を最初は里の人間だと思ったらしい。
事情をかいつまんで説明すると、どうやらこっちの時代に興味が湧いたらしい。
色々と訪ねて来た。
ヤマメ「・・・・・へぇ〜、じゃあその電気で走る車、電車ってので色んな場所に行けるのかい」
光助「はい、色んな場所といっても限られてますから後は徒歩で行くしかないんですけども」
ヤマメ「まぁそこまで行けば歩くぐらいはするだろうねぇ」
光助「自動車とかもありますが」
ヤマメ「じどうしゃ?・・・・それはなんだね」
この調子で質問の中の答えから質問されるという芋づる感覚で色々と答えていた。
と、その時・・・・
ヤマメさんが急に頭上を見て慌てた顔をした。
ヤマメ「・・・・!光助!横に飛ぶんだよ!」
光助「ほぇ?」
ヤマメさんが何だか焦った顔で俺に呼び掛けた。
・・・・よく分からないが、横にひょいと飛んだ。
すると
・・・・・っひゅ〜
っと上から何かが落ちる音がして
カァアアアアアアアアアン・・・!!!
もの凄い勢いで先ほど俺の居た場所に落ちて来た。
光助「ぎゃぁあああ!!!」
なんだ!?ドリフか!?
ここで俺にギャグをやれと申すのか!?
何だか的外れな思考をどうにかし、ヤマメさんに尋ねる。
光助「な、なんなんすか・・・・これ・・・・!?」
高速で回転する物体から体を背け、ヤマメさんに向き直る。
ヤマメ「・・・・あぁ、つるべ落としだからあまり気にしないでおくれ」
一方のヤマメさんはさっきの落ち着いた感じで答えた。
振り返ると、そこには一つの丸い桶が。
何だか中の方は暗くてよく分からないが・・・・
ヤマメ「まぁ気にせず進むよ」
俺は慌てて質問した。
光助「・・・・あれって一個だけじゃないですよね」
ヤマメ「んーふふ・・・・さぁねぇ」
指差した方向の桶・・・・
光助「あれ?」
が、無かった。
光助「確かにここにあったはずなんだけど・・・・」
辺りを見渡すが、やはり桶らしきものはない。
???
ヤマメ「どうしたんだい?」
何事かとヤマメさんが首を傾げる。
と、
ヤマメ「あぁキスメ、あんただったのかい」
と俺の背後に目線を移してそう呟いた。
後ろを向くと・・・・
光助「え・・・・うわぎゃ!!」
なんとさっきの桶が俺の背後に!
それだけではない・・・・
桶から薄水色の衣を纏った少女が出ていたのだ。
キスメ「・・・・・」
その緑色のツインテールが特徴の少女、つるべ落とし・・・・妖怪か、はこちらを見上げた。
光助「な、何かようかな・・・」
まさか、妖怪になんかようかい?とか寒く答えれば喰われてしまいそうとか思いながらその妖怪に尋ねた。
キスメ「・・・・」
光助「・・・?」
妖怪はこちらを見上げたまま無言を貫き通す。
そして沈黙が流れる。
やれやれとばかりにヤマメさんが助け舟を出した。
ヤマメ「どうやらあんたを気に入ったようだね」
にま、とヤマメさんが笑う。
光助「は、はぁ・・・」
気に入った?
・・・見た目だろうか、味がだろうか。味かな。
ルーミアの時と同じ様な感じだろうなと考える。
ヤマメ「連れて行ってあげたら?」
そんなことを言う蜘蛛妖怪さん。
光助「あ、ぁ・・・・いやでも」
ここまで来てまた妖怪連れとかもう勘弁してほしい所だが・・・・・
キスメ「・・・」
何だかこの妖怪怖いよ・・・
連れて行かなきゃまた落とすぞボケコラ、みたいな。
光助「わ、わかりました」
渋々了承し、桶と向き直る。
何はともあれ自己紹介でも。
光助「あ、あの・・・・俺は光s」
キスメ「光助、さっき聞いた」
シャベッタ。
ヤマメ「はいはい、じゃあ先に行くよ」
くっく、とヤマメさんが笑う。
・・・・カン!
光助「おうふ!」
地味に痛い衝撃が足元を襲う。
キスメ「・・・・おい」
足元の桶が俺にぶつかってきた。
光助「え?あ、あぁ・・・・ああ」
どうやら持ち上げろって仕草だったようだ。
さっき移動してたのに。
俺はよいしょ、と桶を持ち上げ・・・・おぉ軽い。
やっぱり妖怪とか妖精は軽いんだなぁと心でしみじみ思いながら。
光助「地獄か・・・・どんな所なんだろうな」
俺はお腹に妖怪を抱え、前をトコトコと歩くヤマメさんの後を付いて行ったのだった。
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そんなこんなでやっと中間地点に来たらしく・・・・
光助「なんだ・・・こりゃぁ」
長い地底のトンネルを抜けた先は。
なんとも禍々しい緑光を放つ広大な鍾乳洞であった。
ヤマメ「ここは地底の中間地点って所だね」
と、先程から軽やかなペースで歩くヤマメさんが言う。
俺はというと・・・・
正直限界に近かった。
昨日の歩いた走ったの騒ぎで未だ収まらない筋肉痛の痛みとなんやかんやの疲労その他だ。
なんだろう・・・・
確かに血は抜かれたとはいえ、ここまで疲れが出るとは。
休みも睡眠も摂ったはずであるが。
光助「・・・・はぁっ、はぁっ・・・中間地点か」
ヤマメ「光助、歩け」
ここぞとばかりに手元の妖怪がその思考を踏み潰す。
・・・・そうだ、歩かなければ。
俺は生きてここから出なければ。
光助「あぁ、そうだな・・・・頑張るぜ」
キスメ「よし」
手元の妖怪に答えながらまた足を踏みしめる。
ヤマメ「あぁ、もう少しだから頑張るんだよ」
こちらの様子を見ながらヤマメさんが続ける。
そこへ・・・・
パラパラパラ
光助「・・・?」
何だろう。
小さな石の様なものがこちらに向かって落ちてくる。
光助「何だ?」
落ちる、という事で手元の妖怪に尋ねた。
光助「おいキスメ、お前の仕業か?」
キスメ「ちがうぞ」
全く表情を出さない様な抑揚のない声で返答された。
まぁ、出会ったまんまであるが。
ヤマメ「おやおや、またお出ましかな」
ヤマメさんがやれやれとばかりに肩を竦める。
お出まし・・・・また妖怪か?
?「・・・・ぅぅぅぅううう」
と、その時。
ヒュー・・・・・・ガッ!
光助「ウワいてっ!」
頭に何かが投げられた衝撃が走った。
光助「な、なんだ?!」
キスメ「光助、遅い」
ピシャっとキスメに言われる。
光助「一体なんなんだ・・・」
と後ろを振り返ると。
ズモモモモォ・・・
光助「ひっ!?」
なんだか向こうの岩の陰に人影が・・・・
と、それよりもその岩陰から妙な蒸気、いや、オーラが出ている。
ヤマメ「パルスィ、出ておいで」
ヤマメさんの一言で岩陰から少女が飛び出してきた。
パルスィ「・・・・ヤマメ、何なのその人間」
見ると、金髪のウェーブがかかった少女がそこに佇んでいた。
ヤマメ「あぁ、道に迷った・・・・えー、旅人だそうな」
何だか分が悪いかのようにヤマメさんが答える。
パルスィ「ふーん」
こちらを舐めるようにジロジロと見てくるパルスィさんとやら。
なんだろう・・・・まずいのかな。
パルスィ「・・・・何処に連れて行くのよ?」
こちらには興味が失せたと言わんばかりにそっぽを向く。
ヤマメ「地獄にね、あそこなら出口があるかもしれんだろうしな」
決まったわけではないのか・・・・
そんな事を思いつつ、二人のやり取りを眺める。
俺はここぞとばかりに俺はキスメ入りの桶を横に置いて地べたに座った。
長時間歩いて足がもう限界に近かったのだ。
キスメ「光助、どうした」
光助「いや疲れたんだって・・・」
あぐらをかこうとした瞬間。
肩が急に重くなり始めた。
ズシンと腹痛にも似た重い衝撃が肩に響く。
光助「・・・・・ウォワ!何だか、か、肩が重く・・・?!」
パルスィ「何勝手に休んでるのよ、人間」
よれよれと地面に転がる俺をパルスィさんが見据える。
パルシィ「事と次第によっちゃぁ、あんた、死んでもらうけど」
死。
これまたこの状況では身近な台詞を聞いた気がする。
と、落ち着いて座っている場合ではなさそうだ。
光助「・・・・へ?何ででしょうか・・・・?」
しかし疲労が上回っており、死という最も恐れるものがあるというのに微妙な反応しか出来ない。
ヤマメ「ちょっとパルスィ」
と、ここでヤマメさん。
パルスィ「何よ」
ヤマメ「今ここで人間を死なせたら、上への印象も悪くなるだろ?」
パルスィ「う、うぐぅ?」
どうやらヤマメさんはこちら(人間)の見方なようだ。
上への印象?
ヤマメ「そしたら上の酒が入って来なくなって勇儀も悲しむだろうねぇー・・・・」
パルスィ「ぐぬぬ」
パルスィさんが苦虫を潰した顔でこちらを睨む。
光助「お、重い」
キスメ「光助、しょぼい」
俺はこの会話が続く中で、肩の重さに耐え切れずに突っ伏していた。
ヤマメ「パルスィ?」
パルスィ「チッ、わかったわよ」
クンッ、とパルスィさんが指を上げる。
その途端に俺の体は軽くなった。
光助「うへぇ・・・・重かった」
よたよたと立ち上がる。
ヤマメ「解ったようで何よりだね、さ、行こうか?」
と、ヤマメさんはニカッと笑って歩き出す。
どうやらヤマメさんに救われたようだ。
光助「は、はぁ」
俺もよれよれと立ち上がり、その後に続く。
と、足元でカランッ音がする。
キスメ「おい、光助」
光助「あぁ・・・・・そうだった」
すっかり忘れ去られた横のキスメを抱え、また歩みを進める。
と、
ぎゅむ!
光助「ぐぇあ!!」
何だかわき腹を掴まれた感覚がして振り返る。
パルスィ「待ちなさい人間」
どうやら先ほどの会話で了承して頂いたパルスィさんだった。
身長の差があるのでこちらを睨みながら見上げている。
パルスィ「人間が来て良いことなんて大抵おきるはずが無いわ
アンタが妙な事しないか気になるから・・・・」
光助「・・・・ついて来る?」
と、仕返しと言わんばかりに答えてしまった。
ぎぎぎ・・・・
光助「うげひゃぁ!・・・・わ、脇はアカン・・・・」
わき腹を抓る力が増す。
キスメを抱えている為、逃げることが出来ない。
パルスィ「生意気に先越してんじゃないわよ・・・・人間が」
ペッ、と唾を吐かん勢いでこちらを一瞥する。
ヤマメ「まぁ、和解したようで何よりだね」
光助「いや全然」
キスメ「歩け、コウスケ」
パルスィ「とっとと歩いて出て行きなさい」
光助「はいはい・・・・」
パルスィ「"はい"は一回でしょうが!人間風情!」
光助「うぎゃは!わ、脇は止めぇ!」
キスメ「進め、光助」
どうやらまた妙な仲間が増えてしまったようだ。
そして一行は"地獄"へと進む。
-続く!-
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五章目に突入します。 縦穴に落ちるって経験は全く無いのですが、きっとジェットコースターのようなウォータースライダーのよな感覚なんでしょうなぁ。 ※キャラの言動は原作とは全く関係ありません。 |
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